脊髄性筋萎縮症
Spinal Muscular Atrophy, SMA
脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy, SMA)|脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄の運動神経細胞(下位運動ニューロン)が変性・脱落し、体幹や手足の近い部分(近位筋)を中心に筋力低下と筋萎縮が進む遺伝性の神経筋疾患です。乳児期に発症して呼吸や哺乳に重い障害をきたす型から、成人期に発症してゆっくり進む型まで、重症度の幅が非常に広いのが特徴です。かつては根本的な治療がない病気でしたが、2017年以降、病態に直接働きかける疾患修飾薬が日本でも相次いで承認されました。早期診断と早期治療によって経過が大きく変わる時代に入っています。
脊髄性筋萎縮症の要点
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄の運動神経細胞(下位運動ニューロン)が障害され、体幹や手足の近位筋を中心に筋力低下と筋萎縮が進む遺伝性の神経筋疾患です。乳児期から成人期まで発症時期と重症度に幅があり、日本では指定難病(告示番号3)に指定されています。
| 別名・略称 | SMA、5q-SMA、ウェルドニッヒ・ホフマン病、クーゲルベルク・ヴェランダー病、デュボヴィッツ病、Werdnig-Hoffmann病 |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝。大多数はSMN1遺伝子の両アレル欠失 |
| 好発年齢 | 乳児期から成人期まで。病型により発症時期が異なる |
| 主な症状 | 近位筋優位の筋力低下・筋萎縮、筋緊張低下、深部腱反射の低下・消失 |
| 主な検査 | SMN1遺伝子検査(欠失・変異の確認)、SMN2コピー数の測定 |
| 主な治療 | 疾患修飾薬による治療と、呼吸・栄養管理、リハビリテーション |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科、神経内科 |
脊髄性筋萎縮症とは
脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy:SMA)は、脊髄前角にある運動ニューロンと、一部の脳幹運動神経核が選択的に障害される疾患です。その結果、下位運動ニューロン障害による筋力低下・筋萎縮・筋緊張低下・深部腱反射の低下や消失が起こります。大多数(約95%)は、第5染色体長腕(5q13)にあるSMN1遺伝子の両アレル欠失(主にエクソン7を含む欠失)によって生じ、「5q-SMA」と呼ばれます。上位運動ニューロン(錐体路)は障害されないため、痙縮やバビンスキー徴候はみられません。知的発達・感覚・括約筋機能(排尿・排便のコントロール)も原則として保たれます。日本では指定難病(告示番号3)に指定されており、小児慢性特定疾病の対象でもあります。
病型は発症年齢と到達できた最高の運動機能によって分類されます。0型は胎児期から発症し、出生時から重度の筋力低下と呼吸不全を伴います。1型(ウェルドニッヒ・ホフマン病)は生後6か月までに発症し、自力で座ることができません。2型(デュボヴィッツ病)は生後18か月までに発症し、座ることはできても自力で立つ・歩くことはできません。3型(クーゲルベルク・ヴェランダー病)は生後18か月以降に発症し、一度は自立歩行を獲得します。さらに3歳未満発症の3a型と3歳以降発症の3b型に分けられることがあります。4型は成人期に発症し、進行が緩やかです。この分類は治療薬がなかった時代の自然歴にもとづくものです。現在は、発症前から治療を受けて歩行を獲得する1型相当の児もいます。そのため臨床の場では「座れない(non-sitter)」「座れる(sitter)」「歩ける(walker)」といった機能による評価や、後述するSMN2コピー数も併せて用いられます。歴史的には、1890年代にWerdnigとHoffmannが乳児例を報告し、1995年にSMN1遺伝子が原因遺伝子として同定されました。これが今日の遺伝子標的治療の基盤となっています。
脊髄性筋萎縮症の疫学・患者数
海外の報告では、出生約1万〜2万人に1人の頻度で発症するとされ、乳児期に死亡する遺伝性疾患のなかでは頻度の高いものの一つです。保因者(SMN1欠失を片方の染色体のみにもつ人)は、欧米ではおよそ40〜60人に1人と推定されています。日本の発症頻度は欧米よりやや低いとする報告もありますが、正確な数値は確定していません。既存の解説にある「10万人に1〜2人」は人口あたりの有病率に近い数字で、出生あたりの発症率とは区別して理解する必要があります。国内の患者数は、指定難病の受給者数などから千人前後の規模と考えられています。ただし軽症の成人例など診断されていない例もあると推測されます。病型別では1型が最も多く、次いで2型・3型が多く、4型はまれです。常染色体劣性遺伝のため、性差は原則としてありません(3型で男性にやや多いとする報告はあります)。近年は新生児マススクリーニングの拡大によって、発症前に診断される児が増えつつあります。
脊髄性筋萎縮症の原因・病態生理
SMAは常染色体劣性遺伝の形式をとります。両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は妊娠ごとに25%です。原因となるSMN1遺伝子は、SMN(survival motor neuron)タンパク質をコードしています。SMNタンパク質は全身の細胞に存在し、mRNAのスプライシングに必要な核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)の組み立てに関わります。そのほか、軸索内でのmRNA輸送や神経筋接合部の成熟・維持にも働いています。患者の約95%はSMN1のエクソン7のホモ接合性欠失(または、遺伝子変換によってSMN2型へ置き換わったもの)です。残りの数%は、一方が欠失、もう一方が点変異などの病的バリアントという複合ヘテロ接合です。なお、まれに親が保因者ではなく、新生(de novo)の欠失による例も報告されています。
SMN1のすぐ近くには、ほぼ同じ配列をもつSMN2遺伝子が存在します。SMN2はエクソン7内の1塩基の違い(c.840C>T)のため、転写産物の多くでエクソン7が読み飛ばされます(スキッピング)。その結果、できるのは不安定ですぐ分解される短いSMNタンパク質が主体で、機能をもつ完全長のSMNタンパク質は全体の1割程度にとどまるとされます。SMN2のコピー数には個人差があり(多くは1〜4コピー以上)、コピー数が多いほど作られる完全長SMNが増え、重症度が軽くなる傾向があります。おおまかには、2コピーでは1型、3コピーでは2型または3型、4コピー以上では3型または4型になることが多いとされます。ただし例外もあり、コピー数だけで病型を正確に予測することはできません。SMNが不足したとき、なぜ運動ニューロンが特に強く傷つくのかは完全には解明されていません。スプライシング異常による特定遺伝子の機能低下、軸索輸送の障害、神経筋接合部の未熟性などが関与すると考えられています。動物モデルやヒトの研究から、運動ニューロンは発症前後の早い時期に急速に失われ、いったん失われたニューロンは回復しないことが示されています。これが「できるだけ早く治療を始める」ことが重視される理由です。また近年は、SMNの不足が心臓・肝臓・膵臓・骨格筋など運動ニューロン以外の組織にも影響する可能性が指摘され、全身疾患としての側面も研究されています。
脊髄性筋萎縮症の症状
- 筋緊張低下(フロッピーインファント): 1型では乳児期早期から体がぐにゃりと柔らかく、仰向けで下肢が蛙のように外側に開く「蛙肢位」をとります。首がすわらず、引き起こすと頭が後ろに垂れます。
- 近位筋優位の対称性筋力低下: 体幹・肩・腰・太ももなど体の中心に近い筋が強く障害され、下肢は上肢より重い傾向があります。3型では転びやすさ、階段昇降の困難、床から立ち上がるときに手で膝を押す動作(ガワーズ徴候)がみられます。
- 深部腱反射の低下・消失: 膝蓋腱反射などが減弱または消失し、下位運動ニューロン障害を示す重要な所見です。
- 舌の線維束性収縮: 舌の表面が細かくピクピクと動いたり、舌が萎縮したりする所見で、乳児の診断の手がかりになります。
- 手指の振戦(ミニポリミオクローヌス): 2型・3型では、手を伸ばしたときに指が細かく不規則にふるえることがあります。
- 呼吸筋の筋力低下とシーソー呼吸: 肋骨の間の筋(肋間筋)が弱い一方で横隔膜は比較的保たれるため、息を吸うと胸がへこみお腹が膨らむ奇異性呼吸となり、胸郭は釣鐘状に変形します。咳の力が弱く痰を出しにくくなります。
- 哺乳・嚥下障害: 1型では吸う力や飲み込む力が弱く、哺乳に時間がかかる、むせる、体重が増えないといった症状が現れ、誤嚥の原因になります。
- 泣き声が弱い・発声の弱さ: 呼吸筋と球筋(口・のど・舌の筋)の筋力低下により、泣き声がか細くなります。
- 側弯症・関節拘縮: 体幹の筋力低下によって背骨が曲がる側弯が進みやすく、股関節・膝・肘などの拘縮や股関節の脱臼(亜脱臼)も生じます。
- 易疲労性: 3型・4型では、繰り返し動作や長距離歩行で疲れやすく、日によって動けるかどうかが変わると感じることがあります。
- 保たれる知的機能と表情: 知的発達は通常保たれ、目の動きや顔の表情も比較的保たれるため、乳児でも視線がよく合い、豊かに反応することが多いです。
脊髄性筋萎縮症の経過と合併症
治療を受けない場合の自然歴は病型によって大きく異なります。1型は、多くが生後数か月以内に呼吸不全や誤嚥性肺炎を起こします。従来の報告では、2歳までに死亡するか、気管切開による永続的な人工呼吸が必要になる例が大半でした。2型は座位を獲得しますが、成長に伴って側弯と呼吸機能低下が進み、思春期以降に座る能力を失うこともあります。それでも多くは成人期まで生存するとされます。3型は歩行を獲得しますが、特に3a型では小児期から思春期に歩行能力を失う例が少なくありません。生命予後はおおむね一般人口と大きく変わらないとされます。4型は進行が非常に緩やかです。いずれの病型でも、成長期・急な体重増加・感染症・長期臥床などをきっかけに機能が低下しやすいとされています。疾患修飾薬の登場後は、特に発症前や発症早期に治療を始めた例で、従来の自然歴を大きく上回る運動発達が報告されています。病型と経過の関係は大きく変わりつつあります。
主な合併症は次のとおりです。呼吸器では、咳の力の低下による痰の貯留、無気肺、誤嚥性肺炎、睡眠中の低換気から始まる慢性呼吸不全があります。消化器・栄養では、嚥下障害、胃食道逆流、便秘、成長障害がみられます。一方、運動量が少ない2型・3型では肥満も問題になります。整形外科的には、側弯症、胸郭の変形、股関節脱臼、関節拘縮、骨密度の低下と骨折があります。さらに、絶食や感染時に低血糖や代謝性アシドーシスを起こしやすいことが知られています。全身麻酔や手術の際にも呼吸・代謝上の特別な配慮が必要です。重症型では、自律神経の症状や不整脈などの心臓の異常が報告されています。また、学童期以降は学校生活や社会参加に関わる心理社会的な問題も重要な合併症の一つとして扱われます。
脊髄性筋萎縮症の診断・診断基準
乳児の筋緊張低下や運動発達の遅れ、幼児期以降の転びやすさ・歩き方の異常などからSMAが疑われた場合、神経学的診察で下位運動ニューロン障害(筋力低下、腱反射の消失、舌の線維束性収縮)を確認します。そのうえで、最も確実で体への負担が少ないSMN1遺伝子検査を優先して行います。SMN1の両アレル欠失が確認されれば、5q-SMAと確定診断できます。片側の欠失のみが見つかり臨床的にSMAが強く疑われる場合は、もう一方のアレルの点変異を調べる追加検査を行います。治療方針の決定と予後の推定のため、SMN2コピー数も測定します。遺伝子検査で確定しない非典型例では、筋電図、神経伝導検査、筋生検などを用いて他の神経筋疾患と鑑別します。日本の指定難病の診断基準では、臨床所見・検査所見・遺伝学的検査を組み合わせて診断し、重症度分類に応じて医療費助成の対象を判定します。発症前に治療を始めた場合の効果が大きいため、新生児マススクリーニング(一部の自治体での実施や国の実証事業として拡大中)で陽性となった場合は、速やかに専門医療機関で確認検査を受け、治療を検討することが重要です。
- SMN1遺伝子検査: MLPA法やリアルタイムPCR法などでSMN1のエクソン7(および8)の欠失を調べます。両アレル欠失が確認されれば確定診断となり、患者の約95%がこれに当たります。
- SMN2コピー数解析: 重症度の予測や治療の適応判断の参考になります。コピー数が少ないほど重症になりやすい傾向がありますが、絶対的な指標ではありません。
- 新生児マススクリーニング: 乾燥ろ紙血(新生児の血液をしみ込ませた濾紙)を用いてSMN1欠失を検出し、発症前の診断を可能にします。陽性時は確認検査とSMN2コピー数の測定を急ぎ、治療開始の時期を検討します。
- 針筋電図: 安静時の線維自発電位・陽性鋭波、大きく持続の長い運動単位電位など、慢性神経原性変化を示します。乳児では検査の負担を考慮して、遺伝子検査を優先することが多くなっています。
- 神経伝導検査: 感覚神経の伝導は正常で、運動神経では複合筋活動電位(CMAP)の振幅が低下します。CMAPは病勢や治療効果の指標としても利用されます。
- 血清クレアチンキナーゼ(CK): 正常か軽度の上昇にとどまることが多く(3型では数倍に上昇する例もあります)、CKが著しく高い筋ジストロフィーとの鑑別に役立ちます。
- 筋生検: 萎縮した筋線維が集団で並ぶ群集萎縮や筋線維タイプの偏り(タイプ群化)など、神経原性変化を示します。遺伝子検査の普及により、現在は非典型例に限って行われます。
- 呼吸機能・睡眠評価: 肺活量、咳のピークフロー、血液ガス、終夜の酸素飽和度・二酸化炭素モニタリングなどで低換気を評価し、呼吸補助を始める時期を判断します。
- 運動機能評価スケール: CHOP INTEND(乳児)、HFMSE、RULM、6分間歩行などで運動機能を定量的に評価し、治療効果の判定に用います。
脊髄性筋萎縮症と鑑別すべき疾患
- 先天性ミオパチー・先天性筋ジストロフィー: 乳児期の筋緊張低下を示しますが、顔面筋の罹患や高CK血症(先天性筋ジストロフィー)、筋生検での特徴的な構造異常、SMN1が正常であることで鑑別します。
- ポンペ病(糖原病II型/ライソゾーム病): 乳児型では筋緊張低下に加えて心肥大・肝腫大・高CK血症を伴い、酸性α-グルコシダーゼ活性の低下で診断します。
- デュシェンヌ型などの筋ジストロフィー: 近位筋の筋力低下やガワーズ徴候が共通しますが、CKが著しく高く、ふくらはぎの肥大(仮性肥大)や筋原性の筋電図所見がみられます。
- 筋萎縮性側索硬化症・球脊髄性筋萎縮症: 成人発症の4型との鑑別が問題になります。ALSは上位運動ニューロン徴候を伴い急速に進行し、球脊髄性筋萎縮症は男性に発症して女性化乳房や感覚障害を伴い、アンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート延長で診断します。
- 先天性筋無力症候群・乳児ボツリヌス症: 眼瞼下垂や外眼筋麻痺、症状の日内変動、反復刺激試験での漸減現象(ボツリヌス症では漸増現象)などが鑑別点です。
- 非5q型SMA・遺伝性運動ニューロパチー: 呼吸窮迫を伴うSMA(SMARD1、横隔膜麻痺が先行)や遠位型のSMA、シャルコー・マリー・トゥース病などは、筋力低下の分布や神経伝導検査、SMN1以外の遺伝子解析で区別します。
脊髄性筋萎縮症の治療
SMAの治療は、疾患修飾療法と、呼吸・栄養・整形外科・リハビリテーションを含む包括的な標準ケアの二本柱で行います。疾患修飾療法は、不足しているSMNタンパク質を増やして運動ニューロンの喪失を食い止めることを目的とします。現在の薬剤は、失われたニューロンを再生させるものではありません。そのため、発症前または発症早期に始めるほど効果が大きいとされ、診断後は迅速な治療の検討が重要です。日本で承認されている薬剤には、SMN2のスプライシングを修飾するアンチセンス核酸医薬(ヌシネルセン)と経口低分子薬(リスジプラム)、SMN1遺伝子を補充する遺伝子治療薬(オナセムノゲン アベパルボベク)があります。どの薬剤を選ぶかは、年齢・体重、病型とSMN2コピー数、病気の進み具合、脊柱の変形の有無(髄腔内投与のしやすさ)、抗AAV9抗体の有無、通院の負担、副作用のリスク、家族の希望などを総合して判断します。複数の薬剤を併用・切り替えた場合の有効性と安全性については、まだ十分なエビデンスが確立していません。個々の治療方針は、神経筋疾患の専門医と十分に相談して決めることが大切です。
- ヌシネルセン(スピンラザ): 腰椎穿刺で脊髄液中に直接投与するアンチセンス核酸医薬で、SMN2のエクソン7が読み飛ばされるのを防ぎ、完全長SMNを増やします。導入期に数回投与した後は約4か月ごとに投与を続け、病型や年齢を問わず使用されます。血小板減少・凝固異常・腎障害などの監視と、側弯手術後の穿刺の難しさへの配慮が必要です。
- オナセムノゲン アベパルボベク(ゾルゲンスマ): アデノ随伴ウイルス9型(AAV9)ベクターを用いてSMN1遺伝子を補充する遺伝子治療薬で、1回の点滴静注で投与します。国内では2歳未満が対象とされ、投与前に抗AAV9抗体の検査が必要です。肝機能障害を防ぐための副腎皮質ステロイドの併用や、肝障害・血小板減少・血栓性微小血管症などの監視が求められます。
- リスジプラム(エブリスディ): 毎日服用する経口のSMN2スプライシング修飾薬で、全身でSMNを増やします。注射や穿刺が不要な点が利点ですが、毎日の服薬継続が必要です。また、妊娠・生殖に関わる注意事項について専門医から説明を受ける必要があります。
- 呼吸ケア: 排痰補助装置(機械による咳介助:MI-E)、徒手による咳介助、呼吸理学療法で痰の排出を助けます。低換気に対しては非侵襲的陽圧換気(NPPV)を導入し、必要に応じて気管切開下の人工呼吸を家族と話し合って検討します。インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種、対象となる乳児ではRSウイルス感染予防も重要です。
- 栄養・嚥下管理: 嚥下造影などで誤嚥の有無を評価し、とろみの調整や経鼻胃管、胃ろう造設(必要に応じて逆流防止手術を併用)で安全な栄養摂取を確保します。長時間の絶食を避け、肥満と低栄養のどちらにも注意します。
- リハビリテーション: 関節可動域訓練、ストレッチ、姿勢保持、適度な筋力訓練・有酸素運動、水中運動などで機能の維持・向上を目指します。治療薬で運動機能が伸びている時期には、積極的な機能訓練の意義が高まります。
- 装具・福祉機器: 座位保持装置、体幹装具、短下肢装具、電動車椅子、意思伝達装置などを成長と機能に合わせて導入し、移動や社会参加を支えます。電動車椅子は幼児期から操作できる場合があります。
- 整形外科的治療: 側弯の進行に対しては、成長に応じて体幹装具、成長温存手術(グローイングロッドなど)、脊椎固定術が検討されます。股関節や拘縮への対応も行います。術前には呼吸機能の評価と、髄腔内投与への影響の検討が必要です。
- 周術期・急性期の管理: 全身麻酔の際は、呼吸抑制や術後の無気肺、絶食による低血糖・アシドーシスに注意し、経験のある施設で計画的に管理します。
脊髄性筋萎縮症の予後・長期フォロー
疾患修飾薬の登場によって、SMAの予後は劇的に変わりつつあります。治療を受けない1型の多くは乳児期に呼吸不全で亡くなっていました。治療を受けた1型では、人工呼吸器を使わずに生存する割合が高まり、座位を獲得する例も多く報告されています。新生児スクリーニングなどで発症前に治療を始めた例では、年齢相応に近い運動発達を遂げる例もあるとされます。ただし、治療の効果には個人差が大きく、治療を始めた時点ですでに失われていた運動ニューロンは回復しません。そのため重症の例では、呼吸補助や経管栄養が必要な状態が続くこともあります。2型・3型・成人例では、劇的な改善よりも「進行の停止・安定化」や上肢機能・持久力のわずかな改善が主な目標となることが多いです。患者本人にとって意味のある変化(できる動作が保たれる、疲れにくくなるなど)を重視した評価が行われます。知的機能が保たれるため、適切な支援があれば進学・就労・自立生活を実現している人も多くいます。
SMAは生涯にわたる多職種のフォローアップが必要な疾患です。小児神経科医・脳神経内科医を中心に、呼吸器科、整形外科、リハビリテーション科、栄養士、歯科、遺伝カウンセラー、医療ソーシャルワーカー、訪問看護などが連携します。定期的な運動機能評価(CHOP INTEND、HFMSE、RULMなど)、呼吸機能・睡眠時の換気評価、脊柱のX線撮影、骨密度、栄養状態、嚥下機能のチェックを行います。治療薬に関連する血液検査(血小板、凝固、肝機能、腎機能・尿たんぱく)も欠かせません。新しい治療法を受けた世代はまだ長期の経過が十分にわかっていないため、長期的な安全性や、成長に伴って新たに現れる症状(運動ニューロン以外の臓器の問題など)にも注意が払われています。小児期から成人期への移行(トランジション)にあたっては、小児科から成人診療科への引き継ぎや、本人が自分の病気を管理していけるよう支援することも重要な課題です。
脊髄性筋萎縮症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、感染予防(手洗い、予防接種、人混みを避けるなど)と、かぜをひいたときの早めの排痰ケアが基本になります。発熱・嘔吐・食欲不振で食事がとれないときは低血糖やアシドーシスを起こしやすいため、長時間の絶食を避け、早めに医療機関に相談しましょう。食事は誤嚥しにくい姿勢と形態を工夫し、体重の推移を記録します。運動は疲労が翌日に残らない程度の量を目安とし、無理な負荷は避けつつ、活動性を保つことが大切です。学校生活では、エレベーターやトイレなどのバリアフリー環境、介助員の配置、体育や修学旅行での配慮、タブレット端末などのICT活用について、学校と事前に話し合っておくと安心です。遺伝については、両親が保因者である場合、次の子どもが発症する確率は妊娠ごとに25%です。きょうだいや親族の保因者検査、出生前診断・着床前検査の可否などは倫理的な配慮を伴う問題のため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けたうえで判断することが勧められます。症状のないきょうだいがSMAと診断された場合も、早期治療の対象となりうるため専門医に相談してください。
利用できる制度・相談窓口
SMAは指定難病であり、診断基準と重症度分類を満たす場合、または軽症でも高額な医療が続く場合は、都道府県・指定都市に申請すると医療費助成(自己負担上限額の設定)が受けられます。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要です。18歳未満(継続する場合は20歳未満)は小児慢性特定疾病の医療費助成の対象となり、日常生活用具の給付や自立支援事業も利用できます。肢体不自由や呼吸機能障害の程度に応じて身体障害者手帳が交付され、補装具(車椅子、座位保持装置など)や日常生活用具(吸引器、排痰補助装置など)の給付、税の控除、公共料金の割引などが受けられます。難病の人は手帳がなくても障害者総合支援法にもとづく居宅介護・重度訪問介護・短期入所などの障害福祉サービスの対象となります。子どもの場合は特別児童扶養手当や障害児福祉手当、医療的ケア児支援センター、成人では障害年金や特別障害者手当が利用できる可能性があります。窓口としては、保健所(保健センター)、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉担当課、相談支援専門員があります。患者・家族会でも情報交換やピアサポートが行われています。
脊髄性筋萎縮症に伴う心のケア・心理社会的支援
SMAは、乳児期の突然の診断、命に関わる意思決定(呼吸器の装着、気管切開、胃ろうなど)、高額で新しい治療をどれにするかといった選択が、家族に大きな心理的負担をもたらします。親は「遺伝させてしまった」という自責の念や、きょうだいや次の妊娠への不安、24時間に及ぶケアによる睡眠不足と疲労、仕事との両立の難しさを抱えがちです。抑うつや不安障害、適応障害に陥ることも少なくありません。また、治療薬の効果には個人差があるため、期待と現実の差や、ほかの患者と比べてしまうことによる葛藤も生じやすいとされます。本人にとっては、知的機能が保たれているからこそ、学童期から思春期に周囲との違いや自立の制約、進学・就労・恋愛・結婚などの将来について深く悩むことがあります。成人例では、長年かけて受け入れてきた病気の経過が、新しい治療によって変わることへの戸惑いもあります。気分の落ち込み、眠れない、何事にも興味が持てないといった状態が続くときは、主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、精神科・心療内科に早めに相談してください。レスパイト入院・短期入所の利用や、きょうだい児への支援、患者会でのピアサポートも、家族全体の心の健康を保つうえで大切です。
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脊髄性筋萎縮症の受診の目安
- 生後数か月の乳児で、首がすわらない、手足をあまり動かさない、体がぐにゃりと柔らかいなどの様子があれば、小児科を受診してください。
- 哺乳に時間がかかる、むせる、体重が増えない、泣き声が弱い場合は早めに受診しましょう。
- 幼児期以降に、転びやすい、階段や床からの立ち上がりが困難になった、歩き方が変わったなどの変化があれば、小児神経科または脳神経内科に相談してください。
- 呼吸が速い・苦しそう、顔色や唇が悪い、痰が出せずゴロゴロしている、酸素飽和度が普段より下がっているときは、すぐに救急受診してください。
- 発熱や嘔吐で食事や水分がとれない、ぐったりしている、意識がぼんやりしている場合は、低血糖や脱水の可能性があるため速やかに受診してください。
- 朝の頭痛、日中の強い眠気、夜間に何度も目が覚めるなどは睡眠中の低換気のサインのことがあり、次の外来を待たずに主治医に相談してください。
脊髄性筋萎縮症についてのよくある質問
Q. SMAでは知能に影響はありますか?
A. SMAは運動神経が障害される病気で、知的発達は通常保たれます。言葉の理解やコミュニケーションの力は年齢相応に育つことが多く、適切な学習環境やICT機器の活用によって学業や就労に取り組んでいる人も多くいます。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?
A. 両親がともに保因者の場合、妊娠ごとに25%の確率で発症し、50%の確率で保因者になります。まれに新生の変異による例もあり、正確なリスクは家族ごとに異なるため、遺伝カウンセリングで個別に説明を受けることをお勧めします。
Q. 3種類の治療薬はどのように選べばよいですか?
A. 年齢・体重、SMN2コピー数、病気の進み具合、背骨の変形の有無、抗AAV9抗体の有無、通院や服薬の負担、副作用のリスクなどを総合して選びます。それぞれに利点と注意点があり、どれが最適かは一律には決まらないため、専門医と十分に話し合って決めてください。
Q. 大人になってから診断されても治療を受ける意味はありますか?
A. ヌシネルセンやリスジプラムは成人も使用の対象となりうる薬剤で、進行を抑えたり機能を安定させたりする効果が報告されています。ただし効果の現れ方には個人差があるため、期待できることと負担について主治医と相談し、リハビリテーションや呼吸ケアと組み合わせて検討することが大切です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。