アッシャー症候群
Usher Syndrome
アッシャー症候群(Usher Syndrome)|アッシャー症候群は、生まれつき、または若いうちから始まる感音難聴と、網膜色素変性(夜盲・視野狭窄を起こす網膜の病気)を併せ持つ遺伝性疾患です。聴覚と視覚という二つの感覚が同時に障害されるため、成人期以降の「盲ろう(視聴覚二重障害)」の主要な原因とされています。コミュニケーション、移動、教育、就労など生活全般に影響が及ぶため、耳鼻咽喉科・眼科・福祉が連携した長期的な支援が必要です。
アッシャー症候群の要点
アッシャー症候群は、遺伝子の異常により感音難聴と網膜色素変性(夜盲・視野狭窄)を併せ持つ常染色体潜性遺伝の疾患です。病型により平衡機能の障害も伴い、聴覚と視覚の二重障害(盲ろう)の主要な原因となることから、日本では指定難病(告示番号303)に指定されています。
| 別名・略称 | Usher症候群、USH |
|---|---|
| 分野 | 眼・耳鼻咽喉疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 主な症状 | 感音難聴、夜盲・視野狭窄(網膜色素変性)、病型により前庭機能障害 |
| 病型 | 臨床的にタイプ1・2・3に分類 |
| 主な検査 | 聴力検査、眼底検査・視野検査・網膜電図、遺伝子検査 |
| 主な治療 | 根治療法は確立されておらず、補聴器・人工内耳や視覚・生活面の支援で対応 |
| 受診する主な診療科 | 耳鼻咽喉科・眼科 |
アッシャー症候群とは
アッシャー症候群(Usher syndrome)は、両側性の感音難聴と網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)を主な特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝の症候群です。病型によっては、内耳の平衡器官である前庭の機能障害も伴います。知的発達は通常保たれ、他の臓器の重大な異常は原則として伴いません。耳の有毛細胞と網膜の視細胞が共通の分子(アッシャータンパク群)を利用しているため、遺伝子の異常が「聞こえ」と「見え方」の両方に現れると考えられています。日本では2015年から指定難病(告示番号303)に指定されており、診断基準と重症度分類に基づいて医療費助成の対象となります。
臨床的には、難聴の程度、前庭機能、網膜色素変性の発症時期により3つの病型に分類されます。タイプ1は先天性の高度〜重度難聴、前庭機能の廃絶(歩行開始の遅れ)、10歳前後までに始まる網膜色素変性を特徴とします。タイプ2は高音域ほど悪い中等度〜高度の先天性難聴で、前庭機能は正常、網膜色素変性は思春期から成人早期に顕在化することが多いです。タイプ3は言語習得後に進行する難聴で、前庭機能や網膜色素変性の発症時期は人によって異なります。1858年にドイツの眼科医フォン・グレーフェが難聴を伴う網膜色素変性を記載し、1914年に英国の眼科医チャールズ・アッシャーが遺伝性を指摘したことが疾患名の由来です。近年は遺伝子診断の進歩により、従来の3型に当てはまらない非典型例(いわゆるタイプ4などとする提案もある)も報告されています。また、臨床像と原因遺伝子が必ずしも1対1に対応しないことも分かってきました。
アッシャー症候群の疫学・患者数
海外の疫学調査では、有病率は人口10万人あたりおよそ3〜6人台とする報告が多くあります。保因者頻度から推計した研究では、これより高い頻度(数千人に1人程度)を示すものもあります。先天性難聴児全体のうち数%程度がアッシャー症候群とされ、網膜色素変性の患者のうちおよそ1〜2割に難聴を伴うとする報告もあります。日本でも厚生労働省研究班などによる全国調査が行われ、欧米と大きくは変わらない頻度と推計されています。ただし、軽症例や未診断例が多い可能性も指摘されています。病型別では、多くの集団でタイプ2が最も多く(半数以上)、次いでタイプ1が多いとされます。タイプ3は全体として少数ですが、フィンランドや一部の民族集団では比較的多いことが知られています。常染色体潜性遺伝のため性差はありません。難聴は出生時から(タイプ1・2)存在しますが、網膜色素変性の症状は小児期〜成人期に遅れて現れます。このため、乳幼児期には「難聴のみ」と診断され、夜盲や視野狭窄が出てから初めてアッシャー症候群と分かる例が少なくありません。
アッシャー症候群の原因・病態生理
アッシャー症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとり、両親から1つずつ受け継いだ原因遺伝子の両方に病的バリアントがあるときに発症します。両親は通常、無症状の保因者です。これまでに10を超える原因遺伝子が知られています。代表的なものは次のとおりです。タイプ1:MYO7A(ミオシンVIIa)、USH1C(ハーモニン)、CDH23(カドヘリン23)、PCDH15(プロトカドヘリン15)、USH1G(SANS)。タイプ2:USH2A(アッシャリン)、ADGRV1(旧GPR98/VLGR1)、WHRN(ホーリン)。タイプ3:CLRN1(クラリン1)。このほか、CIB2、ARSGなど非典型例に関連する遺伝子の報告もありますが、一部は位置づけが議論されています。世界的にはUSH2Aが最も頻度の高い原因遺伝子で、日本人ではMYO7A、CDH23、USH2Aなどが比較的多く同定されると報告されています。なお、同じ遺伝子でもバリアントの種類によって臨床像は異なります。CDH23やMYO7A、USH2Aの一部のバリアントでは、網膜症状を伴わない非症候群性難聴や、難聴を伴わない網膜色素変性になる場合があることも知られています。
これらの遺伝子が作るタンパク質は、互いに結合して分子複合体(アッシャー・インタラクトーム)を形成します。内耳では、有毛細胞の頂部にある感覚毛(不動毛)の束をまとめる構造に関わります。具体的には、音の振動を電気信号に変える機械電気変換チャネルを開くチップリンク(CDH23とPCDH15で構成)や、その固定装置(ハーモニン、SANS、ミオシンVIIa)などです。タイプ1遺伝子の異常では、発生段階から不動毛の束が乱れて有毛細胞が機能せず、蝸牛(聴覚)と前庭(平衡覚)の両方が重度に障害されます。タイプ2のタンパク(アッシャリン、ADGRV1、ホーリン)は、主に不動毛の基部をつなぐ足首リンクに関わり、障害は聴覚の高音域に強く出ます。網膜では、視細胞の内節と外節をつなぐ結合線毛の周辺や、線毛周囲の膜構造(ペリシリアリー領域)にアッシャータンパクが局在します。ここで、外節を維持するための物質輸送や膜構造の安定化を担っていると考えられています。これが障害されると、まず桿体(暗いところで働く視細胞)が、続いて錐体が徐々に変性・脱落します。その結果、夜盲と周辺から始まる視野狭窄が進みます。また、ミオシンVIIaは網膜色素上皮でのメラノソーム輸送や視細胞外節の貪食にも関わるとされます。ヒトとマウスでは網膜の構造が異なり、マウスモデルでは網膜変性が再現されにくいことが、病態解明と治療開発の課題となっています。
アッシャー症候群の症状
- 先天性感音難聴(タイプ1): 出生時から両耳の高度〜重度難聴があり、補聴器では音声言語の獲得が難しいことが多いです。新生児聴覚スクリーニングで発見される例が増えています。
- 中等度〜高度感音難聴(タイプ2): 低音域は比較的保たれ、高音域ほど悪い「高音漸傾型」の聴力像が典型です。補聴器で音声言語を獲得できることが多いです。難聴は概ね非進行性ですが、加齢などで緩やかに悪化する例もあります。
- 進行性難聴(タイプ3): 言語習得後の小児期〜成人期に難聴が始まり、年単位で進行します。最終的に高度難聴に至ることがあります。
- 平衡障害・運動発達の遅れ: タイプ1では前庭機能が廃絶しているため、首すわりや独歩の開始が遅れる傾向があります(独歩が1歳半以降になることが多い)。暗所や足場の悪い場所でふらつきやすくなります。
- 夜盲: 薄暗い場所や夜間に見えにくくなる症状で、多くの場合、網膜色素変性の最初の症状です。小児では「暗いところを怖がる」「夜に転びやすい」として気づかれることがあります。
- 視野狭窄: 周辺部から(しばしば中間周辺部の輪状暗点から)視野が欠け、進行すると筒をのぞくような求心性視野狭窄になります。人や物にぶつかる、足元の段差に気づかないといった形で現れます。
- 視力低下・まぶしさ: 病期が進むと中心部の錐体も障害され、視力やコントラスト感度が低下します。羞明(まぶしさ)を強く感じることも多いです。
- 白内障・黄斑浮腫による見えにくさ: 後嚢下白内障や嚢胞様黄斑浮腫を比較的若いうちに合併し、視力低下を加速させることがあります。
- コミュニケーション障害: 視覚が保たれている間は読話や手話に頼れますが、視野狭窄が進むと相手の口元や手話が見えにくくなります。そのため、触手話など新たな方法が必要になることがあります。
- 心理的苦痛・社会的孤立: 二つの感覚障害が重なることで情報や人とのつながりが失われやすく、抑うつや不安、孤立感を生じることがあります。
アッシャー症候群の経過と合併症
難聴は、タイプ1・2では出生時から存在し、概ね大きく進行しないのが原則です。タイプ3では進行します。網膜色素変性は全病型で緩徐に進行します。典型的には、まず夜盲が現れ、次いで中間周辺部の輪状暗点から周辺視野が失われます。その後、中心の小さな視野が残る時期が長く続き、最終的には中心視力も低下します。進行速度には個人差が大きいです。一般にタイプ1は早期に発症して進行もやや早く、タイプ2は発症が遅めとされますが、同じ遺伝子・同じ家系内でも差があります。多くの患者は成人期に、日常生活で移動の支援が必要となる程度の視野狭窄に至ります。中年期以降に中心視力も低下して社会的失明に近い状態となる例もあります。ただし、高齢まで中心視力が保たれる例も少なくありません。一方で、完全に光を失う例は比較的少ないとされます。
眼科的な合併症としては、後嚢下白内障と嚢胞様黄斑浮腫が代表的で、いずれも治療により視機能の改善が期待できる場合があります。網膜前膜や、まれに網膜血管異常の報告もあります。聴覚・平衡面では、タイプ1の前庭機能廃絶により、視野が狭くなると代償に使っていた視覚情報も失われ、転倒や外傷のリスクが高まります。二重感覚障害によって、抑うつ、不安、睡眠障害、社会的孤立、失業などの心理社会的合併症が生じやすいことも重要です。また、補聴器や人工内耳の装用状況、加齢性の変化、騒音曝露などにより聞こえが変化することがあります。一般に生命予後には影響しないと考えられています。
アッシャー症候群の診断・診断基準
診断は、両側性感音難聴と網膜色素変性の両方を確認することが基本で、病型分類のために前庭機能も評価します。乳幼児期には難聴が先に見つかりますが、網膜所見は小児期早期には目立たないことがあります。そのため、原因不明の難聴児、特に歩行開始の遅れを伴う重度難聴児では、眼科での網膜電図(ERG)を含む評価や遺伝学的検査を検討することが早期診断につながります。逆に、網膜色素変性の患者に難聴があれば本症を疑い、聴力検査を行います。日本の指定難病の診断基準では、臨床症状・聴覚検査・眼科検査(ERGなど)・前庭機能検査・遺伝学的検査を組み合わせて判定します。遺伝学的検査では原因遺伝子に両アレルの病的バリアントが確認されれば確定的です。ただし、遺伝子が特定できない例でも臨床的に診断されることがあります。医療費助成には重症度分類(聴覚・視覚の障害程度)を満たす必要があります。詳細は難病情報センターの最新の基準と主治医に確認してください。
- 純音聴力検査・乳幼児聴力検査: 乳幼児ではABR(聴性脳幹反応)、ASSR、行動反応聴力検査を用い、年長児・成人では純音聴力検査で難聴の程度と型を評価します。タイプ2の高音漸傾型、タイプ3の経時的悪化など、病型推定に役立ちます。
- 新生児聴覚スクリーニング: タイプ1・2の先天性難聴を早期に発見する契機となります。要精密検査となった場合は、速やかに精密検査機関を受診します。
- 前庭機能検査: 温度刺激検査(カロリックテスト)、回転検査、vHIT、VEMPなどで半規管・耳石器の機能を評価します。タイプ1では両側の前庭機能が高度低下〜廃絶し、タイプ2では正常です。
- 眼底検査・眼底自発蛍光(FAF): 骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様蒼白といった網膜色素変性の所見を確認します。FAFでは黄斑周囲の過蛍光リングなどが観察されます。小児早期には眼底がほぼ正常に見えることもあります。
- 網膜電図(ERG): 桿体・錐体の反応を客観的に評価する最も重要な機能検査で、杆体応答の著明な減弱〜消失がみられます。眼底変化が出る前の小児でも異常を検出できるため、早期診断に有用です。
- 光干渉断層計(OCT): 視細胞層(エリプソイドゾーン)の短縮や外顆粒層の菲薄化、嚢胞様黄斑浮腫や網膜前膜の有無を非侵襲的に評価し、経過観察に用います。
- 視野検査: ゴールドマン視野計や自動視野計で輪状暗点や求心性視野狭窄を定量します。進行評価や身体障害者手帳の認定にも用います。
- 遺伝学的検査: 次世代シーケンサーによる遺伝子パネル解析などで原因遺伝子を同定し、確定診断・病型推定・遺伝カウンセリングや将来の治験参加の検討に役立てます。日本では保険診療で行われる難聴の遺伝学的検査に本症関連遺伝子の一部が含まれています。実施方法と結果の解釈は専門施設で相談します。
- 画像検査(CT・MRI): 人工内耳の適応評価として、内耳奇形や蝸牛神経の有無を確認します。本症では内耳の形態は通常正常で、他の難聴原因との鑑別にも役立ちます。
アッシャー症候群と鑑別すべき疾患
- 非症候群性網膜色素変性症+別原因の難聴: 網膜色素変性は単独で、難聴は加齢・騒音・GJB2変異など別の原因による偶然の合併であることがあり、遺伝学的検査や難聴の経過で区別します。
- アルストレム症候群: 網膜ジストロフィー(錐体優位で乳児期の眼振・羞明)と難聴に加え、肥満、インスリン抵抗性、心筋症、腎・肝障害を伴う点で異なります。
- ペルオキシソーム病(レフサム病、ハイムラー症候群など): 網膜変性と難聴を伴いますが、フィタン酸高値や極長鎖脂肪酸異常、神経症状、魚鱗癬、エナメル質形成不全などを伴う点で鑑別し、レフサム病では食事療法が重要です。
- ミトコンドリア病: 感音難聴と網膜症(色素性網膜症)に加え、糖尿病、外眼筋麻痺、心伝導障害、筋症状、乳酸高値などを伴うことが鑑別の手がかりとなります。
- ウォルフラム症候群: 難聴に加え、視神経萎縮(網膜色素変性ではない)、若年発症の糖尿病、尿崩症を伴う点で異なります。
- チャージ症候群・その他の先天性症候群: コロボーマ、心奇形、後鼻孔閉鎖、内耳奇形(半規管低形成)などの多臓器異常を伴うことで区別されます。
アッシャー症候群の治療
現時点では、アッシャー症候群の原因そのものを治す確立した治療はありません。治療の柱は、聴覚の補償(補聴器・人工内耳)、視機能の保護と合併症治療(白内障・黄斑浮腫など)、ロービジョンケアと生活・コミュニケーション支援、心理社会的支援です。特に、将来視覚が低下する可能性を見越して、幼少期から聴覚を最大限活用する方針が重要です。小児期に人工内耳で音声言語を獲得しておくことは、視野が狭くなった後のコミュニケーション手段を確保する点で大きな意味があります。どのコミュニケーション手段(音声、手話、触手話、点字、指点字など)を選び組み合わせるかは、本人・家族の価値観や病型、進行度によって異なります。耳鼻咽喉科、眼科、療育・教育機関、福祉職、遺伝カウンセラーなどが連携し、ライフステージに応じて計画を見直していきます。具体的な治療の選択は主治医・専門医とよく相談してください。
- 人工内耳: タイプ1の重度難聴では、補聴器の効果が乏しい場合に、乳幼児期の早期装用(国内の小児適応基準ではおおむね1歳以上が目安)で音声言語の発達に良好な成績が報告されています。両耳装用が検討されることもあります。タイプ2・3でも、難聴が進行し補聴器の効果が不十分になれば適応となりえます。
- 補聴器・補聴援助システム: タイプ2・3では補聴器が聴覚補償の中心です。騒音下では、デジタル無線(リモートマイク)などの補聴援助システムが聞き取りを助けます。定期的な聴力評価とフィッティングの調整が大切です。
- ロービジョンケア: 遮光眼鏡によるまぶしさの軽減、拡大鏡・拡大読書器、画面読み上げソフト、照明の工夫、白杖を使った歩行訓練などを、残存視機能に合わせて導入します。
- 白内障手術: 後嚢下白内障で視力が低下した場合、手術によって見え方が改善することがあります。ただし、網膜の状態によって改善の程度は限られ、術後の黄斑浮腫などに注意が必要です。
- 嚢胞様黄斑浮腫の治療: 網膜色素変性に伴う黄斑浮腫には、炭酸脱水酵素阻害薬(点眼・内服)などが用いられ、浮腫の軽減が報告されています。効果や副作用は個人差があるため、眼科で経過を見ながら判断します。
- 平衡機能のリハビリテーション・安全対策: タイプ1では、乳幼児期から運動発達を促す療育を行います。暗所・不整地での転倒防止のため、照明の確保や手すりの設置、運動・スポーツ時の安全配慮(水泳や高所など)を検討します。
- コミュニケーション手段の獲得支援: 手話、読話、文字通訳に加え、視野が狭まった後に備えて触手話、指点字、点字、点字ディスプレイなどを段階的に習得する支援が行われます。盲ろう者向けの通訳・介助員派遣も活用できます。
- 開発中の治療(臨床研究・治験): 巨大なMYO7A遺伝子を2つのAAVベクターに分けて導入する遺伝子治療や、USH2Aの特定のエクソンを標的とするアンチセンス核酸などの臨床試験が、主に海外で行われてきました。いずれも現時点で日本で承認された治療ではなく、対象となる遺伝子やバリアントが限られます。参加を希望する場合は、遺伝子診断を受けたうえで専門医に相談します。
- 心理的支援・遺伝カウンセリング: 診断の告知時、視覚低下の進行時、進学・就職などの節目に、心理職や遺伝カウンセラーによる支援を受けることで、疾患の理解や将来設計、家族への説明の助けとなります。
アッシャー症候群の予後・長期フォロー
アッシャー症候群は一般に生命予後には影響しないと考えられており、適切な支援があれば教育、就労、家庭生活を送ることができます。聴覚については、人工内耳や補聴器の進歩により、多くの患者で十分なコミュニケーションが可能になっています。課題は網膜色素変性の進行で、多くの方が成人期に視野狭窄による移動や読み書きの困難を経験します。その程度と時期は個人差が大きく、中年期以降も実用的な中心視力を保つ方もいれば、より早期に視覚的に重い障害に至る方もいます。QOLは、感覚障害そのものだけでなく、コミュニケーション手段の確保、移動支援、就労環境の配慮、心理的支援の有無に大きく左右されます。そのため、早期診断と見通しを持った準備が予後を改善する鍵となります。
長期フォローアップでは、耳鼻咽喉科で聴力と補聴器・人工内耳の調整を定期的に(小児では頻回に)行います。眼科では、年1回程度を目安に視力、視野、OCT、必要に応じてERGなどで進行を評価し、白内障や黄斑浮腫の早期発見・治療につなげます。小児では、難聴と診断された段階で眼科評価を組み込み、学童期には夜盲や視野の変化に応じて学習環境(照明、座席、教材の拡大)を調整します。成人期には、運転免許の適性(視野要件)、職場での合理的配慮、福祉サービスの更新などを定期的に見直します。また、遺伝子治療などの臨床試験の情報は変化が速いため、遺伝学的診断の結果を手元に整理しておき、専門施設や患者会を通じて最新情報を得ることが勧められます。
アッシャー症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、照明の工夫(玄関・廊下・階段の照明を明るくし、足元灯を使う)、段差のマーキング、家具配置の固定などで転倒やけがを防ぎます。夜間や暗い場所での単独外出は避け、白杖や同行援護などの支援を早めに取り入れると安全性が高まります。屋外では、まぶしさの軽減と網膜保護の観点から遮光眼鏡や帽子が役立ちます。喫煙は避けるのが望ましいとされます。サプリメント(ビタミンA等)の効果は網膜色素変性全般でも確立しておらず、過量摂取には副作用もあるため、自己判断で始めず主治医に相談してください。視野狭窄が進むと自動車の運転が危険になるため、視野の状態について眼科医と相談することが大切です。タイプ1では前庭機能がないため、暗い場所での水泳や潜水は方向感覚を失いやすく危険とされます。学校や職場には、障害特性(聞こえにくさと見えにくさが組み合わさっていること)を具体的に伝え、座席位置、照明、文字情報の提供、拡大教材やICT機器などの合理的配慮を求めましょう。家族については、両親がそれぞれ保因者である場合、次の子どもが発症する確率は一般に4分の1です。きょうだいの聴力・眼科評価や、将来の家族計画については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。本人の子どもが発症する確率は、配偶者が同じ遺伝子の保因者でない限り低くなります。ただし、難聴の原因遺伝子の保因者は少なくないため、詳細は遺伝カウンセリングで確認してください。
利用できる制度・相談窓口
アッシャー症候群は指定難病であり、診断基準と重症度分類を満たす場合、難病指定医の臨床調査個人票をもとに都道府県・指定都市へ申請すると、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度を満たさなくても、医療費が一定以上かかる場合の「軽症高額該当」の仕組みがあります。18歳未満で他の制度(小児慢性特定疾病など)が利用できるかは、主治医や自治体窓口に確認してください。聴覚障害・視覚障害はそれぞれ身体障害者手帳の対象となり、障害の程度によっては両方の等級が合算されて認定されます。手帳により、補聴器などの補装具費の支給、点字ディスプレイ・拡大読書器・音声時計など日常生活用具の給付、同行援護、税の控除、公共交通機関の割引などが利用できます。人工内耳の手術は医療保険の対象で、体外装置の修理・交換についても制度があります。障害者総合支援法の地域生活支援事業として、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業が各都道府県等で実施されています。成人で就労や日常生活に支障がある場合は障害年金(聴覚・視覚の障害の併合認定)の対象となる可能性があり、障害のある児童を養育する家庭には特別児童扶養手当などがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、市区町村の障害福祉窓口があります。ほかに、聴覚障害者情報提供施設、視覚障害者情報提供施設(点字図書館)、盲ろう者支援団体(全国盲ろう者協会や各地の盲ろう者友の会)、患者会、聴覚・視覚の特別支援学校の教育相談、ハローワークの専門援助部門なども活用できます。
アッシャー症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
難病の診断や進行性の経過は、誰にとっても大きな心理的負担となり、抑うつ、不安、適応障害、睡眠障害などを生じることがあります。アッシャー症候群に特有の課題もあります。その一つは、乳幼児期には「難聴の子」として育ち、学童期〜思春期に視覚障害が加わることで、二度目の告知を経験しやすいことです。手話や読話など、これまで頼ってきたコミュニケーション手段が視覚に依存しているため、視野狭窄の進行は「人とつながる手段を失う恐れ」に直結し、強い不安や喪失感をもたらします。また、外見から障害が分かりにくいため、ぶつかる、挨拶に気づかないといった場面で誤解を受けやすく、周囲の理解不足が孤立感を深めることがあります。運転免許、進路、就職、結婚・出産などライフイベントのたびに葛藤が生じることも珍しくありません。家族、特に親は、遺伝性疾患であることへの罪悪感を抱えやすく、家族自身へのケアも重要です。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、外出や人との交流を避けるようになったといった変化があれば、一人で抱え込まずに主治医、心理職、精神科・心療内科に相談してください。その際は、筆談、手話通訳、文字通訳など、本人に合ったコミュニケーション手段で相談できる環境を整えることが大切です。同じ病気を持つ人との交流(患者会、盲ろう者の集い)は、具体的な生活の工夫やロールモデルを得る機会となり、大きな支えになることが多いとされます。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
アッシャー症候群の受診の目安
- 新生児聴覚スクリーニングで要精密検査となった場合や、乳幼児が音に反応しない・言葉が遅い場合は、早めに耳鼻咽喉科(精密聴力検査機関)を受診してください。
- 難聴のある子どもで独歩が遅い、暗い場所を怖がる、夜や夕方に転びやすい・物にぶつかるといった様子があれば、眼科で網膜の評価を受けてください。
- 見え方が急に悪くなった、ゆがんで見える、視野の一部が急に欠けた、光が走る・黒い点が増えたといった症状があれば、速やかに眼科を受診してください。
- 聞こえが急に悪化した、耳鳴りやめまいが急に強くなった場合は、突発性難聴など治療を急ぐ病気の可能性もあるため、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
- 人工内耳の装用部位が腫れる・赤くなる・痛む、発熱を伴う場合や、装置が急に機能しなくなった場合は、手術を受けた施設に連絡してください。
- 転倒による頭部打撲で意識の変化、嘔吐、強い頭痛がある場合や、強い抑うつ・死にたい気持ちがある場合は、ためらわずに救急受診や緊急の相談をしてください。
アッシャー症候群についてのよくある質問
Q. 難聴の子どもがアッシャー症候群かどうか、早く知る方法はありますか?
A. 網膜色素変性の症状は数年以上遅れて出るため、難聴の時点で遺伝学的検査や眼科でのERG検査を行うと、早期に診断できることがあります。特に重度難聴で歩行開始が遅い場合はタイプ1の可能性を考えます。検査の時期や方法は、耳鼻咽喉科・眼科・遺伝の専門家と相談して決めましょう。
Q. いずれ全く見えなくなるのでしょうか?
A. 網膜色素変性は進行しますが、速度や程度には個人差が大きく、中年期以降も中心視力が保たれる方も少なくありません。完全に光を失う例は比較的少ないとされます。白内障や黄斑浮腫など治療できる合併症もあるため、定期的な眼科受診が大切です。
Q. 人工内耳を入れると、目の病気に影響はありますか?
A. 人工内耳が網膜色素変性の進行に影響を与えるという根拠は知られていません。むしろ、将来視覚が低下したときに聴覚を使ってコミュニケーションできることは大きな利点と考えられています。MRI検査の際には制約があるため、事前に申告が必要です。
Q. 遺伝子治療はすぐに受けられますか?
A. 現時点では、アッシャー症候群に対して日本で承認された遺伝子治療はなく、臨床試験の段階です。対象となる原因遺伝子やバリアントが限られているため、まず遺伝学的検査で原因を特定しておくことが参加の前提となります。最新情報は専門医や患者会を通じて確認してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。