若年発症型両側性感音難聴

Young-Onset Bilateral Sensorineural Hearing Loss

若年発症型両側性感音難聴(Young-Onset Bilateral Sensorineural Hearing Loss)|若年発症型両側性感音難聴は、40歳未満の若い時期に両耳の聞こえが徐々に悪くなる遺伝性の感音難聴で、特定の原因遺伝子が確認されたものを指す指定難病です。新生児聴覚スクリーニングでは異常がなくても、学童期から成人期にかけて難聴が現れて進行します。そのため学業、就労、対人関係、家族計画など、人生の多くの場面に影響します。補聴器や人工内耳などの聴覚補償と、遺伝学的検査に基づく診断・カウンセリングを組み合わせた長期的な支援が重要です。

若年発症型両側性感音難聴の要点

若年発症型両側性感音難聴は、40歳未満で両耳の聞こえが徐々に悪くなる遺伝性の感音難聴で、遺伝学的検査で原因遺伝子の病的バリアントが確認されたものを指します。難聴は学童期から成人期に現れて進行することが多く、厚生労働省の指定難病(告示番号304)です。

別名・略称若年発症両側性感音難聴
分野眼・耳鼻咽喉疾患
遺伝形式原因遺伝子により異なる(常染色体顕性・常染色体潜性・X連鎖・ミトコンドリア遺伝)
発症年齢40歳未満
主な症状両耳の感音難聴(遅発性・進行性の経過が典型的)
主な検査聴力検査、遺伝学的検査(原因遺伝子の病的バリアントの同定)
主な治療補聴器、人工内耳などの聴覚補償
受診する主な診療科耳鼻咽喉科

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若年発症型両側性感音難聴とは

本疾患は、厚生労働省の指定難病(告示番号304)として定義された疾患概念です。一般的な「若い人の両側難聴」すべてを指すわけではありません。難病情報センター等に示される診断基準の骨子は次の4点です。(1)40歳未満で発症する。(2)両側性の感音難聴である。(3)遺伝学的検査で、診断基準に定められた既知の難聴原因遺伝子に病的バリアントが同定される。(4)騒音、耳毒性薬剤、感染症、外傷など既知の外的要因による難聴を除外する。典型例は遅発性・進行性の経過をとり、出生時の聴力は正常か軽度で、小児期〜青年期・壮年期に難聴が顕在化して年単位で悪化します。なお、既存の簡易解説では先天性難聴の代表であるGJB2(コネキシン26)を中心に記載していました。しかしGJB2関連難聴の多くは先天性で非進行性のことが多く、本疾患が主な対象とする「若年で発症し進行する難聴」とは性格が異なる点に注意が必要です。

遺伝性難聴は、難聴以外の症状を伴う「症候群性」と、難聴のみを示す「非症候群性」に大別されます。非症候群性難聴は遺伝形式によって次のように分類されます。常染色体顕性(優性)遺伝はDFNA、常染色体潜性(劣性)遺伝はDFNB、X連鎖性はDFNX、ミトコンドリア遺伝はミトコンドリア難聴と呼ばれます。本疾患で対象となる代表的な遺伝子として、ACTG1、CDH23、COCH、KCNQ4、TECTA、TMPRSS3、WFS1などが挙げられ、その後の改訂でEYA4、MYO6、MYO15A、POU4F3などが追加されたとされます。対象遺伝子は研究の進展に伴い見直されることがあるため、最新の診断基準を確認する必要があります。日本では2012年に先天性難聴の遺伝学的検査が保険収載され、その後も対象遺伝子の拡充や次世代シークエンサーを用いた解析が進みました。その結果、従来「原因不明の進行性難聴」とされていた若年者の多くで原因遺伝子が特定できるようになりました。こうした研究班の成果を背景に、2015年(平成27年)に指定難病に加えられました。

若年発症型両側性感音難聴の疫学・患者数

遺伝性難聴全体では、先天性の高度難聴は出生約1,000人に1人とされ、その半数以上に遺伝的要因が関与すると考えられています。本疾患のように遅発性・進行性で特定遺伝子が同定される例の正確な有病率は、日本では明らかではありません。遺伝学的検査を受ける機会がないまま「若年性の原因不明感音難聴」として経過している例も多く、実際の患者数は把握されている数より多いと推測されます。発症年齢は遺伝子によって異なります。小児期から高音域の聴力低下が始まる型もあれば、20〜30歳代に初めて自覚する型もあります。顕性遺伝型(KCNQ4、ACTG1、COCH、WFS1、EYA4など)では親子で同様の難聴がみられることが多く、潜性遺伝型(CDH23、TMPRSS3、MYO15Aなど)では両親の聴力は正常で、きょうだいのみが罹患することがあります。性差は基本的にありません。日本人では、CDH23やKCNQ4などが比較的頻度の高い原因遺伝子として報告されています。

若年発症型両側性感音難聴の原因・病態生理

原因は内耳(蝸牛)の構造や機能に関わる遺伝子の病的バリアントです。各遺伝子の働きと典型的な表現型は以下のとおりです。 KCNQ4:外有毛細胞のカリウムチャネルをコードし、高音域から進行する顕性遺伝型(DFNA2)の難聴を起こします。 ACTG1:有毛細胞の不動毛を支えるアクチンをコードし、高音漸傾型の進行性難聴(DFNA20/26)を起こします。 TECTA:有毛細胞の上にある蓋膜の構成蛋白をコードし、中音域が低下するいわゆる「皿型」聴力像を示すことがあります。 WFS1:小胞体ストレス応答に関わり、顕性遺伝型では低音障害型の難聴を特徴とします。 COCH:内耳の細胞外マトリックス蛋白をコードし、難聴に加えて前庭機能障害を伴うことが多いとされます(DFNA9)。 EYA4:転写共役因子で、成人期に進行する顕性遺伝型難聴の原因です。 MYO6・POU4F3:それぞれ不動毛の維持と有毛細胞の分化・生存に関与します。 CDH23:不動毛同士を結ぶ先端連結(tip link)を構成し、潜性遺伝型の非症候群性難聴(DFNB12)の原因になります。同じ遺伝子でも重い機能喪失型ではアッシャー症候群1D型を起こします。 TMPRSS3:膜結合型セリンプロテアーゼで、潜性遺伝型の進行性高音障害型難聴の原因となります。 MYO15A:不動毛の伸長に関わり、比較的重度の潜性遺伝型難聴を起こすことがあります。

発症機序の共通点は、音を電気信号に変換する蝸牛の微細構造が、遺伝子変化により経年的に壊れていくことです。音の振動は基底板と蓋膜の相対運動として有毛細胞の不動毛を傾け、先端連結に引かれて機械受容チャネルが開きます。すると内リンパ液中の高濃度カリウムが流入して脱分極し、聴神経へ信号が伝わります。KCNQ4異常では外有毛細胞からのカリウム排出が滞って細胞が変性し、ACTG1やMYO6、CDH23、MYO15Aの異常では不動毛の構造維持が破綻します。TECTA異常では蓋膜の物性が変わり、COCH異常では変性した蛋白の沈着が内耳組織の障害や前庭障害に関与するとされます。蝸牛は基底回転が高音、頂回転が低音を担当するため、障害部位により聴力像に遺伝子ごとの特徴が現れます。多くは高音漸傾型、WFS1では低音障害型、TECTAでは中音域障害型です。有毛細胞は哺乳類ではほぼ再生しないため、障害は累積して不可逆的に進行します。また、同じバリアントでも発症年齢や進行速度に個人差があり、修飾遺伝子や環境因子(騒音曝露など)の影響が考えられています。

若年発症型両側性感音難聴の症状

  • 両側性の聴力低下: 左右ほぼ対称に聞こえが悪くなるのが基本です。軽度から重度・聾まで程度は幅広く、遺伝子と年齢によって異なります。
  • 高音域から始まる聞き取りにくさ: 高音漸傾型では、体温計の電子音や鳥の声、「サ行」「カ行」など子音の聞き取りが先に難しくなります。母音は聞こえるため「聞こえるが言葉がわからない」と感じます。
  • 低音域の聞き取りにくさ: WFS1関連など低音障害型では、男性の声や低い機械音が聞こえにくくなります。初期には自覚しにくく、健診で偶然見つかることもあります。
  • 語音明瞭度の低下: 音の大きさだけでなく言葉を識別する能力が低下し、補聴器で音を大きくしても明瞭にならない場合があります。人工内耳を検討する指標となります。
  • 騒音下での会話困難: 教室、会議、飲食店など背景雑音がある環境で会話についていけなくなります。早い段階から現れやすい症状です。
  • 緩徐な進行: 数年〜十数年の単位で聴力が悪化し、補聴器の調整や機種変更が繰り返し必要になります。遺伝子によっては比較的急に悪化する時期があります。
  • 耳鳴: 「キーン」「ジー」といった持続性の耳鳴を伴うことがあります。睡眠や集中を妨げる場合もあります。
  • 耳閉感・聴覚過敏: 耳の詰まった感じや、大きな音が不快に響く補充現象(リクルートメント)がみられることがあります。補聴器の調整時に考慮が必要です。
  • めまい・平衡障害: COCH関連などでは前庭機能が低下し、暗所でのふらつきや回転性めまい発作を生じることがあります。メニエール病と紛らわしい場合もあります。
  • 発話・学習面への影響: 小児期発症では、発音の不明瞭さ、聞き間違いによる学習のつまずき、「話を聞いていない」という誤解を招くことがあります。
  • コミュニケーション疲労: 聞き取りに集中し続けることで強い疲労感や頭痛を生じ、社会参加を避ける原因にもなります。

若年発症型両側性感音難聴の経過と合併症

自然歴は原因遺伝子によって大きく異なります。KCNQ4やACTG1では、小児期〜青年期に高音域の軽度〜中等度難聴が始まります。その後は年に一定程度ずつ聴力レベルが悪化し、中年期までに高度難聴へ移行する例があります。TMPRSS3やCDH23の一部では、低音部の残存聴力を保ったまま高音部が高度に障害される時期があり、その後全周波数に障害が広がります。WFS1関連の低音障害型は進行が比較的緩やかで、長く会話能力が保たれることが多いとされます。COCH関連では中年期以降に難聴と前庭障害が目立つことが多いと報告されています。全体として、診断時点の聴力だけでなく遺伝子情報と家族歴を組み合わせることで、ある程度の将来予測が可能になります。こうした予測は、補聴器から人工内耳への移行時期の計画にも役立ちます。

合併症として重要なのは、二次的な心理社会的影響です。具体的には、学業不振、就労上の困難、社会的孤立、抑うつ・不安などが挙げられます。また、中年期以降の難聴は認知機能低下の危険因子の一つとされ、適切な聴覚補償が勧められています。前庭障害を伴う型では転倒リスクが高まります。遺伝子によっては耳以外の症状に注意が必要です。CDH23ではアッシャー症候群(網膜色素変性症を伴う)との関連があり、WFS1の両アレル性変異ではウォルフラム症候群(糖尿病・視神経萎縮など)を起こします。EYA4の一部の変化では拡張型心筋症との関連が報告されています。これらに該当する場合は、眼科や内科との連携を検討します。

若年発症型両側性感音難聴の診断・診断基準

診断は「両側性感音難聴の確認 → 外的要因の除外 → 遺伝学的検査による原因遺伝子の同定」という流れで進めます。まず問診で、発症時期と進行の経過、新生児聴覚スクリーニングの結果、家族歴(三世代程度の家系図)、騒音曝露、耳毒性薬剤の使用歴、髄膜炎・ムンプス等の感染歴、頭部外傷、めまいや視覚・腎・代謝などの随伴症状を確認します。次に耳鏡所見、純音聴力検査、語音聴力検査で難聴の程度と型を評価し、必要に応じて他覚的聴力検査や画像検査で後迷路性病変や内耳奇形を除外します。そのうえで十分な遺伝カウンセリングを行い、同意を得て遺伝学的検査を実施します。指定難病の申請には、診断基準を満たすことと、重症度分類で一定以上(高度難聴相当など)と判定されることが必要です。手続きは難病指定医が作成した臨床調査個人票を用いて行います。

  • 純音聴力検査: 気導・骨導閾値がともに上昇し、両者の差がないことで感音難聴と判断します。高音漸傾型・低音障害型・皿型などの聴力像は原因遺伝子を推定する手がかりとなり、経時的測定で進行速度を評価します。
  • 語音聴力検査: 最高語音明瞭度を測定し、言葉の聞き取り能力を評価します。補聴器の効果予測や人工内耳の適応判断に不可欠です。
  • 他覚的聴力検査(ABR・ASSR・耳音響放射): 小児や詐聴の疑いがある例で閾値を客観的に推定します。耳音響放射とABRを組み合わせ、オーディトリー・ニューロパチーなど後迷路性病変との鑑別にも用います。
  • 側頭骨CT・内耳MRI: 前庭水管拡大、蝸牛奇形、内耳道狭窄、聴神経腫瘍などを除外します。本疾患では通常、明らかな形態異常を認めません。
  • 前庭機能検査: 温度刺激検査、vHIT、VEMPなどで前庭機能を評価します。COCH関連など前庭障害を伴う型の把握に役立ちます。
  • 遺伝学的検査(難聴遺伝子パネル解析): 次世代シークエンサー等で複数の難聴関連遺伝子を一括解析し、診断基準に定められた遺伝子の病的バリアントを確認します。確定診断に必須で、一定の条件下で保険診療として実施されます。
  • 遺伝カウンセリング: 検査の前後に、結果の意味、遺伝形式、血縁者への影響、偶発的所見の可能性などを説明します。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが関与することが望まれます。
  • 外的要因・症候群の評価: 必要に応じ、小児では先天性CMV感染の検索(保存臍帯など)、血液・尿検査、眼科検査(網膜電図など)、腎機能検査を行います。後天性難聴や症候群性難聴を除外します。
  • 重症度分類: 指定難病の医療費助成では、良聴耳の平均聴力レベルなどに基づく重症度基準を満たすことが求められます。詳細な基準値は最新の告示・診断基準を確認します。

若年発症型両側性感音難聴と鑑別すべき疾患

  • 騒音性難聴・音響外傷: 職業性騒音や大音量の音楽への曝露歴があり、4kHz付近の限局的な低下(c5-dip)を示すことが多い点で区別します。
  • 突発性難聴・急性低音障害型感音難聴: 多くは片側性で急激に発症し、短期間で変動・回復しうる点が緩徐進行の遺伝性難聴と異なります。
  • メニエール病・遅発性内リンパ水腫: 反復する回転性めまいと低音部を中心とした変動性難聴が特徴で、内耳造影MRIによる内リンパ水腫の評価が参考になります。
  • アッシャー症候群・ウォルフラム症候群などの症候群性難聴: 網膜色素変性症、糖尿病、視神経萎縮、腎障害など耳以外の所見の有無と、遺伝子・遺伝形式により区別します。
  • ミトコンドリア遺伝子変異による難聴: 母系遺伝の家族歴、アミノグリコシド感受性(m.1555A>G)、糖尿病や筋症状の合併(m.3243A>G)が手がかりとなります。
  • 自己免疫性内耳障害・聴神経腫瘍: 前者は数週〜数か月で急速に進行してステロイドに反応しうる点、後者は非対称性難聴とMRI所見で区別します。

若年発症型両側性感音難聴の治療

現時点で、障害された有毛細胞を再生させたり、遺伝子異常そのものを治したりする確立された治療はありません。治療の中心は、残っている聴覚を最大限に活かし、失われた聴覚を補う聴覚補償とリハビリテーションです。進行性疾患であるため、定期的な聴力評価に基づいて補聴器の調整、機種変更、人工内耳への移行を段階的に検討します。原因遺伝子によって、人工内耳の成績や残存聴力の特徴に傾向があると報告されています。そのため、遺伝子診断の結果は機器選択や手術時期の判断材料にもなります。さらに、聴覚以外の生活環境の整備、心理的支援、職場・学校との調整を含めた包括的な支援が必要です。どの方法がその人に適しているかは、聴力像、年齢、生活状況、本人の希望によって異なるため、耳鼻咽喉科専門医と十分に相談して決めることが大切です。

  • 補聴器: 軽度〜高度難聴に対する聴覚補償の基本です。聴力像に合わせた周波数特性の調整(フィッティング)が重要で、補聴器相談医や認定補聴器技能者のもとで定期的に再調整します。
  • 人工内耳: 補聴器で十分な語音聴取が得られない高度〜重度難聴に対し、蝸牛内に電極を挿入して聴神経を直接刺激する手術です。適応は日本耳科学会等の基準(小児・成人別)に基づいて判断されます。本疾患の原因遺伝子の多くは内耳の障害が主体で聴神経が比較的保たれるため、良好な成績が期待できる例が多いと報告されています。
  • 残存聴力活用型人工内耳(EAS): 低音部の聴力が保たれ高音部が高度に障害された聴力像に対し、低音は音響刺激、高音は電気刺激で補う方式です。CDH23やTMPRSS3関連など高音急墜型の例で選択肢となりうるため、適応の可否は専門施設で評価します。
  • 補聴援助システム: デジタル無線式補聴援助システム(ロジャー等)、磁気ループ、字幕・文字起こしアプリなどを併用し、騒音下や遠距離での聞き取りを補います。学校や職場での合理的配慮の一環として有用です。
  • 聴覚(リ)ハビリテーション・言語指導: 言語聴覚士による聴能訓練、読話の練習、コミュニケーション方略の指導を行います。人工内耳術後のマッピングと訓練は長期的な成果に大きく影響します。
  • 手話・文字によるコミュニケーション: 聴覚補償と並行して、手話や筆談、要約筆記などの視覚的手段を身につけておくと、聴力がさらに低下した場合や機器の故障時にも意思疎通を保てます。
  • 耳鳴・めまいへの対処: 耳鳴には補聴器による音響療法や教育的カウンセリング(TRT等)を行います。前庭障害には前庭リハビリテーションや転倒予防指導を行い、症状に応じて対症薬を用いることもあります。
  • 増悪因子の回避: 大音量の騒音曝露やアミノグリコシド系抗菌薬などの耳毒性薬剤は、残存聴力を損なうおそれがあります。受診時には難聴があることを医療者に伝えます。
  • 研究段階の治療: 遺伝子治療や内耳再生医療は国内外で研究・臨床試験が進められていますが、本疾患の原因遺伝子に対する承認された治療はまだありません。情報は専門医を通じて確認することが勧められます。

若年発症型両側性感音難聴の予後・長期フォロー

本疾患は難聴そのものが生命予後に影響することは基本的になく、生命予後は一般人口と同等と考えられています。一方、聴力は多くの場合進行し、将来的に高度〜重度難聴に至る可能性がある点がQOL上の最大の課題です。補聴器や人工内耳の技術は大きく進歩しました。とくに言語獲得後に失聴した人では、人工内耳によって電話を含む音声会話が可能になる例も少なくありません。早めに適切な聴覚補償を行い、聴覚を使わない期間(聴覚剥奪期間)を短くすることが、良好な語音聴取の維持につながるとされます。

長期フォローアップでは、少なくとも年1回程度の純音・語音聴力検査で進行を評価し、補聴器の再調整や人工内耳の適応を適時に見直します。人工内耳装用者は、定期的なマッピング、体外機の点検・更新、MRI検査時の注意事項の確認が必要です。原因遺伝子によっては、眼科(網膜所見)、内科(糖尿病・心機能)などの定期評価が推奨される場合があります。小児から成人への移行期には、診療科の移行(トランジション)と、教育から就労への支援の切れ目が生じないように準備します。

若年発症型両側性感音難聴の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、残っている聴力を守ることが重要です。イヤホン・ヘッドホンの大音量・長時間使用を避け、騒音の多い環境では耳栓や防音保護具を活用します。風邪や中耳炎で一時的に聞こえが悪化することがあるため、体調管理にも気を配りましょう。会話では、相手に「顔を見て、少しゆっくり、はっきり話してほしい」と伝えると聞き取りが改善しやすく、照明の明るい静かな席を選ぶ工夫も有効です。災害時や緊急時に音声情報を受け取れない事態に備え、文字や振動で知らせる機器、ヘルプカード、補聴器・人工内耳の予備電池を準備しておくと安心です。本疾患は遺伝性であるため、子どもへの遺伝の可能性、血縁者の検査の要否、妊娠・出産に関する疑問が生じます。顕性遺伝型では子どもに受け継がれる確率は原則50%、潜性遺伝型では両親が保因者の場合にきょうだいの罹患確率が25%とされます。ただし、実際の発症や重症度には個人差があります。こうした問題は家族だけで抱え込まず、遺伝カウンセリング外来で専門家と一緒に整理することが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

本疾患は指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定額を超える月が年3回以上あれば対象となりうる「軽症高額該当」の仕組みがあります。申請は、難病指定医の作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所等)に行います。聴力レベルに応じて身体障害者手帳(聴覚障害)の対象となり、障害者総合支援法に基づく補聴器の補装具費支給や、日常生活用具の給付を受けられる場合があります。手帳の対象とならない軽度・中等度難聴児については、補聴器購入を助成する自治体もあります。人工内耳の手術は健康保険の対象で、高額療養費制度も利用できます。障害の程度によっては障害年金の対象となることがあり、就労面ではハローワークの専門援助窓口や障害者職業センターを利用できます。そのほか、難病相談支援センター、聴覚障害者情報提供施設、各地の難聴者・中途失聴者協会、人工内耳装用者の会なども相談先となります。

若年発症型両側性感音難聴に伴う心のケア・心理社会的支援

聞こえが少しずつ失われていく経験は、喪失感、将来への不安、自尊心の低下を伴いやすく、抑うつや適応障害を生じることがあります。本疾患に特有の課題もあります。外見から障害がわかりにくいため、周囲に理解されにくく、「聞こえたふり」をして疲れ果てたり、会話の場を避けて孤立したりしがちです。思春期・青年期の発症では、補聴器を付けることへの抵抗感、進学・就職での不安、恋愛や結婚に伴う遺伝の告知の悩みが重なります。親が子どもに遺伝させたことに罪悪感を抱くこともあります。また、聴者の世界とろう者の世界のはざまでアイデンティティに揺らぎを感じる人もいます。こうした気持ちは決して特別なものではありません。気分の落ち込み、不眠、意欲低下が2週間以上続く場合は、主治医や心療内科・精神科、臨床心理士・公認心理師に相談してください。同じ疾患や難聴をもつ人々の患者会・ピアサポートで体験を共有することも、大きな支えになります。

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若年発症型両側性感音難聴の受診の目安

  • 以前より聞き返しが増えた、テレビの音量が大きくなったと周囲に指摘された場合は、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けてください。
  • 片耳または両耳の聞こえが数時間〜数日のうちに急に悪化した場合は、突発性難聴などの可能性があり早期治療が重要なため、できるだけ早く(目安として当日〜数日以内に)受診してください。
  • 激しい回転性めまい、嘔吐、立てないほどのふらつき、または手足のしびれ・ろれつが回らないなどの神経症状を伴う場合は、救急受診を検討してください。
  • 補聴器を正しく使っても会話が聞き取れなくなってきた場合は、人工内耳の適応評価のため専門医に相談してください。
  • 家族に若年性の難聴がいて、子どもの発音や聞き取り、学校生活に気になる点がある場合は、早めに小児の聴覚評価を受けてください。
  • 視野が狭くなる、夜盲、口渇・多尿などの症状が現れた場合は、関連疾患の評価のため主治医に伝えてください。

若年発症型両側性感音難聴についてのよくある質問

Q. 新生児聴覚スクリーニングで「異常なし」だったのに、難聴になることはありますか?

A. あります。本疾患は出生時の聴力が正常または軽度で、その後に発症・進行する遅発性の遺伝性難聴が中心です。スクリーニングを通過していても、聞こえの変化に気づいたら検査を受けてください。

Q. 遺伝学的検査は必ず受けなければなりませんか?

A. 指定難病として認定されるには原因遺伝子の同定が必要ですが、検査を受けるかどうかはご本人の意思で決めるものです。検査の結果は将来の聴力の見通しや治療選択、家族計画の参考になります。一方で血縁者にも関わる情報であるため、遺伝カウンセリングで十分に説明を受けてから判断しましょう。

Q. 薬で難聴の進行を止めることはできますか?

A. 現在のところ、本疾患の進行を確実に止める薬は確立されていません。騒音や耳毒性薬剤を避けて残存聴力を守り、聴力に合わせて補聴器や人工内耳を適切に使うことが現実的な対策です。遺伝子治療などの研究は進んでいるため、最新情報は専門医に確認してください。

Q. 人工内耳にすると、残っている聴力はなくなってしまいますか?

A. 手術により残存聴力が低下する可能性はあります。ただし、近年は低侵襲な電極や手術手技の工夫により、低音部の聴力を温存できる例も増えています。聴力の状態によっては残存聴力活用型人工内耳(EAS)が選択肢になるため、利点と危険性を専門施設でよく相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。