三頭酵素欠損症
Trifunctional Protein Deficiency
三頭酵素欠損症(Trifunctional Protein Deficiency)|三頭酵素欠損症は、長い鎖の脂肪酸をエネルギーに変える「ミトコンドリアβ酸化」に関わる酵素複合体(ミトコンドリア三頭酵素、TFP)が生まれつき働かない先天性脂肪酸代謝異常症です。空腹、感染症、運動などでエネルギー需要が高まると、低血糖、心筋症、横紋筋融解症などを起こし、乳幼児では突然死の原因になることもあります。日本では新生児マススクリーニングの対象疾患で、指定難病(告示番号317)および小児慢性特定疾病に含まれています。
三頭酵素欠損症の要点
三頭酵素欠損症は、長鎖脂肪酸のβ酸化に働くミトコンドリア三頭酵素が生まれつき働かず、エネルギーを作れなくなる常染色体潜性遺伝の代謝疾患です。空腹や感染を契機に低血糖、心筋症、横紋筋融解症などを起こし、新生児マススクリーニングの対象で、指定難病(告示番号317)です。
| 別名・略称 | ミトコンドリア三頭酵素欠損症、TFP欠損症、三機能酵素欠損症、MTP欠損症、Mitochondrial trifunctional protein deficiency |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 原因遺伝子 | HADHA、HADHB |
| 好発年齢 | 新生児期〜成人期(病型により異なる) |
| 主な症状 | 低ケトン性低血糖、心筋症、不整脈、肝機能障害、横紋筋融解症、末梢神経障害 |
| 主な検査 | タンデムマス法による新生児マススクリーニング、酵素活性測定、遺伝子検査 |
| 主な治療 | 空腹の回避、長鎖脂肪酸の制限、中鎖脂肪酸(MCT)の利用 |
三頭酵素欠損症とは
ミトコンドリア三頭酵素(mitochondrial trifunctional protein:TFP)は、ミトコンドリア内膜に結合したヘテロ8量体の酵素複合体です。α鎖4分子とβ鎖4分子からなり、長鎖脂肪酸のβ酸化サイクルのうち後半の3段階を担います。具体的には、長鎖エノイルCoAヒドラターゼ、長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)、長鎖3-ケトアシルCoAチオラーゼの3つの活性をもちます。1つの複合体に3つの活性があるため、「三頭(三機能)酵素」と呼ばれます。三頭酵素欠損症は、この複合体の遺伝的な異常によって起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患です。長鎖脂肪酸からエネルギー(ATPやケトン体)を作れなくなります。本症は単一遺伝子の異常による代謝疾患であり、免疫系の異常や多因子性の疾患ではありません。
病型は、生化学的には①3つの酵素活性がすべて低下する完全型TFP欠損症と、②LCHAD活性が選択的に低下するLCHAD欠損症に分けられます。LCHAD欠損症は欧米で頻度が高く、HADHA遺伝子の特定の変異(c.1528G>C、p.Glu510Gln)が多くを占めるとされます。一方、日本人患者では完全型TFP欠損症の割合が比較的高いと報告されています。臨床的には、(1)新生児期に心筋症・不整脈・呼吸不全などで発症し致死的となりやすい重症型、(2)乳幼児期に感染や絶食を契機として低ケトン性低血糖や肝機能障害、Reye様症候群を呈する肝型(中間型)、(3)小児期〜成人期に運動や感染を契機とした横紋筋融解症や末梢神経障害が主体となる遅発型(筋型)の3型に大別されます。本症は1990年代初頭に生化学的に確立され、その後に原因遺伝子が同定されました。日本では2014年度以降、タンデムマス法による新生児マススクリーニングが全国で行われており、発症前診断される例が増えています。
三頭酵素欠損症の疫学・患者数
三頭酵素欠損症は極めてまれな疾患です。欧米ではLCHAD欠損症を含めて数万〜十数万出生に1人程度との推計がある一方、日本ではさらに頻度が低く、新生児マススクリーニングの集計からは数十万出生に1人程度とされています。国内の患者数は限られており、正確な数は明らかではありません。発症年齢は病型によって大きく異なり、重症型は生後数日〜数か月、肝型は乳幼児期、筋型は学童期から成人期に初めて症状が出ることがあります。常染色体潜性遺伝のため性差はありません。マススクリーニング導入前に生まれた世代や軽症の筋型では、診断されないまま「原因不明の繰り返す横紋筋融解症」として経過している例があると考えられます。また、乳幼児突然死の一部に脂肪酸代謝異常症が隠れていることも知られています。
三頭酵素欠損症の原因・病態生理
原因遺伝子は、TFPのα鎖をコードするHADHAと、β鎖をコードするHADHBです。両遺伝子はいずれも2番染色体短腕(2p23付近)に隣接して存在します。α鎖はエノイルCoAヒドラターゼとLCHADの活性を、β鎖はチオラーゼ活性を担います。両親がそれぞれ保因者(片方のアレルに病的変異をもつ人で、通常は無症状)の場合、子が両方のアレルに変異を受け継ぐと発症します。その確率は1回の妊娠ごとに25%です。HADHAのc.1528G>C変異はLCHAD活性を選択的に損ない、LCHAD欠損症の表現型をとります。これに対し、複合体の安定性を損なう変異(α鎖・β鎖のいずれでも起こりうる)では3活性がともに低下し、完全型となります。遺伝子型と重症度にはある程度の相関がありますが、同じ変異をもっていても発症の時期や重さには幅があります。
空腹が続くと、体は肝グリコーゲンを使い切ったのち、脂肪組織から放出された脂肪酸をβ酸化してエネルギーを得ます。心筋や骨格筋はふだんから長鎖脂肪酸を主なエネルギー源としており、肝臓はβ酸化で得たアセチルCoAからケトン体を作って脳などへ供給します。TFPが欠損すると、①エネルギー(ATP)不足による心筋・骨格筋の障害、②ケトン体を作れず糖新生も十分に支えられないことによる低ケトン性低血糖、③蓄積した長鎖3-ヒドロキシアシルCoAや長鎖3-ヒドロキシアシルカルニチンの毒性が生じます。③は心筋の電気的不安定性(不整脈)、細胞膜障害、ミトコンドリア機能障害を起こすと考えられています。末梢神経障害と網膜症(色素性網脈絡膜症)はLCHAD欠損症・TFP欠損症に特徴的で、他の長鎖脂肪酸代謝異常症では目立ちません。このことから、3-ヒドロキシ中間代謝物の局所的な毒性が関与していると推定されていますが、詳しい機序はまだ解明されていません。さらに、胎児がLCHAD/TFP欠損症であると、母体に急性妊娠脂肪肝(AFLP)やHELLP症候群が起こりやすいことが知られています。胎児・胎盤由来の異常代謝物が母体肝に負担をかけるためと考えられています。
三頭酵素欠損症の症状
- 低ケトン性低血糖: 絶食、哺乳不良、嘔吐、感染時に起こり、本来上昇すべきケトン体が上がらないのが特徴です。意識障害やけいれんにつながることがあります。
- 心筋症: 肥大型または拡張型の心筋症を呈し、重症型では新生児期・乳児期の心不全の主な原因になります。代謝の悪化時に急に心機能が低下することがあります。
- 不整脈・突然死: 心室性不整脈や伝導障害が起こることがあり、乳幼児の突然死の原因となりえます。蓄積した長鎖アシルカルニチンの関与が考えられています。
- 横紋筋融解症: 運動、発熱、寒冷、絶食を契機に筋肉が壊れ、筋痛、脱力、赤褐色〜コーラ色の尿(ミオグロビン尿)が出ます。高度な場合は急性腎障害を起こします。
- 筋力低下・筋緊張低下・運動不耐: 乳児では筋緊張低下、年長児・成人では疲れやすさや運動後の筋痛として現れます。遅発型の主症状です。
- 肝機能障害・肝腫大: 代謝の悪化時に肝腫大、トランスアミナーゼ上昇、脂肪肝、高アンモニア血症を伴うReye様症候群を呈することがあります。
- 末梢神経障害: 主に下肢から始まる軸索型の感覚運動ニューロパチーで、歩行障害や足の変形を起こします。食事療法を続けていても緩やかに進行することがあります。
- 網膜症(色素性網脈絡膜症): 特にLCHAD欠損症で年齢とともに出現し、夜盲、視野障害、視力低下を起こすことがあります。早期の代謝管理で進行を遅らせられる可能性が報告されています。
- 呼吸障害: 重症型では呼吸筋の筋力低下や心不全に伴う呼吸不全をきたし、人工呼吸管理が必要となることがあります。
- 哺乳不良・嘔吐・活気低下: 新生児期・乳児期の初発症状として多く、敗血症などと区別しにくい非特異的な症状です。
- 成長・発達への影響: 重い低血糖や代謝危機を繰り返すと、脳障害により発達の遅れが残ることがあります。
- 母体の妊娠合併症(家族歴として): 患児を妊娠していた母親に急性妊娠脂肪肝やHELLP症候群の既往があることがあり、診断の手がかりになります。
三頭酵素欠損症の経過と合併症
自然歴は病型によって大きく異なります。重症型は生後早期に心筋症、不整脈、低血糖、呼吸不全で発症し、集中治療を行っても救命が難しい例があります。肝型では、ふだんは無症状でも、感冒や胃腸炎で食事がとれない時に急性代謝不全(低血糖、肝障害、意識障害)を繰り返します。多くは年齢とともにエネルギー予備能が増して発作の頻度が下がりますが、その後に筋症状が目立ってくることがあります。遅発型(筋型)では、学童期〜思春期以降に運動や感染を契機として横紋筋融解症を反復し、末梢神経障害が徐々に進行します。新生児マススクリーニングで発症前に見つかり、早期から食事療法と「シックデイ対策」を行えば、急性発作や突然死のリスクは大きく減ると考えられています。ただし、末梢神経障害や網膜症は代謝管理が良好でも完全には防げないことがあります。
合併症として、横紋筋融解症に伴う急性腎障害、高カリウム血症、コンパートメント症候群が重要です。そのほか、心筋症による慢性心不全、致死性不整脈、低血糖発作後の脳障害(てんかん、発達遅滞)、末梢神経障害による歩行障害・凹足・関節拘縮、網膜症による視機能障害がみられます。長期の食事制限に伴う必須脂肪酸(とくにDHAなどのω3系脂肪酸)や脂溶性ビタミンの不足、成長障害にも注意が必要です。女性患者自身の妊娠・出産は、エネルギー需要の大きな変化を伴うため、専門施設での計画的な管理が求められます。
三頭酵素欠損症の診断・診断基準
診断の入口は大きく2つあります。1つは新生児マススクリーニング(タンデムマス法)で、長鎖3-ヒドロキシアシルカルニチン(C16-OH、C18:1-OHなど)の上昇により陽性となります。もう1つは、低ケトン性低血糖、心筋症、横紋筋融解症などの発症を契機とした臨床的な疑いです。急性期には、治療を始める前の「クリティカルサンプル」(血液・尿)を確保することが診断上きわめて重要です。血中アシルカルニチン分析と尿中有機酸分析で生化学的に本症を疑ったうえで、培養皮膚線維芽細胞やリンパ球を用いた酵素活性測定・β酸化能評価、HADHA/HADHB遺伝子解析によって確定します。日本の指定難病の診断基準も、臨床症状、生化学所見(アシルカルニチン分析等)、酵素活性または遺伝子解析を組み合わせて判定する構成になっています。あわせて心臓、筋、神経、眼の合併症を評価します。
- 血中アシルカルニチン分析(タンデムマス): C16-OH、C18-OH、C18:1-OHなど長鎖3-ヒドロキシアシルカルニチンの上昇が特徴で、スクリーニングと診断の中心になります。代謝が安定している時期には異常が軽くなることがあり、再検査や他の検査との組み合わせが大切です。
- 一般血液検査(急性期): 低血糖、CK著明高値、AST・ALT・LDH上昇、高アンモニア血症、乳酸上昇、代謝性アシドーシスなどがみられることがあります。低血糖時に遊離脂肪酸が高いのにケトン体が低い(遊離脂肪酸/ケトン体比の上昇)ことは、脂肪酸代謝異常を示唆します。
- 尿中有機酸分析: 急性期に3-ヒドロキシジカルボン酸尿や、ケトン体の不相応な低値がみられることがあります。尿ミオグロビンの確認は横紋筋融解症の評価にも用います。
- 酵素活性測定・β酸化能評価: 培養皮膚線維芽細胞やリンパ球で、LCHAD活性や長鎖チオラーゼ活性などを測定します。LCHAD単独欠損と完全型TFP欠損の区別に役立ちます。in vitroプローブアッセイ(細胞にβ酸化の負荷をかけてアシルカルニチン産生を見る方法)も用いられます。
- 遺伝子解析(HADHA/HADHB): 両アレルの病的変異の同定により確定診断となり、家族の保因者診断や遺伝カウンセリングの基礎情報になります。
- 心エコー・心電図・ホルター心電図: 心筋肥大・拡張、収縮能低下、QT延長や不整脈の有無を評価します。発症時だけでなく、定期的なフォローアップでも必須です。
- 神経伝導検査: 軸索型の感覚運動ニューロパチーの有無と程度を評価します。症状が出る前の変化をとらえるのにも有用です。
- 眼科検査(眼底・網膜電図・OCT): 色素性網脈絡膜症の早期変化を検出し、経過観察を行います。
- 新生児マススクリーニングの精密検査: 陽性例では速やかに専門医療機関で再検査と確定診断を行います。確定前から絶食を避けるなどの予防的対応を始めます。
三頭酵素欠損症と鑑別すべき疾患
- 極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症: 症状が非常によく似ていますが、アシルカルニチンではC14:1など非水酸化の長鎖アシルカルニチンが上昇し、網膜症は通常みられません。
- カルニチン回路異常症(CPT2欠損症、CACT欠損症など): 長鎖アシルカルニチンの上昇パターンが異なり(水酸化体ではなくC16、C18:1など)、CPT1欠損症では遊離カルニチンが逆に高値となる点で区別します。
- グルタル酸血症2型(多種アシルCoA脱水素酵素欠損症): 短鎖〜長鎖まで複数のアシルカルニチンが上昇し、尿中にグルタル酸やエチルマロン酸などが増加します。
- 筋型糖原病(マッカードル病など): 運動直後の筋痛や横紋筋融解を起こしますが、空腹時ではなく短時間の強い運動で誘発されやすく、アシルカルニチンに異常はみられません。
- ミトコンドリア病(呼吸鎖異常症): 心筋症、筋症状、乳酸アシドーシスが重なりますが、長鎖3-ヒドロキシアシルカルニチンの上昇はなく、多臓器の症状や遺伝学的検査で区別します。
- 敗血症・ウイルス性心筋炎・特発性心筋症: 新生児・乳児の急性発症ではまず考える病気ですが、低ケトン性低血糖やアシルカルニチン異常があれば代謝疾患を疑います。
三頭酵素欠損症の治療
根本的な治療法は現時点で確立していません。治療の柱は、①長期の絶食を避け、エネルギー需要の高い時に糖質を十分に補って脂肪分解を起こさないこと、②長鎖脂肪酸の摂取を制限し、TFPを経由せずに代謝される中鎖脂肪酸(MCT)でエネルギーを補うこと、③感染症などの際の急性代謝不全を早期に察知し、ブドウ糖輸液で速やかに介入することです。食事療法の内容や絶食許容時間は年齢・病型・重症度で大きく異なるため、先天代謝異常症の専門医と管理栄養士が個別に設定します。家族は主治医と作成した緊急時対応計画(緊急時カード・紹介状)を常に携帯することが推奨されます。以下の治療選択肢には、効果や適応が議論中のものも含まれます。実際の治療は必ず主治医・専門医と相談して決めてください。
- 絶食回避と頻回食: 乳児では数時間ごとの授乳、幼児以降は年齢に応じた食事間隔を守り、必要に応じて就寝前の補食や夜間の経管栄養を行います。非加熱コーンスターチの利用が検討されることもあります。
- 長鎖脂肪制限・MCT補充食: 総エネルギーに占める長鎖脂肪の割合を低く抑え、MCTオイルやMCT含有の特殊ミルクで脂質エネルギーを補います。必須脂肪酸が不足しないよう、植物油などで必要最小量を確保します。
- 急性期治療(ブドウ糖輸液): 嘔吐、経口摂取不良、発熱、筋痛などの際は早めに受診し、高濃度ブドウ糖輸液で脂肪分解を抑えます。長鎖脂肪酸を含む静注用脂肪乳剤は原則として避けます。
- 横紋筋融解症・心不全への対応: 大量輸液による腎保護、電解質(特にカリウム)の管理、必要時の血液浄化療法を行います。心不全や不整脈に対しては、循環器専門医による薬物治療・集中治療を行います。
- カルニチン補充(慎重投与): 二次性カルニチン欠乏がある場合に検討されますが、長鎖アシルカルニチンを増やして不整脈を助長する懸念も指摘されています。使用の可否や用量は専門医の判断に委ねられます。
- DHAなどω3系脂肪酸の補充: 脂肪制限に伴う欠乏を補う目的で行われ、網膜症の進行抑制に役立つ可能性が報告されています。
- 運動・生活指導と筋症状の予防: 長時間・高強度の運動、寒冷曝露、睡眠不足を避け、運動前に糖質やMCTを摂ることで横紋筋融解症の予防を図ります。
- 研究的・新規治療: 奇数鎖中鎖脂肪酸トリグリセリドであるトリヘプタノインは長鎖脂肪酸代謝異常症の治療薬として海外で承認されていますが、国内での使用可否は主治医に確認が必要です。ベザフィブラートなどの薬剤や遺伝子治療も研究段階にあります。
- リハビリテーション・装具療法: 末梢神経障害による歩行障害や足部変形に対し、理学療法や短下肢装具などを用います。運動機能とQOLの維持を目指します。
三頭酵素欠損症の予後・長期フォロー
予後は病型と診断時期に大きく左右されます。新生児期発症の重症型、とくに心筋症を伴う完全型TFP欠損症は生命予後が不良で、乳児期までに亡くなる例が少なくありません。一方、新生児マススクリーニングで発症前に診断され、適切な食事療法と急性期対応が行われた例では、急性代謝不全や突然死が減り、多くが就学・社会生活を送れるようになっています。ただし、末梢神経障害と網膜症は長期的に進行しうる合併症で、成人期のQOLに影響します。遅発型(筋型)は生命予後が比較的良好ですが、横紋筋融解症の反復による急性腎障害や、運動制限による生活上の制約が課題となります。
長期フォローアップでは、先天代謝異常症の専門外来での定期受診(成長・栄養評価、血中アシルカルニチン、CK、肝機能、必須脂肪酸、脂溶性ビタミン)を行います。あわせて、心エコー・心電図による心機能評価、神経伝導検査を含む神経学的評価、眼科での網膜評価を年齢と病状に応じて定期的に受けます。思春期以降は、自己管理への移行支援と、小児科から成人診療科への移行期医療(トランジション)が重要です。女性患者の妊娠・出産、手術や全身麻酔の前には、必ず専門医と事前に相談し、周術期・周産期の絶食時間短縮とブドウ糖輸液の計画を立てます。
三頭酵素欠損症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活で最も大切なのは「お腹をすかせすぎない」ことです。食事を抜かない、長時間の外出や旅行では補食を持参する、発熱・嘔吐・下痢で食べられない時は自己判断で様子を見ずに早めに受診する、といったシックデイルールを家族全員と保育園・学校で共有しておきましょう。緊急時対応カードや主治医の紹介状を携帯し、救急外来で病名と必要な処置(ブドウ糖輸液、CK・血糖測定)がすぐ伝わるようにしておくと安心です。運動は全面禁止ではなく、体調や病型に応じて主治医と相談し、強度や時間を調整したうえで、事前・途中の糖質補給、寒冷や脱水の回避を心がけます。赤褐色の尿や強い筋痛が出たら運動を中止して受診してください。食事療法は管理栄養士と連携して続け、成長期には定期的に内容を見直します。本症は常染色体潜性遺伝のため、次の子どもでも同じ病気をもつ確率は25%です。兄弟姉妹が無症状でも未診断の可能性があります。家族の検査や次回妊娠時の対応(出生前診断の選択肢、出生直後からの管理計画、母体の急性妊娠脂肪肝・HELLP症候群への備え)については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることをおすすめします。
利用できる制度・相談窓口
三頭酵素欠損症は指定難病(告示番号317)に指定されており、診断基準と重症度基準を満たす場合には、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市へ申請すると医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では小児慢性特定疾病医療費助成制度(先天性代謝異常の疾患群)の対象となり、自立支援員による相談支援なども利用できます。MCT含有ミルクなどの特殊ミルクについては、医療機関を通じて特殊ミルク供給の仕組みを利用できる場合があるので、主治医・管理栄養士に相談してください。障害の程度に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由、心臓機能障害、視覚障害など)、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、成人後は障害年金の対象となることがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所(保健センター)、医療機関の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病の自立支援事業、先天代謝異常症の患者家族会などがあります。制度の詳細や要件は改定されることがあるため、最新情報は自治体窓口や難病情報センターで確認してください。
三頭酵素欠損症に伴う心のケア・心理社会的支援
三頭酵素欠損症のように生涯続く病気では、患者本人も家族も強いストレスを抱えやすく、抑うつ、不安障害、適応障害につながることがあります。とくに本症では、「いつ急に悪くなるか分からない」「夜間も授乳や補食を欠かせない」という緊張が乳児期から続きます。感染症のたびに入院を繰り返すことや、突然死のリスクを知らされることで、保護者が慢性的な睡眠不足と過度の警戒状態に陥りやすい点が特徴です。新生児マススクリーニングで無症状のうちに診断された場合、「元気に見えるのに病気と言われた」戸惑いや、厳格な食事管理への負担感が生じることもあります。学童期以降は、給食・部活動・修学旅行などで周囲と違う行動を求められる疎外感や、運動制限による自己肯定感の低下が問題になりやすくなります。思春期には自己管理への反発もみられます。成人期には、就労、妊娠・出産、遺伝の問題に関する悩みが加わります。きょうだいが寂しさを感じることにも配慮が必要です。つらさを一人や家族だけで抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士(公認心理師)、学校の養護教諭やスクールカウンセラー、患者会などに早めに相談してください。眠れない、気分の落ち込みが続く、何事にも興味がもてないといった状態が2週間以上続く場合は、心療内科・精神科の受診も検討しましょう。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
三頭酵素欠損症の受診の目安
- 発熱、嘔吐、下痢などで普段通りに食事や授乳がとれない時は、症状が軽く見えても早めに主治医へ連絡するか受診してください。
- ぐったりしている、呼びかけへの反応が鈍い、けいれんしたなど、低血糖や意識障害が疑われる時は直ちに救急受診してください(必要時は救急車を利用)。
- 強い筋肉痛や脱力があり、赤褐色〜コーラ色の尿が出た場合は、横紋筋融解症の可能性があるため当日中に受診してください。
- 息苦しさ、顔色不良、むくみ、動悸、失神など心不全や不整脈を疑う症状が出た時は救急受診が必要です。
- 新生児マススクリーニングで「要精密検査」と連絡を受けた場合は、指示された専門医療機関を速やかに受診し、それまで授乳間隔をあけすぎないようにしてください。
- 手足のしびれや歩きにくさ、暗い所での見えにくさなどが新たに出たり悪化したりした時は、次回の定期受診を待たずに相談してください。
三頭酵素欠損症についてのよくある質問
Q. 新生児マススクリーニングで陽性と言われましたが、必ず発症するのですか?
A. スクリーニング陽性は「精密検査が必要」という意味で、再検査で異常がないと判明する例もあります。確定診断された場合でも、早期から絶食回避と食事療法を行うことで、重い発作の多くを予防できると考えられています。確定までの間も授乳間隔をあけすぎないなど、医療機関の指示に従ってください。
Q. 食事療法はいつまで続ける必要がありますか?
A. 現時点では原則として生涯にわたり、絶食回避と長鎖脂肪の制限を続けることが基本とされています。ただし、年齢や病型、体調によって必要な制限の程度は変わるため、成長に合わせて専門医と管理栄養士が内容を調整します。
Q. 運動や部活動はできますか?
A. 病型や重症度によって異なりますが、体調に合わせて強度・時間を調整し、事前の糖質補給、休息、寒冷や脱水の回避を行えば参加できることも多いです。具体的な可否や注意点は主治医と相談し、学校とも情報を共有してください。
Q. 次の子どもにも遺伝しますか?
A. 両親がともに保因者である場合、子どもが発症する確率は妊娠ごとに25%です。また、胎児が本症であると、母体に急性妊娠脂肪肝やHELLP症候群が起こりやすいことが知られています。次の妊娠を考える際は、遺伝カウンセリングと産科・小児科の専門医への事前相談をおすすめします。
関連記事(関連する指定難病)
- カルニチン回路異常症 Carnitine Cycle Disorders
- グルタル酸血症2型 Glutaric Acidemia Type 2
- ミトコンドリア病 Mitochondrial Disease
- β-ケトチオラーゼ欠損症 β-Ketothiolase Deficiency
- 筋型糖原病 Myopathic Glycogen Storage Diseases
- 特発性拡張型心筋症 Idiopathic Dilated Cardiomyopathy, DCM
- 肥大型心筋症 Hypertrophic Cardiomyopathy, HCM
- 肝型糖原病 Hepatic Glycogen Storage Diseases
- 尿素サイクル異常症 Urea Cycle Disorders
同じ分野(代謝疾患)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。