非ケトーシス型高グリシン血症
Non-Ketotic Hyperglycinemia
非ケトーシス型高グリシン血症(Non-Ketotic Hyperglycinemia)|非ケトーシス型高グリシン血症(NKH)は、アミノ酸のひとつであるグリシンを分解する酵素(グリシン開裂系)が生まれつき働かないために、血液や脳脊髄液、とくに脳内にグリシンがたまる常染色体潜性(劣性)遺伝の先天代謝異常症です。多くは生後数日以内に意識障害、筋緊張低下、無呼吸、難治性けいれんで発症します。重症例では重い発達障害とてんかんが残りますが、発達が比較的保たれる軽症型(attenuated型)や乳児期以降に発症する病型もあり、病状の幅は広い疾患です。
非ケトーシス型高グリシン血症の要点
非ケトーシス型高グリシン血症は、グリシンを分解するグリシン開裂系が生まれつき働かず、血液や脳脊髄液、脳内にグリシンがたまる常染色体潜性遺伝の先天代謝異常症です。多くは新生児期に意識障害、筋緊張低下、無呼吸、難治性けいれんで発症し、指定難病に含まれます。
| 別名・略称 | NKH、グリシン脳症、Glycine encephalopathy、Nonketotic hyperglycinemia |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 主な原因遺伝子 | GLDC、AMT(古典的NKHのほぼ全て) |
| 好発年齢 | 多くは生後数日以内の新生児期(乳児期以降の発症もある) |
| 主な症状 | 意識障害、筋緊張低下、無呼吸、難治性けいれん、発達障害 |
| 主な検査 | 血液・脳脊髄液中のグリシン測定、遺伝学的検査 |
非ケトーシス型高グリシン血症とは
NKHは、ミトコンドリア内でグリシンを二酸化炭素・アンモニア・1炭素単位(メチレン基)に分解するグリシン開裂系(glycine cleavage system:GCS)の欠損によって起こります。GCSは4つの蛋白質で構成されます。ピリドキサールリン酸を補酵素とするP蛋白(グリシン脱炭酸酵素、GLDC遺伝子)、テトラヒドロ葉酸を利用するT蛋白(アミノメチルトランスフェラーゼ、AMT遺伝子)、リポ酸を結合して中間体を運ぶH蛋白(GCSH遺伝子)、H蛋白を再生させるL蛋白(ジヒドロリポアミド脱水素酵素、DLD遺伝子)です。古典的NKHの原因はほぼGLDCとAMTの両アレル変異に限られます。グリシンは脳幹・脊髄では抑制性神経伝達物質として、大脳皮質ではNMDA型グルタミン酸受容体の共アゴニストとして働きます。このため蓄積すると中枢神経症状が前面に出るのが特徴で、肝障害や代謝性アシドーシス、高アンモニア血症は通常みられません。
病名の「非ケトーシス型」は歴史的な経緯によるものです。1960年代、プロピオン酸血症など一部の有機酸代謝異常症でケトアシドーシスを伴う二次的な高グリシン血症が見つかり、「ケトーシス型高グリシン血症」と呼ばれていました。これに対し、ケトーシスを伴わず、グリシン代謝そのものの一次的異常によるものが「非ケトーシス型」と区別されました。英語圏ではglycine encephalopathy(グリシン脳症)とも呼ばれます。病型は発症時期によって新生児型(全体の大多数)、乳児型、遅発型(小児期以降)に分けられます。近年は臨床転帰に基づき、発達の進歩がほとんどみられない重症型(severe)と、ある程度の発達がみられる軽症型(attenuated)に分ける考え方が広く用いられています。このほか、新生児期にグリシンが一時的に上昇し、その後正常化する一過性高グリシン血症が報告されています。リポ酸合成やミトコンドリア鉄硫黄クラスター形成の異常(LIAS、BOLA3、NFU1、GLRX5など)によりH蛋白の機能が二次的に低下する病態は「variant NKH(異型NKH)」と呼ばれ、古典的NKHとは区別して扱われます。
非ケトーシス型高グリシン血症の疫学・患者数
海外の報告では、出生約6万〜7万6千人に1人程度と推定されています。地域差があり、北部フィンランドなど特定の集団では高い頻度が報告されています。約7万6千人に1人という数値は、遺伝子変異の頻度などから算出された全体の推定値として引用されることが多く、フィンランド北部ではこれより高い頻度とされます。日本でも東北大学などを中心に遺伝子解析を含む研究が行われてきました。ただし国内の患者数は限られ、正確な頻度は明らかではありません。きわめてまれな疾患と考えられます。常染色体潜性遺伝のため性差はありません。発症は新生児期が大部分を占め、乳児期以降に発症する例は少数です。日本の新生児マススクリーニング(タンデムマス法)は本症の標準的な対象疾患ではありません。そのため、多くは新生児期の臨床症状から診断されます。
非ケトーシス型高グリシン血症の原因・病態生理
本症は常染色体潜性遺伝形式をとります。両親がともに保因者(片方のアレルに変異をもつが無症状)である場合、子どもが発症する確率は妊娠ごとに4分の1です。原因遺伝子はGLDCが全体の約7〜8割、AMTが約2割を占めるとされます。GCSHについては病的意義のある変異の報告がきわめて少なく、確立した原因遺伝子とはいえない段階です。DLD(L蛋白)の欠損は、分岐鎖ケト酸脱水素酵素などの複数の酵素にも影響するため、古典的NKHではなく別の疾患(DLD欠損症)として扱われます。GLDCではミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス異常に加え、エクソン単位の大きな欠失も一定の割合で見つかります。このため、通常のシーケンス解析だけでなく、欠失・重複の検出(MLPA法など)が必要になることがあります。両アレルともに機能を完全に失う変異(ナンセンス変異、フレームシフト変異、大欠失など)をもつ場合は重症型になりやすく、残存活性が見込まれるミスセンス変異を少なくとも1つもつ場合は軽症型になりうることが報告されています。
GCSが働かないとグリシンが全身にたまりますが、症状の中心は中枢神経です。第一の機序はNMDA受容体の過剰な活性化です。グリシンはNMDA受容体のグリシン結合部位に結合する共アゴニストであり、過剰なグリシンは大脳皮質・海馬でグルタミン酸による興奮性神経伝達を過剰に強めます。その結果、難治性てんかんや興奮毒性による神経障害が生じると考えられています。第二は抑制性グリシン受容体への作用です。脳幹や脊髄で抑制性グリシン受容体が過剰に刺激されると、中枢性無呼吸、筋緊張低下、意識障害、しゃっくりなどにつながると考えられています。新生児期に呼吸が止まりやすく、成長とともに無呼吸が改善する背景には、受容体の発現が発達に伴って変化することが関係していると推測されています。第三は1炭素代謝の障害です。GCSは葉酸回路に1炭素単位を供給する役割も担うため、その欠損は胎児期の神経発生に影響する可能性があります。脳梁低形成、水頭症、後頭蓋窩の異常などの脳形成異常を伴う例があるのはこのためと考えられています。グリシン蓄積は胎内から始まっており、母親が胎動として規則的なしゃっくり様の動きを自覚していたという報告もあります。出生後に症状が顕在化するのは、胎盤を介した母体側のグリシン処理がなくなるためと説明されています。
非ケトーシス型高グリシン血症の症状
- 意識障害・嗜眠: 生後数時間〜数日で哺乳が弱くなり、傾眠から昏睡へ急速に進行します。感染症や低血糖、低酸素性虚血性脳症と見誤られやすい症状です。
- 中枢性無呼吸: 新生児型の多くで無呼吸が出現し、人工呼吸管理を要します。一般に生後2〜3週ほどで自発呼吸が回復する例が多いとされます。
- 筋緊張低下(体幹): 体幹を中心とした著しい筋緊張低下がみられます。成長とともに四肢の痙性(つっぱり)が目立つようになることがあります。
- ミオクロニー発作: 手足や体がピクッとする短い不随意運動が頻回にみられ、刺激で誘発されることもあります。新生児期の代表的な発作型です。
- しゃっくり(吃逆): 頑固なしゃっくりが続くことがあり、胎児期から認められる場合もあります。診断の手がかりとなる特徴的な所見です。
- 難治性てんかん: 新生児期の脳波でサプレッション・バーストを示し、乳児期にてんかん性スパズムやヒプスアリスミア(ウエスト症候群様)へ移行することがあります。多くの抗てんかん薬に抵抗性です。
- 発達遅滞・知的障害: 重症型では寝返りや追視など基本的な発達の獲得も困難な最重度の障害となります。軽症型では軽度〜重度まで幅があります。
- 痙性麻痺・姿勢異常: 年齢とともに四肢の痙縮や反射亢進が進み、関節拘縮、股関節脱臼、側弯の原因となります。
- 摂食・嚥下障害、胃食道逆流: 哺乳・嚥下の協調が難しく、誤嚥や逆流が多くみられます。経管栄養や胃瘻が必要になることがあります。
- 行動・情緒の問題(軽症型・遅発型): 注意欠如多動症様の症状、易刺激性、自閉的傾向などが前面に出ることがあります。遅発型では舞踏運動や痙性対麻痺、発作的な意識障害の報告もあります。
- 水頭症・頭囲の異常: 脳梁低形成などの脳形成異常に加えて水頭症を合併し、シャント手術を要する例が報告されています。
非ケトーシス型高グリシン血症の経過と合併症
新生児型では、出生時は一見正常でも、生後数日以内に哺乳不良、嗜眠、筋緊張低下、無呼吸が急速に進み、集中治療が必要になります。この時期を人工呼吸管理で乗り切ると、多くの例で2〜3週程度で自発呼吸が回復します。その後、乳児期にかけててんかん発作が難治化し、スパズムなどへ移行することがあります。重症型では発達の進歩がほとんどみられず、筋緊張低下から痙性四肢麻痺へと変化し、寝たきりの状態が続くことが多いとされます。軽症型では発作が比較的コントロールしやすく、座位・歩行や有意語を獲得する例もあります。ただし多くは何らかの知的障害や行動上の課題を伴います。乳児型・遅発型は新生児期の症状が乏しく、発達の遅れ、けいれん、行動異常などを契機に診断されます。重症型と軽症型の区別は新生児期だけでは難しいことが多いものの、遺伝子変異の種類、髄液グリシン値の高さ、脳形成異常の有無などが予後予測の参考になると報告されています。
主な合併症として、誤嚥性肺炎や反復する呼吸器感染症、中枢性・閉塞性の呼吸障害(気管切開や在宅人工呼吸を要する場合もある)、胃食道逆流症、便秘、栄養障害・成長障害があります。さらに、痙縮に伴う関節拘縮・股関節脱臼・側弯症、骨粗鬆症と骨折、水頭症、睡眠障害もみられます。てんかん重積状態や感染を契機とした全身状態の悪化は、生命にかかわることがあります。治療薬の副作用にも注意が必要で、安息香酸ナトリウムによる消化器症状やカルニチン低下、デキストロメトルファンによる過鎮静などが挙げられます。
非ケトーシス型高グリシン血症の診断・診断基準
新生児期に原因のはっきりしない意識障害、無呼吸、筋緊張低下、ミオクロニー発作、しゃっくりがみられ、代謝性アシドーシス、高アンモニア血症、低血糖を伴わない場合に本症を疑います。まず血漿アミノ酸分析でグリシンの高値を確認し、尿有機酸分析などで有機酸代謝異常症(二次性高グリシン血症)を除外します。そのうえで、血液と脳脊髄液をできるだけ同時に採取し、髄液/血漿グリシン比を求めることが診断の鍵になります。比が明らかに上昇していれば本症の可能性が高く、GLDC・AMTの遺伝子解析で両アレルの病的変異を同定して確定します。脳波と頭部MRIは重症度評価と鑑別に役立ちます。日本の指定難病・小児慢性特定疾病の認定には、厚生労働省研究班・日本先天代謝異常学会による診断基準に基づく診断が必要であり、先天代謝異常症の専門施設での評価が推奨されます。バルプロ酸はGCSを抑制してグリシンを上昇させるため、内服中に測定した値の解釈には注意が必要です。
- 血漿アミノ酸分析: 血漿グリシンの上昇を認めますが、軽症例では上昇が軽度なことがあります。血漿値だけでは二次性高グリシン血症と区別できません。
- 髄液アミノ酸分析と髄液/血漿グリシン比: 本症では髄液グリシンが著明に上昇します。髄液/血漿グリシン比は健常では概ね0.02〜0.04未満で、0.08を超えると古典的NKHを強く示唆するとされます。0.04〜0.08の境界域では軽症型や他疾患を含めた慎重な判断が必要です。血液混入のない検体を、血漿と同時に採取することが重要です。
- 尿有機酸分析・血液ガス・アンモニア: プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症などのケトーシス型(二次性)高グリシン血症を除外するために行います。本症ではアシドーシスや高アンモニア血症を通常伴いません。
- 遺伝子解析(GLDC、AMTほか): 両アレルの病的変異の同定により確定診断となります。GLDCのエクソン欠失はシーケンスだけでは見逃されるため、欠失解析を併用します。変異の種類は重症度予測と家族の遺伝カウンセリングにも用いられます。
- 脳波: 新生児期にはサプレッション・バースト、乳児期にはヒプスアリスミアなどがみられ、早期ミオクロニー脳症や大田原症候群の脳波像を呈しえます。治療効果の評価にも用います。
- 頭部MRI・MR spectroscopy: 脳梁低形成、髄鞘化遅延、水頭症、白質容量の減少のほか、新生児期には内包後脚や脳幹など髄鞘化の進んだ部位に拡散制限がみられることがあります。MRSでは約3.55ppmにグリシンのピークを検出でき、補助診断になります。
- GCS酵素活性測定・13C-グリシン呼気試験: かつては肝生検組織などで酵素活性を測定していました。現在は遺伝子解析が中心ですが、変異が特定できない例では酵素活性の評価や、国内で開発された13C標識グリシン呼気試験による生体内でのGCS活性評価が研究的に用いられることがあります。
- 出生前診断・保因者診断: 家系内の病的変異が判明していれば、遺伝カウンセリングを経たうえで絨毛や羊水を用いた遺伝学的な出生前診断が技術的には可能です。実施の可否と倫理的配慮は専門施設で個別に検討されます。
非ケトーシス型高グリシン血症と鑑別すべき疾患
- 有機酸代謝異常症(プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症など): 二次的にグリシンが上昇しますが、ケトアシドーシス、高アンモニア血症、尿中特異的有機酸を伴い、髄液/血漿グリシン比は通常上昇しない点で区別します。
- 低酸素性虚血性脳症・新生児敗血症/髄膜炎: 周産期の仮死歴や炎症所見、髄液所見で区別しますが、臨床像が重なるため原因不明の新生児脳症ではアミノ酸分析を考慮します。
- ビタミンB6依存性てんかん・PNPO欠損症: 新生児難治性けいれんを呈し、二次的なグリシン上昇を伴うことがあります。ピリドキシン/ピリドキサールリン酸への反応と特異的バイオマーカー・遺伝子検査で区別します。
- モリブデン補酵素欠損症・亜硫酸酸化酵素欠損症: 新生児期の難治性けいれんと脳障害を呈しますが、尿中亜硫酸・S-スルホシステインの上昇や低尿酸血症で区別します。
- リポ酸合成障害などのvariant NKH: グリシン上昇に加えて乳酸アシドーシスや多臓器のミトコンドリア機能障害を伴う傾向があり、LIAS、BOLA3、NFU1、GLRX5などの遺伝子解析で区別します。
- 一過性高グリシン血症・バルプロ酸による高グリシン血症: 一過性の例では経時的にグリシン値が正常化します。バルプロ酸内服中はGCS抑制により値が上昇するため、薬剤歴の確認が必要です。
非ケトーシス型高グリシン血症の治療
現時点で本症を根本的に治す治療法はありません。治療の柱は、①グリシン濃度を下げる治療(安息香酸ナトリウム)、②NMDA受容体の過剰刺激を抑える治療(デキストロメトルファン、ケタミンなど)、③てんかんへの対症療法、④呼吸・栄養・姿勢など全身の支持療法、の4つです。早期の治療開始により、とくに軽症型では発作の軽減や発達面での改善が期待できると報告されています。一方、重症型ではグリシンを下げても神経学的予後の改善には限界があります。そのため新生児期から家族と医療チームで治療目標を共有し、集中治療の範囲や緩和ケアの導入についても話し合うことが大切です。使用される薬剤の多くは本症に対して国内で正式な適応をもたず、院内製剤や適応外使用となるものもあります。投与量や血中濃度の管理は専門医の判断で個別に行われるため、具体的な治療は主治医と十分に相談してください。
- 安息香酸ナトリウム: 肝臓でグリシンと抱合して馬尿酸となり、尿中に排泄されることで血漿グリシンを低下させます。過量では嘔吐、胃粘膜障害、意識障害などの毒性があり、カルニチン低下も起こりうるため、血漿グリシン値や薬物濃度を測定しながら用量を調整します。髄液グリシンの低下は血漿より限定的とされます。
- デキストロメトルファン: NMDA受容体拮抗作用をもつ鎮咳薬で、発作の頻度や覚醒度の改善が報告されています。効果には個人差があり、特に軽症型で有用性が示唆されています。薬物代謝酵素の個人差があるため、鎮静などの副作用をみながら調整します。
- ケタミン: 強力なNMDA受容体拮抗薬で、主に急性期の難治性発作や新生児期の重症例に用いられた報告があります。長期使用の有効性・安全性は確立していません。
- 抗てんかん薬: フェノバルビタール、ベンゾジアゼピン系、レベチラセタム、トピラマートなどが症例に応じて選択されます。バルプロ酸はGCSを抑制してグリシンを上昇させ、病状を悪化させうるため原則として避けられます。ビガバトリンについても症状悪化の報告があり、慎重な判断が求められます。
- ケトン食療法: 難治性てんかんに対してケトン食(または修正アトキンス食)が試みられ、発作の減少やグリシン低下が報告されています。安息香酸ナトリウムとの併用や栄養管理は専門の栄養士と連携して行います。
- 呼吸管理: 新生児期の無呼吸に対する人工呼吸管理に加え、慢性期には気道確保、排痰ケア、必要に応じた気管切開や在宅人工呼吸、在宅酸素などを検討します。
- 栄養管理・摂食支援: 嚥下評価に基づいて経鼻胃管や胃瘻、胃食道逆流への内科的・外科的治療を行います。食事中のグリシン制限は効果が乏しいとされ、通常は成長に必要な栄養量の確保を優先します。
- リハビリテーション・整形外科的管理: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法に加え、痙縮に対する薬物療法やボツリヌス毒素療法、装具、側弯や股関節脱臼の評価と治療を行います。水頭症があれば脳神経外科でシャント手術を検討します。
- 緩和ケア・家族支援: 重症型では、症状緩和と生活の質を重視した緩和的ケアが治療の重要な一部となります。医療的ケア児としての在宅支援やレスパイトを組み合わせ、家族の負担を軽減します。
非ケトーシス型高グリシン血症の予後・長期フォロー
予後は病型によって大きく異なります。新生児型重症型では、乳児期に呼吸器感染症やてんかん重積を契機として亡くなる例が少なくありません。生存した場合も、最重度の知的障害、難治性てんかん、痙性四肢麻痺を伴い、全面的な介護を要することが一般的です。新生児期に人工呼吸を行わなかった場合、早期に亡くなることがあります。一方、軽症型では発作が比較的コントロールされ、歩行や会話を獲得し、学校生活を送る例もあります。遅発型には社会生活が可能な程度まで経過する例も報告されています。予後の予測因子としては、両アレルのnull変異(重症寄り)、髄液グリシン値と髄液/血漿比の高さ、脳梁低形成などの脳形成異常、新生児期の脳波所見などが挙げられます。ただし、個々の予後を早期に正確に予測することは難しく、経過を追いながら評価を更新していくことが重要です。
長期フォローアップでは、小児神経科医と先天代謝異常症の専門医を中心に、血漿グリシンや治療薬の血中濃度、カルニチンなどの定期的な測定、脳波によるてんかんの評価、発達評価を行います。あわせて、成長・栄養状態、嚥下と呼吸機能、側弯・股関節・骨密度、睡眠の評価も継続します。安息香酸ナトリウムなどの用量は体重増加に合わせて見直しが必要です。成人期に向けては、小児科から成人診療科や在宅医療、福祉サービスへの移行(トランジション)を計画的に進めます。
非ケトーシス型高グリシン血症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、感染予防(手洗い、予防接種の計画的な接種、体位変換や排痰による誤嚥性肺炎の予防)、規則的な服薬、発作の記録が基本となります。発熱や体調不良時には発作が増えやすいため、あらかじめ主治医と救急時の対応(発作時頓用薬、受診先)を決めておくと安心です。市販の咳止めや他院での処方を受ける際は、本症であることと内服中の薬(とくにデキストロメトルファンとの重複、バルプロ酸の回避)を必ず伝えてください。姿勢保持具や車いす、入浴・移乗の福祉用具を活用し、介護者の身体的負担を減らすことも大切です。本症は常染色体潜性遺伝の疾患であり、両親が保因者の場合、次の子どもが罹患する確率は妊娠ごとに4分の1です。きょうだいや親族の保因者診断、次子妊娠時の選択肢(出生前診断の可否を含む)については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで、十分な情報と心理的支援を受けながら検討することが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
非ケトーシス型高グリシン血症は指定難病(告示番号321)に指定されており、診断基準と重症度基準を満たせば難病医療費助成制度の対象となります。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度(先天性代謝異常)の対象となり、自己負担上限額の軽減が受けられます。申請には指定医の診断書(臨床調査個人票・医療意見書)が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。障害の程度に応じて、身体障害者手帳、療育手帳、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当が利用できる場合があります。20歳以降は障害基礎年金の対象となる可能性があります。医療的ケア児支援法に基づく医療的ケア児等コーディネーター、訪問看護、居宅介護、児童発達支援・放課後等デイサービス、短期入所(レスパイト)、重症心身障害児者施設、日常生活用具・補装具の給付なども活用できます。相談窓口としては、難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援事業、市区町村の障害福祉窓口・保健師、医療機関の医療ソーシャルワーカー、日本先天代謝異常学会や関連する患者家族会の情報が役立ちます。
非ケトーシス型高グリシン血症に伴う心のケア・心理社会的支援
新生児期に突然集中治療が必要となり、短期間のうちに重い診断と予後の説明を受けることは、家族にとって大きな衝撃です。強い不安、抑うつ、自責感(遺伝性であることへの罪悪感を含む)、急性ストレス反応や適応障害が生じることは珍しくありません。人工呼吸や延命治療の範囲など重い意思決定を迫られる場面もあり、決断後も迷いや悲嘆が続くことがあります。在宅移行後は、頻回の発作や夜間の吸引・注入などで睡眠が不足し、介護者の心身の疲労、社会的孤立、就労の継続困難、きょうだい児への影響といった課題が積み重なりやすくなります。軽症型では、行動上の問題や学校生活への適応、将来の自立に関する悩みが中心になります。つらさを感じたときは一人で抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、保健師に相談してください。必要に応じて精神科・心療内科の受診も検討しましょう。同じ疾患や医療的ケアを要する子どもの家族とのつながり、レスパイトの活用、緩和ケアチームによる支援は、家族の心の健康を守るうえで重要です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
非ケトーシス型高グリシン血症の受診の目安
- 新生児が哺乳しない、ぐったりして反応が乏しい、呼吸が止まる・不規則になる場合は、ただちに救急受診してください。
- けいれんが5分以上続く、意識が戻らないうちに発作を繰り返す、普段と明らかに異なる発作が出る場合は救急要請を検討してください。
- 発熱、咳、痰の増加、呼吸が速い・苦しそう、顔色や唇の色が悪いなど、肺炎を疑う症状がある場合は早めに受診してください。
- 嘔吐が続く、注入や内服ができない、普段より極端に眠りがちな場合は、薬の副作用や全身状態の悪化の可能性があるため主治医に連絡してください。
- 乳児期以降に、原因のわからない発達の遅れ、けいれん、行動の異常、歩行の変化がみられる場合は、小児神経科で代謝疾患を含めた評価を相談してください。
非ケトーシス型高グリシン血症についてのよくある質問
Q. 食事でグリシンを減らせば治りますか?
A. グリシンは体内でも合成されるため、食事のグリシン制限だけでは効果が乏しいとされます。治療は安息香酸ナトリウムによる排泄促進やNMDA受容体拮抗薬が中心で、栄養は成長に必要な量を確保することが基本です。食事内容は主治医・栄養士と相談してください。
Q. 重症型か軽症型かはいつわかりますか?
A. 新生児期の症状はどちらの型でも重いことが多く、早期に確実に区別することは困難です。遺伝子変異の種類、髄液グリシン値、MRI所見などが参考になりますが、最終的には乳児期の発達や発作の経過をみながら判断していきます。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?
A. 両親がともに保因者である場合、妊娠ごとに4分の1の確率で発症し、性別による差はありません。家系の変異が分かっていれば出生前診断が技術的に可能な場合もあるため、遺伝カウンセリングで詳しく相談することをお勧めします。
Q. 使ってはいけない薬はありますか?
A. 抗てんかん薬のバルプロ酸はグリシン分解をさらに妨げるため、原則として避けられます。また、デキストロメトルファン内服中に同成分を含む市販の咳止めを重ねて使うと過量になる恐れがあります。受診時には必ず病名と内服薬を伝えてください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。