β-ケトチオラーゼ欠損症
β-Ketothiolase Deficiency
β-ケトチオラーゼ欠損症(β-Ketothiolase Deficiency)|β-ケトチオラーゼ欠損症は、ミトコンドリアのアセトアセチル-CoAチオラーゼ(T2)が生まれつき十分に働かないために起こる、まれな先天代謝異常症です。ケトン体を分解して利用する経路と、アミノ酸のイソロイシンを分解する経路の両方が障害されます。主に乳幼児期に、感染症や絶食をきっかけとして重いケトアシドーシス発作(代謝クリーゼ)を起こします。発作を予防し、起きたときに早く治療すれば多くの患者が良好な発達を期待できますが、重い発作は脳に後遺症を残すことがあります。
β-ケトチオラーゼ欠損症の要点
β-ケトチオラーゼ欠損症は、ACAT1遺伝子の変化でミトコンドリアのT2酵素が働かず、ケトン体の利用とイソロイシンの分解が障害される常染色体潜性(劣性)遺伝の先天代謝異常症です。乳幼児期に感染や絶食をきっかけに重いケトアシドーシス発作を起こし、指定難病(告示番号322)です。
| 別名・略称 | T2欠損症、BKT欠損症、ミトコンドリアアセトアセチルCoAチオラーゼ欠損症、ACAT1欠損症、mitochondrial acetoacetyl-CoA thiolase deficiency、T2 deficiency |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 原因遺伝子 | ACAT1(ミトコンドリアのアセトアセチル-CoAチオラーゼ:T2) |
| 好発年齢 | 主に乳幼児期に発作を起こす |
| 主な症状 | 感染や絶食を契機としたケトアシドーシス発作(代謝クリーゼ) |
| 主な検査 | 尿中有機酸分析(2-メチルアセト酢酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、チグリルグリシン)、血中アシルカルニチン、遺伝子解析 |
| 指定難病 | 告示番号322 |
β-ケトチオラーゼ欠損症とは
β-ケトチオラーゼ欠損症(beta-ketothiolase deficiency; BKT欠損症)は、ACAT1遺伝子にコードされるミトコンドリアのアセトアセチル-CoAチオラーゼ(mitochondrial acetoacetyl-CoA thiolase、略称T2)の欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝性疾患です。T2欠損症、ミトコンドリアアセトアセチル-CoAチオラーゼ欠損症とも呼ばれます。T2には大きく2つの役割があります。1つ目はイソロイシン異化の最終段階で、2-メチルアセトアセチル-CoAをプロピオニル-CoAとアセチル-CoAに分解する反応です。2つ目は肝外組織(脳・心筋・骨格筋など)でケトン体を燃料として使う過程(ケトン体利用、ケトリシス)で、アセトアセチル-CoAを2分子のアセチル-CoAに分解する反応です。このため本症は、有機酸代謝異常症とケトン体代謝異常症の両方の性格を持ちます。既存の簡易解説には「2-メチル分岐鎖ケト酸が蓄積する」とありますが、実際に蓄積する特徴的な代謝物は2-メチルアセト酢酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、チグリルグリシンなどのイソロイシン中間代謝物です。
本症は1971年に、イソロイシン負荷で増悪するケトアシドーシス発作の症例として初めて報告されました。その後、ケトン体利用障害症の代表的疾患として整理されています。同じくケトン体利用が障害される疾患にスクシニル-CoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ(SCOT)欠損症があります。これと区別するうえで、尿中のイソロイシン代謝物の有無が重要な手がかりになります。明確な病型分類はありませんが、遺伝子型によって残存酵素活性に差があります。残存活性を持つ軽症型バリアントの患者では、非発作時の尿中有機酸や血中アシルカルニチンの異常がごく軽く、診断が難しいことが知られています。日本では岐阜大学などのグループが国際的な症例集積と遺伝子解析を進めてきました。2017年(平成29年)4月以降、指定難病(告示番号322)に指定されています。
β-ケトチオラーゼ欠損症の疫学・患者数
非常にまれな疾患で、世界でこれまでに報告された患者は百数十例から二百例程度とされます。正確な発生頻度は不明ですが、多くの地域で出生100万人あたり1人未満と推定されています。一方、特定の地域や民族集団では比較的多いとの報告もあります。日本国内の報告例も限られ、患者数は数十人規模と考えられますが、軽症例や未診断例が存在する可能性があります。遺伝形式が常染色体潜性のため、性差はありません。初回発作はおおむね生後6か月から2歳ごろの乳幼児期に多く、新生児期の発症はまれです。同胞の検査で診断された無症状例や、成人まで発作を経験しない例も報告されています。日本のタンデムマス法による新生児マススクリーニングでは、本症は主に二次対象疾患として扱われてきた経緯があります。スクリーニング指標(C5:1、C5-OH)の上昇が軽微で陽性とならない例もあり、地域の実施体制によって扱いが異なる点に注意が必要です。
β-ケトチオラーゼ欠損症の原因・病態生理
原因はACAT1遺伝子(11q22.3)の両アレルに生じた病的バリアントです。患者の両親は通常、症状のない保因者です。両親がともに保因者の場合、子どもが罹患する確率は1回の妊娠ごとに25%です。報告されているバリアントはミスセンス、ナンセンス、スプライス異常、小欠失など多様で、多くは家系ごとに異なります。残存酵素活性をある程度保つバリアントでは、生化学的異常が目立ちにくい傾向があります。ただし、遺伝子型と発作の頻度・重症度の相関は弱く、発作の起こり方は感染や絶食などの環境要因にも大きく左右されます。なお、細胞内にはT2以外にもチオラーゼが複数存在します。肝臓でのケトン体産生や脂肪酸β酸化の一部は他の酵素で補われるため、平常時には無症状で過ごせることが多いと考えられます。
発症の中心は「ケトン体を使えないこと」です。絶食・発熱・嘔吐などで糖が不足すると、体は脂肪を分解し、肝臓でケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸)を盛んに作ります。健常者では脳や筋肉がこれを燃料として消費するため、血中ケトン体はある程度で頭打ちになります。T2欠損ではケトン体を消費する最終段階が滞るため、ケトン体が血中に過剰に蓄積し、急速に高度のケトアシドーシスに至ります。同時に、イソロイシン由来の2-メチルアセトアセチル-CoAが処理できなくなり、2-メチルアセト酢酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、チグリルグリシン、チグリルカルニチン(C5:1)、2-メチル-3-ヒドロキシブチリルカルニチン(C5-OH)が増加します。これらのアシル基がカルニチンと結合して排泄されるため、二次性のカルニチン欠乏をきたすことがあります。血糖は低値・正常・高値のいずれもとりえます。重篤な発作では脱水と循環不全が加わります。アシドーシスとエネルギー不全により、特に代謝要求の高い大脳基底核(被殻・淡蒼球など)が障害されやすいと考えられています。
β-ケトチオラーゼ欠損症の症状
- 嘔吐: 発作の初期症状として多くみられます。経口摂取ができなくなることで絶食状態とケトン体産生がさらに進む悪循環の起点になります。
- 多呼吸(クスマウル呼吸): 代謝性アシドーシスを呼吸で代償しようとする深く速い呼吸です。肺炎や喘息発作と誤認されることがあります。
- 意識障害・嗜眠: ぐったりして反応が鈍くなり、重症では昏睡に至ります。発作の重症度を判断する重要なサインです。
- 脱水: 嘔吐と多呼吸、摂取不良により急速に進行します。ケトアシドーシスを悪化させます。
- ケトン臭: 呼気や尿から甘酸っぱいアセトン臭がすることがあります。尿ケトン体の強陽性とともに家庭でも気づける手がかりです。
- 痙攣: 重症のアシドーシスや低血糖に伴って起こることがあります。脳障害のリスクを示す所見です。
- 低血糖(または高血糖): 低血糖を伴う例が報告される一方、発作時に高血糖を示し糖尿病性ケトアシドーシスと紛らわしい例もあります。
- 筋緊張低下・活気低下: 発作時や発作後に全身の力が入らない状態がみられます。
- 錐体外路症状(ジストニアなど): 重い発作の後に大脳基底核が障害されると、ジストニアや不随意運動が残ることがあります。
- 発達の遅れ・知的障害: 重症発作や遷延した発作の後遺症として生じることがあります。発作を経験していない例や軽い発作のみの例では通常みられません。
β-ケトチオラーゼ欠損症の経過と合併症
典型的な経過は、生後6か月〜2歳ごろに胃腸炎や上気道炎などの感染、発熱、食欲低下を契機として、数時間〜1日程度で急激にケトアシドーシス発作を起こすというものです。発作と発作の間はほぼ無症状で、身体所見や一般血液検査に異常がないことも少なくありません。発作の回数は患者によって大きく異なり、生涯に1回のみの例も、乳幼児期に繰り返す例もあります。一般に年齢とともに発作は減り、学童期以降に発作を起こすことはまれになる傾向が報告されています。これは体格の増大による飢餓耐性の向上や、感染機会の減少によると考えられます。ただし成人でも、長時間の絶食、過度の運動、重い感染症、手術、妊娠・分娩などで発作が起こりうる点には注意が必要です。新生児スクリーニングや同胞検査で発症前に診断され、生涯発作を経験しない人もいます。
最も重要な合併症は、重症発作に伴う中枢神経障害です。頭部MRIで被殻や淡蒼球に病変を認め、ジストニア、運動障害、知的障害が残ることがあります。重篤な発作では循環不全や多臓器不全をきたし、死亡例も報告されています。その他、まれな合併症として心筋症や不整脈などの報告がありますが、本症との関連が確立しているとはいえません。治療面では、二次性カルニチン欠乏への対応が必要です。また、過度のたんぱく制限による成長障害や栄養不良にも注意を要します。てんかんのためのケトン食療法は本症では禁忌と考えられており、他疾患の治療を受ける際にも本症であることを伝える必要があります。
β-ケトチオラーゼ欠損症の診断・診断基準
診断のきっかけは主に3つあります。1つ目は乳幼児の原因のはっきりしない高度ケトアシドーシス発作、2つ目は新生児マススクリーニングでのC5:1またはC5-OHの上昇、3つ目は罹患同胞の存在です。発作時には、血液ガス・電解質・血糖・アンモニア・血中ケトン体(できれば総ケトン体と遊離脂肪酸)を測定します。治療開始前の検体(血液ろ紙・血清・尿)を保存しておくことが、後の診断に極めて重要です。尿中有機酸分析で2-メチルアセト酢酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、チグリルグリシンが検出されれば本症を強く疑います。これらの代謝物は発作時に最も明瞭で、非発作時や軽症型では軽微なことがあります。このため1回の検査で否定せず、必要に応じて繰り返し検査します。確定診断は、ACAT1遺伝子の両アレル病的バリアントの同定、または培養皮膚線維芽細胞などでのT2酵素活性低下の証明によります。指定難病の診断基準も、これら臨床症状・生化学所見・確定検査の組み合わせで構成されています。
- 血液ガス・電解質: 高アニオンギャップ性代謝性アシドーシス(pH・重炭酸イオンの低下)を認めます。重症度の評価と治療効果の判定に用います。
- 血中・尿中ケトン体: 血中3-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸の著明な上昇、尿ケトン体強陽性を示します。血糖値や遊離脂肪酸との比較は、ケトン体利用障害の推定に役立ちます。
- 血糖・アンモニア・乳酸: 血糖は低値から高値まで幅があります。軽度の高アンモニア血症を伴うことがあり、他の有機酸代謝異常症や糖原病などとの鑑別材料になります。
- 尿中有機酸分析(GC/MS): 2-メチルアセト酢酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、チグリルグリシンの上昇が特徴的です。2-メチルアセト酢酸は不安定なため、検体の速やかな処理と保存が重要です。
- 血中アシルカルニチン分析(タンデムマス): C5:1(チグリルカルニチン)とC5-OHの上昇を示します。ただし軽症型や非発作時には正常範囲のこともあり、正常でも本症は否定できません。
- 新生児マススクリーニング: ろ紙血のC5:1・C5-OHで検出されることがあります。陽性の場合は精密検査医療機関で尿中有機酸分析などの二次検査を行います。
- 酵素活性測定: 培養皮膚線維芽細胞などで、カリウムイオンで活性化されるアセトアセチル-CoAチオラーゼ活性の欠損・低下を確認します。T2特有の性質を利用した検査で、実施できる施設は限られます。
- ACAT1遺伝子解析: 両アレルの病的バリアントの同定により確定診断となり、保因者診断や遺伝カウンセリングにも用いられます。
- 頭部MRI: 重症発作後の神経症状がある場合に、大脳基底核病変の有無と範囲を評価します。
β-ケトチオラーゼ欠損症と鑑別すべき疾患
- SCOT欠損症(OXCT1欠損): 同じくケトン体利用障害で重症ケトアシドーシスを起こしますが、尿中にイソロイシン代謝物の増加はなく、非発作時にも持続的なケトーシスを示す例があります。
- HSD10病(2-メチル-3-ヒドロキシブチリル-CoA脱水素酵素欠損症): 2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸とチグリルグリシンは増加しますが2-メチルアセト酢酸は増加せず、発作とは独立した進行性の神経退行を示す点で異なります。
- 他の有機酸代謝異常症(プロピオン酸血症・メチルマロン酸血症など): ケトアシドーシスと高アンモニア血症を呈しえますが、尿中有機酸・アシルカルニチンのパターンが異なります。
- ケトン性低血糖症: 幼児の飢餓時にみられる頻度の高い病態ですが、アシドーシスは通常本症ほど高度ではなく、特異的有機酸の増加はみられません。
- 糖尿病性ケトアシドーシス: 高血糖を伴う本症の発作と紛らわしいことがありますが、HbA1cやインスリン分泌の評価、発作後の血糖正常化で鑑別します。
- 肝型糖原病・糖新生異常症: 低血糖とケトーシス・乳酸アシドーシスをきたしますが、肝腫大、乳酸・脂質の異常、特異的有機酸の欠如などで区別します。
β-ケトチオラーゼ欠損症の治療
現時点で根本的な治療(酵素補充療法や遺伝子治療)は確立していません。治療の柱は、①急性発作時にブドウ糖を十分に投与して脂肪分解・ケトン体産生を止め、アシドーシスと脱水を補正すること、②非発作時に長時間の絶食を避け、発作の予防策をとることの2つです。本症では、メープルシロップ尿症のような厳格なアミノ酸制限は一般に不要とされます。過剰なたんぱく摂取を避ける程度の軽度の制限で十分とする考え方が主流ですが、制限の程度は年齢・体格・重症度に応じて主治医と管理栄養士が個別に判断します。日本先天代謝異常学会の診療ガイドラインなども参考に、代謝専門医と地域の医療機関が連携して管理します。以下は一般的な治療選択肢の概要で、個々の治療方針は必ず主治医・専門医と相談してください。
- 急性期のブドウ糖輸液: 十分な量のブドウ糖を含む輸液を速やかに開始し、インスリン分泌を介して脂肪分解とケトン体産生を抑えます。高血糖を伴う場合は、インスリンを併用しながら糖投与を続けることがあります。
- アシドーシス・脱水の補正: 細胞外液で循環を立て直し、高度の代謝性アシドーシスに対しては血液ガスを見ながら炭酸水素ナトリウムを慎重に投与します。電解質(特にカリウム)の変動に注意が必要です。
- 集中治療・血液浄化: 意識障害や循環不全を伴う重症例では集中治療室での管理を行い、内科的治療に反応しない場合には血液浄化療法が検討されることがあります。
- L-カルニチン補充: 有機酸の排泄促進と二次性カルニチン欠乏の補正を目的に、急性期・慢性期を通じて投与されることが多い治療です。投与の必要性と量は血中カルニチン値などをもとに判断します。
- 絶食回避と夜間・就寝前の糖質補給: 乳幼児では授乳・食事の間隔を空けすぎないよう指導し、必要に応じて就寝前の炭水化物摂取を勧めます。発作予防の最も基本的な対策です。
- たんぱく質の適正化(軽度制限): 高たんぱく食や大量のたんぱく負荷を避け、年齢相応の必要量を確保する範囲で調整します。過度の制限は成長障害につながるため、定期的な栄養評価が欠かせません。
- 高脂肪食・ケトン食の回避: 脂肪を主なエネルギー源とする食事はケトン体産生を高めるため避けます。てんかん治療などでケトン食療法を検討する際にも禁忌と考えます。
- シックデイ対応と緊急時カード: 発熱・嘔吐・食欲低下時には早めに糖分を含む飲料を与え、摂取できなければ直ちに受診するという手順を家族と共有します。病名・病態・初期輸液の指示を記した緊急時カードや紹介状を携帯します。
- 神経学的後遺症へのリハビリテーション: 基底核障害などの後遺症がある場合は、理学・作業・言語療法、ジストニアに対する薬物療法、療育・特別支援教育を組み合わせて支援します。
β-ケトチオラーゼ欠損症の予後・長期フォロー
発作をきたさない限り臓器障害は進行しないため、適切な予防と早期治療ができれば予後は比較的良好です。発症前診断例や、初回発作が軽く迅速に治療された例の多くは、正常な発達と通常の社会生活を送っていると報告されています。一方、診断がつかないまま重症発作を起こした例や、治療開始が遅れた例では、基底核障害による運動障害や知的障害が残ることがあり、まれに死亡に至ることもあります。予後を左右する最大の要因は遺伝子型よりも「最初の重症発作をいかに防ぎ、起きたときにいかに早く治療するか」であると考えられています。年齢とともに発作の頻度は減る傾向にあり、成人後のQOLは多くの場合良好です。ただし、妊娠・出産、手術、長時間の絶食を伴う状況では引き続き注意が必要です。
長期フォローアップは、小児期には代謝専門医が定期的に行います。成長(身長・体重)、栄養状態、血中カルニチン値、発達・知能を評価し、発作歴に応じて食事指導やシックデイ対策を見直します。神経学的後遺症がある場合は、小児神経科医、リハビリテーション科医と連携します。思春期以降は、本人が病気を理解して自己管理できるよう段階的に教育を行います(移行期医療)。その後、成人診療科へのスムーズな引き継ぎを図ります。女性患者の妊娠・分娩では、悪阻による摂取不良や分娩時のエネルギー需要増大が発作の誘因となりえます。このため、事前に代謝専門医と産科医が連携して管理計画を立てることが勧められます。
β-ケトチオラーゼ欠損症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活でまず大切なのは、長時間の空腹を避け、体調不良時に早めに対応することです。乳幼児では食事・授乳の間隔を守り、食欲が落ちたときにはジュースやイオン飲料など糖分を含む飲み物で補います。嘔吐が続く、ぐったりしている、呼吸が速いなどの場合は、迷わず医療機関を受診してください。家庭用の尿ケトン試験紙で早期の変化を確認する方法を指導されることもあります。保育園・幼稚園・学校には病気の概要と緊急時の連絡方法を伝え、必要に応じて補食を認めてもらうと安心です。遠足、宿泊行事、スポーツ大会など長時間の運動や食事時間のずれが生じる場面では、事前に対策を相談します。予防接種は感染による発作を減らすうえで重要で、通常は標準的なスケジュールでの接種が勧められます。旅行時には緊急時カードと紹介状を携帯します。常染色体潜性遺伝のため、次子が罹患する確率は25%です。兄弟姉妹は無症状でも罹患している可能性があり、検査を検討する価値があります。次子の出生前・出生後の対応や親族の保因者検査については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
β-ケトチオラーゼ欠損症は指定難病(告示番号322)です。診断基準と重症度分類を満たす場合、難病指定医の臨床調査個人票を添えて都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定額を超える月が続くときは「軽症高額該当」として対象になることがあります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度(先天性代謝異常の疾患群)の対象となります。あわせて、日常生活用具の給付や自立支援事業などを利用できる場合があります。神経学的後遺症などで日常生活に支障がある場合は、身体障害者手帳や療育手帳の取得、特別児童扶養手当や障害児福祉手当の申請も検討します。20歳以降に一定の障害が残る場合は、障害年金の対象となることがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、小児慢性特定疾病の自立支援員、医療機関の医療ソーシャルワーカーがあります。また、先天代謝異常症の患者・家族会も情報交換の場として役立ちます。
β-ケトチオラーゼ欠損症に伴う心のケア・心理社会的支援
本症は普段は元気に見えることが多い一方、ちょっとした風邪や胃腸炎が急に命に関わる発作につながりうる病気です。そのため家族、とくに養育者は「いつ発作が起こるか分からない」という慢性的な不安や緊張を抱えやすくなります。夜間の発熱のたびに救急受診を迷う負担、初回の重症発作を経験したことによるトラウマ的な記憶、後遺症が残った場合の喪失感や罪責感(遺伝性疾患であることへの自責)なども見逃せません。これらは不眠、抑うつ、適応障害につながることがあります。まれな疾患のため周囲の理解を得にくく、保育園や学校、職場での説明に苦労することもあります。きょうだいへの配慮や、本人が成長する中での「自分の病気をどう受け止め、どう伝えるか」という課題も生じます。こうした気持ちは自然な反応であり、一人で抱え込む必要はありません。主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、遺伝カウンセラー、患者・家族会など、話せる相手や支援を早めに見つけてください。気分の落ち込みや不安が強く生活に支障が出る場合は、心療内科や精神科への相談も選択肢となります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
β-ケトチオラーゼ欠損症の受診の目安
- 嘔吐が繰り返し続き、水分や糖分を含む飲み物がとれないときは、すぐに医療機関を受診してください。
- 呼吸が深く速い、ぐったりして反応が鈍い、眠りがちで起こしにくいときは、ただちに救急受診(必要なら救急車を要請)してください。
- けいれんを起こした、または意識がはっきりしないときは、救急車を呼んでください。
- 発熱や下痢などで食事量が明らかに減り、尿ケトン体が強陽性になったときは、早めに主治医へ連絡し受診してください。
- 受診時には緊急時カードや紹介状を提示し、本症であることと、ブドウ糖輸液の早期開始が必要なことを伝えてください。
- 新生児マススクリーニングで再検査・精密検査を指示されたときは、症状がなくても速やかに指定の医療機関を受診してください。
β-ケトチオラーゼ欠損症についてのよくある質問
Q. 厳しい食事制限が一生必要ですか?
A. 本症では、メープルシロップ尿症などのような厳格なアミノ酸制限は一般に不要と考えられています。過剰なたんぱく摂取や高脂肪食を避け、長時間の絶食をしないことが中心です。具体的な食事内容は年齢や発作歴によって異なるため、主治医・管理栄養士と相談してください。
Q. 発作はいつまで続きますか?
A. 発作は乳幼児期に多く、年齢とともに起こりにくくなる傾向が報告されています。ただし成人でも、重い感染症、長時間の絶食、手術、妊娠・分娩などをきっかけに起こる可能性があります。生涯にわたり体調不良時の対応を意識しておくことが大切です。
Q. マススクリーニングで異常がなかったのに、本症と診断されたのはなぜですか?
A. 本症の一部、とくに酵素活性がある程度残る型では、平常時の血中アシルカルニチンの異常がごく軽く、スクリーニングで陽性にならないことがあります。そのため、スクリーニングが正常でも、原因不明の重いケトアシドーシスがあれば本症を含めた精密検査が行われます。
Q. 次の子どもや兄弟姉妹も同じ病気になりますか?
A. 両親がともに保因者の場合、子どもが罹患する確率は妊娠ごとに25%です。無症状の兄弟姉妹が罹患している可能性もあるため、検査を検討するとよいでしょう。詳しくは遺伝カウンセリングで相談することが勧められます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。