無虹彩症

Aniridia

無虹彩症(Aniridia)|無虹彩症は、眼の発生を制御するPAX6遺伝子の機能低下により、生まれつき虹彩がほぼ欠損するか強く低形成となる先天性の眼疾患です。虹彩だけでなく角膜・水晶体・網膜(黄斑)・視神経など眼全体の発達に影響する汎眼球疾患(panocular disorder)で、乳児期からの羞明・眼振・低視力に加え、成長とともに緑内障・白内障・角膜症が加わり、生涯にわたる眼科管理が必要です。11p13領域の欠失による症候群型(WAGR症候群)では、Wilms腫瘍など全身の合併症にも注意が必要です。

無虹彩症の要点

無虹彩症は、PAX6遺伝子の機能低下により生まれつき虹彩がほぼ欠損または高度に低形成となる先天性の眼疾患で、黄斑や角膜、視神経など眼全体の発達にも影響します。羞明・眼振・低視力が乳児期からみられ、緑内障や白内障、角膜症が加わることがあり、日本では指定難病です。

別名・略称先天無虹彩症、先天性無虹彩症、無虹彩
分野眼・耳鼻咽喉疾患
遺伝形式孤立性は常染色体顕性(優性)が多いが、孤発例もある
好発年齢先天性(出生時から両眼にみられる)
主な症状虹彩欠損、羞明、眼振、低視力、のちに緑内障・白内障・角膜症
主な検査細隙灯・隅角鏡検査、眼底・OCT検査、PAX6などの遺伝学的検査
主な治療根治療法はなく、遮光や屈折矯正、緑内障・白内障・角膜症への対症的管理
受診する主な診療科眼科(小児眼科)。WAGR症候群では小児科も関与

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無虹彩症とは

無虹彩症(aniridia)は、両眼の虹彩が先天的に欠損または高度に低形成となる疾患です。病名からは「虹彩がない」病気と受け取られがちですが、虹彩が完全に消失していることはむしろ少なく、隅角鏡検査では短い虹彩根部(残存虹彩断端)が確認されることがほとんどです。本質は、PAX6遺伝子の量が半分に減るハプロ不全によって起こる眼全体の発生異常です。黄斑低形成、視神経低形成、角膜縁幹細胞の機能不全、隅角の形成異常、水晶体の混濁や偏位などが組み合わさります。視力を左右するのは虹彩欠損そのものではなく、黄斑低形成と、後から進行する緑内障・無虹彩性角膜症・白内障です。日本では指定難病に定められています。

病型は大きく二つに分けられます。孤立性(非症候性)無虹彩症は眼症状が中心で、PAX6遺伝子内の点変異や小欠失、またはPAX6の下流にある遠位調節領域(エンハンサー)の欠失によって起こります。症候性無虹彩症の代表はWAGR症候群です。染色体11p13の連続遺伝子欠失により、PAX6とともに隣接するWT1遺伝子なども失われ、Wilms腫瘍(W)、無虹彩症(A)、泌尿生殖器異常(G)、さまざまな程度の発達遅滞・知的障害(R)を合併します。欠失がBDNF遺伝子に及ぶと肥満を伴うことがあり、WAGRO症候群と呼ばれることもあります。従来は旧来の用語で「精神遅滞」と記載されていましたが、現在は「発達遅滞/知的障害」と表現します。PAX6のミスセンス変異などでは、部分無虹彩、虹彩の軽い異常のみ、孤立性黄斑低形成、視神経異常など軽い・非典型的な表現型をとることがあり、近年はPAX6関連疾患のスペクトラムとして捉えられています。

無虹彩症の疫学・患者数

発症頻度は出生4万〜10万人に1人程度と報告されており、人種差・性差は明らかではありません。日本での正確な患者数は十分に把握されていませんが、まれな疾患であることに変わりはありません。患者の約3分の2は家族内に同じ病気をもつ家族性、約3分の1は両親に異常のない孤発例(新生変異)とされます。孤発例の中には11p13欠失によるWAGR症候群が一定の割合で含まれるため、家族歴のない乳児では特に注意が必要です。虹彩の異常や眼振は生後早期から気づかれます。一方、緑内障や角膜症は小児期から成人期にかけて年齢とともに増え、問題が顕在化する時期には個人差があります。

無虹彩症の原因・病態生理

原因遺伝子は11番染色体短腕(11p13)にあるPAX6です。遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、親が罹患している場合、子が受け継ぐ確率は性別を問わず50%です。浸透率はほぼ完全ですが、同じ家系内でも重症度にばらつきがみられます。<br>PAX6は眼・中枢神経・膵内分泌細胞の発生に関わる転写因子で、作用は「量」に強く依存します。片方のアレルに変異があれば機能するタンパクが半減し、正常な発生が保てなくなります(ハプロ不全)。典型的な無虹彩症の多くは、早期に終止コドンが生じるナンセンス変異・フレームシフト変異・スプライス変異です。これらの変異では、異常なmRNAが分解されて機能喪失となります。ミスセンス変異では表現型が軽いか非典型的になる傾向があります。PAX6のコード領域に異常がなくても、下流の調節領域の欠失で発現が低下し、発症する例も知られています。WAGR症候群では欠失範囲にWT1が含まれ、腎・性腺の発生異常とWilms腫瘍の易発生性をもたらします。

眼の病態は複数の構造に分けて理解すると整理しやすくなります。①虹彩・隅角:虹彩が十分に形成されず、残存した虹彩根部が加齢とともに線維柱帯へ向かって前方に癒着・回旋します。その結果、房水流出路が塞がれ、続発性の開放〜閉塞機序の緑内障を生じます。隅角そのものの形成異常も関与します。②角膜:PAX6は角膜上皮と角膜輪部(縁)の幹細胞ニッチの維持に必要です。その機能低下によって角膜上皮幹細胞疲弊症(輪部幹細胞疲弊症)が進み、結膜上皮と血管が角膜内へ侵入します。これを無虹彩性角膜症(aniridia-related keratopathy:ARK)と呼び、上皮障害・混濁・瘢痕化に至ります。③網膜・視神経:中心窩が正常に陥凹・分化せず(黄斑低形成)、視神経乳頭も小さいことがあります。これが先天的な低視力と眼振の主な原因です。④水晶体:前極・後極などの先天白内障や、年齢とともに進む混濁、チン小帯の脆弱による偏位がみられます。眼外では、PAX6が膵β細胞の機能に関わるため耐糖能異常・糖尿病のリスク上昇が報告されています。また、脳画像で前交連の欠如や松果体の低形成などが指摘されることがあり、嗅覚低下や聴覚情報処理の問題が報告されています。

無虹彩症の症状

  • 虹彩の欠損・低形成: 黒目全体が大きく黒く見え、瞳孔の縁が確認できません。細隙灯や隅角鏡では短い虹彩断端が残っていることが多く、部分欠損にとどまる例もあります。
  • 羞明(まぶしさ): 虹彩による光量調節ができないため、屋外や明るい室内で強いまぶしさを感じます。乳児では光を避ける、目を細める、泣くといった行動として現れます。
  • 眼振: 黄斑低形成による固視不良のため、多くは生後数週〜数か月で振子様の眼振が現れます。頭を傾けたり顔を回したりして見やすい位置(静止位)をとることがあります。
  • 低視力(黄斑・視神経低形成): 中心窩の発達不全により矯正視力は生まれつき低く、0.1前後〜0.3程度にとどまることが多いとされます。ただし程度には幅があり、より良好な例もあります。
  • 無虹彩性角膜症: 角膜周辺から血管を伴う混濁が中央へ広がります。異物感・充血・上皮のびらんを繰り返し、進行すると視力低下の大きな原因になります。小児期後半〜成人期に目立ってきます。
  • 緑内障: 残存虹彩による隅角閉塞などから眼圧が上昇します。報告により頻度に幅がありますが半数前後に生じるとされ、自覚症状が乏しいまま視神経が障害されうるため定期的な眼圧測定が欠かせません。
  • 白内障・水晶体偏位: 先天的な極性白内障や、年齢とともに進む混濁がみられ、チン小帯が弱く水晶体がずれることもあります。手術を要する時期は個人差があります。
  • 屈折異常・斜視: 近視・遠視・乱視や斜視を伴うことがあります。適切な屈折矯正は残された視機能を最大限に引き出すうえで重要です。
  • ドライアイ・眼表面の不快感: 涙液の質の異常やマイボーム腺機能不全を伴いやすく、乾燥感や異物感が角膜症を悪化させる一因となります。
  • 耐糖能異常: PAX6の膵での働きに関連して、若年でも耐糖能異常や糖尿病を発症しやすいことが報告されており、定期的な血糖評価が勧められます。
  • WAGR症候群の全身症状: 11p13欠失例では、Wilms腫瘍、停留精巣・尿道下裂などの泌尿生殖器異常、発達遅滞、行動上の特性、肥満、のちの腎機能低下などを合併することがあります。

無虹彩症の経過と合併症

多くは新生児〜乳児期に、「黒目が大きい」「光を嫌がる」「目が揺れる」ことで気づかれます。先天的な低視力は黄斑低形成で決まり、それ自体は大きく進行しません。しかし二次的な合併症が年齢とともに加わり、視機能を段階的に低下させていきます。おおまかには、乳幼児期は眼振・羞明・屈折異常への対応と弱視予防が中心です。学童期〜思春期には眼圧上昇と角膜症の初期変化(周辺部の血管侵入、上皮の不整)が出はじめます。成人期には緑内障・白内障・角膜混濁が重なり、手術介入が必要になることが増えます。角膜症は一般に周辺から中央へ進行し、中央部に及ぶと視力が大きく低下します。進行速度は変異の種類や眼表面の環境(ドライアイ、コンタクトレンズ、点眼薬の防腐剤、手術侵襲など)によって異なります。

眼の合併症として最も重要なのは緑内障です。小児期に発症すると、眼球拡大(牛眼)や角膜混濁を伴うこともあります。無虹彩性角膜症は再発性上皮びらん、遷延性上皮欠損、感染性角膜炎、瘢痕化を招きます。内眼手術の後には、眼内で線維性組織が増殖する無虹彩線維化症候群(aniridic fibrosis syndrome)がまれに起こり、眼内レンズの偏位や低眼圧を生じることがあります。そのほか、水晶体偏位、網膜剥離、斜視・弱視がみられます。眼外では耐糖能異常・糖尿病、嗅覚低下、聴覚情報処理の問題、睡眠の問題が報告されています。WAGR症候群ではWilms腫瘍が主に乳幼児期に発生しやすく、腫瘍とは別に、長期的に蛋白尿・腎機能低下が進むことがあるため、成人後も腎機能の追跡が必要です。

無虹彩症の診断・診断基準

診断は、特徴的な眼所見から臨床的に疑い、詳細な眼科検査で眼全体の状態を把握したうえで、遺伝学的検査で原因を確認する流れが一般的です。最も重要な分岐点は、孤立性(PAX6遺伝子内変異など)か、WT1を含む11p13欠失(WAGR症候群)かの見極めです。家族歴のない孤発例の乳幼児では、Wilms腫瘍のリスク評価のためにこの区別を早急につける必要があります。PAX6の配列解析だけでは大きな欠失を見逃すため、染色体マイクロアレイ(アレイCGH)やMLPAなどのコピー数解析と組み合わせます。日本の指定難病としての認定は、厚生労働省・関連学会が定める診断基準と、視力などに基づく重症度分類に沿って判断されます。

  • 細隙灯顕微鏡検査・隅角検査: 虹彩の欠損の程度や残存虹彩断端、水晶体混濁・偏位、角膜輪部の状態を評価します。乳幼児では鎮静下や全身麻酔下での検査が必要になることがあります。
  • 眼底検査・光干渉断層計(OCT): 中心窩の陥凹が乏しい・消失しているなど黄斑低形成の程度を評価でき、視力予後の推定に役立ちます。視神経乳頭の大きさや緑内障性変化も確認します。
  • 眼圧測定・視野・視神経評価: 緑内障の早期発見のため、生涯にわたり定期的に眼圧を測定します。角膜の状態で測定値が不正確になることもあるため、視神経乳頭やOCTでの神経線維層の評価、可能な年齢では視野検査を組み合わせます。
  • 角膜・眼表面の評価: フルオレセイン染色や生体染色で上皮障害や結膜化(結膜上皮の侵入)の範囲を評価します。必要に応じて印象細胞診や生体共焦点顕微鏡などで輪部幹細胞疲弊の程度を確認します。
  • 視機能・屈折検査: 年齢に応じた視力評価(選択視法など)と屈折検査を行い、眼鏡処方や弱視・斜視への対応につなげます。
  • PAX6遺伝子解析: 点変異・小欠失・スプライス変異を同定し、確定診断や家族の遺伝カウンセリングに役立てます。変異の種類から表現型の傾向をある程度推定できる場合があります。
  • 染色体マイクロアレイ・MLPA・FISH: PAX6の全体欠失や下流調節領域の欠失、WT1を含む11p13欠失の有無を調べます。孤発例では特に重要です。
  • 腎超音波検査・泌尿生殖器評価: WT1欠失例やその可能性が否定できない例では、Wilms腫瘍スクリーニングとして腎超音波を定期的に行います。外性器・性腺の評価や腎機能(尿蛋白、血清クレアチニンなど)も確認します。
  • 全身評価(血糖・発達・聴覚など): 耐糖能異常に対する血糖・HbA1cの確認を行います。WAGR症候群では発達評価や小児科・小児外科・泌尿器科などとの連携を行い、必要に応じて聴覚・嗅覚や頭部MRIの評価も考慮します。

無虹彩症と鑑別すべき疾患

  • 前眼部形成異常(Axenfeld-Rieger症候群、Peters異常など): 虹彩低形成や緑内障を伴いますが、後部胎生環・虹彩角膜癒着・角膜中央混濁などの特徴があります。主にPITX2・FOXC1などPAX6以外の遺伝子が関与しますが、Peters異常の一部はPAX6変異でも生じるため、遺伝学的検査も区別に役立ちます。
  • 眼皮膚白皮症: 羞明・眼振・黄斑低形成が共通しますが、虹彩は存在して徹照されるのが特徴で、多くは皮膚・毛髪の色素低下を伴います。
  • 虹彩コロボーマ(ぶどう膜欠損): 眼杯裂の閉鎖不全による下方中心の扇形欠損で、虹彩全周の低形成とは分布が異なり、網脈絡膜欠損を伴うことがあります。
  • Gillespie症候群: 特徴的な部分無虹彩(瞳孔縁の波状変化)に小脳失調や知的障害を伴い、主にITPR1遺伝子の異常によりPAX6とは別の疾患です。
  • 虹彩角膜内皮(ICE)症候群・外傷性無虹彩: 通常は片眼性・後天性で、先天的な黄斑低形成や眼振を伴わない点で区別できます。
  • 孤立性黄斑低形成・先天眼振: 眼振と低視力を示しますが虹彩は正常です。ただしPAX6ミスセンス変異による軽症型が含まれることがあります。

無虹彩症の治療

現時点で、PAX6の機能そのものを回復させる根本治療は確立していません。治療の目的は、①残された視機能を最大限に引き出す(屈折矯正、弱視治療、羞明対策、ロービジョンケア)、②視力を奪う二次合併症(緑内障・角膜症・白内障)を早期に見つけて適切に管理する、③WAGR症候群などの全身合併症を見逃さない、の三点です。無虹彩眼は手術侵襲に弱く、角膜症の悪化や線維化などのリスクがあるため、手術の適応・時期・術式は慎重に判断され、多くの場合は角膜・緑内障・小児眼科を扱う専門施設で行われます。眼表面をいたわる管理(防腐剤を含まない点眼、ドライアイ治療など)は、あらゆる段階で重要です。個々の治療方針は、病状と生活背景を踏まえて主治医・専門医と相談して決めていきます。

  • 屈折矯正・弱視治療: 乳幼児期から適切な眼鏡で屈折異常を矯正し、視覚の発達を促します。斜視や左右差がある場合は弱視治療を検討します。
  • 羞明対策(遮光眼鏡・虹彩付きコンタクトレンズ): 遮光眼鏡や帽子でまぶしさを軽減します。人工的な虹彩を印刷したコンタクトレンズは羞明・整容面で有用な場合があります。一方で角膜上皮への負担や感染のリスクがあるため、適応は眼表面の状態を見て判断します。
  • 緑内障の薬物治療: 眼圧下降点眼薬が第一段階となります。角膜症への影響を考え、防腐剤フリー製剤の選択や本数の調整が検討されます。
  • 緑内障手術: 薬物でコントロールできない場合、線維柱帯切開術・線維柱帯切除術・チューブシャント手術・毛様体光凝固などが選択肢になります。病期や年齢、角膜の状態により術式が選ばれます。小児期に隅角への予防的手術を検討する施設もあります。
  • 無虹彩性角膜症の治療: 軽症では人工涙液・ヒアルロン酸点眼・自己血清点眼・治療用コンタクトレンズなどで眼表面を保護します。進行例では角膜輪部移植や、口腔粘膜上皮などを培養した細胞シートによる眼表面再建が行われることがあります。再生医療等製品の適応や実施施設は限られます。
  • 角膜移植・人工角膜: 幹細胞疲弊がある状態で全層角膜移植を単独で行うと拒絶や上皮障害で予後不良となりやすいため、眼表面再建と組み合わせるなど専門的な判断が必要です。
  • 白内障手術: 視力低下が生活に影響する場合に検討します。チン小帯の脆弱や術後の角膜症悪化・線維化のリスクがあるため、侵襲を抑えた手技で専門施設において行われます。人工虹彩付き眼内レンズなどの使用は国内では限られています。
  • ロービジョンケア・療育支援: 拡大鏡、単眼鏡、拡大読書器、タブレット端末の拡大・音声機能などを活用し、学習・就労・生活を支援します。早期から視覚特別支援(盲)学校や地域の支援機関と連携することが有用です。
  • WAGR症候群・全身合併症の管理: WT1欠失例では、少なくとも学童期前半ごろまで数か月ごとの腎超音波スクリーニングが一般に推奨されています。腫瘍が見つかれば小児がん専門施設で治療します。発達・腎機能・血糖などは小児科・内科と連携して長期に管理します。

無虹彩症の予後・長期フォロー

生命予後は、孤立性無虹彩症では一般人口と大きく変わらないと考えられています。WAGR症候群では、Wilms腫瘍の早期発見・治療の可否や、長期的な腎機能障害が予後に影響します。視力予後は、出生時から決まっている黄斑低形成の程度が上限を規定します。そのうえで、緑内障・角膜症・白内障をどれだけ早く適切に管理できるかによって、生涯の視機能が大きく左右されます。多くの方は日常的に低視力の状態にありますが、補助具や環境調整を活用して就学・就労・自立した生活を送っている方も多くいます。成人期以降に角膜症や緑内障が進行すると視機能が大きく低下する場合があるため、「今見えている力を長く保つ」ことが管理の主眼となります。

長期フォローアップでは、年齢にかかわらず定期的な眼科受診(眼圧、角膜、水晶体、視神経の評価)を継続します。受診間隔は病状により主治医が判断しますが、乳幼児期や合併症の進行期には短くなります。小児期から成人期への移行医療の際にも、角膜・緑内障の専門診療が途切れないよう計画しておくことが大切です。全身面では、血糖値の定期的な確認、WAGR症候群例での腎機能・血圧・尿蛋白の生涯にわたる追跡、発達・教育面の支援の見直しを行います。手術歴のある眼では、術後の角膜症悪化や線維化の兆候にも注意します。

無虹彩症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

屋外ではつばの広い帽子と遮光眼鏡(紫外線カットのものを含む)を使用し、室内照明は直接目に入らない間接照明やまぶしさの少ない配置を工夫すると楽になります。学校や職場では、窓を背にした席配置、教材・資料の拡大、コントラストの高い表示、タブレット端末の活用など、合理的配慮を求めることができます。目をこする・強く擦る習慣は角膜上皮を傷めるため避け、ドライアイ対策(加湿、休憩、指示どおりの点眼)を継続しましょう。コンタクトレンズを使う場合は、装用時間や衛生管理を守り、充血や痛みがあればすぐ外して受診します。眼圧の上昇は自覚しにくいため、症状がなくても定期受診を欠かさないことが最も重要なセルフケアです。<br>遺伝については、罹患者の子は性別を問わず50%の確率で受け継ぎます。家族内でも重症度には幅があり、正確な予測は難しいとされます。家族歴のない孤発例では、両親は通常非罹患ですが、まれに生殖細胞モザイクの可能性もあります。結婚・妊娠・出産を考える際や、同胞・子どもの検査を検討する際には、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用し、十分な情報をもとに家族で話し合うことが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

無虹彩症は指定難病であり、診断基準を満たし、視力などに基づく重症度分類で一定以上と判定された場合(または高額な医療を継続する場合の特例に該当する場合)に、医療費助成を受けられます。申請は難病指定医の診断書(臨床調査個人票)を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。視力・視野の障害が基準に該当すれば身体障害者手帳(視覚障害)の交付を受けられます。手帳があれば、遮光眼鏡・弱視眼鏡などの補装具や、拡大読書器などの日常生活用具の給付、各種割引・税控除の対象となります。障害の程度により、20歳以降は障害年金、20歳未満では特別児童扶養手当や障害児福祉手当の対象となる場合があります。WAGR症候群でWilms腫瘍を発症した場合には、小児慢性特定疾病(悪性新生物)の医療費助成が利用できることがあります。相談窓口としては、都道府県の難病相談支援センター、視覚障害者情報提供施設、視覚特別支援学校の教育相談、医療機関のロービジョン外来や医療ソーシャルワーカーがあり、制度の利用や就学・就労の相談に応じています。

無虹彩症に伴う心のケア・心理社会的支援

生まれつきの低視力に加え、成長とともに視力が低下するかもしれないという見通しは、本人と家族に長く続く不安をもたらします。眼の外見の違い(大きく黒い瞳)によるからかいや人目への意識、まぶしさや見えにくさによる学校生活・部活動・進学・就職での制約、運転免許の取得が難しいことなどが、自己評価の低下や孤立感につながることがあります。親は「遺伝させてしまった」という自責感を抱きやすく、WAGR症候群では腫瘍スクリーニングのたびの緊張や、発達支援に伴う負担も重なります。成人後に手術が繰り返されたり、視力が段階的に失われたりする時期には、抑うつや適応障害がみられることもあります。気持ちの落ち込み、眠れない、意欲が出ないといった状態が続くときは、一人で抱え込まず主治医に伝え、心理士・精神科医、医療ソーシャルワーカー、難病相談支援センター、同じ病気や視覚障害をもつ人のピアサポートなどにつなげてもらうことが大切です。ロービジョンケアによって「できること」が増える経験は、心理的な回復にも大きく役立ちます。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

無虹彩症の受診の目安

  • 目の強い痛み、急な充血、頭痛や吐き気を伴う見えにくさが出たときは、急性の眼圧上昇や角膜感染の可能性があるため、速やかに(夜間・休日でも)眼科を受診してください。
  • コンタクトレンズ装用中や手術後に、痛み・充血・目やに・白い濁りが出た場合は、レンズを外してすぐに受診してください。
  • 視力の低下、見える範囲の狭まり、黒目の濁りが目立ってきたなど、以前との違いに気づいたときは早めに受診してください。
  • 乳児で黒目が大きい、光を極端に嫌がる、目が揺れている、黒目が大きく濁ってきたなどがあれば、早期に小児眼科を受診してください。
  • WAGR症候群やその可能性がある子どもで、おなかのふくらみ・しこり、血尿、腹痛、発熱が続くときは、予定の検査を待たずに小児科を受診してください。
  • のどの渇き・多尿・体重減少など、血糖上昇を疑う症状が出たときも受診してください。

無虹彩症についてのよくある質問

Q. 無虹彩症は治りますか?視力は良くなりますか?

A. 現時点で虹彩や黄斑を正常に作り直す根本治療はなく、生まれつきの低視力そのものを大きく改善することは困難です。ただし眼鏡や補助具で見え方を最大限に引き出すことはできます。緑内障や角膜症を早く見つけて治療すれば、今ある視力を長く保つことが期待できます。

Q. 子どもが無虹彩症と診断されました。腎臓の検査が必要と言われたのはなぜですか?

A. 家族歴のない無虹彩症の一部は、PAX6の隣にあるWT1遺伝子も欠失したWAGR症候群で、乳幼児期にWilms腫瘍(腎臓の腫瘍)が発生しやすいためです。遺伝学的検査でWT1の欠失がないと確認されれば、腫瘍リスクは一般と同程度と考えられます。欠失がある場合や不明な場合は、定期的な腎超音波検査が勧められます。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 常染色体顕性(優性)遺伝のため、罹患している親から子へ受け継がれる確率は性別にかかわらず50%です。ただし、同じ家族内でも重症度は異なることがあります。妊娠・出産を考える際は、遺伝カウンセリングで詳しい説明を受けることをお勧めします。

Q. 白内障や角膜の手術は普通の人と同じように受けられますか?

A. 無虹彩症の眼は手術の影響を受けやすく、角膜症の悪化や眼内の線維化などの合併症が起こることがあります。そのため、手術の必要性や時期、方法は慎重に判断されます。無虹彩症の診療経験が豊富な角膜・緑内障専門施設で、利点とリスクを十分に相談したうえで決めることが大切です。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。