ホモシスチン尿症
Homocystinuria
ホモシスチン尿症(Homocystinuria)|ホモシスチン尿症は、必須アミノ酸メチオニンの代謝経路に先天的な異常があり、中間代謝物であるホモシステインが血液や尿中に大量に蓄積する常染色体潜性(劣性)遺伝の先天代謝異常症です。未治療のまま経過すると、水晶体偏位(脱臼)などの眼症状、骨格異常、知的障害、若年での血栓塞栓症が起こり得ます。新生児マススクリーニングでの早期発見と、生涯にわたる食事療法・薬物療法によって合併症の多くを予防・軽減できることが知られています。
ホモシスチン尿症の要点
ホモシスチン尿症は、メチオニン代謝の先天的な異常でホモシステインが血中・尿中に蓄積する、常染色体潜性(劣性)遺伝の先天代謝異常症です。未治療では水晶体偏位、骨格異常、知的障害、血栓塞栓症が起こり得ますが、早期からの食事・薬物療法で合併症の多くを予防・軽減でき、指定難病(告示番号337)の対象です。
| 別名・略称 | ホモシスチン尿症I型、CBS欠損症、シスタチオニンβ合成酵素欠損症、古典型ホモシスチン尿症、古典的ホモシスチン尿症、HCU、Cystathionine beta-synthase deficiency、Classical homocystinuria |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 主な症状 | 水晶体偏位、骨格異常、知的障害、若年での血栓塞栓症 |
| 主な検査 | 新生児マススクリーニング、血中メチオニン・総ホモシステイン、尿中ホモシスチン測定 |
| 主な治療 | 食事療法(メチオニン制限など)、ビタミンB6・ベタイン等の薬物療法 |
| 代表的な病型 | CBS欠損症(古典型)、MTHFR欠損症、コバラミン代謝異常症 |
| 公的制度 | 指定難病(告示番号337)、小児慢性特定疾病 |
ホモシスチン尿症とは
ホモシステインは、メチオニンからS-アデノシルメチオニン(SAM)、S-アデノシルホモシステイン(SAH)を経て生じる含硫アミノ酸です。体内では主に二つの経路で処理されます。一つは、ビタミンB6(ピリドキサールリン酸)を補酵素とするシスタチオニンβ合成酵素(CBS)がホモシステインをシスタチオニンに変え、最終的にシステインへ導く「硫黄転移経路」です。もう一つは、ホモシステインをメチオニンへ戻す「再メチル化経路」で、葉酸代謝産物(5-メチルテトラヒドロ葉酸)とビタミンB12(メチルコバラミン)を必要とするメチオニン合成酵素、および肝臓・腎臓でベタインを利用するベタイン-ホモシステインメチル基転移酵素が担います。これらの経路のいずれかが先天的に障害されると、血中総ホモシステイン濃度が著しく上昇し、尿中にその二量体であるホモシスチンが排泄されます。この状態を総称してホモシスチン尿症と呼びます。
最も頻度が高く古典的なのはCBS欠損症(古典型ホモシスチン尿症)で、1960年代初頭に知的障害児の尿スクリーニングから見いだされ、その後CBS酵素の欠損が明らかにされました。CBS欠損症は、ビタミンB6大量投与で血中ホモシステインが低下する「B6反応型」と、低下しない「B6不応型」に大別され、一般にB6不応型のほうが重症です。このほか、再メチル化経路の障害としてメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)欠損症や、cblC型・cblE型・cblG型などのコバラミン(ビタミンB12)代謝異常症があり、メチオニンが高値となるCBS欠損症とは対照的にメチオニンは低値〜正常となります。日本では指定難病(告示番号337)および小児慢性特定疾病の対象であり、対象となる病型の範囲や診断の要件は、最新の診断基準(日本先天代謝異常学会などの診療指針)の記載に従って判断されます。
ホモシスチン尿症の疫学・患者数
CBS欠損症の頻度は国や民族によって大きく異なり、欧州の一部地域では比較的高頻度と報告される一方、日本では非常にまれで、新生児マススクリーニングの集計から数十万人に1人程度と推定されています。日本ではメチオニン高値を指標とするスクリーニングが1977年から公費で行われ、現在はタンデムマス法による拡大新生児スクリーニングの対象疾患に含まれています。日本人のCBS欠損症ではB6不応型の割合が高いとされます。性差は明らかではなく、常染色体潜性遺伝のため男女同程度に発症します。スクリーニング以前に生まれた方や、スクリーニングで見逃されやすいB6反応型・軽症型では、学童期から成人期になって水晶体偏位や血栓症を契機に診断される例もあります。再メチル化障害(MTHFR欠損症、コバラミン代謝異常症)はさらにまれで、新生児期・乳児期の重症発症から成人期の神経・精神症状での発症まで発症年齢の幅が広いことが特徴です。
ホモシスチン尿症の原因・病態生理
CBS欠損症は、第21染色体長腕(21q22.3)に位置するCBS遺伝子の両アレルの病的バリアントによって起こる常染色体潜性遺伝疾患です。両親はそれぞれ保因者で通常は無症状であり、両親が保因者の場合、子が罹患する確率は各妊娠ごとに4分の1です。CBS遺伝子には多数のバリアントが報告されており、特定のバリアントはB6反応性と関連することが知られています。再メチル化障害では、MTHFR欠損症はMTHFR遺伝子、cblC型はMMACHC遺伝子などの異常が原因で、いずれも原則として常染色体潜性遺伝です。なお、一般集団でみられるMTHFRの多型(C677Tなど)による軽度の高ホモシステイン血症は、本症とは別の概念です。免疫学的機序は病因に関与しません。
組織障害の中心は、高濃度のホモシステインとその関連代謝物による毒性と考えられています。ホモシステインは血管内皮を障害して酸化ストレスを高め、血小板活性化や凝固系の亢進、線溶系の抑制を通じて静脈・動脈の血栓形成を促進します。また、ホモシステインはコラーゲンやフィブリリン(水晶体を支えるチン小帯の主要成分)などの結合組織蛋白と反応して構造を変化させるとされ、チン小帯の脆弱化による水晶体偏位、骨の脆弱化や長管骨の過成長といった骨格異常の一因と考えられています。CBS欠損症ではシスタチオニンやシステインが低下し、グルタチオンなど抗酸化物質の産生低下も関与するとされます。中枢神経障害には、血栓による脳梗塞・脳静脈洞血栓症に加え、メチル化反応の障害(SAH蓄積によるメチル基転移反応の抑制)などが関与すると考えられています。再メチル化障害ではメチオニンとSAMが欠乏し、神経系の髄鞘形成やDNA合成が障害されるため、CBS欠損症より早期から重い神経症状や巨赤芽球性貧血が出やすくなります。
ホモシスチン尿症の症状
- 水晶体偏位(水晶体脱臼): 未治療のCBS欠損症で最も頻度の高い所見の一つで、多くは幼児期以降に両眼性に生じ、下方・鼻側へずれることが多いとされます。虹彩振盪(眼球を動かすと虹彩が揺れる)が手がかりになることがあります。
- 強度近視・視力低下: 水晶体偏位に先行して、あるいは伴って進行性の近視がみられ、緑内障や網膜剥離を合併して視力障害が強まることがあります。
- マルファン症候群様の体型: 高身長、細長い手足や指(クモ状指)、漏斗胸・鳩胸などがみられます。関節はむしろ硬い傾向があり、関節弛緩が目立つマルファン症候群との違いとされます。
- 骨粗鬆症・側弯症: 小児期から骨密度低下がみられることがあり、思春期以降に側弯症や椎体の変形、骨折の原因となります。
- 血栓塞栓症: 深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、脳静脈洞血栓症などが若年で起こり得て、生命予後を左右する最も重要な合併症です。手術・脱水・長期臥床・妊娠などが誘因となります。
- 知的障害・発達の遅れ: B6不応型の未治療例で多くみられ、早期治療例では軽減・予防が期待できます。B6反応型では知能が保たれることも少なくありません。
- てんかん発作: 一部の患者でみられ、脳血管障害に伴って生じる場合もあります。
- 精神・行動の症状: 不安、抑うつ、強迫症状、行動障害、パーソナリティの変化、精神病症状などが思春期・成人期に現れることがあります。
- 皮膚・毛髪の所見: 頬部の紅潮、網状皮斑、色白の皮膚や淡い色の毛髪がみられることがあります。
- 再メチル化障害に特徴的な症状: MTHFR欠損症やコバラミン代謝異常症では、乳児期の哺乳不良、筋緊張低下、小頭症、けいれん、発達退行、巨赤芽球性貧血などがみられます。年長児・成人では歩行障害(脊髄障害)、末梢神経障害、精神症状で発症することもあります。
- 腎・血液の障害(cblC型など): cblC型では血栓性微小血管症(溶血性尿毒症症候群様の病態)、網膜症、メチルマロン酸尿を伴うことがあります。
ホモシスチン尿症の経過と合併症
CBS欠損症は出生時には通常無症状で、未治療の場合、乳幼児期の発達の遅れ、幼児期〜学童期の近視と水晶体偏位、思春期にかけての高身長・骨格異常・骨粗鬆症が順に目立ってきます。血栓塞栓症は小児期から起こり得て、年齢とともに累積リスクが高まることが古典的な自然歴研究で示されており、未治療例では若年成人期までにかなりの割合が血栓性イベントを経験したと報告されています。一方、新生児マススクリーニングで発見され、乳児期早期から食事療法などで血中ホモシステインが良好に管理された例では、知的発達がほぼ正常に保たれ、水晶体偏位や血栓症の発症も大きく減少することが報告されています。B6反応型は症状が比較的軽く、成人期に血栓症で初めて診断されることもあります。再メチル化障害では、重症型は新生児期・乳児期に急性脳症様に発症し得て、診断と治療が遅れると重い神経後遺症を残すことがあります。
合併症として、眼科領域では水晶体偏位に伴う緑内障、網膜剥離、瞳孔ブロック、白内障があり、水晶体が前房に脱臼すると急激な眼痛と視力低下をきたします。血管系では脳梗塞・脳静脈洞血栓症、肺塞栓症、末梢動脈閉塞、心筋梗塞などが問題となり、全身麻酔を伴う手術の周術期は特に血栓リスクが高い時期です。骨では骨折、側弯症の進行、成人期の骨粗鬆症が、神経・精神面ではてんかん、ジストニアなどの不随意運動、精神疾患の合併が報告されています。まれに膵炎や脂肪肝などもみられます。治療に伴う合併症として、ベタイン使用中の著しい高メチオニン血症による脳浮腫の報告があり、モニタリングが必要です。
ホモシスチン尿症の診断・診断基準
日本ではCBS欠損症の多くが、新生児マススクリーニング(タンデムマス法)で血中メチオニン高値として発見されます。陽性の場合は専門医療機関で血漿総ホモシステイン、アミノ酸分析(メチオニン、シスタチオニン、シスチンなど)を測定し、確定診断を進めます。スクリーニングを受けていない世代や、メチオニンが上がりにくいB6反応型、メチオニンが低下する再メチル化障害はスクリーニングで見逃され得るため、水晶体偏位、マルファン症候群様体型、原因不明の若年性血栓症、発達の遅れや退行、巨赤芽球性貧血、説明のつかない脊髄・精神症状などをみた場合には、本症を疑って血漿総ホモシステインを測定することが重要です。確定診断には、生化学所見に加えて遺伝子解析や酵素活性測定を組み合わせ、ビタミン欠乏や腎機能障害などによる二次性の高ホモシステイン血症を除外します。CBS欠損症と診断した後は、B6反応性の評価により病型と治療方針を決めます。
- 新生児マススクリーニング(タンデムマス法): 乾燥ろ紙血のメチオニン高値を指標にCBS欠損症を拾い上げます。B6反応型や再メチル化障害は検出されにくいため、陰性でも臨床的に疑えば精査が必要です。
- 血漿総ホモシステイン(tHcy)測定: 診断と治療効果判定の最も重要な指標で、未治療の古典型では著明高値(しばしば100µmol/L以上)を示します。採血後すみやかに血漿分離しないと見かけ上上昇するため、検体処理に注意が必要です。
- 血漿アミノ酸分析: CBS欠損症ではメチオニン高値、シスタチオニン低値、シスチン低値となり、再メチル化障害ではメチオニンが低値〜正常となる点が病型推定に役立ちます。
- 尿中ホモシスチン・有機酸分析: 尿中ホモシスチンの増加を確認します。尿中・血中メチルマロン酸の上昇を伴えばcblC型などのコバラミン代謝異常症を示唆します。
- 血清ビタミンB12・葉酸・腎機能検査: 栄養性のビタミンB12・葉酸欠乏や腎不全による二次性高ホモシステイン血症を除外するために必須です。血算で巨赤芽球性貧血の有無も確認します。
- 遺伝子解析: CBS、MTHFR、MMACHCなどの原因遺伝子の両アレル病的バリアントを確認し、確定診断と家族の遺伝カウンセリングに用います。日本では一部の先天代謝異常症の遺伝学的検査が保険適用となっています。
- 酵素活性測定: 培養皮膚線維芽細胞などでCBSやMTHFRの酵素活性、コバラミン代謝の機能を評価します。実施施設は限られます。
- ビタミンB6反応性試験: CBS欠損症と診断後、ピリドキシンを一定期間投与して血漿総ホモシステインの低下度をみて、B6反応型か不応型かを判定します。葉酸・B12欠乏を補正したうえで行うことが望ましいとされます。
- 合併症評価(眼科・骨・画像検査): 細隙灯顕微鏡検査で水晶体偏位を、骨密度測定で骨粗鬆症を、頭部MRIで脳梗塞・脳静脈洞血栓症や白質病変を評価します。
ホモシスチン尿症と鑑別すべき疾患
- マルファン症候群: 体型と水晶体偏位が類似しますが、マルファン症候群の水晶体偏位は上方へずれることが多く、関節弛緩や大動脈基部拡張を伴い、血漿ホモシステインは正常です。
- ビタミンB12欠乏症・葉酸欠乏症: 食事・吸収障害・母体のB12欠乏などで高ホモシステイン血症と巨赤芽球性貧血を生じますが、血清B12・葉酸が低値でビタミン補充により改善します。
- メチルマロン酸血症(単独型): メチルマロン酸が上昇しますがホモシステインは通常上昇せず、両者が上昇する場合はcblC型などのコバラミン代謝異常症を考えます。
- 二次性高ホモシステイン血症(腎不全・甲状腺機能低下症・薬剤など): 腎機能障害、甲状腺機能低下症、メトトレキサートや抗てんかん薬、亜酸化窒素曝露などで上昇しますが、多くは軽度〜中等度で基礎疾患の是正で改善します。
- 他の高メチオニン血症(MAT I/III欠損症、肝疾患など): スクリーニングでメチオニン高値となりますが、総ホモシステインは正常〜軽度上昇にとどまる点で区別します。
- 他の血栓性素因(抗リン脂質抗体症候群、先天性凝固阻止因子欠乏症など): 若年性血栓症の原因として鑑別が必要で、抗リン脂質抗体やプロテインC・S、アンチトロンビン活性などを測定し、総ホモシステイン測定も併せて行います。
ホモシスチン尿症の治療
治療の目標は、血漿総ホモシステインを可能な限り低く保ち、水晶体偏位・知的障害・骨格異常・血栓塞栓症などの合併症を予防することです。CBS欠損症では、まずビタミンB6反応性を評価し、反応型ではB6(必要に応じて葉酸・B12併用)が治療の中心となります。B6不応型では、メチオニン制限食(低蛋白食とメチオニン除去アミノ酸製剤)とベタインを組み合わせ、シスチンを補充します。欧州の国際ガイドラインでは、総ホモシステインの管理目標としてB6反応型で50µmol/L未満、不応型で120µmol/L未満などが提案されていますが、実際の目標値は年齢や病型、生活状況に応じて主治医が設定します。再メチル化障害では、ベタインやヒドロキソコバラミン、葉酸製剤などを病型に応じて用い、メチオニン制限は行わないのが原則です。いずれの病型も治療は生涯にわたり、先天代謝異常症の専門医、管理栄養士、眼科・整形外科・血液内科などの多職種で継続的に管理します。具体的な治療内容は必ず主治医・専門医と相談して決めてください。
- ビタミンB6(ピリドキシン)療法: B6反応型CBS欠損症の基本治療で、反応がよければ食事制限を緩和できることがあります。高用量の長期投与では末梢神経障害の報告があるため、必要最小量での調整が勧められます。
- メチオニン制限食: B6不応型の中心となる治療で、自然蛋白を制限し、不足する蛋白質・栄養素をメチオニン除去アミノ酸製剤(特殊ミルク等)で補います。新生児期から開始し、成長に合わせた管理栄養士による継続的な調整が欠かせません。
- ベタイン療法: ベタイン-ホモシステインメチル基転移酵素を介してホモシステインをメチオニンに再メチル化し、血中ホモシステインを下げます。日本でもホモシスチン尿症に対する無水ベタイン製剤が承認されていますが、CBS欠損症では高メチオニン血症による脳浮腫に注意し、メチオニン値を定期的に確認します。
- 葉酸・ビタミンB12の補充: 再メチル化経路を補助する目的で併用され、欠乏があれば補正します。cblC型などのコバラミン代謝異常症では、ヒドロキソコバラミンの注射が治療の中心とされます。
- シスチン補充: CBS欠損症ではシステイン(シスチン)が不足しやすいため、アミノ酸製剤や補充により適正値を保ちます。
- 血栓症の予防と治療: 手術・脱水・長期臥床・妊娠出産時は特にリスクが高く、十分な補液や早期離床、状況に応じて抗凝固療法を検討します。エストロゲンを含む経口避妊薬は血栓リスクを高めるため一般に避けるべきとされます。
- 眼科的治療: 定期的な眼科診察で屈折矯正や緑内障管理を行い、水晶体偏位が進行した場合や前房脱臼をきたした場合には水晶体摘出術などを検討します。手術時は麻酔・周術期管理を代謝専門医と連携して行います。
- 骨・神経・精神症状への対応: 骨粗鬆症にはカルシウム・ビタミンDの充足や運動指導、整形外科的管理を行い、てんかんには抗てんかん薬、精神症状には精神科的治療を併用します。発達面には療育や特別支援教育も活用します。
- 研究段階の治療: CBS欠損症に対しては、酵素補充療法などの新規治療が海外で臨床試験段階にあると報告されていますが、現時点で国内の標準治療ではありません。
ホモシスチン尿症の予後・長期フォロー
予後は病型、B6反応性、そして治療開始時期と血中ホモシステインの管理状況に大きく左右されます。新生児期から治療を開始し、良好なコントロールを維持できたCBS欠損症では、知的発達はおおむね正常範囲に保たれ、水晶体偏位や血栓塞栓症の発症も大きく抑えられることが報告されており、就学・就労・結婚など通常の社会生活を送っている方も多くいます。一方、診断が遅れた例や、思春期以降に食事療法の継続が難しくなり管理が悪化した例では、合併症が進行するリスクが高まります。未治療例では血栓塞栓症が主要な死因とされ、若年での脳卒中や肺塞栓症が生命予後とQOLを左右します。再メチル化障害の重症型は早期治療でも神経学的後遺症が残ることがありますが、遅発型では治療により症状の改善がみられる例もあります。
長期フォローアップでは、血漿総ホモシステイン・アミノ酸(メチオニン、シスチン)の定期測定に加え、成長・栄養状態(蛋白質、ビタミン、微量元素、必須脂肪酸)、骨密度、眼科所見、発達・知能、精神状態の評価を継続します。成長期や思春期は管理が乱れやすく、小児科から成人診療科への移行期医療も重要な課題です。成人期には血栓リスクの評価、骨粗鬆症対策、就労との両立支援が中心となります。女性では妊娠前から代謝管理を厳密にし、妊娠中・産褥期は血栓予防(低分子量ヘパリンなどの検討)を含め、代謝専門医と産科が連携した計画的な管理が推奨されます。
ホモシスチン尿症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、処方された食事療法と薬を自己判断で中断しないことが最も大切です。メチオニン制限食は肉・魚・卵・乳製品・大豆製品など高蛋白食品の量が制限されるため、管理栄養士と相談しながら低蛋白の主食や特殊ミルク・アミノ酸製剤を活用し、学校給食や外食についても事前に相談しておくと安心です。発熱・嘔吐・下痢による脱水や長時間の移動・長期臥床は血栓のきっかけになるため、こまめな水分補給と適度な運動を心がけます。手術や歯科処置、麻酔を受ける際は必ず本症であることを伝え、特に亜酸化窒素(笑気)麻酔はメチオニン合成酵素を阻害するため避けるべきとされます。女性はエストロゲン含有の避妊薬を使用しないなど、薬の選択にも注意が必要です。病名・治療内容・緊急連絡先を記したカードを携帯することも有用です。本症は常染色体潜性遺伝のため、同胞(きょうだい)の検査や次子の出生前・新生児期の対応、患者本人の将来の家族計画について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
ホモシスチン尿症は指定難病(告示番号337)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、都道府県・指定都市に申請することで医療費助成を受けられます(重症度基準を満たさない場合でも、高額な医療を継続する必要がある「軽症高額該当」に当たれば対象となることがあります)。18歳未満(継続の場合20歳未満)では小児慢性特定疾病の医療費助成の対象で、日常生活用具の給付や自立支援事業も利用できます。メチオニン除去アミノ酸製剤などの特殊ミルクは、医薬品として処方されるもののほか、特殊ミルク事務局を通じた特殊ミルク供給事業で提供される品目もあり、主治医を通じて手配します。知的障害がある場合は療育手帳、視力障害がある場合は身体障害者手帳(視覚障害)の対象となることがあり、障害の程度により特別児童扶養手当や、20歳以降は障害年金の受給が検討できます。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、保健所・保健センター、小児慢性特定疾病の自立支援員、医療機関の医療ソーシャルワーカー、移行期医療支援センター、先天代謝異常症の患者会などがあります。制度の詳細や要件は改定されることがあるため、最新情報は自治体窓口や難病情報センターで確認してください。
ホモシスチン尿症に伴う心のケア・心理社会的支援
生涯続く食事制限と服薬、定期的な採血は、本人と家族にとって大きな負担です。乳幼児期の保護者は、毎日の食事計算や体調不良時の対応、子どもの将来への不安を抱えやすく、抑うつや燃え尽きを経験することがあります。学童期から思春期には、友人と同じものを食べられないことへの疎外感、アミノ酸製剤の味への抵抗、外見(高身長・眼鏡や視力障害)への悩みから、食事療法の自己中断や孤立につながることがあります。本症では病気そのものに関連して不安、抑うつ、強迫症状などの精神症状が生じ得ることも知られており、気分の落ち込みや行動の変化を「性格」や「反抗期」と片付けず、代謝コントロールの評価と併せて相談することが大切です。成人期には就労や結婚・妊娠、遺伝に関する悩みも加わります。主治医、管理栄養士、心理士、精神科医、医療ソーシャルワーカーに早めに相談し、同じ病気の患者・家族との交流(患者会など)を活用することで、孤立感を和らげ、治療を続ける力につながることがあります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
ホモシスチン尿症の受診の目安
- 片側の脚の急な腫れや痛み、突然の息切れや胸痛がある場合は、深部静脈血栓症や肺塞栓症の可能性があり、すぐに救急受診してください。
- 突然の片側の手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくい、激しい頭痛、けいれんなどが起きた場合は、脳梗塞や脳静脈洞血栓症の可能性があるため、ただちに救急車を要請してください。
- 急な眼の痛み、充血、視力低下、頭痛や吐き気を伴う場合は、水晶体の前房脱臼や急性緑内障の可能性があり、速やかに眼科を受診してください。
- 発熱・嘔吐・下痢で水分がとれない、食事療法や薬が続けられない状態が続く場合は、脱水と代謝悪化を防ぐため早めに主治医に連絡してください。
- 乳児で哺乳不良、ぐったりしている、発達の後退がみられる場合は、再メチル化障害を含む代謝異常の悪化が疑われるため、すぐに受診してください。
- 手術、妊娠を予定・判明した場合や、気分の落ち込み・不安が強い場合は、事前に(または早めに)主治医へ相談してください。
ホモシスチン尿症についてのよくある質問
Q. 新生児マススクリーニングで陽性と言われました。必ずホモシスチン尿症なのですか?
A. スクリーニング陽性は「精密検査が必要」という意味で、確定診断ではありません。メチオニン高値は肝機能の未熟性や他の代謝異常でもみられるため、専門医療機関で血漿総ホモシステインやアミノ酸分析を行って判断します。指示された受診日を守り、早期に精査を受けることが大切です。
Q. 食事療法はいつまで続ける必要がありますか?
A. 現在の考え方では、原則として生涯にわたり継続することが勧められています。成長後に中断すると血中ホモシステインが上昇し、成人期でも血栓症や水晶体偏位などのリスクが高まるためです。B6反応型では食事制限を緩和できる場合もあるため、具体的な内容は主治医・管理栄養士と相談してください。
Q. ホモシスチン尿症の女性は妊娠・出産できますか?
A. 多くの患者さんが出産を経験していますが、妊娠中から産後にかけては血栓症のリスクが特に高まります。妊娠前から代謝コントロールを整え、代謝専門医と産科医が連携して血栓予防を含めた計画的な管理を行うことが重要です。妊娠を考えた段階で早めに主治医に相談してください。
Q. きょうだいや将来の子どもに遺伝しますか?
A. 常染色体潜性遺伝のため、両親が保因者の場合、きょうだいが同じ病気である確率は4分の1です。患者さん本人の子どもについては、パートナーが保因者でなければ発症する可能性は低いと考えられますが、詳細は家族構成や遺伝子情報によって異なります。臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。