神経線維腫症

Neurofibromatosis, NF

神経線維腫症(Neurofibromatosis, NF)|神経線維腫症は、神経やその周囲に良性腫瘍ができやすくなる遺伝性疾患の総称です。代表的な病型は二つあり、皮膚のカフェオレ斑と神経線維腫を特徴とする神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)と、両側の聴神経(前庭神経)に神経鞘腫ができる神経線維腫症2型(NF2)です。両者は原因遺伝子も症状もまったく異なる別の病気です。症状の出方は人により大きく違い、ほとんど生活に支障のない人から、多臓器にわたる長期の医療を要する人までいます。

神経線維腫症の要点

神経線維腫症は、がん抑制遺伝子の変異により神経やその周囲に良性腫瘍ができやすくなる遺伝性疾患で、NF1(レックリングハウゼン病)とNF2に大別されます。NF1は皮膚のカフェオレ斑や神経線維腫、NF2は両側の聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が特徴で、いずれも指定難病に含まれます。

別名・略称レックリングハウゼン病、フォン・レックリングハウゼン病、NF1、NF2、von Recklinghausen病、NF2関連シュワン細胞腫症
分野神経・筋疾患
遺伝形式常染色体顕性(優性)遺伝。NF1は17番染色体のNF1遺伝子、NF2は22番染色体のNF2遺伝子の変異
好発年齢NF1は乳幼児期からカフェオレ斑が出現、NF2は主に10代後半〜30代で発症
主な症状NF1はカフェオレ斑・神経線維腫・骨の変形・視神経膠腫・学習障害。NF2は難聴・耳鳴り・ふらつき、髄膜腫、脊髄腫瘍
主な検査診察による診断基準の確認、MRI、遺伝学的検査、聴力検査、眼科検査
主な治療根治療法はなく、症状や腫瘍に応じた手術などの対症的治療と定期的な経過観察
受診する主な診療科皮膚科、小児科、神経内科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、眼科、整形外科

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神経線維腫症とは

神経線維腫症は、がん抑制遺伝子の機能低下によって神経系の腫瘍と多彩な全身症状を生じる神経皮膚症候群(母斑症)の一つです。NF1は17番染色体のNF1遺伝子の変異で起こります。乳幼児期からカフェオレ斑が現れ、思春期以降に皮膚の神経線維腫が増えていきます。そのほか、骨の変形、視神経膠腫、学習障害など、皮膚・神経・骨・眼・血管に症状がみられます。NF2は22番染色体のNF2遺伝子の変異で起こり、両側の前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)が中心となる病気です。髄膜腫、脊髄腫瘍、白内障なども伴い、主に10代後半〜30代に難聴・耳鳴り・ふらつきで発症します。皮膚症状は比較的乏しく、NF2をNF1の重症型とみなすのは誤りです。

1882年にドイツの病理学者フォン・レックリングハウゼンが皮膚の多発性神経線維腫を報告したことから、NF1は「レックリングハウゼン病」と呼ばれてきました。1987年にNF1とNF2が遺伝学的に別の疾患であることが確立し、1990年前後に両原因遺伝子が同定されました。近年、国際的な診断基準の改訂(NF1は2021年、NF2は2022年)が行われています。NF2は国際的に「NF2関連シュワン細胞腫症(NF2-related schwannomatosis)」と呼ぶことが提唱されています。また、SMARCB1遺伝子やLZTR1遺伝子に関連する多発性神経鞘腫症(シュワノマトーシス)は、NF2とは区別される近縁疾患です。日本では「神経線維腫症」として、NF1とNF2がともに指定難病(告示番号34)に含まれています。

神経線維腫症の疫学・患者数

NF1は人種や性別に関係なく、出生約3,000人に1人の頻度で生じる比較的頻度の高い遺伝性疾患です。国内の患者数は約4万人と推定されています。カフェオレ斑は出生時〜乳児期にほぼ全例でみられ、皮膚の神経線維腫は思春期前後から増え始めます。NF2の発生頻度は出生約2.5万〜3.5万人に1人とされ、国内患者数は1,000人前後と推計されています。発症年齢の中心は10代後半〜20代ですが、小児期発症例もあり、小児期発症例は重症化しやすい傾向が知られています。両病型とも明らかな性差はありません。いずれも約半数は両親に病気がなく、本人の代で新たに遺伝子変異が生じた新生突然変異(de novo)による発症です。

神経線維腫症の原因・病態生理

両病型とも常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。患者さんのお子さんには、性別に関係なく50%の確率で遺伝します。NF1の原因であるNF1遺伝子(17q11.2)は、ニューロフィブロミンというたんぱく質をつくります。ニューロフィブロミンはRASという細胞増殖の「アクセル」役のたんぱく質を不活性化する、RAS-GAPとして働きます。この機能が失われるとRASが過剰に活性化し、その下流のMAPK経路(RAF-MEK-ERK)やPI3K-AKT-mTOR経路が持続的に働いて、細胞増殖が促進されます。NF2遺伝子(22q12.2)はマーリン(シュワノミン)というたんぱく質をつくります。マーリンは細胞同士が接触したときに増殖を止める仕組み(接触阻止)や、Hippo経路などを介した増殖抑制に関わっています。マーリンが失われると、主にシュワン細胞や髄膜細胞が腫瘍化します。

腫瘍の発生は、生まれつき持っている片方の変異(第1ヒット)に加えて、特定の細胞でもう片方の正常な遺伝子も失われる(第2ヒット)ことで起こると考えられています(ツーヒット説)。NF1の神経線維腫は、両方のNF1遺伝子を失ったシュワン細胞系の細胞に、線維芽細胞・肥満細胞・血管などの周囲環境が加わって形成されます。叢状神経線維腫では、CDKN2A/Bなどの追加の遺伝子異常が重なると、異型神経線維腫を経て悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)へ進展することがあります。NF1遺伝子の変異の種類と症状の重さの関係(遺伝子型-表現型相関)は概して弱く、同じ家系内でも症状の重さが大きく異なります。例外として、遺伝子全体の欠失例は神経線維腫が多く知能障害も伴いやすいこと、特定のミスセンス変異では皮膚の神経線維腫が出にくいことなどが報告されています。NF2では、たんぱく質の途中で合成が止まる型の変異(ナンセンス・フレームシフト)が重症に、ミスセンス変異や大きな欠失が軽症になりやすい傾向があります。新生突然変異のNF2では、体の一部の細胞だけが変異を持つ体細胞モザイクがまれではなく、血液の遺伝子検査で変異が見つからないことがあります。

神経線維腫症の症状

  • カフェオレ斑(NF1): ミルクコーヒー色で、境界がなめらかな楕円形の色素斑です。出生時〜乳児期から現れ、診断上もっとも重要な所見ですが、悪性化することはありません。
  • 雀卵斑様色素斑(NF1): 腋の下や鼠径部など、皮膚がこすれ合う部位に現れる小さなそばかす状の色素斑です。幼児期以降にみられ、診断の助けになります。
  • 皮膚の神経線維腫(NF1): 思春期頃から全身に生じる柔らかい皮膚の腫瘤で、年齢とともに数が増え、妊娠中に増大することもあります。良性ですが、外見上の悩みや、かゆみ・ひっかかりの原因になります。
  • 叢状神経線維腫(NF1): 神経に沿って広がる先天性の大きな腫瘍で、患者さんの約3割前後に画像上みつかるとされています。顔面や四肢の変形、痛み、気道や脊髄の圧迫を起こすことがあり、悪性化の母地にもなります。
  • 視神経膠腫・虹彩小結節(NF1): 小児の約15%に視神経膠腫がみられ、多くは無症状ですが、一部は視力低下や思春期早発症を起こします。虹彩の小さな過誤腫(リッシュ結節)は、視力に影響しません。
  • 骨病変(NF1): 急速に進む異栄養性側弯、脛骨の弯曲・偽関節、蝶形骨の形成不全、低身長、骨密度低下などがみられます。
  • 学習障害・発達の特性(NF1): 学習障害は半数以上に、注意欠如・多動症(ADHD)は3〜4割前後にみられるとされています。自閉スペクトラム症の特性や、運動の不器用さを伴うこともあります。
  • 高血圧・血管病変(NF1): 腎動脈狭窄、褐色細胞腫、もやもや病様の脳血管病変などにより、若年でも高血圧や脳血管障害が起こることがあります。
  • 難聴・耳鳴り・平衡障害(NF2): 両側の前庭神経鞘腫により、片耳から始まる進行性の難聴、耳鳴り、ふらつきが生じます。突発性難聴のような急な悪化を示すこともあります。
  • 髄膜腫・脊髄腫瘍による神経症状(NF2): 頭蓋内の髄膜腫、脊髄の神経鞘腫や上衣腫により、頭痛、けいれん、手足のしびれ・脱力、歩行障害、排尿障害が現れることがあります。
  • 眼症状・末梢神経障害(NF2): 若年性の白内障(後嚢下白内障)、網膜過誤腫、顔面神経麻痺による兎眼などが視力に影響します。多発性ニューロパチーを伴うこともあります。

神経線維腫症の経過と合併症

NF1の症状は年齢に応じて順に現れます。乳幼児期にはカフェオレ斑、脛骨の弯曲、視神経膠腫(主に6〜7歳頃まで)が、学童期には雀卵斑様色素斑、学習面の困難、側弯が問題になります。思春期以降は皮膚の神経線維腫が増え、成人期には悪性腫瘍や血管病変への注意が必要になります。叢状神経線維腫は小児期に最も速く大きくなり、成人では増大が緩やかになる傾向があります。NF2は前庭神経鞘腫がゆっくり大きくなるのが基本の経過ですが、増大速度には個人差が大きいです。小児期発症で多数の腫瘍を持つ例は進行が速く、成人期発症で腫瘍が少ない例は比較的穏やかな経過をとることが多いです。NF2では生涯にわたり新たな腫瘍が次々と生じます。

NF1で特に重要な合併症は悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)で、生涯で約8〜13%に起こるとされています。叢状神経線維腫の急な増大、持続する痛み、硬さの変化、神経症状の出現は悪性化を疑う重要なサインです。そのほか、乳がん(特に50歳未満の女性でリスクが高い)、消化管間質腫瘍(GIST)、褐色細胞腫、若年性骨髄単球性白血病、脳腫瘍(視神経以外の膠腫)のリスクが高まります。もやもや病様血管病変、てんかん、水頭症、脊髄の神経線維腫による圧迫などもみられます。NF2では、聴力喪失、脳幹や脊髄の圧迫、水頭症、多発する脳神経障害(顔面神経麻痺、嚥下障害など)が主な合併症です。治療の結果として生じる神経脱落症状も、生活の質に大きく影響します。

神経線維腫症の診断・診断基準

NF1は多くの場合、皮膚科・小児科で臨床症状から診断されます。カフェオレ斑が6個以上あること(思春期前は最大径5 mm以上、思春期後は15 mm以上)に加え、神経線維腫、雀卵斑様色素斑、視神経膠腫、虹彩小結節、特徴的な骨病変、親の罹患などの項目を組み合わせて判断します。日本皮膚科学会の診療ガイドラインや、2021年改訂の国際診断基準(脈絡膜異常とNF1遺伝子の病的変異が項目に追加)が用いられます。乳幼児期はカフェオレ斑しか目立たないことも多く、経過を見ながら診断を確定していきます。NF2は、両側の前庭神経鞘腫をMRIで確認すれば診断できます。片側のみの場合は、髄膜腫・他の神経鞘腫・上衣腫・若年性白内障の有無や家族歴、遺伝子検査を組み合わせて診断します。診断後は、病型ごとに全身の合併症を評価し、重症度分類に基づいて指定難病の申請を検討します。

  • 皮膚の診察・家族歴の聴取: カフェオレ斑の数と大きさ、雀卵斑様色素斑、皮膚の神経線維腫を確認します。両親の皮膚所見も確認し、遺伝によるものか新生突然変異によるものかを推定します。
  • 眼科検査(細隙灯・眼底・視野、OCT): NF1では虹彩小結節、脈絡膜異常、視神経膠腫による視力・視野の変化を評価します。NF2では若年性白内障や網膜過誤腫を確認します。
  • 頭部・脊髄MRI(造影): NF2では前庭神経鞘腫、髄膜腫、脊髄腫瘍の検出と、大きさの推移の追跡に不可欠です。NF1では、視覚症状などがある場合に視神経膠腫を評価します。NF1でみられるT2強調像の高信号域(UBO)は、通常は治療を必要としません。
  • 全身MRI・病変部のMRI: 叢状神経線維腫の広がりと体積を評価し、治療効果の判定にも用います。
  • FDG-PET/CT・生検: 叢状神経線維腫の内部でブドウ糖の取り込み(SUV)が高い部分は、異型神経線維腫やMPNSTの可能性があります。その場合、病理学的な確認(生検)を検討します。
  • 聴力検査(純音・語音聴力、聴性脳幹反応): NF2の聴力の推移を把握し、治療のタイミングや聴覚補助の方法を決めるうえでの指標になります。
  • 遺伝学的検査: 臨床像が典型的でない場合、レジウス症候群との区別、出生前の相談などで有用です。血液で変異が見つからなくても、モザイクの場合は腫瘍組織の解析で確認できることがあります。保険適用や実施体制については、遺伝カウンセリングとあわせて専門施設で確認します。
  • 血圧測定・血液/尿中カテコールアミン関連検査: NF1では、小児期から定期的に血圧を測定します。高血圧があれば、腎動脈狭窄や褐色細胞腫を調べます。
  • 整形外科的評価(脊柱X線など): 側弯や四肢の弯曲を評価します。急速に進む異栄養性側弯や脛骨の偽関節を早めに見つけることが大切です。

神経線維腫症と鑑別すべき疾患

  • レジウス症候群(SPRED1関連): 多発するカフェオレ斑と雀卵斑様色素斑を示しますが、神経線維腫や視神経膠腫は生じず、遺伝子検査で区別されます。
  • ヌーナン症候群などのRAS/MAPK経路の異常症(ラソパチー): 特徴的な顔立ち、心疾患、低身長が前面に出ます。NF1と症状が重なる「NF1-ヌーナン症候群」も存在します。
  • マッキューン・オルブライト症候群: カフェオレ斑は境界がギザギザ(海岸線状)で体の片側に偏り、線維性骨異形成と内分泌異常を伴います。
  • 構成的ミスマッチ修復欠損症候群: NF1に似たカフェオレ斑に加え、小児期の血液腫瘍・脳腫瘍・消化管腫瘍を高い頻度で発症します。家族歴(血族婚など)や遺伝子検査で区別します。
  • シュワノマトーシス(SMARCB1/LZTR1関連): 多発する神経鞘腫と強い痛みが特徴で、両側の前庭神経鞘腫は通常みられない点でNF2と区別されます。
  • 孤発性の聴神経腫瘍・多発髄膜腫: 高齢で片側のみの腫瘍は孤発例であることが多いですが、30歳未満の発症例ではNF2の可能性を検討します。

神経線維腫症の治療

神経線維腫症を根本から治す治療はまだありません。治療の基本は、症状や合併症の早期発見と、一人ひとりに合わせた介入です。腫瘍は良性でも、生じる場所によって重大な機能障害を起こすため、「治療のメリットが不利益を上回る時期」を見極めることが重要です。NF1は皮膚科・小児科・形成外科・整形外科・眼科・脳神経外科・腫瘍内科・精神科/発達支援など、NF2は脳神経外科・耳鼻咽喉科・放射線科・眼科などが関わる多職種連携が欠かせません。NF1の叢状神経線維腫では、分子標的薬であるMEK阻害薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。治療方針は、病変の部位・増大速度・症状・年齢をふまえ、専門医と十分に相談して決めます。

  • 皮膚の神経線維腫・色素斑の治療(NF1): 外見上の問題や、衣服でこすれて痛む腫瘍は、手術、電気メスや炭酸ガスレーザーによる切除などで取り除きます。色素斑にはレーザー治療が試みられることがありますが、再び色が出てくることが多く、効果は限定的です。
  • MEK阻害薬(セルメチニブ): 症状があり、手術で取りきれない小児の叢状神経線維腫に対して、国内で承認されています。腫瘍を縮小させ、痛みや機能障害を改善する効果が報告されています。一方で、皮膚障害、消化器症状、心機能・眼の障害、CK上昇などの副作用を定期的に確認する必要があります。
  • 叢状神経線維腫・MPNSTの外科治療: 叢状神経線維腫は血流が豊富で神経と入り組んでいるため、手術は機能温存を重視して慎重に計画します。MPNSTは周囲の正常組織を含めた広範囲の切除が治療の中心で、化学療法や放射線治療を組み合わせることもあります。
  • 視神経膠腫の治療(NF1): 多くは経過観察で十分です。視力の低下や腫瘍の増大がある場合は、カルボプラチンとビンクリスチンを中心とする化学療法が標準的に行われます。放射線治療は、二次がんや血管障害のリスクがあるため原則として避けます。
  • 整形外科治療(NF1): 側弯には装具療法や脊椎固定術を行います。脛骨の偽関節は治りにくく、骨移植や創外固定などの専門的な治療が必要です。
  • 前庭神経鞘腫の治療(NF2): MRIと聴力で増大・悪化を確認しながら、手術の時期と方法を検討します。手術では聴力や顔面神経をできる限り温存することを目指します。定位放射線治療は選択肢の一つですが、NF2では悪性化の懸念や、孤発例と比べた効果の差を考慮して慎重に判断します。
  • 聴覚補助・コミュニケーション支援(NF2): 補聴器、蝸牛神経が保たれている場合の人工内耳、限られた施設で行われる聴性脳幹インプラントなどがあります。読話(口の動きを読む)、手話、筆談、音声文字変換アプリの習得も早めに始めます。
  • ベバシズマブなどの薬物療法(NF2): 前庭神経鞘腫の増大抑制や聴力改善の報告があります。ただし国内では保険適用外であり、臨床研究などの枠組みで検討される段階です。
  • 対症療法と発達・療育支援: 神経障害性疼痛には鎮痛薬・鎮痛補助薬を用い、かゆみや高血圧などにも対応します。学習障害やADHDには、心理検査に基づく教育的支援、療育、必要に応じた薬物療法を行います。

神経線維腫症の予後・長期フォロー

NF1の多くの人は、通常の社会生活を送ることができます。ただし、悪性腫瘍や血管病変の影響で、平均余命は一般人口より10〜15年程度短いとする海外の報告があります。主な死因はMPNSTなどの悪性腫瘍で、早期発見がもっとも重要な課題です。生活の質(QOL)には、外見の変化、痛み、学習・社会生活上の困難が大きく影響します。NF2の予後は、発症年齢や腫瘍の数によって大きく異なります。聴力の喪失や神経障害が生活の質を左右しますが、診断と手術技術の進歩、専門施設での集学的管理により、生命予後は以前より改善しているとされています。

NF1では、小児期は年1回程度、皮膚・成長・血圧・発達・脊柱を診察し、6〜8歳頃までは眼科検査を定期的に受けることが推奨されます。成人期は、叢状神経線維腫の変化の確認、血圧測定、女性では30代からの乳がん検診(MRIを含む)を検討します。NF2では、10代から(遺伝が分かっている家系ではより早期から)定期的な頭部・脊髄MRI、聴力検査、眼科検査を一生続けます。小児期から成人期への移行(トランジション)期にフォローが途切れやすいため、成人診療科への計画的な引き継ぎが重要です。

神経線維腫症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

皮膚の神経線維腫は、ひっかき・打撲・衣服の摩擦で出血や炎症を起こすことがあります。保湿、ゆったりした衣服、清潔の保持を心がけましょう。過度の日焼けは避けるのが無難です。NF1では、家庭でも血圧を測る習慣をつけ、しこりの急な増大や痛みを自分で確認することが大切です。学習面の困難は「努力不足」ではなく病気の特性によるものです。学校と情報を共有し、特別支援教育や合理的配慮を活用しましょう。NF2では、聴力が保たれているうちに、補聴手段や代替となるコミュニケーション方法を準備しておくことが勧められます。平衡障害がある場合は、水泳・高所作業・暗所での歩行に注意してください。運転の可否は主治医と相談しましょう。妊娠中はNF1の神経線維腫が増大したり血圧が上昇したりすることがあり、NF2では腫瘍が増大する可能性があるため、妊娠前に主治医と計画を立てておくと安心です。遺伝の可能性、子どもへの伝え方、家族の検査については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用できます。

利用できる制度・相談窓口

神経線維腫症(NF1・NF2)は指定難病(告示番号34)です。NF1ではDNB分類に基づく重症度分類で、NF2では独自の重症度分類で一定以上の重症度と判定された場合に、医療費助成の対象となります。重症度の基準を満たさなくても、高額な医療が続く場合は「軽症高額該当」の制度で認定される場合があります。申請には難病指定医の診断書(臨床調査個人票)が必要です。18歳未満の場合は、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となりうるため、主治医に確認してください。障害の程度に応じて、身体障害者手帳(聴覚・視覚・肢体不自由など)、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳(発達障害・知的障害を伴う場合)、障害年金、特別児童扶養手当、障害福祉サービスを利用できる場合があります。相談窓口には、都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、発達障害者支援センターがあります。疾患の情報は難病情報センターでも確認でき、患者会での情報交換も心の支えになります。

神経線維腫症に伴う心のケア・心理社会的支援

長く続く病気と付き合うなかで、抑うつ、不安、適応障害が生じることは珍しくありません。神経線維腫症に特有の悩みとしては、まずNF1における外見の変化があります。人目が気になる、いじめを受ける、恋愛や就職への不安を抱えるといったことが起こりやすく、思春期に自己肯定感が下がりやすい傾向があります。学習障害やADHDの特性による二次的な自信喪失や、親が「遺伝させてしまった」と自分を責めてしまうことも少なくありません。NF2では、聴力を失っていくことへの喪失感、コミュニケーションの孤立、繰り返す手術や将来の見通しの立てにくさが大きな負担になります。つらさを我慢せず、主治医、臨床心理士・公認心理師、精神科・心療内科、患者会などに早めに相談してください。家族やきょうだいへの支援も同じように大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

神経線維腫症の受診の目安

  • しこりが急に大きくなる、硬くなる、夜も続く強い痛みやしびれ・脱力が出てきた場合は、悪性化の可能性があるため早めに受診してください。
  • 子どもが見えにくそうにする、片目だけ斜視になる、目が突出してきた、年齢に比べて早く思春期の兆候が現れた場合は、眼科・小児科を受診してください。
  • 激しい頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん、突然の手足の麻痺や言葉の障害が現れた場合は、救急受診してください。
  • NF2で急に聞こえが悪くなった、顔がゆがむ、飲み込みにくい、ふらつきが強くなった場合は、速やかに主治医を受診してください。
  • 動悸・発汗・頭痛を伴う発作的な血圧上昇や、強い高血圧が続く場合は受診してください。
  • 手足の力が入らない、歩きにくい、排尿・排便の異常が出てきた場合は、脊髄が圧迫されている可能性があり至急受診が必要です。

神経線維腫症についてのよくある質問

Q. カフェオレ斑があると必ず神経線維腫症ですか?

A. いいえ。カフェオレ斑が1〜2個あること自体は、健康な人でもよくみられます。大きさの基準を満たすものが6個以上ある場合にNF1を疑い、ほかの所見とあわせて判断します。気になる場合は皮膚科または小児科でご相談ください。

Q. NF1とNF2は同じ病気の軽症と重症ですか?

A. 違います。原因遺伝子(NF1は17番染色体、NF2は22番染色体)も、主な症状も異なる別の病気です。NF1の人がNF2になったり、その逆が起こったりすることはありません。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 常染色体顕性遺伝のため、お子さんに伝わる確率は1回の妊娠ごとに50%です。ただし、同じ家系でも症状の重さは大きく異なり、予測は困難です。出生前診断を含む選択肢については、遺伝カウンセリングで十分に情報を得たうえで考えることをお勧めします。

Q. 薬で腫瘍は小さくなりますか?

A. NF1の小児の叢状神経線維腫には、MEK阻害薬(セルメチニブ)が国内で承認されており、腫瘍の縮小が期待できる場合があります。皮膚の神経線維腫やNF2の腫瘍に対する薬物療法は、研究段階のものが中心です。適応や副作用については専門医とよく相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。