天疱瘡
Pemphigus
天疱瘡(Pemphigus)|天疱瘡(てんぽうそう)は、皮膚の細胞どうしをつなぐ接着分子「デスモグレイン」に対する自己抗体(IgG)ができることで、皮膚や口の中などの粘膜に破れやすい水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)が次々に生じる自己免疫性水疱症です。主に中高年に発症し、口腔内の痛みによる食事困難や広い範囲の皮膚びらんのため、生活の質が大きく損なわれます。治療しなければ命に関わる疾患ですが、ステロイドを中心とする免疫抑制療法の進歩により、多くの患者さんで病勢のコントロールが可能になっています。日本では指定難病(告示番号35)に指定されています。
天疱瘡の要点
天疱瘡は、皮膚の細胞間接着分子デスモグレインに対する自己抗体により、皮膚や口腔粘膜に破れやすい水疱とびらんが生じる自己免疫性水疱症です。主に中高年に発症し、ステロイドを中心とした免疫抑制療法で治療され、日本では指定難病(告示番号35)に指定されています。
| 分野 | 皮膚疾患 |
|---|---|
| 主な病型 | 尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡(ほか腫瘍随伴性、IgA、薬剤誘発性など) |
| 好発年齢 | 主に中高年 |
| 主な症状 | 皮膚・口腔粘膜の水疱、びらん、痂皮、口内の痛み |
| 主な検査 | 皮膚生検(病理・蛍光抗体法)、血清抗デスモグレイン抗体(ELISA) |
| 主な治療 | 副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制療法 |
| 受診する主な診療科 | 皮膚科 |
天疱瘡とは
天疱瘡は、表皮細胞(角化細胞)どうしをつなぐ接着装置「デスモソーム」の膜タンパク、デスモグレイン1(Dsg1)やデスモグレイン3(Dsg3)に対するIgG自己抗体によって起こる臓器特異的自己免疫疾患です。抗体によって細胞間の接着が失われ(棘融解)、表皮内に水疱ができます。病理学的には表皮内水疱と棘融解、免疫学的には表皮細胞間へのIgG沈着と血中の抗デスモグレイン抗体が特徴です。水疱の膜が薄く破れやすいため、実際の診察では水疱よりも、びらんや痂皮(かさぶた)として見られることが多い疾患です。水疱ができる深さは病型によって異なります。尋常性天疱瘡では表皮の深い層(基底層の直上)に、落葉状天疱瘡では表層(角層下)に水疱ができます。また、表皮の下に水疱ができる類天疱瘡とは別の疾患です。
主要な病型は、尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡の2つで、日本ではそれぞれが相当数を占めます。尋常性天疱瘡は口腔粘膜病変が必発に近く、病変が粘膜に限られる「粘膜優位型」と、皮膚にも広がる「粘膜皮膚型」に分けられます。落葉状天疱瘡は粘膜病変を欠き、頭部・顔面・胸背部などに薄い鱗屑や痂皮を伴う紅斑・浅いびらんが生じます。亜型として、腋窩や陰股部に増殖性・疣状の病変をつくる増殖性天疱瘡(尋常性の亜型)、顔面の脂漏部位に紅斑を生じる紅斑性天疱瘡(落葉状の亜型)、環状紅斑と強いかゆみを特徴とする疱疹状天疱瘡があります。さらに、悪性リンパ腫やキャッスルマン病、胸腺腫などに伴い難治性の口内炎と多彩な皮疹を呈する腫瘍随伴性天疱瘡、IgA型の自己抗体によるIgA天疱瘡、D-ペニシラミンなどの薬剤で誘発される薬剤誘発性天疱瘡も知られています。かつては致死率の高い疾患でしたが、1950年代以降の副腎皮質ステロイドの導入で予後が大きく改善し、1990年代に自己抗原デスモグレインが同定されて、ELISAなどによる血清診断が可能になりました。
天疱瘡の疫学・患者数
天疱瘡はまれな疾患で、海外の報告では年間発症率は人口100万人あたり数人程度とされ、地域や民族によって差があります(ユダヤ系や地中海沿岸地域で多いとされます)。ブラジルなどの一部地域では、落葉状天疱瘡の風土病型(fogo selvagem)が知られています。日本では指定難病の医療受給者証所持者が数千人規模で、尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡が大部分を占めます。発症年齢の中心は40〜60歳代ですが、高齢者や若年者にもみられ、小児発症はまれです。性差は大きくありませんが、やや女性に多いという報告があります。基本的に遺伝する病気ではなく、家族内発症はまれです。
天疱瘡の原因・病態生理
天疱瘡の本質は、デスモグレインに対する免疫寛容の破綻です。特定のHLAクラスII遺伝子型(HLA-DR4やDR14に属する一部のアレルなど)との関連が報告されており、遺伝的な「なりやすさ」が関与すると考えられています。ただし単一遺伝子による遺伝病ではなく、親から子に病気が遺伝するわけではありません。デスモグレイン反応性のヘルパーT細胞がB細胞の活性化を助け、B細胞が形質細胞へ分化して病原性のIgG自己抗体(主にIgG4サブクラス)を産生します。発症の引き金ははっきりしないことが多いものの、薬剤(チオール基をもつ薬剤など)、悪性腫瘍、紫外線、感染症などが誘因として報告されています。
病態の理解にはデスモグレイン代償説が重要です。皮膚ではDsg1が表皮の上層に、Dsg3が下層(基底層付近)に多く発現します。一方、口腔粘膜ではDsg3が全層に強く発現し、Dsg1はわずかです。片方のデスモグレインが抗体で機能を失っても、同じ部位にもう片方があれば接着は保たれます。このため、抗Dsg3抗体のみでは、Dsg3への依存度が高い粘膜に病変が生じます(粘膜優位型尋常性天疱瘡)。抗Dsg3抗体と抗Dsg1抗体の両方があると、皮膚の深層にも水疱が生じます(粘膜皮膚型尋常性天疱瘡)。抗Dsg1抗体のみでは、Dsg3で代償されない皮膚の上層だけが剥がれます(落葉状天疱瘡)。抗体がデスモグレインに結合すると、接着の立体的な阻害、デスモソームからの分子の内在化・枯渇、細胞内シグナル(p38 MAPKなど)の活性化が起こり、細胞がばらばらになる棘融解が生じます。興味深いことに、黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素もDsg1を切断するため、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)や水疱性膿痂疹は落葉状天疱瘡に似た浅い剥離を起こします。腫瘍随伴性天疱瘡では、デスモグレインに加えてエンボプラキン、ペリプラキンなどのプラキンファミリー分子に対する抗体や、細胞性免疫も病態に関わるとされます。
天疱瘡の症状
- 口腔粘膜のびらん・潰瘍: 尋常性天疱瘡の初発症状として最も多く、頬粘膜・口蓋・歯肉・舌などに難治性で痛みの強いただれが生じます。口内炎として歯科や耳鼻科を数か月受診した後に診断されることも少なくありません。
- 弛緩性水疱: 正常に見える皮膚や紅斑の上に、張りのない破れやすい水疱が生じます。すぐに破れてびらんとなるため、水疱そのものを目にしない場合もあります。
- 皮膚のびらん・痂皮: 水疱が破れた後に、拡大傾向のある痛いびらんが残り、浸出液や出血を伴ってかさぶたになります。広範囲になると熱傷に似た状態になります。
- ニコルスキー現象: 一見正常な皮膚をこすると表皮が剥がれたり、水疱ができたりする現象で、病勢の強い天疱瘡でみられます。水疱を押すと周囲に広がる現象(Asboe-Hansen徴候)もあります。
- 鱗屑・痂皮を伴う紅斑(落葉状天疱瘡): 頭部、顔面、胸背部などの脂漏部位に、薄い鱗屑やかさぶたを伴う紅斑と浅いびらんが生じます。脂漏性皮膚炎や湿疹と誤認されることがあります。
- 咽頭・喉頭・食道の病変: のどの痛み、嗄声(声がれ)、嚥下時痛が生じ、食事や水分摂取が困難になることがあります。
- 眼・鼻・外陰部などの粘膜病変: 結膜炎、鼻出血・鼻閉、陰部や肛門部のびらんが生じることがあり、特に腫瘍随伴性天疱瘡では重い結膜炎を伴いやすいとされます。
- 疼痛・灼熱感: かゆみよりも痛みが目立つことが多く、着替えや入浴、睡眠にも支障をきたします。
- 摂食障害と体重減少: 口腔内の痛みによって食事量が減り、脱水、低栄養、体重減少に至ることがあります。
- 爪囲・爪の病変: 爪の周りの炎症や爪の変形・脱落がみられることがあります。
- 増殖性・疣状病変(増殖性天疱瘡): 腋窩、鼠径部、口角などの間擦部に、膿疱やびらんから乳頭状・疣状に盛り上がる病変が生じます。
天疱瘡の経過と合併症
天疱瘡は自然に治ることはまれで、無治療では慢性・進行性に病変が拡大します。ステロイドが導入される前は多くの患者さんが数年以内に亡くなったとされます。尋常性天疱瘡では口腔病変が先行し、数週〜数か月で皮膚に広がることがあります。粘膜優位型から粘膜皮膚型へ移行したり、まれに尋常性と落葉状の間で病型が移行したりする例もあり、これは自己抗体の種類の変化で説明されます。治療開始後は、新しい水疱が出なくなり、既存のびらんが上皮化する「病勢制御」の段階を経て、ステロイドを慎重に減量する維持期に入ります。経過中には再燃(再発)と寛解を繰り返すことがあり、抗デスモグレイン抗体価は病勢をある程度反映します。長期的には、治療を続けながら、あるいは治療を中止して寛解を保つ例も増えています。
合併症は、病気そのものによるものと治療によるものに分けられます。病気による合併症としては、広範なびらんからの細菌感染(敗血症)、単純ヘルペスウイルスの重複感染(カポジ水痘様発疹症)、体液・蛋白の喪失による脱水・低アルブミン血症、低栄養があります。長期の免疫抑制療法による合併症としては、感染症(ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、結核、B型肝炎ウイルスの再活性化など)、ステロイド糖尿病、骨粗鬆症と骨折、大腿骨頭壊死、高血圧、脂質異常症、白内障・緑内障、消化性潰瘍、ステロイド精神症状、筋力低下などが問題となります。現在の天疱瘡では、治療関連合併症、特に感染症が死亡の主要な原因とされています。腫瘍随伴性天疱瘡では、閉塞性細気管支炎による進行性の呼吸不全が予後を大きく左右します。
天疱瘡の診断・診断基準
診断は、日本皮膚科学会の天疱瘡診療ガイドラインに示された診断基準に基づき、①臨床所見(多発する弛緩性水疱、進行性・難治性のびらん、口腔などの可視粘膜の非感染性水疱・びらん、ニコルスキー現象)、②病理組織所見(棘融解による表皮内水疱)、③免疫学的所見(直接蛍光抗体法による表皮細胞間へのIgG沈着、血中の抗表皮細胞間抗体・抗デスモグレイン抗体)を組み合わせて行います。原則として、皮膚生検による病理検査と蛍光抗体法、および血清学的検査で確定します。病型は臨床像と抗Dsg1・抗Dsg3抗体のパターンから判定し、重症度はPDAI(Pemphigus Disease Area Index)などの指標で皮膚・粘膜病変の範囲を評価します。重症度は治療方針や医療費助成の判定にも用いられます。高齢者や非典型例、治療抵抗例では腫瘍随伴性天疱瘡の可能性を念頭に置き、悪性腫瘍のスクリーニングも検討します。
- 皮膚生検(病理組織検査): 新しい水疱の辺縁から採取し、棘融解による表皮内水疱を確認します。尋常性天疱瘡では基底層直上、落葉状天疱瘡では角層下〜顆粒層に裂隙がみられます。
- 直接蛍光抗体法(DIF): 病変周囲の皮膚または粘膜を用いて、表皮細胞間にIgGや補体(C3)が網目状に沈着していることを示します。診断上もっとも信頼性の高い検査の一つです。
- 間接蛍光抗体法(IIF): 患者血清中の表皮細胞間に結合する自己抗体を検出します。抗体価がある程度病勢を反映します。
- 抗デスモグレイン1・3抗体測定(ELISA/CLEIA): 血清中の抗Dsg1抗体、抗Dsg3抗体を定量し、病型の判定(粘膜優位型・粘膜皮膚型・落葉状)と治療効果のモニタリングに用います。保険診療で測定可能です。
- ニコルスキー現象の確認: 診察時に皮膚を軽くこすって表皮剥離の有無を確認します。病勢の強さを示す臨床所見であり、診断基準の項目にも含まれます。
- 重症度評価(PDAI等): 皮膚・頭皮・粘膜の病変数や面積を点数化して重症度を判定し、治療の強さの決定や経過の評価に用います。
- 腫瘍随伴性天疱瘡の検索: 免疫ブロット法などによるエンボプラキン・ペリプラキン抗体の検出や、CTなどでのリンパ腫・キャッスルマン病・胸腺腫の検索を行います。これらの抗体検査の一部は専門施設で実施されます。
- 治療前の全身評価: 免疫抑制療法に備えて、B型・C型肝炎ウイルス、結核(インターフェロンγ遊離試験)、糖尿病、骨密度、眼科検査、胸部画像などを評価します。
- 細菌・ウイルス検査: びらん部の細菌培養や、ヘルペスウイルスの迅速検査・PCRで二次感染の有無を確認します。感染症との鑑別にも有用です。
天疱瘡と鑑別すべき疾患
- 水疱性類天疱瘡・粘膜類天疱瘡: 表皮下水疱で緊満性の水疱を生じ、直接蛍光抗体法で基底膜部への線状沈着、抗BP180抗体などを認める点で区別されます。
- 家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病): ATP2C1遺伝子異常による遺伝性疾患で、間擦部に棘融解性病変を生じますが、自己抗体はなく、直接蛍光抗体法は陰性です。
- スティーヴンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症: 薬剤などを契機に急性発症し、発熱、標的状紅斑、表皮の全層壊死を示し、自己抗体は陰性です。
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群・水疱性膿痂疹: 細菌毒素によってDsg1が切断され落葉状天疱瘡に似ますが、乳幼児に多く、細菌培養陽性で自己抗体は陰性です。
- ヘルペス性口内炎・ベーチェット病・扁平苔癬など: 口腔病変のみの時期には鑑別が難しく、ウイルス検査、アフタの性状、全身症状、生検・蛍光抗体法で区別します。
- 脂漏性皮膚炎・湿疹・全身性エリテマトーデス: 落葉状・紅斑性天疱瘡は顔面や体幹の鱗屑性紅斑として誤認されやすく、長引く場合は生検と抗Dsg1抗体の測定が有用です。
天疱瘡の治療
治療の目標は、自己抗体の産生と働きを抑えて新しい水疱の出現を止め、びらんを上皮化させ、その後は副作用を最小限にしながら寛解を維持することです。日本のガイドラインでは、まず重症度に応じて経口副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)で寛解導入を図ります。効果が不十分な場合やステロイドの減量が難しい場合には、免疫抑制薬、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)、血漿交換療法、リツキシマブなどを組み合わせます。病勢が制御された後は、数か月から年単位でステロイドを段階的に減量し、再燃しない最小量で維持します。軽症の落葉状天疱瘡などでは外用療法を中心にする場合もあります。並行して、感染予防、骨粗鬆症対策、口腔ケア、栄養管理などの支持療法が不可欠です。具体的な薬剤の選択や用量は、病型、重症度、年齢、合併症によって異なるため、皮膚科専門医と十分に相談して決めることが大切です。
- 経口副腎皮質ステロイド: 治療の中心で、中等症〜重症ではプレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日程度で開始することが多いとされます。病勢制御後、再燃に注意しながら時間をかけて減量します。
- ステロイドパルス療法: 重症例や急速に進行する例で、メチルプレドニゾロンを短期間大量に点滴し、早期の病勢制御を図る方法です。
- 免疫抑制薬: アザチオプリン、シクロスポリンなどをステロイドと併用し、ステロイドの減量を助ける目的で用います。国内での保険適用の状況は薬剤ごとに異なり、主治医が判断します。
- 免疫グロブリン大量静注療法(IVIG): ステロイドで十分な効果が得られない天疱瘡に対して国内で保険適用があり、通常5日間連続で点滴します。免疫抑制作用が少なく、感染リスクの高い患者さんでも用いやすい治療です。
- 血漿交換療法: 血中の自己抗体を物理的に除去する治療で、難治例や重症例で他の治療と組み合わせて行われます。
- リツキシマブ(抗CD20抗体): 自己抗体を作るB細胞を減らす生物学的製剤で、海外では尋常性天疱瘡の早期治療に位置づけられています。日本でも既存治療で効果不十分な天疱瘡に対して使用が認められています。B型肝炎の再活性化や感染症に注意が必要です。
- 外用療法・局所療法: びらん部にはステロイド外用薬や創傷被覆材を用い、口腔内にはステロイド含有の軟膏や含嗽薬などを使います。軽症の落葉状天疱瘡では強力なステロイド外用薬が主体となることもあります。
- 合併症予防の支持療法: ニューモシスチス肺炎予防のST合剤、骨粗鬆症予防のビスホスホネート製剤などのほか、胃粘膜保護薬、血糖・血圧管理、肝炎ウイルス対策を行います。
- スキンケア・口腔ケア・栄養管理: びらん部の洗浄と保護、歯科での専門的な口腔衛生管理を行い、痛みが強いときは刺激の少ない食事や栄養補助食品を利用し、二次感染と低栄養を防ぎます。
天疱瘡の予後・長期フォロー
ステロイドと免疫抑制療法の進歩により、天疱瘡の生命予後は大きく改善しました。多くの患者さんで病勢制御が得られ、治療開始から数年以内に、少量のステロイドで寛解を維持できるか、治療を中止しても寛解が続く状態に達する例も少なくありません。リツキシマブの導入により、早期に寛解に至りステロイドを減量できる例も増えています。一方で、高齢者や重症例、難治例では、長期の免疫抑制に伴う感染症などが致命的になることがあり、現在の死亡原因の多くは治療関連合併症とされます。落葉状天疱瘡は尋常性に比べて一般に軽症で経過することが多いとされます。腫瘍随伴性天疱瘡は、基礎疾患の悪性度や閉塞性細気管支炎の有無によって予後が大きく異なり、予後不良な例も多いとされます。QOLの面では、口腔の痛みによる食事制限、外見の変化、ステロイドによる体型の変化や易感染性が日常生活に影響します。
長期フォローアップでは、皮膚・粘膜病変の診察とともに、抗Dsg1・抗Dsg3抗体価を定期的に測定して病勢の評価や減量の判断の参考にします。ただし、抗体価と臨床症状が必ずしも一致しないこともあり、総合的に判断します。寛解後も再燃することがあるため、自己判断で薬を中断せず、定期受診を続けることが重要です。ステロイドの長期使用中は、骨密度、血糖、血圧、脂質、眼圧・水晶体(眼科受診)、体重、感染症の兆候を定期的にチェックします。リツキシマブ使用後は、B細胞の回復や再燃時期、B型肝炎ウイルスのモニタリングに留意します。ワクチン接種(不活化ワクチンは原則可能、生ワクチンは免疫抑制中は原則禁忌)についても主治医と相談します。
天疱瘡の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、皮膚への摩擦や外傷を避けることが基本です。柔らかい綿素材の衣類を選び、きつい下着や靴を避け、入浴時はこすらずに泡でやさしく洗い、びらん部は清潔に保って指示された外用薬や被覆材で保護します。口腔病変があるときは、熱いもの、辛いもの、酸味の強いもの、硬い食べ物(せんべい、揚げ物の衣など)を避け、刺激の少ない軟らかい食事にします。柔らかい歯ブラシと低刺激の洗口液による口腔ケアを続け、歯科と連携した専門的な管理を受けましょう。ステロイド服用中は、手洗い・うがい・マスク着用で感染を予防し、人混みを避けるよう心がけてください。また、カロリーと塩分を控え、カルシウムやビタミンDを適切にとり、無理のない運動で筋力と骨を保つことも大切です。紫外線が皮疹を悪化させることがあるため、日焼け対策も有用です。天疱瘡は感染症ではないため、家族や周囲にうつることはありません。基本的に遺伝性の疾患でもなく、家族が発症する可能性は低いと考えられています。妊娠を希望する場合は、病勢が安定した時期を主治医と相談して計画することが重要です。母体の自己抗体が胎盤を通過し、新生児に一過性の水疱(新生児天疱瘡)が出ることがありますが、通常は抗体の消失とともに数週間で自然に軽快します。
利用できる制度・相談窓口
天疱瘡は指定難病(告示番号35)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上(中等症以上)と判定された場合に、難病法に基づく特定医療費(医療費助成)の対象となります。軽症であっても、医療費が高額な状態が続く場合(軽症高額該当)には対象となることがあります。申請には、都道府県等から指定を受けた難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要で、窓口は住所地の保健所や市区町村の担当課です。助成が認められると、所得に応じた月額自己負担上限額が設定されます。そのほか、医療保険の高額療養費制度、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(指定難病は対象疾病に含まれます)が利用でき、65歳以上で介護が必要な場合は介護保険サービスも利用できます。病状により日常生活や就労に長期間支障がある場合は、障害年金の対象となる可能性もあるため、年金事務所などで相談してください。各都道府県の難病相談支援センターや医療機関の医療ソーシャルワーカーは、制度の利用、就労・両立支援、患者会の情報などについて相談に応じています。
天疱瘡に伴う心のケア・心理社会的支援
天疱瘡は、強い痛み、食べることの困難、目に見える皮膚病変という身体的苦痛に加え、長期間の治療や再燃への不安を伴う疾患であり、抑うつ、不安、適応障害、不眠を生じやすいことが知られています。この疾患に特有の心理社会的課題として、顔面や手など人目につく部位の病変や、ステロイドによる満月様顔貌・体重増加といった外見の変化から人前に出ることを避けるようになること、「うつるのでは」という周囲の誤解、入院や感染予防に伴う社会的孤立、仕事や家事の中断などが挙げられます。さらに、ステロイドそのものが気分の高揚や落ち込み、不眠などの精神症状を引き起こすことがあり、気持ちの変化が病気のつらさによるものか薬の影響によるものかを区別するためにも、主治医に率直に伝えることが大切です。必要に応じて精神科・心療内科、臨床心理士(公認心理師)、医療ソーシャルワーカー、難病相談支援センター、患者会などを利用し、一人で抱え込まないようにしましょう。家族も疲弊しやすいため、介護者自身の相談先を持つことも勧められます。
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天疱瘡の受診の目安
- 2週間以上治らない口内炎や、歯ぐきのただれ、のどの痛みが続く場合は、皮膚科や歯科口腔外科を受診してください。
- 皮膚に破れやすい水疱やただれが次々にでき、なかなか治らない場合は、早めに皮膚科専門医を受診してください。
- 治療中に水疱やびらんが再び増えてきたときは、次の予約を待たずに主治医に連絡してください。
- 38度以上の発熱、悪寒、びらん部の急な痛みの増強や膿、小さな水疱が密集してできる(ヘルペス感染の疑い)などの症状がある場合は、速やかに受診してください。
- 口の痛みで水分や食事がとれない、尿が少ない、ふらつくなど脱水の兆候がある場合や、息切れ・咳が続く場合は、救急受診を検討してください。
- ステロイドを飲み忘れたり、嘔吐で服用できなかったりした場合や、強い倦怠感がある場合は、自己判断せずに主治医に相談してください。
天疱瘡についてのよくある質問
Q. 天疱瘡は人にうつりますか?遺伝しますか?
A. 天疱瘡は自己免疫による病気であり、感染症ではないため、触れても周囲の人にうつることはありません。体質(HLA型など)が関係するとされていますが、親から子へ遺伝する病気ではなく、家族が発症することはまれです。
Q. ステロイドはいつまで飲む必要がありますか?
A. 病勢が落ち着いた後、再燃に注意しながら数か月〜数年かけて少しずつ減量するのが一般的で、最終的に中止できる方もいれば、少量で長く続ける方もいます。急に中止すると再燃や副腎不全の危険があるため、必ず主治医の指示に従ってください。
Q. 天疱瘡と類天疱瘡はどう違いますか?
A. 天疱瘡は表皮の中の細胞どうしの接着(デスモグレイン)が障害され、破れやすい水疱ができ、粘膜病変を伴いやすい病気です。類天疱瘡は表皮と真皮の境目(基底膜)が標的となり、高齢者に多く、張りのある破れにくい水疱ができます。両者は治療方針や経過も異なります。
Q. リツキシマブ治療を受けるときの注意点は?
A. リツキシマブは抗体を作るB細胞を減らす点滴治療で、難治例でステロイドの減量に役立つことがあります。一方で、感染症やB型肝炎ウイルスの再活性化、点滴時の反応などに注意が必要で、事前の検査と治療後の経過観察が欠かせません。適応については主治医とよく相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。