スティーヴンス・ジョンソン症候群

Stevens-Johnson Syndrome, SJS

スティーヴンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome, SJS)|スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)は、主に医薬品、ときに感染症をきっかけに、高熱とともに目・口唇・陰部などの粘膜と全身の皮膚に、急速に広がる紅斑・水疱・びらんが生じる重症の皮膚粘膜疾患です。年齢や性別を問わず発症し、適切な治療を受けても命に関わることがあります。救命後も、失明を含む視力障害やドライアイなど、生涯にわたる後遺症が残ることがあります。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の要点

スティーヴンス・ジョンソン症候群は、主に医薬品を契機に、高熱とともに目・口・陰部の粘膜と全身の皮膚に紅斑・水疱・びらんが急速に広がる重症の皮膚粘膜疾患です。重症多形滲出性紅斑の一型として指定難病に含まれ、失明を含む視力障害などの後遺症が残ることもあります。

別名・略称SJS、スチーブンス・ジョンソン症候群、Stevens-Johnson症候群、皮膚粘膜眼症候群、重症多形滲出性紅斑
分野皮膚疾患
遺伝形式遺伝性疾患ではない(主に医薬品が誘因)
好発年齢年齢・性別を問わず発症
主な症状高熱、眼・口唇・外陰部の粘膜びらん、全身の紅斑・水疱・びらん
主な検査臨床所見による診断、皮膚生検(表皮の壊死の確認)、血液検査
主な治療原因薬剤の中止、副腎皮質ステロイド、重症例では免疫グロブリン大量静注療法など
受診する主な診療科皮膚科、眼科

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スティーヴンス・ジョンソン症候群とは

SJSは、細胞を傷害するT細胞などが表皮細胞の細胞死(壊死)を引き起こす重症薬疹の代表的な病型です。日本では「重症多形滲出性紅斑」の一型として扱われ、その急性期が指定難病に指定されています。発熱とともに、眼・口唇・外陰部などの皮膚粘膜移行部に、出血や血痂(かさぶた)を伴う重篤なびらんが生じます。皮膚には、中央が暗紅色で平坦な非典型的標的状紅斑(flat atypical targets)や紫斑状の紅斑が多発し、表皮が壊死して水疱・びらんとなります。同じ病態がより広範囲に及んだものが中毒性表皮壊死症(TEN)であり、SJSとTENは一連のスペクトラム上にある疾患と理解されています。

歴史的には、1922年に米国の小児科医StevensとJohnsonが、発熱・口内炎・化膿性結膜炎・皮疹を呈した小児2例を報告したことに病名が由来します。かつては多形紅斑の重症型(多形紅斑重症型)と同一視されていました。しかし1990年代に、表皮剥離面積による国際分類が提唱されました。剥離が体表面積の10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TEN重複型、30%以上をTENとするもので、典型的な標的状病変を示し主に単純ヘルペスウイルス感染に関連する多形紅斑とは、別の疾患として区別されるようになりました。わが国の診断基準(2016年改訂)では、表皮剥離・びらんが体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENと定義しており、国際分類と境界がやや異なる点に注意が必要です。なお近年、マイコプラズマ感染に伴い、皮疹が乏しく粘膜炎が主体となる病型が「Mycoplasma pneumoniae-induced rash and mucositis(MIRM)」として区別して論じられることもあります。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の疫学・患者数

SJSはまれな疾患で、海外の疫学研究では年間発症率は人口100万人あたり1〜6人程度、TENは100万人あたり1人前後と推計されています。わが国でも全国調査が繰り返し行われ、毎年一定数の新規発症が報告されています。乳幼児から高齢者まで全年齢で発症し、性差は明らかではないとされます。小児では、薬剤に加えてマイコプラズマなどの感染症が誘因となる割合が成人より高い傾向があります。高齢者、悪性腫瘍を持つ人、HIV感染者などの免疫不全状態の人、多剤を服用している人では、発症リスクや重症化リスクが高いと報告されています。死亡率は、SJSで数%程度、TENでは20〜30%前後とする報告が多く、年齢・剥離面積・基礎疾患が予後を大きく左右します。眼後遺症は、急性期に重い眼病変があった患者の相当数に残るとされ、長期的な患者数の把握は慢性期の医療ニーズの観点からも重要です。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の原因・病態生理

原因の大半は医薬品です。原因になりやすい薬剤として、抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトイン、フェノバルビタールなど)、高尿酸血症治療薬のアロプリノール、サルファ剤(ST合剤など)、抗菌薬(β-ラクタム系、ニューキノロン系など)、非ステロイド性抗炎症薬(とくにオキシカム系)、抗HIV薬のネビラピンなどが知られています。わが国では、解熱鎮痛薬や市販の総合感冒薬の服用後に発症した例、とくに重い眼病変を伴う例も多く報告されています。近年は免疫チェックポイント阻害薬による発症も報告されています。薬剤以外では、マイコプラズマ肺炎などの感染症が主な誘因で、原因が特定できない例もあります。SJSは遺伝病ではありませんが、遺伝的素因として特定のHLA型との強い関連が知られています。代表例は、カルバマゼピンとHLA-B*15:02(漢民族・東南アジア系に多い)、カルバマゼピンとHLA-A*31:01(日本人や欧州系でも関連が報告)、アロプリノールとHLA-B*58:01の組み合わせです。日本人で感冒薬に関連し重い眼合併症を伴うSJSでは、HLA-A*02:06などとの関連が報告されています。

発症機序の中心は、薬剤に特異的に反応する細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞)やNK細胞による表皮細胞の大量の細胞死です。薬剤またはその代謝物は、HLA分子やT細胞受容体に直接結合する(p-i概念)、蛋白と結合してハプテンとして働く、HLAが提示するペプチドの種類を変える、などの経路で免疫系に「異物」と認識されると考えられています。活性化したT細胞やNK細胞は、グラニュライシン、パーフォリン/グランザイムB、Fasリガンドなどを放出し、表皮細胞にアポトーシスを起こします。さらに、単球由来のアネキシンA1とその受容体FPR1を介したネクロプトーシスの関与も報告されています。グラニュライシンは水疱内容液や血清で高値を示し、病態の主要なメディエーターの一つとされます。表皮全層が壊死すると、表皮は真皮から分離して水疱・びらんとなります。同じ反応が結膜・角膜・口腔・気道・消化管・外陰部などの粘膜上皮にも生じ、多臓器にわたる障害の原因となります。原因薬の初回服用から発症までの期間は、典型的には4日〜4週間程度(最大8週間程度まで)です。過去に感作されている場合の再投与では、数時間〜数日で発症することがあります。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の症状

  • 前駆症状(発熱・咽頭痛・倦怠感): 皮疹の1〜3日前から、38℃以上の発熱、のどの痛み、全身のだるさなど、かぜに似た症状が先行することが多くあります。このため初期には感冒と誤認されやすく、かぜ薬の追加服用で悪化する例もあります。
  • 眼の充血・眼脂(結膜炎): 両眼の強い充血、目やに、異物感、まぶしさで始まることが多く、皮疹より先行することもあります。進行すると偽膜形成や角膜・結膜上皮の欠損が生じ、後遺症の最大の原因となります。
  • 口唇・口腔粘膜のびらん: 口唇に出血を伴うびらんと血痂が生じ、口腔内にも広範なびらんができます。強い痛みのため、飲食や会話が困難になります。
  • 外陰部・肛門周囲のびらん: 陰部や尿道口、肛門周囲の粘膜にびらんが生じ、排尿時痛や排尿困難を起こします。女性では、のちに腟の癒着や狭窄の原因となることがあります。
  • 非典型的標的状紅斑・紫斑状紅斑: 顔面・頸部・体幹を中心に、中央が暗紅色で平坦な標的状、または不整形の紫紅色斑が多発し、融合する傾向を示します。典型的な多形紅斑の、三重の輪からなる隆起性の標的状病変とは形態が異なります。
  • 水疱・びらん・表皮剥離: 紅斑の上に弛緩性の水疱が生じ、破れてびらんとなります。正常に見える皮膚でも、こすると表皮がずれてはがれるニコルスキー現象がみられることがあります。
  • 皮膚・粘膜の強い痛み: 皮疹は痛みや灼熱感を伴い、かゆみより痛みが目立つことが重症薬疹を疑う手がかりになります。
  • 呼吸器症状: 気道粘膜が障害されると、咳・痰・呼吸困難が生じます。重症例では、呼吸管理や、のちの閉塞性細気管支炎が問題となります。
  • 消化器症状: 食道や腸管の粘膜障害により、嚥下痛、下痢、消化管出血がみられることがあります。
  • 肝機能障害・腎機能障害: 肝酵素の上昇は高頻度にみられ、脱水や全身性炎症による腎機能の低下を伴うこともあります。
  • 爪の脱落・脱毛: 急性期の後に、爪甲の剥離・脱落や一時的な脱毛がみられることがあります。爪は変形を残す場合もあります。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の経過と合併症

典型的な経過では、原因薬の開始から数日〜数週間後に発熱・咽頭痛・眼の充血などの前駆症状が現れます。続いて粘膜びらんと皮疹が出現し、数日間で急速に拡大します。この時期に原因薬を中止し、治療を開始できるかどうかが、病勢と後遺症を大きく左右します。発症後おおむね数日〜1週間で新たな皮疹の出現が止まり、その後2〜3週間かけて表皮が再生します(再上皮化)。皮膚には色素沈着や色素脱失が残ることがありますが、通常は熱傷のような瘢痕は残りにくいとされます。一方で粘膜、とくに眼表面の障害は回復が遅れやすく、急性期を過ぎた後も、数か月〜数年にわたって慢性的な炎症や瘢痕化が進行することがあります。当初SJSと診断されても、発症初期に剥離面積が拡大してTENへ進展する例があるため、急性期は連日の評価が必要です。

急性期の合併症として最も重要なのは、皮膚バリアの喪失に伴う感染症・敗血症で、死因の多くを占めます。広範なびらんからの体液・電解質・蛋白の喪失、体温調節の障害、肺炎や呼吸不全、肝障害、急性腎障害、消化管出血、播種性血管内凝固症候群(DIC)も起こりえます。慢性期の後遺症では眼合併症が最も頻度が高く、重大です。具体的には、重症ドライアイ、睫毛乱生(さかさまつげ)、眼瞼と眼球の癒着(瞼球癒着)、角膜輪部の幹細胞が失われることによる角膜の結膜化や血管侵入、角膜混濁などがあり、高度の視力障害や失明に至ることがあります。そのほか、閉塞性細気管支炎などの呼吸器後遺症、食道狭窄、腟・尿道の癒着や狭窄、爪の変形、歯の形成異常(小児例)、皮膚の色素異常などが報告されています。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の診断・診断基準

診断は、特徴的な臨床所見(発熱、複数部位の皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変、表皮の壊死に基づく水疱・びらん)と、薬剤服用歴・感染歴の詳細な聴取を基本に、皮膚生検による病理組織所見で表皮の壊死性変化を確認して行います。わが国の診断基準では、主要所見として、①皮膚粘膜移行部の広範囲で重篤な粘膜病変、②表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらん(体表面積の10%未満)、③発熱、④病理組織学的な表皮の壊死性変化、⑤多形紅斑重症型の除外、が挙げられています。これらに加え、皮疹の分布や形態、眼病変、全身症状などの副所見を総合して判断します。初期には軽症の薬疹や多形紅斑との区別が難しいため、粘膜症状を伴う発熱性の皮疹では早期に皮膚科・眼科へ紹介し、剥離面積の推移を連日評価することが重要です。原因薬の推定には、発症前2か月程度の服薬内容を、市販薬・サプリメントを含めて時系列に整理することが欠かせません。

  • 病歴聴取と服薬歴の時系列整理: 処方薬・市販薬・健康食品のすべてについて、開始日と発症日の関係を確認します。原因薬の推定には、薬剤因果関係評価アルゴリズム(ALDEN)などが参考にされます。
  • 皮膚生検(病理組織検査): 表皮細胞の散在性〜全層性の壊死(個細胞壊死・表皮全層壊死)と表皮下の裂隙がみられ、真皮の炎症細胞浸潤は比較的軽度です。凍結切片による迅速診断で、早期に判断されることもあります。
  • 蛍光抗体直接法: 生検組織で、表皮細胞間や基底膜部への免疫グロブリンの沈着がないことを確認します。天疱瘡や類天疱瘡などの自己免疫性水疱症の除外に用います。
  • 眼科的検査(細隙灯顕微鏡・フルオレセイン染色): 結膜充血、偽膜、角膜・結膜上皮欠損の有無と範囲を評価します。上皮欠損や偽膜は重症度と後遺症リスクの指標であり、発症早期からの眼科診察が強く推奨されます。
  • 表皮剥離面積の評価: 水疱・びらんに加え、外力で容易にはがれる部位も含めて体表面積に対する割合を算定します。SJSとTENの区別、および重症度判定の根拠となります。
  • 血液・尿検査: 白血球数、CRP、肝・腎機能、電解質、血糖、重炭酸、凝固系などを評価します。全身状態の把握と合併症の早期発見に用います。
  • SCORTEN(重症度スコア): 年齢40歳以上、悪性腫瘍の合併、心拍数120/分以上、初診時の表皮剥離10%以上、血清尿素窒素・血糖の高値、重炭酸の低下の7項目から、死亡リスクを推定します。入院時と第3病日前後に評価するのが一般的です。
  • 感染症検査: マイコプラズマ(抗原・核酸検査、抗体価)、単純ヘルペスウイルスなどを調べ、感染誘因や鑑別疾患を評価します。経過中の二次感染の監視には、血液培養や皮膚の培養も行います。
  • 薬剤リンパ球刺激試験(DLST)など: 原因薬推定の補助として行われますが、感度は十分でなく、陰性でも原因薬を否定できません。原因と疑われる薬の再投与試験は、危険なため原則として行いません。

スティーヴンス・ジョンソン症候群と鑑別すべき疾患

  • 多形紅斑(重症型を含む): 隆起した三重の輪の典型的標的状病変が四肢末端優位に分布し、病理組織での表皮壊死が軽度な点でSJSと区別します。
  • 中毒性表皮壊死症(TEN): 同一スペクトラムの疾患で、表皮剥離が体表面積の10%以上(国内基準)に及ぶ場合はTENと診断されます。SJSからの進展にも注意します。
  • ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS): 主に乳幼児にみられ、口囲の放射状亀裂などが特徴です。剥離が表皮浅層の角層下で起こり、眼・口腔の粘膜びらんを欠く点で区別されます。
  • 自己免疫性水疱症(天疱瘡・類天疱瘡・腫瘍随伴性天疱瘡): 経過がより緩徐で、蛍光抗体法での免疫グロブリン沈着や、血中自己抗体の検出により鑑別します。
  • 薬剤性過敏症症候群(DIHS)・急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP): DIHSは長い潜伏期、顔面浮腫、リンパ節腫脹、好酸球増多、ヒトヘルペスウイルス6型の再活性化が特徴で、AGEPは無菌性の小膿疱が多発し、いずれも重篤な粘膜びらんは通常乏しい点で区別されます。
  • 汎発性水疱性固定薬疹: 同じ部位に繰り返す境界明瞭な紫紅色斑と水疱が特徴で、粘膜障害や全身症状が比較的軽い点が鑑別の手がかりとなります。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の治療

治療の第一歩は、原因と疑われる薬剤をただちに中止することです。必要性の低い薬剤も可能な限り整理します。そのうえで、皮膚科を中心に眼科・集中治療科・形成外科などが連携できる施設に入院し、全身管理、局所療法、そして病勢を抑える免疫抑制療法を並行して行います。わが国の重症多形滲出性紅斑の診療ガイドラインでは、発症早期の副腎皮質ステロイド全身投与が治療の中心に位置づけられています。効果が不十分な場合や重症例では、免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法の併用が検討されます。海外では、ステロイドの有効性について見解が分かれ、シクロスポリンやTNF阻害薬の有用性も報告されるなど、治療方針は国や施設により異なります。どの治療を選択するかは、病期、重症度、合併症、感染の有無などを踏まえて専門医が判断するため、主治医とよく相談することが大切です。眼病変は失明に直結するため、急性期から眼科が併診し、局所治療を積極的に行うことが後遺症予防の鍵となります。

  • 原因薬の中止と薬剤の整理: 最も重要で、効果が確実な初期対応です。中止が早いほど予後が良いとする報告があり、類似構造の薬剤も避けるよう配慮します。
  • 副腎皮質ステロイド全身療法: わが国では、発症早期にプレドニゾロン換算で中等量〜大量を投与し、重症例ではメチルプレドニゾロンのパルス療法が選択されることがあります。感染症の悪化や消化管出血などの副作用に注意しながら、病勢をみて漸減します。
  • 免疫グロブリン大量静注療法(IVIG): わが国では、ステロイドで効果不十分なSJS・TENに対して保険適用が認められています。Fas/Fasリガンド経路の阻害などの作用が想定されています。
  • 血漿交換療法: 血中の原因薬やその代謝物、サイトカインなどの除去を目的として、ステロイド抵抗例や重症例で併用されることがあります。
  • 全身管理(輸液・栄養・体温・疼痛管理): 熱傷に準じて体液・電解質を補正し、経口摂取が困難な場合は経管栄養などで栄養を確保します。あわせて保温、十分な鎮痛、血栓予防を行います。
  • 感染対策: 清潔な環境で管理し、皮膚・血液・カテーテルの培養を定期的に監視します。予防的な抗菌薬の一律投与は推奨されず、感染の兆候があれば速やかに治療します。
  • 皮膚・粘膜の局所療法: びらん面は非固着性のドレッシング材やワセリン基剤の外用薬で保護し、表皮をむやみにはがさないよう愛護的に処置します。口腔・陰部は洗浄と保護を行い、癒着予防に努めます。
  • 眼の急性期治療: ステロイド点眼、抗菌薬点眼、偽膜の除去、瞼球癒着の予防などを行います。重症例では、急性期に羊膜移植(羊膜被覆)が行われることもあります。
  • 慢性期の眼科治療: 重症ドライアイへの点眼や涙点プラグ、睫毛乱生の処置、角膜の形を整える特殊コンタクトレンズなどが用いられます。角膜輪部の幹細胞が失われた例では、培養上皮シート移植などの眼表面再建術が専門施設で検討されます。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の予後・長期フォロー

生命予後は、表皮剥離の面積、年齢、悪性腫瘍などの基礎疾患、治療開始の早さに左右されます。SJSの死亡率は数%程度で、TENへ進展した場合や高齢者・重い基礎疾患のある人では高くなります。急性期を乗り越えれば、皮膚は多くの場合2〜4週間で再生します。しかし、視力障害やドライアイなどの眼後遺症は、日常生活・就労・就学に長期的な影響を与え、QOL(生活の質)を大きく損なう主な要因です。強い眼痛、まぶしさ、頻回な点眼の負担、視力低下による移動や読み書きの困難、外見の変化などが、患者の生活に影響します。小児例では、成長発達期の長期入院による学業の遅れや、歯・爪の後遺症も課題となります。

退院後も、眼科での定期的な診察が長期にわたり必要です。眼表面の炎症や瘢痕化は、急性期の後も年単位で進行することがあるため、自覚症状が軽くても受診を継続します。呼吸器後遺症(咳、息切れ)、食道狭窄による嚥下障害、陰部の癒着、皮膚の色素異常、心理的影響などについても、症状に応じて呼吸器内科、消化器内科、婦人科・泌尿器科、精神科などと連携してフォローします。原因薬とその類似薬の情報は診療録に確実に記載し、患者自身も「薬剤アレルギーカード」などで常に提示できるようにすることが、再発予防の最も重要な柱です。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

最も重要なのは、原因薬および構造の近い薬剤を二度と服用しないことです。医療機関や薬局を受診する際は、毎回、薬疹の既往と原因薬名を伝えます。お薬手帳への記載や薬剤アレルギーカードの携帯も有効です。原因薬が特定できていない場合は、服用していた全薬剤について主治医と相談し、市販のかぜ薬や解熱鎮痛薬も自己判断で使わないよう注意します。眼後遺症がある場合は、医師の指示どおりの点眼継続、保護眼鏡による乾燥・紫外線・粉塵対策、室内の加湿などのセルフケアが症状の安定に役立ちます。皮膚の色素沈着には、紫外線対策が推奨されます。SJSそのものは遺伝する病気ではありません。ただし、特定のHLA型と特定薬剤による発症リスクの関連が知られているため、血縁者が同じ薬剤を使う際には主治医にその旨を伝えておくと安心です。HLA検査の要否は、必要に応じて主治医や遺伝カウンセリング外来で相談するとよいでしょう。妊娠・出産を考える際も、使用できる薬剤について事前に主治医と話し合っておくことが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

SJSは指定難病「重症多形滲出性紅斑(急性期)」(告示番号38)に含まれます。診断基準と重症度基準を満たす場合は、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに都道府県・指定都市へ申請し、医療費助成を受けられます。ただし、この指定難病の対象は急性期であり、視力障害などの後遺症のみが残る慢性期は原則として対象外とされているため、詳細は主治医や保健所・自治体窓口に確認してください。また、医薬品を適正に使用したにもかかわらず生じた副作用による健康被害については、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品副作用被害救済制度の対象となる場合があります。入院治療を要した場合の医療費・医療手当や、後遺障害が残った場合の障害年金などの給付があり、請求には期限があるため早めの相談が勧められます(抗がん剤など一部の除外医薬品があります)。高額な医療費には高額療養費制度を利用できます。視力障害が残った場合は身体障害者手帳(視覚障害)の取得により各種福祉サービスを受けられる可能性があり、障害の程度によっては障害年金の対象となることもあります。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、患者会などがあります。

スティーヴンス・ジョンソン症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

SJSは、健康だった人が服用した薬をきっかけに突然、生命の危機に直面する病気です。そのため、急性期の強い苦痛や集中治療の体験が、退院後も悪夢やフラッシュバックとして残る心的外傷後ストレス症状を生じることがあります。「また薬で同じことが起こるのでは」という強い不安から、必要な薬の服用や受診をためらってしまう人も少なくありません。視力障害や外見の変化は、仕事・学業・運転・趣味の制限につながり、抑うつや適応障害、社会的孤立の原因になります。原因薬を処方・使用したことへの怒りや自責感、救済制度の手続きの負担といった、この病気に特有の心理社会的課題もあります。家族も、急性期の看病や長期の通院支援で心身ともに疲弊しやすいものです。こうした反応は決して特別なものではありません。気分の落ち込み、不眠、強い不安が続くときは、主治医に遠慮なく伝え、精神科・心療内科、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、患者会などに早めに相談することが回復への大切な一歩です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

スティーヴンス・ジョンソン症候群の受診の目安

  • 薬を飲み始めて数日〜数週間以内に、高熱とともに目の充血、口唇・口の中のただれ、陰部の痛みが出たら、薬を自己判断で追加せず、すぐに医療機関を受診してください。
  • 皮膚に赤い斑点や水ぶくれが急速に広がる、皮膚がはがれる、皮膚がひりひり痛む場合は、救急受診を含めて直ちに受診してください。
  • かぜ薬や解熱鎮痛薬を飲んでも熱が下がらず、目やにや強い眼の痛み・まぶしさが出てきた場合は、早急に皮膚科・眼科を受診してください。
  • 飲食や排尿ができないほどの粘膜の痛み、息苦しさ、意識がもうろうとするなどの症状があれば、救急要請を検討してください。
  • SJSの既往がある人で、眼の痛み・充血・視力低下が悪化した場合は、早めに主治医の眼科を受診してください。

スティーヴンス・ジョンソン症候群についてのよくある質問

Q. SJSは再発しますか?

A. 原因薬や化学構造の似た薬を再び使用すると、より早く重症化して再発する危険があります。原因薬を避けることで再発リスクは大きく下げられますので、薬剤名を記録し、受診時には必ず伝えてください。

Q. 市販のかぜ薬でもSJSになることがありますか?

A. まれですが、市販の総合感冒薬や解熱鎮痛薬で発症した例は報告されています。過度に恐れる必要はありませんが、服用後に発熱、目の充血、口のただれ、皮疹が出た場合は、服用を中止してすぐに受診してください。

Q. 子どもや家族に遺伝しますか?

A. SJS自体は遺伝病ではありません。ただし、特定の薬剤では、発症しやすさと関連するHLA型が知られています。血縁者が同じ薬を使う際は、医師に家族歴として伝えておくとよいでしょう。

Q. 目の後遺症は治療できますか?

A. 完全に元に戻すことは難しい場合もあります。しかし、点眼治療、涙点プラグ、特殊なコンタクトレンズ、眼表面再建手術などで、症状や視機能の改善が期待できることがあります。SJSの眼合併症の診療経験が豊富な眼科で、継続して相談することが勧められます。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。