中毒性表皮壊死症
Toxic Epidermal Necrolysis, TEN
中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis, TEN)|中毒性表皮壊死症(TEN)は、主に薬剤をきっかけに全身の皮膚と粘膜が広い範囲で壊死してはがれ落ちる、生命に関わる重症薬疹です。年齢や性別を問わず発症します。急性期には敗血症や多臓器不全で亡くなることがあり、回復後も視力障害、ドライアイ、皮膚の瘢痕、呼吸器障害などの後遺症が長く残ることがあります。日本ではスティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)とともに指定難病に定められています。
中毒性表皮壊死症の要点
中毒性表皮壊死症(TEN)は、主に薬剤が原因で表皮の細胞が広範囲に壊死し、水疱やびらんとして皮膚がはがれ落ちる重症薬疹です。眼・口唇・外陰部などの粘膜にも高頻度に病変が出て、敗血症や多臓器不全で生命に関わることがあり、スティーヴンス・ジョンソン症候群とともに指定難病に定められています。
| 別名・略称 | ライエル症候群、Lyell症候群、中毒性表皮壊死融解症、TEN、Lyell's syndrome |
|---|---|
| 分野 | 皮膚疾患 |
| 原因・遺伝形式 | 主に薬剤による重症薬疹で、遺伝性疾患ではありません |
| 好発年齢 | 年齢・性別を問わず発症 |
| 主な症状 | 全身の水疱・表皮剥離・びらん、眼や口腔・外陰部などの粘膜病変 |
| 日本の診断基準での区分 | 表皮剥離・びらんが体表面積の10%以上でTEN、10%未満でSJS |
| 主な治療 | 原因薬の中止と全身管理。ステロイド全身投与や免疫グロブリン大量静注療法などを検討 |
| 受診する主な診療科 | 皮膚科(眼科など他科との連携が必要) |
中毒性表皮壊死症とは
中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)は、表皮の角化細胞(ケラチノサイト)が細胞死を起こし、表皮が全層にわたって壊死する疾患です。壊死した表皮は真皮から離れ、水疱、表皮剥離、びらんとなって広がります。眼、口唇・口腔、外陰部などの粘膜にも高い頻度で病変が出ます。1956年にLyellが報告したため、ライエル症候群とも呼ばれます。現在では、SJSとTENは同じ病態の連続したスペクトラム上にあり、重症度が異なるだけと理解されています。ほとんどが薬剤による重症薬疹(重症多形滲出性紅斑)であり、「水疱が出る薬疹」の中でも最も重い病型に位置づけられます。
病型の区分には、表皮剥離・びらんの面積が使われます。国際的にはBastuji-Garinらの分類(1993年)が広く用いられ、体表面積の10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%を超えるものをTENとします。一方、日本の診断基準(日本皮膚科学会「重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン」)では、10%以上をTEN、10%未満をSJSと定義しています。そのため、「30%」という数値は国際分類の基準であり、日本の制度上の基準とは異なる点に注意が必要です。日本ではさらに臨床像から、SJSが進行して広がる「SJS進展型」(最も多い)、粘膜病変が乏しく全身のびまん性紅斑から急速に剥離する「びまん性紅斑進展型」、多発性固定薬疹などから進展する「特殊型」に分ける考え方があります。
中毒性表皮壊死症の疫学・患者数
TENは非常にまれな疾患です。海外の疫学研究では、発症頻度は年間人口100万人あたり約0.4〜1.2人とされています。日本でもSJSとあわせて年間数百人規模の発症と推定されており、全国調査が繰り返し行われています。小児から高齢者まで幅広い年齢で発症しますが、内服薬の多い高齢者や併存疾患のある人で重症化しやすい傾向があります。性差は大きくないか、やや女性に多いとする報告があります。HIV感染症、全身性エリテマトーデス(SLE)、悪性腫瘍、放射線治療中(抗てんかん薬との併用時)などはリスクを高めるとされています。また、特定のHLA型をもつ集団では、特定の薬剤による発症リスクが高くなることが知られています。
中毒性表皮壊死症の原因・病態生理
原因の大部分(約8割以上とされる)は薬剤です。代表的な原因薬として、抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ラモトリギン)、尿酸生成抑制薬のアロプリノール、サルファ剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリムなど)、オキシカム系などのNSAIDs、一部の抗菌薬、ネビラピンなどが挙げられます。日本では解熱鎮痛薬や総合感冒薬も原因として報告されています。発症は、薬剤を飲み始めてからおおむね4日〜4週間(多くは1〜3週間)のことが典型です。小児ではマイコプラズマ感染症などの感染症が誘因となることもありますが、感染症はTENよりもSJS、特に粘膜優位の病型と関係が深いとされます。遺伝的素因として、漢民族などではHLA-B*15:02とカルバマゼピン、日本人や欧州人ではHLA-A*31:01とカルバマゼピン、多くの民族でHLA-B*58:01とアロプリノールの関連が報告されています。ただし、これらのHLA型をもつ人でも大半は発症せず、遺伝子だけで決まる病気ではありません。
発症の中心にあるのは、薬剤(またはその代謝物)に特異的に反応する細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞)とNK細胞による、遅延型(IV型)アレルギー反応です。薬剤がHLA分子やT細胞受容体に直接または間接に結合して、T細胞が活性化されると考えられています(p-i概念、ハプテン説など)。活性化した細胞は、グラニュライシン、パーフォリン/グランザイムB、Fasリガンドなどを放出し、ケラチノサイトにアポトーシスを起こします。さらに日本の研究グループから、単球が放出するアネキシンA1がケラチノサイト上の受容体FPR1に作用して、ネクロプトーシス(プログラムされた壊死)を誘導する機序も報告されています。こうして表皮細胞が広く一斉に死ぬため、真皮への炎症細胞浸潤は少ないにもかかわらず、表皮全層が壊死して剥がれます。皮膚のバリアが失われると、体液・蛋白・熱が失われ、細菌が侵入しやすくなります。その結果、熱傷に似た全身状態となり、全身性炎症反応や多臓器障害へ進むことがあります。
中毒性表皮壊死症の症状
- 前駆症状(発熱・感冒様症状): 皮疹が出る数日前から、38℃以上の発熱、咽頭痛、倦怠感、眼の違和感などが現れます。かぜと区別しにくいため、この時期に解熱鎮痛薬や抗菌薬が追加され、原因の特定が難しくなることがあります。
- 紅斑(非典型的標的状病変・びまん性紅斑): 顔面や体幹から暗紅色の斑が出て、急速に融合しながら全身に広がります。中心が暗く、境界がはっきりしない「非典型的標的状病変(flat atypical targets)」が特徴です。
- 水疱と表皮剥離: 紅斑の上に弛緩性の水疱ができ、表皮がシート状にずれて剥がれ、濡れたびらん面が広がります。「濡れたタバコの巻紙」がめくれたような外観と表現されます。
- ニコルスキー現象: 一見正常に見える皮膚でも、指でこすると表皮が容易にずれて剥がれます。表皮が真皮から離れかけていることを示す重要な所見です。
- 皮膚の痛み: 皮疹のある部位は強い痛みや灼熱感を伴い、触れられることや着衣も苦痛になります。皮疹の見た目に比べて痛みが強い場合は、重症化の初期サインとされます。
- 眼病変: 結膜充血、眼脂、偽膜形成、角膜上皮欠損が起こります。急性期の重症度が、将来の視力障害やドライアイを大きく左右します。
- 口唇・口腔粘膜病変: 口唇に血痂(血のかさぶた)を伴うびらんができ、口腔内にも広くびらんが生じます。強い痛みのため、食事や水分がとれなくなります。
- 外陰部・尿道・肛門の病変: 陰部や尿道口のびらんにより、排尿時痛や排尿困難が起こります。治癒の過程で癒着や狭窄を残すことがあります。
- 気道・消化管粘膜の障害: 気管・気管支の上皮が剥がれると、呼吸困難や低酸素血症を起こすことがあります。食道や腸管の粘膜障害により、嚥下痛や下痢、消化管出血がみられることもあります。
- 全身症状(脱水・ショック傾向): びらん面から大量の体液と蛋白が失われ、脱水、低アルブミン血症、電解質異常が起こります。頻脈や血圧低下を伴うことがあります。
- 体温調節障害: 皮膚のバリアが失われるため、低体温や持続する高熱が起こりやすくなります。体温の急な変化が、敗血症の徴候である場合もあります。
- 肝・腎・血液の異常: 肝機能障害、急性腎障害、白血球減少(特にリンパ球減少)や貧血を伴うことがあります。これらは重症度の指標にもなります。
中毒性表皮壊死症の経過と合併症
典型的な経過では、原因薬の開始から1〜3週間後に発熱などの前駆症状が出ます。その後、数日のうちに粘膜病変と皮疹が出て、表皮剥離がおよそ5〜7日かけて拡大します。剥離が止まると、残った毛包などから表皮が再生し、通常2〜3週間程度で上皮化します。ただし、感染や全身状態の悪化があると、治癒は長引きます。最初はSJSの範囲であっても、数日でTENに進むことがまれではありません。そのため、発症初期の面積だけで軽症と判断せず、連日の再評価が必要です。急性期の死因の多くは、敗血症(黄色ブドウ球菌、緑膿菌などによる)、多臓器不全、急性呼吸不全です。
急性期の合併症には、敗血症、急性呼吸窮迫症候群・肺炎、消化管出血、急性腎障害、肝障害、播種性血管内凝固(DIC)、低体温・高血糖などの代謝異常があります。慢性期の後遺症として最も問題になるのは眼後遺症です。重症ドライアイ、睫毛乱生、瞼球癒着、角膜上皮幹細胞疲弊、角膜混濁、視力低下・失明などが起こりえます。皮膚では色素沈着・色素脱失、瘢痕、爪の変形・脱落、脱毛、汗の異常などがみられます。粘膜では食道狭窄、尿道狭窄、腟癒着、口腔乾燥や歯の障害が起こることがあります。呼吸器では、まれに閉塞性細気管支炎を生じて慢性呼吸不全に至ることがあります。さらに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神的後遺症も報告されています。
中毒性表皮壊死症の診断・診断基準
診断は、臨床像、薬剤歴、病理組織所見を組み合わせて行います。まず、発熱を伴う急速に広がる紅斑・水疱・びらんと、2か所以上の粘膜病変があり、ニコルスキー現象が陽性であれば、SJS/TENを強く疑います。そのうえで、表皮剥離・びらんの面積(手のひら法などで推定。紅斑だけの部分は含めない)を評価し、日本の基準では体表面積10%以上をTENと判断します。確定のために、水疱の辺縁から皮膚生検を行い、表皮の全層性壊死を確認します。同時に、黄色ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、自己免疫性水疱症、ほかの重症薬疹を除外します。また、過去2か月ほどの内服歴を、市販薬やサプリメントを含めて時系列で整理し、原因薬を推定します。重症度と予後の評価(SCORTENなど)、眼科による眼病変の評価も、診断と並行して早期に行います。
- 日本の診断基準(指定難病・ガイドライン): 広範囲の紅斑に加えて体表面積10%以上の水疱・表皮剥離・びらんがあること、発熱、病理での表皮壊死などを主要所見とし、SSSSなどを除外して診断します。指定難病の申請では、この基準と重症度分類が用いられます。
- 皮膚生検(病理組織検査): 表皮全層の壊死、表皮下の裂隙・水疱形成、真皮の炎症細胞浸潤が比較的少ないこと、が典型的な所見です。水疱蓋の凍結切片による迅速診断は、表皮全層の壊死を数時間で確認でき、SSSS(角層直下で裂ける)との区別に役立ちます。
- 蛍光抗体直接法: 自己免疫性水疱症(天疱瘡、類天疱瘡、腫瘍随伴性天疱瘡など)を除外するために行い、TENでは通常陰性です。血清の自己抗体検査も参考にします。
- 重症度評価:SCORTEN: 年齢40歳以上、悪性腫瘍の合併、心拍数120/分以上、初診時の表皮剥離10%以上、血清尿素窒素高値、血糖高値、重炭酸低値の7項目で点数をつけます。点数が高いほど死亡率が上がり(5点以上で極めて高率とされる)、入院後早期の評価と再評価が推奨されます。
- 血液・生化学検査: 白血球数(リンパ球減少)、貧血、肝・腎機能、電解質、血糖、アルブミン、CRP、凝固系を評価し、臓器障害と体液バランスを把握します。好酸球の著明な増加や異型リンパ球は、DIHSなど他の薬疹を考える手がかりになります。
- 感染症検査(培養・マイコプラズマなど): 皮膚びらん面、血液、カテーテルなどの培養を定期的に行い、敗血症を早期に見つけます。小児や若年者では、誘因となるマイコプラズマ感染の検索も行います。
- 眼科的評価: 細隙灯顕微鏡とフルオレセイン染色で、結膜偽膜、角膜上皮欠損の範囲を評価します。重症度スコアに基づいて、急性期の局所治療の強さを決めます。
- 呼吸器評価(胸部画像・血液ガス): 気道粘膜障害、肺炎、急性呼吸窮迫症候群の有無を確認します。低酸素血症があれば、気管支鏡を検討することもあります。
- 原因薬の推定(薬剤歴・ALDEN・薬剤リンパ球刺激試験): 服用開始から発症までの期間、薬剤の危険度などを点数化するALDENというアルゴリズムが参考になります。薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は、SJS/TENでは発症早期(急性期、おおむね発症1週間以内)に行うと陽性になりやすいとされます(回復期に陽性になりやすいのはDIHSです)。ただし、感度は限られます。また、ステロイド投与の影響も受けます。原因と疑われる薬剤を再投与して確かめる誘発試験は、危険なため原則行いません。
中毒性表皮壊死症と鑑別すべき疾患
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS): 主に乳幼児に起こり、黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素によって角層直下で裂けます。粘膜病変は乏しく、病理では表皮の壊死がない点でTENと区別します。
- 急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP): 薬剤開始から数日以内に、浮腫性紅斑の上に毛包と関係しない小さな膿疱が多発します。膿疱が融合して表皮がはがれることがありますが、表皮全層の壊死は通常みられません。
- 薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS): 発症までの期間が長く(多くは2〜6週以上)、発熱、リンパ節腫脹、好酸球増加、肝障害、HHV-6の再活性化が特徴です。広範囲の表皮壊死はまれです。
- 汎発性水疱性固定薬疹: 同じ部位に繰り返し出る境界明瞭な暗紫紅色斑が多発し、水疱化します。全身状態や粘膜病変は比較的軽いことが多いものの、TENと区別しにくく、日本の分類では特殊型に含まれることがあります。
- 自己免疫性水疱症(天疱瘡・腫瘍随伴性天疱瘡・類天疱瘡): 経過はより緩やかで、蛍光抗体法で表皮細胞間や基底膜部に免疫グロブリン・補体が沈着し、血清の自己抗体が陽性になる点で区別します。
- TEN様皮疹を伴う全身性エリテマトーデス・移植片対宿主病(GVHD): SLEの急性増悪や造血幹細胞移植後の重症GVHDでも、TENに似た表皮の壊死が起こります。基礎疾患、自己抗体、移植歴を考え合わせて判断します。
中毒性表皮壊死症の治療
治療の第一歩は、原因と疑われるすべての薬剤を直ちに中止することです。中止が早いほど死亡率が下がることが示されています。生命維持に必要な薬剤は、構造の異なる別の薬剤に切り替えます。TENは、皮膚科、眼科、救急・集中治療科、形成外科、呼吸器科、看護、栄養、薬剤部などのチームで診療すべき疾患です。重症例は、集中治療室や熱傷ユニットのような環境で管理します。日本のガイドラインでは、発症早期から全身性副腎皮質ステロイドを中心とする治療を行うことが推奨されています。効果が不十分な場合や重症例では、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)や血漿交換療法を組み合わせる治療の流れが示されています。これに、体液・栄養管理、感染対策、創傷ケア、眼・口腔・外陰部の局所ケアなどの支持療法を並行して行います。海外では、シクロスポリンやTNF阻害薬の有効性を示す報告もあります。ただし、日本でこの疾患に対して保険適用はなく、使用は専門施設での個別判断となります。どの治療を選ぶかは病期、重症度、併存疾患によって異なるため、専門医チームと十分に相談することが大切です。
- 原因薬の中止と薬剤管理: 疑わしい薬剤をすべて中止し、不要な薬は減らします。同じ系統の薬(例:芳香族抗てんかん薬どうし)の交差反応にも注意して、代わりの薬を選びます。
- 全身性副腎皮質ステロイド療法: 日本では、発症早期にプレドニゾロン換算で中等量〜高量の投与、または重症例でのメチルプレドニゾロン・パルス療法が行われます。感染症の悪化などの副作用に注意しながら、症状に合わせて減量します。海外では有効性の評価が分かれており、早期・短期間の使用が重視されています。
- 免疫グロブリン大量静注療法(IVIG): ステロイドで効果が不十分な場合などに併用します。日本ではSJS/TENに対して保険適用があります。体液量の負荷や腎機能、血栓症への注意が必要です。
- 血漿交換療法: 原因物質や炎症に関わる因子を取り除くことを目的とし、ステロイド抵抗性の重症例に行われます。日本では保険適用があり、IVIGとの選択や併用は施設の判断によります。
- 全身管理(輸液・栄養・体温・呼吸): びらん面からの体液喪失を補う輸液を行いますが、熱傷より少ない量で足りることが多く、過剰輸液にならないよう尿量を見ながら調整します。高カロリーの経腸栄養、室温を高めにした環境での保温、必要に応じた人工呼吸管理を行います。
- 皮膚の創傷ケアと感染対策: 剥がれた表皮はできるだけその場に残して生体の被覆材として使い、非固着性のドレッシング材やワセリン基剤の外用薬で保護します。定期的な培養で感染を監視し、抗菌薬は予防目的ではなく、感染の徴候があるときに適切に使います。
- 眼科的局所治療: 急性期から、ステロイド点眼、抗菌薬点眼、人工涙液、偽膜の除去や癒着の剥離を連日行います。重症例では、羊膜移植(被覆)が考慮されます。慢性期には、涙点プラグ、ハードコンタクトレンズ、角膜上皮移植などで視機能の維持を図ります。
- 口腔・外陰部・その他粘膜のケアと疼痛管理: 含嗽、口唇の保護、外陰部の癒着予防、尿道カテーテルの管理を行います。オピオイドを含む十分な鎮痛と、処置前の鎮痛により、苦痛と不安を和らげます。
- 深部静脈血栓症・消化管出血の予防: 長期臥床と全身性炎症に対して抗凝固療法などで血栓を予防し、ストレス潰瘍の予防も行います。リハビリテーションも早期から始めます。
中毒性表皮壊死症の予後・長期フォロー
TENの死亡率は、海外では25〜35%前後、ときにそれ以上と報告されています。日本の全国調査ではやや低い値も示されていますが、依然として最も致死率の高い皮膚疾患の一つです。報告によっては50%近い高い推計もあり、対象や時代によって幅があります。高齢、広範囲の表皮剥離、悪性腫瘍の合併、腎障害、診断・薬剤中止の遅れは、予後を悪くする要因です。SCORTENによる初期評価は、予後予測と治療の強さを決めるうえで役立ちます。生存した人の多くでは皮膚は再生します。しかし、半数以上に何らかの後遺症が残るとする報告があり、とくに眼後遺症による視機能の低下と慢性的な眼痛・ドライアイは、生活の質(QOL)を長く損ないます。
退院後も、皮膚科と眼科を中心とした長期フォローアップが必要です。眼科では、ドライアイ、睫毛乱生、瞼球癒着、角膜障害を定期的に評価し、点眼や処置を続けます。皮膚では、色素異常、瘢痕、爪の障害、光線過敏への対策を行います。息切れや咳が続く場合は、閉塞性細気管支炎を考えて呼吸機能検査を行います。嚥下障害、排尿障害、性交時痛などがあれば、それぞれ消化器科、泌尿器科、婦人科と連携します。心理的な後遺症についても、定期的に確認することが望まれます。原因薬の再投与は再発の危険が非常に高く、再発時はより重症になりうるため、生涯避ける必要があります。
中毒性表皮壊死症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
最も大切なのは原因薬(および交差反応の可能性がある薬)を二度と使わないことです。医療機関で発行される薬剤アレルギーカードやお薬手帳に原因薬名を明記し、受診先や薬局、歯科では必ず伝えましょう。市販のかぜ薬や解熱鎮痛薬にも原因成分が含まれることがあるため、購入前に薬剤師に相談してください。皮膚は回復後もしばらく乾燥しやすく、色素沈着も起こりやすいため、保湿と紫外線対策を続けます。眼のケアとしては、処方された点眼をきちんと続け、乾燥した環境を避け、保護眼鏡を使うことが役立ちます。HLA型はあくまで発症リスクに関わる素因であり、家族に必ず遺伝する病気ではありません。ただし、原因薬が特定の薬剤(例:カルバマゼピン、アロプリノール)の場合は、血縁者が同じ薬を使うときに主治医へ家族歴として伝えておくと、慎重な投与を検討する手がかりになります。遺伝学的検査の必要性は、主治医や遺伝カウンセリング外来と相談してください。
利用できる制度・相談窓口
TENは指定難病(告示番号39)です。診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と認められる場合などには、都道府県・指定都市に申請することで医療費助成(特定医療費)を受けられます。対象範囲や必要書類は、指定医や保健所・自治体窓口で確認してください。医薬品を適正に使用したにもかかわらずSJS/TENなどの重い副作用が起きた場合は、医薬品副作用被害救済制度(医薬品医療機器総合機構:PMDA)により、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金などの給付を受けられる可能性があります。請求には期限があるため、早めに主治医やPMDAの相談窓口に相談しましょう。このほか、高額療養費制度、視力障害が残った場合の身体障害者手帳(視覚障害)や障害年金、40歳以上で要介護状態になった場合の介護保険(65歳未満は特定疾病に該当する場合に限る)などが使えることがあります。各都道府県の難病相談支援センターや、病院の医療ソーシャルワーカーにも相談できます。
中毒性表皮壊死症に伴う心のケア・心理社会的支援
TENは、それまで健康だった人に突然起こり、命の危険を伴う集中治療を受けることになる病気です。そのため、回復後に悪夢、フラッシュバック、強い不安、抑うつなど、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に似た症状が出ることが報告されています。「治療のための薬で重い病気になった」という経験から、医療や薬に強い不信感や恐怖を抱き、必要な薬まで飲めなくなることもあります。さらに、視力低下や慢性的な眼の痛み、外見の変化、就学・就労への影響、救済制度の手続きなどが重なり、本人と家族の心理的な負担は大きくなりがちです。気分の落ち込み、不眠、薬への過剰な不安が続く場合は、ひとりで抱え込まず、主治医、心療内科・精神科、公認心理師、患者会などに相談してください。家族も支援を受けてよい立場にあります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
中毒性表皮壊死症の受診の目安
- 新しい薬を飲み始めて数日〜数週間のうちに、発熱とともに全身の発疹、目の充血、唇のただれが出た場合は、薬を自己判断で続けず、その日のうちに医療機関を受診してください。
- 皮膚に水ぶくれができる、こすると皮膚がむける、発疹が急速に広がって強く痛む場合は、救急受診を検討してください。
- 口の中のただれで飲食ができない、排尿時に強い痛みがある、目が開けにくく目やにが多い場合は、早急な受診が必要です。
- 息苦しさ、意識がぼんやりする、尿が少ないなどの全身症状がある場合は、救急車の要請をためらわないでください。
- 退院後に目の痛み・かすみ・まぶしさが強まった場合や、息切れ・咳が続く場合は、早めに主治医(眼科・呼吸器科)を受診してください。
中毒性表皮壊死症についてのよくある質問
Q. TENとスティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)は何が違うのですか?
A. 同じ病態のスペクトラム上にあり、主に皮膚がはがれる面積で区別されます。日本の基準では体表面積の10%以上がTEN、10%未満がSJSです(国際分類では30%を超えるものをTENとします)。SJSからTENへ進むこともあるため、初期には慎重な経過観察が必要です。
Q. 原因の薬はどのように特定するのですか?
A. 服薬開始から発症までの時間関係と、その薬が原因となりやすいかどうかをもとに推定します。ALDENなどの評価法やリンパ球刺激試験も参考にします。原因と疑われる薬を再び飲んで確かめる方法は危険なため行いません。複数の薬が疑われる場合は、すべてを避けることもあります。
Q. 一度TENになると、また起こることはありますか?
A. 同じ薬や、構造の似た薬を使うと再発する危険が高く、より速く重症化することがあります。原因薬を避けていれば再発はまれですが、別の薬で新たに起こる可能性もゼロではありません。新しい薬を使うときは、必ず病歴を伝えてください。
Q. 薬の副作用でなった場合、補償はありますか?
A. 医薬品を適正に使用したにもかかわらず起きた場合は、PMDAの医薬品副作用被害救済制度の対象となる可能性があります。医療費や障害年金などが給付されることがあります。指定難病の医療費助成と合わせて、主治医や医療ソーシャルワーカーに相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。