結節性多発動脈炎

Polyarteritis Nodosa, PAN

結節性多発動脈炎(Polyarteritis Nodosa, PAN)|結節性多発動脈炎(PAN)は、全身の中型の動脈(腎臓・腸・神経・皮膚・筋肉などに血液を送る動脈)を中心に、血管壁が壊れる壊死性の炎症が起こる、まれな全身性血管炎です。主に中高年に発症し、発熱や体重減少、手足のしびれ、皮膚の潰瘍、高血圧、腹痛など、障害される臓器に応じた多彩な症状が現れます。早期に診断して免疫抑制治療を始めれば多くの例で寛解が得られますが、腸管穿孔や動脈瘤破裂など命にかかわる合併症もあり、専門医による継続的な管理が大切です。

結節性多発動脈炎の要点

結節性多発動脈炎(PAN)は、腎臓・腸・神経・皮膚などに血液を送る中型の動脈に壊死性の炎症が起こり、血管の狭窄・閉塞や動脈瘤を生じる全身性血管炎で、国の指定難病です。発熱や体重減少、手足のしびれ、皮膚潰瘍、高血圧、腹痛など、障害された臓器に応じた症状が現れます。

別名・略称結節性動脈周囲炎、PAN、Periarteritis nodosa、Kussmaul-Maier病
分野免疫・膠原病・自己炎症
好発年齢主に中高年
主な症状発熱、体重減少、手足のしびれ、皮膚潰瘍、高血圧、腹痛
主な検査血液検査(ANCA陰性)、血管造影などの画像検査、皮膚・神経・筋の生検
主な治療副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬による治療
関連する病型全身性PAN、B型肝炎ウイルス関連PAN、皮膚に限局する皮膚型
受診する主な診療科膠原病・リウマチ内科

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

結節性多発動脈炎とは

結節性多発動脈炎は、2012年改訂の国際的な血管炎分類(Chapel Hill Consensus Conference 2012:CHCC2012)で「中型または小型の動脈に起こる壊死性動脈炎で、糸球体腎炎や細動脈・毛細血管・細静脈の血管炎を伴わず、抗好中球細胞質抗体(ANCA)とは関連しないもの」と定義されています。病変は動脈の全周ではなく一部に断続的(分節状)に生じ、特に血管の分岐部に好発します。血管壁の中膜が壊れると、壁が弱くなって小さな動脈瘤(こぶ)ができたり、内腔が狭くなったり血栓で詰まったりします。その結果、血流の先にある臓器が虚血・梗塞に陥り、症状が生じます。病名の「結節性」は、病変部の動脈瘤や炎症が皮下で数珠状のしこりとして触れることに由来します。

1866年にKussmaulとMaierが報告した症例が最初の記載とされ、長らく「全身の血管炎の代表」として扱われてきました。しかし、かつてPANとまとめられていた患者の中には、毛細血管などの細い血管を侵し糸球体腎炎や肺胞出血を起こす病態が含まれていました。これらはANCAの発見を経て顕微鏡的多発血管炎(MPA)として独立し、現在の「狭義のPAN」は中型動脈を主体とし、ANCA陰性で糸球体腎炎を伴わない疾患に限定されています。日本でもこの考え方に沿って、PANとMPAは別々の指定難病として扱われています。病型としては、全身の臓器を侵す全身性PANのほか、B型肝炎ウイルス(HBV)感染に関連するPAN、皮膚に限局する病型(皮膚型PAN、近年は「皮膚動脈炎」とも呼ばれる)が区別されます。皮膚に限局する病型は一般に経過が緩やかで、全身性PANとは治療方針や制度上の扱いが異なります。さらに近年、ADA2欠損症(DADA2)という遺伝性疾患がPANとよく似た血管炎を起こすことが明らかになり、特に小児・若年発症例では鑑別が重要になっています。

結節性多発動脈炎の疫学・患者数

PANは血管炎の中でもまれな疾患です。海外の疫学研究では、年間発症率は100万人あたり数人程度と報告されています。古い報告にはより高い数値もありますが、MPAなどを区別せずに含めていた時代の推計である可能性があり、解釈には注意が必要です。日本では、かつてPANとMPAが同じ枠組みで集計されていました。両者を区別した現在、狭義のPAN患者数はMPAよりかなり少ないと考えられており、医療費助成の受給者数も血管炎全体の中では少数にとどまります。発症年齢は40〜60歳代の中高年が中心ですが、小児から高齢者まで幅広くみられます。性差については、男性にやや多いとする報告と、明らかな差はないとする報告があります。HBV関連PANは、かつてはPAN全体の相当な割合を占めていました。しかし、輸血のスクリーニングやB型肝炎ワクチンの普及により、先進国では大きく減少しました。

結節性多発動脈炎の原因・病態生理

PANの大部分(特発性PAN)は原因が不明です。何らかのきっかけで免疫系が動脈壁を攻撃し、炎症が起こると考えられています。ANCA関連血管炎とは異なり、診断に役立つ特異的な自己抗体は知られていません。一部では明確な誘因があり、代表的なのがB型肝炎ウイルス感染です。感染後比較的早い時期(多くは1年以内)に発症することが多く、ウイルス抗原と抗体からなる免疫複合体が血管壁に沈着することが原因と考えられています。このほか、C型肝炎ウイルス、ヘアリー細胞白血病などの血液腫瘍との関連も報告されています。遺伝性の原因としては、ADA2(アデノシンデアミナーゼ2)をコードする遺伝子の両方のアレルに病的変異があることで発症する常染色体劣性遺伝のADA2欠損症(DADA2)が知られています。DADA2は幼少期から発熱、網状皮斑、PAN様の血管炎、若年での脳梗塞などを起こし、日本では指定難病「遺伝性自己炎症疾患」に含まれる病態として扱われています。なお、特発性PAN自体は遺伝する病気とは考えられていません。

発症の仕組みとしては、免疫複合体の血管壁への沈着、補体の活性化、好中球・単球・リンパ球などの炎症細胞の浸潤、TNF-αなどの炎症性サイトカインによる血管内皮障害が組み合わさって進むと考えられています。病理学的には、中型動脈の壁にフィブリノイド壊死と呼ばれる特徴的な変化が起こり、炎症細胞が血管壁全層に浸潤します。炎症は時間とともに、変性期、急性炎症期、肉芽期、瘢痕期と移行し、同じ患者の中に異なる時期の病変が混在することがPANの特徴です。中膜の弾性板が破壊されると、血圧に耐えきれずに微小動脈瘤が形成されます。一方、修復過程で内膜が肥厚したり血栓ができたりすると、血管の狭窄・閉塞が起こります。腎臓では、糸球体に入る手前の腎内動脈(弓状動脈・葉間動脈など)が侵されるため、糸球体腎炎ではなく腎梗塞や腎血管性高血圧(レニン・アンジオテンシン系の亢進)が主体となります。末梢神経では、神経を養う細い動脈(神経栄養血管)が閉塞し、神経が虚血に陥ることで、多発単神経炎と呼ばれる神経障害が起こります。

結節性多発動脈炎の症状

  • 全身症状(発熱・体重減少・倦怠感): 持続する発熱、短期間での体重減少、強いだるさや食欲低下が多くの患者でみられます。初期にはこれらしかなく、不明熱として精査されることもあります。
  • 多発単神経炎: 手足の特定の神経が一本ずつ障害され、左右非対称のしびれ、痛み、筋力低下が出ます。足首が上がらない下垂足や、手首が上がらない下垂手は典型的な所見です。
  • 皮膚症状: 網目状の赤紫色の模様(網状皮斑)、痛みを伴う皮下結節、紫斑、皮膚潰瘍が下肢を中心に現れます。重症では指趾の壊疽を起こすことがあります。
  • 筋痛・筋力低下: ふくらはぎなどの筋肉の痛みや圧痛、筋力低下がみられ、筋肉内の動脈の炎症を反映します。血清CK値は正常のことも多く、筋炎とは区別が必要です。
  • 関節痛・関節炎: 複数の関節の痛みや腫れがみられることがあり、関節リウマチなどとの区別が問題になります。関節が破壊されることは通常ありません。
  • 高血圧: 腎臓内の動脈が狭くなることで腎血管性高血圧が生じ、新たに出現した高血圧や急に悪化した高血圧がきっかけとなることがあります。
  • 腎障害(腎梗塞・腎機能低下): 腎梗塞により腰背部痛や血尿が起こり、腎機能が低下することがあります。糸球体腎炎は伴わないため、高度の蛋白尿や赤血球円柱は目立たないのが原則です。
  • 腹痛・消化器症状: 腸間膜動脈の病変により、食後の腹痛、下血、腸の虚血・壊死・穿孔が起こることがあり、PANの重症所見の一つです。胆嚢炎、膵炎、肝梗塞の形をとることもあります。
  • 精巣痛: 男性で精巣(睾丸)の痛みや圧痛が出ることがあり、精巣動脈の炎症によるとされます。他の血管炎では比較的まれで、診断の手がかりになります。
  • 心症状: 冠動脈の炎症による狭心症・心筋梗塞、心不全、心膜炎が起こることがあり、予後に影響する重要な臓器病変です。
  • 中枢神経・眼の症状: 頻度は低いものの、脳梗塞や脳出血、網膜の血管炎による視力障害が起こることがあります。若年で脳卒中を伴う場合はDADA2の可能性も考慮されます。

結節性多発動脈炎の経過と合併症

PANは多くの場合、数週間から数か月かけて全身症状が先行し、その後に神経・皮膚・腎臓・消化管などの臓器症状が加わっていきます。急速に進行して腸管穿孔や動脈瘤破裂を起こす劇症例がある一方、皮膚や末梢神経が中心でゆっくり進む例もあります。治療をしなければ予後は不良で、ステロイド導入以前は5年生存率が10数%程度だったとされます。現在は免疫抑制療法により大多数で寛解(炎症が鎮まった状態)が得られます。ANCA関連血管炎に比べると再発は少ないとされますが、特発性PANでは一定の割合で再燃がみられ、とくに治療薬の減量中や中止後に注意が必要です。HBV関連PANは、抗ウイルス療法によりウイルスが抑えられれば再発がまれとされています。

合併症は、血管炎そのものによるものと、治療に伴うものに分けられます。血管炎によるものとしては、腸管の虚血・壊死・穿孔、消化管出血、腎動脈や腸間膜動脈・肝動脈の動脈瘤破裂による腹腔内出血、心筋梗塞・心不全、脳卒中、慢性腎臓病、持続する高血圧があります。多発単神経炎は治療後も回復に時間がかかり、しびれや筋力低下、痛みが後遺症として残ることがあります。治療に伴うものとしては、ニューモシスチス肺炎をはじめとする重症感染症、ステロイドによる糖尿病・骨粗鬆症・大腿骨頭壊死・白内障・緑内障・精神症状、シクロホスファミドによる骨髄抑制・出血性膀胱炎・性腺機能障害(不妊)・長期的な発がんリスクの増加などがあり、それぞれに予防や定期検査が行われます。

結節性多発動脈炎の診断・診断基準

PANには特異的な血液マーカーがないため、症状の組み合わせ、血液・尿検査、画像検査、組織検査を総合して診断します。発熱や体重減少に加え、多発単神経炎、皮膚潰瘍、新たな高血圧、腹痛、精巣痛などが組み合わさる場合にPANを疑い、まず感染症(特に感染性心内膜炎)や悪性腫瘍、他の膠原病を除外します。ANCAが陰性で糸球体腎炎を示す所見がないことは、MPAなどのANCA関連血管炎との区別に重要です。確定診断には、病変部の生検で中型動脈のフィブリノイド壊死性血管炎を確認することが最も確実です。生検が難しい場合や病変が腹部臓器に限られる場合は、血管造影で腎臓や腸の動脈に多発する小動脈瘤や狭窄を確認します。日本では厚生労働省研究班の診断基準があり、発熱・体重減少、高血圧、腎障害、脳血管障害、心病変、胸膜炎、消化管病変、多発性単神経炎、皮膚病変、関節・筋症状などの主要症候と、組織所見または血管造影所見を組み合わせて「確実(Definite)」「疑い(Probable)」を判定します。HBVの検査は治療方針を大きく変えるため必ず行い、若年発症例や家族歴・脳卒中を伴う例ではDADA2の検索も考慮されます。

  • 炎症反応・一般血液検査: CRP上昇、赤沈亢進、白血球増多、貧血、血小板増多などがみられます。PANに特異的ではありませんが、病勢の把握と治療効果の判定に用いられます。
  • ANCA・自己抗体・補体: PANではMPO-ANCA、PR3-ANCAが陰性であることが原則で、陽性ならANCA関連血管炎を考えます。抗核抗体、リウマトイド因子、クリオグロブリン、補体なども他疾患の鑑別に測定します。
  • 肝炎ウイルス検査: HBs抗原、HBV-DNA、HCV抗体などを調べます。HBV関連PANでは抗ウイルス療法が治療の中心となり、免疫抑制治療の前にはHBV再活性化のリスク評価も欠かせません。
  • 尿検査・腎機能検査: 腎梗塞による血尿や腎機能低下がみられることがありますが、糸球体腎炎を示す変形赤血球や赤血球円柱、高度蛋白尿は通常目立ちません。血漿レニン活性の上昇がみられることもあります。
  • 組織生検: 皮膚(皮下脂肪組織まで含む深い生検)、筋肉、腓腹神経などの生検で、中型動脈のフィブリノイド壊死性血管炎を確認すれば診断がほぼ確定します。症状のある部位から採取すると陽性率が高まります。
  • 血管造影・CT血管造影・MR血管造影: 腎動脈、腸間膜動脈、肝動脈などに多発する小動脈瘤、狭窄・閉塞、腎梗塞を確認します。微小な動脈瘤の検出にはカテーテル血管造影が最も感度が高いとされます。
  • 神経伝導検査・筋電図: 多発単神経炎の分布や程度を客観的に評価し、生検部位の選択にも役立ちます。治療後の回復の評価にも用いられます。
  • 厚生労働省研究班の診断基準: 主要症候、組織所見、血管造影所見を組み合わせて確実例・疑い例を判定する、日本の指定難病申請に用いられる基準です。重症度の判定とあわせて医療費助成の可否が決まります。
  • ADA2活性測定・遺伝学的検査: 小児・若年発症、脳梗塞、家族内発症、低ガンマグロブリン血症などを伴う場合に、DADA2の検索として行われることがあります。専門施設での実施となります。

結節性多発動脈炎と鑑別すべき疾患

  • 顕微鏡的多発血管炎(MPA): 細い血管を主に侵してMPO-ANCA陽性が多く、急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血を伴う点がPANと異なります。
  • 多発血管炎性肉芽腫症・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症: 前者は上気道・肺の肉芽腫性病変とPR3-ANCA、後者は気管支喘息と著明な好酸球増多を伴う点で区別されます。
  • 分節性動脈中膜融解(SAM)・線維筋性異形成: 腹部内臓動脈に動脈瘤や狭窄を生じますが、炎症反応や全身症状に乏しい非炎症性の血管疾患です。
  • 感染性心内膜炎: 発熱、塞栓症、感染性動脈瘤がPANに似ますが、血液培養陽性と心臓超音波で弁の疣贅を認める点で鑑別し、免疫抑制治療前に必ず除外します。
  • 膠原病に伴う血管炎(全身性エリテマトーデス、悪性関節リウマチなど): 基礎となる膠原病の症状や抗核抗体・リウマトイド因子などの自己抗体、補体低下の有無で区別します。
  • 皮膚動脈炎(皮膚型PAN): 病理所見は同様ですが病変が皮膚と周辺の神経・筋に限られ、腎臓や腸などの内臓病変を伴いません。

結節性多発動脈炎の治療

治療の目的は、血管の炎症を速やかに鎮めて臓器障害を最小限にとどめ(寛解導入)、その後再発を防ぎながら治療薬の副作用を減らすこと(寛解維持)です。治療方針は病型と重症度で大きく異なります。特発性PANでは、腎機能障害、心病変、消化管病変、高齢などの予後不良因子を評価する指標(Five-Factor Score:FFSなど)や臓器障害の程度を参考に、軽症〜中等症ではステロイドを中心に、必要に応じてアザチオプリンやメトトレキサートなどの免疫抑制薬を併用し、重症例や臓器・生命を脅かす病変がある場合はステロイドにシクロホスファミドを併用するのが基本とされます。一方、HBV関連PANではウイルスを増やす長期の免疫抑制は好ましくないため、短期間のステロイドで急性炎症を抑えつつ核酸アナログなどの抗ウイルス薬を中心に治療し、場合により血漿交換を組み合わせます。DADA2ではステロイドや一般的な免疫抑制薬への反応が乏しく、TNF阻害薬が有効と報告されています。治療方針は、患者さんの年齢・臓器障害・合併症・妊娠の希望などを踏まえて決めるため、膠原病・リウマチ内科などの専門医とよく相談することが重要です。

  • 副腎皮質ステロイド: 寛解導入の中心となる薬で、通常は高用量の内服から始め、重症例ではステロイドパルス療法(大量点滴)を行うこともあります。症状と検査値の改善を見ながら、数か月〜年単位で慎重に減量します。
  • シクロホスファミド: 重症例や臓器障害が進行する例で、ステロイドに併用される強力な免疫抑制薬です。主に点滴静注で一定期間投与し、骨髄抑制、感染症、膀胱障害、性腺機能障害などに注意が必要です。
  • 寛解維持療法(アザチオプリン、メトトレキサートなど): 寛解導入後や中等症例で、ステロイドの減量と再発予防を目的に用いられることがあります。薬剤ごとに肝障害、骨髄抑制、腎機能による制限などがあり、定期的な血液検査で管理します。
  • 抗ウイルス療法と血漿交換(HBV関連PAN): エンテカビルなどの核酸アナログでHBVの増殖を抑えることが治療の要となります。急性期には短期間のステロイドや、免疫複合体の除去を目的とした血漿交換が併用されることがあります。
  • TNF阻害薬(DADA2): DADA2によるPAN様血管炎では、TNF阻害薬が炎症や脳卒中の予防に有効と報告されています。診断と治療は遺伝性自己炎症疾患に詳しい専門施設で行われます。
  • 難治例への治療: 標準治療に抵抗する例では、他の生物学的製剤などの使用経験が報告されていますが、PANに対する有効性の証拠は限られており、専門医の判断のもとで個別に検討されます。
  • 外科的・血管内治療: 腸管穿孔・壊死に対する手術や、動脈瘤破裂・出血に対するカテーテル塞栓術などが緊急に必要となる場合があります。内科と外科、放射線科の連携が重要です。
  • 合併症予防と支持療法: ST合剤によるニューモシスチス肺炎の予防、骨粗鬆症治療薬、胃粘膜保護薬、降圧薬(腎血管性高血圧への対応を含む)、血糖管理、不活化ワクチン接種などで、病気と治療の両面から生じる合併症を防ぎます。
  • リハビリテーション・疼痛管理: 多発単神経炎による筋力低下や下垂足には、理学療法や装具(短下肢装具など)が役立ちます。神経障害性疼痛には専用の鎮痛薬が用いられることがあります。

結節性多発動脈炎の予後・長期フォロー

免疫抑制療法の進歩により、PANの生命予後は大きく改善し、海外の大規模な解析では5年生存率はおおむね80%前後と報告されています。予後に影響するのは、診断時の年齢が高いこと、腎機能障害、心病変、消化管病変(特に穿孔・出血)などで、これらを持つ例では早期から強力な治療が検討されます。死亡の原因としては、治療開始早期の血管炎そのものによる臓器障害(腸管穿孔や出血、心筋梗塞など)と、治療中の重症感染症が重要です。生活の質(QOL)の面では、多発単神経炎によるしびれ・痛み・歩行障害が長く残ることがあり、慢性腎臓病や高血圧の管理、ステロイドの長期的な副作用が課題となります。一方で、寛解を維持できれば就労や家庭生活に復帰している方も多くいます。

寛解後も、再発の早期発見と治療薬の副作用管理のため、長期にわたる定期通院が必要です。受診時には症状の確認に加え、血液検査(CRP、血球数、腎機能、肝機能、血糖など)、尿検査、血圧測定を行い、必要に応じて画像検査で動脈瘤の変化を確認します。発熱、しびれの悪化、新たな皮膚症状、腹痛などは再発のサインのことがあるため、次回受診を待たずに相談することが勧められます。ステロイドを長期使用する場合は、骨密度、眼科検診(白内障・緑内障)、脂質・血糖、心血管リスクの評価も定期的に行います。シクロホスファミドを使用した方では、血尿の確認や、年齢に応じたがん検診の受診も大切です。HBV関連PANでは肝臓専門医と連携し、ウイルス量と肝機能を長期にわたり確認します。

結節性多発動脈炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

治療中は免疫力が低下しているため、手洗い・うがい、人混みでのマスク着用など感染予防を心がけ、発熱や咳が続くときは早めに受診しましょう。インフルエンザや肺炎球菌などの不活化ワクチンは主治医と相談のうえで接種が勧められますが、生ワクチンは免疫抑制治療中には原則として避けます。ステロイドは自己判断で中止・減量すると症状の再燃や副腎不全を招くおそれがあるため、必ず指示どおりに服用してください。骨粗鬆症予防のためにカルシウムやビタミンDを意識した食事、体力に応じた適度な運動、禁煙(喫煙は血管障害を悪化させます)、塩分を控えた血圧管理、体重・血糖の管理が役立ちます。足のしびれがある方は、感覚が鈍っているため靴ずれや低温やけどに気づきにくく、毎日足を観察して傷の早期発見に努めましょう。妊娠・出産を希望する方は、シクロホスファミドの性腺への影響や妊娠中に使用できる薬の選択など重要な問題があるため、治療開始前や計画段階で主治医に相談してください。特発性PANは遺伝する病気ではないと考えられていますが、DADA2と診断された場合は常染色体劣性遺伝のため、きょうだいの検査や将来の家族計画について遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

結節性多発動脈炎は指定難病(告示番号42)に指定されており、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の重症度に該当する場合、または軽症でも医療費が高額となる状態が続く場合(軽症高額該当)には、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(多くは保健所)に行い、認定されると所得に応じた自己負担上限額が設定されます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)で発症した場合は、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となることがあります。指定難病の患者さんは障害者総合支援法の対象となり、障害者手帳がなくても一部の福祉サービスを利用できる場合があります。神経障害による肢体不自由や腎機能障害が残った場合は、身体障害者手帳や障害年金の対象となる可能性があり、65歳以上で介護が必要になった場合は介護保険サービスも利用できます。そのほか、高額療養費制度、休職中の傷病手当金なども活用できます。各都道府県の難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイトは、制度の利用や就労・生活の相談窓口として役立ちます。

結節性多発動脈炎に伴う心のケア・心理社会的支援

PANのようなまれな難病と診断されることは、それ自体が大きな心理的負担となります。診断がつくまでに時間がかかることが多く、原因不明の発熱や痛みが続いた不安、突然の入院や高用量のステロイド治療、仕事や家庭生活の中断などが重なり、抑うつや不安、適応障害が生じることは珍しくありません。また、ステロイドそのものが不眠、気分の高揚や落ち込み、イライラなどの精神症状を引き起こすことがあり、本人の性格や気持ちの問題と誤解されがちです。治療後も、手足のしびれや痛み、歩行障害が残ると、外見からはわかりにくい「見えない障害」として周囲の理解を得にくく、職場復帰や家事・育児で孤立感を抱くことがあります。再発への恐れや、シクロホスファミドによる妊よう性への影響、長期の通院・服薬に伴う経済的負担も重要な課題です。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、何事にも興味が持てないといった状態があれば、遠慮せずに主治医や看護師に伝えてください。必要に応じて心療内科・精神科、臨床心理士・公認心理師へ紹介を受けることができ、医療ソーシャルワーカーや難病相談支援センター、患者会など、同じ病気の経験を持つ人と話せる場も心の支えになります。家族も不安を抱えやすいため、家族自身が相談できる場を持つことも大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

結節性多発動脈炎の受診の目安

  • 強い腹痛、下血・吐血、お腹が板のように硬くなるなどの症状がある場合は、腸管穿孔や出血の可能性があるため直ちに救急受診してください。
  • 胸の痛みや締めつけ感、突然の息苦しさ、片側の手足の麻痺やろれつが回らないなどの症状が出たときは、心筋梗塞や脳卒中の可能性があるため救急車を呼んでください。
  • 治療中に38℃以上の発熱、咳、息切れが出た場合は、重症感染症の可能性があるため速やかに主治医に連絡してください。
  • 手足のしびれや力の入りにくさが新たに出た、または急に悪化した場合は、再発の可能性があるため早めに受診してください。
  • 原因のはっきりしない発熱や体重減少が続き、皮膚の網目状の模様・しこり・潰瘍、手足のしびれ、新たな高血圧などを伴う場合は、内科(膠原病・リウマチ内科)を受診してください。

結節性多発動脈炎についてのよくある質問

Q. 結節性多発動脈炎は治る病気ですか?

A. 現在は免疫抑制療法により、多くの患者さんで炎症が鎮まった「寛解」の状態が得られます。ANCA関連血管炎に比べると再発は少ないとされますが、再燃することもあるため、寛解後も定期的な通院が必要です。神経障害などの後遺症が残ることもあり、リハビリテーションを含めた長期的な管理が大切です。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 多くを占める特発性PANは、遺伝する病気とは考えられていません。ただし、ADA2欠損症(DADA2)という遺伝性疾患がPANとよく似た血管炎を起こすことがあり、この場合は常染色体劣性遺伝の形式をとります。若年発症や家族内発症がある場合は、主治医や遺伝の専門家に相談してください。

Q. B型肝炎があると言われました。治療は何が違いますか?

A. HBV関連PANでは、ウイルスが原因に深く関わっているため、抗ウイルス薬でウイルスを抑えることが治療の中心になります。強い免疫抑制を長く続けるとウイルスが増えて肝炎が悪化するおそれがあるため、ステロイドは短期間にとどめ、必要に応じて血漿交換を併用します。肝臓専門医と連携した治療が重要です。

Q. 顕微鏡的多発血管炎とはどう違うのですか?

A. どちらも血管炎ですが、PANは中型の動脈が主な標的で、ANCAは陰性、糸球体腎炎や肺胞出血は通常伴いません。顕微鏡的多発血管炎は毛細血管などのより細い血管を侵し、MPO-ANCA陽性が多く、急速に進む腎炎や肺出血を起こしやすいのが特徴です。かつては同じ病気として扱われていましたが、現在は別の疾患として診断・治療されています。

この記事をシェア

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

関連記事(関連する指定難病)

同じ分野(免疫・膠原病・自己炎症)の指定難病

免疫・膠原病・自己炎症の指定難病を一覧で見る / 指定難病リスト(全341疾患)

この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。