進行性核上性麻痺
Progressive Supranuclear Palsy, PSP
進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)|進行性核上性麻痺(PSP)は、主に60歳代以降に発症する進行性の神経変性疾患です。発症早期からの転倒(特に後方への転倒)、上下方向を見にくくなる眼球運動障害、体幹の硬さ、意欲の低下や判断力の低下などの前頭葉症状が特徴で、パーキンソン病と間違えられることがあります。根本的な治療法はまだなく、リハビリテーション、転倒・誤嚥の予防、介護・福祉制度の活用を組み合わせ、多職種で長期的に支えることが重要です。
進行性核上性麻痺の要点
進行性核上性麻痺(PSP)は、脳内にタウ蛋白が異常に蓄積して神経細胞が障害される進行性の神経変性疾患で、指定難病です。発症早期からの転倒、上下方向への眼球運動障害、体幹の硬さ、意欲や判断力の低下などが特徴で、パーキンソン病と間違えられることがあります。
| 別名・略称 | PSP、進行性核上麻痺、スティール・リチャードソン・オルシェフスキー症候群、Steele-Richardson-Olszewski症候群、Steele-Richardson-Olszewski syndrome |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 好発年齢 | 主に60歳代以降 |
| 遺伝形式 | 多くは孤発性(遺伝しない) |
| 主な症状 | 早期からの転倒(特に後方)、上下方向の眼球運動障害、体幹の筋強剛、意欲・判断力の低下 |
| 主な検査 | 神経診察、頭部MRI(中脳被蓋の萎縮など) |
| 主な治療 | 根本的治療はなく、リハビリテーションと対症療法、転倒・誤嚥の予防 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
進行性核上性麻痺とは
進行性核上性麻痺は、脳内でタウと呼ばれる微小管結合蛋白が異常にリン酸化されて凝集し、神経細胞とグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)に蓄積するタウオパチーの一つです。障害を受けやすいのは、淡蒼球、視床下核、黒質、中脳被蓋、上丘・中脳水道周囲灰白質、小脳歯状核、前頭葉皮質などです。「核上性」とは、眼球を動かす脳神経核(動眼神経核など)そのものではなく、それより上位にある眼球運動の中枢や経路が障害されることを指します。このため、自分の意思で上下を見ることは難しくなります。一方で、頭を他動的に動かしたときの反射的な眼球運動(人形の目現象)は比較的保たれます。なお、「核上」は障害部位の位置関係を表す言葉で、「核上領域」という名前の特定の神経核があるわけではありません。
1964年にSteele、Richardson、Olszewskiが一連の症例を報告したことから、スティール・リチャードソン・オルシェフスキー症候群とも呼ばれます。当初は垂直性眼球運動障害、早期からの易転倒性、体幹優位の筋強剛、仮性球麻痺、前頭葉性認知障害がそろう病型(現在のリチャードソン症候群、PSP-RS)が典型とされていました。しかし病理学的にPSPと確定した例の中に、臨床像が大きく異なる例が少なくないことがわかり、2017年に国際パーキンソン病・運動障害学会(MDS)が新たな臨床診断基準を提唱しました。この基準では、パーキンソン病に似るPSP-P、すくみ足が前景に立つPSP-PGF(進行性すくみ歩行)、大脳皮質基底核症候群を呈するPSP-CBS、行動・人格変化が目立つPSP-F、発語失行や非流暢性失語で始まるPSP-SL、眼球運動障害や姿勢不安定が単独で先行する病型などの多様な臨床病型が整理されました。日本では指定難病(告示番号5)に指定されています。
進行性核上性麻痺の疫学・患者数
PSPは希少疾患ですが、神経変性によるパーキンソン症候群の中ではパーキンソン病に次いで多い疾患群の一つです。海外の地域調査では人口10万人あたり数人程度の有病率が報告されてきましたが、日本の地域調査ではこれより高く、人口10万人あたり10〜20人程度と推計した報告もあります。非典型例はパーキンソン病などと診断されている可能性があるため、実際の患者数は把握されているより多いと考えられています。指定難病の医療受給者証の所持者は全国で1万人前後以上にのぼります。発症年齢は60歳代が中心で、40歳未満での発症はきわめてまれです。性差は明らかではないか、わずかに男性に多いとする報告があります。大部分は孤発性で、家族内に多発することは少ない疾患です。
進行性核上性麻痺の原因・病態生理
PSPの根本的な原因は解明されていません。病理学的には、4つの微小管結合反復配列をもつ4リピートタウが優位に蓄積することが特徴で、大脳皮質基底核変性症(CBD)と同じ4リピートタウオパチーに分類されます。特徴的な病理所見は、神経細胞内の球状の神経原線維変化、アストロサイトに房状にタウが蓄積する房状アストロサイト(tufted astrocyte)、オリゴデンドロサイト内のコイル小体などで、房状アストロサイトはPSPの診断的価値が高い所見とされます。遺伝的要因としては、タウ遺伝子(MAPT)周辺のH1ハプロタイプが発症リスクと関連することが知られていますが、これを持つ人の大多数は発症しないため、遺伝子検査で発症を予測することはできません。まれにMAPT遺伝子変異による家族性例があり、PSPに似た臨床像を示すことがあります。環境要因については複数の候補が検討されていますが、確立したものはありません。
発症機序としては、異常にリン酸化されたタウが微小管から離れて凝集し、軸索輸送や細胞機能を障害することで神経細胞死に至ると考えられています。さらに、異常タウが細胞から細胞へと伝播し、病変が神経回路に沿って広がる「プリオン様伝播」の仮説が有力視されています(ヒトからヒトへ感染する病気ではありません)。症状は障害部位と対応しており、中脳被蓋・上丘周辺の障害は垂直性眼球運動障害、黒質・淡蒼球・視床下核の障害は無動・筋強剛、脳幹の姿勢制御系や視床、小脳歯状核−上小脳脚系の障害は姿勢反射障害と易転倒性、前頭葉と前頭葉−基底核回路の障害は意欲低下や遂行機能障害、皮質延髄路の障害は仮性球麻痺(構音障害・嚥下障害)の原因になると考えられます。パーキンソン病では黒質のドパミン神経が変性しても線条体側のドパミン受容体を持つ神経細胞は比較的保たれますが、PSPでは線条体・淡蒼球の神経細胞自体も障害されます。このため、ドパミンを補うレボドパの効果が乏しいか一時的にとどまることが多いと説明されています。
進行性核上性麻痺の症状
- 易転倒性・姿勢保持障害: 発症早期(多くは1年以内)から、バランスを崩して後方へ転倒しやすくなります。危険の認識が低下して勢いよく立ち上がったり方向転換したりするため、骨折や頭部外傷につながりやすい症状です。
- 垂直性核上性眼球運動障害: 上下方向、特に下方視が困難になり、足元の段差が見えにくくなったり、食事中に皿の中が見えにくくなったりします。初期には垂直方向の素早い眼球運動(衝動性眼球運動)が遅くなることが先行し、進行すると水平方向も制限されます。
- 体幹優位の筋強剛・無動: 首や体幹の筋肉が硬くなり、首が後ろに反る姿勢(頸部後屈)が目立つことがあります。動作は遅くなりますが、パーキンソン病に典型的な安静時振戦は少ないとされます。
- すくみ足・歩行障害: 歩き出しや方向転換で足が床に張り付いたように出なくなります。歩幅が広く不安定な歩き方になる例もあり、PSP-PGFではすくみ足が長期間主症状となります。
- 前頭葉症状・認知機能低下: 意欲・自発性の低下(アパシー)、思考の緩慢、計画を立てて実行する力の低下、言葉の流暢さの低下が目立ちます。記憶障害はアルツハイマー型認知症ほど前景に立たないことが多い一方で、病識が乏しくなることがあります。
- 行動の変化・脱抑制: せっかちになる、衝動的に行動する、同じ行動を繰り返す、相手の動作をまねるなどの変化がみられます。検者の拍手を3回まねるよう指示しても止められずに続けてしまう「拍手徴候」が知られています。
- 構音障害: 声が小さく、低く、こもった話し方や、うなるような不明瞭な発語になります。PSP-SLでは発語失行(話し言葉の運動の企画障害)が初期症状になることがあります。
- 嚥下障害: 仮性球麻痺や頸部後屈、食べ物を次々に口へ詰め込む行動などにより、むせや誤嚥が起こります。進行期の誤嚥性肺炎の主要な原因となります。
- 特徴的な顔貌・眼瞼症状: 瞬きが減り、目を見開いた驚いたような表情になることがあります。まぶたを開けにくくなる開眼失行や眼瞼けいれんを伴うこともあります。
- 感情失禁・情動の変化: 些細なきっかけで泣いたり笑ったりして止められない症状(強制泣き・強制笑い)がみられることがあります。抑うつや不安を伴うこともあります。
- 睡眠障害・排尿障害: 不眠や夜間頻尿、尿意切迫がみられることがあります。ただし、多系統萎縮症ほど早期から高度の自律神経障害が出ることは少ないとされます。
進行性核上性麻痺の経過と合併症
典型的なリチャードソン症候群では、転倒や歩行の不安定さで発症し、数年のうちに眼球運動障害、構音・嚥下障害、前頭葉症状が加わります。平均的には発症から数年で歩行に介助が必要となり、その後車いす生活を経て、臥床がちになる経過をとります。病初期には眼球運動障害がまだ明らかでないことも多く、パーキンソン病、うつ病、脳血管障害、加齢による歩行障害などと診断されていることも少なくありません。一方、PSP-PやPSP-PGFは進行が比較的緩やかで、PSP-Pではレボドパにある程度反応することもあります。進行の速さや症状の組み合わせには大きな個人差があり、病型が経過とともにリチャードソン症候群型に近づいていくことも多いとされます。
主な合併症は、転倒による骨折(大腿骨近位部、手首、肋骨など)や頭部外傷、硬膜下血腫です。嚥下障害による誤嚥性肺炎、窒息、低栄養・脱水も問題になります。不動に伴う褥瘡、関節拘縮、深部静脈血栓症、尿路感染症、便秘も起こりやすくなります。眼球運動障害と瞬目減少により、眼の乾燥や角膜障害、読書困難、視覚的な不自由も生じます。前頭葉症状に関連する危険行動や介護抵抗、抑うつも生活上の大きな課題です。
進行性核上性麻痺の診断・診断基準
PSPの診断は、神経内科専門医による臨床症候の評価が基本です。病歴(発症年齢、初発症状、転倒の時期と方向、進行の速さ)、神経学的診察(垂直方向の衝動性眼球運動の速度と範囲、後方突進試験による姿勢反射、体幹・頸部の筋強剛、前頭葉機能)を丁寧に評価します。そのうえで頭部MRIなどの画像検査を行い、パーキンソン病、多系統萎縮症、脳血管障害、正常圧水頭症などを鑑別します。生前に確定診断できるのは病理学的検査のみのため、臨床診断は「可能性の高さ」で表現されます。MDS臨床診断基準のほか、日本の指定難病の診断基準(40歳以降の発症、緩徐進行性、垂直性核上性眼球運動障害、早期からの姿勢の不安定・易転倒性などの主要症候と、他疾患の除外を組み合わせて判定)が用いられます。初期には確定が難しく、経過観察の中で診断が明らかになることも多い疾患です。
- 神経学的診察(眼球運動・姿勢反射): 垂直性衝動性眼球運動の緩徐化や下方視制限、後方突進試験での姿勢反射障害を確認します。人形の目現象で眼球運動が保たれていれば、核上性の障害であることが示唆されます。
- 頭部MRI: 正中矢状断で中脳被蓋の萎縮(ハチドリの嘴のような形状からハミングバードサイン、ペンギンサインと呼ばれる)、軸位断での中脳の形状変化、上小脳脚の萎縮、第三脳室の拡大、前頭葉の萎縮がみられます。中脳と橋の面積比や上小脳脚幅を用いた指標(MRPIなど)が補助診断に用いられます。
- MIBG心筋シンチグラフィ: パーキンソン病やレビー小体型認知症では心臓交感神経の集積低下がみられることが多いのに対し、PSPでは通常保たれます。両者の鑑別の参考になります。
- ドパミントランスポーターSPECT(DAT-SPECT): 線条体の集積低下を示し、ドパミン神経の変性があることを確認できます。ただしパーキンソン病や多系統萎縮症でも低下するため、それらとの鑑別には単独では使えません。
- 脳血流SPECT・FDG-PET: 前頭葉内側部や中脳の血流・代謝の低下がみられることがあります。非典型例やほかの認知症性疾患との鑑別の補助として用いられます。
- レボドパ反応性の評価: レボドパを十分量・一定期間使用して効果を判定します。持続的で明らかな改善はパーキンソン病を示唆し、反応が乏しいか一時的であればPSPなどの非定型パーキンソニズムを支持します。
- 神経心理検査: 前頭葉機能検査(FABなど)、MMSE、言語流暢性課題などで、遂行機能障害や思考の緩慢を評価します。ケアの計画や経過観察にも役立ちます。
- 除外のための検査: 血液検査(甲状腺機能、ビタミン、銅代謝など)、頭部MRIでの脳血管障害や水頭症の評価、薬剤歴の確認などで、二次性パーキンソニズムを除外します。なお、神経伝導速度検査は末梢神経の検査であり、PSPの診断には通常用いられません。
- タウPET・体液バイオマーカー(研究段階): 脳内のタウ蓄積を画像化するタウPETや、血液・髄液の指標が研究されています。現時点では一般診療で確立した診断法ではありません。
進行性核上性麻痺と鑑別すべき疾患
- パーキンソン病: 安静時振戦や左右差のある四肢優位の症状で始まり、レボドパが長期にわたりよく効く点、MIBG心筋シンチの集積低下、早期からの転倒や垂直性眼球運動障害が乏しい点で区別されます。
- 多系統萎縮症: 早期からの高度の自律神経障害(起立性低血圧、排尿障害)や小脳性運動失調、MRIでの橋・小脳の萎縮や被殻の変化が鑑別点になります。
- 大脳皮質基底核変性症: 左右差の強い肢節運動失行、他人の手徴候、皮質性感覚障害、ジストニアが特徴です。ただし同じ4リピートタウオパチーで臨床像が重なり、PSP-CBSとの生前の区別はしばしば困難です。
- レビー小体型認知症: 認知機能の変動、具体的な幻視、レム睡眠行動障害が目立ち、MIBG心筋シンチやDAT-SPECTの所見が鑑別に役立ちます。
- 血管性パーキンソニズム・特発性正常圧水頭症: MRIでの多発性脳梗塞や白質病変、脳室拡大と高位円蓋部の脳溝狭小化などの画像所見が鑑別点です。正常圧水頭症では髄液排除試験で改善がみられることがあります。
- 前頭側頭型認知症・まれな遺伝性疾患: 行動変化が主体の前頭側頭型認知症はPSP-Fと重なります。若年発症で垂直性眼球運動障害を伴う場合は、ペリー病やニーマン・ピック病C型などのまれな疾患も考慮します。
進行性核上性麻痺の治療
現時点で、PSPの進行を止めたり遅らせたりすることが証明された治療(疾患修飾療法)はありません。治療の基本は、症状を和らげる薬物療法、リハビリテーション、転倒・誤嚥などの合併症予防、生活環境と介護体制の整備を組み合わせ、本人の生活の質を保つことです。神経内科医を中心に、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科・歯科(嚥下評価)、眼科、かかりつけ医、看護師、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、管理栄養士、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなどが連携します。病期が進むと、胃ろうなどの経管栄養や療養場所について意思決定が必要になります。そのため、本人の意思が表明できるうちから、家族や医療・ケアチームと話し合いを重ねるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が大切です。抗タウ抗体などの疾患修飾薬の臨床試験が国内外で行われてきましたが、有効性が確認されたものはまだなく、研究の進展が待たれています。治験への参加を含め、治療方針は主治医・専門医と相談して決めてください。
- レボドパなどの抗パーキンソン病薬: 無動・筋強剛に対してレボドパを試みることが一般的で、特にPSP-Pでは一定期間効果がみられることがあります。効果は多くの場合限定的・一時的で、幻覚や起立性低血圧などの副作用とのバランスを主治医が判断します。
- その他の対症的薬物療法: アマンタジンや一部の抗うつ薬が試されることがありますが、効果のエビデンスは限られています。抑うつ、不眠、便秘、頻尿などの症状に対しては、ふらつきや認知機能への影響に配慮して薬剤を選択します。
- ボツリヌス毒素療法: 眼瞼けいれんや、首・手足のジストニアに対して、ボツリヌス毒素の局所注射が症状緩和に用いられることがあります。開眼失行では効果が一定しません。
- 理学療法(バランス・歩行訓練): バランス訓練、歩行訓練、筋力・柔軟性の維持、転倒時の対処法の習得を行います。視覚や聴覚の合図(キュー)の活用がすくみ足に役立つことがあります。症状は進行するため、目標と訓練内容を定期的に見直します。
- 作業療法・環境調整: 手すりの設置、段差の解消、ベッド・トイレ周りの動線整備、歩行器(後方への転倒に配慮した機種)や車いすの選定を行います。転倒リスクが高い場合は保護帽も検討します。
- 言語聴覚療法・嚥下リハビリテーション: 構音訓練やコミュニケーション手段(筆談、文字盤、意思伝達装置など)の確保を行います。嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査の結果に基づいて、姿勢の工夫や食形態の調整(とろみ付けなど)を行います。
- 栄養管理と経管栄養: 体重・栄養状態を定期的に評価し、必要に応じて栄養補助食品を用います。経口摂取が困難になった場合は胃ろうなどの選択肢がありますが、延命効果や生活の質への影響を含めて、本人の価値観に沿って慎重に話し合います。
- 眼症状への対応: 人工涙液などでドライアイを予防し、角膜障害を防ぎます。下方視が困難なため、書見台で読み物を目の高さに置く、食卓の配置を工夫するなどの対策が役立ちます。
- 緩和ケア・在宅医療: 進行期には、苦痛の緩和、呼吸器感染への対応、療養場所の選択を含む緩和ケアの視点が重要です。訪問診療・訪問看護・訪問リハビリテーションを活用して、在宅療養を支えます。
進行性核上性麻痺の予後・長期フォロー
PSPは進行性の疾患で、海外の報告では、発症から死亡までの期間の中央値はおおむね5〜9年程度とされています。ただし個人差が大きく、PSP-PやPSP-PGFではより長い経過をとることが多いとされます。死因としては誤嚥性肺炎などの感染症が最も多く、転倒による外傷や窒息、全身衰弱も関係します。早期からの転倒や嚥下障害、リハビリテーション・介護体制の質は、生活の質と生命予後に影響します。適切なケアにより合併症を減らし、本人らしい生活をできるだけ長く保つことが治療の目標となります。
長期フォローアップでは、神経内科専門医による定期的な診察(数か月ごとが目安)で、運動機能、眼球運動、嚥下、認知・行動面、栄養状態、転倒の頻度を評価します。PSP評価尺度などの臨床尺度が用いられることもあります。嚥下機能は症状の自覚が乏しいまま悪化することがあるため、定期的な評価が勧められます。骨粗鬆症の評価と治療による骨折予防、肺炎球菌やインフルエンザなどの予防接種、口腔ケアの継続も重要です。病状の変化に合わせて介護サービスや福祉用具、療養場所を見直し、レスパイト入院などで介護者の負担を軽減する体制を整えます。
進行性核上性麻痺の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活で最も大切なのは転倒予防です。PSPでは本人が危険を自覚しにくく、急に立ち上がったり一人で歩き出したりしやすいため、家族は「ゆっくり立つ」「方向転換は小さく回る」などの声かけを習慣にしましょう。住環境では、手すり、滑りにくい床、夜間照明、段差解消を整えます。下が見えにくいので、階段や段差には目立つ色のテープで印をつけると役立ちます。食事は、姿勢を整え(顎を引く、テーブルの高さを調整する)、一口量を少なくし、ゆっくり食べるよう見守ります。むせが増えた、食事に時間がかかる、体重が減ったといった変化は早めに主治医に伝えてください。口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効です。便秘対策、適度な運動・活動、昼夜のリズムを保つことも勧められます。行動の変化(衝動性、無関心、怒りっぽさ)は病気による症状であることを家族が理解し、否定せずに環境で安全を確保することが関係を保つ助けになります。PSPの大部分は孤発性で、子や兄弟姉妹への遺伝を過度に心配する必要は通常ありません。ただし、家族に同様の病気の人が複数いる場合や若年発症の場合は、遺伝性疾患の可能性について専門医や遺伝カウンセリング外来で相談できます。
利用できる制度・相談窓口
PSPは指定難病であり、診断基準と重症度基準(日常生活の障害度などで判定)を満たす場合、または重症度基準を満たさなくても医療費が一定額以上かかる場合(軽症高額該当)は、医療費助成を受けられます。申請には難病指定医の作成した臨床調査個人票が必要で、窓口は都道府県・指定都市(保健所など)です。PSPは介護保険の特定疾病に含まれるため、40〜64歳の方も要介護認定を受けて介護サービスを利用できます。また、医療保険による訪問看護を週4日以上・複数回利用できる「厚生労働大臣が定める疾病等」にも該当します。障害者総合支援法の対象疾病として障害福祉サービスを利用でき、身体障害者手帳(肢体不自由、音声・言語機能障害など)や障害年金の対象となる場合もあります。手帳や年金の該当の有無は、障害の程度と認定基準によって判断されます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、ケアマネジャーが利用できます。全国組織の患者・家族会では、同じ病気の人との交流や情報交換ができます。
進行性核上性麻痺に伴う心のケア・心理社会的支援
PSPと診断されると、根本的な治療法がない進行性の病気であることへの衝撃や将来への不安、喪失感から、抑うつ状態や不安障害、適応障害を生じることがあります。PSP特有の課題として、病初期にほかの病気と診断されて長く経緯をたどる「診断までの遠回り」による疲弊があります。また、前頭葉症状によって本人の病識が乏しく、意欲低下や性格の変化が「怠け」「わがまま」と誤解されやすいことも挙げられます。会話が難しくなるにつれて、本人の気持ちが周囲に伝わりにくくなることも大きな負担です。アパシー(無関心)とうつ病は似ていますが対応が異なるため、専門家による評価が役立ちます。介護者は、転倒への常時の見守り、夜間の対応、行動変化への対応から強い身体的・精神的負担を抱えやすく、介護うつや燃え尽きに注意が必要です。気分の落ち込み、眠れない、楽しめないといった状態が続くときは、本人も家族も一人で抱え込まず、主治医、精神科・心療内科、公認心理師、難病相談支援センター、患者・家族会などに相談してください。ショートステイやレスパイト入院を利用して介護者が休息をとることも、長い療養を続けるうえで大切です。
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進行性核上性麻痺の受診の目安
- 50〜60歳代以降に、理由のはっきりしない転倒(特に後ろへの転倒)が繰り返し起こる場合は、神経内科を受診してください。
- パーキンソン病と診断されて治療を受けているのに薬の効果が乏しく、早期から転倒や下が見えにくい症状がある場合は、主治医に相談するか専門医の評価を受けましょう。
- 転倒して頭を打った後に、頭痛、嘔吐、意識がぼんやりする、手足の動きが悪くなるなどの症状が出た場合は、すぐに救急受診してください(数日〜数週間後に出ることもあります)。
- 発熱、痰の増加、呼吸が苦しい、元気がなく食べられないといった症状は誤嚥性肺炎の可能性があるため、早めに受診してください。
- 食事中に激しくむせて息ができない、顔色が悪くなるなど窒息が疑われる場合は、ただちに救急要請してください。
- むせの増加、体重減少、強い抑うつや介護者の限界感がある場合は、次回の定期受診を待たずに主治医や相談窓口に連絡しましょう。
進行性核上性麻痺についてのよくある質問
Q. パーキンソン病とはどう違うのですか?
A. どちらも動作が遅くなり体が硬くなりますが、PSPは早期から後方への転倒が多く、上下を見にくくなる眼球運動障害や前頭葉症状を伴い、振戦は少ないのが特徴です。病理学的にも、PSPはタウ蛋白が、パーキンソン病はαシヌクレインが蓄積する別の病気です。PSPではパーキンソン病の薬が効きにくいことが多いものの、試す価値がある場合もあるため、主治医と相談してください。
Q. PSPは遺伝しますか?
A. 大部分は家族歴のない孤発性で、子どもに遺伝する可能性は一般に低いと考えられています。タウ遺伝子周辺の体質が発症しやすさに関わるとされますが、遺伝子検査で発症を予測することはできません。家族に同じ病気の人が複数いる場合は、遺伝カウンセリングで相談できます。
Q. どのくらいの速さで進行しますか?
A. 典型的な病型では、発症から数年で歩行に介助が必要になることが多いとされます。ただし病型や個人によって差が大きく、進行が緩やかな病型もあります。見通しは主治医と定期的に話し合い、早めに介護体制や今後の希望について準備しておくことが大切です。
Q. リハビリテーションに意味はありますか?
A. リハビリテーションで病気の進行そのものを止めることはできません。しかし、バランスや筋力、柔軟性を保ち、転倒を減らし、嚥下やコミュニケーションの工夫を身につけるうえで重要な役割を果たします。病状に合わせて内容を見直しながら継続することが勧められ、介護保険や医療保険のリハビリテーションを活用できます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。