シェーグレン症候群
Sjögren's Syndrome
シェーグレン症候群(Sjögren's Syndrome)|シェーグレン症候群は、免疫の異常によって涙腺や唾液腺などの外分泌腺に慢性の炎症が起こり、目と口の強い乾燥を主な症状とする自己免疫疾患です。中年女性に多くみられ、乾燥症状だけでなく、関節・皮膚・肺・腎臓・神経など全身の臓器に病変が及ぶことがあります。生命に関わることは比較的少ない一方、長く続く乾燥症状や倦怠感が日常生活の質を下げやすく、悪性リンパ腫の合併にも注意しながら長く付き合っていく必要があります。
シェーグレン症候群の要点
シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤して機能が低下し、目や口の強い乾燥を主な症状とする慢性の自己免疫疾患です。中年女性に多く、関節・皮膚・肺・腎臓・神経など全身の臓器に病変が及ぶことがあり、指定難病(告示番号53)に指定されています。
| 別名・略称 | シェーグレン病、SS、SjS、Sjögren syndrome、Sjögren's disease |
|---|---|
| 分野 | 免疫・膠原病・自己炎症 |
| 好発年齢・性別 | 中年女性に多い |
| 主な症状 | 目と口の強い乾燥、倦怠感、関節症状など |
| 病型 | 腺型・腺外型/一次性(原発性)・二次性(続発性) |
| 主な検査 | 抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体、涙液・唾液分泌検査、口唇腺生検など |
| 主な治療 | 乾燥症状への対症療法が中心。腺外病変にはステロイドや免疫抑制薬を使うことがある |
| 受診する主な診療科 | 膠原病・リウマチ内科、眼科、歯科口腔外科 |
シェーグレン症候群とは
シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome:SS)は、涙腺・唾液腺を中心とする外分泌腺にリンパ球(主にCD4陽性T細胞とB細胞)が浸潤し、腺の機能が低下する慢性の全身性自己免疫疾患です。血液中には抗SS-A/Ro抗体や抗SS-B/La抗体などの自己抗体が検出されることが多く、高γグロブリン血症やリウマトイド因子陽性もよくみられます。病変が外分泌腺にとどまる「腺型」と、腺以外の臓器(関節、皮膚、肺、腎、神経、血液など)にも病変が及ぶ「腺外型」に分けて考えると、病気の広がりや重症度を整理しやすくなります。外分泌腺の上皮細胞そのものが免疫反応の場となることから、「自己免疫性上皮炎(autoimmune epithelitis)」と呼ばれることもあります。
1933年、スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが、乾燥性角結膜炎に口腔乾燥と関節炎を伴う女性症例をまとめて報告したことが疾患名の由来です。それ以前に報告された、涙腺・唾液腺が左右対称に腫れる「ミクリッツ病」はかつてSSの一型とされていましたが、現在では多くがIgG4関連疾患として別の疾患に分類されています。従来は、他の膠原病を伴わない一次性(原発性)SSと、関節リウマチ・全身性エリテマトーデス(SLE)・全身性強皮症・混合性結合組織病などに合併する二次性(続発性)SSに分類されてきました。2016年のACR/EULAR分類基準では両者を区別しない考え方も示されていますが、日本の臨床や指定難病制度では現在もこの区分が広く使われています。日本では1999年の厚生省改訂診断基準が診断に用いられ、2017年には厚生労働科学研究班などによる診療ガイドラインが公表されています。シェーグレン症候群は指定難病(告示番号53)に指定されています。
シェーグレン症候群の疫学・患者数
日本では、厚生労働省研究班の全国疫学調査(2011年前後)により、医療機関を受診している患者は約6万8千人と推計されています。一方、症状が軽く未診断のままの人も多いと考えられ、潜在的な患者数は10万〜30万人程度ともいわれています。海外の報告でも、有病率は調査方法や用いる基準によって大きく異なります。男女比は女性が圧倒的に多く、日本の調査では男性1に対して女性が十数倍以上とされています。診断時の年齢は50歳代を中心に40〜60歳代に多いものの、小児や高齢者にもみられます。小児では乾燥症状がはっきりせず、繰り返す耳下腺の腫れや発熱、検診で見つかる高γグロブリン血症などをきっかけに診断されることがあります。二次性SSは関節リウマチやSLEの患者さんの一定割合に合併するとされ、基礎疾患の診療中に見つかることも少なくありません。
シェーグレン症候群の原因・病態生理
発症の根本原因はまだ解明されていませんが、遺伝的な素因に環境要因が重なって免疫寛容が破綻すると考えられています。単一の遺伝子で起こる遺伝病ではなく、親から子へ決まった形で遺伝するものではありません。疾患感受性に関わる遺伝要因としては、HLAクラスII領域の遺伝子のほか、IRF5やSTAT4など、I型インターフェロン経路やリンパ球の働きに関わる遺伝子の多型が報告されています。環境要因としては、EBウイルスなどのウイルス感染が引き金になる可能性が議論されています。女性に多く閉経前後に発症しやすいことから、エストロゲンなど性ホルモンの関与も考えられています。
病態の中心は、唾液腺・涙腺の導管上皮細胞と免疫細胞の相互作用です。何らかの刺激で傷ついた上皮細胞や形質細胞様樹状細胞からI型インターフェロンが産生されると、多くの患者さんで「インターフェロン・シグネチャー」と呼ばれる遺伝子発現の亢進がみられます。インターフェロンによってBAFF(B細胞活性化因子)などの産生が増えるとB細胞が過剰に生き残り、活性化します。その結果、腺組織内にリンパ濾胞様構造(異所性胚中心)が形成され、抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体などの自己抗体が作られます。腺の機能低下は、リンパ球浸潤による腺房の破壊だけでは説明しきれません。サイトカインによる分泌シグナルの障害、水チャネルであるアクアポリン5の局在異常、ムスカリン作動性M3受容体に対する自己抗体による神経伝達の阻害なども関わると報告されています。B細胞の慢性的な刺激が続くと、単クローン性の増殖を経てMALTリンパ腫などのB細胞リンパ腫に進展することがあり、これがSS特有の重要な合併症となっています。腺外病変は、リンパ球の臓器浸潤(間質性腎炎、リンパ球性間質性肺炎など)と、免疫複合体の沈着(クリオグロブリン血症性血管炎、糸球体腎炎、紫斑など)の2つの機序に大別されます。
シェーグレン症候群の症状
- ドライアイ(乾燥性角結膜炎): 涙液が減って、目の乾き、ゴロゴロする異物感、まぶしさ、かすみ目、疲れ目などが起こります。重くなると角膜や結膜の表面に傷(上皮障害)が生じ、視力が落ちることもあります。
- ドライマウス(口腔乾燥): 唾液が減って口が渇き、パンやクッキーなど乾いた食べ物が飲み込みにくい、話しにくい、味がわかりにくいといった症状が出ます。夜間に何度も水を飲むため目が覚めることもあります。
- 虫歯・歯周病・口腔カンジダ症: 唾液による自浄作用や抗菌作用が弱まるため、歯の根元にできる虫歯が急に増えたり、舌の痛みや口角炎を伴うカンジダ症を繰り返したりします。
- 唾液腺の腫れ: 耳下腺や顎下腺が左右または片側で腫れ、痛むことがあります。硬い腫れが長く続く場合は、悪性リンパ腫の可能性を考えて精密検査が必要です。
- その他の乾燥症状: 鼻や喉、気道が乾いて空咳が出たり、皮膚の乾燥やかゆみが生じたりします。腟が乾燥して性交痛が起こることもあり、気づかれにくい症状の一つです。
- 倦怠感・疲労感: 多くの患者さんが強い疲れやすさを訴え、生活の質を下げる大きな要因になります。炎症の程度とは必ずしも一致しません。
- 関節痛・関節炎: 手指などの関節に痛みやこわばりが出ます。一次性SSの関節炎は、関節の骨が壊れる(骨びらん)ことは通常少ないとされています。
- 皮膚症状(紫斑・環状紅斑): 下腿に点状の紫斑が繰り返し出る高γグロブリン血症性紫斑や、クリオグロブリン血症に伴う血管炎がみられます。顔などに輪のような形の紅斑(環状紅斑)が出ることもあり、日本人に比較的多いとされています。
- レイノー現象: 寒さや緊張で手指が白から紫へと色調変化し、しびれや痛みを伴います。
- 呼吸器症状: 慢性的な咳や息切れがみられる場合、間質性肺炎(NSIPやリンパ球性間質性肺炎など)や細気管支病変が関わっていることがあります。
- 腎症状(低カリウム血症など): 尿細管間質性腎炎や遠位尿細管性アシドーシスにより、低カリウム血症による脱力・筋力低下や、腎結石、多尿がみられます。
- 神経症状: 手足のしびれや感覚障害(感覚性ニューロノパチー、多発ニューロパチー)、顔のしびれ(三叉神経障害)が起こります。まれに、視神経脊髄炎スペクトラム障害などの中枢神経病変を合併することもあります。
シェーグレン症候群の経過と合併症
多くの場合、経過はゆっくりで、乾燥症状が何年もかけて徐々に進むか、ほぼ横ばいで推移します。腺型の患者さんでは、生命予後は一般人口とあまり変わらないとされています。一方、唾液腺・涙腺の分泌機能は、いったん大きく低下すると完全に元に戻ることは難しく、長い期間にわたる局所ケアが必要です。腺外病変は、診断時にすでに存在する場合と、経過中に新たに現れる場合があります。疾患活動性はEULARのESSDAI(臓器別の全身活動性指標)で評価し、患者さん自身が感じる症状の重さはESSPRI(乾燥・疲労・疼痛の自己評価)で評価するのが国際的な標準となっています。無症状で検診時の血液検査異常(高γグロブリン血症、白血球減少など)をきっかけに見つかり、長く安定した経過をたどる人もいます。
重要な合併症は次のとおりです。①悪性リンパ腫(主に唾液腺などに生じるMALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫):一般人口に比べて発症リスクが高いと報告されています。持続する耳下腺の腫れ、紫斑、クリオグロブリン血症、低補体(特にC4低値)、単クローン性γグロブリン、リンパ球減少などがリスク因子とされています。②間質性肺炎や気道病変。③尿細管間質性腎炎、遠位尿細管性アシドーシス、まれに糸球体腎炎。④末梢神経障害・中枢神経病変。⑤自己免疫性甲状腺疾患や原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎の合併。⑥血球減少(白血球減少、血小板減少)。⑦妊娠への影響:抗SS-A抗体陽性の母親から生まれた児に、新生児ループス(一過性の皮疹や肝障害、まれに先天性完全房室ブロック)が起こることがあります。先天性房室ブロックの頻度は1〜2%前後と報告されており、前の子で発症した場合は再発率が高くなります。
シェーグレン症候群の診断・診断基準
診断では、自覚症状の聴き取りに加えて、①眼の乾燥の客観的評価、②口腔(唾液腺)の機能・形態評価、③血清の自己抗体、④口唇小唾液腺(または涙腺)の病理組織の4本柱を組み合わせます。日本では1999年の厚生省改訂診断基準が用いられ、生検病理組織検査・口腔検査・眼科検査・血清検査の4項目のうち2項目以上を満たせばSSと診断します。国際的には、研究や臨床試験の対象者を揃えるための2016年ACR/EULAR分類基準も広く使われます。乾燥の原因となる薬剤(抗コリン作用をもつ薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、利尿薬など)、頭頸部への放射線治療歴、C型肝炎、HIV感染、サルコイドーシス、IgG4関連疾患などを除外することが前提です。診断後は、尿・血液検査、胸部画像、神経学的診察などで腺外病変の有無と疾患活動性を評価し、治療方針を決めます。
- 厚生省改訂診断基準(1999年): ①口唇腺または涙腺の生検で、4mm²あたり1 focus(導管周囲に50個以上のリンパ球が集まった巣)以上の浸潤、②唾液腺造影でStage I以上の異常、または唾液分泌量の低下に加えて唾液腺シンチグラフィーで機能低下、③シルマー試験5分間5mm以下に加えて角結膜の染色試験陽性、④抗SS-A抗体または抗SS-B抗体陽性。この4項目のうち2項目以上を満たせば診断します。
- ACR/EULAR分類基準(2016年): 口唇腺生検でfocus score 1以上(3点)、抗SS-A抗体陽性(3点)、眼表面染色スコア異常(1点)、シルマー試験5分間5mm以下(1点)、安静時唾液分泌量0.1mL/分以下(1点)の合計が4点以上で分類します。抗SS-B抗体の単独陽性は項目に含まれていません。
- 血清学的検査: 抗SS-A/Ro抗体は患者さんの多くで陽性となり、抗SS-B/La抗体は特異度が高い抗体です。ほかに抗核抗体、リウマトイド因子、高γグロブリン血症、白血球減少、補体(C3・C4)低値、クリオグロブリンなどを調べ、活動性やリンパ腫リスクの評価にも役立てます。抗セントロメア抗体陽性のSSも知られています。
- 口唇小唾液腺生検: 下唇の内側を局所麻酔下で小さく切開し、小唾液腺を数個採取します。導管周囲のリンパ球浸潤巣(focal lymphocytic sialadenitis)を確認し、特に自己抗体が陰性の場合に診断の決め手となります。
- 唾液分泌量検査(ガムテスト・サクソンテスト): ガムを10分間噛んで出る唾液が10mL以下、またはガーゼを2分間噛んで吸収される唾液が2g以下であれば、分泌低下と判定します。
- 唾液腺の画像検査(造影・シンチグラフィー・超音波・MRI): 唾液腺造影では点状・顆粒状の陰影(apple tree様)がみられ、シンチグラフィーでは集積や排泄の低下がみられます。近年は体への負担が少ない唾液腺超音波検査も活用され、腺内部の不均一な低エコー域の評価や、リンパ腫を疑う腫瘤の検出に役立ちます。
- 眼科検査(シルマー試験・角結膜染色・涙液層破壊時間): ろ紙を下まぶたに挟んで5分間の涙の量を測り、フルオレセインやリサミングリーンなどで角膜・結膜の上皮障害を評価します。涙液層破壊時間(BUT)の短縮はドライアイの重症度判定にも用いられます。
- 腺外病変の評価: 尿検査、血清カリウム、血液ガス(尿細管性アシドーシス)、胸部X線・CT、呼吸機能検査、甲状腺・肝機能、神経伝導検査などを行います。評価結果はESSDAIによる活動性判定に用いられ、指定難病の重症度判定にも関わります。
シェーグレン症候群と鑑別すべき疾患
- IgG4関連疾患(ミクリッツ病): 涙腺・唾液腺が左右対称に持続して腫れる一方で乾燥症状は比較的軽く、血清IgG4高値、組織でのIgG4陽性形質細胞浸潤、抗SS-A/SS-B抗体陰性が鑑別点で、ステロイドがよく効きます。
- 加齢・薬剤性・心因性の乾燥症: 高齢者や、抗コリン薬・抗うつ薬・降圧利尿薬などを服用中の人では自己抗体陰性・生検正常のことが多く、原因薬剤の見直しで改善することがあります。
- サルコイドーシス: 唾液腺・涙腺の腫れや乾燥をきたしますが、生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫がみられ、両側肺門リンパ節腫大や血清ACE高値を伴う点で区別されます。
- C型肝炎・HIV感染症: いずれもSSに似た唾液腺炎や乾燥症状を起こすため、分類基準では除外項目とされており、ウイルス検査で鑑別します。
- 悪性リンパ腫・アミロイドーシス: 唾液腺の硬い腫瘤や片側性の腫れ、全身症状を伴う場合は生検で鑑別し、SSにリンパ腫が合併している可能性も念頭に置きます。
- 他の膠原病(SLE・関節リウマチ・全身性強皮症など): これらにSSが合併する二次性SSの場合もあるため、各疾患の分類基準と特異的な自己抗体を確認して、どちらが主体の病態かを評価します。
シェーグレン症候群の治療
現在のところSSを根治する治療法は確立されておらず、治療の目標は乾燥症状を和らげて生活の質を保つことと、腺外臓器の障害を早く見つけ、抑えることの2つです。腺型では、点眼薬・唾液分泌促進薬・口腔ケアなどの局所療法と対症療法が中心になります。腺外病変がある場合は、ESSDAIなどで臓器ごとの重症度を評価し、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による全身療法を検討します。乾燥症状だけを理由に全身性ステロイドを長期使用することは、一般には推奨されません。治療は眼科・歯科口腔外科・リウマチ膠原病内科などが連携して行うのが望ましく、薬剤の選択や適応外使用の可否は、主治医とよく相談して決める必要があります。
- ドライアイの点眼治療: 人工涙液やヒアルロン酸点眼に加え、日本では涙液や粘液(ムチン)の分泌を促すジクアホソル点眼や、角結膜の上皮を保護するレバミピド点眼が使われます。防腐剤を含まない製剤の選択も検討されます。
- 涙点プラグ・眼科的処置: 点眼で十分な効果が得られない中等症以上のドライアイでは、涙の出口(涙点)をプラグでふさいで涙を目の表面にとどめる治療が行われます。保湿眼鏡の使用も補助的に有効です。
- 唾液分泌促進薬(ムスカリン受容体作動薬): ピロカルピンやセビメリンは、日本でSSの口腔乾燥症状に対して承認されており、残っている唾液腺の機能を刺激します。発汗、吐き気、頻尿などの副作用があり、気管支喘息や閉塞隅角緑内障などの持病がある場合は慎重な判断が必要です。
- 口腔ケア・歯科的管理: 人工唾液や保湿ジェル、こまめな水分補給、フッ化物の利用、定期的な歯科受診により、虫歯や歯周病を予防します。口腔カンジダ症には抗真菌薬で治療します。
- 関節症状・全身症状への対症療法: 関節痛には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを用い、関節炎が続く場合には少量のステロイドや、関節リウマチに準じた抗リウマチ薬が検討されることがあります。
- 副腎皮質ステロイド: 間質性肺炎、間質性腎炎、血管炎、神経病変、血球減少、環状紅斑など腺外病変の活動性が高い場合に、病変の種類と重症度に応じた量を用います。骨粗鬆症や感染症などの副作用対策も並行して行います。
- 免疫抑制薬: 重い臓器病変やステロイドの減量が難しい場合には、アザチオプリン、シクロホスファミドなどの使用が検討されます。日本ではSSそのものに対して承認されていない薬剤も多く、専門医が適応を個別に判断します。
- 生物学的製剤など: 抗CD20抗体リツキシマブがクリオグロブリン血症性血管炎などの難治例で有効との報告がありますが、日本ではSSに対して承認されていません。B細胞やインターフェロン経路を標的とする新しい薬剤は、現在臨床試験段階にあります。
- 合併症の専門的治療: 悪性リンパ腫は血液内科、尿細管性アシドーシスはアルカリ製剤やカリウム補充、二次性SSは基礎疾患の治療と、それぞれの病態に合わせた治療を組み合わせます。
シェーグレン症候群の予後・長期フォロー
腺型SSの生命予後は良好で、一般人口とほぼ同等とされています。一方、重い腺外病変(活動性の高い血管炎、進行性の間質性肺炎、クリオグロブリン血症など)を伴う例や、悪性リンパ腫を発症した例では、予後に影響が出ます。リンパ腫の多くは進行の遅いMALTリンパ腫で、治療成績は比較的良好とされますが、早期発見が重要です。乾燥症状や疲労感は長く続くことが多く、QOL(生活の質)の低下は関節リウマチなど他の慢性疾患に匹敵するという報告もあります。そのため、症状を軽視せずに、局所ケアや生活環境の工夫を積み重ねていくことが大切です。
診断後は、症状や活動性に応じて数か月ごとに定期受診し、血算、腎機能、電解質、尿検査、免疫グロブリン、補体、リウマトイド因子などを確認します。乾燥症状だけの安定例でも、腺外病変が後から出てくることがあるため、年単位での経過観察が勧められます。耳下腺の持続的な腫れ、紫斑、C4低値、クリオグロブリン、リンパ節腫脹、原因のわからない発熱・体重減少はリンパ腫を警戒するサインであり、画像検査や生検を考慮します。眼科(角膜障害)と歯科(虫歯・歯周病)の定期受診も、生涯にわたって続けることが望まれます。妊娠を希望する抗SS-A抗体陽性の女性は、計画の段階から主治医と産科(必要に応じて胎児循環器の専門家)が連携し、妊娠中に胎児心拍のモニタリングを行います。
シェーグレン症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
目のケアとして、エアコンの風が直接当たらないようにし、加湿器を使い、パソコン作業中は意識的にまばたきをして、こまめに休憩を取りましょう。保湿眼鏡も役立ちます。コンタクトレンズの使用は眼科医に相談してください。口のケアでは、少量の水をこまめに飲む、無糖のガムや飴で唾液を促す、甘い飲食物のだらだら摂取を避ける、フッ素入り歯磨き剤を使う、寝る前に保湿ジェルを使う、といった工夫が有効です。喫煙やアルコール、カフェインの多い飲み物は乾燥を悪化させやすいため控えめにしましょう。乾燥肌には保湿剤を、腟の乾燥には潤滑剤を使うと楽になります。かぜ薬や睡眠薬、抗アレルギー薬などには口の渇きを強める成分を含むものがあるため、受診時には服用中の薬を必ず伝えましょう。疲労感が強い場合は、無理のない範囲での軽い運動と十分な睡眠が勧められます。SSは遺伝病ではなく、家族が必ず発症するわけではありません。ただし、自己免疫疾患は家族内で集まりやすい傾向が知られています。抗SS-A抗体陽性の女性が妊娠を考える場合は、新生児ループスの説明を含めて主治医に相談し、必要に応じて遺伝カウンセリングや専門外来も利用するとよいでしょう。
利用できる制度・相談窓口
シェーグレン症候群は指定難病(告示番号53)であり、診断基準を満たし、かつ重症度分類(ESSDAIで5点以上など)に該当する場合に、医療費助成(特定医療費)の対象となります。重症度の基準を満たさない軽症の人でも、医療費の総額が一定額を超える月が年3回以上ある場合は、「軽症高額該当」として対象となることがあります。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票などを添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(多くは保健所)に提出します。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病(膠原病群)の医療費助成の対象となる場合があります。そのほか、高額療養費制度、肺・腎・神経などの臓器障害が重い場合の身体障害者手帳、障害年金(症状の程度による)も利用を検討できます。障害者総合支援法の対象疾病にも含まれており、福祉サービスを利用できる場合があります。40〜64歳の人が介護保険を利用するには、特定疾病に該当することが条件となるため、利用の可否は個別に確認が必要です。相談先としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、病院の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイト、患者会などがあり、就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談できます。
シェーグレン症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
SSの乾燥症状や慢性的な疲労感、痛みは外見からはわかりにくく、「気のせい」「年のせい」と受け止められてしまう苦しさを抱えやすい病気です。食事や会話がしづらい、睡眠が妨げられる、パソコン作業がつらいといった制約は、仕事や人付き合い、自己評価にも影響します。そのため、抑うつや不安、適応障害、睡眠障害を合併することが少なくないと報告されています。また、リンパ腫になるかもしれないという不安や、妊娠・出産への心配、性交痛による夫婦関係の悩みなど、SSに特有の心理的・社会的な課題もあります。これらは「我慢すべきもの」ではなく、治療やケアの対象です。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、何事にも興味がわかないといった状態があれば、主治医に率直に伝えてください。必要に応じて心療内科・精神科、臨床心理士、患者会などのピアサポートを利用することが、病気と長く付き合ううえで大きな助けになります。家族や職場の人に病気の特徴を説明し、加湿や休憩などの配慮を求めることも大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
シェーグレン症候群の受診の目安
- 目と口の乾燥が数か月以上続く、虫歯が急に増えた、乾いた食べ物が飲み込みにくいといった場合は、リウマチ膠原病内科や眼科・歯科を受診しましょう。
- 耳下腺や顎下腺が数週間以上腫れたまま引かない、硬いしこりがある、首などのリンパ節が腫れてきた場合は、早めに主治医に相談してください。
- 原因のわからない発熱、寝汗、体重減少が続く場合や、下肢の紫斑が繰り返し出る場合は、受診を予定より早めましょう。
- 強い脱力感で立てない、手足に力が入らないといった症状は、低カリウム血症の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。
- 息切れや咳が悪化した、急に手足がしびれて動かしにくくなった、視力が低下した場合は、救急受診も含めてすぐに相談しましょう。
- 抗SS-A抗体陽性で妊娠した、または妊娠を希望している場合は、早い段階で主治医と産科に伝えてください。
シェーグレン症候群についてのよくある質問
Q. シェーグレン症候群は治りますか?
A. 現時点で根治する治療法はありませんが、多くの方は点眼や唾液分泌促進薬、口腔ケアなどで症状をコントロールしながら日常生活を送っています。腺外病変があっても、早く見つけて治療すれば臓器障害を抑えられることが多いため、定期受診を続けることが大切です。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. 決まった形で遺伝する遺伝病ではなく、子どもが必ず発症するわけではありません。ただし、自己免疫疾患は家族内で起こりやすい傾向があります。また、抗SS-A抗体陽性の母親では、生まれた赤ちゃんに新生児ループスが起こることがあるため、妊娠前から主治医に相談しましょう。
Q. 悪性リンパ腫が心配です。どうすればよいですか?
A. 一般の人よりリスクは高いとされますが、実際に発症するのは患者さんの一部です。耳下腺の腫れが続く、紫斑が出る、補体が低いなどのリスク因子がある場合は特に注意して経過をみていきます。定期受診で血液検査や診察を受け、気になる腫れや全身症状があれば早めに伝えることが早期発見につながります。
Q. 口の渇きをやわらげる日常の工夫はありますか?
A. 少量の水をこまめに飲む、無糖のガムで唾液を促す、加湿器を使う、就寝時に保湿ジェルを使うなどの工夫が役立ちます。口の渇きを強める薬を飲んでいないか、主治医や薬剤師に確認してもらうことも大切です。虫歯を防ぐため、フッ素の利用と定期的な歯科受診を心がけましょう。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。