再発性多発軟骨炎
Relapsing Polychondritis, RP
再発性多発軟骨炎(Relapsing Polychondritis, RP)|再発性多発軟骨炎(Relapsing Polychondritis, RP)は、耳介・鼻・喉頭・気管・気管支などの軟骨とその周囲(軟骨膜)に炎症が繰り返し起こる、まれな全身性の炎症性疾患です。中高年に多く、目・内耳・関節・心臓弁・大動脈などの軟骨以外の臓器も侵されます。耳の腫れのように目立つ症状だけでなく、気道の狭窄や心血管病変のように生命に関わる病変を起こしうるため、早期診断と継続的な管理が重要です。日本では指定難病(告示番号55)に定められています。
再発性多発軟骨炎の要点
再発性多発軟骨炎は、耳介・鼻・喉頭・気管などの軟骨や、目・内耳・関節・心臓弁・大動脈に炎症が繰り返し起こる、まれな全身性炎症性疾患です。耳の腫れや気道狭窄などを生じ、日本では指定難病(告示番号55)に定められています。
| 別名・略称 | 再発性多発性軟骨炎、多発軟骨炎、RP、Relapsing Polychondritis、Polychondropathia、Systemic chondromalacia、Meyenburg-Altherr-Uehlinger症候群 |
|---|---|
| 分野 | 免疫・膠原病・自己炎症 |
| 好発年齢 | 中高年に多い |
| 遺伝形式 | 典型的な遺伝性疾患ではない |
| 主な症状 | 耳介の腫れと痛み、鼻や関節の痛み、眼の炎症、難聴・めまい、気道狭窄 |
| 経過 | 炎症の再燃と軽快を繰り返し、軟骨が変形する |
| 注意すべき合併症 | 気道病変、心血管病変、骨髄異形成症候群などの血液疾患 |
| 指定難病 | 告示番号55 |
再発性多発軟骨炎とは
RPは、硝子軟骨(気管・肋軟骨・関節軟骨)、弾性軟骨(耳介・喉頭蓋)、線維軟骨のいずれにも炎症を起こします。さらに眼の強膜、内耳、心臓弁、大動脈壁など、軟骨と似た成分(プロテオグリカンや特定のコラーゲン)を多く含む組織にも炎症が及びます。名前のとおり、炎症の再燃と軽快を繰り返しながら(再発性)、全身の複数部位(多発)の軟骨を少しずつ傷めていくのが特徴です。炎症が続くと軟骨は線維組織に置き換わり、耳介の変形(カリフラワー状耳)、鞍鼻、気管軟化・狭窄など元に戻らない構造変化が残ります。一方、経過は人によって大きく異なり、数年おきに耳介炎を繰り返すだけの軽症例から、短期間で気道や心血管が侵される重症例まであります。
1923年にJaksch-Wartenhorstが「polychondropathia」として初めて報告し、1960年にPearsonらが現在の「relapsing polychondritis」の名称を提唱しました。1976年にはMcAdamらが臨床的な診断基準を示し、その後Damiani & Levine(1979年)、Michetら(1986年)が修正しました。現在も国際的に統一された分類基準はありませんが、これらの基準が診療と研究で広く使われています。病型は確立していません。ただし、気道病変の有無、他の自己免疫疾患・血液疾患(骨髄異形成症候群など)の合併の有無で予後や治療方針が異なるため、臨床的にはこの観点で分けて考えます。また2020年には、主に高齢男性に起こるVEXAS症候群(造血細胞の<i></i>UBA1遺伝子の後天的な体細胞変異による自己炎症性疾患)が報告されました。従来RPと診断されてきた患者の一部、特に大球性貧血や骨髄異形成を伴う高齢男性がこれに当たることが分かり、疾患概念の見直しが進んでいます。ベーチェット病とRPの特徴を併せ持つ病態は「MAGIC症候群」と呼ばれます。
再発性多発軟骨炎の疫学・患者数
欧米の報告では、年間発症率は人口100万人あたり数人程度(約3.5人)、有病率は人口10万人あたり数人程度とされます。日本では厚生労働省研究班の全国調査で、患者数はおおむね数百人規模(400〜500人程度)と推計されました。ただし診断に至っていない例も含めると、実数はより多い可能性があります。発症年齢は小児から高齢者まで幅広いものの、40〜60歳代が中心で、平均発症年齢は50歳前後とされます。性差ははっきりせず、日本の調査でも男女比はほぼ1:1と報告されています。一方、VEXAS症候群に該当する例は高齢男性に偏っています。家族内発症はまれで、遺伝性疾患とは考えられていません。また、約3割の患者に全身性血管炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、骨髄異形成症候群などの合併がみられるとされます。
再発性多発軟骨炎の原因・病態生理
原因はまだ完全には解明されていませんが、軟骨を構成する成分に対する自己免疫反応が病態の中心と考えられています。標的となる抗原の候補には、硝子軟骨の主成分であるII型コラーゲンのほか、IX型・XI型コラーゲン、マトリリン-1、軟骨オリゴマー基質タンパク(COMP)などが挙がっています。一部の患者では抗II型コラーゲン抗体が検出され、その値が病気の活動性と関連するという報告があります。動物実験でも、II型コラーゲンやマトリリン-1で免疫すると耳介炎や気道の軟骨炎が誘発されます。遺伝的な背景としては、HLA-DR4との関連が報告されており、発症しやすい体質が関わると考えられます。ただし単一の原因遺伝子で起こる遺伝病ではなく、親から子へ遺伝するものではありません。感染、外傷(耳のピアスなど)、薬剤などが免疫反応の引き金になる可能性も指摘されていますが、はっきりした証拠はありません。
組織では、炎症の初期に軟骨と軟骨膜の境界部へ好中球、リンパ球(主にCD4陽性T細胞)、形質細胞、マクロファージが入り込みます。軟骨の基質からはプロテオグリカンが失われ、組織標本では軟骨の好塩基性染色が弱くなります。活性化した免疫細胞や軟骨細胞自身から、マトリックスメタロプロテアーゼやカテプシンなどのタンパク分解酵素、TNF-α・IL-6・IL-8などの炎症性サイトカインが放出され、軟骨基質が破壊されます。炎症が繰り返されると軟骨は肉芽組織や線維組織に置き換わり、支持組織としての硬さを失います。耳介では変形、鼻では鼻梁の陥没(鞍鼻)が起こります。気道では、吸気・呼気のたびに気道がつぶれる気管軟化症や、線維化による固定性の狭窄が生じます。心臓弁輪や大動脈壁にも同様の炎症(大動脈炎)が起こると、大動脈弁閉鎖不全や大動脈瘤につながります。VEXAS症候群では、骨髄の造血細胞にUBA1変異が後天的に生じ、自然免疫系の過剰な炎症が全身に起こることが病態の本体とされます。
再発性多発軟骨炎の症状
- 耳介軟骨炎: 最も多い症状で、多くの患者が経過中に経験します。片側または両側の耳介が急に赤く腫れて強く痛み、軟骨のない耳たぶ(耳垂)は侵されないのが特徴です。数日〜数週で自然に引くこともありますが、繰り返すと耳介が軟らかく変形します。
- 鼻軟骨炎・鞍鼻: 鼻背部の痛みや発赤、鼻閉、鼻出血がみられます。進行すると鼻中隔軟骨が壊れて鼻梁が陥没する鞍鼻になります。
- 喉頭・気管・気管支病変: 嗄声、乾いた咳、喉頭部や前頸部の圧痛、喘鳴、息切れ、吸気時の喘鳴(stridor)などが起こります。気管軟化や狭窄が進むと窒息や重症呼吸不全の危険があり、生命予後に最も影響する病変です。気管支喘息と誤診されることもあります。
- 関節炎・肋軟骨炎: 左右非対称で移動性の少関節炎〜多関節炎が多くみられます。通常は骨びらんを伴わず、リウマトイド因子も陰性です。肋軟骨炎による胸の痛みや、胸骨・鎖骨の関節の痛みもみられます。
- 眼症状: 上強膜炎、強膜炎、結膜炎、ぶどう膜炎、角膜炎、視神経炎などが起こり、眼の充血、痛み、まぶしさ、視力低下が出ます。壊死性強膜炎などは視力障害を残すおそれがあります。
- 聴覚・前庭障害: 内耳の血管炎などによる感音難聴、耳鳴り、めまい、平衡障害が起こります。外耳道の軟骨が腫れたりつぶれたりして伝音難聴となることもあります。
- 心血管病変: 大動脈弁閉鎖不全や僧帽弁閉鎖不全、大動脈炎・大動脈瘤、伝導障害、心膜炎などが起こります。自覚症状に乏しいまま進むことがあり、定期的な評価が必要です。
- 皮膚粘膜症状: 結節性紅斑様の皮疹、紫斑、網状皮斑、口腔内アフタ、皮膚の血管炎などがみられます。骨髄異形成症候群やVEXAS症候群を合併する例で多い傾向があります。
- 全身症状: 発熱、倦怠感、体重減少、食欲低下などが、病気の活動期に伴いやすい症状です。
- 腎・神経病変: 頻度は高くありませんが、糸球体腎炎による血尿・蛋白尿、脳神経障害、無菌性髄膜炎・脳炎などを起こすことがあり、合併する血管炎との関連が考えられています。
再発性多発軟骨炎の経過と合併症
典型的には、炎症が数日〜数週間続く急性の発作と、比較的落ち着いた時期を繰り返します。ただし症状が目立たなくても、気道や心血管では軽い炎症が持続して少しずつ進むことがあります(くすぶり型の活動性)。初発症状は耳介炎や関節炎が多く、診断基準を満たすほど症状がそろうまでに数年かかることも少なくありません。初期には外耳炎、蜂窩織炎、関節リウマチ、気管支喘息などと診断されることがあります。経過は大きく三つに分けて考えられます。①耳介・鼻・関節が中心で、生命に関わる臓器障害が少ない比較的良好な経過。②気道病変が主体で、呼吸器管理が問題になる経過。③骨髄異形成症候群やVEXAS症候群を背景に、全身性の強い炎症や血管炎が前面に出る経過、です。一度壊れた軟骨は元に戻らないため、不可逆的な構造変化が起こる前に炎症を抑えることが自然歴を変える鍵になります。
主な合併症は次のとおりです。気道では、声門下狭窄、気管・気管支の軟化や狭窄、それに伴う繰り返す肺炎や無気肺、急性の気道閉塞が起こります。気道感染をきっかけに急に悪化することもあります。心血管では、大動脈弁閉鎖不全による心不全、大動脈瘤とその破裂・解離、房室ブロックなどがみられます。眼では視力障害、耳では難聴・平衡障害が残ることがあります。治療に関連する合併症として、ステロイドや免疫抑制薬による感染症(ニューモシスチス肺炎などの日和見感染を含む)、骨粗鬆症と骨折、糖尿病、白内障・緑内障、大腿骨頭壊死などにも注意が必要です。そのほか、全身性血管炎や膠原病、骨髄異形成症候群などの血液腫瘍の合併も知られています。
再発性多発軟骨炎の診断・診断基準
RPに特異的な血液検査はないため、臨床症状の組み合わせ、画像検査、必要に応じた病理組織検査を総合して診断します。両側の耳介炎のように典型的な症状があれば臨床的に強く疑えます。しかし、気道症状や関節炎、眼症状だけで始まる例では診断が遅れがちです。国際的にはMcAdamの基準とその修正版(Damiani & Levine、Michet)が使われており、日本の指定難病の診断基準もこれらを踏まえた内容で、症状・検査・病理所見から判定します。診断の過程では、感染症(特に耳介の細菌性軟骨膜炎)、多発血管炎性肉芽腫症などの血管炎、他の膠原病を除外することが重要です。さらに、診断と同時に気道・心血管・眼・耳の病変の広がりを系統的に調べ、重症度を評価して治療方針を決めます。高齢男性で大球性貧血や血小板減少がある場合は、骨髄検査やVEXAS症候群の検索を考えます。
- McAdam基準とその修正基準: McAdam基準では、①両側耳介軟骨炎、②非びらん性・血清反応陰性の炎症性多関節炎、③鼻軟骨炎、④眼の炎症、⑤気道軟骨炎、⑥蝸牛・前庭障害の6項目のうち3項目以上でRPと診断します。Damiani & Levineは、1項目以上と病理所見、または2か所以上の軟骨炎とステロイド等への反応でも診断可能としました。
- 血液検査: 活動期にはCRP上昇、赤沈亢進、貧血、白血球や血小板の増加がみられますが、RPに特有の所見ではありません。抗II型コラーゲン抗体は一部の症例でしか陽性にならず、一般診療で測定できる施設も限られます。ANCA、リウマトイド因子、抗核抗体などは、鑑別や合併症の評価に使います。
- 胸部CT(吸気・呼気撮影): 気管・気管支壁の肥厚、軟骨の石灰化、内腔の狭窄がみられ、膜様部(気管の後壁)は比較的保たれるのが特徴です。呼気時の撮影は気管軟化(呼気で気道がつぶれる状態)を見つけるのに役立ちます。
- FDG-PET/CT: 耳介、鼻、喉頭、気管、肋軟骨、大動脈など、炎症のある部位にFDGが集まります。病変の分布や活動性を評価したり、生検部位を決めたりするのに役立つと報告されています。
- 呼吸機能検査・気管支鏡: フローボリューム曲線で上気道や中枢気道の閉塞パターンがみられることがあり、経過観察にも使います。気管支鏡では気道の炎症・軟化・狭窄を直接観察できますが、検査そのものが気道閉塞を誘発する危険があるため、慎重に適応を判断します。
- 軟骨生検(病理組織検査): 通常は炎症のある耳介軟骨から採取します。軟骨と軟骨膜の境界部への炎症細胞浸潤、軟骨基質の好塩基性の消失、軟骨の破壊と線維化がみられます。臨床的に典型的な場合は必須ではありませんが、非典型例では診断の裏付けになります。
- 心エコー・大動脈評価: 弁膜症、大動脈基部の拡大、心機能を評価します。必要に応じて造影CTやMRIで大動脈炎や大動脈瘤を調べ、心電図で伝導障害を確認します。
- 眼科・耳鼻咽喉科的評価: 細隙灯顕微鏡検査で強膜炎やぶどう膜炎を、聴力検査と平衡機能検査で内耳障害を評価します。喉頭ファイバースコープでは声門下狭窄の有無を確認します。
- 骨髄検査・UBA1遺伝子検査: 高齢男性で大球性貧血や血小板減少、皮疹、発熱が目立つ場合に検討します。骨髄異形成症候群の診断や、骨髄系前駆細胞の空胞化の確認、VEXAS症候群の診断に用います(遺伝子検査を実施できる施設は限られます)。
再発性多発軟骨炎と鑑別すべき疾患
- 感染性軟骨膜炎・外耳炎: 緑膿菌などによる耳介の感染症です。外傷やピアスの後に片側だけに起こることが多く、膿瘍や外耳道の感染を伴い、耳垂にも炎症が及ぶ点で鑑別します。
- 多発血管炎性肉芽腫症: 鞍鼻や声門下狭窄を起こす点はRPと共通ですが、ANCA(主にPR3-ANCA)陽性、壊死性肉芽腫、副鼻腔炎、肺結節、腎炎を伴うことが鑑別点です。
- 気管気管支アミロイドーシス・気管気管支骨軟骨形成症: アミロイドーシスは膜様部を含めて気管壁が全周性に肥厚する点で区別します。骨軟骨形成症は、気道内腔に骨性・軟骨性の結節が突出する特徴的な所見と、炎症反応に乏しい点から区別します。
- コーガン症候群: 感音難聴、めまい、間質性角膜炎がそろい、大動脈炎も起こしうる点はRPと似ていますが、耳介や鼻の軟骨炎を伴わない点が異なります。
- 関節リウマチ・脊椎関節炎: 関節リウマチは対称性の多関節炎、リウマトイド因子・抗CCP抗体陽性、骨びらんを特徴とし、軟骨炎の所見がない点で区別します。
- サルコイドーシス・IgG4関連疾患・ベーチェット病: 鼻・喉頭・眼・大動脈などの病変が似ることがあり、組織所見(非乾酪性肉芽腫、IgG4陽性形質細胞の浸潤)、血清マーカー、口腔・陰部潰瘍などの特徴で鑑別します。ベーチェット病とRPを併せ持つ場合はMAGIC症候群と呼ばれます。
再発性多発軟骨炎の治療
治療の目標は、①今ある炎症を速やかに抑えること、②再燃を防いで軟骨破壊と臓器障害の進行を止めること、③ステロイドの量を減らして長期的な副作用を少なくすること、の3点です。RPはまれな疾患のため大規模な臨床試験がなく、治療は主に症例集積研究と専門家の経験に基づいて選ばれます。治療の強さは侵されている臓器と重症度で決まります。耳介・鼻・関節に限られる軽症例では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や少量のステロイドで経過をみることもあります。一方、喉頭・気道、眼(強膜炎など)、心血管、内耳、腎臓、神経の病変は臓器や生命を脅かす病変と考え、中等量〜高量のステロイドと免疫抑制薬を併用します。生物学的製剤を含め、RPに対して日本で正式に承認(保険適用)されている薬剤は限られており、多くは適応外使用となります。そのため、膠原病・リウマチ専門医が利点とリスクを十分に検討したうえで選択します。気道病変では、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、呼吸器外科と連携した対応が欠かせません。
- 副腎皮質ステロイド: 治療の中心となる薬です。病変の重さに応じて、プレドニゾロン換算で少量から体重1kgあたり0.5〜1mg程度を使います。急速に進む気道狭窄や重い眼病変などではステロイドパルス療法を行うこともあり、症状が落ち着いたら時間をかけて減量します。
- 従来型免疫抑制薬: ステロイドを減らすため、または再燃を防ぐために併用します。メトトレキサートが比較的よく使われ、ほかにアザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどが選ばれます。血管炎や腎炎を伴う重症例ではシクロホスファミドを用いることがあります。
- 生物学的製剤: 従来の治療で十分に抑えられない例に対して、TNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブなど)、IL-6受容体阻害薬(トシリズマブ)、アバタセプトなどの有効性が症例報告や症例集積で示されています。いずれも適応外使用となるため、専門施設で慎重に検討します。
- NSAIDs・コルヒチン・ダプソン: 耳介炎、鼻軟骨炎、関節炎に限られる軽症例で使われることがあります。ダプソンには溶血性貧血やメトヘモグロビン血症などの副作用があり、使う場合は注意深い観察が必要です。
- 気道病変への処置: 気管軟化に対しては、夜間の持続陽圧呼吸(CPAP)や非侵襲的陽圧換気を行います。固定性の狭窄にはバルーン拡張、気道ステント留置、気管切開などを病変に応じて検討しますが、ステントには肉芽形成や感染などの合併症もあるため、経験のある施設で判断します。
- 心血管病変への治療: 重い大動脈弁閉鎖不全や大動脈瘤には、弁置換術や大動脈の人工血管置換術を行います。炎症が活動しているうちに手術すると、人工物がはずれるなどのリスクがあるため、術前・術後の免疫抑制療法の調整が重要です。
- 眼・耳への局所治療と補助: 眼の炎症にはステロイド点眼などの局所治療を全身治療と組み合わせ、眼科で定期的に観察します。難聴が残った場合は補聴器を使い、高度の場合は人工内耳も検討されます。
- 合併症予防: ステロイド性骨粗鬆症の予防薬、ニューモシスチス肺炎の予防投与、インフルエンザや肺炎球菌などの不活化ワクチンの接種(生ワクチンは原則として免疫抑制中は避けます)、血糖・血圧・脂質の管理を、主治医と相談しながら行います。
- VEXAS症候群合併例・血液疾患合併例: ステロイドへの依存性が強く、JAK阻害薬やIL-6阻害薬の効果が報告されているほか、造血幹細胞移植が検討される場合もあります。血液内科と連携して個別に方針を決めます。
再発性多発軟骨炎の予後・長期フォロー
1980年代の報告では5年生存率が約7割、10年生存率が約5割台とされていました。その後、診断と治療の進歩により、1990年代以降の報告では8年生存率が9割を超えるなど、生命予後は大きく改善しています。主な死因は、呼吸器感染症を含む感染症、気道の閉塞・狭窄、心血管病変(大動脈瘤破裂、弁膜症による心不全)、合併する血管炎や悪性腫瘍です。予後を悪くする要因としては、喉頭・気管病変、心血管病変、全身性血管炎や骨髄異形成症候群の合併、高齢での発症が挙げられます。VEXAS症候群に該当する例は、従来のRPより生命予後が厳しいと報告されています。生活の質(QOL)の面では、慢性的な痛み、外見の変化(耳介の変形、鞍鼻)、難聴、呼吸困難、ステロイドの副作用が影響します。早期から適切に治療し、多くの診療科で連携してケアすることでQOLの維持を目指します。
症状が落ち着いて見えても、気道や大動脈の病変は静かに進むことがあります。そのため症状がなくても定期的な評価を続けます。目安として、外来でのCRPや赤沈などの血液検査に加え、呼吸機能検査(フローボリューム曲線)、胸部CT、心エコーを定期的に行い、必要に応じて大動脈の造影CTやMRI、FDG-PET/CTで評価します。眼科と耳鼻咽喉科の診察、聴力検査も定期的に受けることが勧められます。長期のステロイド・免疫抑制療法を受けている人では、骨密度、血糖、眼圧、白内障、感染症、悪性腫瘍、血球数(骨髄異形成症候群の早期発見)にも注意します。再燃は感冒や気道感染、ステロイドの減量をきっかけに起こりやすいため、減量の時期には特に慎重な観察が必要です。
再発性多発軟骨炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
かぜなどの気道感染は気道病変の悪化や再燃のきっかけになるため、手洗いやマスク、主治医と相談のうえでのワクチン接種による感染予防が大切です。喫煙は気道を傷めるので、禁煙を強く勧めます。耳介や鼻はぶつけたりこすったりしないようにし、耳のピアスは控えましょう。眼鏡は鼻への負担が少ないものを選ぶなど、物理的な刺激を減らす工夫も役立ちます。気道病変がある人は、急に息苦しくなったときの連絡先や受診先を家族と共有しておきましょう。また、全身麻酔や気管挿管、内視鏡検査の際には、事前にRPであることを必ず医療者に伝えてください。ステロイドは自己判断で中止すると副腎不全や再燃の危険があるため、飲み忘れに注意し、服薬内容を記したお薬手帳を常に持ち歩くと安心です。骨粗鬆症予防のため、適度な運動、カルシウムとビタミンDの摂取、転倒予防を心がけます。妊娠・出産を考えている場合は、使用中の薬剤(メトトレキサートなど妊娠中に使えない薬があります)の調整が必要なので、計画的に主治医と相談してください。RPは遺伝性疾患ではなく、子どもに遺伝する可能性は一般に低いと考えられていますが、不安があれば遺伝カウンセリングを利用することもできます。
利用できる制度・相談窓口
再発性多発軟骨炎は指定難病(告示番号55)で、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の状態にある場合(または軽症でも医療費が一定額以上かかる「軽症高額該当」の場合)には、医療費助成の対象になります。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、住所地の都道府県(または指定都市)の窓口、多くは保健所に申請します。助成が認められると、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。このほか、医療保険の高額療養費制度も利用できます。呼吸機能障害、聴覚・平衡機能障害、視覚障害、心臓機能障害(弁置換術後など)が一定の程度に達した場合は身体障害者手帳の対象となる可能性があり、日常生活や就労に大きな支障がある場合は障害年金の対象となりえます。指定難病の患者は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの対象にもなります。介護保険は原則として65歳以上で利用でき、RPは40〜64歳で利用できる「特定疾病」には含まれていませんが、状態によっては他の該当疾患で利用できることもあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあります。疾患の情報は難病情報センターのウェブサイトでも得られます。
再発性多発軟骨炎に伴う心のケア・心理社会的支援
RPは診断がつくまでに時間がかかることが多く、「原因が分からない」状態が長く続くことで強い不安を抱えやすい病気です。診断後も、いつ再燃するか分からない不確かさ、耳介の変形や鞍鼻といった外見の変化、難聴によるコミュニケーションの難しさ、呼吸困難や窒息への恐怖、気管切開やステロイドの長期使用に伴う体と生活の変化など、この病気ならではの心理社会的な負担があります。患者数が少ないため周囲に同じ病気の人がおらず、職場や家族に病状を理解してもらいにくいことも孤立感につながります。ステロイド自体が気分の変動、不眠、抑うつを引き起こすこともあります。気分の落ち込み、眠れない状態、何をしても楽しめない状態が2週間以上続く場合や、強い不安で日常生活に支障が出ている場合は、抑うつ状態や適応障害の可能性があります。我慢せずに主治医に伝え、必要に応じて精神科・心療内科、公認心理師などの専門家に相談しましょう。医療ソーシャルワーカーや難病相談支援センター、患者会などの交流の場を利用することも、孤立を防ぎ、病気と付き合いながら生活を立て直す助けになります。家族も負担を抱えやすいため、家族自身が相談することも大切です。
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再発性多発軟骨炎の受診の目安
- 耳介(耳たぶ以外の部分)が赤く腫れて痛む状態を繰り返す場合は、膠原病・リウマチ内科を受診してください。
- 声がかすれる、のどや首の前が痛む、乾いた咳が続く、息を吸うときにゼーゼー・ヒューヒューと音がする場合は、早めに受診してください。
- 息苦しさが急に強くなった、横になれないほど苦しい、唇や顔色が青い場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
- 目の強い痛みや充血、まぶしさ、見えにくさが出た場合は、当日中に眼科を受診してください。
- 急な聞こえの低下、強いめまい、胸の痛み、動悸、息切れやむくみの悪化は、内耳や心血管の病変の可能性があるため、速やかに受診してください。
- 免疫抑制療法中に38℃以上の発熱、咳や痰の増加、強いだるさが出た場合は、感染症の可能性があるため、早めに主治医に連絡してください。
再発性多発軟骨炎についてのよくある質問
Q. 耳の腫れは治ったのに、治療を続ける必要がありますか?
A. 耳介炎がおさまっても、気道や心臓・大動脈などで炎症が静かに続いていることがあります。治療を続けるか、どう減量するかは、血液検査や画像検査の結果を踏まえて主治医が判断しますので、自己判断で薬を中止せず相談してください。
Q. この病気は遺伝しますか?
A. RPは単一の遺伝子の異常で起こる遺伝病ではなく、家族内で発症することはまれです。体質(HLAなど)がわずかに関わる可能性はありますが、子どもに遺伝する心配は一般に大きくないと考えられています。
Q. 変形した耳や鼻は元に戻りますか?
A. 一度壊れて線維化した軟骨が自然に元に戻ることは期待しにくいとされます。そのため早期の治療で変形を防ぐことが大切です。鞍鼻などの変形に対しては、炎症が十分落ち着いた後に形成外科的な手術が検討されることもありますが、再燃のリスクを踏まえて慎重に判断します。
Q. VEXAS症候群とはどのような関係ですか?
A. VEXAS症候群は、主に高齢男性の血液細胞に後天的に生じた遺伝子変異(UBA1変異)によって全身に炎症が起こる病気で、RPと同じような軟骨炎を起こすことがあります。大球性貧血、血小板減少、皮疹、発熱がある場合などに検討され、治療方針や予後がRPと異なるため、血液内科と連携して評価します。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。