ベーチェット病
Behçet's Disease
ベーチェット病(Behçet's Disease)|ベーチェット病は、口の中のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、外陰部潰瘍の4つを主症状とし、炎症の発作(増悪)と軽快を繰り返す慢性の全身性炎症性疾患です。20〜40歳代の働き盛りに発症することが多く、眼の炎症による視力障害や、腸・血管・神経の病変(特殊病型)が生活の質や生命予後に大きく影響することがあります。近年は生物学的製剤などの登場で、重い臓器障害を防げる例が増えています。
ベーチェット病の要点
ベーチェット病は、口腔内のアフタ性潰瘍、皮膚症状、ぶどう膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、好中球の過剰な活性化など自然免疫の異常が関わる慢性の全身性炎症性疾患です。増悪と寛解を繰り返し、腸管・血管・神経の病変を伴うことがあり、国の指定難病に含まれます。
| 別名・略称 | ベーチェット症候群、ベーチェット、Behçet病、Behçet disease、Behçet syndrome、Adamantiades-Behçet病、シルクロード病 |
|---|---|
| 分野 | 免疫・膠原病・自己炎症 |
| 遺伝形式 | 単一遺伝子疾患ではなく、HLA-B51などの遺伝要因と環境要因が関わる多因子疾患 |
| 好発年齢 | 20〜40歳代 |
| 主な症状 | 口腔アフタ性潰瘍、皮膚症状、ぶどう膜炎、外陰部潰瘍 |
| 主な検査 | 診断基準に基づく臨床診断が中心。炎症反応、HLA-B51、画像・内視鏡検査などを併用 |
| 主な治療 | コルヒチン、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬、TNF阻害薬など(病型や臓器病変に応じて選択) |
| 受診する主な診療科 | 膠原病内科・リウマチ科、眼科、皮膚科、消化器内科、神経内科など |
ベーチェット病とは
ベーチェット病は、1937年にトルコの皮膚科医フルスィ・ベーチェットが、口腔潰瘍・外陰部潰瘍・ぶどう膜炎の3徴を示す疾患として報告したことに由来します。従来は全身の血管炎(大小さまざまな動静脈を侵しうる多様血管炎:variable vessel vasculitis)として分類されてきました。一方で、好中球の過剰な活性化や自然免疫の異常が病態の中心にあり、明らかな自己抗体がみられないことから、自己免疫疾患と自己炎症性疾患の中間に位置する疾患と考えられています。「免疫系が自己組織を攻撃する」と説明されることもありますが、典型的な自己免疫疾患(自己抗体による組織傷害)とは性格が異なる点に注意が必要です。
日本の厚生労働省研究班の診断基準(2016年小改訂)では、4つの主症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍)と5つの副症状(変形や硬直を伴わない関節炎、精巣上体炎、回盲部潰瘍に代表される消化器病変、血管病変、中等度以上の中枢神経病変)の組み合わせで、完全型・不全型・疑いに分類します。さらに、腸管病変が主体の腸管型、大血管病変が主体の血管型、中枢神経病変が主体の神経型は「特殊病型」とよばれ、生命予後や機能予後に直結するため特に重視されます。日本では眼症状を伴う完全型が減少し、腸管型や不全型の割合が相対的に増えているなど、病像の変化が報告されています。
ベーチェット病の疫学・患者数
ベーチェット病は、地中海沿岸から中東、中央アジアを経て東アジアに至る、古代の交易路シルクロードに沿った地域に多いことから「シルクロード病」ともよばれます。トルコは世界的にも有病率が高い国として知られ、日本もかつては比較的多い国とされてきました。日本では指定難病の医療受給者証の所持者数がおおむね1万5千〜2万人規模で推移しており、過去の推計よりは減少傾向にあると考えられています。発症年齢は20〜40歳代に多く、30歳代前後にピークがあります。小児や高齢での発症はまれです。男女比はほぼ同等ですが、男性では眼病変、血管病変、神経病変といった重症病型をとりやすく、女性では粘膜皮膚症状が中心となる傾向が指摘されています。北日本に多いといった地域差も、かつて報告されていました。
ベーチェット病の原因・病態生理
原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な素因に環境因子が加わって発症する多因子疾患と考えられています。単一の遺伝子で決まる遺伝病ではなく、親から子へ決まった様式で遺伝するものではありません。最も強く関連する遺伝因子はヒト白血球抗原(HLA)のHLA-B51で、日本人患者では約半数がこれを持ち、一般人口より明らかに高率です。ただし、HLA-B51を持っていても大多数の人は発症せず、持っていなくても発症するため、HLA-B51の有無だけでは診断も否定もできません。日本人ではHLA-A26との関連も報告されています。さらに、ゲノムワイド関連解析によって、IL10、IL23R-IL12RB2、ERAP1(HLA-B51との相互作用が報告されている)、STAT4、CCR1などの免疫関連遺伝子領域が疾患感受性に関わることが示されています。
環境因子としては、口腔内の細菌(レンサ球菌など)やウイルスなどの微生物成分、熱ショック蛋白などに対する過剰な免疫応答が発症の引き金になると考えられています。免疫学的には、好中球の遊走能や活性酸素産生の亢進といった自然免疫の過剰反応に加え、Th1細胞やTh17細胞などの獲得免疫の異常が重なり、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-17、インターフェロンγなどの炎症性サイトカインが過剰に産生されます。その結果、細い血管の周囲に好中球やリンパ球が浸潤する血管炎が起き、粘膜潰瘍、ぶどう膜炎、血栓形成など多彩な病変を生じます。皮膚に針を刺すだけで膿疱が生じる「針反応」は、この組織の易炎症性(被刺激性亢進)を反映しています。なお、A20ハプロ不全症(TNFAIP3遺伝子異常)など一部の遺伝性自己炎症疾患や、トリソミー8を伴う骨髄異形成症候群では、ベーチェット病に類似した症状を示すことがあり、病態理解の手がかりになっています。
ベーチェット病の症状
- 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍: ほぼ全例にみられ、多くは最初の症状です。唇・頬の内側・舌・歯肉などに境界明瞭で痛みの強い円形の潰瘍が繰り返しでき、通常1〜2週間で瘢痕を残さず治りますが、頻繁に再発します。
- 外陰部潰瘍: 男性では陰嚢や陰茎、女性では大小陰唇や腟壁に痛みの強い潰瘍ができます。口腔潰瘍より深いことが多く、治った後に瘢痕を残すことがあります。
- 結節性紅斑様皮疹: 主に下腿に、押すと痛む赤い皮下のしこりが現れます。1〜2週間で色素沈着を残して消えることが多く、再発を繰り返します。
- 毛嚢炎様皮疹・痤瘡様皮疹: 顔、首、背中、胸などに、にきびに似た赤い丘疹や膿疱が出ます。細菌感染を伴わない無菌性の膿疱であることが特徴です。
- 皮下の血栓性静脈炎: 下肢などの表在静脈に沿って、赤く痛みのある索状のしこりが生じます。深部静脈血栓症など血管病変の前触れとなることがあります。
- 眼症状(ぶどう膜炎): 前房に膿がたまる前房蓄膿性虹彩毛様体炎や、網膜血管炎を伴う網膜ぶどう膜炎が発作的に起こり、霧視・充血・眼痛・視力低下を生じます。網膜の発作を繰り返すと視力障害が不可逆的に進むことがあり、最も注意すべき症状の一つです。
- 関節炎: 膝・足首・手首・肘などの大きな関節に、片側から数か所の関節の腫れや痛みが一時的に生じます。関節リウマチと異なり、骨の破壊や変形はほとんど残りません。
- 精巣上体炎(副睾丸炎): 男性で陰嚢の腫れと痛みが一過性に生じます。副症状の一つで、ベーチェット病に比較的特徴的な所見です。
- 消化器病変(腸管型): 腹痛、下痢、下血などで発症し、回盲部(小腸と大腸の境目)に打ち抜いたような深い潰瘍ができるのが典型です。穿孔や大出血を起こして緊急手術が必要になることがあります。
- 血管病変(血管型): 静脈病変が多く、深部静脈血栓症、上大静脈・下大静脈の閉塞、バッド・キアリ症候群などを生じます。動脈では動脈瘤や閉塞が起こり、肺動脈瘤の破裂による喀血は生命に関わります。
- 中枢神経病変(神経型): 急性型では発熱・頭痛を伴う髄膜炎や脳幹脳炎による片麻痺・脳神経麻痺が出現し、慢性進行型では認知機能低下、構音障害、歩行障害、性格変化などがゆっくり進行します。
- 全身症状: 発作期には発熱、倦怠感がみられることがあります。症状の現れ方や重さには個人差が大きく、すべての症状がそろうとは限りません。
ベーチェット病の経過と合併症
ベーチェット病は、症状が出る増悪期と症状が落ち着く寛解期を不規則に繰り返すことが特徴です。多くの場合、口腔潰瘍が先行し、数年かけて皮膚症状、外陰部潰瘍、眼症状などが順にそろっていきます。診断時にはすべての症状がそろっていないことも多く、経過の中で病型が確定することもあります。眼症状は発症後数年以内に出現することが多いとされ、網膜ぶどう膜炎の発作の回数と重さが視力予後を左右します。腸管・血管・神経などの特殊病型は、発症から数年以上経ってから現れることもあります。一般に発症後10年前後で疾患活動性は低下し、年齢とともに落ち着いていく傾向がありますが、特殊病型や慢性進行型の神経病変はこの限りではありません。過労、睡眠不足、感染、強いストレス、月経などが増悪のきっかけになることがあります。
合併症として最も問題になるのは、網膜ぶどう膜炎の発作の反復による視力低下や失明です。続発緑内障や併発白内障も起こり得ます。腸管型では腸管穿孔、大量出血、狭窄、術後の吻合部再発が問題となります。血管型では、深部静脈血栓症に伴う下肢のむくみや静脈うっ滞、肺動脈瘤破裂、大動脈・末梢動脈瘤の破裂、バッド・キアリ症候群による肝障害が重大な合併症です。神経型の慢性進行型では認知症や寝たきりに至ることがあります。また、治療に伴う合併症として、副腎皮質ステロイドによる骨粗鬆症・糖尿病・感染症、免疫抑制薬や生物学的製剤による感染症(結核やB型肝炎の再活性化を含む)、シクロスポリンによる腎障害などにも注意が必要です。シクロスポリン使用中に神経型の症状が誘発されることも知られています。
ベーチェット病の診断・診断基準
ベーチェット病には、それだけで診断を確定できる特異的な検査がありません。そのため、口腔潰瘍などの症状の再発歴を丁寧に聴き取り、診察で皮膚・眼・外陰部などの所見を確認したうえで、日本では厚生労働省研究班の診断基準(主症状と副症状の組み合わせ)を用いて診断します。症状は一度にそろわないことが多いため、医師が実際に観察できなかった症状については、写真記録や経過の記録が役立ちます。眼科、皮膚科、消化器内科、脳神経内科、血管外科など複数の診療科が連携し、感染症、他の膠原病、炎症性腸疾患など、似た症状を示す病気を除外することが重要です。特殊病型が疑われる場合は、内視鏡、CT・MRI、髄液検査などで臓器病変の評価を行います。
- 厚生労働省研究班 ベーチェット病診断基準: 経過中に4主症状がそろえば完全型、主症状3つ・主症状2つ+副症状2つ・眼症状+主症状1つ・眼症状+副症状2つのいずれかで不全型と診断します。腸管型・血管型・神経型は特殊病型として別途記載し、重症度分類(Stage)とあわせて医療費助成の判定にも用いられます。
- 国際分類基準(ISG基準・ICBD): 国際的には、1990年の国際研究グループ(ISG)基準や2014年の国際基準(ICBD)が研究や診療で用いられます。日本の基準とは症状の重みづけが異なるため、診断の解釈には注意が必要です。
- 針反応(パテルギー反応): 前腕の皮膚に細い注射針を刺し、24〜48時間後に刺入部に紅斑や膿疱が生じれば陽性で、皮膚の被刺激性亢進を示します。「パスツール反応」と誤って記載されることがありますが、正しくは針反応(パテルギー反応)です。日本では近年、陽性率が低下しているとされ、陰性でも病気を否定できません。
- 血液検査(炎症反応): 増悪期には白血球数(特に好中球)の増加、CRP上昇、赤沈亢進がみられますが、疾患特異的ではありません。治療効果や副作用(肝・腎機能、血球減少)のモニタリングにも用います。
- HLA検査: HLA-B51やHLA-A26の陽性は診断の参考になりますが、陽性でも発症しない人が大多数で、陰性の患者もいるため、診断を確定・否定する検査ではありません。
- 眼科検査(細隙灯顕微鏡・眼底検査・蛍光眼底造影): 前房蓄膿や硝子体混濁、網膜出血・滲出斑を確認します。フルオレセイン蛍光眼底造影では、網膜毛細血管からの羊歯状(シダ状)の蛍光漏出が特徴的で、眼症状がない時期でも潜在的な網膜血管炎の評価に役立ちます。
- 消化管内視鏡検査: 腸管型では、回盲部を中心に境界明瞭な類円形の深い打ち抜き様潰瘍を認めるのが典型です。クローン病や腸結核などとの鑑別のため、生検による病理評価や感染症の検査も行います。
- 画像検査(造影CT・MRI・血管超音波): 血管型では深部静脈血栓、大静脈閉塞、動脈瘤、肺動脈瘤を評価します。神経型では頭部MRIで脳幹・基底核・間脳などにT2/FLAIR高信号病変がみられ、慢性進行型では脳幹や小脳の萎縮が目立つことがあります。
- 髄液検査: 神経型の急性型では細胞数・蛋白の上昇がみられます。髄液中のIL-6が持続的に高値であることは慢性進行型の診断や活動性評価の指標として有用とされます。
ベーチェット病と鑑別すべき疾患
- 単純性(再発性)アフタ性口内炎: 口腔潰瘍のみで、外陰部潰瘍・眼症状・皮膚症状などの全身症状を伴わない点が異なります。
- 単純ヘルペスウイルス感染症: 小水疱が集まって破れた浅いびらんが特徴で、ウイルス抗原検査やPCRで鑑別します。
- クローン病・腸結核: 腸管型との鑑別が特に重要で、縦走潰瘍や敷石像、非乾酪性肉芽腫(クローン病)、乾酪性肉芽腫や結核菌の証明(腸結核)などで区別します。
- サルコイドーシスなどの他のぶどう膜炎: サルコイドーシス、原田病(フォークト・小柳・原田病)、感染性ぶどう膜炎とは、炎症の部位、眼底所見、全身検査の結果で鑑別します。
- 多発性硬化症・感染性髄膜脳炎: 神経型では、MRI病変の分布、髄液所見、粘膜皮膚症状の有無などから鑑別します。
- 遺伝性自己炎症疾患・骨髄異形成症候群: A20ハプロ不全症や家族性地中海熱、トリソミー8を伴う骨髄異形成症候群はベーチェット病類似の症状を示すことがあり、若年発症・家族歴・血球異常がある場合は遺伝子検査や骨髄検査を検討します。
ベーチェット病の治療
ベーチェット病の治療目標は、炎症の発作を抑えて症状を和らげること、そして視力障害や腸管穿孔、動脈瘤破裂、神経障害といった不可逆的な臓器障害や生命に関わる合併症を防ぐことです。病型や侵されている臓器、重症度、年齢、妊娠の希望などによって治療内容は大きく異なり、日本の「ベーチェット病診療ガイドライン2020」や国際的な推奨(EULAR推奨)を参考に個別に選択されます。粘膜皮膚症状が中心の軽症例では局所療法やコルヒチンが基本となり、眼病変や特殊病型では免疫抑制薬や抗TNF-α抗体製剤を早めに導入して臓器障害を防ぐ方針がとられます。副腎皮質ステロイドは急性期の強い炎症を抑えるのに有効ですが、眼病変では漫然とした全身投与や急な減量が発作を誘発することがあり、専門医の管理のもとで慎重に用います。治療は長期に及ぶため、効果と副作用のバランスを主治医とよく相談しながら進めることが大切です。
- 局所療法(粘膜・皮膚): 口腔潰瘍にはステロイド軟膏・貼付剤、うがい薬、外陰部潰瘍や皮疹にはステロイド外用薬などを用います。口腔衛生を保つことも再発予防に役立つとされます。
- コルヒチン: 好中球の働きを抑える薬で、結節性紅斑、外陰部潰瘍、関節炎、軽症の眼発作の予防などに広く用いられます。下痢などの消化器症状や、まれに筋障害・血球減少などの副作用があり、妊娠を希望する場合は事前に主治医と相談します。
- アプレミラスト: PDE4阻害薬で、日本では局所療法で効果不十分なベーチェット病の口腔潰瘍に対して承認されています。導入初期に下痢・悪心・頭痛がみられることがあります。
- 副腎皮質ステロイド: 重い皮膚粘膜症状、強い関節炎、急性型神経病変、腸管型・血管型の急性期などで炎症を速やかに抑えるために使います。眼病変では点眼や局所注射が主体で、全身投与は限定的に用い、長期使用時は骨粗鬆症や感染症の予防も行います。
- シクロスポリン・アザチオプリンなどの免疫抑制薬: シクロスポリンは網膜ぶどう膜炎の発作予防に用いられますが、腎障害・高血圧のほか神経型の症状を誘発することがあるため、神経型の患者には原則として避けます。アザチオプリンなどは眼病変、腸管型、血管型などでステロイドの減量を目的に併用されることがあります。
- 抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ・アダリムマブ): 日本では、インフリキシマブが難治性網膜ぶどう膜炎と腸管型・神経型・血管型に、アダリムマブが腸管型と非感染性ぶどう膜炎に承認されています。眼発作を大幅に減らし視力予後を改善した治療で、投与前の結核・B型肝炎のスクリーニングと感染症への注意が必要です。
- 病型別の治療: 腸管型ではメサラジン(5-ASA製剤)、ステロイド、免疫抑制薬、抗TNF-α抗体製剤などを重症度に応じて用い、穿孔・大出血では外科手術を行います。慢性進行型神経病変ではメトトレキサート少量療法が用いられ、血管型ではステロイドと免疫抑制薬が治療の中心で、抗凝固療法は肺動脈瘤の有無などを評価したうえで慎重に判断します。
- 眼科的治療: 虹彩毛様体炎の発作時にはステロイド点眼や散瞳薬を用い、網膜病変に応じて局所注射を行います。続発緑内障や白内障に対しては点眼治療や手術が必要になることもあります。
- 生活指導・多職種連携: 禁煙、十分な休養、口腔ケア、感染予防、治療薬の副作用チェックのための定期受診が重要です。眼科、皮膚科、消化器内科、脳神経内科、血管外科、歯科などが連携して診療にあたります。
ベーチェット病の予後・長期フォロー
粘膜皮膚症状や関節症状が中心のタイプでは、生命予後は一般に良好で、年齢とともに症状が軽くなる例が多いとされます。一方で、かつては網膜ぶどう膜炎による失明が大きな問題で、ベーチェット病は日本における中途失明の主要な原因の一つでした。しかし、2007年にインフリキシマブがベーチェット病の難治性網膜ぶどう膜炎に承認されて以降、眼発作の頻度が大きく減り、視力予後は明らかに改善しています。生命予後に影響しうるのは、腸管型の穿孔や大出血、血管型の動脈瘤破裂や肺動脈瘤による喀血、大静脈・肝静脈の閉塞、神経型の慢性進行などで、特に若い男性で重症化しやすいとされます。これらの特殊病型でも、早期診断と抗TNF-α抗体製剤などによる積極的な治療によって、予後の改善が期待されています。
ベーチェット病は寛解期でも新たな臓器病変が出現することがあるため、症状が落ち着いていても長期にわたる定期受診が欠かせません。眼症状がない人でも定期的な眼科診察が勧められ、眼病変がある人では発作の早期発見と治療の継続が重要です。腸管型では内視鏡による潰瘍の評価、血管型では画像による血栓・動脈瘤の評価、神経型ではMRIや髄液検査、認知機能の評価を必要に応じて行います。治療薬についても、ステロイドによる骨密度低下や糖代謝異常、免疫抑制薬による血球減少・腎障害・肝障害、生物学的製剤による感染症などを定期的に確認します。治療の減量や中止は、自己判断ではなく主治医と相談のうえで段階的に行うことが大切です。
ベーチェット病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、過労や睡眠不足、強いストレスを避け、規則正しい生活を心がけることが増悪の予防につながると考えられています。喫煙は血管病変などの悪化と関連する可能性があるため禁煙が勧められます。口腔潰瘍の予防・悪化防止のため、柔らかい歯ブラシでの丁寧な歯みがき、定期的な歯科受診、刺激の強い香辛料や熱すぎる食べ物を控えるなどの口腔ケアが役立ちます。歯科治療や手術、採血などの際には、針反応のように刺激で炎症が出やすい体質であることを伝えておくとよいでしょう。免疫抑制薬や生物学的製剤を使用中の人は、手洗い・うがい、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種(生ワクチンは原則避ける)について主治医に確認してください。妊娠・出産は可能な場合が多いものの、使用中の薬の胎児への影響や病状の変化を考慮した計画が必要なため、希望がある場合は早めに主治医に相談しましょう。ベーチェット病は遺伝病ではなく、HLA-B51などの体質が子どもに受け継がれても発症するとは限りません。家族内発症は少数にとどまるため、過度に心配する必要はありませんが、不安がある場合は遺伝カウンセリングを利用することもできます。
利用できる制度・相談窓口
ベーチェット病は指定難病(告示番号56)に指定されており、診断基準を満たし、重症度分類でStage II以上の場合(眼症状を伴う場合や関節炎・精巣上体炎がある場合、特殊病型などを含む)に医療費助成の対象となります。重症度の基準を満たさなくても、医療費が一定以上かかる場合は「軽症高額該当」として対象となることがあります。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(多くは保健所)に行います。18歳未満(継続の場合は20歳未満)で発症した場合は小児慢性特定疾病医療費助成の対象となることがあります。視力障害や神経障害が残った場合は、身体障害者手帳(視覚障害・肢体不自由など)の取得や障害年金の申請を検討できます。また、難病は障害者総合支援法の対象疾病に含まれており、身体障害者手帳がなくても必要に応じて障害福祉サービスを利用できる場合があります。高額療養費制度も併用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあり、患者会では同じ病気の人との交流や情報交換ができます。
ベーチェット病に伴う心のケア・心理社会的支援
ベーチェット病は再発と寛解を繰り返し、いつ発作が起こるか予測しにくいことから、将来への不安や無力感を抱えやすい病気です。痛みの強い口腔潰瘍による食事や会話の困難、外陰部潰瘍のように人に相談しにくい症状、視力低下への恐れ、ステロイドによる容姿の変化などは、日常生活や自己イメージに大きく影響します。発症が20〜40歳代に多いため、就学・就職・結婚・妊娠・子育てといった人生の重要な時期と治療が重なり、仕事を休まざるを得ないことや周囲の理解が得られないことによる孤立感、経済的な負担も問題になります。こうした負担から、抑うつや不安障害、適応障害が生じることも少なくなく、ストレスは症状の増悪のきっかけにもなり得ます。気持ちの落ち込み、眠れない、興味がもてないといった状態が続く場合は、我慢せずに主治医に伝え、必要に応じて心療内科・精神科、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどの支援を受けることが大切です。なお、神経型では気分や性格の変化が病気そのものの症状として現れることもあるため、家族が気づいた変化を主治医に伝えることも重要です。患者会などで同じ経験をもつ人とつながることも、心の支えになります。
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ベーチェット病の受診の目安
- 口内炎を年に何度も繰り返し、陰部の潰瘍、すねの痛む赤いしこり、眼の充血やかすみなどを伴う場合は、内科(膠原病・リウマチ内科)や皮膚科、眼科を受診してください。
- 急に目がかすむ、見えにくい、視野の一部が欠けるなどの症状が出たときは、網膜の発作の可能性があるため、できるだけ早く(当日中に)眼科を受診してください。
- 強い腹痛、腹部全体の硬さ、大量の下血や黒色便がある場合は、腸管の穿孔や出血の可能性があるため救急受診が必要です。
- 血痰や喀血、急な息苦しさや胸痛、片側の脚の急な腫れや痛みがある場合は、肺動脈瘤や血栓症の可能性があるため直ちに医療機関を受診してください。
- 発熱を伴う激しい頭痛、手足の麻痺、ろれつが回らない、物が二重に見えるといった症状、またはもの忘れや性格の変化が進む場合は、神経病変の可能性があるため早めに受診してください。
- 免疫抑制薬や生物学的製剤の使用中に高熱、咳、息切れなどの感染症の症状が出た場合は、自己判断せず速やかに主治医に連絡してください。
ベーチェット病についてのよくある質問
Q. ベーチェット病は人にうつりますか?
A. ベーチェット病は感染症ではないため、家族や周囲の人にうつることはありません。口腔内の細菌などが発症のきっかけの一つと考えられていますが、それは体質をもつ人の免疫反応の問題であり、病気そのものが感染するわけではありません。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. ベーチェット病は遺伝病ではなく、HLA-B51などの体質と環境因子が重なって発症する多因子疾患です。体質が受け継がれることはありますが、それだけで発症するわけではなく、家族内での発症は少数にとどまります。不安な場合は主治医や遺伝カウンセリングに相談してください。
Q. 口内炎だけでもベーチェット病の可能性はありますか?
A. 再発性の口内炎は多くの人にみられ、それだけでベーチェット病と診断されることはありません。ただし、口内炎が頻繁に繰り返され、陰部潰瘍・皮膚症状・眼症状・関節痛などを伴う場合は、ベーチェット病の初期症状の可能性があるため、一度専門医の診察を受けることをお勧めします。
Q. 治療薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?
A. 必要な治療期間は病型や重症度、症状の安定度によって大きく異なります。症状が長く落ち着いていれば減量や中止を検討できることもありますが、急な中止は再燃の原因になるため、必ず主治医と相談しながら段階的に調整してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。