特発性拡張型心筋症

Idiopathic Dilated Cardiomyopathy, DCM

特発性拡張型心筋症(Idiopathic Dilated Cardiomyopathy, DCM)|特発性拡張型心筋症(DCM)は、明らかな原因がないまま左心室(またはその両方の心室)が拡大し、心臓の収縮力が全体的に低下する病気で、心不全・不整脈・突然死の原因になります。小児から高齢者までどの年代にも発症しますが、中年男性に多い傾向があります。日本では指定難病(告示番号57)に指定されており、治療の進歩で予後は大きく改善しましたが、心臓移植の原因疾患として最も多い疾患の一つでもあります。

特発性拡張型心筋症の要点

特発性拡張型心筋症は、明らかな原因がないまま左心室などが拡大し、心臓全体の収縮力が低下する心筋疾患です。息切れやむくみなどの心不全症状や不整脈を起こし、突然死の原因にもなる指定難病(告示番号57)です。

別名・略称拡張型心筋症、DCM、特発性DCM、うっ血型心筋症、dilated cardiomyopathy、IDCM
分野循環器・先天性心疾患
病態左室の拡大と左室全体の収縮機能低下
好発年齢全年齢で発症、中年男性に多い傾向
主な症状息切れ、むくみ、動悸、疲れやすさ(心不全・不整脈)
主な検査心エコー、心電図、胸部X線、心臓MRI、心臓カテーテル検査
主な治療心不全薬物治療、不整脈対策、デバイス治療、重症例では心臓移植
受診する主な診療科循環器内科、小児では小児循環器科

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

特発性拡張型心筋症とは

拡張型心筋症は、左室の拡大と、左室全体の収縮機能の低下を特徴とする心筋疾患です。冠動脈疾患(心筋梗塞など)、弁膜症、高血圧、先天性心疾患など、心臓に負担をかける明らかな原因では説明できない状態を指します。その中でも、アルコール、薬剤(アントラサイクリン系抗がん薬など)、心筋炎、サルコイドーシス、内分泌疾患、神経筋疾患などの二次的な原因が見つからないものを「特発性」と呼びます。一般に「心筋が薄くなる」と説明されることがありますが、心臓全体の筋肉量はむしろ増えていることが多いです。内腔が大きく拡がるために、壁が相対的に薄く見えると理解するのが正確です。

心筋症は、かつては原因不明の心筋疾患をまとめて「特発性心筋症」と総称し、拡張型・肥大型・拘束型に分けていました。現在は遺伝学や画像診断の進歩で、拡張型の表現型を示す患者の一部に遺伝子異常や炎症性疾患が見つかるようになり、「特発性」の範囲は年々狭くなっています。欧米では、拡張は軽いものの収縮が低下している「低収縮非拡張型左室心筋症」という概念も提唱されています。また、治療によって左室機能がほぼ正常に回復する「左室逆リモデリング」がみられる例があり、病気の経過が多様であることも分かってきました。なお、肥大型心筋症が進行して拡張型のような状態になる「拡張相肥大型心筋症」は、別の病態として扱われます。

特発性拡張型心筋症の疫学・患者数

日本では1999年の全国調査で、患者数は約1万7千〜1万8千人、有病率は人口10万人あたり十数人と推計されました。欧米では無症状例を含めるとより多く、数千人に1人程度とする報告もあり、軽症で診断されていない例も少なくないと考えられています。男女比はおおむね2〜3:1で男性に多く、診断時の年齢は中年(40〜60歳代)が中心ですが、小児や高齢者にも発症します。患者の家族を詳しく調べると、2〜3割程度に同じ病気の家族がみられる(家族性拡張型心筋症)と報告されています。指定難病の医療受給者証の所持者数は、軽症者の一部が対象外となることもあり、実際の患者数より少なく出る点に注意が必要です。

特発性拡張型心筋症の原因・病態生理

原因は一つではなく、遺伝的素因、ウイルス感染後の心筋炎、免疫の異常などが組み合わさっていると考えられています。遺伝については、家族性の多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、一部はX連鎖性やミトコンドリア遺伝の形をとります。原因遺伝子は数十種類が報告されており、代表的なものに、心筋の巨大なタンパク質タイチンをつくるTTN(短縮型の変異が最も多いとされる)、核膜のタンパク質をつくるLMNA(伝導障害や危険な心室性不整脈を合併しやすい)、サルコメアのタンパク質をつくるMYH7・TNNT2、RNA結合タンパクのRBM20、細胞骨格のFLNC、デスモソームのDSPなどがあります。ただし、同じ変異をもっていても発症する時期や重さは人によって大きく異なり(浸透率が不完全)、飲酒、妊娠・出産、頻脈、化学療法などの「二つ目の負担」が加わって発症する例もあると考えられています。また、ウイルス性心筋炎が治りきらずに慢性の炎症が続き、拡張型心筋症に移行する経路や、心筋のタンパク質に対する自己抗体が関わる経路も報告されています。

発症の仕組みとしては、まず遺伝子変異や炎症によって心筋細胞の収縮装置、細胞骨格、カルシウムの出し入れなどが障害され、心筋細胞が少しずつ失われて線維化(瘢痕化)が進みます。収縮力が落ちると、体は血圧と血流を保とうとして交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を活性化させます。短期的には役立つこの反応も、長く続くと心筋への負担や心筋細胞の死、線維化を進め、左室はさらに拡大して球形に近づきます(リモデリング)。左室が拡大すると僧帽弁がうまく閉じなくなり(機能性僧帽弁逆流)、心臓に戻る血液が増えて拡大をさらに進める悪循環に陥ります。線維化した部分は電気の伝わり方を乱すため、心室頻拍・心室細動などの命に関わる不整脈の原因になります。心房への負担から心房細動も起こりやすくなります。こうした神経体液性因子の悪循環を断ち切ることが、現在の薬物療法の基本的な考え方です。

特発性拡張型心筋症の症状

  • 労作時息切れ: 最も多い初期症状で、階段や坂道で以前より息が切れるようになります。進行すると平地歩行や会話、安静時にも息苦しさが出ます。
  • 起座呼吸・夜間発作性呼吸困難: 横になると肺にうっ血が起こって息苦しくなり、枕を高くしたり座ったりすると楽になります。夜中に息苦しさで目が覚めるのは心不全悪化のサインです。
  • 下腿浮腫・体重増加: 体に水分がたまり、すね・足の甲のむくみや、数日で2kg前後の急な体重増加として現れます。
  • 易疲労感・倦怠感: 心臓から送り出される血液が減るため、疲れやすさ、だるさ、運動能力の低下を感じます。
  • 動悸: 心房細動、期外収縮、心室頻拍などの不整脈によって起こり、脈の乱れや速さとして自覚されます。
  • 失神・めまい: 心室頻拍や高度の房室ブロックなどの重い不整脈の可能性があり、突然死の前兆となることがあるため、すぐに評価が必要です。
  • 咳・喘鳴: 肺うっ血によって、横になったときの乾いた咳やぜーぜーする呼吸が出ることがあり、喘息や風邪と間違われることもあります。
  • 食欲不振・腹部膨満: 右心不全によって肝臓や消化管がうっ血し、食欲低下、腹の張り、右上腹部の重い感じなどが生じます。
  • 胸部不快感: 冠動脈に狭窄がなくても、心筋の酸素需要と供給のバランスが崩れて胸の圧迫感が出ることがあります。ただし、狭心症など他の原因の除外が必要です。
  • 塞栓症状: 拡大した心室内や心房細動のときの心房内にできた血栓が飛び、脳梗塞(手足のまひ、言葉の障害)などを起こすことがあります。
  • 無症状: 健診の心電図異常や胸部X線での心拡大、家族のスクリーニングをきっかけに、自覚症状がないまま見つかることも少なくありません。

特発性拡張型心筋症の経過と合併症

経過は人によって大きく異なります。長い間無症状のまま左室機能が保たれる例もあれば、心不全の入院を繰り返しながら徐々に進行する例、そして診断からまもなく重い心不全や致死的な不整脈を起こす例もあります。心不全の病期は、日本でも用いられているACC/AHAのステージ分類で、A(リスクあり)、B(構造的な異常はあるが無症状)、C(症状のある心不全)、D(治療抵抗性の重症心不全)と整理されます。症状の重さはNYHA心機能分類(I〜IV度)で評価します。適切な薬物療法を続けると、一部の患者では左室の大きさや駆出率が改善する「左室逆リモデリング」がみられ、これは予後が良いことを示す重要な指標です。ただし、改善後に薬を中止すると再び悪化する例が多いことが臨床試験で示されており、「治った」と自己判断して中断しないことが大切です。また、LMNAなど一部の遺伝子変異をもつ例では、ポンプ機能の低下が軽くても不整脈による突然死の危険が高いことが知られています。

主な合併症として、(1)急性心不全・慢性心不全の急な悪化による入院、(2)心室頻拍・心室細動による心臓突然死、(3)心房細動とそれに伴う脳梗塞などの血栓塞栓症、(4)房室ブロックや脚ブロックなどの伝導障害(左脚ブロックは心室の動きのずれを生み、心不全を悪化させます)、(5)機能性僧帽弁逆流・三尖弁逆流、(6)心腎連関による腎機能障害、(7)肝うっ血、(8)心臓悪液質(筋肉量・体重の減少)やフレイルが挙げられます。治療薬による高カリウム血症、腎機能悪化、低血圧、徐脈にも注意が必要です。

特発性拡張型心筋症の診断・診断基準

診断は、(1)心エコーなどで左室の拡大と全体的な収縮機能の低下を確認し、(2)同じ所見を示す二次性の原因を一つずつ除外する、という二段階で行います。特に虚血性心筋症(冠動脈疾患)の除外は必須で、冠動脈造影または冠動脈CTを行います。さらに、心臓MRI、血液検査、必要に応じて心筋生検や核医学検査で、心筋炎、心サルコイドーシス、アミロイドーシス、ファブリー病などの治療法が異なる疾患を見落とさないことが重要です。指定難病の申請では、厚生労働省の診断基準と重症度分類に沿った臨床調査個人票を、難病指定医が作成します。家族歴がある場合や若年発症、伝導障害を伴う場合は、遺伝学的検査や家族の評価も検討されます。

  • 心エコー検査: 左室拡張末期径の拡大と、びまん性の壁運動低下による左室駆出率(LVEF)の低下を確認します。僧帽弁逆流、心内血栓、右心機能、肺動脈圧の推定などにも用い、経過観察の中心となる検査です。
  • 心電図・ホルター心電図: 左脚ブロック、QRS幅の延長、異常Q波、ST-T変化、心房細動、期外収縮、心室頻拍などを評価します。房室ブロックを伴う場合はLMNA関連心筋症やサルコイドーシスを疑う手がかりになります。
  • 血液検査(BNP/NT-proBNP など): BNP・NT-proBNPは心不全の重症度と予後を反映し、治療効果の判定にも使います。あわせて、甲状腺機能、腎機能、電解質、貧血、CK(筋疾患)、炎症反応などで二次性の原因や合併症を調べます。
  • 心臓MRI: 心室の容積と駆出率を正確に測定できます。ガドリニウム遅延造影では、拡張型心筋症に典型的な心室中隔の壁中層の線状造影がみられることがあり、その存在は不整脈・突然死リスクの指標とされます。虚血性・炎症性疾患との鑑別にも役立ちます。
  • 冠動脈造影・冠動脈CT: 心筋梗塞や重い冠動脈狭窄による虚血性心筋症を除外するために行う、診断に欠かせない検査です。
  • 心臓カテーテル検査・心内膜心筋生検: 右心カテーテルで心拍出量や肺動脈楔入圧などの血行動態を評価します。心筋生検では心筋細胞の肥大・変性や間質の線維化を確認し、心筋炎、サルコイドーシス、アミロイドーシスなどの特異的な病気を除外します。
  • 核医学検査(FDG-PET、心筋シンチグラフィなど): FDG-PETは心サルコイドーシスの活動性の評価、心筋血流シンチグラフィは虚血の評価、MIBG心筋シンチグラフィは心臓の交感神経機能と予後の評価に用いられます。
  • 心肺運動負荷試験: 最大酸素摂取量などから運動耐容能と予後を客観的に評価し、心臓移植や補助人工心臓の適応判断、心臓リハビリテーションの運動処方に用います。
  • 遺伝学的検査: 家族性が疑われる例や伝導障害を伴う例などで検討されます。結果は突然死予防の判断や家族の評価に関わるため、遺伝カウンセリングを受けたうえで行うことが望まれます。

特発性拡張型心筋症と鑑別すべき疾患

  • 虚血性心筋症: 陳旧性心筋梗塞や多枝の冠動脈疾患によるもので、冠動脈の評価と、MRIで心内膜側から広がる冠動脈支配に一致した遅延造影がみられることで区別します。
  • 心サルコイドーシス: 房室ブロック、心室中隔基部の菲薄化、心室性不整脈、FDG-PETでの集積などが手がかりで、ステロイドなどの免疫抑制療法の対象となるため、見逃さないことが重要です。
  • 心筋炎(急性・慢性): かぜ症状の後に発症する経過、トロポニン上昇、MRIでの浮腫・心外膜側の遅延造影、心筋生検の炎症細胞浸潤などで区別します。
  • アルコール性・薬剤性心筋症: 長年の大量飲酒やアントラサイクリン系抗がん薬などの使用歴が鍵で、原因を取り除くことで改善する可能性があります。
  • 頻脈誘発性心筋症: 心房細動などの持続的な頻脈が原因で起こり、心拍数をコントロールしたり、カテーテルアブレーションを行ったりすることで、左室機能が大きく回復するのが特徴です。
  • 拡張相肥大型心筋症・神経筋疾患に伴う心筋症: 過去の心肥大の記録や家族歴、筋ジストロフィーなどの骨格筋症状とCK上昇の有無などで区別します。

特発性拡張型心筋症の治療

治療の目標は、症状を和らげること、心不全による入院を防ぐこと、そして生命予後(特に突然死)を改善することです。根本的に治す治療はまだありませんが、心筋の負担を減らしリモデリングを抑える薬を、副作用を見ながら少しずつ増量し、できるだけ目標量まで用いることが基本です。収縮機能が低下した心不全(HFrEF)の標準治療として、日本循環器学会・日本心不全学会のガイドラインでは、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBまたはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬を組み合わせることが推奨されています。うっ血には利尿薬を用います。薬物療法を最適化した後もLVEFが低く、心電図所見などの条件を満たす場合はデバイス治療を検討します。さらに重症の場合は、補助人工心臓や心臓移植を考えます。どの治療を選ぶかは、年齢、腎機能、血圧、不整脈、患者本人の希望などによって個別に判断されるため、主治医や心不全・重症心不全の専門施設とよく相談することが大切です。

  • β遮断薬: カルベジロールやビソプロロールなどを少量から始め、徐脈や低血圧、心不全悪化に注意しながら時間をかけて増量します。交感神経の過剰な働きを抑え、生命予後を改善し、左室逆リモデリングを促す中心的な薬です。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬/ARB/ARNI): 心臓の負担とリモデリングを抑えます。サクビトリル・バルサルタン(ARNI)はACE阻害薬などからの切り替えも含めて用いられます。ただし、妊娠中は使えず、ACE阻害薬とARNIの併用は禁忌です。
  • MRA・SGLT2阻害薬: スピロノラクトンやエプレレノンなどのMRA、ダパグリフロジンやエンパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬は、糖尿病の有無にかかわらず心不全入院や死亡を減らす効果が示されています。カリウム値や腎機能を定期的に確認します。
  • 利尿薬・その他の薬剤: ループ利尿薬などでうっ血症状を和らげます。洞調律で心拍数が高い場合のイバブラジン、心不全が悪化した高リスク例でのベルイシグアトなどが追加される場合があります。心房細動や心内血栓がある場合は抗凝固療法を行います。
  • 植込み型除細動器(ICD): 心室細動・心室頻拍からの蘇生歴がある場合(二次予防)や、薬物療法を最適化した後もLVEFが著しく低い場合(一次予防)などに検討します。LMNA変異やMRI所見も判断材料になります。適応判断の待機期間には、着用型自動除細動器(WCD)が使われることもあります。
  • 心臓再同期療法(CRT/CRT-D): 左脚ブロックなどでQRS幅が広く、左右の心室の動きにずれがある症候性の心不全患者に対して、両心室をペーシングして収縮の同期を回復させます。症状、心機能、予後の改善が期待されます。
  • 不整脈・弁膜症へのカテーテル治療: 心房細動や薬が効きにくい心室頻拍にはカテーテルアブレーションを検討します。重度の機能性僧帽弁逆流には、適応を満たせば経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術(TEER)が選択肢となります。
  • 補助人工心臓(VAD)・心臓移植: 最適な治療を行っても重い心不全が続く場合に、専門施設で検討します。植込型左室補助人工心臓は心臓移植までの橋渡しとして用いられるほか、移植の適応がない患者への長期治療(destination therapy)も一定の条件下で行われています。国内では移植待機期間が長いことが課題です。
  • 心臓リハビリテーション・疾病管理: 監視下での運動療法、服薬・塩分・体重管理の指導、多職種による教育を組み合わせ、運動耐容能、QOLの改善と再入院の予防を図ります。重症例では緩和ケアの視点も早い段階から取り入れます。

特発性拡張型心筋症の予後・長期フォロー

かつては「診断から5年で半数近くが亡くなる」とされていましたが、β遮断薬やレニン・アンジオテンシン系阻害薬の普及、ICD・CRTなどのデバイス治療、新しい心不全治療薬の登場により、生命予後は大きく改善しています。薬物療法で左室逆リモデリングが得られた患者の予後は良好で、仕事や日常生活をほぼ普段どおりに続けている人も多くいます。一方、NYHA III〜IV度の症状、BNPの高値、低血圧、腎機能障害、低ナトリウム血症、MRIでの広範な遅延造影、持続する心室性不整脈、LMNA変異などは、予後が悪いことを示す因子とされます。こうした患者では、早い段階から重症心不全の専門施設と連携することが勧められます。

症状が安定していても、定期的な通院(診察、心電図、血液検査)と、半年〜1年ごとの心エコーによる心機能の再評価が必要です。デバイスを植え込んでいる場合は、遠隔モニタリングを含めたデバイスチェックを行います。心機能が改善した後も、原則として治療を続けることが推奨されています。治療薬の調整は、血圧、脈拍、腎機能、カリウム値を見ながら行います。感染症、過労、塩分・水分のとり過ぎ、服薬の中断、不整脈は急性増悪のきっかけになりやすいため、悪化の兆候を早めにとらえる体制づくりが重要です。

特発性拡張型心筋症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

毎朝同じ条件で体重を測って記録し、数日で2kg程度の急な増加やむくみ、息切れの悪化があれば早めに受診します。塩分は1日6g未満を目安に控えます。水分制限の必要性は重症度によって異なるため、主治医の指示に従ってください。飲酒は心筋に悪影響を与えるため、控えるか、できれば禁酒し、禁煙は必須です。体調が安定していれば、医師の評価にもとづいた適度な有酸素運動が推奨されます。重い荷物を持ち上げる運動や激しい競技は、事前に相談しましょう。インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種も、感染による増悪を防ぐのに役立ちます。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や一部の市販薬・サプリメントは心不全を悪化させることがあるため、服用する前に医師・薬剤師に確認します。妊娠・出産は心臓に大きな負担がかかり、使えない薬もあるため、必ず事前に循環器医・産科医と相談してください。ICDを植え込んでいる人は、自動車の運転について国内の基準や制限期間があるため、主治医に確認が必要です。家族性の可能性がある場合、第一度近親者(親・きょうだい・子)は無症状でも心電図や心エコーによるスクリーニングが勧められます。遺伝学的検査を受けるかどうかや、その結果が家族・就職・保険に与える影響については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを活用しましょう。

利用できる制度・相談窓口

特発性拡張型心筋症は指定難病(告示番号57)で、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の重症度(NYHA分類などを用いた基準)に該当する場合、または軽症でも高額な医療を継続している場合(軽症高額該当)は、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に提出します。自己負担上限額は所得に応じて決まります。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)は小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり得ます。そのほかに、高額療養費制度、心臓機能障害による身体障害者手帳(ICD・ペースメーカー植込みや補助人工心臓の装着などで等級が認定される場合があります)、障害年金(心疾患の認定基準にもとづく)、65歳以上の場合の介護保険サービスなどがあります。難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー(がん・難病相談窓口)、心不全療養指導士、患者会などが、就労、制度の利用、療養生活の相談に応じています。

特発性拡張型心筋症に伴う心のケア・心理社会的支援

心不全を伴う慢性疾患では、抑うつや不安を抱える人が多く、うつ症状があると服薬の継続や生活管理が難しくなり、予後にも影響することが知られています。拡張型心筋症に特有の悩みとして、いつ起こるか分からない突然死や不整脈への恐怖があります。また、ICDの作動(電気ショック)を経験した後の不安や心的外傷反応、補助人工心臓を装着した生活での行動制限、介護者の負担、移植を待つ長い期間の精神的な緊張もあります。さらに、遺伝が関わる場合には子どもへ遺伝することへの罪悪感、若い年代で発症した場合の就労・結婚・妊娠に関する葛藤もみられます。気分の落ち込み、眠れない、何事にも興味がわかない、強い不安が続くといった状態は「気の持ちよう」ではなく、治療・支援の対象です。主治医や看護師に遠慮なく伝え、必要に応じて心療内科・精神科、公認心理師、緩和ケアチームの支援を受けてください。家族自身の心身のケアも同じように大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

特発性拡張型心筋症の受診の目安

  • 安静にしていても息苦しい、横になると息ができず座っていないと苦しい、ピンク色の泡のような痰が出る場合は、すぐに救急車を呼んでください。
  • 失神した、意識が遠のいた、ICDが作動した(特に短時間に繰り返し作動した場合は直ちに救急要請)ときは、速やかに医療機関に連絡・受診してください。
  • 突然の手足のまひやしびれ、ろれつが回らない、顔のゆがみなどの脳梗塞が疑われる症状は、ただちに救急受診が必要です。
  • 数日で2kg以上の体重増加、むくみの悪化、普段の動作での息切れの増強があれば、早めに主治医を受診してください。
  • 持続する動悸や脈の乱れ、強いだるさやふらつき(低血圧・徐脈・電解質異常の可能性)がある場合も、受診してください。
  • 親・きょうだい・子に拡張型心筋症や若年での突然死の人がいる場合は、症状がなくても循環器内科で検査を受けることを検討してください。

特発性拡張型心筋症についてのよくある質問

Q. 拡張型心筋症は遺伝しますか?

A. 患者の2〜3割程度は家族性と報告されていますが、すべてが遺伝するわけではありません。家族性の多くは常染色体顕性遺伝で、変異をもっていても発症しない人や軽症の人もいます。家族の検査や遺伝学的検査については、遺伝カウンセリングを受けながら主治医と相談してください。

Q. 治療で心臓は元に戻りますか?

A. 適切な薬物療法などにより、一部の患者では心臓の大きさや収縮力が正常に近いところまで改善します(左室逆リモデリング)。ただし、改善後に薬をやめると再び悪化することがあるため、自己判断での中止は避け、主治医と相談しながら治療を続けることが大切です。

Q. 運動や仕事は続けられますか?

A. 病状が安定していれば、多くの場合、医師の評価にもとづく適度な運動や、仕事の継続が可能です。心臓リハビリテーションで安全な運動の強さを確認できます。重労働や激しい競技、職場での配慮については、主治医や産業医と相談してください。

Q. 心臓移植はどのような場合に検討されますか?

A. 最適な薬物療法やデバイス治療を行っても、重い心不全症状や入院を繰り返す場合に、年齢や全身状態などの条件を踏まえて、移植実施施設が適応を判定します。国内では待機期間が長いため、補助人工心臓を装着して待機することが一般的です。検討のタイミングが遅れないよう、早めに専門施設へ相談することが勧められます。

この記事をシェア

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

関連記事(関連する指定難病)

同じ分野(循環器・先天性心疾患)の指定難病

循環器・先天性心疾患の指定難病を一覧で見る / 指定難病リスト(全341疾患)

この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。