拘束型心筋症

Restrictive Cardiomyopathy, RCM

拘束型心筋症(Restrictive Cardiomyopathy, RCM)|拘束型心筋症(RCM)は、心室の壁が硬くなって血液を十分に受け入れられなくなる(拡張障害)心筋症です。心室の大きさや収縮力はほぼ保たれているのに心不全症状が現れます。乳幼児から高齢者まで発症し、特に小児例は進行が速く、心臓移植が必要になることも少なくありません。日本では原因の特定できない特発性のものが指定難病(告示番号59)の対象で、早期の正確な診断と専門施設での継続管理が重要です。

拘束型心筋症の要点

拘束型心筋症は、心室壁が硬くなって拡張期に血液を十分に受け入れられず(拡張障害)、心室の大きさや収縮力が保たれたまま心不全をきたす心筋症です。肺うっ血による息切れや、浮腫・腹水・肝腫大などがみられ、原因不明(特発性)のものは指定難病(告示番号59)の対象です。

別名・略称拘束性心筋症、RCM、特発性拘束型心筋症、特発性拘束性心筋症
分野循環器・先天性心疾患
遺伝形式一部でサルコメア遺伝子などの変異を認める(遺伝性の例あり)
好発年齢乳幼児から高齢者まで幅広い。小児例は進行が速いことがある
主な症状息切れ、浮腫、腹水、肝腫大、疲れやすさ
主な検査心エコー、心臓MRI、心臓カテーテル検査、血液検査(二次性心筋症の除外を含む)
主な治療利尿薬などによる心不全治療、不整脈・血栓への対策、重症例では心臓移植
受診する主な診療科循環器内科、小児循環器科

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拘束型心筋症とは

拘束型心筋症は、心室の拡大や肥大がない(またはごく軽度)にもかかわらず、心筋が硬くなって心室の拡張期充満が強く障害される心筋疾患です。左室の収縮機能(駆出率)は正常かほぼ正常に保たれます。一方で、拡張期に心室内圧が急上昇するため、心房圧・肺静脈圧・体静脈圧が慢性的に高くなります。その結果、心室は小さいのに両心房が著しく拡大するという特徴的な形態を示します。症状は肺うっ血による息切れと、体静脈うっ血による浮腫・腹水・肝腫大が中心で、収縮力が保たれた心不全(HFpEF)の一型とみなすことができます。

心筋症の分類では、拡張型・肥大型・不整脈原性右室心筋症などと並ぶ病型として位置づけられています。歴史的には「拘束型の血行動態を示す心筋症」の総称として広く用いられ、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病、ヘモクロマトーシス、好酸球増多に伴う心内膜心筋線維症など多くの二次性疾患が含まれてきました。現在の日本の診療体系では、原因が明らかな疾患は二次性心筋症(特定心筋疾患)として扱われます。指定難病の『拘束型心筋症』は、これらを除外した特発性(原因不明または遺伝性)拘束型心筋症を指します。近年はサルコメア遺伝子などの変異が見つかる例が増え、肥大型心筋症と同じ遺伝子が関与する連続した疾患群と考えられるようになりました。なお、既存の簡易解説には「高齢者に多い」とありますが、これは主に心アミロイドーシスなど二次性のものに当てはまる記述です。特発性RCMは小児から成人まで幅広い年齢で発症します。

拘束型心筋症の疫学・患者数

拘束型心筋症は心筋症の中でも最もまれな病型です。日本の全国調査では、特発性拘束型心筋症の患者数は数百人規模と推計されています。人口当たりの正確な有病率は確立しておらず、既存解説の「10万人あたり2〜3人」という数値には十分な根拠がありません。発症年齢は乳幼児期から高齢期まで幅広く、小児の心筋症の中では数%程度を占めるとされます。小児例は診断時すでに重症であることが多く、学校心臓検診の心電図異常(P波増高、ST-T変化)を契機に見つかる例もあります。性差については一定の傾向は明らかではありません。成人で拘束型の血行動態を示す症例では、心アミロイドーシス(特にトランスサイレチン型)など二次性疾患の頻度が高いことが知られています。そのため、特発性と判断する前に十分な除外診断が必要です。

拘束型心筋症の原因・病態生理

特発性RCMの一部は遺伝性で、多くは常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。親に症状がなくても新生突然変異(de novo)で発症する例、特に小児例が少なくありません。原因遺伝子として、心筋の収縮単位(サルコメア)を構成する心筋トロポニンI(TNNI3)、心筋トロポニンT(TNNT2)、β-ミオシン重鎖(MYH7)、心筋アクチン(ACTC1)などの変異が報告されています。ほかに、細胞骨格関連のデスミン(DES)やフィラミンC(FLNC)などの変異も報告されています。これらの遺伝子の多くは肥大型心筋症の原因遺伝子と共通です。同一家系内に肥大型心筋症と拘束型心筋症が混在することもあります。デスミン変異では骨格筋障害(ミオパチー)や房室ブロックを伴うことがあります。一方、遺伝学的検査を行っても原因が特定できない例も多く存在します。

病態の中心は心筋そのものの『硬さ(スティフネス)』の増大です。サルコメア遺伝子変異の一部では、筋フィラメントのカルシウム感受性が亢進します。そのため拡張期に心筋が十分に弛緩できなくなります(弛緩障害)。さらに間質の線維化や細胞骨格の異常が加わり、心室の受動的な伸展性も低下します。硬い心室では、拡張早期に心房から血液が急速に流入したあと、わずかな容量増加で心室圧が急上昇し、充満が早期に止まります。これがカテーテル検査で見られるdip-and-plateau(平方根サイン)の機序です。心室の充満を保つため心房圧は持続的に上昇し、両心房は著しく拡大します。左房圧の上昇は肺静脈・肺毛細血管圧を高め、肺うっ血や二次性の肺高血圧を引き起こします。小児では肺血管抵抗が比較的早期に上昇しやすく、心臓移植の適応判断に影響します。また、拡大した心房では心房細動や血栓形成が起こりやすくなります。心拍出量は一回拍出量を増やしにくいため心拍数に強く依存し、運動時に十分な拍出増加が得られず、易疲労感や運動耐容能の低下につながります。

拘束型心筋症の症状

  • 労作時息切れ・呼吸困難: 肺うっ血により、階段や坂道などの軽い労作で息切れが生じます。進行すると安静時にも出現します。
  • 起座呼吸・夜間発作性呼吸困難: 横になると肺うっ血が増して息苦しくなり、上体を起こすと楽になります。心不全の悪化を示す重要な症状です。
  • 下肢・全身の浮腫: 体静脈圧の上昇により、足のすねや足首にむくみが出ます。短期間の体重増加を伴うことが多いです。
  • 腹部膨満・腹水・肝腫大: 右心系のうっ血が強いと腹水や肝臓の腫れが生じ、食欲低下や右季肋部の違和感の原因となります。右心不全症状が前面に出やすいのがRCMの特徴の一つです。
  • 頸静脈怒張: 首の静脈が張って見える所見で、吸気時にむしろ怒張が強まる(クスマウル徴候)ことがあります。
  • 易疲労感・運動耐容能低下: 心拍出量を増やせないため、疲れやすく、体力が落ちたように感じます。
  • 動悸: 拡大した心房から生じる心房細動・心房粗動などの不整脈により、脈の乱れや動悸を自覚します。
  • 失神・ふらつき: 房室ブロックや心室性不整脈、労作時の拍出低下によって起こることがあり、突然死の前兆の可能性もあるため重要です。
  • 胸痛: 心内膜下の血流不足などにより胸痛を訴えることがあり、特に小児例で報告されています。
  • 塞栓症状: 心房内血栓が脳や手足の動脈に飛ぶと、脳梗塞(片麻痺・言語障害)や四肢の虚血を生じることがあります。
  • 小児の体重増加不良・哺乳不良: 乳幼児では息切れの訴えが難しく、哺乳時の多呼吸や発汗、体重が増えないこと、繰り返す呼吸器症状が手がかりになります。

拘束型心筋症の経過と合併症

経過には個人差があります。一般に進行性で、自覚症状が乏しい時期を経て、心不全症状が徐々に、あるいは不整脈などを契機に急に顕在化します。成人例では数年から十数年かけてゆっくり進行する例がある一方、診断時すでに心不全が進んでいる例も少なくありません。小児例は特に予後不良で、診断後数年以内に心臓移植や死亡に至る割合が高いと報告されています。小児では心不全症状が軽くても突然死の危険があり、肺血管抵抗の上昇が移植の可否を左右するため、早期からの移植施設との連携が重要です。病期は、拡張障害のみで代償されている段階、うっ血症状が出現し利尿薬が必要となる段階、利尿薬への反応が乏しく低心拍出と臓器障害を伴う難治性心不全の段階へと進むのが典型的です。

主な合併症は次のとおりです。①心房細動・心房粗動。心房収縮の喪失と頻拍により心拍出量が大きく低下し、心不全を急激に悪化させます。②心房内血栓と脳梗塞などの全身性塞栓症。③房室ブロックなどの伝導障害(特にデスミン関連など一部の遺伝型)。④心室頻拍・心室細動による突然死。⑤二次性肺高血圧症と右心不全。⑥うっ血肝やうっ血腎による肝・腎機能障害(心腎連関)。⑦腹水・胸水の貯留。⑧低心拍出に伴う低栄養や悪液質。これらの合併症の予防と早期発見が、長期管理の要となります。

拘束型心筋症の診断・診断基準

診断は、①心室の拡大・肥大がない(または軽度)、②左室収縮機能が正常またはほぼ正常、③硬い心室による拡張障害(拘束型の血行動態)が存在する、の三点を確認することから始まります。そのうえで、④同様の血行動態を示す二次性心筋症と収縮性心膜炎を除外します。これが日本の指定難病の診断基準の骨格でもあります。実際には、心不全症状や心電図異常を契機に心エコー検査で両心房拡大と拘束型の左室流入パターンを見つけ、血液検査・心臓MRI・CTなどで原因を絞り込みます。必要に応じて心臓カテーテル検査と心内膜心筋生検で最終的に確定します。特に収縮性心膜炎は手術(心膜切除)で改善しうる疾患のため、鑑別は極めて重要です。また心アミロイドーシスやファブリー病など、治療法が存在する二次性疾患を見逃さないことが診断の大きな目的になります。遺伝性が疑われる場合は、遺伝カウンセリングを前提に遺伝学的検査を検討します。

  • 心電図・ホルター心電図: 心房負荷を示す高く幅広いP波、ST-T異常、心房細動、房室ブロックなどを認めます。低電位(QRSの振幅低下)が目立つ場合は心アミロイドーシスを疑う手がかりになり、ホルター心電図で潜在的な不整脈を評価します。
  • 心エコー検査(断層法): 左室の大きさと壁厚がほぼ正常で駆出率が保たれる一方、両心房が著明に拡大するのが典型像です。心膜の肥厚がないこと、壁の性状(アミロイドーシスでの壁肥厚や顆粒状輝度など)も確認します。
  • ドプラ心エコー・組織ドプラ: 左室流入血流でE波の増高、E/A比の上昇(概ね2以上)、E波減速時間の短縮といった拘束型パターンを示します。僧帽弁輪の組織速度(e')が低下するのがRCMの特徴で、e'が保たれやすい収縮性心膜炎との鑑別に有用です。呼吸に伴う流入血流の変動が乏しいことも参考になります。
  • 血液検査(BNP/NT-proBNP など): BNPやNT-proBNPは多くの場合で著明に上昇し、心不全の重症度評価と経過観察に用いられます。収縮性心膜炎では相対的に低めにとどまる傾向があり、鑑別の参考になります。腎機能・肝機能、血清・尿の免疫電気泳動と遊離軽鎖(ALアミロイドーシス)、好酸球数、αガラクトシダーゼ活性(ファブリー病)なども評価します。
  • 心臓MRI: 心室の形態・機能を精密に評価し、遅延造影やT1マッピングで線維化や沈着性病変のパターンを把握します。アミロイドーシスやサルコイドーシスに特徴的な所見の有無を確認し、心膜の厚さも評価できます。
  • 胸部CT・核医学検査: CTでは心膜の肥厚や石灰化を確認し、収縮性心膜炎の鑑別に役立ちます。核医学検査では、ピロリン酸シンチグラフィがトランスサイレチン型心アミロイドーシスの診断に、FDG-PETが心サルコイドーシスの評価に用いられます。
  • 心臓カテーテル検査: 右室・左室の拡張期圧波形でdip-and-plateau(平方根サイン)を認め、左室拡張末期圧が右室拡張末期圧より明らかに高い傾向があります。左右心室圧の呼吸性変動の相互関係(収縮性心膜炎では逆方向に変動)を確認することが、両者の鑑別に重要です。肺血管抵抗の測定は心臓移植の適応評価に欠かせません。
  • 心内膜心筋生検: 心筋細胞の肥大、間質線維化などの所見を認めます。所見そのものはRCMに特異的ではありませんが、アミロイド沈着(コンゴーレッド染色)、肉芽腫、鉄沈着、好酸球浸潤、ライソゾーム内の蓄積物などの二次性疾患を除外するうえで重要です。
  • 遺伝学的検査・家族歴の聴取: サルコメア遺伝子などの心筋症関連遺伝子を解析することで、病因の推定や家族のリスク評価に役立つ場合があります。結果の解釈には専門性が必要なため、遺伝カウンセリングを併せて行います。

拘束型心筋症と鑑別すべき疾患

  • 収縮性心膜炎: 心膜の肥厚・石灰化、組織ドプラでのe'保持、左右心室圧の呼吸性逆方向変動、比較的低いBNPが手がかりで、心膜切除術で改善しうるため最も重要な鑑別対象です。
  • 心アミロイドーシス(AL型・トランスサイレチン型): 心室壁の肥厚、心電図の低電位、MRIのびまん性遅延造影、ピロリン酸シンチの集積、血清遊離軽鎖異常、組織のアミロイド沈着で鑑別し、それぞれに疾患特異的治療があります。
  • 肥大型心筋症(拘束型の病態を示すもの): 左室壁の明らかな肥大や非対称性中隔肥厚があれば肥大型心筋症と判断されますが、遺伝的背景が共通し移行例もあります。
  • 心サルコイドーシス: 心室中隔基部の菲薄化、房室ブロック、MRIの斑状遅延造影、FDG-PETの集積、他臓器病変の有無で鑑別し、免疫抑制療法の対象となります。
  • ファブリー病などの蓄積性疾患: αガラクトシダーゼ活性の低下、四肢疼痛・被角血管腫・蛋白尿などの全身症状、生検でのライソゾーム内蓄積で鑑別し、酵素補充療法などの特異的治療があります。
  • 心内膜心筋線維症・好酸球増多症候群に伴う心障害: 末梢血の好酸球増多、心尖部の心内膜肥厚や血栓による内腔の閉塞で鑑別します。

拘束型心筋症の治療

特発性拘束型心筋症には、現時点で病気そのものを治す、あるいは心筋の硬さを改善する確立した治療はありません。治療は、うっ血症状の緩和、不整脈と血栓塞栓症の予防・治療、突然死の予防、そして重症例での心臓移植の検討が柱となります。拡張型心筋症など収縮力の低下した心不全で予後改善効果が示された薬剤(ACE阻害薬、β遮断薬など)が、RCMでも同様に有効であるという十分な根拠はありません。むしろRCMの心拍出量は前負荷(静脈還流)と心拍数に強く依存します。そのため、過度の利尿や血圧低下、徐脈を招く薬剤では、かえって拍出量が落ちて状態が悪化することがあります。病態の特性を理解した循環器専門医による慎重な薬剤調整が不可欠です。二次性疾患が見つかった場合は、その原因疾患の治療が優先されます。小児例や進行例では、早い段階から心臓移植実施施設と連携して管理方針を立てることが推奨されます。個々の治療選択は病状により異なるため、主治医・専門医と十分に相談してください。

  • 利尿薬: ループ利尿薬などで肺うっ血や浮腫・腹水を軽減する、症状緩和の中心的な治療です。ただし、心室の充満には高めの充満圧が必要なため、効きすぎると低血圧・腎機能悪化・倦怠感を招きます。体重や腎機能を見ながらの細やかな用量調整が求められます。
  • 心拍数・リズムのコントロール: 頻拍は拡張期の充満時間を短縮して心不全を悪化させるため、心房細動などではβ遮断薬などによるレートコントロールや、抗不整脈薬・電気的除細動・カテーテルアブレーションによるリズムコントロールが検討されます。一方で過度の徐脈も拍出量を下げるため、適正な心拍数の維持が重要です。
  • 抗凝固療法: 心房が著しく拡大し血栓ができやすいため、心房細動を合併した場合には、一般的なリスクスコアにかかわらず抗凝固療法が強く考慮されます。心房内血栓や塞栓症の既往がある場合も適応となります。出血リスクとのバランスは主治医が判断します。
  • ペースメーカー: 高度房室ブロックや症状を伴う徐脈性不整脈がある場合に植込みが検討されます。適切な心拍数を維持することで、心拍出量の確保にも寄与します。
  • 植込み型除細動器(ICD): 心室細動や持続性心室頻拍から救命された例など、突然死の危険が高い場合に検討されます。小児や一次予防での適応は個別性が高く、専門施設で慎重に判断されます。
  • 心臓移植: 薬物療法などで管理困難な重症心不全や、肺高血圧が進行しつつある例では、根本的な治療選択肢として心臓移植が検討されます。小児では肺血管抵抗が不可逆的に上昇すると心臓単独移植が難しくなるため、早期の移植施設への紹介が重要です。日本ではドナー不足から待機期間が長期に及ぶことが課題です。
  • 補助人工心臓: 移植待機中の重症例で検討されることがあります。ただしRCMは左室内腔が小さいため装着や管理が技術的に難しい場合があり、適応は限られた専門施設で個別に判断されます。
  • 二次性疾患に対する特異的治療: 精査で心アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病などが判明した場合は、それぞれの疾患に応じた治療(抗アミロイド治療、免疫抑制療法、酵素補充療法など)が行われます。原因治療の可否が予後を大きく左右します。
  • 心臓リハビリテーション・生活指導: 病状が安定している場合は、医師の評価に基づく運動処方のもとで、無理のない範囲の有酸素運動や塩分・水分管理、体重測定の習慣づけを行います。再入院の予防とQOLの維持を図ります。

拘束型心筋症の予後・長期フォロー

特発性拘束型心筋症の予後は、心筋症の中でも厳しい部類に入ります。小児例では、診断から数年以内に死亡または心臓移植に至る割合が高いと報告されており、突然死も少なくありません。成人例は比較的緩徐に経過する場合もあります。しかし、心不全症状の進行、心房細動の合併、左房の著明な拡大、肺高血圧の存在、BNPの高値などは予後不良の指標と考えられています。一方で、心臓移植後の長期成績は他の心筋症と大きく変わらないとされ、適切な時期に移植へ到達できるかどうかが重要な分岐点となります。QOLは息切れ・むくみ・倦怠感による活動制限の影響を強く受けますが、利尿薬の適切な調整や不整脈管理で日常生活を維持できる例も多くあります。

長期フォローアップは循環器専門医(小児では小児循環器医)のもとで継続的に行います。定期的な診察、体重・血圧の推移、BNP/NT-proBNPや腎・肝機能の採血、心電図、心エコーで、拡張障害の程度、心房サイズ、肺動脈圧の推定値の変化を追います。ホルター心電図などで不整脈を定期的に検索し、必要に応じて心臓MRIや心臓カテーテル検査で肺血管抵抗を評価します。移植適応の可能性がある場合は、症状が軽いうちから移植施設に相談しておくことが勧められます。遺伝性が確認・疑われる場合には、症状のない家族に対しても心電図・心エコーによる定期的なスクリーニングが検討されます。

拘束型心筋症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、塩分を控えた食事(具体的な目標量は主治医と相談)と、毎日同じ条件での体重測定が基本です。短期間(数日)で2kg前後の体重増加やむくみの悪化があれば、心不全悪化のサインとして早めに連絡します。水分制限の要否は病状によって異なり、利尿薬の効きすぎによる脱水も問題となるため、自己判断で極端な制限をしないことが大切です。下痢・嘔吐・発熱・猛暑による脱水は、前負荷の低下を通じて血圧低下やふらつきを招きやすいため注意が必要です。運動は、主治医の評価に基づき適切な強度で行います。突然死や不整脈のリスクがある場合、競技スポーツや強い息こらえを伴う運動は制限されることがあります。小児では学校生活管理指導表を用いて、学校と運動制限の内容を共有します。感染症は心不全悪化の契機となるため、インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種は主治医と相談のうえで検討します。抗凝固薬を服用している方は、出血症状への注意や他の薬・サプリメントとの相互作用の確認が必要です。妊娠・出産は循環動態に大きな負担をかけるため、計画段階から循環器医・産科医と相談してください。遺伝性の可能性がある疾患のため、家族の検査や次世代への影響については、遺伝カウンセリング(臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー)を利用して正確な情報を得ることが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

拘束型心筋症(特発性)は指定難病(告示番号59)です。診断基準を満たし、心不全の重症度などに基づく重症度基準に該当する場合、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)を添えて都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成(特定医療費)を受けられます。重症度基準に該当しなくても、医療費が一定額以上かかる場合には軽症高額該当として対象になることがあります。18歳未満(継続の場合20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象疾患として申請できます。心機能障害の程度に応じて身体障害者手帳(心臓機能障害)の取得、ペースメーカー・ICD植込み者の等級認定、障害年金(心疾患による障害)の請求が可能な場合があります。障害児を養育する家庭では特別児童扶養手当などの制度もあります。65歳以上で介護が必要になった場合は介護保険の要介護認定を受けられます。心臓移植については、移植実施施設と日本臓器移植ネットワークが窓口となります。相談先として、都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW)、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあり、制度の詳細や手続きを確認できます。

拘束型心筋症に伴う心のケア・心理社会的支援

拘束型心筋症は希少で根本治療がなく、将来の見通しが立てにくい病気です。そのため診断直後から強い不安や抑うつ、怒り、喪失感を抱くことは自然な反応です。突然死の可能性やICDの作動に対する恐怖、心臓移植という大きな選択と長い待機期間、移植が受けられるかわからない不確実性は、この疾患に特有の大きな心理的負担になります。小児例では、子ども本人の学校生活や友人関係の制限に加え、親が抱える罪悪感(遺伝性の場合)や、きょうだいへの影響も課題となります。成人では就労継続や経済的不安、家族への説明、妊娠・出産の判断などが悩みの種となりやすいです。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、日常生活に支障が出ているといった場合は、適応障害やうつ病の可能性もあります。我慢せずに主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、心理職、精神科・心療内科に相談してください。患者会や同じ病気の家族との交流、移植施設のレシピエント移植コーディネーターによる支援も、孤立を防ぎ前向きに療養を続ける助けとなります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

拘束型心筋症の受診の目安

  • 安静にしていても息苦しい、横になると息苦しくて眠れない、ピンク色の泡状の痰が出る場合は、急性心不全の可能性があるため直ちに救急受診してください。
  • 失神(意識を失う)、意識が遠のく発作、ICDが作動した場合は速やかに医療機関へ連絡・受診してください。
  • 突然の片側の手足の麻痺、ろれつが回らない、顔のゆがみなど脳梗塞が疑われる症状があれば、迷わず救急車を呼んでください。
  • 数日で2kg前後の体重増加、むくみや腹部膨満の悪化、尿量の減少がある場合は、早めに主治医を受診してください。
  • 動悸や脈の乱れが続く、脈が極端に速い・遅いと感じる場合は、不整脈の可能性があるため受診してください。
  • 小児で哺乳量の低下、多呼吸、顔色不良、ぐったりしている様子が見られたら、早急に受診してください。

拘束型心筋症についてのよくある質問

Q. 拘束型心筋症は遺伝しますか?

A. 特発性拘束型心筋症の一部は、サルコメア遺伝子などの変異による遺伝性のもので、多くは常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。一方、新生突然変異で発症する例や原因遺伝子が見つからない例も多く、必ず遺伝するわけではありません。家族の検査や将来の妊娠については、遺伝カウンセリングで個別に相談することをお勧めします。

Q. 心臓の動き(収縮力)は正常と言われたのに、なぜ心不全になるのですか?

A. この病気では、心臓が血液を送り出す力よりも、血液を受け入れるために広がる力(拡張能)が障害されます。心室が硬くて十分に広がれないため、心房や肺・全身の静脈に血液がうっ滞し、息切れやむくみが生じます。収縮力が保たれた心不全の代表的な病態の一つです。

Q. 薬で治すことはできますか?

A. 現在のところ、心筋の硬さそのものを元に戻す確立した薬はありません。利尿薬や不整脈の治療、抗凝固療法によって症状を和らげ合併症を防ぐことが治療の中心です。重症の場合は心臓移植が検討されます。病態に合わせた繊細な薬剤調整が必要なため、自己判断で薬を増減せず主治医と相談してください。

Q. アミロイドーシスと言われた場合も拘束型心筋症ですか?

A. 心アミロイドーシスは拘束型の血行動態を示しますが、日本では原因が明らかな二次性心筋症として扱われ、指定難病では『全身性アミロイドーシス』として別に位置づけられています。病型(AL型、トランスサイレチン型など)ごとに特異的な治療法があるため、正確な診断を受けることがとても重要です。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。