パーキンソン病

Parkinson's Disease, PD

パーキンソン病(Parkinson's Disease, PD)|パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン神経細胞が徐々に失われる神経変性疾患です。ふるえ・動作の遅さ・筋肉のこわばり・姿勢の不安定さといった運動症状に加え、便秘、嗅覚低下、睡眠障害、気分の落ち込み、認知機能の変化などの非運動症状も伴います。主に50〜60歳代以降に発症し、高齢化とともに患者数が増えています。根治療法はまだありませんが、薬物療法やデバイス治療、リハビリテーションを組み合わせることで、長期にわたり生活の質を保つことが可能になっています。

パーキンソン病の要点

パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン神経細胞が徐々に失われる神経変性疾患で、無動・静止時振戦・筋強剛・姿勢保持障害などの運動症状と、便秘や睡眠障害などの非運動症状がみられます。国の指定難病に含まれ、薬物療法・デバイス治療・リハビリを組み合わせて症状の管理を行います。

別名・略称PD、振戦麻痺、特発性パーキンソン病、Parkinson disease、idiopathic Parkinson's disease
分野神経・筋疾患
遺伝形式多くは孤発性。一部に遺伝性(家族性)あり
好発年齢50〜60歳代以降(40歳以下の発症は若年性)
主な症状無動・静止時振戦・筋強剛・姿勢保持障害、便秘、嗅覚低下、睡眠障害など
主な検査神経学的診察、頭部MRI、DAT-SPECT、MIBG心筋シンチグラフィ
主な治療レボドパなどの薬物療法、脳深部刺激療法などのデバイス治療、リハビリ
受診する主な診療科脳神経内科(神経内科)

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パーキンソン病とは

パーキンソン病(PD)は、中脳黒質緻密部のドパミン作動性神経細胞が進行性に脱落し、線条体のドパミンが不足することで起こる神経変性疾患です。中核となる運動症状は、無動(動作緩慢)、静止時振戦、筋強剛(固縮)、姿勢保持障害で、これらをまとめて「パーキンソニズム」と呼びます。病理学的には、残存神経細胞内にレビー小体(異常に凝集・リン酸化したαシヌクレインを主成分とする封入体)がみられることが特徴です。現在では、黒質に限らず嗅球、迷走神経背側核、腸管神経叢、交感神経節、大脳皮質などにも病変が広がる全身性の「αシヌクレイノパチー」と理解されています。そのため運動症状が出る何年も前から、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症などの非運動症状が先行することがあります。

1817年に英国の医師ジェームズ・パーキンソンが「振戦麻痺(Shaking Palsy)」として報告し、のちにシャルコーがパーキンソン病と命名しました。1960年代にドパミン欠乏が明らかになり、レボドパ療法が確立して治療は大きく進歩しました。臨床的には、振戦が目立つ「振戦優位型」と、歩行障害や姿勢不安定が目立つ「姿勢保持障害・歩行障害(PIGD)型」に分けて考えることがあります。後者は進行が比較的速く、認知機能障害を伴いやすいとされます。発症年齢が40歳以下(定義は21〜40歳とすることが多い)のものは若年性パーキンソン病と呼ばれ、遺伝性の割合が高くなります。なお、認知症が運動症状に先行するか、ほぼ同時期(概ね1年以内)に出現する場合はレビー小体型認知症と診断され、パーキンソン病とは連続したスペクトラムの疾患と考えられています。

パーキンソン病の疫学・患者数

日本の有病率は人口10万人あたりおよそ100〜180人と推計され、患者数は20万人を超えると考えられています。指定難病の中でも受給者数が最も多い疾患の一つです。有病率は年齢とともに上昇し、65歳以上では概ね100人に1人程度とされます。発症のピークは50〜60歳代で、40歳以下の若年発症は全体の数%程度です。欧米の疫学研究では男性にやや多い(1.5倍前後)と報告されていますが、日本では明らかな性差はないか、女性がやや多いとする報告もあります。人口の高齢化に伴い、世界的にも患者数は急速に増えています。危険因子としては、加齢、家族歴、一部の農薬への曝露などが挙げられます。一方、喫煙やカフェイン摂取は発症リスク低下と関連することが疫学的に知られていますが、喫煙を予防目的に勧めるものではありません。

パーキンソン病の原因・病態生理

大部分(約90%以上)は明らかな遺伝性のない孤発性で、加齢、複数の遺伝的感受性、環境要因が重なって発症すると考えられています。家族性パーキンソン病は全体の5〜10%程度とされ、多くの原因遺伝子が同定されています。常染色体顕性(優性)遺伝のものにはSNCA(αシヌクレイン遺伝子。点変異のほか、遺伝子重複・三重複も原因となる)、LRRK2、VPS35などがあります。常染色体潜性(劣性)遺伝で若年発症のものにはPRKN(パーキン。日本の研究グループが1998年に同定)、PINK1、DJ-1(PARK7)などがあります。さらに、ゴーシェ病の原因遺伝子であるGBA1のヘテロ接合性変異は、孤発性パーキンソン病の重要な遺伝的危険因子です。これらの遺伝子の働きから、αシヌクレインの蓄積、ミトコンドリアの品質管理(PINK1-パーキン経路によるマイトファジー)、リソソーム・オートファジー機能、小胞輸送の障害が共通する病態として注目されています。

発症機序の中心は、αシヌクレインが誤って折りたたまれ(ミスフォールディング)、オリゴマーや線維となって凝集することです。異常なαシヌクレインは、神経細胞から神経細胞へとプリオン様に伝播すると考えられています。Braakらの仮説では、病変は延髄(迷走神経背側核)と嗅球から始まり、脳幹を上行して中脳黒質に至り、最終的に大脳皮質へ広がるとされます。腸管から迷走神経を経て脳に至る経路も提唱されていますが、すべての症例に当てはまるわけではありません。黒質神経細胞は、ミトコンドリア複合体Iの機能低下、酸化ストレス、ドパミン代謝に伴う活性酸素、神経炎症(ミクログリアの活性化)の影響を受けやすく、選択的に脱落していきます。運動症状が現れる時点で、すでに黒質神経細胞の50〜60%程度、線条体ドパミンの70〜80%程度が失われているとされます。大脳基底核回路では、ドパミンが不足すると直接路が抑制され、間接路が過剰に働きます。その結果、視床下核と淡蒼球内節の出力が過剰になって視床・大脳皮質への運動信号が抑え込まれ、無動や筋強剛が生じます。振戦の発現には、小脳-視床回路の関与も指摘されています。

パーキンソン病の症状

  • 無動・動作緩慢: 動作の開始が遅れ、動きが小さく遅くなります。反復動作では徐々に振幅が小さくなる(decrement)のが特徴で、診断に必須の症状です。
  • 静止時振戦: 安静時に4〜6Hz程度のふるえが片側の手足から始まることが多く、指で丸薬を丸めるような動き(pill-rolling)が典型的です。動作時や睡眠中には軽くなります。
  • 筋強剛(固縮): 関節を他動的に動かすと持続的な抵抗を感じます。歯車様の断続的な抵抗(歯車様固縮)として触れることもあり、肩こりや痛みとして自覚されることがあります。
  • 姿勢保持障害・歩行障害: 前かがみの姿勢で歩幅が狭くなり(小刻み歩行)、腕振りが減ります。進行すると歩き出しや方向転換で足がすくむ「すくみ足」や、止まれなくなる「突進現象」が出て、転倒しやすくなります。
  • 仮面様顔貌・小声・小字症: 表情が乏しくなり、瞬きが減ります。声が小さく単調になるほか、書く字がだんだん小さくなることがあります。
  • 自律神経症状: 便秘は最も頻度の高い非運動症状で、運動症状より何年も前から現れることがあります。そのほか、起立性低血圧、頻尿・尿意切迫、発汗異常、性機能障害などがみられます。
  • 嗅覚障害: においが分かりにくくなる症状は多くの患者にみられ、早期診断の手がかりになります。本人が気づいていないことも少なくありません。
  • レム睡眠行動異常症・睡眠障害: 夢の内容に合わせて大声を出したり手足を激しく動かしたりします。運動症状に先行することがあり、日中の過度の眠気や不眠、むずむず脚症状を伴うこともあります。
  • 精神症状(抑うつ・不安・アパシー): 病気そのものの神経化学的変化により、抑うつ、不安、意欲低下が高い頻度で起こります。薬の効果が切れる時間帯(オフ)に悪化することもあります。
  • 認知機能障害・幻覚: 進行期には注意力や遂行機能の低下が目立ち、長期経過で認知症(パーキンソン病認知症)に至る例も少なくありません。幻視や妄想は、病気の進行と薬剤の両方が関与します。
  • 嚥下障害・流涎: 飲み込む動作が遅くなり、むせや唾液の口内貯留(よだれ)が起こります。誤嚥性肺炎の原因になります。
  • 痛み・感覚症状: 筋強剛や姿勢異常に伴う痛み、オフ時に起こるジストニアによる痛み、しびれ感などがみられることがあります。

パーキンソン病の経過と合併症

症状は通常、片側の手足から始まり、数年かけて反対側にも広がります。病期の評価にはHoehn-Yahr重症度分類(Ⅰ度:片側のみ、Ⅱ度:両側だが姿勢反射障害なし、Ⅲ度:姿勢反射障害あり・自立、Ⅳ度:高度障害だが起立・歩行は可能、Ⅴ度:車椅子または寝たきり)と、厚生労働省の生活機能障害度(1〜3度)が用いられます。詳細な評価にはMDS-UPDRSが使われます。発症初期はレボドパなどによく反応する時期(いわゆるハネムーン期)が数年続きます。その後、薬の効果持続時間が短くなるウェアリング・オフ、薬が効きすぎて体が勝手に動くジスキネジア、効果が不安定になるオン・オフ現象などの運動合併症が現れます。若年発症者ほど運動合併症が早く出やすいとされます。進行期には、すくみ足、姿勢異常(首下がり、腰曲がり、斜め徴候)、嚥下障害、認知症など、ドパミン補充では改善しにくい症状が問題になります。進行の速さには個人差が非常に大きい病気です。

主な合併症には、転倒による骨折(特に大腿骨近位部骨折)、誤嚥性肺炎、脱水、便秘の悪化による麻痺性イレウス、起立性低血圧による失神があります。抗パーキンソン病薬の急な中断、脱水、感染症をきっかけに、高熱・著明な筋強剛・意識障害・CK上昇をきたす悪性症候群が起こることがあり、生命に関わります。ドパミンアゴニストなどに関連して、病的賭博、買い物依存、過食、性欲亢進などの衝動制御障害や、突発的睡眠が生じることもあります。進行期には幻覚・妄想、せん妄、認知症も重要な合併症となります。

パーキンソン病の診断・診断基準

診断は、病歴と神経学的診察に基づく臨床診断が基本です。まず、動作緩慢があり、それに静止時振戦または筋強剛を伴う「パーキンソニズム」の存在を確認します。次に、薬剤性パーキンソニズム、脳血管障害、正常圧水頭症、その他の神経変性疾患(進行性核上性麻痺、多系統萎縮症など)を除外します。そのうえで、ドパミン補充療法への明らかな反応、片側優位の発症、嗅覚低下、心筋交感神経障害などの支持的所見をもとに総合的に判断します。国際的には国際パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDS)の臨床診断基準(2015年)が広く用いられています。日本の指定難病の申請には、厚生労働省の診断基準と重症度基準を用います。画像検査は主に他疾患の除外と診断の補助に役立ちますが、単独で確定診断できる検査はありません。そのため、経過を追って診断を見直すことが大切です。

  • 神経学的診察・MDS-UPDRS: 指タップや手の開閉で動作緩慢と振幅の減衰を確認し、筋強剛、振戦、姿勢反射(後方突進現象)、歩行を評価します。MDS-UPDRSは重症度と経過の定量評価に用いられます。
  • MDS臨床診断基準(2015)/指定難病診断基準: パーキンソニズムを前提に、絶対的除外基準、警告徴候(レッドフラッグ)、支持的基準を組み合わせて「臨床的に確実」「ほぼ確実」を判定します。指定難病の申請では、厚生労働省の基準と重症度分類を用います。
  • ドパミン補充療法への反応性: レボドパなどで運動症状が明らかに改善することは、強力な支持所見です。反応が乏しい場合は、非定型パーキンソニズムを疑う手がかりになります。
  • 頭部MRI: パーキンソン病では通常大きな異常はみられません。中脳被蓋萎縮(進行性核上性麻痺)、橋・小脳萎縮や被殻の異常信号(多系統萎縮症)、多発性脳梗塞、脳室拡大(正常圧水頭症)などの除外に重要です。黒質の変化を捉えるニューロメラニン画像などが補助的に用いられることもあります。
  • MIBG心筋シンチグラフィ: 心臓交感神経の障害を反映して、MIBGの心臓への取り込み(H/M比)が低下します。パーキンソン病やレビー小体型認知症で低下しやすく、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺との鑑別に役立ちます。ただし、早期例や一部の遺伝性例では低下しないことがあり、心疾患や糖尿病性神経障害の影響も受けます。
  • ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DAT-SPECT): 線条体のドパミン神経終末の減少を、被殻優位・左右非対称の集積低下として描出します。本態性振戦や薬剤性パーキンソニズムとの鑑別に有用です。一方、他の変性性パーキンソニズムでも低下するため、それらとの区別はできません。
  • 嗅覚検査: 嗅覚識別能の低下は早期からみられる支持所見です。多系統萎縮症や進行性核上性麻痺では比較的保たれることが多いとされます。
  • 自律神経・睡眠の評価: 臥位・立位の血圧測定で起立性低血圧を評価します。レム睡眠行動異常症の確認には、終夜睡眠ポリグラフ検査が行われることがあります。
  • 遺伝学的検査: 若年発症例や濃厚な家族歴がある場合に考慮されます。結果は本人と血縁者に影響するため、遺伝カウンセリング体制のもとで実施することが望まれます。

パーキンソン病と鑑別すべき疾患

  • 薬剤性パーキンソニズム: 抗精神病薬、一部の制吐薬・消化管運動改善薬(メトクロプラミド、スルピリドなど)、カルシウム拮抗薬の一部などで生じます。左右差が少なく進行が速く、DAT-SPECTが正常であることが鑑別点です。
  • 進行性核上性麻痺: 発症早期からの転倒、垂直方向の眼球運動障害、体幹優位の筋強剛、MRIでの中脳被蓋萎縮が特徴で、レボドパへの反応は乏しい傾向があります。
  • 多系統萎縮症: 高度で早期からの自律神経障害(排尿障害・起立性低血圧)や小脳性運動失調を伴い、レボドパの効果が乏しく、MIBGの心筋集積は比較的保たれます。
  • 大脳皮質基底核変性症: 著明な左右差のある筋強剛、失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質症状を伴い、レボドパの効果は乏しいことが多い疾患です。
  • 本態性振戦: コップを持つなどの動作時・姿勢時に両手のふるえが出ることが多く、動作緩慢や筋強剛はなく、DAT-SPECTは正常です。
  • 脳血管性パーキンソニズム・正常圧水頭症: いずれも下半身に症状が目立つ歩行障害が主体で、静止時振戦は少なく、MRIでの多発性脳梗塞・白質病変や脳室拡大が手がかりとなります。

パーキンソン病の治療

治療の目標は、症状を和らげて日常生活機能と生活の質(QOL)を長く維持することです。現時点で、神経変性の進行そのものを止めることが証明された治療はありません。日本神経学会の「パーキンソン病診療ガイドライン」では、生活に支障が出てきたら治療を開始することが推奨され、治療を先延ばしにする利点はないとされています。早期の薬物選択は、年齢、症状の強さ、就労状況、認知機能、運動合併症のリスクなどを考慮して個別に決めます。高齢者、認知機能低下のある人、症状が強い人では、効果が確実なレボドパが中心になります。比較的若い人では、ジスキネジアのリスクを考慮してドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬から始めることもあります。いずれの場合も、必要十分な量で症状をしっかり改善することが重視されます。進行期にはウェアリング・オフやジスキネジアに対して、服薬回数の調整や補助薬の追加を行います。それでもコントロールが難しい場合は、脳深部刺激療法や持続注入療法といったデバイス補助療法を検討します。非運動症状への対症療法、リハビリテーション、多職種によるケアを組み合わせることが不可欠です。薬の種類・量・タイミングは個々に大きく異なるため、自己判断で変更や中止はせず、主治医や脳神経内科専門医と相談してください。

  • レボドパ製剤: 脳内でドパミンに変換される前駆物質で、末梢での分解を抑えるドパ脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパ、ベンセラジド)との合剤として使われます。最も効果の高い基本薬ですが、長期使用や病気の進行に伴い、ウェアリング・オフやジスキネジアが問題になります。
  • ドパミンアゴニスト: ドパミン受容体を直接刺激する薬です。非麦角系(プラミペキソール、ロピニロール、貼付剤のロチゴチンなど)が主に用いられます。効果持続が長い一方、眠気・突発的睡眠、幻覚、むくみ、衝動制御障害に注意が必要です。オフ時のレスキューとしてアポモルヒネの皮下注射が用いられることもあります。
  • MAO-B阻害薬・COMT阻害薬: MAO-B阻害薬(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)はドパミンの分解を抑え、COMT阻害薬(エンタカポン、オピカポン)はレボドパの効果を延長させます。主にウェアリング・オフの改善に用いられます。
  • その他の補助薬: アマンタジン(ジスキネジアの軽減)、ゾニサミド、アデノシンA2A受容体拮抗薬のイストラデフィリン(オフ時間の短縮)、抗コリン薬(振戦。高齢者では認知機能への影響に注意)、ドロキシドパ(すくみ足・起立性低血圧)などが、病状に応じて使い分けられます。
  • 脳深部刺激療法(DBS): 視床下核や淡蒼球内節に電極を植え込み、持続的に電気刺激します。レボドパが効くにもかかわらず運動合併症が強い例や、薬で抑えにくい振戦が主な適応です。重度の認知症や精神症状がある場合は適応外となるため、専門施設での評価が必要です。
  • 持続注入療法・その他のデバイス治療: 胃瘻を通して空腸にレボドパ・カルビドパ配合経腸用液を持続投与する方法と、レボドパのプロドラッグ製剤を皮下に持続注入する方法があり、血中濃度を安定させて症状の変動を軽減します。薬物で抑えにくい振戦には、集束超音波治療などが行われる場合もあります。
  • リハビリテーション(理学・作業療法): ストレッチ、筋力・バランス訓練、有酸素運動、すくみ足に対する視覚・聴覚の手がかり(床の線、リズム音)を使った歩行訓練などがあり、全病期を通じて推奨されます。大きな動作を意識させるプログラムなども用いられます。
  • 言語聴覚療法・嚥下リハビリテーション: 大きな声を意識的に出す発声訓練、嚥下評価(嚥下造影・内視鏡)に基づく食形態の調整や姿勢指導を行い、誤嚥性肺炎の予防を図ります。
  • 非運動症状の対症療法: 便秘には食事指導と緩下薬、起立性低血圧には水分・塩分の調整と昇圧薬、抑うつには抗うつ薬や心理療法を用います。幻覚には誘因薬剤の整理を優先し、認知症にはコリンエステラーゼ阻害薬などを症状に応じて検討します。

パーキンソン病の予後・長期フォロー

レボドパ登場以前と比べて生命予後は大きく改善しました。現在の平均余命は一般人口と同程度か、やや短い程度とされています。死因として多いのは誤嚥性肺炎などの感染症で、病気そのものよりも、転倒・骨折、嚥下障害、認知症といった合併症が予後とQOLを左右します。発症から長期間にわたり就労や自立した生活を続ける人も多くいます。一方で、高齢発症、PIGD型、早期からの認知機能低下や自律神経障害がある場合は、進行が比較的速い傾向があるとされます。非運動症状は運動症状以上にQOLへ影響することがあるため、積極的に評価し、対応することが重要です。

長期フォローアップでは、定期的に運動症状と症状の日内変動(症状日誌の活用が有用)、非運動症状(便秘、排尿、起立性低血圧、睡眠、気分、認知機能、幻覚、衝動制御障害)、嚥下機能、転倒歴、骨密度、体重・栄養状態を確認します。薬の調整では、効果と副作用のバランスを見ながら、服薬時間やタンパク質摂取との関係にも配慮します。進行期には、デバイス補助療法の適応を適切な時期に検討することが大切です。療養環境の調整、介護サービスの導入、さらにアドバンス・ケア・プランニング(将来の医療やケアについての話し合い)も段階的に進めます。かかりつけ医、脳神経内科専門医、リハビリ職、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーが連携する多職種チームでの支援が理想です。

パーキンソン病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

運動は症状の改善と体力維持に有効と考えられています。ウォーキング、体操、太極拳、ダンスなど、安全で継続できる運動を日課にしましょう。転倒予防として、段差の解消、手すりの設置、足元の照明、滑りにくい履物などの住環境整備が役立ちます。すくみ足には、一度立ち止まる、リズムをとる、床の目印をまたぐなどの工夫が有効なことがあります。便秘対策には、十分な水分、食物繊維、規則正しい排便習慣が大切です。起立性低血圧がある場合は、急に立ち上がらず、入浴や食後に注意します。レボドパは高タンパク食で吸収が妨げられることがあるため、効果が不安定なときは食事内容や服薬のタイミングを主治医・薬剤師と相談します。薬の自己中断は悪性症候群の危険があるため避けてください。手術や入院、絶食の際も、内服継続について医療者に必ず伝えましょう。ドパミンアゴニストなどを内服中は突発的睡眠のおそれがあるため、自動車運転の可否を主治医と確認します。また、浪費や過度のギャンブルなど行動の変化に家族が気づいたら、早めに伝えることが大切です。家族歴がある場合や若年発症の場合は、遺伝カウンセリングを受けることで、遺伝の可能性や血縁者への影響について正確な情報を得られます。

利用できる制度・相談窓口

パーキンソン病は指定難病(告示番号6)に指定されています。Hoehn-Yahr重症度Ⅲ度以上かつ生活機能障害度2度以上の場合に、医療費助成の対象となります。この基準を満たさない軽症者でも、医療費が一定額を超える月が年3回以上ある場合は「軽症高額該当」として対象になることがあります。申請は住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行い、指定医による臨床調査個人票が必要です。パーキンソン病は介護保険の「特定疾病」に含まれるため、40〜64歳でも要介護認定を受けて介護保険サービスを利用できます。上記の重症度基準に該当する場合は、医療保険による訪問看護を週4日以上利用できるなどの制度上の配慮があります。障害者総合支援法の対象疾病でもあり、障害の程度に応じて身体障害者手帳(肢体不自由など)、障害年金、就労支援も利用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、患者・家族会(全国パーキンソン病友の会など)があります。

パーキンソン病に伴う心のケア・心理社会的支援

慢性に進行する病気と診断されることは大きな心理的負担になり、将来への不安、喪失感、適応障害を生じることがあります。それに加えてパーキンソン病では、脳内のドパミン・セロトニン・ノルアドレナリン系の変化そのものによって、抑うつ、不安、アパシー(意欲低下)が高い頻度で起こります。これらは「気の持ちよう」ではなく、病気の症状の一部です。オフ時に強い不安やパニックが出る「非運動性の症状変動」もあり、薬の調整で改善することがあります。表情が乏しく声が小さくなるため、本人の気持ちが周囲に伝わりにくく、誤解や孤立を招きやすい点も特有の課題です。働き盛りで発症した人では、仕事の継続や家庭内の役割の変化に関する悩みも大きくなります。介護する家族にも心身の負担が蓄積します。気分の落ち込みや不眠、意欲の低下が続く場合は、主治医に伝え、必要に応じて精神科・心療内科、臨床心理士(公認心理師)の支援を受けましょう。患者会での交流やレスパイトケアの活用も、本人と家族の支えになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

パーキンソン病の受診の目安

  • 片側の手足のふるえ、動作の遅さ、歩幅が狭くなるなどの症状が続く場合は、脳神経内科を受診しましょう。
  • 薬の効果が切れる時間が増えた、体が勝手に動く、幻覚や衝動的な行動がみられるなどの変化があれば、次回受診を待たずに主治医に相談しましょう。
  • 高熱とともに強い筋肉のこわばり、意識がもうろうとする、発汗が多いなどの症状がある場合(特に服薬中断や脱水の後)は、悪性症候群の可能性があるため救急受診が必要です。
  • 食事中のむせが増えた、発熱や咳・痰が続く場合は、誤嚥性肺炎の可能性があるため早めに受診してください。
  • 転倒して強い痛みがある、立てない、頭を打って意識や様子がおかしい場合は、速やかに医療機関を受診してください。
  • 立ち上がったときに意識が遠のく、失神する場合や、数日以上排便がなく腹部の張りや嘔吐がある場合も受診が必要です。

パーキンソン病についてのよくある質問

Q. パーキンソン病は遺伝しますか?

A. 大部分は遺伝性のない孤発性で、子どもに必ず遺伝するものではありません。若年発症や家族内に複数の患者がいる場合は遺伝性の可能性があるため、心配なときは遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

Q. レボドパは早く飲み始めると効かなくなると聞きました。

A. 現在では、レボドパの開始を遅らせても長期的な利点はないと考えられており、生活に支障があれば適切に治療を始めることが推奨されています。ウェアリング・オフやジスキネジアなどの運動合併症には、病気の進行に加えてレボドパの用量や罹病期間なども関係します。薬の量や組み合わせを調整することで対応できる場合が多いため、主治医と相談しながら治療を進めてください。

Q. 寝たきりになるまでどのくらいかかりますか?

A. 進行の速さには非常に大きな個人差があり、一概には言えません。適切な薬物療法とリハビリテーションにより、長年にわたり自立した生活や就労を続けている人も多くいます。

Q. 仕事や車の運転は続けられますか?

A. 症状が十分にコントロールされていれば、職場の理解や業務の調整を得て仕事を続ける人は多くいます。運転は、症状の程度や眠気を起こしうる薬の使用状況によって判断が必要なため、必ず主治医と相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。