IgA腎症

IgA Nephropathy

IgA腎症(IgA Nephropathy)|IgA腎症は、腎臓の糸球体に免疫グロブリンA(IgA)を含む免疫複合体が沈着して慢性の炎症を起こす糸球体腎炎で、日本を含む東アジアで最も多い原発性糸球体腎炎です。小児から高齢者まで発症しますが、10〜40歳代の若い世代に多く、健康診断や学校検尿で血尿・蛋白尿として見つかることが少なくありません。多くはゆっくり進行し、長い経過のなかで一部の患者さんが末期腎不全に至るため、早期診断と適切な治療、長期的な経過観察が重要です。

IgA腎症の要点

IgA腎症は、腎臓の糸球体のメサンギウム領域にIgAが沈着して慢性的な炎症を起こす糸球体腎炎で、日本で最も多い原発性糸球体腎炎です。健診の尿検査で見つかることが多く、持続する血尿と蛋白尿を示し、一部は末期腎不全に進行するため国の指定難病とされています。

別名・略称Berger病、IgAN、Berger's disease、原発性IgA腎症
分野腎・泌尿器疾患
好発年齢小児から高齢者まで。10〜40歳代に多い
主な症状持続する血尿・蛋白尿。かぜ後に肉眼的血尿が出ることがある
主な検査尿検査、血液検査(eGFR)、腎生検(蛍光抗体法でIgA沈着を確認)
主な治療RAS阻害薬、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術など。重症度に応じて選択
受診する主な診療科腎臓内科(小児は小児科・小児腎臓科)

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IgA腎症とは

IgA腎症は、腎生検の蛍光抗体法でメサンギウム領域(糸球体の毛細血管を支える部分)にIgAが優位に沈着し、光学顕微鏡ではメサンギウム細胞の増殖や基質の増加がみられる慢性糸球体腎炎です。紫斑病(IgA血管炎)、全身性エリテマトーデス、肝硬変などの全身疾患がないことを確かめたうえで、一次性(原発性)IgA腎症と診断されます。主な所見は持続する顕微鏡的血尿と蛋白尿で、かぜ症状の直後に肉眼的血尿(コーラ色・赤褐色の尿)が出ることもあります。IgA腎症は血液の病気ではなく腎臓の病気です。皮膚の紫斑や血小板の異常を特徴とするものではありません。初期には自覚症状がほとんどないため、検尿で異常を指摘された段階で腎臓専門医の評価を受けることが大切です。

本症は1968年にフランスのBergerとHinglaisが報告したため「Berger病」とも呼ばれます。病理学的評価には国際的なOxford分類(MEST-Cスコア)が広く使われます。メサンギウム細胞増多(M)、管内細胞増多(E)、分節性硬化(S)、尿細管萎縮・間質線維化(T)、細胞性・線維細胞性半月体(C)を評価する方法です。日本では、組織学的重症度(H-Grade)と臨床的重症度(C-Grade:尿蛋白量とeGFRで判定)を組み合わせて透析導入リスクを層別化する方法が「IgA腎症診療指針」や「エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2020」で用いられています。臨床像は、軽微な尿異常が続く例から、ネフローゼ症候群を呈する例、半月体形成を伴って急速に腎機能が低下する例まで幅があります。IgA血管炎に伴う腎炎(紫斑病性腎炎)とは病理所見が非常に似ており、同じ病態の一連の病気と考える見方もあります。

IgA腎症の疫学・患者数

IgA腎症は世界で最も多い原発性糸球体腎炎で、頻度には地域差があり、日本・中国・韓国などの東アジアで多く、欧米では比較的少なく、アフリカ系の人々ではまれとされています。日本の腎生検レジストリーでは、原発性糸球体疾患のなかでIgA腎症の割合が最も高く、腎生検で診断される疾患全体のおよそ3割前後を占めると報告されています。国内の患者数は数万人規模(約3万人台とする推計がある)とされますが、無症状のまま未診断の人も多いと考えられ、実際の有病者はさらに多い可能性があります。発症(発見)年齢は小児期から高齢期まで幅広く、学童期と20〜40歳代に多くみられます。日本では学校検尿と職場・地域の健診が整っているため、無症候性の尿異常の段階で見つかる例が多いのが特徴です。性差について、欧米では男性に多いとされ、日本では男女差は大きくないか、やや男性に多いとする報告があります。家族内発症の例も知られていますが、大部分は孤発例です。

IgA腎症の原因・病態生理

IgA腎症の原因は完全には解明されていませんが、現在は「マルチヒット仮説(4-hit仮説)」で説明されることが多くなっています。第1段階は、IgA1分子のヒンジ部にあるO型糖鎖でガラクトースが欠損した異常なIgA1(糖鎖異常IgA1、Gd-IgA1)が血中で増えることです。第2段階では、このGd-IgA1を抗原として認識するIgGやIgAの自己抗体がつくられます。第3段階で両者が結合して大きな免疫複合体ができ、第4段階でこれがメサンギウムに沈着して炎症と組織障害を引き起こします。Gd-IgA1は扁桃や腸管などの粘膜免疫系で産生されると考えられており、上気道感染や腸管の感染・炎症が病勢に影響すること、扁桃摘出が治療として行われることも、この粘膜免疫との関係から理解されています。遺伝的な素因も関わっており、ゲノムワイド関連解析ではHLA領域、補体関連遺伝子(CFHR群など)、粘膜免疫やIgA産生に関わる複数の遺伝子領域が感受性に関係することが報告されています。ただし、単一の遺伝子変異で起こる遺伝病ではなく、多くの遺伝要因と環境要因が重なって発症する多因子疾患と考えられています。

メサンギウムに沈着した免疫複合体は、メサンギウム細胞を刺激して細胞増殖と細胞外基質の産生を促し、IL-6やTGF-β、PDGFなどのサイトカイン・増殖因子や炎症性メディエーターを放出させます。補体系も重要な役割を担い、沈着部位には補体C3がしばしば同時に検出されます。主に第二経路(副経路)とレクチン経路が活性化されると考えられ、レクチン経路の活性化を示す所見がある例は予後が悪い傾向にあるとの報告があります。炎症が糸球体毛細血管に及ぶと管内増殖や係蹄壊死が起こり、ボウマン嚢内に半月体が形成されて糸球体ろ過が損なわれます。さらに蛋白尿そのものが尿細管上皮細胞に負担をかけ、尿細管間質の炎症と線維化を進めます。残った糸球体には過剰なろ過(糸球体過剰濾過)がかかり、高血圧とあわせて分節性硬化から全節性硬化へ進行します。この「免疫学的な炎症」と「血行動態・蛋白尿による非免疫学的な進行」の両方を抑えることが治療の基本的な考え方になります。

IgA腎症の症状

  • 顕微鏡的血尿: 最も多い所見で、肉眼では分からず尿検査で潜血陽性として見つかります。尿沈渣では糸球体由来の変形赤血球や赤血球円柱がみられます。
  • 蛋白尿: 尿に蛋白が漏れ出る状態で、その量は腎予後と強く関係する重要な指標です。持続する蛋白尿は進行のサインとして治療方針の決定に用いられます。
  • 肉眼的血尿(感染同時性): かぜや扁桃炎などの上気道感染の直後(多くは発熱と同時か1〜3日以内)に、コーラ色や赤褐色の尿が出ることがあります。小児や若年者に比較的多くみられます。
  • 泡立つ尿: 蛋白尿が多くなると、尿の泡が消えにくくなることがあります。気づいたら尿検査で確認することが大切です。
  • 高血圧: 腎障害の進行とともに高血圧を合併しやすくなり、高血圧はさらに腎障害を悪化させる要因となります。頭痛などの自覚症状がないことも多く、家庭血圧の測定が役立ちます。
  • むくみ(浮腫): 蛋白尿が多い場合や腎機能が低下した場合に、まぶたや下肢にむくみが出ることがあります。一部の患者さんはネフローゼ症候群の状態になります。
  • 腰背部痛・側腹部の違和感: 肉眼的血尿の時期などに、腎臓の腫れによる鈍い腰痛や側腹部痛を訴えることがあります。
  • 急性腎障害による尿量減少: 肉眼的血尿に伴って赤血球円柱が尿細管を詰まらせたり、半月体形成性の腎炎になったりして、急に腎機能が低下することがあります。まれですが、急いで評価する必要があります。
  • 全身倦怠感・疲れやすさ: 慢性腎臓病が進むと、腎性貧血や老廃物の蓄積によってだるさや息切れが出てきます。初期にはほとんど自覚されません。
  • 無症状: 多くの患者さんは自覚症状がまったくなく、健診や学校検尿で偶然見つかります。症状がないことは軽症であることを意味しない点に注意が必要です。

IgA腎症の経過と合併症

IgA腎症の経過は人によって大きく異なります。血尿だけ、あるいはごく軽い蛋白尿だけの状態が長く続き、腎機能がほとんど低下しない例もあれば、数年から数十年かけて少しずつ腎機能が低下し、末期腎不全に至る例もあります。かつては「良性の腎炎」と考えられていましたが、長期の追跡研究から、治療しなければ診断後20年でおよそ3〜4割が末期腎不全に至るとの報告があり、決して軽視できない病気であることが分かっています。進行の危険因子として、持続する蛋白尿(特に1日0.5〜1g以上)、診断時の腎機能低下、高血圧、腎生検での強い硬化・尿細管間質線維化(Oxford分類のS・T病変)、半月体形成などが知られています。一方、蛋白尿が治療によって十分に減少し、それが維持された場合には、腎予後が大きく改善することが示されています。小児例は成人例より予後がよいとされますが、重症の組織所見を持つ小児例もあり、個別の評価が必要です。

主な合併症は慢性腎臓病(CKD)の進行に伴うもので、高血圧、腎性貧血、電解質異常(高カリウム血症など)、代謝性アシドーシス、CKDに伴う骨ミネラル代謝異常、脂質異常症などがあります。CKDは心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患の重要な危険因子であり、生命予後に関わります。蛋白尿が多い場合はネフローゼ症候群に伴う浮腫、脂質異常、血栓症に注意が必要です。まれに半月体形成を伴って急速進行性糸球体腎炎の経過をとることがあります。また、治療に用いるステロイドや免疫抑制薬による感染症、糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍、白内障・緑内障なども臨床上大切な合併症です。妊娠では、腎機能低下や高血圧がある場合に妊娠高血圧症候群や腎機能悪化のリスクが高くなるとされます。

IgA腎症の診断・診断基準

IgA腎症は、検尿で持続的な血尿(特に変形赤血球を伴う糸球体性血尿)と蛋白尿を指摘されたことをきっかけに疑われます。血液検査で血清IgA高値がみられることがありますが、血液検査や尿検査だけで確定診断することはできません。確定診断には腎生検が必要で、蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA優位の沈着を確認し、IgA血管炎、ループス腎炎、肝硬変に伴うIgA沈着などの二次性の原因を除外します。腎生検の適応は、尿蛋白の量(例えば1日0.5g前後以上が目安とされることが多い)、腎機能、血尿の持続、年齢や合併症などを総合して腎臓専門医が判断します。診断後は、組織所見と臨床所見を組み合わせて将来の腎機能低下リスクを評価し、治療方針を決めます。日本の指定難病の医療費助成では、腎生検による診断に加え、CKD重症度分類などに基づく重症度基準を満たすことが要件となります。

  • 尿検査(定性・沈渣): 尿潜血と尿蛋白を確認し、尿沈渣で変形赤血球(糸球体性赤血球)や赤血球円柱を確認します。持続的な顕微鏡的血尿はIgA腎症の基本となる所見です。
  • 尿蛋白定量(尿蛋白/クレアチニン比、24時間蓄尿): 1日あたりの蛋白尿量を推定・測定し、重症度判定、治療適応の判断、治療効果の評価に用います。予後予測に最も重要な指標の一つです。
  • 血清IgA・IgA/C3比: 成人患者の約半数で血清IgAが高値(目安として315 mg/dL以上)を示すとされ、IgA/C3比の上昇も診断の参考になります。ただし正常値でもIgA腎症は否定できません。
  • 腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR): 腎機能を評価し、CKDの病期分類と臨床的重症度の判定に用います。経時的な変化(eGFRの低下速度)は予後を判断する重要な情報です。
  • 腎生検(光学顕微鏡・蛍光抗体法・電子顕微鏡): 蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA優位の顆粒状沈着(しばしばC3を伴う)を確認して確定診断します。電子顕微鏡ではメサンギウム領域の高電子密度沈着物がみられます。
  • Oxford分類(MEST-Cスコア): 腎生検の病理所見をM・E・S・T・Cの5項目で評価する国際分類で、腎予後予測に用いられます。臨床情報と組み合わせた国際的な予後予測ツールもあります。
  • 日本の組織学的重症度・透析導入リスク層別化: 急性病変と慢性病変を持つ糸球体の割合で組織学的重症度(H-Grade I〜IV)を判定し、臨床的重症度(C-Grade)と組み合わせて低・中等・高・超高リスクに層別化します。治療強度の判断材料になります。
  • 二次性IgA沈着の除外検査: 抗核抗体・補体、肝機能、腹部超音波、消化器症状の評価などで、ループス腎炎、肝硬変、炎症性腸疾患などに伴う二次性のIgA沈着を除外します。皮膚の紫斑などの全身症状の有無も確認します。
  • 腹部超音波検査: 腎臓の大きさや形を確認し、腎生検の安全性評価や、結石・腫瘍・嚢胞など血尿の泌尿器科的原因の除外に役立ちます。慢性化が進むと腎臓が小さくなり、皮質が薄くなります。

IgA腎症と鑑別すべき疾患

  • IgA血管炎(紫斑病性腎炎): 腎病理はIgA腎症とほぼ同じですが、下肢の触知可能な紫斑、関節痛、腹痛などの全身症状を伴う点で区別します。
  • 急性糸球体腎炎(溶連菌感染後糸球体腎炎など): 感染から1〜3週間の潜伏期をおいて血尿が出現し、一過性の低補体血症(C3低下)を伴う点が、感染直後に血尿が出るIgA腎症と異なります。
  • 菲薄基底膜病・アルポート症候群: 持続的な血尿を示しますが、家族歴、感音難聴や眼病変の有無、腎生検の電子顕微鏡による糸球体基底膜の異常で区別し、遺伝学的検査が参考になります。
  • ループス腎炎: 蛍光抗体法でIgG・IgA・IgM・C3・C1qがそろって沈着し(フルハウス)、抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性や低補体血症などの全身所見を伴います。
  • ANCA関連血管炎・抗GBM病による急速進行性糸球体腎炎: 急速な腎機能低下と半月体形成を示し、ANCAや抗GBM抗体の陽性、免疫沈着が乏しい(pauci-immune型)または線状沈着の病理所見で区別します。
  • 泌尿器科的血尿(尿路結石・膀胱がん・腎がんなど): 変形のない均一な赤血球(非糸球体性血尿)が主体で蛋白尿や赤血球円柱を伴わず、画像検査や尿細胞診、膀胱鏡で原因を確認します。

IgA腎症の治療

IgA腎症の治療目標は、腎機能の低下を防いで末期腎不全への進行を回避または遅らせることです。治療の効果判定には主に蛋白尿の減少(国際的なガイドラインでは可能な限り低く、例えば1日0.5g未満を目標とすることが示されています)と、血尿の消失、腎機能の安定が用いられます。治療は大きく二本柱からなります。一つは、すべての患者さんに共通する支持療法で、血圧管理、レニン・アンジオテンシン系(RA系)阻害薬による蛋白尿の抑制、SGLT2阻害薬、減塩、禁煙、体重・脂質管理などを含みます。もう一つは、炎症が活動的で進行リスクが高い患者さんに行う免疫抑制的治療で、副腎皮質ステロイドや、日本で広く行われている扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用(扁摘パルス療法)などがあります。どの治療を選ぶかは、尿蛋白量、腎機能、腎生検所見、年齢、合併症、妊娠の希望などによって異なり、副作用とのバランスを考える必要があります。治療方針は腎臓専門医とよく相談して決めてください。

  • RA系阻害薬(ACE阻害薬・ARB): 糸球体内の圧を下げて蛋白尿を減らし、腎機能低下を遅らせる、支持療法の中心となる薬です。高カリウム血症や一時的なeGFR低下に注意して用量を調整し、妊娠中は禁忌のため、妊娠を希望する場合は事前に相談が必要です。
  • SGLT2阻害薬: IgA腎症を含む慢性腎臓病の患者を対象とした大規模臨床試験で腎機能低下を抑える効果が示され、日本でも慢性腎臓病に対して用いられています。RA系阻害薬との併用で、支持療法の重要な選択肢となっています。
  • 副腎皮質ステロイド(経口・ステロイドパルス療法): 十分な支持療法を行っても蛋白尿が続き、活動性の炎症がある場合などに検討されます。蛋白尿を減らす効果が示される一方で、感染症や糖尿病などの副作用が問題となるため、適応と用量は慎重に判断されます。
  • 扁桃摘出術+ステロイドパルス療法: 扁桃が異常なIgA1の産生に関与するという考えに基づき、日本で多く行われている治療法で、尿所見の寛解率を高めることを示した国内の研究があります。欧米では標準治療として確立していないなど評価は分かれており、適応は専門医と相談して決めます。
  • 免疫抑制薬: 半月体形成を伴う急速進行例ではシクロホスファミドなどが併用されることがあり、ほかにミゾリビンやミコフェノール酸モフェチルなどが検討される場合もあります。保険適用やエビデンスの程度は薬剤ごとに異なるため、個別に判断されます。
  • 抗血小板薬・魚油(n-3系脂肪酸): 国内ではジラゼプやジピリダモールなどの抗血小板薬が蛋白尿の減少を目的に用いられることがありますが、効果の根拠は限定的とされます。魚油についても効果は一定していません。
  • 小児の治療: 軽症例はRA系阻害薬を中心に治療し、重症例ではステロイドと免疫抑制薬などを組み合わせた多剤併用療法が行われることがあります。成長や学校生活への影響に配慮して、小児腎臓専門医が管理します。
  • 新規治療薬: 腸管粘膜の免疫を標的とするブデソニド製剤、エンドセリン受容体とアンジオテンシン受容体の二重拮抗薬、補体阻害薬、APRIL・BAFFを標的とする抗体薬などが開発され、一部は海外で承認されています。国内での承認状況は薬剤ごとに異なり、多くは未承認または開発段階のため、最新情報は主治医に確認してください。
  • 腎代替療法(透析・腎移植): 末期腎不全に至った場合は、血液透析、腹膜透析、腎移植から選択します。移植後に移植腎でIgA沈着が再発することは珍しくありませんが、移植腎を失う原因になるのは一部であり、IgA腎症は腎移植の妨げにはなりません。

IgA腎症の予後・長期フォロー

IgA腎症そのものが直接命に関わることは少ないものの、腎予後は人によって大きく異なります。診断時の尿蛋白が少なく、腎機能と血圧が正常で、組織の慢性病変が軽い場合は長期にわたり良好な経過をとることが多い一方、蛋白尿が多い、腎機能がすでに低下している、組織で硬化や線維化が強いといった場合は、末期腎不全に進むリスクが高くなります。近年は、RA系阻害薬やSGLT2阻害薬による支持療法の充実、早期発見と早期治療、扁摘パルス療法などの普及によって、寛解(血尿・蛋白尿の消失)に至る患者さんも増えています。生命予後については、慢性腎臓病に伴う心血管疾患のリスクが主に関わるため、腎臓だけでなく全身の動脈硬化の危険因子を管理することが大切です。透析や移植が必要になっても、適切な管理によって仕事や家庭生活を続けている人は多くいます。

IgA腎症は再燃や緩やかな進行がありうる慢性疾患のため、寛解した後も長期的な経過観察が欠かせません。定期受診では、尿検査(血尿・蛋白尿)、尿蛋白/クレアチニン比、血清クレアチニン・eGFR、カリウムなどの電解質、血圧を確認し、治療中は薬の副作用(血糖、骨密度、感染症、眼の合併症など)も評価します。上気道感染の後に肉眼的血尿が出たり、蛋白尿が再び増えたりした場合は、治療を見直す必要があることがあります。腎機能が低下してきた段階では、腎性貧血や骨ミネラル代謝異常の管理、そして透析・移植といった腎代替療法についての情報提供と準備(療法選択)を早めに行います。小児期に発症した患者さんは、成人診療科への移行(トランジション)を計画的に進めることが大切です。

IgA腎症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、腎臓を守る生活習慣が治療の土台になります。減塩(目安として1日6g未満が推奨されることが多い)は血圧と蛋白尿の管理に役立ちます。たんぱく質の制限やカリウム制限が必要かどうかは腎機能の程度によって変わるため、自己判断で極端な食事制限をせず、主治医や管理栄養士と相談してください。禁煙、適正体重の維持、十分な睡眠、適度な運動がすすめられます。運動制限が必要になることはまれで、現在は過度な安静よりも体力の維持が重視されています。かぜや扁桃炎が肉眼的血尿のきっかけになることがあるため、手洗いやうがい、ワクチン接種(特にステロイドや免疫抑制薬を使っている場合は、インフルエンザや肺炎球菌などについて主治医に相談)が大切です。市販の鎮痛薬(NSAIDs)は腎機能を悪化させることがあるため、使う前に医師・薬剤師に確認しましょう。家庭血圧を測って記録しておくと、受診時に役立ちます。妊娠・出産を希望する場合は、腎機能と血圧が安定している時期を選ぶこと、RA系阻害薬などの薬を事前に調整することが重要なので、計画の段階から主治医に相談してください。IgA腎症は単一遺伝子による遺伝病ではなく、子どもに必ず遺伝するものではありません。ただし家族内で発症する例もあるため、血縁者に血尿や蛋白尿が見つかった場合は検査を受けることがすすめられます。気になる場合は遺伝カウンセリングの窓口で相談することもできます。

利用できる制度・相談窓口

IgA腎症は指定難病(告示番号66)に指定されており、腎生検で確定診断され、CKD重症度分類に基づく重症度基準などを満たす場合には、医療費助成(特定医療費)を受けることができます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定額を超える月が年3回以上ある場合は「軽症高額該当」として対象となることがあります。申請は住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行い、難病指定医による臨床調査個人票が必要です。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)の患者さんは小児慢性特定疾病の医療費助成の対象となりうる疾患です。腎機能が低下した場合は、身体障害者手帳(じん臓機能障害)の対象となることがあり、透析を受ける場合は特定疾病療養受療証(長期高額疾病)によって自己負担に上限が設けられるほか、自立支援医療(更生医療・育成医療)が利用できることがあります。腎機能障害の程度によっては障害年金の対象になる場合もあります。そのほか、高額療養費制度も利用できます。療養生活や就労の相談には、各都道府県の難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなどの窓口があり、腎臓病の患者会から体験に基づく情報を得ることもできます。

IgA腎症に伴う心のケア・心理社会的支援

IgA腎症は、多くの場合自覚症状がないまま健診で見つかるため、「元気なのに難病と言われた」という戸惑いや、「いつか透析になるのでは」という将来への不安を抱きやすい病気です。発症が10〜40歳代に多いことから、進学、就職、結婚、妊娠・出産といった人生の大切な時期と診断・治療が重なりやすく、扁桃摘出や入院を伴うステロイドパルス療法のための休学・休職、ステロイドによる体型の変化や気分の変動、感染への気がかりが、心理的・社会的な負担となることがあります。長期の通院や定期的な尿検査の結果に一喜一憂して、気持ちが疲れてしまう人も少なくありません。不安や落ち込みが続く、眠れない、仕事や学業に集中できないといった状態は、抑うつや適応障害のサインのこともあります。こうした気持ちは決して特別なものではありません。主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーに率直に伝え、必要に応じて心療内科・精神科やカウンセリングを利用してください。同じ病気の患者さんの体験を聞くことや、家族や職場に病気について正しく理解してもらうことも、孤立を防ぐ助けになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

IgA腎症の受診の目安

  • 健診や学校検尿で血尿や蛋白尿を指摘されたときは、症状がなくても内科・腎臓内科(小児は小児科)を受診してください。
  • かぜや扁桃炎の後にコーラ色・赤褐色の尿が出たときは、早めに受診してください。
  • 尿の量が急に減った、全身のむくみが急に強くなった、体重が短期間で増えたときは、速やかに受診してください。
  • 強い息苦しさ、意識がぼんやりする、けいれん、極端な高血圧(強い頭痛や視界の異常を伴う場合など)があるときは、救急受診を検討してください。
  • ステロイドや免疫抑制薬を使用中に38℃以上の発熱や強い倦怠感が出たときは、感染症の可能性があるため主治医に連絡してください。
  • 治療中に妊娠が分かった、または妊娠を希望するときは、内服薬の調整が必要なことがあるため早めに主治医に相談してください。

IgA腎症についてのよくある質問

Q. IgA腎症と診断されたら、必ず透析になるのですか?

A. いいえ、必ず透析になるわけではありません。血尿だけ、あるいは軽い蛋白尿だけの状態が長く続く人も多く、適切な治療によって寛解に至る人もいます。蛋白尿の量や腎機能、腎生検の所見から将来のリスクを評価し、それに応じた治療を行うことが大切です。

Q. 扁桃を摘出すれば治るのですか?

A. 扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用は、日本で多く行われ、尿所見の改善が報告されている治療法です。ただし、すべての患者さんに必要な治療ではなく、効果にも個人差があり、海外では評価が分かれています。病状や生活状況を踏まえて、腎臓専門医とよく相談して決めてください。

Q. 食事制限や運動制限はどのくらい必要ですか?

A. 減塩はほとんどの患者さんにすすめられます。一方、たんぱく質やカリウムの制限が必要かどうかは腎機能によって異なるため、自己判断で極端に制限しないことが大切です。運動は、腎機能が大きく低下していなければ、適度に続けることが一般的にすすめられています。

Q. 子どもに遺伝しますか?妊娠・出産はできますか?

A. IgA腎症は多くの遺伝要因と環境要因が関わる病気で、親から子へ必ず遺伝するものではありませんが、家族内で発症する例もあります。妊娠・出産は、腎機能と血圧が安定していれば可能なことが多いものの、リスクは病状によって異なり、内服薬の調整も必要です。妊娠を考え始めた段階で主治医に相談してください。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。