特発性大腿骨頭壊死症
Idiopathic Osteonecrosis of the Femoral Head
特発性大腿骨頭壊死症(Idiopathic Osteonecrosis of the Femoral Head)|特発性大腿骨頭壊死症は、明らかな外傷などの原因がないまま、大腿骨の先端にある球状の骨頭(股関節の「玉」の部分)への血流が途絶え、骨の一部が死んでしまう病気です。働き盛りの30〜50歳代に多く、副腎皮質ステロイドの全身投与歴やアルコール多飲との関連が知られています。壊死した部分がつぶれる(圧潰する)と強い股関節痛や歩行障害が生じ、仕事や家庭生活に大きく影響することがあります。
特発性大腿骨頭壊死症の要点
特発性大腿骨頭壊死症は、外傷などの明らかな原因がないまま大腿骨頭への血流が途絶えて骨が壊死する病気で、壊死部が圧潰すると強い股関節痛や歩行障害が生じます。ステロイド全身投与やアルコール多飲との関連が知られ、指定難病(告示番号71)です。
| 別名・略称 | 大腿骨頭壊死症、大腿骨頭壊死、大腿骨頭無腐性壊死、ONFH、avascular necrosis of the femoral head、AVN |
|---|---|
| 分野 | 骨・関節・結合組織疾患 |
| 好発年齢 | 30〜50歳代に多い |
| 主な症状 | 壊死のみでは無症状が多く、圧潰後に股関節痛・歩行障害 |
| 関連因子 | ステロイド全身投与歴、アルコール多飲など |
| 主な検査 | 単純X線、MRI |
| 主な治療 | 保存療法、骨切り術などの関節温存手術、人工股関節置換術 |
| 受診する主な診療科 | 整形外科 |
特発性大腿骨頭壊死症とは
特発性大腿骨頭壊死症(idiopathic osteonecrosis of the femoral head: ONFH)は、大腿骨頭の一部が阻血(血流障害)により壊死する非外傷性の疾患です。指定難病(告示番号71)に指定されています。ここで大切なのは、「骨壊死が起きた時点」と「症状が出た時点」は一致しないことです。骨壊死そのものは痛みを起こさないことが多く、壊死部が体重を支えきれずに圧潰したときに初めて痛みが出ます。そのため、壊死の発生から数か月〜数年たって発症することも珍しくありません。また、壊死範囲が小さい場合や、荷重がかかりにくい部位にある場合は、生涯圧潰せず無症状のまま経過することもあります。本疾患は骨・関節の阻血性疾患であり、診断は画像検査を中心に行います。遺伝子検査は診断に用いません。
病因との関連から、ステロイド関連、アルコール関連、および明らかな関連因子のない狭義の特発性に大別されます。一方、外傷(大腿骨頸部骨折や外傷性股関節脱臼)、潜水などによる減圧症、骨盤部への放射線照射など、原因が明らかな骨壊死は「症候性(二次性)骨壊死」として本疾患には含めません。小児のペルテス病も別の疾患です。日本では厚生労働省の特発性大腿骨頭壊死症調査研究班が中心となり、診断基準、病期分類(Stage 1〜4)、病型分類(Type A〜C)が整備されてきました。これらは治療方針の決定と予後予測に広く使われています。治療面では、日本で考案された大腿骨頭回転骨切り術など、関節を温存する手術が独自に発展してきた歴史があります。
特発性大腿骨頭壊死症の疫学・患者数
日本の全国疫学調査では、年間の新規患者数はおおむね2,000人台と推計されており、指定難病の医療費助成を受けている人も相当数にのぼります。男性にやや多く、発症年齢のピークは男性で40歳代、女性では30歳代と60歳代に山があると報告されています。関連因子の内訳は報告によって異なりますが、ステロイド全身投与歴のある例が最も多く(全体の半数前後)、次いでアルコール多飲歴のある例が多いとされます。男性ではアルコール関連、女性ではステロイド関連の割合が高い傾向です。ステロイド関連例の基礎疾患としては、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、ネフローゼ症候群、臓器移植後、炎症性腸疾患、血液疾患などが代表的です。両側の股関節に発生する例が約半数以上とされ、膝・肩・足関節など他の部位にも骨壊死を伴う「多発性骨壊死」を示す例もあります。喫煙も危険因子の一つとして報告されています。
特発性大腿骨頭壊死症の原因・病態生理
本疾患の根本は、大腿骨頭への血流が途絶えることによる骨組織の壊死です。大腿骨頭は、主に内側大腿回旋動脈から分かれる細い血管で栄養されています。側副血行に乏しいため、もともと虚血に弱い構造をしています。ステロイドやアルコールがなぜ骨壊死を引き起こすのか、その機序は完全には解明されていません。現在、次のような仮説が複合的に関与すると考えられています。①脂質代謝異常に伴う骨髄内脂肪細胞の肥大や脂肪塞栓、②骨髄内圧の上昇(骨内高血圧)による微小循環の障害、③血管内皮障害と凝固能亢進(血栓形成傾向)、④骨細胞のアポトーシス(細胞死)の直接誘導。遺伝的背景としては、薬物代謝や脂質・凝固に関わる遺伝子多型などがステロイドへの感受性に関与する可能性が研究されています。ただし、単一の原因遺伝子による遺伝病ではなく、親から子へ遺伝する疾患とは考えられていません。
ステロイド関連例では、高用量のステロイド全身投与開始後、比較的早期(数か月以内)に骨壊死が生じることが多いとされます。そのため、症状が出る時期よりかなり前に壊死が成立していると考えられます。壊死が起きると、周囲の生きた骨との境界に肉芽組織や新しい骨が形成され、修復反応層ができます。これが画像上の「帯状硬化像」や、MRIでの「帯状低信号域(バンド像)」に相当します。しかし、壊死部の内部まで修復が及ぶことはまれです。荷重による微小骨折が壊死部と修復層の境界(軟骨下)に生じると、骨頭が陥没します(圧潰)。圧潰は、壊死範囲が広いほど、また臼蓋(骨盤側の受け皿)の荷重面にかかるほど起こりやすくなります。圧潰が進むと、骨頭の変形により関節軟骨がすり減り、二次性の変形性股関節症へと進行します。
特発性大腿骨頭壊死症の症状
- 急に始まる股関節痛: 骨頭が圧潰した時期に一致して、ある日突然に股関節の痛みが出ることが多いのが特徴です。痛みは数週間で一時的に軽くなることもありますが、それで治ったわけではありません。
- 鼠径部(脚の付け根)の痛み: 股関節の前面、脚の付け根付近に痛みを感じるのが典型的です。歩き始めや立ち上がり時に強くなります。
- 臀部・大腿部・膝の痛み(関連痛): 股関節の痛みが太ももや膝に響いて感じられることがあります。そのため膝の病気や腰の病気と誤認されることがあります。
- 跛行(足を引きずる歩き方): 痛みをかばう歩き方や、関節変形による歩行の乱れが見られます。長距離の歩行が難しくなります。
- 股関節の可動域制限: 特に内旋(脚を内側にひねる動き)や外転、屈曲が制限されます。進行すると、靴下の着脱や足の爪切りが困難になります。
- 荷重時痛・階段昇降時の痛み: 体重をかけたときに痛みが強まり、階段や坂道、長時間の立ち仕事がつらくなります。
- 安静時痛・夜間痛: 圧潰直後や進行例では、じっとしていても痛む、夜間に痛みで目が覚めることがあります。
- 脚長差(脚の長さの違い): 骨頭の陥没や変形が進むと、患側の脚が短くなり、歩行のバランスが崩れます。
- 両側性の症状: 両側に壊死がある例が多く、片側の症状が出たあと、時期を隔てて反対側に痛みが出ることがあります。
- 無症状(画像でのみ発見): 圧潰前は無症状のことが多く、反対側の検査や、ステロイド治療中のMRIで偶然見つかる場合があります。
特発性大腿骨頭壊死症の経過と合併症
病期は厚生労働省研究班の分類で表されます。Stage 1は単純X線では異常がなく、MRI・骨シンチグラフィー・病理で所見がある段階です。Stage 2はX線で帯状硬化像があるものの、骨頭の圧潰はない段階です。Stage 3は骨頭が圧潰しているが関節裂隙は保たれている段階で、圧潰が3mm未満を3A、3mm以上を3Bとします。Stage 4は関節裂隙の狭小化など変形性関節症の変化が出た段階です。予後を左右するのは壊死範囲と位置を示す病型分類です。荷重面の内側1/3未満にとどまるType A、内側1/3〜2/3のType B、2/3以上に及ぶType C(臼蓋縁を越えないC1、越えるC2)に分けられます。Type A・Bは圧潰しにくく、自然経過で無症状のまま推移することも少なくありません。一方、Type C、とくにC2は高率に圧潰へ進むことが知られています。壊死範囲そのものは発生後に広がることは少ないとされます。経過を決めるのは「範囲が拡大するか」ではなく、「圧潰が起きるか、どこまで進むか」です。
主な合併症は、骨頭圧潰の進行による二次性変形性股関節症です。慢性的な痛みや可動域制限、脚長差による腰痛や反対側の関節への負担も生じます。両側例では歩行能力の低下がより顕著になります。膝(大腿骨顆部)、肩(上腕骨頭)、足関節(距骨)などにも骨壊死を合併することがあり、ステロイド関連例で多い傾向があります。基礎疾患がある場合、その病勢やステロイド治療の継続が全身状態や手術時期に影響します。手術後の合併症として、人工関節では脱臼、感染、ゆるみ、摩耗、静脈血栓塞栓症などが、骨切り術では骨癒合の遅れや術後の圧潰進行などが知られています。
特発性大腿骨頭壊死症の診断・診断基準
診断は、問診(ステロイド投与歴、飲酒歴、喫煙歴、基礎疾患)と診察から本疾患を疑い、画像検査で確定するのが基本です。厚生労働省研究班の診断基準では、次の5項目のうち2項目以上を満たせば確定診断とされます。①単純X線での骨頭圧潰または軟骨下骨折線(crescent sign)、②単純X線での骨頭内の帯状硬化像、③骨シンチグラフィーでの骨頭内の「cold in hot」像、④MRI T1強調像での骨頭内の帯状低信号域、⑤骨生検での修復反応層を伴う骨壊死層。ただし、X線所見は Stage 2 以上でないと出ないため、早期診断にはMRIが最も有用です。腫瘍や腫瘍類似疾患、骨端異形成症は除外する必要があります。外傷、減圧症、放射線照射などに伴う症候性骨壊死は本疾患に含めません。片側の診断がついた場合は、反対側の股関節も無症状であってもMRIで確認するのが一般的です。血液検査には本疾患に特異的なマーカーはありません。基礎疾患の評価や、感染症など他疾患の除外の目的で行います。
- 単純X線(股関節正面・側面像): 帯状硬化像、軟骨下骨折線(crescent sign)、骨頭の陥没や関節裂隙の狭小化を評価し、病期を決定します。圧潰の初期は正面像でわかりにくく、側面像で初めて確認できることがあります。
- MRI: T1強調像で壊死部を取り囲む帯状低信号域(バンド像)が特徴的で、X線で異常がない早期でも検出できます。壊死範囲と位置から病型(Type A〜C)を判定でき、治療方針の決定に最も重要な検査です。
- 骨シンチグラフィー: 壊死部が集積欠損(cold)となり、その周囲の修復反応部に集積増加(hot)を示す「cold in hot」像が診断基準の一項目です。全身の多発性骨壊死の検索にも用いられます。
- CT: 軟骨下骨折や圧潰の程度、硬化像の範囲を詳細に把握できます。骨切り術などの手術計画で、健常部の範囲を評価するのに役立ちます。
- 骨生検・病理組織検査: 骨壊死層と修復反応層を組織学的に確認するもので、診断基準の一項目です。実際には手術時に採取された標本で確認されることが多く、診断のみを目的として行うことはまれです。
- 厚生労働省研究班の診断基準: 上記5項目のうち2項目以上で確定診断とします。腫瘍・骨端異形成症の除外と、症候性骨壊死の除外が必要です。指定難病の申請にもこの基準が用いられます。
- 病期分類・病型分類: 病期分類(Stage 1〜4)で進行度を、病型分類(Type A、B、C1、C2)で圧潰のリスクを評価します。両者を組み合わせて、経過観察か手術かを判断します。
- 股関節機能評価(日本整形外科学会股関節機能判定基準など): 疼痛、可動域、歩行能力、日常生活動作を点数化して評価します。治療効果の判定や重症度の把握に用いられます。
- 血液検査: 本疾患に特異的なマーカーはありません。脂質、肝機能、炎症反応、凝固系などで、基礎疾患や飲酒の影響を評価し、感染症など他疾患を除外する目的で行います。
特発性大腿骨頭壊死症と鑑別すべき疾患
- 変形性股関節症: 臼蓋形成不全を背景とすることが多く、MRIで帯状低信号域を伴う骨頭壊死の所見がない点で区別されます。
- 大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折: 高齢女性や骨粗鬆症例に多い病態です。MRIで骨折線が関節面に平行かつ凸に走り、骨髄浮腫を伴う点が、壊死を取り囲むバンド像と異なります。
- 一過性大腿骨頭萎縮症(一過性骨粗鬆症): MRIで骨頭から頸部にびまん性の骨髄浮腫を示し、帯状低信号域を欠きます。多くは数か月で自然軽快します。
- 化膿性股関節炎・骨髄炎: 発熱、炎症反応の上昇、関節液の混濁や細菌培養陽性を示し、急速に関節が破壊されることがあるため、早急な鑑別が必要です。
- 骨腫瘍・転移性骨腫瘍: 診断基準で除外が求められる疾患です。MRIやCTで腫瘤性病変や骨破壊のパターンを確認し、必要に応じて生検を行います。
- 症候性(二次性)大腿骨頭壊死: 大腿骨頸部骨折や股関節脱臼などの外傷、減圧症、放射線照射後などの明確な原因がある場合は、本疾患には含まれません。
特発性大腿骨頭壊死症の治療
治療方針は、病型(壊死の範囲・位置)、病期(圧潰の有無と程度)、症状、年齢、活動性、基礎疾患を総合して決まります。圧潰のリスクが低い Type A・B で無症状の場合は、定期的な画像検査による経過観察が基本です。圧潰のリスクが高い Type C や、すでに症状がある例では、保存療法で様子をみるか、手術を行うかを検討します。手術は大きく二つに分かれます。一つは自分の骨頭を残す関節温存手術(骨切り術・骨移植術など)で、比較的若年で関節症変化が進んでいない例が対象となりやすいものです。もう一つは人工物置換術(人工股関節全置換術・人工骨頭置換術)で、高齢者や関節症変化が進んだ例、広範な壊死例が対象となりやすいものです。現時点で、薬物によって骨壊死の発生や圧潰を確実に防ぐ方法は確立していません。どの治療が適しているかは個々の状況で大きく異なるため、股関節を専門とする整形外科医と十分に相談して決めることが大切です。
- 経過観察(定期的な画像評価): Type A・B など圧潰リスクの低い無症状例では、X線やMRIで定期的に経過をみます。痛みが出現した場合は、圧潰の可能性を考えて速やかに再評価します。
- 保存療法(免荷・生活指導): 杖の使用による荷重の軽減、体重管理、重量物の運搬や長時間の立ち仕事の回避などを行います。症状の緩和には有用ですが、広範な壊死例での圧潰を防ぐ効果は限定的とされます。
- 薬物療法(鎮痛薬): NSAIDsやアセトアミノフェンなどで痛みを和らげます。骨壊死そのものを治す薬ではありません。圧潰予防を目的としたビスホスホネート製剤などの研究報告はありますが、有効性は確立していません。
- 大腿骨頭回転骨切り術: 大腿骨の転子部で骨を切って骨頭を回転させ、壊死部を荷重のかからない位置へ移し、健常部を荷重面に持ってくる日本で考案された手術です。十分な健常部が残っている若年〜中年例が良い適応とされ、高度な技術を要します。
- 大腿骨内反骨切り術など: 大腿骨頸部の角度を変えて健常部を荷重面に移動させる骨切り術です。壊死範囲や位置によって、回転骨切り術と使い分けられます。
- 骨移植術・骨髄減圧術: 血管柄付き骨移植などで壊死部の修復を促したり、骨頭に穿孔して内圧を下げたりする方法です。主に圧潰前の早期例で検討されますが、適応や成績については施設間で考え方に差があります。
- 人工股関節全置換術(THA): 骨頭と臼蓋の両方を人工物に置き換える手術で、高い除痛効果と機能改善が期待できます。インプラントの進歩により長期成績は向上していますが、脱臼、感染、ゆるみ、摩耗への長期的な注意が必要です。
- 人工骨頭置換術: 骨頭側のみを人工物に置き換える方法で、臼蓋軟骨が比較的保たれている例で選択されることがあります。
- リハビリテーション: 術前・術後の筋力強化、可動域訓練、歩行訓練を行い、日常生活や職場への復帰を支援します。術式ごとに荷重制限の期間が異なるため、主治医・理学療法士の指示に従います。
特発性大腿骨頭壊死症の予後・長期フォロー
本疾患そのものが生命に関わることは基本的にありません。生命予後は、ステロイド投与の原因となった基礎疾患の状態に左右されます。機能的な予後は、病型と病期によって大きく異なります。Type A・B の多くは圧潰せず、良好な経過をたどります。一方、Type C では高率に圧潰が進み、手術が必要になることが多いとされます。関節温存手術が成功すれば自分の関節で長く生活できる可能性があります。ただし、術後に圧潰が進行し、のちに人工関節へ移行する例もあります。人工股関節全置換術では多くの例で痛みが大きく改善し、歩行や日常生活動作が回復します。一方で、若年で手術を受けた場合、生涯のうちに再置換術が必要になる可能性があります。
長期のフォローアップでは、手術の有無にかかわらず、定期的に股関節の画像評価を受けることが重要です。特に、反対側の股関節や、膝・肩など他の関節の状態の確認が欠かせません。人工関節を入れた人は、症状がなくても数年ごとのX線検査で、ゆるみや摩耗の有無を確認するのが一般的です。基礎疾患でステロイド治療を続けている場合は、基礎疾患の主治医と整形外科医が連携して診療にあたります。ステロイドを自己判断で減らしたり中止したりすると基礎疾患の悪化や副腎不全を招くおそれがあるため、必ず主治医と相談してください。飲酒が関連する例では、節酒・禁酒を続けることが望まれます。
特発性大腿骨頭壊死症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
股関節への負担を減らすことが、日常生活の基本です。適正体重を保ち、痛みがある時期や医師から指示された時期は杖を使って荷重を減らしましょう。重い物を持つこと、長時間の立ち仕事、跳躍や激しいスポーツは控えるのが望ましいとされます。和式の生活(床からの立ち上がり、正座、深いしゃがみ込み)は股関節に負担がかかるため、椅子やベッド、洋式トイレへの切り替えが勧められます。人工関節の術後は、術式によって脱臼しやすい姿勢が異なります。具体的な禁忌の動作は担当医やリハビリスタッフに確認してください。人工関節の感染を防ぐため、歯科治療や外科処置を受ける際には人工関節があることを伝え、皮膚や虫歯の感染を放置しないことも大切です。アルコール関連例では節酒・禁酒、全ての人に禁煙が勧められます。水中ウォーキングや自転車エルゴメーターなど、関節への負担が少ない運動で筋力を保つことも有用ですが、内容は主治医と相談してください。本疾患は親から子に遺伝する病気とは考えられておらず、家族が同じ病気になることを過度に心配する必要はないとされます。
利用できる制度・相談窓口
特発性大腿骨頭壊死症は指定難病(告示番号71)です。診断基準を満たし、国が定める重症度分類の基準に該当する場合に、医療費助成の対象となります。重症度の基準を満たさない場合でも、医療費の高い状態が一定以上続くとき(軽症高額該当)は助成を受けられることがあります。申請には、指定医が作成した臨床調査個人票(診断書)が必要です。窓口は、お住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。股関節の機能障害が残った場合は、障害の程度に応じて身体障害者手帳(肢体不自由)の対象となることがあります。また、人工関節置換術を受けた場合を含め、障害の程度や加入している年金制度によっては障害年金の対象となる可能性があります。障害年金については、年金事務所や社会保険労務士に相談するとよいでしょう。65歳以上で介護が必要になった場合は介護保険サービスを利用できます。その他、高額療養費制度、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなども、生活や就労の相談先として活用できます。
特発性大腿骨頭壊死症に伴う心のケア・心理社会的支援
本疾患は働き盛りの世代に多いため、痛みや歩行障害が仕事の継続、昇進、家事・育児、趣味やスポーツに直接影響します。そのため、将来への不安や喪失感、抑うつ、適応障害を生じることがあります。ステロイド関連例では、もともとの基礎疾患(膠原病や移植など)の治療で必要だった薬が骨壊死の原因になったという事実に、怒りや後悔、医療への不信感を抱く人も少なくありません。アルコール関連例では、自責感や周囲からの偏見に悩むこともあります。また、関節温存手術か人工関節か、手術の時期をいつにするかといった難しい選択を迫られること、両側例や他の関節にも壊死がある場合の先の見えにくさも、特有の心理的負担です。こうした気持ちは自然な反応ですが、眠れない、気分が沈む状態が続く、仕事や生活への意欲がわかないといったときは、一人で抱え込まずに主治医や看護師に伝えてください。必要に応じて、心療内科・精神科、公認心理師、医療ソーシャルワーカー、患者会などに相談することが大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
特発性大腿骨頭壊死症の受診の目安
- ステロイド治療中または治療歴がある人や、飲酒量の多い人で、脚の付け根やお尻、太もも、膝に原因不明の痛みが出たときは、早めに整形外科を受診してください。
- すでに診断を受けている人で、急に股関節痛が強くなった、歩き方が変わった、脚の長さに違いを感じたときは、圧潰の進行が疑われるため、主治医を早めに受診してください。
- 片側の診断後に、反対側の股関節や膝・肩など他の関節に新たな痛みが出たときは、主治医に相談してください。
- 人工関節の術後に、股関節が急に動かなくなった、脚が不自然な向きになり強い痛みがある場合は、脱臼の可能性があるため、速やかに受診してください。
- 人工関節や手術部位に、発熱を伴う痛み、腫れ、赤み、傷からの浸出液が見られる場合は、感染の可能性があるため、至急受診してください。
- 術後や長期の安静中に、片脚のふくらはぎの腫れや痛み、急な息切れや胸の痛みが出たときは、深部静脈血栓症や肺塞栓症の可能性があるため、救急受診を検討してください。
特発性大腿骨頭壊死症についてのよくある質問
Q. ステロイドを使うと必ず大腿骨頭壊死症になりますか?
A. いいえ。高用量のステロイド全身投与は危険因子ですが、投与を受けた人の多くは骨壊死を起こしません。ステロイドは基礎疾患の治療に欠かせない場合が多いため、自己判断で中止せず、心配な点は主治医に相談してください。
Q. 壊死した骨は元に戻りますか?
A. 一度壊死した骨が完全に元通りになることはまれです。ただし、壊死範囲が小さい場合や荷重のかからない位置にある場合は、圧潰せずに無症状のまま一生過ごせることも多いとされます。重要なのは、病型と病期を正しく評価することです。
Q. 若いのに人工関節にしても大丈夫ですか?
A. 人工股関節は材料や技術の進歩で長期成績が向上し、若年者でも高い除痛効果が期待できます。ただし、長い人生の中で再置換が必要になる可能性があります。関節温存手術の適応があるかどうかも含めて、専門医と十分に話し合うことが大切です。
Q. お酒はやめたほうがいいですか?
A. アルコール多飲は発症の危険因子とされており、特にアルコール関連と考えられる場合は、節酒・禁酒が勧められます。反対側や他の関節を守るためにも、飲酒量を見直すことが望ましいです。やめにくい場合は、専門外来に相談する方法もあります。
関連記事(関連する指定難病)
- 全身性エリテマトーデス Systemic Lupus Erythematosus, SLE
- 一次性ネフローゼ症候群 Primary Nephrotic Syndrome
- クッシング病 Cushing's Disease
- 原発性抗リン脂質抗体症候群 Primary Antiphospholipid Syndrome, PAPS
- 特発性血栓症 Idiopathic Thrombosis
- 潰瘍性大腸炎 Ulcerative Colitis
- 強直性脊椎炎 Ankylosing Spondylitis
同じ分野(骨・関節・結合組織疾患)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。