ハンチントン病

Huntington's disease, HD

ハンチントン病(Huntington's disease, HD)|ハンチントン病(Huntington's disease, HD)は、HTT遺伝子のCAGリピート異常伸長によって起こる常染色体顕性(優性)遺伝の神経変性疾患です。多くは30〜50歳代に、舞踏運動などの不随意運動、認知機能障害、精神症状の3つが組み合わさって発症し、10〜20年以上かけてゆっくり進行します。本人だけでなく、50%の確率で遺伝の可能性がある血縁者にも、医学的・心理的・社会的な影響が及ぶ疾患です。

ハンチントン病の要点

ハンチントン病は、HTT遺伝子のCAGリピート異常伸長により、線条体を中心に神経細胞が徐々に失われる常染色体顕性遺伝の神経変性疾患です。舞踏運動などの不随意運動、認知機能障害、精神症状が組み合わさってゆっくり進行し、日本では指定難病(告示番号8)に指定されています。

別名・略称ハンチントン舞踏病、Huntington病、Huntington's chorea、Huntington disease、HD
分野神経・筋疾患
遺伝形式常染色体顕性(優性)遺伝(子への遺伝確率50%)
原因4p16.3のHTT遺伝子でCAGリピートが異常に伸長
好発年齢30〜50歳代(20歳以下発症の若年型もある)
主な症状舞踏運動、認知機能障害、抑うつ・易刺激性・アパシーなどの精神症状
主な検査HTT遺伝子検査(CAGリピート数の確認)
受診する主な診療科脳神経内科、精神科

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ハンチントン病とは

ハンチントン病は、第4染色体短腕(4p16.3)にあるHTT遺伝子の第1エクソンで、CAG(グルタミンを指定する3塩基)の繰り返しが異常に長くなることで発症します。その結果、ハンチンチン蛋白に長いポリグルタミン鎖が生じ、主に線条体(尾状核・被殻)、さらに大脳皮質の神経細胞が徐々に失われます。臨床的には、①舞踏運動を中心とする運動症状、②遂行機能障害を中心とする認知障害、③抑うつ・易刺激性・アパシーなどの精神症状を三主徴とします。精神症状や認知機能の変化が運動症状より何年も先行することがあり、初期には精神疾患と区別しにくい場合があります。日本では指定難病(告示番号8)に指定されています。

1872年に米国の医師ジョージ・ハンチントンが、家系内で受け継がれる成人期発症の舞踏病として臨床像を記載したことが病名の由来で、かつては「ハンチントン舞踏病」と呼ばれました。舞踏運動以外の症状も重要であることから、現在は「ハンチントン病」と呼ばれます。1993年に原因遺伝子が同定され、ポリグルタミン病の代表疾患となりました。発症年齢による分類として、20歳以下で発症する若年型(ウェストファル型)があり、舞踏運動よりも筋強剛・無動・ジストニアが目立ち、てんかん発作や学業成績低下を伴いやすい特徴があります。成人発症型が大多数を占め、60歳以降の高齢発症例もみられます。

ハンチントン病の疫学・患者数

有病率には明らかな民族差があり、欧米の白人では人口10万人あたり5〜10人程度とされるのに対し、日本を含む東アジアではその10分の1程度(10万人あたり1人未満)と報告されています。国内の指定難病医療受給者証の所持者は千人前後で推移しているとされますが、軽症例や未診断例は含まれないため、実際の患者数はこれより多い可能性があります。発症年齢の平均は30〜40歳代ですが、小児期から高齢期まで幅広く、約5〜10%が20歳以下で発症する若年型とされます。性差はありません。発症年齢はCAGリピート数と強い逆相関を示し、リピートが長いほど若く発症しますが、同じリピート数でも数十年の幅があり、他の遺伝的修飾因子や環境要因の関与が考えられています。家族歴が明らかでない孤発例も一定数あり、親の早期死亡・未診断、父子関係の問題、中間型アリルからの伸長による新生変異などが背景として挙げられます。

ハンチントン病の原因・病態生理

遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者の子は性別に関係なく50%の確率で病的アリルを受け継ぎます。CAGリピート数の解釈はおおむね次の通りです。26以下は正常、27〜35は中間型アリル(本人は発症しないが、次世代で伸長して病的範囲に入る可能性がある)、36〜39は浸透率が不完全な範囲(生涯に発症しないこともある)、40以上は浸透率がほぼ完全で、寿命が十分あれば発症するとされます。リピートは世代を経るごとに伸長しやすく、特に父親から伝わる場合に大きく伸長しやすいため、子の世代で発症が早まる「表現促進現象」がみられます。若年型の多くは60を超える長いリピートを持ち、父親由来であることが多いとされます。

変異ハンチンチンは、長いポリグルタミン鎖のために立体構造が変化し、毒性を持つ断片や凝集体(核内封入体)を形成します。その毒性として、転写調節の障害、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生・軸索輸送の低下、ミトコンドリア機能障害とエネルギー代謝異常、グルタミン酸による興奮毒性、オートファジーなど蛋白分解系の機能低下、シナプス機能障害などが重なり合うと考えられています。最も障害されやすいのは線条体の中型有棘神経細胞で、初期にはエンケファリンを含みD2受容体を持つ間接路の神経細胞が先に脱落するため、運動の抑制が効かなくなり舞踏運動が生じます。進行するとサブスタンスPを含む直接路の神経細胞も障害され、筋強剛や無動が目立つようになります。病理学的には尾状核から始まる萎縮が特徴で、萎縮の程度はVonsattel分類(グレード0〜4)で評価されます。近年の大規模遺伝学研究では、DNAミスマッチ修復に関わる遺伝子(MSH3、FAN1など)の多様性が発症年齢に影響することが示され、脳内でCAGリピートが加齢とともにさらに伸びる「体細胞伸長」が発症の引き金として注目されています。

ハンチントン病の症状

  • 舞踏運動(コレア): 顔面・体幹・四肢に、不規則で予測できない、踊るような素早い不随意運動が生じます。初期には落ち着きのなさやしかめ顔程度にみえ、本人が自覚していないことも少なくありません。
  • ジストニア・筋強剛・無動: 身体のねじれや異常な姿勢、筋肉のこわばり、動作の遅さが現れます。進行期や若年型で目立ち、舞踏運動が軽くなる代わりにパーキンソン症状のような状態となることがあります。
  • 眼球運動障害: 視線を素早く動かす衝動性眼球運動(サッケード)の開始の遅れや速度低下がみられ、頭を動かして視線を移そうとします。早期から検出されやすい神経学的所見です。
  • 運動維持困難: 舌を出し続ける、手を握り続けるといった一定の姿勢を保つことができなくなります。握った手の力が強まったり弱まったりする現象は「乳しぼり徴候」と呼ばれます。
  • 歩行障害・転倒: 不随意運動とバランス障害により、ふらつく不安定な歩き方となり、転倒やけがが増えます。進行すると歩行が困難になり、車いすが必要になります。
  • 構音障害・嚥下障害: 話し方が不明瞭で途切れがちになり、食べ物や水分でむせやすくなります。嚥下障害は誤嚥性肺炎や窒息の原因となるため、特に注意が必要な症状です。
  • 遂行機能障害・認知機能低下: 段取りを立てる、複数のことを同時に処理する、状況に応じて考えを切り替えるといった能力が早期から低下し、処理速度も遅くなります。記憶は「思い出しにくい」形の障害が中心で、進行すると認知症に至ります。
  • 抑うつ・自殺念慮: うつ状態の頻度が高く、一般人口に比べて自殺のリスクが高いことが知られています。診断の前後や、自立が失われていく時期には特に注意が必要です。
  • 易刺激性・衝動性・攻撃性: 怒りっぽくなり、ささいなことで感情が爆発することがあります。家族関係や就労に大きな影響を及ぼし、介護負担の主な要因となります。
  • アパシー(意欲低下): 自発性や関心が低下し、身の回りのことや社会活動をしなくなります。進行とともに増加し、うつ状態と区別して評価することが重要です。
  • 強迫症状・精神病症状: 同じことへのこだわりや固執、まれに幻覚・妄想がみられることがあります。統合失調症などの精神疾患と診断されている場合もあります。
  • 体重減少・睡眠障害: 十分に食べていても体重が減りやすく、エネルギー代謝の亢進が関わると考えられています。睡眠リズムの乱れや不眠もよくみられます。若年型ではてんかん発作を伴うことがあります。

ハンチントン病の経過と合併症

病的アリルを持つ人は、症状のない「発症前期」、診断基準を満たさない程度の軽い運動・認知・精神面の変化がみられる「前駆期」を経て、明らかな運動症状が出現した時点で臨床的に発症(運動発症)と判断されるのが従来の考え方です。画像やバイオマーカーの変化は運動発症の10年以上前から始まるとされます。発症後は、日常生活の機能を評価するTotal Functional Capacity(TFC)に基づくShoulson-Fahn分類でⅠ〜Ⅴ期に分けられます。初期(Ⅰ〜Ⅱ期)は就労や家事がある程度可能ですが、遂行機能障害や精神症状により仕事上の支障が出始めます。中期(Ⅲ期)には就労が困難となり、家事や金銭管理に援助が必要です。後期(Ⅳ〜Ⅴ期)には歩行・食事・排泄に全面的な介助が必要となり、無動・筋強剛・嚥下障害が前面に出ます。発症から亡くなるまでの期間は平均15〜20年程度とされますが、個人差が大きく、若年型は進行が速い傾向があります。

主な合併症は、嚥下障害による誤嚥性肺炎と窒息で、主要な死因となります。そのほか、転倒による骨折や頭部外傷(慢性硬膜下血腫を含む)、低栄養・体重減少、脱水、褥瘡、尿路感染症、便秘などがみられます。精神面では、重度のうつ状態や自殺企図、攻撃的行動による事故やトラブルが問題となります。治療薬の副作用(抗精神病薬による過鎮静・パーキンソン症状・嚥下機能の悪化、テトラベナジンによる抑うつなど)も合併症として念頭に置く必要があります。

ハンチントン病の診断・診断基準

診断は、①家族歴、②進行性の舞踏運動などの運動症状・認知障害・精神症状、③HTT遺伝子のCAGリピート伸長の確認、④他疾患の除外、を総合して行います。症状がそろい家族歴が明らかな場合でも、確定には遺伝学的検査が用いられます。遺伝学的検査の結果は本人だけでなく血縁者にも関わるため、検査前後の遺伝カウンセリングが重要です。症状のない血縁者が自分の遺伝状態を知るための発症前遺伝子診断は、診断のための検査とは明確に区別されます。国内外の指針に基づき、原則として成人本人の自発的な意思により、複数回のカウンセリングと心理的評価を経たうえで、専門施設で慎重に行われます。指定難病の申請には、都道府県知事の指定を受けた難病指定医による臨床調査個人票の記載が必要です。

  • HTT遺伝子CAGリピート解析: 血液から抽出したDNAでCAGリピート数を測定します。40以上で確定的、36〜39は浸透率不完全の範囲、27〜35は中間型アリルと解釈されます。リピート数は発症年齢の目安となりますが、個人の発症時期を正確に予測するものではありません。
  • 神経学的診察・UHDRS: 国際的な評価尺度であるUnified Huntington's Disease Rating Scale(UHDRS)で、運動・認知・行動・機能を定量的に評価します。運動スコアとTFCは病期の判定や経過観察、臨床試験の評価項目として用いられます。
  • 頭部MRI・CT: 尾状核頭部の萎縮により側脳室前角が外側に膨らんだ「箱型」の形態を示し、進行すると大脳皮質や白質にも萎縮が広がります。早期には目で見て分かる変化に乏しいことがあり、正常所見であっても診断は否定できません。
  • 脳血流SPECT・FDG-PET: 線条体の血流・糖代謝の低下を示し、形態的な萎縮より早期にとらえられることがあります。補助的な検査として位置づけられます。
  • 神経心理検査: 遂行機能、処理速度、言語流暢性、注意などを評価し、Stroop検査やSymbol Digit Modalities Testなどが用いられます。全般的な認知機能スクリーニングだけでは早期の障害を見落としやすいとされます。
  • 精神医学的評価: うつ状態、自殺念慮、易刺激性、アパシー、強迫症状、精神病症状を系統的に評価します。治療方針の決定と安全確保に不可欠です。
  • 除外のための血液検査: 血算・末梢血塗抹(有棘赤血球)、血糖・HbA1c、甲状腺機能、銅・セルロプラスミン、自己抗体(抗核抗体・抗リン脂質抗体)などで、二次性の舞踏病や類縁疾患を除外します。
  • 脳脊髄液・血液バイオマーカー(研究段階): 脳脊髄液中の変異ハンチンチン蛋白やニューロフィラメント軽鎖(NfL)が、発症前からの病勢を反映する指標として研究されています。現時点では主に臨床研究で用いられ、日常診療での位置づけは確立していません。

ハンチントン病と鑑別すべき疾患

  • 有棘赤血球舞踏病(神経有棘赤血球症): 舞踏運動に加え、口舌の自咬を伴うジストニア、末梢神経障害、血清CK上昇、末梢血の有棘赤血球がみられ、VPS13A遺伝子の異常で起こります。
  • 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA): 日本で比較的頻度の高い常染色体顕性遺伝のポリグルタミン病で、舞踏運動・認知症・小脳性運動失調・ミオクローヌスてんかんを呈し、ATN1遺伝子検査と白質病変の有無で鑑別します。
  • 脊髄小脳失調症17型などのハンチントン病類似疾患: HTT遺伝子に異常がない「ハンチントン病類似症候群」の原因として、SCA17(TBP遺伝子)、C9orf72遺伝子変異、プリオン蛋白遺伝子変異などがあり、追加の遺伝学的検査で鑑別します。
  • ウィルソン病: 若年発症の不随意運動と精神症状で鑑別が必要で、血清セルロプラスミン低値、尿中銅増加、角膜カイザー・フライシャー輪で区別でき、治療可能なため見逃してはなりません。
  • 二次性舞踏病(自己免疫性・代謝性・薬剤性): 全身性エリテマトーデスや抗リン脂質抗体症候群、非ケトン性高血糖、甲状腺機能亢進症、真性多血症、抗精神病薬などによる遅発性ジスキネジアなどがあり、比較的急性の発症や片側性であること、原因の除去により改善することが手がかりになります。
  • 脳内鉄沈着神経変性症・良性遺伝性舞踏病: 前者はMRIで淡蒼球などの鉄沈着を示し、後者は小児期発症でほとんど進行せず認知障害を伴わない点で区別します。

ハンチントン病の治療

現時点で、病気の進行を止めたり遅らせたりすることが証明された治療は確立していません。治療の中心は、舞踏運動・精神症状などに対する対症療法と、リハビリテーション、栄養管理、福祉サービスを組み合わせた多職種による包括的ケアです。症状は病期によって変化するため、患者と家族にとって最も困っている症状を優先して目標を設定し、定期的に見直していきます。舞踏運動は本人が苦痛を感じていない場合、必ずしも薬で抑える必要はなく、薬の副作用(鎮静、抑うつ、嚥下障害の悪化など)とのバランスを考えて判断します。精神症状は生活の質と安全に直結するため、運動症状と同等以上に重視されます。薬の選択や用量は患者ごとに異なるため、神経内科医・精神科医と相談しながら決めることが大切です。

  • テトラベナジン: 小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)を阻害してドパミンを減らす薬で、日本ではハンチントン病に伴う舞踏運動の治療薬として承認されています。抑うつや自殺念慮を悪化させることがあるため、うつ病が未治療の場合や自殺念慮がある場合には使用できず、眠気・パーキンソン症状にも注意が必要です。
  • 抗精神病薬: ハロペリドール、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどが、舞踏運動や易刺激性・攻撃性、精神病症状に対して用いられることがあります。抑うつがありテトラベナジンを使いにくい場合の選択肢となりますが、ハンチントン病への適応外使用を含むため、主治医の判断のもとで副作用を確認しながら使用します。
  • 抗うつ薬など精神症状の治療: うつ状態や不安、強迫症状、易刺激性には、SSRIなどの抗うつ薬が用いられます。易刺激性には気分安定薬が検討されることもあります。自殺リスクの評価と、必要時の精神科との連携が欠かせません。
  • その他の対症療法: 若年型の筋強剛・無動に対してレボドパが試みられることや、てんかん発作に対する抗てんかん薬、ジストニアに対するボツリヌス毒素注射、睡眠障害に対する治療などを、症状に応じて検討します。
  • リハビリテーション: 理学療法で歩行・バランス・体力を維持して転倒を予防し、作業療法で日常生活動作の工夫や住環境の調整を行います。言語聴覚療法では構音障害に対するコミュニケーション手段の確保や、嚥下評価に基づく食形態の調整を行います。
  • 栄養管理・嚥下対策: 不随意運動やエネルギー代謝の亢進により必要なカロリーが増えるため、高カロリー食や間食で体重を維持します。進行期の経管栄養(胃ろう)の導入は、本人の意思を尊重し、事前に家族・医療者と話し合って決めることが望まれます。
  • 多職種による包括的ケア・緩和ケア: 神経内科、精神科、リハビリ職、看護師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、遺伝カウンセラーなどが連携して支援します。進行期にはアドバンス・ケア・プランニングを含む緩和ケアの考え方が重要です。
  • 疾患修飾療法の研究(臨床試験): 変異HTTの産生を抑えるアンチセンス核酸やRNA干渉を用いた遺伝子治療、体細胞伸長を標的とする治療などの研究が国内外で進められています。代表的なアンチセンス核酸の大規模試験は一度中止となるなど、まだ確立した治療ではなく、参加を希望する場合は専門医に相談してください。

ハンチントン病の予後・長期フォロー

ハンチントン病は進行性の疾患で、発症後の平均余命は15〜20年程度とされますが、30年以上経過する例もあり、個人差が大きいです。主な死因は誤嚥性肺炎などの感染症、窒息、転倒に伴う外傷などで、自殺も無視できない死因です。若年型は一般に進行が速く、高齢発症例は比較的緩やかとされます。生活の質(QOL)は、運動症状よりもむしろ認知障害、アパシー、易刺激性などの精神・行動面の症状に大きく影響されることが知られています。適切な対症療法、栄養管理、リハビリテーション、介護サービスの活用により、合併症を減らし、自分らしい生活をより長く保つことが期待できます。

長期フォローアップでは、神経内科への定期的な受診(数か月ごとが目安)で、UHDRSなどによる運動・認知・機能の評価、体重、嚥下機能、薬の効果と副作用を確認します。精神症状は変動しやすいため、本人だけでなく家族からも様子を聞き取り、必要に応じて精神科と連携します。病期が進むにつれて、就労の調整、運転の中止、金銭管理や成年後見制度の利用、介護・福祉サービスの導入、経管栄養や人工呼吸などの医療処置に関する意思決定が課題となります。判断能力が保たれている早い時期から、本人の価値観や希望を家族・医療者と共有しておくことが勧められます。

ハンチントン病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、転倒予防(手すりの設置、床の段差や物の整理、滑りにくい履物、家具の角の保護)と、むせにくい食事の工夫(ゆっくり食べる、一口量を少なくする、とろみの活用、食事中に集中できる環境)が大切です。体重が減りやすいため、こまめに体重を測り、エネルギーを十分に取るよう心がけます。運動は可能な範囲で続けることが身体機能や気分の維持に役立つと考えられています。遂行機能障害があると、手順の多い作業や急な予定変更が苦手になるため、日課を一定にする、メモやスケジュール表を使う、一度に一つずつ伝えるといった工夫が有効です。自動車の運転は判断力や反応速度の低下により事故の危険が高まるため、主治医と相談して適切な時期に中止を検討します。易刺激性への対応では、言い争いを避け、刺激を減らし、落ち着いた口調で接することが役立ちます。遺伝の問題は家族にとって大きな関心事です。血縁者が発症前遺伝子診断を受けるかどうか、子どもに病気のことをいつどのように伝えるか、妊娠・出産をどう考えるかなどは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで、時間をかけて相談することが勧められます。遺伝子検査を受けるかどうかは本人の自由であり、「知らないでいる権利」も尊重されます。着床前遺伝学的検査は日本産科婦人科学会の審査のもとで個別に検討される扱いとなっており、出生前診断も関連学会の指針に基づいて慎重に検討されます。いずれも倫理的な課題を伴うため、専門施設に相談してください。

利用できる制度・相談窓口

ハンチントン病は指定難病であり、診断基準を満たし、重症度基準に該当する場合(または軽症でも医療費が一定以上かかる場合)に、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。申請は住所地の保健所などで行い、難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要です。介護面では、40〜64歳の方でも認知症を伴う場合には介護保険の特定疾病(初老期における認知症)として要介護認定を受けられる可能性があり、65歳以上では原因を問わず介護保険の対象です。障害者総合支援法の対象疾病にも含まれ、障害者手帳がなくても居宅介護(ホームヘルプ)や補装具などのサービスを利用できる場合があります。症状に応じて身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳、障害年金(初診日の加入制度に応じて障害基礎年金・障害厚生年金)、自立支援医療(精神通院医療)の対象となることがあります。判断能力が低下した場合には成年後見制度の利用も検討されます。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターがあります。全国遺伝子医療部門連絡会議のウェブサイトなどで遺伝カウンセリング実施施設を探すことができ、患者・家族会(日本ハンチントン病ネットワークなど)では同じ立場の人との交流や情報提供が行われています。

ハンチントン病に伴う心のケア・心理社会的支援

難病の診断は、本人と家族に強い衝撃を与え、不安、抑うつ、怒り、適応障害などを引き起こすことがあります。ハンチントン病ではこれに加えて、病気そのものが脳の働きを変化させ、うつ状態・易刺激性・アパシーを生じさせるため、心理的な反応と病気の症状が重なり合って区別しにくいという特徴があります。また、この疾患に特有の課題として、親の発病や介護を見てきた経験から自分の将来を重ねてしまうこと、「自分も遺伝しているのでは」という長期にわたる不安、発症前遺伝子診断を受けるかどうかの葛藤、陽性・陰性いずれの結果でも生じうる心理的動揺(陰性の場合の「生き残った罪悪感」を含む)、子どもへの遺伝に対する自責感、結婚・就職・保険などでの差別や偏見への懸念、家族内で病気を秘密にすることによる孤立などが挙げられます。自殺のリスクは、診断の前後や機能が失われていく時期に高まることが知られているため、気分の落ち込み、絶望感、「消えてしまいたい」という思いが続く場合は、ためらわずに主治医や精神科・心療内科に相談してください。介護する家族も心身の負担が大きく、燃え尽きを防ぐために、ショートステイなどの介護サービス、カウンセリング、家族会でのピアサポートを積極的に活用することが大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

ハンチントン病の受診の目安

  • 死にたい気持ちや自分を傷つけたい気持ちが強いとき、または実際に自殺をほのめかす言動があるときは、すぐに主治医・精神科に連絡し、危険が差し迫っている場合は救急要請してください。
  • 食事中に激しくむせて呼吸が苦しそう、顔色が悪い、窒息の疑いがあるときは、直ちに救急車を呼んでください。
  • 発熱、咳、痰の増加、呼吸が速いなど、誤嚥性肺炎が疑われる症状があるときは早めに受診してください。
  • 転倒して頭を打った後に、頭痛、嘔吐、意識がぼんやりする、いつもより動きが悪いなどの変化がみられるときは、すぐに受診してください。
  • 攻撃的な行動や興奮が強く、本人や家族の安全が保てないとき、または薬を始めた・変えた後に強い眠気、動きの悪化、飲み込みの悪化、気分の落ち込みが出たときは、主治医に相談してください。
  • 家族歴があり、落ち着きのなさ、不器用さ、性格の変化、仕事上のミスの増加などが気になり始めたときは、神経内科や遺伝外来に相談してください。

ハンチントン病についてのよくある質問

Q. 親がハンチントン病と診断されました。自分にも遺伝しているのでしょうか?

A. 子どもが病的アリルを受け継ぐ確率は性別に関係なく50%です。遺伝しているかどうかは遺伝子検査で調べることができますが、検査を受けるかどうかは本人が十分に考えて決めることであり、受けない選択も尊重されます。まずは遺伝カウンセリングを受け、検査のメリット・デメリットや結果が出た後の影響について専門家と話し合うことをおすすめします。

Q. 遺伝子検査でCAGリピート数が分かれば、いつ発症するか分かりますか?

A. リピート数が多いほど発症が早い傾向はありますが、同じリピート数でも発症年齢には大きな幅があり、個人の発症時期を正確に予測することはできません。36〜39の範囲では生涯発症しないこともあります。結果の解釈は専門医とともに行ってください。

Q. 舞踏運動は必ず薬で抑えなければいけませんか?

A. 本人が苦痛を感じておらず、生活や安全に支障がなければ、必ずしも薬で抑える必要はありません。治療薬には眠気、抑うつ、パーキンソン症状、飲み込みの悪化などの副作用があるため、困りごとの程度と副作用を比較して判断します。服薬の開始や変更は主治医と相談してください。

Q. 根本的な治療法は開発されていますか?

A. 現時点で進行を止める治療は確立していませんが、原因となる変異ハンチンチンの産生を減らす核酸医薬や遺伝子治療、CAGリピートの伸長を標的とする治療などの研究が国内外で進められています。臨床試験の中には中止となったものもあり、効果と安全性はまだ検証中の段階です。最新の情報や臨床試験への参加については専門医や患者会に相談するとよいでしょう。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。