特発性間質性肺炎
Idiopathic Interstitial Pneumonia
特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonia)|特発性間質性肺炎(IIPs)は、原因を特定できないまま肺の間質(肺胞の壁とその周囲)に炎症や線維化が起こる疾患の総称です。主に50歳以上の中高年にみられ、進行すると酸素を取り込む力が落ち、息切れや乾いた咳で日常生活が制限されます。最も多い特発性肺線維症(IPF)は進行性で予後不良な病型ですが、抗線維化薬の登場により進行を緩やかにする治療が可能になりつつあります。なお、紫斑や血小板減少を主症状とする疾患(特発性血小板減少性紫斑病など)とは全く別の、呼吸器の病気です。
特発性間質性肺炎の要点
特発性間質性肺炎は、原因を特定できないまま肺の間質に炎症や線維化が起こり、肺が硬くなって酸素を取り込みにくくなる疾患の総称で、特発性肺線維症など複数の病型があります。主に中高年にみられ、息切れや乾いた咳が続くのが特徴で、日本では指定難病(告示番号85)です。
| 別名・略称 | IIPs、IIP |
|---|---|
| 分野 | 呼吸器疾患 |
| 好発年齢 | 主に50歳以上の中高年 |
| 主な症状 | 労作時の息切れ、乾いた咳 |
| 主な検査 | 胸部CT(HRCT)、呼吸機能検査、血液ガス、必要に応じ肺生検 |
| 主な治療 | 病型により異なる(特発性肺線維症では抗線維化薬、酸素療法など) |
| 受診する主な診療科 | 呼吸器内科 |
| 指定難病 | 告示番号85 |
特発性間質性肺炎とは
間質性肺炎は、肺胞上皮・肺胞隔壁・小葉間隔壁などの間質を主な場とする炎症・線維化性疾患の総称です。膠原病、薬剤、粉じんや鳥抗原などの吸入(過敏性肺炎・じん肺)、放射線など原因が明らかなものを除き、原因を特定できないものを特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias: IIPs)と呼びます。日本では指定難病(告示番号85)で、日本呼吸器学会の「特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き」に沿って、臨床・画像・病理を総合して診断と病型分類を行います。肺が硬く縮むため肺活量が減り(拘束性換気障害)、ガス交換も悪くなって低酸素血症を来すのが共通する病態です。
IIPsは臨床・画像・病理の組み合わせで複数の病型に分けられます。2013年のATS/ERS国際分類では、主要病型として①特発性肺線維症(IPF、病理は通常型間質性肺炎=UIPパターン)、②特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、③呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、④剥離性間質性肺炎(DIP)、⑤特発性器質化肺炎(COP)、⑥急性間質性肺炎(AIP)が挙げられ、稀な病型として特発性リンパ球性間質性肺炎(LIP)と特発性胸膜肺実質線維弾性症(PPFE)、さらにどれにも当てはまらない分類不能型があります。経過からは、慢性線維化性(IPF、NSIP)、喫煙関連(RB-ILD、DIP)、急性・亜急性(COP、AIP)に整理されます。病型により治療反応性と予後が大きく異なるため、病型診断が重要です。近年は、病型を問わず線維化が進行する間質性肺疾患を「進行性肺線維症(PPF)」としてまとめて扱い、治療選択に生かす考え方も導入されています。
特発性間質性肺炎の疫学・患者数
IIPsの中で最も多いのはIPFで、全体の半数前後を占めるとされます。国内の地域研究では、IPFの有病率は人口10万人あたり10人前後、年間発症率は10万人あたり2人程度と報告されていますが、診断されていない軽症例も多く、実数はこれより多いと考えられます。指定難病の医療費助成を受けている人は全国で約2万人前後とされますが、助成は重症度の高い方が中心のため、患者全体はこれを大きく上回ると推定されます。IPFは50歳以上、特に60〜70歳代に多く、男性・喫煙者に多い傾向があります。NSIPはIPFよりやや若年で女性や非喫煙者にもみられ、RB-ILDとDIPは喫煙者に、COPは年齢・性別を問わず発症します。家族内に複数の肺線維症患者がみられる「家族性肺線維症」も一部に存在します。
特発性間質性肺炎の原因・病態生理
「特発性」は原因不明という意味ですが、発症に関わる危険因子は少しずつ明らかになってきています。IPFでは、加齢、喫煙、金属・木材などの粉じん曝露、胃食道逆流症などが危険因子とされます。遺伝的背景としては、気道粘液蛋白をコードするMUC5B遺伝子のプロモーター多型(欧米で強く関連し、日本人では頻度が低いとされる)、テロメアの維持に関わる遺伝子(TERT、TERCなど)、肺サーファクタント蛋白の遺伝子(SFTPC、SFTPA2など)の変異が、家族性あるいは孤発性の肺線維症に関与すると報告されています。ただし、多くの患者で単一の遺伝子変異がみつかるわけではなく、複数の遺伝要因と環境要因が重なって発症すると考えられます。喫煙関連のRB-ILD・DIPでは、喫煙による細気管支・肺胞への色素を含むマクロファージの蓄積が病態の中心です。
IPFの病態は、従来の「炎症が先行して線維化に至る」という考え方から、「肺胞上皮の繰り返す微小損傷と、その異常な修復」が中心であるという理解に移っています。加齢やテロメア短縮、喫煙などで脆弱になった肺胞上皮(特にⅡ型肺胞上皮細胞)が損傷を繰り返すと、TGF-βなどの増殖因子が放出され、線維芽細胞が筋線維芽細胞へ分化・増殖し、コラーゲンなどの細胞外基質が過剰に沈着します。これが胸膜直下・肺底部から不均一に広がり、正常な肺胞構造が壊れて蜂の巣状の嚢胞(蜂巣肺)や牽引性気管支拡張が生じます。一方、NSIPは比較的均一な炎症と線維化が主体で、COPは肺胞腔内に器質化した肉芽組織(Masson体)ができる病態であり、いずれも炎症の要素が強いため、ステロイドなどの抗炎症治療に反応しやすいとされます。AIPは病理学的にびまん性肺胞傷害(DAD)を示し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と同様の激しい肺損傷が数週間で進行します。
特発性間質性肺炎の症状
- 労作時の息切れ: 坂道や階段、入浴、着替えなどで息が切れるのが最も代表的な初発症状です。ゆっくり進行するため、年齢や運動不足のせいと見過ごされがちです。
- 乾いた咳: 痰を伴わない咳(乾性咳嗽)が長く続き、会話や運動で誘発されやすいのが特徴です。睡眠や生活の質を大きく損なうことがあります。
- 捻髪音(fine crackles): 聴診で背中の下側を中心に、マジックテープをはがすような「パリパリ」という音が聞こえます。早期発見の重要な手がかりです。
- ばち指: 指先が太鼓のばちのように丸く膨らみ、爪の付け根の角度が失われます。IPFで比較的よくみられます。
- 低酸素血症・チアノーゼ: 病状が進むと安静時や労作時に血中酸素が低下し、唇や指先が紫色になることがあります。歩行時に急に酸素飽和度が下がるのが特徴です。
- 全身倦怠感・体重減少: 呼吸に余分なエネルギーを使うことや食事量の低下により、疲れやすさや体重減少がみられます。
- 発熱・感冒様症状: COPやAIPでは発熱や倦怠感を伴って比較的急に発症することがあり、肺炎と間違われることがあります。
- 急性増悪時の急激な呼吸困難: 慢性の経過中に、数日から1か月以内で息苦しさが急速に悪化することがあり、命に関わる状態です。
- むくみ・動悸: 肺高血圧症を合併して右心不全を来すと、足のむくみや動悸、疲れやすさが強くなります。
- 胸痛・急な息苦しさ(気胸): 線維化した肺は破れやすく、突然の胸痛や息苦しさで気胸が見つかることがあります。PPFEでは特に気胸が多いとされます。
特発性間質性肺炎の経過と合併症
経過は病型により大きく異なります。IPFは数年単位で緩やかに、しかし不可逆的に進行することが多く、肺活量(FVC)や肺拡散能(DLco)が徐々に低下します。進行速度には個人差が大きく、長期間安定する人もいれば、比較的急速に進む人もいます。また経過中に急性増悪(明らかな原因なく、あるいは感染・手術などを契機に急速に呼吸不全が進行する状態)が起こることがあり、日本人では欧米より頻度が高いとする報告があります。急性増悪の短期死亡率は高く、IPFの主要な死因の一つです。NSIPやCOPは治療反応性が比較的良く、COPは多くが改善しますが、ステロイド減量時に再燃することがあります。NSIPの一部、特に線維化が強い型では進行性の経過をとり得ます。AIPは発症から数週間でARDS様の重篤な呼吸不全に至り、救命後も線維化が残ることがあります。RB-ILD・DIPは禁煙で改善が期待できます。
代表的な合併症として、肺がん(IPFでは一般人口より発生リスクが高いとされ、また手術や一部の抗がん剤が急性増悪の誘因になり得るため治療選択が難しい)、肺高血圧症と右心不全、気胸・縦隔気腫、細菌・ウイルス・真菌などによる呼吸器感染症、急性増悪が挙げられます。上肺野に肺気腫、下肺野に線維化を併存する「気腫合併肺線維症(CPFE)」は喫煙歴のある男性に多く、肺活量が保たれていても拡散能が強く低下し、肺高血圧症や肺がんの合併が多いとされます。このほか、胃食道逆流症、睡眠時無呼吸、骨粗鬆症(ステロイド使用例)、抑うつ・不安、廃用による筋力低下なども生活の質に影響します。
特発性間質性肺炎の診断・診断基準
診断は、息切れ・咳・捻髪音などから間質性肺炎を疑い、まず原因のある間質性肺炎を除外することから始まります。職業歴・粉じん曝露、住環境(鳥の飼育、羽毛布団、カビ)、服薬歴、喫煙歴を詳しく聴取し、膠原病の症状(関節痛、レイノー現象、皮疹、筋力低下、口や目の乾燥)や自己抗体を確認します。そのうえで高分解能CT(HRCT)の画像パターンを評価し、典型的なUIPパターンで他の原因が否定できればIPFと臨床診断できる場合があります。典型的でない場合は、気管支鏡検査(気管支肺胞洗浄、クライオ生検)や外科的肺生検による病理診断を検討しますが、高齢や呼吸機能低下で生検のリスクが高い場合も多く、適応は慎重に判断されます。最終的には、呼吸器内科医・放射線科医・病理医が情報を持ち寄って議論する集学的検討(MDD)により病型診断を行うことが推奨されています。指定難病の申請では、日本呼吸器学会の診断基準に基づく診断と、安静時動脈血酸素分圧(PaO2)と6分間歩行時の酸素飽和度低下などに基づく重症度分類(Ⅰ〜Ⅳ度)の評価が必要です。
- 高分解能CT(HRCT): 診断の中心となる検査です。IPFでは胸膜直下・肺底部優位の網状影、蜂巣肺、牽引性気管支拡張を示すUIPパターンが典型で、NSIPではすりガラス影が比較的均一に、COPでは移動する浸潤影がみられます。
- 血清マーカー(KL-6、SP-D、SP-A、LDH): KL-6やSP-Dは肺胞上皮の障害を反映して上昇し、診断の補助や活動性・予後の指標になります。急性増悪時には急上昇することがあります。
- 呼吸機能検査: 肺活量・努力肺活量(FVC)の低下(拘束性障害)と肺拡散能(DLco)の低下が特徴です。FVCやDLcoの経時的低下は進行の判定と治療効果の評価に用いられます。
- 動脈血ガス分析・パルスオキシメトリ: 安静時PaO2は指定難病の重症度分類の基準となります。肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)の開大も評価します。
- 6分間歩行試験: 歩行距離と歩行中の最低SpO2を測定し、労作時低酸素の程度や予後、酸素療法の必要性の判断に用います。SpO2が90%未満に低下する場合、重症度を引き上げて評価する規定があります。
- 自己抗体・血液検査: 抗核抗体、リウマトイド因子・抗CCP抗体、抗ARS抗体、抗MDA5抗体、抗Scl-70抗体、MPO-ANCAなどを測定し、膠原病や血管炎に伴う間質性肺炎を除外します。
- 気管支鏡検査(BAL・クライオ生検): 気管支肺胞洗浄液の細胞分画(リンパ球増加は過敏性肺炎やNSIP、好酸球増加は好酸球性肺炎などを示唆)で鑑別を進めます。経気管支肺クライオ生検はより大きな組織が得られ、施設によって行われています。
- 外科的肺生検: 胸腔鏡下に肺組織を採取し、UIP・NSIP・DIPなどの病理パターンを確定します。侵襲が大きく急性増悪の誘因となり得るため、全身状態とリスクを考慮して適応が判断されます。
- 心エコー・その他: 肺高血圧症の合併を評価するため心エコーを行い、必要に応じて右心カテーテル検査を行います。肺がん合併のチェックにも定期的な画像評価が重要です。
特発性間質性肺炎と鑑別すべき疾患
- 膠原病関連間質性肺疾患: 関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎・多発性筋炎、シェーグレン症候群などでは間質性肺炎が先行することもあり、症状と自己抗体で鑑別し、診断がつかない場合も経過観察が必要です。
- 慢性過敏性肺炎: 鳥・羽毛・カビなどの抗原曝露歴、上肺野や小葉中心性の陰影、BALのリンパ球増加などが手がかりで、抗原回避が治療の基本となるためIPFとの区別が重要です。
- じん肺(石綿肺など): 石綿や粉じんの職業性曝露歴があり、胸膜プラークなどの所見を伴う場合に疑います。
- 薬剤性肺障害: 抗がん剤、抗リウマチ薬、抗不整脈薬(アミオダロン)、漢方薬など多くの薬剤で起こり、服薬開始時期と発症の関係を確認します。
- 顕微鏡的多発血管炎(MPO-ANCA関連): 日本では間質性肺炎がMPO-ANCA陽性を伴って先行することがあり、腎障害・血尿などの症状の有無と抗体検査で鑑別します。
- サルコイドーシス: 上肺野・気管支血管束沿いの陰影や両側肺門リンパ節腫脹、眼・皮膚病変を伴う点で区別されます。
特発性間質性肺炎の治療
治療方針は病型、重症度、進行速度、年齢・併存疾患によって決まります。IPFでは、炎症を抑えるステロイドや免疫抑制薬の効果は乏しく、ステロイドと免疫抑制薬の併用が有害となり得ることが臨床試験で示されたため、進行を緩やかにする抗線維化薬が薬物療法の中心です。一方、NSIP、COP、DIPなど炎症の要素が強い病型ではステロイドを基本とし、必要に応じて免疫抑制薬を併用します。喫煙関連の病型では禁煙が最も重要です。いずれの病型でも、酸素療法、呼吸リハビリテーション、感染予防、栄養管理、急性増悪への備え、症状緩和を含めた包括的なケアが欠かせず、進行例では肺移植や緩和ケアも選択肢となります。治療の開始時期や薬の選択は、効果と副作用、生活への影響を考慮して主治医・呼吸器専門医とよく相談して決めることが大切です。
- 抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ): IPFで肺活量低下の速度を緩やかにする効果が示されています。ニンテダニブは進行性の線維化を示すIPF以外の間質性肺疾患にも使われ、副作用としてピルフェニドンでは光線過敏症・食欲低下、ニンテダニブでは下痢・肝機能障害などに注意が必要です。
- 副腎皮質ステロイド: COP、NSIP、DIPなどで中心的な治療で、多くの例で改善が期待できます。長期使用では感染症、糖尿病、骨粗鬆症などへの対策を併せて行います。
- 免疫抑制薬: NSIPなどでステロイドの効果不十分時や減量目的に、シクロスポリン、アザチオプリン、シクロホスファミドなどが併用されることがあります。IPFでの使用は一般に推奨されていません。
- 急性増悪の治療: 入院のうえ、ステロイド大量療法(パルス療法)、感染症の除外・治療、酸素療法や呼吸管理などが行われますが、確立した有効な治療は限られています。早期受診が重要です。
- 在宅酸素療法(HOT): 安静時や労作時の低酸素血症がある場合に導入し、息切れの軽減と活動範囲の維持を図ります。高流量鼻カニュラ酸素療法が用いられる場面もあります。
- 呼吸リハビリテーション: 運動療法、呼吸法・動作の工夫、栄養指導などを組み合わせ、運動耐容能や息切れ、生活の質の改善が期待されます。
- 禁煙・感染予防・併存症管理: 禁煙は全病型で必須で、インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナなどのワクチン接種が勧められます。胃食道逆流症や肺高血圧症、肺がんの評価・管理も行います。
- 肺移植: 内科治療で進行を止められない重症例では、年齢などの適応基準を満たせば肺移植が選択肢となります。待機期間が長いため、適応がありそうな場合は早めに移植施設へ相談することが重要です。
- 緩和ケア: 進行期には、低用量のオピオイドなどによる呼吸困難や咳の緩和、不安への対応、療養場所の検討を含め、診断早期から並行して緩和ケアを取り入れることが推奨されます。
特発性間質性肺炎の予後・長期フォロー
予後は病型によって大きく異なります。IPFは無治療の場合、診断から中央値で3〜5年程度とする報告が多く、多くのがんと同程度に厳しい疾患とされてきましたが、抗線維化薬の普及や管理の進歩により改善の兆しがみられます。ただし進行速度の個人差は大きく、10年以上安定して過ごす人もいます。予後に関わる因子として、FVC・DLcoの低下速度、6分間歩行時の低酸素、蜂巣肺の範囲、肺高血圧症や急性増悪の発生、肺がん合併などが知られています。COPは一般に予後良好で、NSIP(特に細胞性NSIP)も治療反応性が比較的良く長期予後が期待できます。RB-ILD・DIPは禁煙と治療で多くが改善します。AIPは急性期の死亡率が高く、救命できた場合でも線維化が残ることがあります。
長期フォローアップでは、通常3〜6か月ごとに症状、SpO2、呼吸機能(FVC、DLco)、血清マーカー、6分間歩行試験を評価し、必要に応じて胸部CTで進行や肺がんの有無を確認します。抗線維化薬やステロイドの副作用(肝機能、消化器症状、血糖、骨密度など)の定期的なチェックも重要です。ほかの疾患の手術や抗がん剤治療を受ける際には急性増悪のリスクがあるため、必ず呼吸器の主治医と情報を共有します。また、診断時に特発性と考えられても、経過中に膠原病の症状が明らかになることがあるため、新たな関節痛や皮疹、筋力低下などに注意します。病状が進んだ場合に備えて、どのような治療やケアを望むかを、本人・家族・医療者で早めに話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング)も大切です。
特発性間質性肺炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
禁煙は最も重要なセルフケアで、受動喫煙も避けます。風邪やインフルエンザは急性増悪の引き金になり得るため、手洗い・うがい・マスク、人混みを避ける工夫、ワクチン接種を心がけましょう。息切れがあっても適度に体を動かすことは筋力と体力の維持に役立ち、呼吸リハビリで教わる「息を吐きながら動く」「動作をゆっくり区切る」などの工夫が役立ちます。食事は少量頻回で十分なエネルギーとたんぱく質をとり、体重減少を防ぎます。胸やけなど胃食道逆流の症状がある場合は、就寝前の食事を避け、主治医に相談します。在宅酸素を使う場合は、火気(コンロ、たばこ、仏壇のろうそく等)から2m以上離すことを徹底してください。ピルフェニドン内服中は日焼け止めや衣服で紫外線を避けます。家族に複数の肺線維症患者がいる場合は遺伝的要因の関与が考えられ、希望があれば遺伝カウンセリングについて主治医に相談できます。家族も、本人の息切れによる活動制限や疲れやすさを理解し、家事や外出を一緒に工夫することが支えになります。
利用できる制度・相談窓口
特発性間質性肺炎は指定難病(告示番号85)で、重症度分類でⅢ度以上の方、または軽症でも医療費が一定以上かかる方(軽症高額該当)は、医療費助成の対象となり、自己負担の上限が所得に応じて設定されます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。在宅酸素療法を含む医療費が高額になる場合は高額療養費制度も利用できます。呼吸機能の低下が一定以上の場合は身体障害者手帳(呼吸器機能障害)の対象となり、税の控除や交通機関の割引、日常生活用具の給付などが受けられることがあります。病状により就労や日常生活が制限される場合は障害年金の対象となることがあります(初診日の要件などあり)。65歳以上では介護保険で訪問看護・介護ベッド・ヘルパーなどのサービスを利用できます(本疾患は40〜64歳で介護保険を利用できる特定疾病には含まれていません)。各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、保健所の保健師、患者会なども相談先になります。
特発性間質性肺炎に伴う心のケア・心理社会的支援
慢性的な息切れは「息ができなくなるのでは」という強い不安や恐怖を伴いやすく、不安がさらに息苦しさを強めるという悪循環を生みます。進行性で根治が難しいと告げられることによる衝撃、急性増悪への恐れ、在宅酸素のチューブを付けて外出することへの抵抗感、仕事や趣味・役割の喪失、家族への負担に対する申し訳なさなどから、抑うつや適応障害がみられることも少なくありません。喫煙歴のある方は自責の念を抱くこともありますが、病気は喫煙だけで起こるものではなく、自分を責める必要はありません。気分の落ち込み、不眠、食欲低下、興味の喪失が続く場合は、我慢せず主治医や看護師に伝えてください。必要に応じて心療内科・精神科、公認心理師、緩和ケアチームの支援を受けられます。呼吸リハビリテーションは体力面だけでなく、息切れへの対処法を身につけることで不安の軽減にも役立ちます。患者会などで同じ病気の人と経験を分かち合うことや、家族自身も相談先を持つことが大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
特発性間質性肺炎の受診の目安
- 階段や坂道での息切れや、2か月以上続く乾いた咳がある場合は、呼吸器内科を受診してください。
- 健診や他の病気の検査で間質性肺炎・間質影を指摘された場合は、症状がなくても専門医で精密検査を受けましょう。
- 数日から数週間のうちに息切れが明らかに悪化した、安静時のSpO2が普段より大きく低下した場合は、急性増悪の可能性があり早急に受診してください。
- 38℃以上の発熱、色のついた痰、普段と違う強いだるさなど感染症が疑われる症状が出た場合は、早めに主治医に連絡してください。
- 突然の胸痛と息苦しさ(気胸の疑い)、唇が紫色になる、会話ができないほどの呼吸困難がある場合は、ためらわず救急要請してください。
- 足のむくみや体重の急な増加、動悸が続く場合は、肺高血圧症や心不全の可能性があるため受診してください。
特発性間質性肺炎についてのよくある質問
Q. 特発性間質性肺炎は治る病気ですか?
A. 病型によって異なります。器質化肺炎(COP)や喫煙関連の病型は治療や禁煙で改善することが多い一方、特発性肺線維症(IPF)は線維化を元に戻すことは難しく、抗線維化薬などで進行を緩やかにし、生活の質を保つことが治療の目標となります。
Q. 普通の肺炎やうつる病気とは違うのですか?
A. 細菌やウイルスによる一般的な肺炎とは異なり、肺の間質に炎症や線維化が起こる病気で、人にうつることはありません。ただし、感染症にかかると悪化(急性増悪)のきっかけになるため、感染予防が重要です。
Q. ステロイドはなぜ使われないことがあるのですか?
A. IPFでは炎症よりも線維化が病態の中心であり、ステロイドや免疫抑制薬の効果が乏しく、併用でかえって悪化する可能性が臨床試験で示されたためです。一方、NSIPやCOPなどではステロイドが有効なことが多く、病型によって使い分けられます。
Q. 遺伝しますか?家族は検査を受けるべきですか?
A. 多くは家族内で発症しない孤発例ですが、一部に家族性肺線維症があり、テロメア関連遺伝子などの関与が報告されています。家族に複数の患者がいる場合や不安がある場合は、主治医に相談し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けることができます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。