肺動脈性肺高血圧症

Pulmonary Arterial Hypertension

肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension)|肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の細い血管が狭くなり、肺動脈の血圧が異常に高くなる病気です。若い女性に多く、膠原病や先天性心疾患などに合併することもあります。進行すると右心室に負担がかかって右心不全となり、息切れなどで日常生活が大きく制限されますが、近年は治療薬の進歩により予後が大きく改善しています。<br>※既存の簡易解説には、血小板減少・紫斑・脾臓摘出など特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の内容が誤って記載されていました。本稿ではPAHとして全面的に訂正しています。

肺動脈性肺高血圧症の要点

肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺の細い動脈が狭くなって肺動脈圧が異常に高くなり、進行すると右心室に負担がかかって右心不全をきたす病気です。労作時の息切れや疲れやすさ、失神などがみられ、国の指定難病に定められており、近年は治療薬の進歩で予後が改善しています。

別名・略称PAH、原発性肺高血圧症、肺動脈性肺高血圧、Primary pulmonary hypertension
分野循環器・先天性心疾患
好発年齢若い女性に多い
主な症状労作時の息切れ、疲れやすさ、失神、むくみ
主な検査心エコー検査、右心カテーテル検査
主な治療肺血管拡張薬、利尿薬、酸素療法など
受診する主な診療科循環器内科、呼吸器内科、膠原病内科

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肺動脈性肺高血圧症とは

肺高血圧症(PH)は、安静時に右心カテーテル検査で測定した平均肺動脈圧が上昇した状態の総称です。2022年の欧州心臓病学会/欧州呼吸器学会(ESC/ERS)ガイドラインでは、平均肺動脈圧が20mmHgを超える場合をPHと定義しています。そのうち、肺動脈楔入圧が15mmHg以下で左心系の異常がなく、肺血管抵抗が2Wood単位を超える前毛細血管性のものが肺動脈性肺高血圧症(PAH)です。PAHは、直径およそ500μm以下の肺小動脈で血管が縮みすぎ、壁が厚くなり、内腔がふさがってくることが本態です。従来は平均肺動脈圧25mmHg以上が診断基準でしたが、国際的に改訂されました。日本の指定難病の認定基準や重症度分類は改訂される場合があるため、申請時には最新の告示や診断基準を確認する必要があります。

PHは国際的に5群に分類され(ニース分類)、PAHは第1群にあたります。第1群には次の病型が含まれます。<br>・特発性PAH(IPAH):原因が特定できないもの<br>・遺伝性PAH(HPAH)<br>・薬物・毒物誘発性PAH:メタンフェタミン、一部の食欲抑制薬、ダサチニブなど<br>・各種疾患に関連するPAH:膠原病(とくに全身性強皮症、混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス)、HIV感染症、門脈圧亢進症(門脈肺高血圧症)、先天性心疾患(短絡性疾患)、住血吸虫症<br>・カルシウム拮抗薬に長期反応するPAH<br>・静脈や毛細血管の病変(肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症:PVOD/PCH)の特徴を伴うPAH<br>・新生児遷延性肺高血圧症<br>歴史的には、かつて「原発性肺高血圧症」と呼ばれていました。1998年のエビアン会議以降に分類が整理され、病態の理解と治療薬の開発が急速に進みました。第2群(左心疾患)、第3群(肺疾患・低酸素)、第4群(慢性血栓塞栓性肺高血圧症など肺動脈の閉塞)、第5群(機序が不明・複合的なもの)とは、治療方針が大きく異なります。そのため、正確な病型診断が非常に重要です。

肺動脈性肺高血圧症の疫学・患者数

PAHはまれな疾患で、欧米の登録研究では、有病率は人口100万人あたり数十人程度と報告されています。日本でも指定難病の医療受給者証の所持者は数千人規模にとどまります。治療の進歩で生存期間が延びたことや、診断機会が増えたことにより、患者数は増加傾向にあります。特発性・遺伝性PAHは20〜40歳代の女性に多く、女性は男性の数倍とされます。ただし近年は、高齢で併存疾患を持つ患者の診断も増えています。膠原病に伴うPAHは、全身性強皮症や混合性結合組織病の経過中に発症することが多く、日本ではPAH全体の中でも大きな割合を占めます。小児でも特発性・遺伝性PAHや先天性心疾患に伴うPAHがみられます。

肺動脈性肺高血圧症の原因・病態生理

PAHの発症には、遺伝的な素因、性ホルモン、炎症や免疫の異常、薬物・毒物、ウイルス感染、血流の異常(短絡性心疾患による肺血流の増加)などが複合的に関わると考えられています。<br>遺伝性PAHで最も多い原因遺伝子は、TGF-βスーパーファミリーの受容体をコードするBMPR2です。家族性PAHの多く、さらに特発性とされた例の一部にも変異が見つかります。遺伝形式は常染色体顕性(優性)ですが、浸透率は不完全です(変異を持っていても発症するのは一部)。ほかにACVRL1やENG(遺伝性出血性毛細血管拡張症に関連)、SMAD9、CAV1、KCNK3、TBX4、SOX17、GDF2などの関与が報告されています。EIF2AK4はPVOD/PCHの原因遺伝子として知られています。膠原病関連PAHでは、自己免疫性の血管炎症や血管障害が背景にあると考えられています。

病態の中心は肺血管内皮細胞の機能障害です。血管を広げて増殖を抑える一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン(PGI2)の産生が低下します。反対に、血管を収縮させて増殖を促すエンドセリン-1の産生が亢進します。この3つの経路の不均衡が、現在の治療薬の主な標的です。さらに、平滑筋細胞や線維芽細胞の異常な増殖とアポトーシス(細胞死)への抵抗性、炎症細胞の浸潤、代謝の変化(解糖系へのシフト)、BMP/アクチビンシグナルの不均衡が加わります。その結果、中膜の肥厚、内膜の線維性肥厚、叢状病変(plexiform lesion)と呼ばれる特徴的な血管病変が形成されます。肺血管抵抗が上がると右心室は肥大して代償しますが、やがて限界を超えると右心室が拡大し、収縮力が低下します。心拍出量が減って全身の臓器への血流が不足し、静脈のうっ血も起こって、右心不全の状態となります。

肺動脈性肺高血圧症の症状

  • 労作時息切れ: 最も多い初発症状で、坂道や階段で息が切れやすくなります。進行すると平地歩行や会話でも息苦しくなります。
  • 易疲労感・全身倦怠感: 心拍出量が低下して筋肉に十分な酸素が届かず、疲れやすくなります。
  • 失神・失神前駆症状: 労作中や直後に、心拍出量の増加が追いつかず意識を失うことがあります。重症化を示す重要な徴候です。
  • 胸痛・胸部圧迫感: 右心室の虚血や拡張した肺動脈による圧迫で生じ、狭心症に似ることがあります。
  • 動悸: 頻脈や、心房粗動・心房細動などの不整脈によって感じることがあります。
  • 下肢のむくみ・体重増加: 右心不全による体液貯留の徴候で、利尿薬の調整が必要になる目安となります。
  • 腹部膨満・食欲低下: 肝臓や腸管のうっ血、腹水によって起こります。
  • 頸静脈怒張: 右心系の圧が上昇しているサインで、診察で確認されます。
  • チアノーゼ: 唇や指先が紫色になる状態です。重症例のほか、卵円孔を通る右左短絡や、アイゼンメンゲル症候群でみられます。
  • 喀血: 頻度は低いものの、拡張した気管支動脈などから出血することがあり、緊急対応が必要です。
  • 嗄声(声がれ): 拡張した肺動脈が反回神経を圧迫して起こることがあります。
  • レイノー現象・皮膚硬化など: 膠原病に関連するPAHでは、基礎疾患の症状が手がかりになります。

肺動脈性肺高血圧症の経過と合併症

症状が軽い初期には「運動不足」や「年齢のせい」と思われやすく、発症から診断まで1〜2年以上かかることも珍しくありません。重症度は、自覚症状に基づくWHO機能分類(I〜IV度)で評価します。さらに6分間歩行距離、BNP/NT-proBNP、心エコー・右心カテーテル所見(右房圧、心係数など)を組み合わせて、1年死亡率の見込みを低・中・高リスクに分けるリスク層別化が行われます。治療をしない場合は徐々に右心不全へ進行します。かつての米国の登録研究では、特発性PAHの診断後の生存期間の中央値は約2.8年と報告されていました。病型によって経過は異なり、全身性強皮症に伴うPAHは特発性より予後が不良な傾向があります。先天性心疾患に伴うPAHは比較的ゆっくり進むことが多いとされます。

主な合併症は次のとおりです。<br>・右心不全(浮腫、腹水、肝うっ血、腎機能低下)<br>・不整脈(心房粗動・細動):発症すると血行動態が急に悪化しやすいため注意が必要です。<br>・突然死<br>・喀血<br>・肺動脈の拡張による合併症:左冠動脈主幹部の圧迫による狭心症、肺動脈解離などの報告があります。<br>・低酸素血症<br>・治療に伴う合併症:持続静注療法のカテーテル感染・血栓、ポンプトラブルによる急な薬の中断(リバウンドによる急激な悪化)などがあり、重大です。<br>また、感染症、手術・麻酔、妊娠・出産は病状を急激に悪化させる誘因となります。

肺動脈性肺高血圧症の診断・診断基準

息切れなどの症状や、健診での心電図・胸部X線の異常からPHが疑われた場合、まず心エコー検査で可能性を評価します。次に、左心疾患(第2群)、肺疾患(第3群)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(第4群)などを、呼吸機能検査、胸部CT、肺換気血流シンチグラフィで順に除外します。最終的な確定診断には右心カテーテル検査が欠かせません。肺動脈圧、肺動脈楔入圧、心拍出量を実測し、前毛細血管性PHであることを確認します。その後、膠原病、HIV、肝疾患、先天性心疾患、薬物歴などを調べて病型を決め、リスク層別化を行って治療方針を立てます。診断と治療導入は、PH診療の経験が豊富な専門施設で行うことが推奨されています。

  • 心エコー検査: 三尖弁逆流の速度から推定する肺動脈収縮期圧、右室・右房の拡大、心室中隔の扁平化、TAPSE(右室機能の指標)、心膜液の有無などからPHの可能性を判定します。短絡性心疾患の検出にも有用です。
  • 心電図・胸部X線: 心電図では右軸偏位、右室肥大、右房負荷の所見がみられます。胸部X線では肺動脈主幹部の拡張や末梢肺血管影の減少がみられます。ただし、初期には正常のこともあります。
  • 血液検査(BNP/NT-proBNP等): 右心負荷の程度を反映し、重症度評価や治療効果の判定に用います。あわせて自己抗体、HIV抗体、肝機能、甲状腺機能、貧血・鉄の指標なども調べ、関連疾患を検索します。
  • 呼吸機能検査・動脈血ガス: 肺疾患による第3群を除外する目的で行います。PAHでは肺拡散能(DLCO)の低下がよくみられ、著しい低下はPVODや強皮症関連PAHの手がかりになります。
  • 肺換気血流シンチグラフィ・造影CT: 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を除外するために重要です。換気血流シンチグラフィで区域性の血流欠損がなければ、CTEPHはほぼ否定できます。高分解能CTでは間質性肺疾患やPVODの所見(すりガラス影、小葉間隔壁の肥厚、縦隔リンパ節腫大)を評価します。
  • 右心カテーテル検査: 確定診断に必須の検査です。平均肺動脈圧の上昇、肺動脈楔入圧15mmHg以下、肺血管抵抗の上昇を確認します。右房圧や心係数は予後評価にも用いられます。
  • 急性肺血管反応性試験: 特発性・遺伝性・薬物誘発性PAHで、一酸化窒素吸入などにより肺動脈圧が大きく低下するかを調べます。陽性例は高用量カルシウム拮抗薬が有効な可能性がある少数の患者です。
  • 6分間歩行試験・心肺運動負荷試験: 運動耐容能を客観的に評価し、リスク層別化や治療効果の判定に用います。
  • 遺伝学的検査・遺伝カウンセリング: 特発性・遺伝性PAHやPVODが疑われる場合に検討されます。結果は家族にも関わるため、遺伝カウンセリングを受けたうえで実施します。

肺動脈性肺高血圧症と鑑別すべき疾患

  • 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH): 器質化した血栓が肺動脈をふさぐ病気です。換気血流シンチグラフィで区域性の欠損がみられ、肺動脈内膜摘除術やバルーン肺動脈形成術という特有の治療があるため、必ず除外します。
  • 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH): CT所見、高度のDLCO低下、EIF2AK4変異が手がかりです。肺血管拡張薬で肺水腫を起こすことがあるため、区別が重要です。
  • 左心疾患に伴う肺高血圧症: 左室拡張障害(HFpEF)や弁膜症によるもので、肺動脈楔入圧が15mmHgを超える点で区別します。高齢で高血圧、糖尿病、心房細動を持つ人に多くみられます。
  • 肺疾患・低酸素血症に伴う肺高血圧症: COPD、間質性肺疾患、睡眠時無呼吸、肺胞低換気などによるものです。呼吸機能検査や画像で肺疾患が主体であることを確認します。
  • 先天性心疾患(短絡性疾患)・アイゼンメンゲル症候群: 心房中隔欠損などの短絡は、成人になってから見つかることもあります。短絡を閉じる手術の適否の判断が治療方針を左右します。
  • 心筋症・収縮性心膜炎など: 息切れや右心不全症状が共通します。心エコーやカテーテル検査で心筋・心膜の異常を評価して区別します。

肺動脈性肺高血圧症の治療

治療の目標は、症状と運動能力を改善し、低リスクの状態を達成・維持して生命予後を改善することです。ESC/ERSガイドラインでは、診断時のリスク評価に基づいて治療を始め、3〜6か月ごとに再評価して目標に届かなければ薬を追加・強化する目標志向型治療が推奨されています。心肺の併存疾患が少ない患者の多くでは、エンドセリン受容体拮抗薬とPDE5阻害薬を最初から併用する初期併用療法が検討されます。高リスクでは、プロスタサイクリン製剤の静注・皮下注を含む治療が検討されます。高齢者や心肺の併存疾患が多い場合は、単剤から慎重に始めることもあります。急性肺血管反応性試験が陽性の一部の患者には、高用量カルシウム拮抗薬が選択されます。薬の選択や組み合わせは病型、重症度、併存疾患、生活背景によって異なるため、専門医とよく相談して決めることが大切です。

  • エンドセリン受容体拮抗薬(ERA): ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタンがあり、血管収縮と増殖を促すエンドセリン経路を遮断します。催奇形性があるため確実な避妊が必要で、薬によって肝機能障害や貧血、浮腫に注意します。
  • NO-cGMP経路の治療薬: PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(リオシグアト)があります。硝酸薬との併用は禁忌で、PDE5阻害薬とリオシグアトの併用も禁忌です。
  • プロスタサイクリン経路の治療薬: 経口薬にはベラプロストとIP受容体作動薬セレキシパグがあります。重症例ではエポプロステノールの持続静注や、トレプロスチニルの持続皮下注・静注が用いられます。持続静注療法は重症PAHの予後を大きく改善しましたが、カテーテル管理と、薬を途切れさせないことが極めて重要です。
  • 新しい作用機序の治療薬: アクチビンシグナルを調整するソタテルセプトが、既存治療への上乗せ効果を示し、海外で承認されています。国内での使用の可否や適応については最新情報を主治医に確認してください。
  • 高用量カルシウム拮抗薬: 急性肺血管反応性試験で陽性となった特発性・遺伝性・薬物誘発性PAHの一部にのみ有効です。反応性が確認されていない患者に使うと、血圧低下や右心不全の悪化を招くおそれがあります。
  • 支持療法: 体液貯留には利尿薬、低酸素血症には酸素療法(在宅酸素療法を含む)を用います。鉄欠乏の補正、不整脈の管理も行います。抗凝固療法は一律には推奨されず、病型や出血リスクに応じて個別に判断します。
  • 運動リハビリテーション: 病状が安定した患者では、専門施設の監視下で行う運動トレーニングが運動耐容能やQOLを改善すると報告されています。自己流の強い運動は避けます。
  • 肺移植: 最大限の内科治療でも高リスクが続く場合に検討します。日本では脳死肺移植の待機期間が長いため、適応の検討は早めに始めることが勧められます。
  • 心房中隔裂開術など: 内科治療が効かない重症右心不全で、右房圧を下げる姑息的な処置として、ごく限られた施設で検討されることがあります。

肺動脈性肺高血圧症の予後・長期フォロー

1990年代以降、エポプロステノールをはじめとする肺血管拡張薬が次々に登場しました。初期併用療法や目標志向型治療の普及もあり、PAHの生命予後は治療薬がなかった時代と比べて大幅に改善しています。日本の専門施設からは、積極的な治療で良好な長期生存が得られたとの報告もあります。予後を左右するのは、治療開始後に低リスクの状態(WHO機能分類I〜II度、良好な6分間歩行距離、BNPの正常化に近い値、右心機能の保持)に到達できるかどうかです。病型による差も大きく、膠原病関連PAH、とくに全身性強皮症に伴うものや、高齢で併存疾患が多い例では予後が厳しい傾向があります。治療がうまくいけば、就学・就労や家庭生活を続けている患者も多くいます。

PAHは長期の管理が必要な慢性疾患です。専門施設と地域の医療機関が連携し、通常3〜6か月ごとにWHO機能分類、6分間歩行距離、BNP/NT-proBNP、心エコーでリスクを再評価します。必要に応じて右心カテーテル検査を行い、治療を調整します。あわせて、薬の副作用(肝機能、貧血、頭痛、下痢、顎の痛み、低血圧など)の監視、持続静注・皮下注を行う場合のカテーテルや刺入部の管理、膠原病など基礎疾患の治療、感染予防を継続します。妊娠を考える年齢の女性では、避妊方法の相談も欠かせません。病状が悪化した場合は、薬の強化と肺移植の適応評価を時機を逃さず行うことが重要です。

肺動脈性肺高血圧症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、息切れ・めまい・胸痛が出るような無理な労作や、いきむ動作、重い物の持ち上げを避けます。主治医と相談しながら、適度な活動量を保ちましょう。<br>・体重と血圧を毎日記録する:急な体重増加は体液貯留のサインです。<br>・塩分と水分:医師の指示に従って摂りすぎに注意します。<br>・感染予防:インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種を検討します。<br>・飲み合わせ:市販薬やサプリメントとの相互作用(PDE5阻害薬と硝酸薬など)に注意します。<br>・高地や飛行機:酸素が薄い環境では悪化することがあるため、事前に主治医に相談し、必要なら機内での酸素使用を手配します。<br>・持続静注療法中の人:予備のポンプや薬剤、緊急連絡先を常に準備し、入浴時のカテーテル保護など指導された管理を守ります。<br>妊娠・出産は母体の死亡リスクが非常に高いため、妊娠を避けることが強く勧められます。ERAには催奇形性があるため、確実な避妊方法について主治医・婦人科医と相談してください。手術や歯科処置で麻酔を受ける際も、必ずPAHであることを伝えます。遺伝性PAHが疑われる場合や家族歴がある場合は、遺伝カウンセリングを受けることで、家族の発症リスクや検査を受けるかどうかの判断について情報を得られます。

利用できる制度・相談窓口

肺動脈性肺高血圧症は指定難病(告示番号86)で、診断基準と重症度基準を満たすと、または軽症でも高額な医療費が継続する場合(軽症高額該当)は、医療費助成を受けられます。高価な肺血管拡張薬や持続静注療法を続けるうえで重要な制度です。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に提出します。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となります。<br>そのほか、次の制度が利用できる場合があります。<br>・高額療養費制度<br>・心臓機能障害または呼吸器機能障害による身体障害者手帳(障害の程度による)<br>・障害年金(日常生活や就労への支障の程度による)<br>・在宅酸素療法への保険適用<br>・介護保険:原則65歳以上で要介護認定を受けた場合。PAHは40〜64歳で介護保険を利用できる「特定疾病」には含まれません。<br>・障害者総合支援法による障害福祉サービス(難病患者も対象)<br>相談窓口としては、都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、保健所の保健師、患者会があります。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターも活用できます。

肺動脈性肺高血圧症に伴う心のケア・心理社会的支援

PAHは若い世代に多いため、進学、就職、結婚、出産といった人生の節目と重なりやすい病気です。「妊娠を避けるべき」と告げられることや、外見ではわかりにくい息切れを周囲に理解してもらえないことは、大きな精神的負担になります。持続静注ポンプを常に身につける生活、薬が途切れることへの不安、病状が悪化することや肺移植を待つことへの恐れ、高額な治療費や就労継続の悩みも重なります。こうした状況から、抑うつ、不安障害、適応障害が少なくないことが報告されています。気分の落ち込みや不眠、意欲の低下が続く場合は、我慢せずに主治医や看護師に伝えてください。必要に応じて心療内科・精神科、公認心理師などの支援を受けることが大切です。家族も介護や将来への不安を抱えやすいため、患者会や難病相談支援センターで同じ経験を持つ人と交流すると、孤立感の軽減につながります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

肺動脈性肺高血圧症の受診の目安

  • 階段や坂道での息切れ・疲れやすさが、以前より明らかに強くなってきた場合は、早めに受診してください。
  • 運動中や運動直後に意識を失った、または気が遠くなった場合は、速やかに医療機関を受診してください。
  • 数日で体重が2kg以上増えた、むくみや腹部の張りが急に強くなった場合は、主治医に連絡してください。
  • 安静にしていても息苦しい、胸痛が続く、唇が紫色になる、喀血した場合は、救急受診してください。
  • 持続静注・皮下注ポンプが止まった、カテーテルが抜けた・破損した場合は、薬の中断で急激に悪化するおそれがあるため、ただちに専門施設に連絡してください。
  • カテーテル刺入部の発赤・腫れ・膿、または発熱がある場合は、カテーテル感染の可能性があるため早急に受診してください。

肺動脈性肺高血圧症についてのよくある質問

Q. 肺動脈性肺高血圧症は治りますか?

A. 現在のところ根本的に治す治療法は確立していません。ただし、複数の治療薬を組み合わせることで症状が大きく改善し、長期にわたり安定した生活を送る人が増えています。早く診断し、専門施設で治療を最適化することが重要です。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 多くの患者は遺伝性ではありませんが、BMPR2などの遺伝子変異による遺伝性PAHがあります。変異は常染色体顕性(優性)遺伝で受け継がれますが、変異を持っていても発症しない人も多くいます。心配な場合は遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

Q. 妊娠・出産はできますか?

A. 妊娠中は循環血液量が大きく増えるため、PAHでは母体の死亡リスクが非常に高く、妊娠は避けるよう強く勧められています。一部の治療薬には胎児への影響もあるため、確実な避妊方法を主治医・婦人科医と相談してください。

Q. 運動はしてもよいですか?

A. 安静にしすぎると体力が落ちるため、病状が安定していれば適度な活動が勧められます。息切れ・めまい・胸痛を起こすような激しい運動は危険なため、運動の強さや方法は主治医やリハビリ専門職と相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。