肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症
Pulmonary Veno-Occlusive Disease/Pulmonary Capillary Hemangiomatosis
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(Pulmonary Veno-Occlusive Disease/Pulmonary Capillary Hemangiomatosis)|肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)は、肺の細い静脈や毛細血管が狭くなったり異常に増えたりすることで肺高血圧症を起こす、きわめてまれで進行性の病気です。主に若年から中高年の成人に発症し、息切れから始まって右心不全や強い低酸素血症に至ります。肺動脈性肺高血圧症(PAH)と似ていますが、PAHの治療薬で肺水腫が起こりうる点や、根本的な治療が肺移植に限られる点で大きく異なります。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の要点
肺の細い静脈や毛細血管が狭くなる、または異常に増えることで肺高血圧症を起こす、きわめてまれな進行性の病気です。若年から中高年の成人に多く、息切れで始まり右心不全や低酸素血症に至り、PAH治療薬で肺水腫を生じうる点が特徴で、国の指定難病(告示番号87)です。
| 別名・略称 | PVOD、PCH、PVOD/PCH、肺静脈閉塞性疾患 |
|---|---|
| 分野 | 呼吸器疾患 |
| 遺伝形式 | 遺伝性ではEIF2AK4遺伝子の両アレル変異(常染色体潜性)。特発性や関連因子によるものもある |
| 好発年齢 | 主に若年から中高年の成人 |
| 主な症状 | 息切れ、右心不全、強い低酸素血症 |
| 主な検査 | 右心カテーテル検査(肺動脈楔入圧は正常で前毛細血管性肺高血圧のパターン) |
| 主な治療 | 根本的な治療は肺移植。PAH治療薬は肺水腫を起こすことがあり注意が必要 |
| 受診する主な診療科 | 呼吸器内科、循環器内科(肺高血圧症の専門施設) |
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症とは
肺静脈閉塞症(pulmonary veno-occlusive disease: PVOD)は、肺胞中隔の静脈や小葉間隔壁の細静脈(肺細静脈・小静脈)が、内膜の線維性肥厚によって狭くなったり閉塞したりする疾患です。肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)は、肺胞壁の毛細血管が二重・三重に層をなして増殖し、間質や気管支・血管周囲へ広がる疾患です。どちらも肺循環の『毛細血管から静脈側』に主な病変があり、結果として肺血管抵抗が上がり、肺動脈圧が上昇して右心室に負担がかかります。心臓カテーテル検査では左心系の圧を反映する肺動脈楔入圧(PAWP)が正常にとどまり、前毛細血管性肺高血圧症のパターンを示すのが特徴です。閉塞が小さな静脈レベルにあるため、カテーテル先端で測る楔入圧には反映されにくいと考えられています。
PVODとPCHは歴史的には別々の病気として報告されてきました。しかし病理学的には同じ患者で両方の所見が重なることが多く、共通の原因遺伝子(EIF2AK4)も見つかりました。このため現在は、一連の病態(スペクトラム)として扱われています。肺高血圧症の国際臨床分類(ニース分類)では、第1群(肺動脈性肺高血圧症)の亜群として位置づけられてきました。2015年版では『1'』、2022年のESC/ERSガイドラインでは『静脈/毛細血管病変(PVOD/PCH)の特徴を有するPAH』として第1群の中に分類されています。病型は、原因がはっきりしない特発性、遺伝性(主にEIF2AK4遺伝子の両アレル変異)、関連因子をもつもの(抗がん剤などの薬剤・化学物質への曝露、全身性強皮症などの膠原病、造血幹細胞移植後など)に分けて考えられます。日本では指定難病(告示番号87)に指定されています。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の疫学・患者数
PVOD/PCHは非常にまれな疾患です。海外の登録研究では、年間発症率は人口100万人あたり1人未満と推定されています。ただし、PAHと臨床診断された患者の一部(報告によっては1割前後)に実際にはPVOD/PCHが含まれているとされ、真の頻度は過小評価されている可能性があります。日本の患者数は、指定難病の受給者証所持者数でみても少数(全国で数十〜百数十人程度の規模)にとどまると考えられ、確定診断に至っていない例も多いと推測されます。発症年齢は小児から高齢者まで幅広く分布します。遺伝性(EIF2AK4関連)の例は20〜30歳代前後の若年で発症しやすく、男女差は目立ちません。一方、遺伝性でない例は中高年に多く、男性や喫煙者にやや多いとの報告があります。PAHが若年女性に多いのとは対照的です。両親が血縁関係にある家系での発症例も報告されています。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の原因・病態生理
病因は多様で、複数の要因が重なると考えられています。①遺伝的要因:2014年に、遺伝性PVOD/PCHの原因としてEIF2AK4遺伝子(GCN2というキナーゼをコードする)の両アレル変異が報告されました。遺伝形式は常染色体劣性(潜性)遺伝で、家族歴のある例や若年発症例の多くにこの変異が認められます。孤発例の一部でも同定されています。GCN2はアミノ酸欠乏などの細胞ストレスに応答して翻訳を制御する分子で、その機能喪失が血管のリモデリングに関わると推測されていますが、詳しい機序はまだ研究段階です。なお、PAHの主要な原因遺伝子であるBMPR2の変異がPVODで見つかった例も報告されています。②薬剤・化学物質:アルキル化薬(シクロホスファミド、マイトマイシンCなど)を含む抗がん剤、造血幹細胞移植の前処置、トリクロロエチレンなどの有機溶剤への職業曝露、喫煙が危険因子として報告されています。③基礎疾患:全身性強皮症をはじめとする膠原病、サルコイドーシス、HIV感染症などに伴って起こることがあります。
発症の中心となるのは、肺の小静脈・細静脈の内膜が線維性に厚くなって内腔が狭まり閉塞することと、肺胞壁の毛細血管が増殖することです。静脈側が狭くなると、その上流にある毛細血管の圧が上がってうっ血が起こります。これにより、肺胞壁の毛細血管の拡張や増殖、間質の浮腫、小葉間隔壁の肥厚、リンパ管の拡張が生じます。さらに、毛細血管から赤血球が肺胞内へ漏れ出す潜在性肺胞出血(ヘモジデリンを取り込んだマクロファージの出現)が起こります。こうした変化によって肺胞でのガス交換が強く障害されるため、同程度の肺高血圧を示すPAHと比べて、肺拡散能(DLCO)の低下と低酸素血症が目立ちます。肺動脈側にも、中膜肥厚や内膜線維化などのリモデリングがしばしば合併します。肺血管抵抗は持続的に上昇し、右心室は肥大・拡張して、最終的に右心不全に陥ります。臨床上とくに重要なのは、肺血管拡張薬を使ったときの反応です。薬で肺動脈(前毛細血管側)が広がって血流が増えても、出口にあたる静脈が狭いままであるため、毛細血管の静水圧が急に上がり、薬剤誘発性肺水腫を起こすことがあります。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の症状
- 労作時息切れ: 最も多い初発症状で、階段や坂道で息が切れ、徐々に軽い動作でも苦しくなります。気管支喘息や運動不足と誤解され、診断が遅れる原因になります。
- 易疲労感・全身倦怠感: 心拍出量の低下と低酸素により、疲れやすさやだるさが続きます。
- 低酸素血症・チアノーゼ: 安静時から酸素飽和度が低いことが多く、労作時にはさらに大きく低下します。重症になると唇や指先が紫色になります。
- 失神・めまい: 運動中や運動直後に、心拍出量が保てず意識を失うことがあります。重症化を示す危険な徴候です。
- 胸痛・胸部圧迫感: 右心室の虚血や肺動脈の拡張によって、労作時に胸の痛みや圧迫感が生じることがあります。
- 動悸: 右心負荷に伴う頻脈や不整脈によって起こります。
- 咳嗽: 肺うっ血や間質浮腫を反映して、乾いた咳が続くことがあります。
- 血痰・喀血: 肺胞出血や毛細血管の破綻により、まれに血の混じった痰が出ることがあります。
- 下腿浮腫・体重増加: 右心不全の進行により、足のむくみや短期間での体重増加がみられます。
- 腹部膨満・食欲低下: 肝臓のうっ血や腹水によって、お腹の張りや食欲の低下が起こります。
- ばち指: 慢性の低酸素により、指先が太鼓のばち状に膨らむことがあります。PAHより頻度が高いとする報告があります。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の経過と合併症
PVOD/PCHは一般に、PAHよりも進行が速い疾患です。初期は労作時の息切れだけで、診察や胸部X線で異常がはっきりしないことも多く、症状が出てから診断までに1年以上かかることも珍しくありません。診断された時点で、すでにWHO機能分類のIII〜IV度(日常の軽い動作で息切れが出る、あるいは安静時にも症状がある)の重症例が多いとされます。肺血管拡張薬の効果は限られていて長続きしにくく、移植を受けない場合の生存期間は診断から1〜2年程度と短い例が多いと報告されています。ただし、遺伝的背景や病理の組み合わせによって経過には個人差があります。
主な合併症として、右心不全(浮腫、腹水、肝うっ血、腎機能障害)、強い低酸素血症による呼吸不全、不整脈(心房粗動・心房細動などで急激に悪化しうる)、突然死があります。治療に関連したものとして、肺血管拡張薬による急性肺水腫がとくに重要です。喀血、気道感染を契機とした急性増悪、肺動脈の拡張による左冠動脈の圧迫などが起こることもあります。膠原病に関連する例では、基礎疾患による間質性肺疾患や腎障害も重なることがあります。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の診断・診断基準
診断では、まず心エコーなどで肺高血圧症を疑い、右心カテーテル検査で前毛細血管性肺高血圧症(安静時の平均肺動脈圧の上昇、肺動脈楔入圧15mmHg以下、肺血管抵抗の上昇)を確認します。そのうえで、左心疾患、肺疾患、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)など他の原因を除外していきます。ここまではPAHと共通です。PVOD/PCHを疑う手がかりは、①高分解能CTでの特徴的な3所見、②著しいDLCO低下と強い低酸素血症、③喫煙・抗がん剤・有機溶剤などへの曝露歴、④家族歴や血縁婚の有無、⑤肺血管拡張薬投与後の肺水腫です。確定診断は本来、肺組織の病理所見によります。しかし重症肺高血圧の患者に外科的肺生検を行うのは危険が大きいため、通常は推奨されません。実際には、臨床所見・画像・生理検査を組み合わせて臨床的に診断し、可能であれば遺伝学的検査を行います。最終的には、移植時に摘出した肺や剖検で病理学的に確認されることも多い疾患です。日本の指定難病の診断基準も、こうした臨床所見の組み合わせと除外診断、病理・遺伝学的所見をもとに構成されています。
- 心エコー検査: 三尖弁逆流の速度から推定する右室収縮期圧の上昇、右室・右房の拡大、心室中隔の扁平化などで肺高血圧症をスクリーニングします。左心疾患や先天性心疾患の除外にも用います。
- 右心カテーテル検査: 診断に必須の検査で、平均肺動脈圧の上昇、肺動脈楔入圧の正常値、肺血管抵抗の上昇を確認します。急性血管反応性試験は、肺水腫を誘発するおそれがあるため慎重に判断されます。
- 胸部高分解能CT(HRCT): 小葉中心性のすりガラス影、小葉間隔壁の肥厚(隔壁線)、縦隔リンパ節腫大の3所見が特徴です。2つ以上そろうとPVOD/PCHを強く疑います。
- 呼吸機能検査(DLCO): 肺活量などの換気機能が比較的保たれているのに、肺拡散能(DLCO)が著しく低下します(予測値の50%未満の例が多い)。PAHとの鑑別に有用です。
- 動脈血ガス分析・6分間歩行試験: 安静時の低酸素血症と、歩行時の著しい酸素飽和度低下を認めます。歩行距離は重症度や治療効果の評価に使われます。
- 気管支肺胞洗浄(BAL): ヘモジデリンを取り込んだマクロファージの増加(潜在性肺胞出血)がみられることがあります。重症例では安全性を考慮して実施を判断します。
- 遺伝学的検査: EIF2AK4遺伝子の両アレル変異が見つかれば、遺伝性PVOD/PCHの診断根拠になります。結果の解釈と家族への影響について、遺伝カウンセリングを併せて行います。
- 換気血流シンチグラフィ・造影CT: CTEPHを除外するために行います。PVOD/PCHでは、区域性の明らかな血流欠損は通常認めません。
- 血液検査(BNP/NT-proBNP、自己抗体など): BNPは右心負荷の程度と経過を評価する指標です。膠原病関連の病態を評価するため、抗核抗体などの自己抗体を測定します。HIVや肝疾患の評価も行います。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症と鑑別すべき疾患
- 肺動脈性肺高血圧症(PAH): 血行動態は同じですが、PAHではHRCTの3所見や著しいDLCO低下が乏しく、肺血管拡張薬で肺水腫を起こしにくい点が異なります。
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH): 換気血流シンチで区域性の血流欠損があり、造影CTや肺動脈造影で器質化血栓を認めます。
- 左心疾患による肺高血圧症(心不全・僧帽弁疾患など): 同じようにうっ血性のCT所見を示しますが、肺動脈楔入圧が上昇している点で区別できます。
- 間質性肺炎など肺疾患に伴う肺高血圧症: CTで線維化や蜂巣肺が主体となり、拘束性換気障害を伴います。すりガラス影の分布が異なります。
- 先天性肺静脈狭窄症・線維性縦隔炎などによる肺静脈閉塞: 中枢側(太い部分)の肺静脈の狭窄は、造影CTや心臓カテーテルで直接確認できます。
- びまん性肺胞出血(血管炎など): 肺胞出血の所見は共通しますが、急性経過やANCAなどの血清学的所見、腎病変の有無で区別します。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の治療
現時点で、PVOD/PCHの進行を確実に止める内科的治療は確立していません。根治が期待できる唯一の治療は肺移植です。そのため治療の基本方針は、①診断がついた段階(あるいは強く疑われた段階)で、できるだけ早く肺移植実施施設に紹介し、適応の評価と登録を進めること、②移植までの間、酸素療法と利尿薬を中心とした支持療法で状態を保つこと、③肺血管拡張薬は肺水腫のリスクを理解したうえで、肺高血圧症の専門施設で慎重に使用を検討すること、の3点です。病状の変化が速いため、肺高血圧症専門医、呼吸器内科、循環器内科、移植医療チームが連携して治療計画を立てます。治療内容は個々の病状によって大きく異なるため、主治医・専門医とよく相談して決めることが大切です。
- 肺移植(脳死両肺移植・生体肺移植): 長期生存が期待できる唯一の根治的治療です。日本では脳死ドナーを待つ期間が長いため、早期の登録が重要です。施設によっては生体肺移植も選択肢となります。
- 酸素療法(在宅酸素療法): 低酸素血症の改善と肺血管収縮の軽減を目的とします。安静時・労作時・睡眠時それぞれの必要量を評価して処方されます。
- 利尿薬: 右心不全による体液の貯留を改善します。肺血管拡張薬を使う際の肺水腫の予防・軽減にも重要な役割を果たします。
- 肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、プロスタサイクリン系薬など): 一部の患者で血行動態や症状の改善が報告されていますが、肺水腫を誘発する危険があります。専門施設で少量から開始し、慎重に増量・監視しながら、主に移植までの橋渡しとして用いられることがあります。
- 強心薬・集中治療: 重症の右心不全では、入院のうえ強心薬の点滴を行います。施設によっては、移植への橋渡しとして体外式膜型人工肺(ECMO)などの補助が検討されることがあります。
- 基礎疾患・誘因への対応: 禁煙、有機溶剤などへの曝露回避を行います。膠原病関連の例では、基礎疾患の治療を専門医と調整します。
- その他の薬物療法: 抗凝固療法は一律には推奨されておらず、喀血のリスクも踏まえて個別に判断されます。イマチニブなどが有効だったとする症例報告もありますが、効果は確立していない研究段階の治療です。
- 呼吸・心臓リハビリテーションと栄養管理: 病状が安定していれば、専門職の監督下で無理のない範囲の運動療法を行うことがあります。移植に向けた体力の維持や栄養状態の改善にも役立ちます。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の予後・長期フォロー
PVOD/PCHの予後は、肺高血圧症の中でも不良な部類に入ります。移植を受けない場合、診断からの生存期間は1〜2年程度とする報告が多くあります。肺血管拡張薬による改善は一時的なことが多く、強い低酸素血症のため日常生活の動作が制限され、QOLは大きく損なわれます。一方、肺移植を受けた場合の成績は、他の肺高血圧症に対する移植と同程度と報告されており、移植によって長期生存と社会復帰が可能になる例もあります。若年発症の遺伝性例では、病状の進行と移植待機の時間との兼ね合いが特に重要になります。
長期のフォローアップでは、肺高血圧症専門施設で数か月ごと(状態に応じてより短い間隔)に評価を受けます。評価項目は、WHO機能分類、6分間歩行試験、BNP/NT-proBNP、心エコー、酸素飽和度などで、必要に応じて右心カテーテル検査も行います。これらに基づいてリスク評価と移植適応の見直しを繰り返します。肺血管拡張薬を使っている場合は、体重増加、息切れの悪化、CT上の肺水腫の兆候に特に注意します。移植後は、拒絶反応、感染症、慢性移植肺機能不全などに対して、移植施設での生涯にわたる管理が必要です。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、息切れや酸素飽和度の低下を目安に、無理のない活動量を保ちます。息を止めていきむ動作や、重い物を持つこと、急な階段昇降は避けます。在宅酸素は指示どおりに使い、入浴や食事、排便など酸素消費が増える場面でも適切に使用します。塩分と水分は主治医の指示に従って管理し、毎日体重を測ってむくみの変化を記録しましょう。禁煙は必須で、受動喫煙や有機溶剤への曝露も避けます。感染は急な悪化のきっかけになるため、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種と手洗いを心がけます。高地や航空機での移動では低酸素が強まるため、事前に主治医と相談してください。妊娠は母体の生命に関わる危険がきわめて高いため、避妊を含めて専門医と十分に相談することが重要です。他院で処方を受ける際や市販薬を使う際には、必ず病名と服用中の薬を伝えます。遺伝性(EIF2AK4関連)は常染色体劣性遺伝のため、患者のきょうだいが同じ変異を2つ受け継いでいる可能性があります(理論上4分の1)。また、両親や子どもは保因者となりえます。保因者は通常発症しませんが、家族への説明や検査の希望については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用することが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症は指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに都道府県・指定都市へ申請すると、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさなくても、医療費が一定額以上かかる場合は『軽症高額該当』として対象になることがあります。在宅酸素療法は健康保険の適用となり、高額療養費制度も併用できます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の小児では、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となりうるため、主治医や自治体窓口に確認してください。障害の程度に応じて、身体障害者手帳(呼吸器機能障害または心臓機能障害)、障害年金、障害福祉サービスを利用できることがあります。65歳以上であれば介護保険による在宅サービスも利用できます。肺移植については、日本臓器移植ネットワークへの登録手続きを移植施設が支援します。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW)、難病情報センターのウェブサイトのほか、肺高血圧症の患者会も活用できます。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談できます。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症に伴う心のケア・心理社会的支援
難病の診断は、それだけで強い不安や喪失感をもたらします。PVOD/PCHでは、進行が速いこと、有効な内科治療が限られていること、根治のためには肺移植が必要になることが重なり、患者と家族の心理的負担はとくに大きくなります。移植待機中は、『いつ順番が来るか分からない』という先の見えない状態や、ドナーの死に関わる複雑な感情、手術への恐怖を抱えることがあります。息苦しさそのものも、パニック様の不安や不眠を引き起こします。在宅酸素を使うことで外見や行動範囲が変わり、就学・就労・結婚・妊娠といった人生設計の見直しを迫られることも、抑うつや適応障害の原因になりえます。遺伝性の場合は、家族内での罪悪感や、きょうだいの検査をめぐる葛藤が生じることもあります。こうした気持ちは誰にでも起こりうる自然な反応です。一人で抱え込まず、主治医、看護師、MSW、移植コーディネーター、心理職(公認心理師)、必要に応じて精神科・心療内科に早めに相談してください。家族も支援の対象です。患者会で同じ経験をもつ人と交流することが支えになる場合もあります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症の受診の目安
- 息切れが以前より明らかに悪化した、または安静にしていても息苦しい場合は、速やかに主治医に連絡してください。
- 肺血管拡張薬を開始・増量した後に、急に息苦しさが増したり、泡状の痰が出たり、横になると苦しくなったりした場合は、肺水腫の可能性があるため救急受診してください。
- 失神した、意識が遠のいた、強い胸痛が続く場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
- 酸素を使っていても酸素飽和度が普段より大きく低下する、または唇や指先の紫色が強くなった場合は、すぐに受診してください。
- 数日で体重が2kg前後増えた、足のむくみやお腹の張りが強くなった場合は、右心不全悪化のサインとして早めに受診してください。
- 喀血(まとまった量の血を吐く)や、発熱を伴う咳・痰が出た場合は、早急に医療機関に連絡してください。
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症についてのよくある質問
Q. 肺動脈性肺高血圧症(PAH)とはどう違うのですか?
A. どちらも心臓カテーテル検査では同じタイプの肺高血圧症を示しますが、PVOD/PCHは主な病変が肺の毛細血管や小静脈側にあります。そのためCTでの特徴的な影、肺拡散能の著しい低下、強い低酸素がみられます。PAHの治療薬で肺水腫を起こすことがあり、進行も速い傾向にあるため、区別することが治療方針に直結します。
Q. PAHの薬は使えないのですか?
A. 禁止されているわけではなく、専門施設では利尿薬や酸素と組み合わせ、少量から慎重に使って症状が改善する例もあります。ただし肺水腫を起こす危険があるため、自己判断で増量・中止せず、主治医の指示と監視のもとで使用することが大切です。
Q. 肺移植はいつ考えればよいのですか?
A. PVOD/PCHでは、診断がついた時点で移植施設への紹介を検討することが国際的に推奨されています。日本では待機期間が長いため、早めに適応評価を受けておくことが重要です。具体的な時期や適応については、主治医と移植施設で相談してください。
Q. 子どもやきょうだいに遺伝しますか?
A. 遺伝性のPVOD/PCH(主にEIF2AK4遺伝子変異)は常染色体劣性遺伝で、両親から変異を1つずつ受け継いだ場合に発症します。患者さんの子どもは通常保因者となり、発症する可能性は低いとされます。一方、きょうだいは同じ遺伝型をもつ可能性があります。遺伝性でない例も多いため、遺伝カウンセリングで個別に相談することをお勧めします。
関連記事(関連する指定難病)
- 肺動脈性肺高血圧症 Pulmonary Arterial Hypertension
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension
- 全身性強皮症 Systemic Sclerosis, SSc
- 特発性間質性肺炎 Idiopathic Interstitial Pneumonia
- 先天性肺静脈狭窄症 Congenital Pulmonary Vein Stenosis
- サルコイドーシス Sarcoidosis
- 混合性結合組織病 Mixed Connective Tissue Disease, MCTD
- オスラー病 Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia (Osler-Weber-Rendu Disease)
同じ分野(呼吸器疾患)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。