慢性血栓塞栓性肺高血圧症

Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension)|慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、肺の動脈に血栓(血のかたまり)が溶けきらずに残り、器質化(線維化)して血管を狭めたり詰まらせたりすることで、肺動脈の圧が持続的に高くなる病気です。息切れや疲れやすさから始まり、進行すると右心不全を起こして生命に関わります。一方で、外科手術・カテーテル治療・薬物療法の進歩により、治療で大きな改善が期待できる肺高血圧症でもあります。日本では指定難病(告示番号88)に指定されています。血小板減少や紫斑を主な症状とする特発性血小板減少性紫斑病とはまったく別の病気で、脾臓摘出術やステロイドは本疾患の標準的な治療ではありません。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の要点

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、肺動脈の血栓が溶けずに器質化して血管を狭窄・閉塞し、肺動脈圧が持続的に上昇する病気です。息切れや疲れやすさで始まり、進行すると右心不全を来す指定難病(告示番号88)で、手術やカテーテル治療で改善が期待できます。

別名・略称CTEPH、慢性血栓塞栓性肺高血圧、慢性肺血栓塞栓症、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症
分野循環器・先天性心疾患
分類肺高血圧症臨床分類 第4群(肺動脈閉塞による肺高血圧症)
主な症状労作時の息切れ、疲れやすさ、進行すると右心不全
主な検査肺換気血流シンチグラフィ、造影CT・肺動脈造影、右心カテーテル検査
主な治療肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、リオシグアト、抗凝固療法
受診する主な診療科循環器内科、呼吸器内科、心臓血管外科
指定難病告示番号88

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

慢性血栓塞栓性肺高血圧症とは

CTEPHは、肺高血圧症の臨床分類(ニース分類およびその改訂版)で第4群(肺動脈閉塞による肺高血圧症)に属する病気です。急性肺血栓塞栓症などで肺動脈に生じた血栓が、通常は抗凝固療法や体内の線溶系(血栓を溶かすしくみ)により溶解されるところ、何らかの理由で溶けずに残り、線維性の組織に置き換わって血管壁に固着します。その結果、肺動脈内に膜状の構造(web)や索状物(band)、袋状の閉塞(pouch)、完全閉塞などが生じ、肺血管抵抗が上昇して右心室に負担がかかります。診断には、十分な期間(一般に3か月以上)の有効な抗凝固療法を行っても残存する器質化血栓を画像で確認し、右心カテーテル検査で前毛細血管性肺高血圧を証明することが必要です。肺高血圧の血行動態基準は、2022年の欧州心臓病学会/欧州呼吸器学会(ESC/ERS)ガイドラインで平均肺動脈圧20 mmHg超、肺動脈楔入圧15 mmHg以下、肺血管抵抗2 Wood単位超へと改訂されましたが、日本の指定難病の認定は厚生労働省の定める診断基準に従って行われます。

CTEPHはかつて極めてまれで予後不良の病気と考えられていましたが、1980〜90年代以降、米国サンディエゴを中心に肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が確立され、根治が期待できる病気へと変わりました。さらに2010年前後からは、日本の複数施設が中心となってバルーン肺動脈形成術(BPA)の手技が洗練され、手術が困難な末梢型病変にも有効な治療として世界的に普及しました。薬物療法では可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬リオシグアトが、手術不適応または術後残存・再発例に対する初の承認薬となりました。また近年は、平均肺動脈圧が安静時には基準を満たさないものの、器質化血栓による血流障害と運動時の症状がある状態を「慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)」として包括的に捉える考え方も提唱されています。病変の分布により、主肺動脈〜区域枝近位にある中枢型と、区域枝〜亜区域枝以遠にある末梢型に大別され、治療法選択の重要な手がかりとなります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の疫学・患者数

CTEPHは急性肺血栓塞栓症を経験した人の一部(報告により幅があり、おおむね数%前後とされる)に発症すると考えられていますが、急性肺塞栓症の既往がはっきりしない患者も少なくありません。日本では指定難病として医療費助成を受けている患者が数千人規模で存在し、診断技術の普及や認知度の向上に伴って増加傾向にあります。ただし、息切れの原因が見逃されている未診断例も相当数あると推測されています。発症年齢は中高年に多く、50〜70歳代が中心ですが、若年者にもみられます。日本の特徴として、欧米では明らかな性差がないのに対し女性に多いこと、深部静脈血栓症の既往が比較的少ないこと、日本人ではHLA-B*52:01など特定のHLA型との関連が報告されていることが挙げられ、欧米とは一部異なる病型が存在する可能性が指摘されています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の原因・病態生理

CTEPHは遺伝性疾患ではなく、単一の原因遺伝子は知られていません。最も重要な背景は静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症)の既往、特に再発例や、初発時に広範囲の塞栓や高い肺動脈圧を伴った例です。そのほか、危険因子として、抗リン脂質抗体症候群(ループスアンチコアグラントを含む)、凝固第VIII因子高値、血液型が非O型、脾臓摘出後、脳室心房シャントや感染したペースメーカー・中心静脈カテーテルなどの留置、悪性腫瘍、炎症性腸疾患などの慢性炎症性疾患、甲状腺ホルモン補充療法などが報告されています。一方、プロテインC・プロテインS・アンチトロンビン欠乏症などの先天性血栓性素因は、静脈血栓症の危険因子であるものの、CTEPHに特異的に多いとは必ずしもいえないとされています。

発症機序の中心は、血栓の溶解不全と器質化です。通常、肺に詰まった血栓は数週〜数か月で溶けて血流が回復しますが、CTEPHでは線溶抵抗性のフィブリン、局所の炎症、血管新生の障害、感染などが関与して血栓が溶けずに残り、内皮に覆われた線維性組織へ置き換わります。これにより肺動脈の機械的閉塞・狭窄が生じます。さらに、閉塞を免れた肺血管にも、過剰な血流やずり応力、炎症性サイトカインなどの影響で、肺動脈性肺高血圧症に類似した微小血管病変(小動脈のリモデリング)が二次的に進行します。気管支動脈など体循環系からの側副血行も発達します。機械的閉塞と微小血管病変の両方が肺血管抵抗を押し上げ、右心室は高い圧に抗して血液を送り出すために肥大・拡大し、やがて右心不全に至ります。微小血管病変の程度は、手術後に肺高血圧が残る(残存肺高血圧)リスクと関係するとされています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の症状

  • 労作時息切れ: 最も多い初発症状で、坂道や階段で息が切れやすくなります。ゆっくり進行するため、年齢や体力低下のせいと見過ごされがちです。
  • 易疲労感・倦怠感: 運動時に心拍出量が十分に増えないため、疲れやすさや体力の低下を自覚します。
  • 胸痛・胸部圧迫感: 右心室の虚血や拡大した肺動脈による圧迫などが関与し、労作時に胸の痛みや締め付け感が出ることがあります。
  • 失神・めまい: 運動時に脳へ十分な血液が送れなくなって起こり、重症化のサインとして重要です。
  • 動悸: 右心負荷や不整脈(心房細動・心房粗動など)により動悸を感じることがあります。
  • 下肢のむくみ: 右心不全が進むと体液がたまり、足首やすねにむくみが出現します。深部静脈血栓症による片側性の腫脹がみられることもあります。
  • 腹部膨満・食欲不振: 右心不全によるうっ血肝や消化管のむくみ、腹水によって、お腹の張りや食欲低下が起こります。
  • 血痰・喀血: 発達した気管支動脈などの側副血行や肺梗塞が原因で、血の混じった痰や喀血がみられることがあります。
  • 低酸素血症・チアノーゼ: 換気と血流の不均衡により血液中の酸素が低下し、唇や指先が紫色になることがあります。
  • 咳・胸膜痛: 血栓塞栓の再発や肺梗塞に伴い、乾いた咳や呼吸で増強する胸の痛みが出ることがあります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の経過と合併症

多くの場合、急性肺血栓塞栓症の後に一時的に症状が改善する「ハネムーン期」を経て、数か月〜数年かけて徐々に息切れが進行します。急性肺塞栓症のエピソードがはっきりせず、気づかないうちに少しずつ進行する例もあります。重症度はWHO肺高血圧症機能分類(I〜IV度)などで評価され、日常生活で症状が出るIII度以上では右心不全が顕在化しやすくなります。未治療で平均肺動脈圧が高い例の生命予後は不良であることが古くから知られていますが、現在は適切な治療により経過が大きく変わります。診断が遅れるほど右心機能障害や微小血管病変が進み、治療の効果が限られる可能性があるため、早期発見・早期の専門施設紹介が重要です。

主な合併症は右心不全で、うっ血肝、腎機能障害、低心拍出による臓器障害を来します。そのほか、心房細動などの上室性不整脈(右心不全を急激に悪化させることがある)、静脈血栓塞栓症の再発、側副血行からの喀血、拡大した肺動脈による左冠動脈主幹部の圧迫、突然死があります。また、生涯にわたる抗凝固療法に伴う出血(消化管出血、脳出血など)も重要な合併症です。治療に関連しては、肺動脈血栓内膜摘除術後の再灌流性肺水腫や残存肺高血圧、バルーン肺動脈形成術に伴う肺動脈損傷・肺出血などがあり、経験豊富な施設での管理が求められます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断・診断基準

診断は、「息切れの原因として肺高血圧を疑う」ことから始まります。心エコー検査で肺高血圧が疑われた場合、あるいは急性肺塞栓症の治療後も息切れが続く場合には、肺換気血流シンチグラフィでCTEPHのスクリーニングを行うことが推奨されています。シンチで区域性の血流欠損(換気は保たれる「ミスマッチ」)を認めれば、造影CTや肺動脈造影で器質化血栓の部位と形態を確認し、右心カテーテル検査で血行動態を測定して確定します。診断後は、手術・カテーテル治療・薬物療法のいずれが適しているかを判断するため、CTEPH診療に精通した外科医・循環器内科医・放射線科医などの多職種チームによる評価が重要です。あわせて、抗リン脂質抗体などの血栓性素因の検索や、肺疾患・左心疾患など他の肺高血圧の原因の除外を行います。

  • 心エコー検査: 三尖弁逆流速度から推定した肺動脈収縮期圧の上昇、右心室・右心房の拡大、心室中隔の扁平化、下大静脈の拡張などを評価します。非侵襲的なスクリーニングと経過観察に用いられます。
  • 肺換気血流シンチグラフィ: 換気が保たれているのに区域性に血流が欠損する「ミスマッチ」がCTEPHの特徴で、正常であればCTEPHはほぼ否定できます。CTより感度が高いとされ、スクリーニングに推奨されます。
  • 造影CT(CT肺動脈造影): 肺動脈壁に沿った偏在性の血栓、web・band、狭窄・閉塞、肺動脈の拡大、気管支動脈の発達、モザイク状の肺野濃度などを描出します。デュアルエナジーCTで肺血流分布を評価する施設もあります。
  • 右心カテーテル検査: 平均肺動脈圧、肺動脈楔入圧、心拍出量、肺血管抵抗を直接測定し、前毛細血管性肺高血圧を確定します。重症度評価と治療効果判定にも不可欠です。
  • 肺動脈造影: pouch(袋状閉塞)、web・band、急な先細り、完全閉塞などの病変形態と分布を詳細に把握し、手術やバルーン肺動脈形成術の適応判断に用います。
  • 血液検査(BNP/NT-proBNPなど): BNPやNT-proBNPは右心負荷の程度を反映し、重症度と治療効果の指標になります。抗リン脂質抗体、ループスアンチコアグラント、プロテインC・S、アンチトロンビンなど血栓性素因も確認します。
  • 動脈血ガス分析・呼吸機能検査: 低酸素血症や低二酸化炭素血症の有無を評価します。呼吸機能検査や胸部CTで、肺疾患による肺高血圧との区別を行います。
  • 6分間歩行試験・心肺運動負荷試験: 歩行距離や歩行中の酸素飽和度低下、運動耐容能を評価し、重症度判定や治療効果の判定に用います。
  • 下肢静脈エコー・診断基準: 深部静脈血栓症の残存を確認します。指定難病の認定には、厚生労働省の診断基準に沿って画像所見と右心カテーテル検査による血行動態を記載した臨床調査個人票が必要です。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症と鑑別すべき疾患

  • 肺動脈性肺高血圧症(PAH): 肺換気血流シンチで区域性欠損を示さず、中枢肺動脈に器質化血栓を認めない点で区別しますが、CTEPHの微小血管病変は病理学的にPAHと類似します。
  • 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH): CTで小葉間隔壁の肥厚、すりガラス影、縦隔リンパ節腫大を認め、肺血管拡張薬で肺水腫が悪化しうる点が特徴です。
  • 急性・亜急性肺血栓塞栓症: 新鮮血栓は血管中心性の陰影欠損を示し、抗凝固療法で溶解・縮小する点が器質化血栓と異なり、3か月以上の抗凝固療法後に再評価して区別します。
  • 肺動脈肉腫: 肺動脈内の腫瘤が血栓に類似しますが、造影効果を伴う、血管を押し広げる、FDG-PETで集積を示すなどの所見が手がかりになります。
  • 高安動脈炎など大血管炎: 肺動脈の狭窄・閉塞を来しますが、大動脈やその分枝の病変、壁肥厚、炎症反応上昇を伴う点で区別します。
  • 線維性縦隔炎・左心疾患や肺疾患による肺高血圧: 縦隔からの外的圧迫による肺動静脈狭窄や、肺動脈楔入圧上昇(左心疾患)、高度の肺実質病変の有無を画像・カテーテル検査で確認して区別します。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療

治療の基本は、①血栓の再発予防のための生涯にわたる抗凝固療法、②器質化血栓による機械的閉塞を解除する肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)またはバルーン肺動脈形成術(BPA)、③微小血管病変や残存肺高血圧に対する肺血管拡張薬、④酸素療法・利尿薬などの支持療法、の組み合わせです。最初に、CTEPH診療の経験豊富なチームが病変の部位(中枢型か末梢型か)、肺血管抵抗の程度、全身状態や併存疾患、患者本人の希望を総合して手術の可否を判断します。手術可能と判断された場合はPEAが第一選択とされ、手術不適応例や術後に肺高血圧が残存・再発した例ではBPAや薬物療法が選択されます。近年は、薬物療法とBPA、PEAとBPAを組み合わせる「マルチモダリティ治療」も行われています。治療法の選択は施設の経験にも左右されるため、主治医と十分に相談し、必要に応じて専門施設の意見を求めることが大切です。

  • 抗凝固療法: 血栓の再発・進展を防ぐため原則として生涯継続します。ワルファリンが標準的に使われてきたほか直接経口抗凝固薬(DOAC)が用いられることもありますが、抗リン脂質抗体症候群ではDOACは推奨されず、薬剤選択は主治医が判断します。
  • 肺動脈血栓内膜摘除術(PEA): 胸骨正中切開、人工心肺下の超低体温・間欠的循環停止で、肺動脈内の器質化血栓を内膜ごと剥離・摘除する根治的手術です。中枢型病変に特に有効で、経験豊富な施設では大きな血行動態改善が期待できます。
  • バルーン肺動脈形成術(BPA): カテーテルを用いて狭窄・閉塞した末梢の肺動脈をバルーンで拡張する治療で、通常は複数回に分けて段階的に行います。手術不適応の末梢型病変や術後残存肺高血圧に用いられ、日本で手技が発展しました。
  • リオシグアト: 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬で、手術不適応または術後に残存・再発したCTEPHに対して承認された内服薬です。運動耐容能や肺血管抵抗の改善が示されており、低血圧などの副作用に注意します。
  • その他の肺血管拡張薬: プロスタサイクリン受容体作動薬セレキシパグなど、CTEPHへの適応を持つ薬剤もあります。PAH治療薬の多くはCTEPHでの適応が限られるため、使用の可否は保険適用を含め専門医が判断します。
  • 在宅酸素療法: 安静時や労作時、睡眠時に低酸素血症がある場合に導入し、肺血管の収縮を和らげ症状を軽減します。
  • 利尿薬など右心不全治療: むくみや腹水、うっ血肝など体液貯留に対してループ利尿薬などを用い、塩分・水分管理と併せて右心不全をコントロールします。不整脈の管理も重要です。
  • 心臓・呼吸リハビリテーション: 病状が安定している患者では、専門施設の監視下での運動療法により運動耐容能やQOLの改善が報告されています。自己判断の過度な運動は避けます。
  • 肺移植: 上記の治療を尽くしても重症の肺高血圧と右心不全が残る、ごく限られた例で検討されます。現在は他の治療の進歩により対象となることはまれです。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の予後・長期フォロー

かつて未治療のCTEPHは、肺動脈圧が高い例ほど生命予後が不良であると報告されていました。しかし現在では、PEAを受けた患者の多くで肺動脈圧や息切れが大きく改善し、長期的にも良好な生存が報告されています。手術不適応例でも、BPAや薬物療法の導入により血行動態・運動耐容能・生命予後の改善を示す報告が日本を中心に蓄積しています。一方で、PEA後の残存肺高血圧、高度の右心不全を伴った状態での診断、重い併存疾患などは予後不良因子とされます。治療後は仕事や家事、旅行など日常生活を取り戻せる人も多く、QOLの改善が期待できる疾患ですが、効果には個人差があります。

治療が奏効した後も、抗凝固療法の継続と、肺高血圧の再燃・残存の監視のために生涯にわたる定期通院が必要です。一般に、自覚症状、WHO機能分類、BNP/NT-proBNP、心エコー、6分間歩行試験などを定期的に評価し、必要に応じて右心カテーテル検査や画像検査を行います。抗凝固療法では、ワルファリン使用時のPT-INR管理、出血症状の確認、腎機能・肝機能のチェックが重要です。他の病気の手術や抜歯、内視鏡検査の際には抗凝固薬の中断・調整が必要になるため、必ず主治医に相談します。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

抗凝固薬は自己判断で中断・減量しないことが最も重要です。ワルファリンを服用している場合は、ビタミンKを多く含む納豆、クロレラ、青汁などが効果を弱めるため注意が必要で、新たな薬やサプリメントを使う際は医師・薬剤師に相談します。転倒や打撲、鼻血・歯ぐきの出血、黒色便などに気をつけ、お薬手帳や抗凝固薬服用を示すカードを携帯しましょう。息切れが強い時期は無理をせず、医師の指示の範囲で適度に体を動かし、長時間同じ姿勢を避け水分をとるなど静脈血栓の予防も心がけます。塩分を控え、毎日体重を測ると体液貯留の早期発見に役立ちます。感染症は右心不全を悪化させるため、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種を主治医と相談しましょう。高地や航空機搭乗では酸素濃度が下がるため、事前に医師に相談します。妊娠・出産は肺高血圧により母体のリスクが非常に高く、ワルファリンには胎児への影響もあるため、妊娠を考える場合は必ず事前に専門医と相談してください。CTEPHは一般に遺伝性疾患ではありませんが、遺伝性の血栓性素因が見つかった場合には、家族への影響について遺伝カウンセリングを受けることも選択肢です。

利用できる制度・相談窓口

CTEPHは指定難病(告示番号88)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合(または軽症でも医療費が高額となる「軽症高額該当」に当てはまる場合)、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票などを添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。自己負担上限額は所得に応じて設定されます。症状の程度によっては、身体障害者手帳(心臓機能障害や呼吸器機能障害など)の対象となり、在宅酸素療法を行う場合などに各種福祉サービスや税の控除を利用できることがあります。日常生活や就労に支障がある場合は障害年金の対象となる可能性があり、65歳以上の方は介護保険サービスも利用できます。高額療養費制度も併用できます。各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカーが制度や就労の相談に応じており、肺高血圧症の患者会から情報や体験を得ることも助けになります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に伴う心のケア・心理社会的支援

慢性の息切れや体力低下により、仕事・家事・趣味を以前のように続けられなくなることは、大きな喪失感や不安、抑うつにつながります。CTEPHでは、急性肺塞栓症の発症後に「治ったはず」と思っていた時期を経て診断されることや、診断までに長い時間がかかることも多く、医療への不信感や戸惑いを抱く方もいます。また、大きな心臓手術やカテーテル治療を受けるかどうかの意思決定、生涯にわたる抗凝固療法と出血への不安、在宅酸素を使う姿を人に見られることへの抵抗感、就労の継続や妊娠・出産をめぐる悩みなど、この病気に特有の心理社会的な課題もあります。気分の落ち込み、眠れない、何事にも興味がわかないといった状態が続く場合は、適応障害やうつ病の可能性もあるため、我慢せず主治医や看護師に伝え、必要に応じて心療内科・精神科、公認心理師などの支援を受けましょう。家族も介護や将来への不安を抱えやすいため、家族自身が相談できる場を持つことも大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の受診の目安

  • 急に強い息苦しさや胸の痛みが出た、あるいは失神した場合は、すぐに救急車を呼んでください。
  • 血を吐いた(喀血)、黒色便や大量の鼻血など止まりにくい出血がある、頭痛やまひ・ろれつが回らないなど脳出血が疑われる症状が出た場合は、直ちに救急受診してください。
  • 片足が急に腫れて痛む場合は深部静脈血栓症の可能性があり、早めに受診してください。
  • むくみの悪化、数日で2kg以上の体重増加、お腹の張り、息切れの増悪がある場合は、主治医に早めに相談してください。
  • 急性肺塞栓症の治療後、数か月たっても息切れが続く、または以前より悪化している場合は、CTEPHの可能性を含めて循環器内科・呼吸器内科を受診してください。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症についてのよくある質問

Q. 肺塞栓症になったことがあると、必ずCTEPHになりますか?

A. いいえ。急性肺塞栓症の大部分は治療により血栓が溶けて回復し、CTEPHに移行するのは一部です。ただし、治療後も息切れが続く場合はCTEPHの可能性があるため、主治医に相談して心エコーや肺血流シンチなどの検査を検討してもらいましょう。

Q. 手術とカテーテル治療(BPA)はどちらがよいのですか?

A. 病変が中枢側にあり手術に耐えられる場合は、肺動脈血栓内膜摘除術が第一選択とされています。病変が末梢に多い場合や手術が困難な場合はBPAや薬物療法が選ばれ、両者を組み合わせることもあります。最適な治療は病変の部位や全身状態、施設の経験によって異なるため、CTEPH診療に精通した専門施設で相談することが勧められます。

Q. 治療がうまくいけば、抗凝固薬はやめられますか?

A. 一般に、手術やカテーテル治療で改善した後も血栓の再発を防ぐため、抗凝固療法は生涯継続が原則とされています。自己判断で中止すると再発の危険があるため、出血などで続けることが難しい場合も必ず主治医と相談してください。

Q. 子どもや家族に遺伝しますか?

A. CTEPHは一般に遺伝する病気ではありません。ただし、血栓ができやすい体質の中には遺伝性のものもあるため、検査でそのような体質が見つかった場合には、家族の検査の必要性について主治医や遺伝カウンセリングで相談するとよいでしょう。

この記事をシェア

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

関連記事(関連する指定難病)

同じ分野(循環器・先天性心疾患)の指定難病

循環器・先天性心疾患の指定難病を一覧で見る / 指定難病リスト(全341疾患)

この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。