神経有棘赤血球症
Neuroacanthocytosis syndrome, NAS
神経有棘赤血球症(Neuroacanthocytosis syndrome, NAS)|神経有棘赤血球症(Neuroacanthocytosis syndrome, NAS)は、舞踏運動やジストニアなどの不随意運動と、血液中の有棘赤血球(表面にとげ状の突起をもつ赤血球)の出現を特徴とする、まれな遺伝性神経変性疾患の総称です。多くは青年期から中年期に発症し、運動症状に加えて精神症状、認知機能低下、てんかん発作、末梢神経・筋障害などが年単位でゆっくり進行します。病型によっては心筋症や輸血上の問題も伴うため、神経内科を中心とした多職種による長期的な診療が重要です。
神経有棘赤血球症の要点
神経有棘赤血球症は、大脳基底核の神経変性による舞踏運動やジストニアなどの不随意運動と、血液中の有棘赤血球を特徴とするまれな遺伝性疾患群です。有棘赤血球舞踏病やマクラウド症候群などが含まれ、精神症状や認知機能低下も伴い、日本では指定難病に指定されています。
| 別名・略称 | 神経有棘赤血球症候群、有棘赤血球症を伴う神経変性症、Levine-Critchley症候群、NAS、Neuroacanthocytosis |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 病型で異なる(有棘赤血球舞踏病は常染色体潜性、マクラウド症候群はX連鎖性) |
| 好発年齢 | 多くは青年期から中年期に発症 |
| 主な症状 | 舞踏運動・ジストニア、精神症状、認知機能低下、てんかん発作、末梢神経・筋障害 |
| 主な検査 | 血液塗抹での有棘赤血球の確認、原因遺伝子の遺伝学的検査 |
| 主な治療 | 根治療法は確立されておらず、症状に応じた対症療法が中心 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科(多職種による長期的な診療) |
神経有棘赤血球症とは
神経有棘赤血球症は、大脳基底核(特に尾状核・被殻)の神経変性による運動障害と、末梢血の有棘赤血球を共通項とする疾患群です。単一の病気ではなく、原因遺伝子が異なる複数の疾患をまとめた症候群として理解されています。中核となるのは有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis, ChAc。近年はVPS13A病とも呼ばれる)とマクラウド症候群(McLeod syndrome。XK病とも呼ばれる)の2疾患です。なお、既存の簡易解説ではハンチントン病の原因遺伝子であるHTT遺伝子の異常によって起こると記載されていましたが、これは誤りです。神経有棘赤血球症の主要病型はHTT遺伝子とは別の遺伝子の変化によって起こります。ハンチントン病は症状がよく似ているため、最も重要な鑑別疾患の一つという位置づけです。日本では指定難病(告示番号9)に指定されています。
歴史的には、1960年代に家族性の舞踏運動と有棘赤血球を伴う症例が報告され(Levine-Critchley症候群とも呼ばれました)、その後1990年代以降に原因遺伝子が次々と同定され、病型が整理されてきました。現在は主に次のように分類されます。(1) 有棘赤血球舞踏病:VPS13A遺伝子の変異による常染色体潜性(劣性)遺伝。(2) マクラウド症候群:X染色体上のXK遺伝子の変異によるX連鎖性遺伝で、主に男性に発症し、Kell血液型抗原の発現低下を伴います。(3) ハンチントン病様症候群2型(HDL2):JPH3遺伝子のリピート伸長による常染色体顕性(優性)遺伝で、報告の大半はアフリカ系の家系です。(4) パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN):脳内鉄沈着神経変性症の一型で、一部の症例で有棘赤血球がみられます。広義には、脂質の吸収・輸送障害によって有棘赤血球と神経症状をきたす無βリポタンパク血症や家族性低βリポタンパク血症も関連疾患として扱われます。日本では有棘赤血球舞踏病の報告が比較的多く、臨床的に最も遭遇しやすい病型とされています。
神経有棘赤血球症の疫学・患者数
きわめてまれな疾患で、正確な有病率は国内外とも明らかではありません。有棘赤血球舞踏病は世界で数百〜千例程度の報告とされ、日本はその中で報告例が比較的多い国の一つです。国内の患者数は多く見積もっても100人前後と推定されることが多いものの、診断に至っていない例や、ハンチントン病・精神疾患・てんかんなどと診断されている例も含まれるとみられ、実数はより多い可能性があります。有棘赤血球舞踏病の発症は20〜30歳代に多く、10歳代から50歳代以降まで幅があります。遺伝形式が常染色体潜性のため、性差は原則としてなく、両親が血縁関係にある家系での報告もあります。マクラウド症候群はX連鎖性のため患者の大部分が男性で、神経症状の発症は40〜50歳代以降と比較的遅い傾向があります。女性の保因者は通常無症状か軽症ですが、まれに症状が出ることが報告されています。HDL2は日本人ではきわめてまれと考えられています。
神経有棘赤血球症の原因・病態生理
有棘赤血球舞踏病は、9番染色体上のVPS13A遺伝子の両アレル(父由来・母由来の両方)の機能喪失型変異によって発症します。VPS13A遺伝子はコレイン(chorein)と呼ばれる巨大なタンパク質をコードしており、患者では多くの場合、赤血球などでコレインがほぼ欠損しています。変異は家系ごとに多様で、遺伝子全体に散在します。マクラウド症候群は、X染色体上のXK遺伝子の変異によって、赤血球膜上のKx抗原が欠損し、Kell抗原の発現が著しく低下します。XK遺伝子周辺の比較的大きな欠失の場合、近くにある慢性肉芽腫症の原因遺伝子(CYBB)やデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子(DMD)などが同時に欠失する「隣接遺伝子症候群」を呈することがあります。HDL2はJPH3遺伝子のCTG/CAGリピート伸長、PKANはPANK2遺伝子の変異によって起こります。
発症の詳しい仕組みは完全には解明されていません。近年の研究で、VPS13Aタンパク質は細胞内の小胞体と他の細胞小器官(ミトコンドリア、エンドソームなど)の接触部位で、膜と膜の間に脂質を受け渡す「橋」のような役割を担っていることが示されています。また、XKタンパク質がVPS13Aと複合体をつくることも報告されており、有棘赤血球舞踏病とマクラウド症候群の症状がよく似ている理由の一つと考えられています。脂質輸送や膜の恒常性が損なわれると、赤血球では膜の脂質構成や細胞骨格との連結が乱れて変形し、有棘赤血球が生じます。神経系では、線条体(尾状核・被殻)の中型有棘ニューロンが選択的に脱落し、大脳基底核の神経回路が乱れることで舞踏運動やジストニアが起こります。線条体と前頭葉を結ぶ回路の障害は、強迫症状、脱抑制、遂行機能障害などの精神・認知症状の背景になると考えられています。そのほか、軸索型の末梢神経障害やミオパチー(筋障害)も加わります。一方で、赤血球の形態異常そのものが神経変性を直接引き起こすわけではなく、両者は同じ細胞機能障害の異なる表れと理解されています。
神経有棘赤血球症の症状
- 舞踏運動: 手足や体幹、顔面に、不規則で素早い踊るような不随意運動が出現します。多くの患者で中心となる運動症状で、緊張や疲労で強まる傾向があります。
- 口・舌・顔面のジスキネジア: 口をすぼめる、舌を突き出す、顔をしかめるなどの不随意運動が目立ち、有棘赤血球舞踏病の特徴的所見とされます。
- 自傷的な咬傷(舌・口唇の噛み傷): 不随意運動により舌や唇、頬の内側を繰り返し噛んでしまい、潰瘍や出血、変形をきたすことがあり、診断の重要な手がかりになります。
- 摂食ジストニア: 食べ物を口に入れると舌が前に押し出されて食物が押し戻されるなど、食事動作に伴うジストニアが起こり、摂食困難や体重減少の原因になります。
- 音声チック・構音障害: うなり声、舌打ち、咳払いのような声が不随意に出たり、言葉が不明瞭になったりします。進行すると会話が困難になることがあります。
- 体幹の不随意運動・首下がり: 体幹が急に前に折れ曲がる、首がガクッと垂れるといった特徴的な動きや、歩行時の不安定さがみられ、転倒の原因になります。
- パーキンソニズム: 病気の進行に伴い、動作緩慢や筋強剛などパーキンソン病に似た症状が前面に出てくることがあります。マクラウド症候群や長期経過例で目立つことがあります。
- てんかん発作: 有棘赤血球舞踏病では患者の半数近くにてんかん発作がみられると報告され、運動症状に先行して初発症状となることもあります。
- 精神症状: 強迫症状、抑うつ、不安、易刺激性、脱抑制、無関心(アパシー)、まれに幻覚・妄想などがみられ、精神疾患と診断されたまま経過する例もあります。
- 認知機能障害: 計画を立てて実行する能力(遂行機能)や注意力の低下など、前頭葉・皮質下型の認知機能障害が緩やかに進行します。
- 末梢神経障害・筋力低下: 腱反射の低下・消失、軽い感覚障害、筋萎縮や筋力低下がみられ、血清CK値の上昇を伴うことが多いのが特徴です。
- 心症状(主にマクラウド症候群): マクラウド症候群では拡張型心筋症や不整脈が比較的高頻度にみられ、心不全や突然死の原因になりうるため注意が必要です。
神経有棘赤血球症の経過と合併症
多くの場合、病気は年単位でゆっくり進行します。有棘赤血球舞踏病では、初期に性格変化、強迫症状、てんかん発作、口の周りの不随意運動、軽い舞踏運動などがみられ、精神疾患やチックとして扱われることもあります。数年かけて舞踏運動・ジストニア・音声チックが目立つようになり、摂食や会話、歩行が次第に困難になります。経過の後半では、舞踏運動よりもパーキンソニズムや筋力低下が前面に出ることがあり、介助が必要な場面が増えていきます。発症から重度の障害に至るまでの期間は個人差が大きく、10〜数十年に及ぶとされます。既存の簡易解説にある「発症から数年以内に重度の障害」となる例ばかりではありません。マクラウド症候群は発症が遅く進行も比較的緩やかな傾向がありますが、心合併症が予後を大きく左右します。
主な合併症としては、摂食ジストニアや嚥下障害による低栄養・体重減少、誤嚥性肺炎、舌や口唇の咬傷による口腔内潰瘍・感染、不随意運動や首下がりによる転倒・外傷・骨折があります。てんかん発作の重積、精神症状に伴う自殺企図にも注意が必要です。マクラウド症候群では拡張型心筋症・不整脈・心不全が重要な合併症です。また、Kell抗原がほとんど発現していないため、輸血によって抗体(抗Kx抗体など)ができると、適合する血液の確保が極めて難しくなるという問題があります。隣接遺伝子欠失により慢性肉芽腫症を合併する場合は、重症感染症への対策も必要になります。血清CK高値に伴い肝酵素(AST・ALT)が上昇し、肝疾患と誤認されることもあります。
神経有棘赤血球症の診断・診断基準
診断は、(1) 舞踏運動・口舌ジスキネジア・咬傷・摂食ジストニア・てんかん・精神症状などの臨床像から本症を疑い、(2) 血液検査で有棘赤血球とCK上昇を確認し、(3) 画像検査で線条体の萎縮を確認したうえで、(4) コレインの欠損や遺伝子検査によって病型を確定する、という流れで進みます。ハンチントン病に似た症状があるにもかかわらずHTT遺伝子のリピート伸長が認められない場合や、CK高値・腱反射消失・自傷的な咬傷を伴う場合には、本症を積極的に疑うことが重要です。有棘赤血球は一般的な血液塗抹標本では見落とされやすく、病期によって出現率が変動するため、1回の検査で陰性でも否定はできません。日本では厚生労働省の指定難病の診断基準(臨床症状、検査所見、鑑別診断、遺伝学的検査などを組み合わせたもの)に基づいて診断され、医療費助成の申請には難病指定医による臨床調査個人票の作成が必要です。
- 末梢血塗抹標本(生理食塩水希釈法): 血液を生理食塩水で希釈して一定時間置いた湿潤標本や走査型電子顕微鏡で観察すると、有棘赤血球の検出感度が上がります。数%以上の有棘赤血球は有力な所見ですが、出現率は症例・時期で変動するため、繰り返しの検査が勧められます。
- 血液生化学検査(CK・肝酵素など): 血清CKの上昇は有棘赤血球舞踏病・マクラウド症候群の多くで認められる重要な手がかりで、AST・ALT・LDHの上昇を伴うことがあります。脂質プロファイルやビタミンEを測定し、無βリポタンパク血症などの脂質異常症を除外します。
- 赤血球膜コレイン解析(ウエスタンブロット): 赤血球膜でコレイン(VPS13Aタンパク質)の欠損を確認できれば、有棘赤血球舞踏病の診断に有用です。実施できる施設は研究機関などに限られます。
- 遺伝学的検査: VPS13A、XK、JPH3、PANK2などの遺伝子を解析し、病型を確定します。ハンチントン病の除外のためHTT遺伝子のCAGリピート検査も行われ、検査前後の遺伝カウンセリングが重要です。
- Kell血液型・Kx抗原検査: Kell抗原の発現低下とKx抗原の欠損はマクラウド症候群に特徴的で、輸血検査を契機に見つかることもあります。診断後は輸血に備えた情報共有に直結します。
- 頭部MRI・核医学検査: 尾状核頭部を中心とした線条体の萎縮と、それに伴う側脳室前角の拡大がみられます。PET/SPECTで線条体の代謝低下が示されることがあり、脳内鉄沈着の有無(PKANの「虎の目徴候」など)の評価にも役立ちます。
- 神経伝導検査・針筋電図・筋生検: 軸索型の末梢神経障害や筋原性・神経原性変化を確認します。腱反射消失やCK高値の原因評価に用いられ、筋生検で筋線維の変化が示されることもあります。
- 脳波: てんかん発作の評価に用い、側頭葉を中心としたてんかん性異常波を認めることがあります。発作型の把握は抗てんかん薬の選択に役立ちます。
- 心電図・心エコー・ホルター心電図: 特にマクラウド症候群では心筋症や不整脈の有無を確認し、診断後も定期的に評価します。
神経有棘赤血球症と鑑別すべき疾患
- ハンチントン病: 常染色体顕性遺伝でHTT遺伝子のCAGリピート伸長を認め、通常は有棘赤血球・CK上昇・腱反射消失・自傷的な咬傷を欠く点で鑑別されます。
- ウィルソン病: 若年発症の不随意運動・精神症状で必ず除外すべき治療可能な疾患で、血清セルロプラスミン低値、尿中銅増加、角膜のカイザー・フライシャー輪で鑑別します。
- 脳内鉄沈着神経変性症(PKANなど): MRIで淡蒼球などへの鉄沈着(虎の目徴候など)を認める点が鑑別点で、PKANは有棘赤血球を伴うことがあるため、神経有棘赤血球症の関連病型として扱われることもあります。
- 無βリポタンパク血症・家族性低βリポタンパク血症: 著明な低コレステロール血症、脂肪吸収障害、ビタミンE欠乏、網膜色素変性、小脳失調を伴い、舞踏運動は目立たない点で区別されます。
- 遅発性ジスキネジア(薬剤性): 抗精神病薬などの使用歴があり口舌ジスキネジアを呈しますが、有棘赤血球やCK上昇はなく、精神症状に対して抗精神病薬を投与されている本症患者との区別には注意が必要です。
- 自己免疫性・症候性舞踏病およびトゥレット症: 全身性エリテマトーデス・抗リン脂質抗体症候群、甲状腺機能亢進症などに伴う舞踏病は血液・免疫学的検査で、トゥレット症は小児期発症で進行性の神経変性や検査異常を欠く点で鑑別されます。
神経有棘赤血球症の治療
現時点では、病気の進行を止める根本的な治療法は確立されていません。治療の基本は、生活に支障をきたしている症状を一つずつ見極めて和らげる対症療法と、栄養・嚥下・転倒・口腔・心臓・精神面などの合併症の予防です。不随意運動は本人が苦痛を感じていない場合、必ずしも薬で抑える必要はなく、副作用(ふらつき、抑うつ、パーキンソニズム、嚥下悪化など)とのバランスを考えて治療目標を設定します。神経内科医を中心に、精神科医、てんかん専門医、循環器内科医、歯科・口腔外科医、リハビリテーション専門職、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどが連携し、病期に応じて治療内容を見直していきます。薬剤の多くは本症に対する保険適用が明確ではなく、ハンチントン病などでの経験を参考に使われているため、具体的な治療の選択は主治医や専門医とよく相談してください。
- 舞踏運動に対する薬物療法: ドパミンを減らす薬(テトラベナジンなど)や抗精神病薬が、舞踏運動・口舌ジスキネジアの軽減を目的に用いられることがあります。抑うつ、眠気、パーキンソニズム、嚥下障害の悪化などの副作用に注意しながら、少量から慎重に調整します。
- 抗てんかん薬: てんかん発作に対して、発作型や副作用、精神症状への影響を考慮して薬剤を選択します。一部の抗てんかん薬では不随意運動や精神症状が悪化したとの報告もあるため、専門医による調整が望まれます。
- 精神症状に対する治療: 抑うつ・強迫症状には抗うつ薬、易刺激性や精神病症状には抗精神病薬などが使われることがあり、精神科との併診が推奨されます。心理社会的支援や環境調整も並行して行います。
- ボツリヌス毒素療法: 摂食ジストニアや頸部・四肢の局所的なジストニアに対し、筋肉への局所注射で症状の軽減が報告されています。適応や効果は症状の部位によって異なります。
- 口腔保護・歯科的ケア: マウスガード(マウスピース)などで舌や口唇の咬傷を予防し、口腔衛生を保ちます。歯の損傷や感染の予防のため、定期的な歯科受診が勧められます。
- 脳深部刺激療法(DBS): 薬物療法で十分に改善しない不随意運動に対し、淡蒼球内節などへのDBSで改善を認めた報告がありますが、効果には個人差が大きく、症例も限られています。実施の可否は専門施設で慎重に検討されます。
- リハビリテーション: 理学療法でバランス訓練や転倒予防、作業療法で日常生活動作の工夫、言語聴覚療法で構音・嚥下訓練やコミュニケーション手段(文字盤、意思伝達装置など)の確保を行います。
- 栄養療法・嚥下管理: 不随意運動によりエネルギー消費が増え、摂食困難も重なるため、高カロリー食や食形態の工夫を行います。経口摂取が難しくなった場合は、胃瘻などの経管栄養を本人・家族と話し合って検討します。
- 心臓管理と輸血対策(マクラウド症候群): 心筋症・不整脈に対して循環器内科で定期的に評価し、必要に応じて薬物治療やデバイス治療を行います。輸血が必要になった場合に備え、血液型情報の共有や、適合血の確保について専門医療機関と相談しておきます。
神経有棘赤血球症の予後・長期フォロー
予後は病型や個人によって大きく異なります。有棘赤血球舞踏病は緩やかに進行し、発症から長い年月を経て日常生活全般に介助が必要になることが多いとされます。死亡原因としては、誤嚥性肺炎や低栄養のほか、てんかん発作や自律神経障害が関係すると考えられる突然死の報告があります。マクラウド症候群では、心筋症・不整脈などの心合併症が生命予後を左右する主要因です。生活の質(QOL)の面では、不随意運動そのものより、摂食困難、会話の障害、精神症状、社会的な孤立が大きな負担となることが多く、早期からの多面的な支援によって在宅生活や社会参加を長く維持できる可能性があります。
長期フォローアップでは、神経学的評価(不随意運動・歩行・嚥下)、体重と栄養状態、てんかん発作の状況、精神症状と認知機能、薬剤の副作用を定期的に確認します。マクラウド症候群では心電図・心エコーなどによる心機能の定期評価が欠かせません。病状の進行に合わせて、補装具や福祉用具、介護サービス、栄養手段を見直します。また、本人の意思を尊重した療養方針(胃瘻、人工呼吸、終末期のケアなど)を、意思表示ができるうちから家族や医療者と話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング)が大切です。
神経有棘赤血球症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、転倒予防と栄養確保が特に重要です。家の中の段差を減らし、手すりを設置し、滑りにくい床材を選ぶほか、首下がりや体幹の不随意運動が強い場合は保護帽の使用も検討します。食事は、柔らかく飲み込みやすい形態にし、時間に余裕をもって少量ずつ摂り、こまめに体重を測りましょう。口腔ケアを丁寧に行い、咬傷が続く場合は歯科でマウスガードを作ることを相談してください。疲労や精神的ストレスは不随意運動を強めるため、規則正しい生活と十分な休息を心がけます。てんかん発作がある場合は、服薬の継続と、入浴・高所作業・運転などに関する安全対策を主治医と確認してください。マクラウド症候群と診断された方は、手術や出血時の輸血に備えて、血液型の特性を記したカードを携帯するなど、医療機関に確実に伝わる工夫が勧められます。遺伝については、有棘赤血球舞踏病(常染色体潜性)では両親は通常保因者で、きょうだいが発症する確率は4分の1です。マクラウド症候群(X連鎖性)では、母親が保因者である場合が多く、男性のきょうだいや母方の男性親族に影響が及ぶ可能性があります。発症前診断や保因者診断、家族への情報共有の方法については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けたうえで、本人・家族が十分に考えて判断することが大切です。
利用できる制度・相談窓口
神経有棘赤血球症は指定難病(告示番号9)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、または軽症でも医療費が一定額を超える場合(軽症高額該当)には、難病の医療費助成制度により、所得に応じた自己負担上限額が適用されます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県(指定都市)の窓口・保健所に行います。症状に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由、音声・言語・そしゃく機能障害など)や、精神症状・認知機能障害がある場合は精神障害者保健福祉手帳の対象となることがあり、税の控除や各種サービスにつながります。指定難病は障害者総合支援法の対象疾病に含まれるため、手帳がなくても居宅介護、補装具、日常生活用具などの障害福祉サービスを利用できる場合があります。初診日に年金制度に加入しており、所定の障害状態に該当すれば障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)を受給できる可能性があります。介護保険は65歳以上であれば原因を問わず利用できますが、40〜64歳の場合は本症は介護保険の特定疾病に該当しないため、障害福祉サービスを中心に支援を組み立てることになります。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談できます。各都道府県の難病相談支援センターや保健所の保健師、医療機関の医療ソーシャルワーカーが、制度の利用や療養生活全般の相談窓口となっています。
神経有棘赤血球症に伴う心のケア・心理社会的支援
進行性の難病と診断されることは、本人にも家族にも大きな心理的負担となり、抑うつ、不安、怒り、将来への絶望感、適応障害などが生じやすくなります。神経有棘赤血球症では、病気そのものによって前頭葉・線条体の回路が障害されるため、抑うつ、強迫症状、易刺激性、無関心などが症状の一部として現れることがあり、「性格の問題」や「気の持ちよう」と誤解されやすい点が特有の課題です。舌の突出や音声チック、顔面の不随意運動など目立つ症状は、周囲の誤解や偏見を招き、外出や対人関係を避けて孤立につながりやすくなります。診断までに長い時間がかかり、精神疾患やてんかんなど別の病名で治療されていた経緯をもつ方も少なくありません。遺伝性疾患であることから、きょうだいの発症リスク、結婚・出産、家族内での情報共有をめぐる葛藤も生じます。気分の落ち込みが続く、眠れない、死にたい気持ちがあるといった場合は、遠慮せずに主治医や精神科・心療内科、公認心理師などに相談してください。介護を担う家族も疲弊しやすいため、レスパイトケア(短期入所など)の利用や、難病相談支援センター、患者・家族会などでの交流を通じて、負担を一人で抱え込まないことが大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
神経有棘赤血球症の受診の目安
- 若い年代で、口や舌の不随意運動、手足の踊るような動き、舌や唇を繰り返し噛む症状が現れたときは、神経内科を受診してください。
- 食事中に食べ物が押し戻される、むせる、体重が減ってきたといった変化があれば、早めに主治医に相談してください。
- けいれん発作が5分以上続く、または意識が戻らないまま発作を繰り返すときは、救急車を要請してください。
- 発熱や咳、痰が増え、呼吸が苦しそうなときは、誤嚥性肺炎の可能性があるため速やかに受診してください。
- 動悸、失神、息切れ、足のむくみなどが現れたとき(特にマクラウド症候群の方)は、心臓の合併症を疑い、早急に受診してください。
- 強い抑うつや興奮、死にたい気持ちを訴えるなど、精神状態が急に悪化したときは、主治医や精神科へ速やかに連絡してください。
神経有棘赤血球症についてのよくある質問
Q. ハンチントン病と同じ病気ですか?
A. 症状はよく似ていますが、別の病気です。神経有棘赤血球症の主な病型は、VPS13A遺伝子やXK遺伝子など、ハンチントン病の原因であるHTT遺伝子とは異なる遺伝子の変化によって起こり、遺伝形式も異なります。有棘赤血球、CK上昇、腱反射の消失、舌や唇の咬傷などが区別の手がかりになります。
Q. 有棘赤血球が見つからなければ、この病気ではないのですか?
A. 必ずしもそうとは言えません。有棘赤血球は通常の血液検査では見落とされやすく、出現する割合も時期によって変動するため、特殊な標本作製法で繰り返し調べることがあります。最終的には、コレイン解析や遺伝子検査などを組み合わせて総合的に診断します。
Q. 子どもやきょうだいに遺伝しますか?
A. 病型によって異なります。有棘赤血球舞踏病は常染色体潜性遺伝で、患者さんのきょうだいが発症する確率は4分の1ですが、患者さんの子どもが発症することは通常まれです。マクラウド症候群はX連鎖性で、母方の家系の男性に影響する可能性があります。詳しくは遺伝カウンセリングで相談してください。
Q. 治療で症状は良くなりますか?
A. 進行を止める治療はまだありませんが、不随意運動、てんかん発作、精神症状、摂食ジストニアなどは、薬物療法やボツリヌス毒素療法、リハビリテーション、口腔ケアなどで軽減できる場合があります。効果や副作用には個人差があるため、主治医と相談しながら、生活上いちばん困っている症状から治療目標を決めていくことが大切です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。