網膜色素変性症
Retinitis Pigmentosa
網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)|網膜色素変性症は、光を感じる網膜の視細胞(主に杆体、のちに錐体)が遺伝的な要因で少しずつ失われていく、進行性の遺伝性網膜疾患です。多くは思春期から成人期に夜盲(暗いところで見えにくい)と視野狭窄で気づかれ、数十年かけてゆっくり進みます。日本における視覚障害の主要な原因疾患のひとつで、就学・就労・移動など生活の幅広い場面に影響します。進行を止める治療はまだ限られていますが、合併症の治療やロービジョンケア、福祉制度の活用によって生活の質を保つことができ、一部の病型では遺伝子治療も始まっています。
網膜色素変性症の要点
網膜色素変性症は、遺伝子の変化により網膜の視細胞(主に杆体、のちに錐体)が徐々に失われる進行性の遺伝性網膜疾患です。思春期〜成人期に夜盲と視野狭窄で気づかれることが多く、数十年かけてゆっくり進行し、日本では指定難病(告示番号90)に指定されています。
| 別名・略称 | 網膜色素変性、色素性網膜炎、RP、Retinitis pigmentosa、杆体錐体ジストロフィー |
|---|---|
| 分野 | 眼・耳鼻咽喉疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性・常染色体潜性・X連鎖性があり、家族歴のない孤発例も多い |
| 好発年齢 | 思春期〜成人期に夜盲などで気づかれることが多い |
| 主な症状 | 夜盲、視野狭窄(中心視力は比較的長く保たれる) |
| 主な検査 | 眼底検査、視野検査、網膜電図(ERG)、遺伝学的検査 |
| 主な治療 | 多くは根治療法がなく、遮光眼鏡やロービジョンケアなどで生活を支援 |
| 受診する主な診療科 | 眼科 |
網膜色素変性症とは
網膜色素変性症(retinitis pigmentosa:RP)は、網膜の視細胞と網膜色素上皮が遺伝子の変化によって進行性に変性する疾患の総称です。遺伝性網膜ジストロフィーの中で最も頻度が高く、典型例では暗所で働く杆体(かんたい)が先に障害され、その後に明所で色や細かい形を見分ける錐体(すいたい)が障害される『杆体錐体ジストロフィー』の経過をたどります。このため、初期には夜盲と周辺視野の欠損が目立ち、中心視力は比較的長く保たれます。病名の『色素』は、変性した網膜色素上皮から遊離したメラニンが網膜内に移動し、眼底に骨小体様の黒い色素沈着として見えることに由来します。名前に『炎(-itis)』が付きますが、炎症性疾患ではありません。日本では指定難病(告示番号90)に指定されています。
分類は、眼だけに症状がある非症候群性(定型)網膜色素変性と、全身の症状を伴う症候群性網膜色素変性に大きく分けられます。症候群性の代表は感音難聴を伴うアッシャー症候群で、ほかにバルデ・ビードル症候群(肥満、多指症、腎障害など)、レフサム病(フィタン酸蓄積)、カーンズ・セイヤー症候群などのミトコンドリア病、無βリポタンパク血症、ネフロン癆に網膜変性を伴うシニア・ローケン症候群などがあります。眼底所見による亜型として、色素沈着がほとんど目立たない無色素性網膜色素変性、白点が多発する白点状網膜症、片眼や網膜の一部(区画性・扇形)に限局する非定型例も知られています。遺伝形式では常染色体顕性(優性)、常染色体潜性(劣性)、X連鎖性が区別され、家族内に他の患者がいない孤発例も多くみられます。19世紀半ばに眼底検査法が普及して病名が確立し、1980年代以降に原因遺伝子が次々と同定され、現在は遺伝子診断と遺伝子治療の時代に入りつつあります。
網膜色素変性症の疫学・患者数
有病率は世界的に約3000〜8000人に1人とされ、日本でも数千人に1人程度と推定されています。指定難病の医療費助成の受給者証所持者は2万数千人規模で推移していますが、軽症で申請していない人も多く、実際の患者数はそれより多いと考えられています。日本の視覚障害(身体障害者手帳取得)の原因疾患の調査では、緑内障などと並んで常に上位を占めています。発症年齢は幅広く、乳幼児期に重い視力障害で見つかる型(レーベル先天黒内障など近縁疾患を含む)から、中高年になって初めて自覚する型まであります。典型的には10〜30歳代に夜盲を自覚することが多いとされます。男女差は全体としては大きくありませんが、X連鎖性の型は男性に重症例が多く、女性保因者は軽症または眼底所見のみのことがあります。日本人では家族歴のない孤発例の割合が高く、遺伝子が判明した例では常染色体潜性遺伝が多いことが報告されています。
網膜色素変性症の原因・病態生理
原因はすべて遺伝子の変化(病的バリアント)であり、これまでに80種類以上の原因遺伝子が報告されています。遺伝子は、光を電気信号に変える光伝達系(ロドプシン遺伝子RHO、PDE6A/PDE6Bなど)、視細胞外節の構造維持(PRPH2など)、繊毛の輸送(RPGR、RP1など)、ビタミンAの代謝・視サイクル(RPE65など)、mRNAのスプライシング(PRPF31など)など、さまざまな機能に関わります。遺伝形式別の代表として、常染色体顕性ではRHO、常染色体潜性ではEYSやUSH2A、X連鎖性ではRPGRが知られています。日本人ではEYS遺伝子が最も頻度の高い原因遺伝子であることが報告されており、欧米とは原因遺伝子の分布が異なります。一方で、現在の遺伝子検査でも原因が特定できない患者が少なからず(半数近く)存在します。また、同じ遺伝子の変化でも発症年齢や重症度に大きな個人差があります。
発症機序の中心は視細胞のアポトーシス(細胞死)です。多くの原因遺伝子は杆体に強く発現しているため、まず杆体が変性し、暗順応障害(夜盲)と、杆体の多い中間周辺部網膜の機能低下(輪状暗点)が生じます。杆体が減少すると、錐体を支える因子(杆体由来の錐体生存因子など)の不足、酸素過剰による酸化ストレス、ミクログリアの活性化を介した慢性炎症などにより、原因遺伝子が働いていない錐体も二次的に障害されます。これが進行期の中心視力低下や色覚障害の原因です。視細胞が失われると網膜色素上皮から色素が遊離して網膜内層の血管周囲に集まり、骨小体様色素沈着となります。網膜の代謝需要が下がるため網膜血管は細くなり、視神経乳頭は蝋様に蒼白化します。さらに、網膜色素上皮のポンプ機能低下や血液網膜関門の破綻により黄斑浮腫が生じることがあり、これが視力低下を早める要因になります。
網膜色素変性症の症状
- 夜盲(とりめ): 暗い場所や夕方に極端に見えにくくなる症状で、多くの患者の初発症状です。映画館や夜道で歩きにくいことで気づかれます。
- 暗順応の遅れ: 明るい場所から暗い場所に入ったとき、目が慣れるまでに通常よりずっと長い時間がかかります。
- 視野狭窄: 周辺の視野が徐々に欠け、輪状暗点を経て中心だけが残る求心性視野狭窄に進みます。人や物にぶつかる、足元の段差に気づかないなどの形で現れます。
- 羞明(まぶしさ): 明るい光や日差しを強くまぶしく感じ、見えにくくなります。進行とともに強くなることが多い症状です。
- 視力低下: 中心視力は比較的長く保たれますが、病期の進行、黄斑浮腫、白内障などにより低下します。
- 色覚異常: 錐体の障害が進むと、色の区別、とくに青黄系の識別が難しくなることがあります。
- コントラスト感度の低下: 視力表の数値以上に、薄い文字や輪郭のはっきりしない物が見えにくくなります。
- 光視症: 光がちらつく、きらきらしたものが見えるといった自覚症状を訴える人がいます。
- 読字・歩行の困難: 視野が狭くなると、文章の行を追う、人混みを歩くといった動作が難しくなり、生活上の困りごとの中心になります。
- 難聴などの全身症状(症候群性): アッシャー症候群では感音難聴を、ほかの症候群では肥満、多指症、腎障害、心伝導障害、神経症状などを伴うことがあります。
網膜色素変性症の経過と合併症
経過は年単位でゆっくり進み、病型や原因遺伝子によって大きく異なります。一般的には、①夜盲のみで眼底変化も軽い初期、②中間周辺部の輪状暗点と骨小体様色素沈着がはっきりする中期、③求心性視野狭窄が強まり中心10度以内の視野となる進行期、④中心視力も低下し社会的失明に至りうる末期、という流れをたどります。視野の面積は年に数%〜十数%ずつ減少するとの報告があり、40〜60歳代でも有用な中心視力が保たれる人は少なくありません。一方で、早期発症の常染色体潜性型やX連鎖性型の男性では進行が速い傾向があり、常染色体顕性型は比較的軽い傾向があるとされます。ただし同じ家系内でも重症度に差があり、個人の予測は困難です。完全に光を失う人は多くありません。
眼の合併症として最も多いのは白内障で、とくに後嚢下白内障が若年から生じやすく、視力低下やまぶしさを悪化させます。嚢胞様黄斑浮腫は患者の一部に合併し、中心視力低下の治療可能な原因として重要です。ほかに黄斑上膜、黄斑円孔、まれにコーツ病様の滲出性血管病変、閉塞隅角緑内障、円錐角膜などが報告されています。眼以外では、症候群性の場合にそれぞれの全身合併症(難聴、腎機能障害、心伝導障害など)が問題になります。また、視野狭窄による転倒・外傷、交通事故のリスクや、抑うつ・不安など心理面の合併にも注意が必要です。
網膜色素変性症の診断・診断基準
診断は、夜盲・視野狭窄・視力低下・羞明などの自覚症状、特徴的な眼底所見、網膜電図(ERG)での機能低下を組み合わせて行います。厚生労働省研究班の診断基準では、これらの自覚症状と臨床検査所見を確認し、類似の所見を示す他の網膜疾患を除外して診断します。眼底所見が軽い初期や無色素性の型ではERGが決め手になります。さらに光干渉断層計(OCT)や眼底自発蛍光で視細胞層や網膜色素上皮の状態を評価し、視野検査で進行度を把握します。症候群性が疑われる場合は聴力検査や全身検査を追加し、近年は遺伝子検査で原因遺伝子を調べることもあります。遺伝子検査の結果は、遺伝子治療・臨床試験の適応判断や遺伝カウンセリングにも関わります。
- 眼底検査: 網膜血管の狭細化、網膜の粗造な色調、中間周辺部の骨小体様色素沈着、蝋様の視神経乳頭萎縮が典型所見です。初期や無色素性の型では変化が乏しいことがあります。
- 網膜電図(ERG): 光刺激に対する網膜の電気反応を記録する検査で、杆体応答を中心に振幅が低下し、進行例では反応が消失します。診断に最も重要な機能検査です。
- 視野検査(ゴールドマン・自動視野計): 輪状暗点や求心性視野狭窄を確認し、進行度の評価、重症度判定、身体障害者手帳の申請に用います。
- 光干渉断層計(OCT): 視細胞の状態を示すエリプソイドゾーン(EZ)が周辺から消失・短縮していく様子を捉え、嚢胞様黄斑浮腫や黄斑上膜の診断にも有用です。
- 眼底自発蛍光: 黄斑周囲の過蛍光リングや、周辺部の網膜色素上皮萎縮による低蛍光を示し、病変の範囲と進行の評価に役立ちます。
- 視力・暗順応・色覚検査: 矯正視力は重症度分類の基準となり、暗順応検査では閾値の上昇、色覚検査では錐体障害の程度を評価します。
- 遺伝学的検査: 遺伝子パネル検査などで原因遺伝子を調べます。遺伝形式の推定、予後の参考、RPE65遺伝子治療の適応判定に用いられ、実施前後に遺伝カウンセリングが推奨されます。
- 聴力検査・全身検査: アッシャー症候群が疑われる場合の聴力検査、レフサム病でのフィタン酸測定、無βリポタンパク血症での脂質・ビタミンE測定、心電図や腎機能検査などを行います。
網膜色素変性症と鑑別すべき疾患
- 癌関連網膜症・自己免疫網膜症: 中高年で数週〜数か月の比較的急な視野障害とERG低下を示し、悪性腫瘍の存在や抗網膜抗体の検出が手がかりになります。
- 薬剤性網膜症: ヒドロキシクロロキン、チオリダジンなどの服用歴があり、薬剤に特徴的な網膜障害パターンを示します。
- 感染症後網膜症(梅毒・風疹など): ごま塩状眼底などの類似所見を示しますが、血清学的検査や病歴で区別し、梅毒は治療可能なため除外が重要です。
- ビタミンA欠乏症: 消化管手術歴や吸収不良、偏食の背景があり、血中ビタミンA低値と補充による改善で区別します。
- コロイデレミア・脳回状脈絡網膜萎縮・クリスタリン網膜症: それぞれ脈絡膜の広範な萎縮、高オルニチン血症、網膜の結晶様沈着など特有の眼底所見や検査値で区別します。
- 先天停在性夜盲・錐体杆体ジストロフィー: 前者は夜盲が進行せずERGに特徴的な波形を示し、後者は視力低下・色覚異常・羞明が夜盲より先に現れます。
網膜色素変性症の治療
現時点で、ほとんどの病型に対して病気の進行を確実に止めたり、失われた視細胞を回復させたりする治療は確立していません。そのため治療の柱は、①合併症(白内障・黄斑浮腫など)の早期発見と治療、②残された視機能を最大限に生かすロービジョンケアと生活支援、③特定の遺伝子異常に対する遺伝子治療、④臨床試験への参加の検討、となります。日本では両アレルにRPE65遺伝子の病的バリアントをもつ遺伝性網膜ジストロフィーに対して遺伝子治療薬が承認されていますが、対象となる患者はごく一部です。サプリメントや民間療法の中には根拠が乏しいもの、むしろ有害となりうるものもあるため、新しい治療法の情報も含めて主治医・網膜専門医とよく相談しながら方針を決めることが大切です。
- ロービジョンケア: 拡大鏡、拡大読書器、タブレット端末の拡大・読み上げ機能、照明の工夫などで残存視機能を活用します。視能訓練士や専門外来で、見え方に合わせた道具の選択と使い方の訓練を受けることができます。
- 遮光眼鏡: まぶしさの原因となる短波長光をカットし、羞明の軽減とコントラスト改善に役立ちます。網膜色素変性症では補装具費支給の対象となることがあります。
- 白内障手術: 白内障が視力低下の原因となっている場合に行い、視力やまぶしさの改善が期待できます。術後の黄斑浮腫や水晶体を支えるチン小帯の脆弱性に注意が必要です。
- 嚢胞様黄斑浮腫の治療: 炭酸脱水酵素阻害薬(内服または点眼)が用いられ、浮腫の軽減が報告されています。効果や副作用をみながら主治医が適応を判断します。
- 遺伝子治療(RPE65関連): 両アレルのRPE65遺伝子病的バリアントが確認され、生存する網膜細胞が十分にある患者に限り、アデノ随伴ウイルスベクターを網膜下に注入する遺伝子治療が承認されています。実施施設や適応は限られます。
- 内服薬・サプリメント: 暗順応改善薬や循環改善薬、ビタミン類が用いられることがありますが、進行抑制効果の科学的根拠は限られています。高用量ビタミンAの自己判断での服用は副作用の懸念があり、ABCA4関連など一部の網膜疾患では避けるべきとされます。
- 歩行訓練・生活訓練: 白杖を使った歩行訓練や、調理・家事・パソコン操作など日常生活動作の訓練を、視覚障害者向けの訓練施設や自治体の事業で受けられます。
- 臨床研究中の治療: 他の原因遺伝子に対する遺伝子治療、iPS細胞などを用いた視細胞・網膜色素上皮移植、光遺伝学的治療、人工網膜、神経保護薬などが国内外で研究されていますが、多くはまだ研究段階です。
網膜色素変性症の予後・長期フォロー
網膜色素変性症そのものが生命予後に影響することは通常ありません(症候群性の場合は全身合併症の内容によります)。視機能の予後は病型によって大きく異なり、生涯を通じて読書や日常生活に十分な中心視力を保つ人もいれば、成人期に社会的失明に至る人もいます。完全に光覚がなくなる例は比較的少数です。生活の質(QOL)には、視力の数値以上に、視野狭窄による移動の困難、夜間外出の制限、読み書きの困難、就労上の制約が大きく影響します。早期からロービジョンケアや福祉制度を活用することで、仕事や学業、趣味を続けている人は多くいます。
定期的な通院(多くは半年〜1年ごと、状況により短い間隔)で、視力・視野・OCTなどを確認し、進行の程度と白内障や黄斑浮腫など治療可能な合併症の有無を評価します。急な見え方の変化は合併症のサインであることがあるため、予定外でも受診が必要です。遺伝子治療や臨床試験の対象になるかどうかは原因遺伝子と網膜の残存状態で決まるため、遺伝学的検査の結果や経過の記録を保管しておくと役立ちます。症候群性の場合は、耳鼻咽喉科、小児科、腎臓内科、循環器内科などとの連携した長期フォローが必要です。小児期発症例では、成長に合わせた就学支援や、小児科から成人診療への移行を計画的に進めます。
網膜色素変性症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
屋外では遮光眼鏡やつばのある帽子でまぶしさを和らげ、強い紫外線を避けるよう心がけましょう。家庭内では照明を明るく均一にし、段差や階段の縁に目立つ色のテープを貼る、物の配置を決めておくなどの工夫で転倒や事故を減らせます。夜間の外出時は明るい道を選び、ライトや白杖を携帯すると安全です。視野狭窄が進むと運転免許の適性基準を満たさなくなる場合があり、自覚症状が軽くても事故の危険があるため、運転の継続については主治医と率直に相談してください。喫煙は網膜の酸化ストレスを高める可能性があるため避け、バランスのよい食事と適度な運動を心がけます。遺伝性疾患であるため、結婚・妊娠・子どもへの遺伝、家族の受診などについて悩む方も多く、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けると、遺伝形式に応じた正確な情報を得たうえで自分たちで判断できます。病気を職場や学校にどこまで伝えるかも、支援者と相談しながら決めるとよいでしょう。
利用できる制度・相談窓口
網膜色素変性症は指定難病であり、診断基準を満たし、矯正視力と視野狭窄の程度に基づく重症度分類でII度以上の場合、または軽症でも高額な医療費が継続する場合(軽症高額該当)に、医療費助成の対象となります。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。視力・視野の障害が基準に該当すれば身体障害者手帳(視覚障害)を取得でき、白杖や遮光眼鏡などの補装具、拡大読書器・音声時計などの日常生活用具の給付、外出時のガイドヘルプ(同行援護)、税の控除や交通機関の割引などが利用できます。障害の程度によっては障害年金の対象となり、65歳以上で介護が必要な場合は介護保険サービスも利用できます。就労については、ハローワークの専門援助窓口や難病患者就職サポーター、障害者職業センターが相談に応じます。相談先として、各都道府県の難病相談支援センター、眼科のロービジョン外来、視覚障害者情報提供施設や訓練施設、患者会(日本網膜色素変性症協会など)があります。
網膜色素変性症に伴う心のケア・心理社会的支援
網膜色素変性症は、見え方が年単位で少しずつ悪くなり、将来の見通しが立てにくいことから、強い不安や喪失感、抑うつを生じやすい疾患です。診断を告げられたとき、運転や今の仕事を続けられなくなったとき、白杖を持ち始めるときなど、人生の節目ごとに気持ちが大きく揺れ動くことがあります。外見からは障害がわかりにくいため、周囲に理解されず『見えているのに』と誤解されたり、障害を受け入れることへの抵抗から支援の利用をためらったりするのも、この疾患に特有の悩みです。遺伝性であることから、子どもへの遺伝への罪悪感や、家族関係・結婚に関する葛藤を抱える人もいます。気分の落ち込みが続く、眠れない、意欲がわかないといった状態が2週間以上続く場合は、適応障害やうつ病の可能性もあるため、主治医に伝えて心療内科・精神科やカウンセラーにつないでもらいましょう。同じ病気をもつ人の体験を聞ける患者会や、ロービジョンケアで『できること』が増える経験は、前向きな気持ちを取り戻す大きな助けになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
網膜色素変性症の受診の目安
- 夜道や暗い室内で極端に見えにくい、人や物によくぶつかるなど、夜盲や視野の欠けに気づいたときは眼科を受診してください。
- 数日〜数週間のうちに中心が急に見えにくくなった、ゆがんで見えるようになったときは、黄斑浮腫などの合併症の可能性があるため早めに受診してください。
- 視界が急にかすむ、目の強い痛みや充血・頭痛・吐き気を伴うときは、急性緑内障発作などの可能性があるため、すぐに受診してください。
- 網膜色素変性症と診断されている人に聞こえにくさが出てきたときは、症候群性の可能性もあるため主治医に相談し、聴力検査を受けてください。
- 家族に網膜色素変性症の人がいて、自分や子どもの見え方が気になる場合は、症状が軽くても一度眼科で相談してください。
- 気分の落ち込みや不安が続き、日常生活や仕事に支障が出ているときは、主治医や心の専門家に相談してください。
網膜色素変性症についてのよくある質問
Q. 網膜色素変性症になると、必ず失明しますか?
A. 進行の速さには大きな個人差があり、生涯にわたって読書や日常生活に十分な中心視力を保つ人も少なくありません。完全に光を感じなくなる人は比較的少数です。定期的な通院で、白内障や黄斑浮腫など治療できる合併症を見逃さないことが大切です。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. 遺伝形式(常染色体顕性・潜性・X連鎖性)によって、子どもに遺伝する確率は大きく異なります。家族に患者がいない孤発例も多く、遺伝形式が確定できないこともあります。遺伝カウンセリングで、ご自身の状況に即した説明を受けることをお勧めします。
Q. 遺伝子治療は受けられますか?
A. 現在日本で承認されている遺伝子治療は、両アレルにRPE65遺伝子の病的バリアントがあり、網膜細胞が十分に残っている患者が対象で、該当する人はごく一部です。他の遺伝子に対する治療や再生医療は臨床研究の段階です。遺伝学的検査の要否も含め、網膜専門医に相談してください。
Q. サプリメントや目に良い食品で進行を止められますか?
A. 現時点で、進行を確実に止めることが証明されたサプリメントや食品はありません。高用量のビタミンAなど自己判断での大量摂取は、副作用や一部の病型で悪影響が懸念されます。服用を考えている場合は、事前に主治医に相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。