非典型溶血性尿毒症症候群

Atypical Hemolytic Uremic Syndrome (aHUS)

非典型溶血性尿毒症症候群(Atypical Hemolytic Uremic Syndrome (aHUS))|非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、補体(免疫の一部)の制御がうまく働かないことで全身の細い血管に血栓が生じ、溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を起こす病気です。乳幼児から高齢者まで発症し、感染症や妊娠・出産などをきっかけに急に悪化することがあります。かつては透析が必要になったり命に関わったりすることが多い病気でしたが、補体を抑える薬の登場で治療成績は大きく改善しています。

非典型溶血性尿毒症症候群の要点

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、補体の制御異常で全身の細い血管に血栓ができ、溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を起こす病気です。乳幼児から高齢者まで発症し、感染症や妊娠などを契機に急に悪化することがあり、補体を抑える薬で治療成績が改善した国の指定難病です。

別名・略称aHUS、非典型HUS、atypical HUS、補体関連aHUS
分野腎・泌尿器疾患
原因・分類補体関連遺伝子の病的バリアントによる遺伝性と、抗H因子抗体による後天性に大別
好発年齢乳幼児から高齢者まで幅広い
主な症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害(顔色不良、尿量減少、むくみ、高血圧など)
主な検査血算、LDH、ハプトグロビン、破砕赤血球、腎機能、ADAMTS13活性、志賀毒素関連検査、補体検査・遺伝子検査
主な治療補体C5を抑える薬(エクリズマブ、ラブリズマブ)、血漿療法、腎不全時の透析などの支持療法
受診する主な診療科腎臓内科、小児科(小児腎臓)、血液内科

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非典型溶血性尿毒症症候群とは

aHUSは、血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)と呼ばれる病態の一つです。TMAは、①赤血球が血管内で壊れる微小血管症性溶血性貧血、②血小板の消費による血小板減少、③微小血栓による臓器障害(特に腎臓)を特徴とします。腸管出血性大腸菌などが出す志賀毒素による典型的な溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)や、ADAMTS13という酵素の著しい低下による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)とは原因が異なります。日本では、補体の第二経路(副経路)が制御を失って過剰に働くことによるTMAを狭い意味でのaHUSとしています。なお、自己抗体が血小板を壊す特発性血小板減少性紫斑病(ITP)とは別の病気で、病態も治療法も異なります。

分類としては、補体関連遺伝子の病的バリアントによる遺伝性のものと、補体制御因子であるH因子に対する自己抗体(抗H因子抗体)による後天性のものに大別されます。かつてはHUSを「下痢を伴うもの(D+HUS)」と「下痢を伴わないもの(D−HUS)」に分けていましたが、aHUSでも感染性腸炎などをきっかけに下痢を伴って発症する例があるため、現在は原因に基づく分類が用いられます。薬剤、自己免疫疾患、悪性腫瘍、造血幹細胞移植、悪性高血圧などに伴うTMAは「二次性TMA」として区別され、ビタミンB12代謝異常症(コバラミンC欠損症)やDGKE遺伝子異常による乳児期のTMAも補体関連aHUSとは区別して扱われます。日本では日本腎臓学会と日本小児科学会が中心となってaHUS診療ガイドが作成・改訂されており、診療の指針となっています。

非典型溶血性尿毒症症候群の疫学・患者数

aHUSはまれな病気で、海外の報告では年間発症は人口100万人あたり数人以下とされます。日本の全国調査では、患者数は数百人規模と推定されています。小児期(特に乳幼児期)と成人期の両方で発症し、小児では男女差は目立ちませんが、成人では妊娠・出産を契機とする発症があるため女性がやや多いとされます。原因の内訳は国や地域で異なり、海外ではH因子(CFH)遺伝子のバリアントが最も多いとされるのに対し、日本ではC3遺伝子のバリアントの割合が比較的高いことが報告されています。抗H因子抗体による病型は、学童期から思春期の小児に多い傾向があります。遺伝子バリアントがあっても一生発症しない人もいる(浸透率が不完全)ため、家族内でも発症する人としない人がいます。

非典型溶血性尿毒症症候群の原因・病態生理

補体は、細菌などを攻撃する免疫の仕組みで、特に第二経路は常に少しずつ活性化しています。自分の細胞(血管内皮細胞など)が補体に攻撃されないよう、H因子(CFH)、I因子(CFI)、膜補因子蛋白(MCP/CD46)、トロンボモジュリン(THBD)などの制御因子がブレーキ役を担っています。aHUSでは、ブレーキ役の遺伝子(CFH、CFI、CD46、THBD)の機能低下バリアントや、アクセル役のC3、B因子(CFB)遺伝子の機能亢進バリアントにより、補体が血管内皮上で過剰に活性化します。遺伝形式は多くが常染色体顕性(優性)遺伝ですが浸透率は不完全で、複数のバリアントや危険因子が重なって発症に至ると考えられています。後天性の病型では抗H因子抗体がH因子の働きを妨げ、この病型ではH因子関連遺伝子(CFHR1/CFHR3)の欠失を背景にもつことが多いとされます。患者の一部では、既知の原因が検査で見つかりません。

発症機序としては、遺伝的な素因に「引き金」が加わることで補体の活性化が一気に進むと考えられています。代表的な引き金は、上気道炎や胃腸炎などの感染症、妊娠・出産(特に産後)、手術、一部の薬剤などです。補体第二経路が過剰に活性化すると、最終的にC5が分解されてC5aと膜侵襲複合体(C5b-9)が生じ、血管内皮細胞が傷害されます。傷ついた内皮は血栓を作りやすい状態となり、血小板が集まって細い血管(特に腎臓の糸球体の毛細血管や細動脈)に微小血栓ができます。狭くなった血管を赤血球が通過する際に物理的に壊されて破砕赤血球が生じ、溶血性貧血が起こります。血小板は血栓形成に消費されて減少し、腎臓では血流障害により急性腎障害を来します。この最終経路であるC5を阻害することが、現在の治療の中心的な考え方です。

非典型溶血性尿毒症症候群の症状

  • 急性腎障害(尿量減少・無尿): 腎臓の微小血管に血栓ができることで尿量が減り、重症では尿がほとんど出なくなります。血尿や蛋白尿を伴い、透析が必要になることもあります。
  • 貧血症状: 赤血球が血管内で壊されるため、顔色不良、息切れ、動悸、強いだるさが出ます。急速に進むと短期間で重い貧血になります。
  • 黄疸・濃い色の尿: 溶血により皮膚や白目が黄色くなったり、尿が紅茶やコーラのような色(ヘモグロビン尿)になることがあります。
  • 点状出血・紫斑: 血小板減少により、皮膚に小さな赤い点や青あざが出ることがありますが、出血症状が目立たないことも少なくありません。
  • むくみ・体重増加: 腎機能低下により水分や塩分が体内にたまり、まぶたや足にむくみが出ます。
  • 高血圧: 腎障害や血管障害により血圧が上がり、頭痛や悪心を伴うことがあります。高度の高血圧はTMAをさらに悪化させる要因にもなります。
  • 神経症状: 脳の微小血管が障害されると、意識障害、けいれん、片麻痺、視覚障害などが起こることがあります。
  • 消化器症状: 腹痛、嘔吐、下痢が見られることがあり、感染性腸炎が引き金となる場合もあります。膵炎や肝機能障害を伴うこともあります。
  • 心臓・肺の症状: 心筋障害による心不全や不整脈、体液過剰による肺水腫で呼吸困難が生じることがあります。
  • 全身倦怠感・発熱: 強い倦怠感や食欲不振がみられ、先行する感染症に伴って発熱していることもあります。

非典型溶血性尿毒症症候群の経過と合併症

aHUSは多くの場合、感染症などをきっかけに数日の経過で急激に発症します。発症初期には貧血、血小板減少、腎障害が同時に進行し、無治療では数週から数か月のうちに末期腎不全に至る例や死亡例が少なくありませんでした。補体阻害薬が使えるようになる以前の海外の報告では、初回発症から1年以内に半数程度が末期腎不全または死亡に至るとされていました。また、一度回復しても感染や妊娠などを契機に再発を繰り返しやすいことが特徴で、再発のたびに腎機能が段階的に低下することがあります。経過は原因遺伝子によって異なり、CFHバリアントでは重症で再発しやすく、CD46(MCP)バリアントでは腎機能が比較的回復しやすいものの再発が多いとされます。

合併症として最も重要なのは、慢性腎臓病・末期腎不全への進行です。腎臓以外にも、脳梗塞やけいれんなどの中枢神経障害、心筋障害・心不全、肺出血・肺水腫、膵炎、消化管虚血、皮膚の壊死、眼の網膜血管障害など、全身の血管障害が起こり得ます。治療に関連する合併症としては、補体阻害薬による髄膜炎菌感染症のリスク上昇が重要です。そのほか、血漿交換に伴うアレルギー反応やカテーテル感染、透析関連の合併症、慢性的な高血圧による心血管障害、腎移植後の再発などにも注意が必要です。

非典型溶血性尿毒症症候群の診断・診断基準

診断は、まず血液検査でTMAの三徴(微小血管症性溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害)を確認することから始まります。次に、TMAを起こす他の病気を除外します。具体的には、便培養や志賀毒素の検査で腸管出血性大腸菌感染症(STEC-HUS)を、ADAMTS13活性の測定でTTP(活性が10%未満)を除外し、さらに薬剤、自己免疫疾患、悪性腫瘍、移植、妊娠関連疾患、悪性高血圧、代謝異常などによる二次性TMAを検討します。これらが否定的で補体の異常が疑われる場合にaHUSと診断します。ADAMTS13活性などの結果が出るまでに時間を要するため、臨床的にaHUSやTTPが疑われる段階で血漿療法などの治療を始め、並行して確定診断を進めることが一般的です。補体関連の遺伝子検査や抗H因子抗体の結果は診断の裏付けや病型の決定、再発リスク評価に役立ちますが、検査で異常が見つからなくてもaHUSを否定できない点に注意が必要です。

  • 血算・溶血の検査: ヘモグロビン低下(診断基準ではおおむね10 g/dL未満)、血小板減少(15万/μL未満)、LDH上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下を認めます。直接クームス試験は通常陰性で、自己免疫性溶血との区別に役立ちます。
  • 末梢血塗抹標本: 顕微鏡で破砕赤血球(分裂赤血球)を確認することは、溶血が血管内で物理的に起きていることを示す重要な所見です。
  • 腎機能検査・尿検査: 血清クレアチニン上昇(小児では年齢・性別の基準値の1.5倍以上、成人では急性腎障害の基準を目安とします)、血尿・蛋白尿の有無を評価します。
  • ADAMTS13活性・インヒビター: 活性が10%未満であればTTPと診断され、aHUSとは治療方針が異なるため、治療開始前の採血が重要です。aHUSでは活性は軽度低下にとどまるか正常です。
  • 腸管出血性大腸菌(STEC)の検査: 便培養、志賀毒素の検出、O157などのLPS抗体を調べ、STEC-HUSを除外します。下痢があってもaHUSを完全には否定できません。
  • 補体関連検査: 血清C3低値、C4正常のパターンは第二経路の活性化を示唆しますが、C3が正常のaHUSも多くみられます。CH50や補体活性化産物(sC5b-9など)、H因子・I因子の量、羊赤血球を用いた溶血試験などが専門施設で補助的に用いられます。
  • 抗H因子抗体: 陽性であれば後天性(自己抗体による)aHUSと考えられ、免疫抑制療法を組み合わせる根拠となります。
  • 遺伝学的検査: CFH、CFI、CD46、C3、CFB、THBD、DGKEなどの遺伝子と、CFHR1/CFHR3の欠失などを調べます。病型の把握、再発リスクや腎移植後の再発予測、治療中止の検討に役立ちます。
  • 腎生検・その他の評価: 腎生検では糸球体や細動脈の内皮細胞障害・微小血栓などTMAに特徴的な所見を認めますが、血小板減少時には出血リスクから実施しないことが多いです。自己抗体、妊娠反応、ホモシステイン・メチルマロン酸(代謝異常の評価)なども必要に応じて調べます。

非典型溶血性尿毒症症候群と鑑別すべき疾患

  • 腸管出血性大腸菌感染に伴うHUS(STEC-HUS): 血便を伴う下痢が先行し、便検査で志賀毒素産生菌や志賀毒素が検出される点で鑑別し、小児のHUSの大部分を占めます。
  • 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP): ADAMTS13活性が10%未満に著しく低下していることで鑑別し、腎障害より精神神経症状が目立つ傾向があります。
  • 播種性血管内凝固(DIC): 敗血症などの基礎疾患があり、PT延長やフィブリノゲン低下、FDP著増など凝固系の異常が前面に出る点が異なります。
  • 全身性エリテマトーデス・抗リン脂質抗体症候群に伴うTMA: 抗核抗体や抗リン脂質抗体などの自己抗体と、他の臓器症状の有無で鑑別しますが、補体異常を併せ持つ例もあります。
  • 妊娠関連TMA(HELLP症候群・妊娠高血圧腎症など): 妊娠後期の発症で分娩後に速やかに改善する傾向がありますが、産後に悪化・遷延する場合はaHUSを強く疑います。
  • 悪性高血圧・薬剤性TMA・移植後TMA: 高度高血圧の先行や、カルシニューリン阻害薬・一部の抗がん剤などの使用歴、造血幹細胞移植歴を確認しますが、背景に補体異常が隠れていることもあります。

非典型溶血性尿毒症症候群の治療

aHUSは急速に腎臓や全身の臓器を障害するため、早期に疑い、速やかに治療を開始することが最も重要です。発症初期でTTPなどとの区別がついていない段階では、血漿交換などの血漿療法を開始しつつ、全身管理(輸液・血圧管理・透析など)を行います。aHUSと判断された場合には、補体C5を阻害する抗体薬(エクリズマブ、ラブリズマブ)が治療の中心となり、日本でもaHUSに対して承認されています。抗H因子抗体陽性例では、血漿交換や補体阻害薬に加えて、ステロイドなどの免疫抑制療法が組み合わされることがあります。二次性TMAが疑われる場合は原因の除去が優先されます。治療をどのくらい継続するか、中止できるかについては、遺伝子異常の種類や再発歴、腎機能などを踏まえて個別に判断され、専門医の間でも議論が続いています。治療方針は病状によって大きく異なるため、主治医や腎臓・血液・小児の専門医とよく相談して決めることが大切です。

  • 補体C5阻害薬(エクリズマブ・ラブリズマブ): C5の分解を阻止して膜侵襲複合体の形成を抑え、血管内皮障害を止める治療で、aHUS治療の中心です。点滴で定期的に投与し、ラブリズマブはエクリズマブより投与間隔が長いのが特徴です。
  • 髄膜炎菌ワクチンと感染予防: 補体阻害薬は髄膜炎菌感染症のリスクを大きく高めるため、原則として投与開始前に髄膜炎菌ワクチンを接種します。緊急で投与する場合には抗菌薬の予防投与を併用し、小児では肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンの接種状況も確認します。
  • 血漿療法(血漿交換・新鮮凍結血漿輸注): 患者の血漿を除去して正常な補体制御因子を含む新鮮凍結血漿で置き換える治療で、TTPとの区別がつかない初期や抗H因子抗体の除去目的で用いられます。補体阻害薬が使用できる現在は、aHUSの長期治療としての位置づけは限定的です。
  • 免疫抑制療法: 抗H因子抗体陽性例では、ステロイドに加えてシクロホスファミドやリツキシマブなどを用いて抗体産生を抑えることがあります。抗体価の推移をみながら治療内容が調整されます。
  • 透析療法: 急性腎障害で尿毒症、高カリウム血症、体液過剰などがある場合に行います。適切な治療により腎機能が回復し透析から離脱できることもありますが、末期腎不全では維持透析が必要になります。
  • 支持療法・全身管理: 降圧薬による血圧管理、輸液・電解質の調整、栄養管理、けいれんへの対応などを行います。血小板輸血は血栓を悪化させる懸念があるため、重大な出血や処置時など必要性が高い場合に慎重に検討されます。赤血球輸血は高度の貧血に対して行います。
  • 腎移植: 末期腎不全に至った場合の選択肢ですが、CFH、CFI、C3などのバリアントでは移植腎での再発率が高いとされ、補体阻害薬による予防的治療を併用して行われることが多くなっています。CD46バリアント単独では再発が比較的少ないとされ、生体腎ドナーとなる血縁者には遺伝学的評価が重要です。
  • 治療継続・中止の判断: 補体阻害薬を中止すると再発する例があり、特にCFHバリアントでは再発リスクが高いとされます。中止を検討する場合は、遺伝子異常の種類・再発歴・腎機能を総合的に評価し、中止後も厳重な経過観察を行います。

非典型溶血性尿毒症症候群の予後・長期フォロー

補体阻害薬が導入される以前は、aHUSの生命予後・腎予後は不良で、多くの患者が末期腎不全に至っていました。補体阻害薬の登場以降、血液学的な改善(血小板数やLDHの正常化)が得られる割合が大幅に高まり、腎機能の改善や透析からの離脱も多くの例で報告されています。ただし、治療開始が遅れると腎障害が不可逆的になりやすいため、早期診断・早期治療が予後を大きく左右します。予後は病型によっても異なり、抗H因子抗体による病型は適切な免疫抑制療法により比較的良好な経過をとることが多い一方、CFHバリアントなどでは再発や腎機能低下のリスクが高いとされます。病状が安定すれば、学業・就労・家庭生活など日常生活を送ることが可能な患者も増えていますが、定期的な点滴通院や感染予防の負担がQOLに影響することがあります。

長期フォローアップでは、血算、LDH、ハプトグロビン、腎機能、尿検査、血圧を定期的に確認し、再発の兆候を早期に捉えることが重要です。補体阻害薬の継続中は投与スケジュールを守り、髄膜炎菌ワクチンの追加接種の必要性についても主治医と確認します。治療を中止している患者では、感染症や妊娠などの引き金の後に再発しやすいため、特に注意深い観察が必要です。慢性腎臓病が残った場合には、腎機能の保護、高血圧・脂質異常症・貧血などの管理、心血管合併症の予防が長期的な課題となります。小児では成長・発達や学校生活への配慮、成人診療科への移行(トランジション)も計画的に進めることが望まれます。

非典型溶血性尿毒症症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、再発の引き金となる感染症を予防することが大切です。手洗い・うがい、季節性インフルエンザなどの予防接種(生ワクチンの可否は治療内容により主治医に確認)を心がけ、体調の変化に早めに気づくよう、尿の色や量、むくみ、だるさ、出血斑などを観察しましょう。補体阻害薬で治療中の方は、発熱、強い頭痛、首の硬さ、皮膚の出血斑などがあれば髄膜炎菌感染症の可能性を考えて直ちに医療機関を受診する必要があり、患者安全性カードを常に携帯しておくと安心です。海外渡航の際も事前に主治医に相談します。腎機能が低下している場合は、塩分・蛋白質・カリウムなどの食事制限について主治医や管理栄養士の指導を受け、市販薬やサプリメントを使う前には相談しましょう。女性では妊娠・出産が発症や再発のきっかけとなることがあるため、妊娠を希望する場合は計画的に専門医と相談し、妊娠中から産後まで慎重な管理を受けることが勧められます。遺伝性のaHUSでは、家族が同じ遺伝子バリアントを持つ可能性がありますが、バリアントを持っていても発症しない人も多いため、家族の検査や将来の妊娠・生体腎移植ドナーの検討などについては、遺伝カウンセリングを受けて正確な情報をもとに判断することが大切です。

利用できる制度・相談窓口

aHUSは指定難病(告示番号109)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合、または軽症でも医療費が高額となる場合(軽症高額該当)には、医療費助成の対象となります。補体阻害薬は高額な薬剤であるため、助成制度の利用は経済的負担の軽減に重要です。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で手続きを行います。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の小児では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があるため、主治医に確認してください。あわせて、医療保険の高額療養費制度も利用できます。腎機能障害が残り透析などが必要になった場合は、身体障害者手帳(じん臓機能障害)の交付、自立支援医療(更生医療・育成医療)、障害年金の対象となることがあります。制度の詳細や手続きについては、病院の医療ソーシャルワーカー、各都道府県の難病相談支援センター、保健所などに相談できます。

非典型溶血性尿毒症症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

aHUSは突然発症して集中治療や透析が必要になることも多く、患者さんや家族は強い恐怖や混乱を経験します。回復後も「また再発するのではないか」という不安が続きやすく、定期的な点滴のための通院、髄膜炎菌感染症への警戒、治療をいつまで続けるのかがはっきりしない状況などが、長期的な心理的負担となります。遺伝性の病型では、子どもに遺伝させたのではないかという自責感や、家族間で検査を受けるかどうかの葛藤、結婚・妊娠・出産に関する悩みが生じることもあります。小児患者では、入院による学校生活の中断や友人関係の変化、親のきょうだい児への関わりの減少なども課題になります。こうした負担から、抑うつ、不安障害、適応障害、睡眠障害などが生じることは珍しくありません。気分の落ち込みや眠れない状態が続くときは一人で抱え込まず、主治医や看護師に伝え、必要に応じて心療内科・精神科、臨床心理士、遺伝カウンセラー、医療ソーシャルワーカーなどの支援を受けましょう。同じ病気をもつ患者・家族との交流が支えになることもあります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

非典型溶血性尿毒症症候群の受診の目安

  • 尿の量が急に減った、またはほとんど出ないときは、すぐに医療機関を受診してください。
  • 尿が紅茶やコーラのような色になった、白目や皮膚が黄色くなったときは早めに受診してください。
  • 強いだるさや息切れ、顔色不良とともに、皮膚の点状出血や青あざが増えたときは受診が必要です。
  • 補体阻害薬で治療中に発熱、強い頭痛、首の硬さ、意識がもうろうとする、皮膚の出血斑などが出たときは、髄膜炎菌感染症の可能性があるため直ちに救急受診してください。
  • けいれん、意識障害、手足の麻痺、急激な視力低下などの神経症状が出たときは救急車を呼んでください。
  • aHUSと診断されている方が感染症にかかったときや妊娠がわかったときは、早めに主治医に連絡してください。

非典型溶血性尿毒症症候群についてのよくある質問

Q. aHUSは「典型的な」溶血性尿毒症症候群と何が違うのですか?

A. 典型的なHUSは主に腸管出血性大腸菌(O157など)が出す志賀毒素によって起こり、多くは小児の一過性の病気です。aHUSは補体の制御異常が原因で、再発しやすく、補体阻害薬による治療が中心となる点が大きく異なります。

Q. 補体阻害薬は一生続けなければならないのですか?

A. 一律には決まっておらず、原因遺伝子の種類や再発歴、腎機能などをもとに個別に判断されます。中止すると再発する例もあるため、自己判断で中断せず、主治医とよく相談して方針を決めることが重要です。

Q. 子どもや家族にも遺伝しますか?

A. 遺伝性のaHUSでは、多くの場合常染色体顕性(優性)の形式で2分の1の確率でバリアントが受け継がれますが、バリアントを持っていても発症しない人が多くいます。抗H因子抗体による病型は通常遺伝しません。家族の検査については遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。

Q. aHUSと診断されても妊娠・出産はできますか?

A. 妊娠・出産はaHUSの発症や再発のきっかけになり得ますが、適切な管理のもとで出産に至った報告もあります。妊娠を希望する場合は、事前に腎臓・産科などの専門医と相談し、妊娠中から産後にかけて慎重な経過観察を受けることが大切です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。