紫斑病性腎炎

IgA Vasculitis with Nephritis

紫斑病性腎炎(IgA Vasculitis with Nephritis)|紫斑病性腎炎(IgA血管炎に伴う腎炎)は、皮膚の紫斑、関節痛、腹痛などを特徴とする全身性の小血管炎「IgA血管炎(旧称:ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)」に合併する糸球体腎炎です。主に小児に起こり、多くは自然に軽快しますが、一部は高度の蛋白尿や腎機能低下が続き、成人期に慢性腎臓病や末期腎不全へ進むことがあります。なお、既存の簡易解説には疾患名を「三頭酵素欠損症」とする誤りや、画像診断・遺伝子検査を診断の中心とする不適切な記載がありました。三頭酵素欠損症は脂肪酸代謝異常症で、本症とはまったく別の疾患です。本稿ではこれらを訂正して解説します。

紫斑病性腎炎の要点

紫斑病性腎炎は、IgA血管炎(旧ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)に合併する糸球体腎炎で、IgA1を主体とする免疫複合体の沈着が関与します。紫斑・関節痛・腹痛に加え血尿や蛋白尿がみられ、主に小児に起こり、多くは軽快しますが一部は腎機能低下に進む指定難病(告示番号224)です。

別名・略称IgA血管炎に伴う腎炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病性腎炎、アレルギー性紫斑病性腎炎、HSP腎炎、紫斑病腎炎、IgAVN、HSPN、Henoch-Schönlein purpura nephritis
分野腎・泌尿器疾患
好発年齢主に小児
主な症状皮膚の紫斑、関節痛、腹痛、血尿・蛋白尿
主な検査尿検査、腎生検(IgA優位のメサンギウム沈着・増殖、ISKDC分類で評価)
主な治療重症度に応じて経過観察、または副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などを使用
経過多くは自然に軽快するが、一部は慢性腎臓病・末期腎不全へ進行する
受診する主な診療科小児科(小児腎臓)、腎臓内科

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紫斑病性腎炎とは

IgA血管炎は、IgA1を主体とする免疫複合体が皮膚・消化管・関節・腎臓などの小血管(毛細血管、細静脈、細動脈)の壁に沈着して起こる血管炎です。2012年の国際Chapel Hillコンセンサス会議(CHCC2012)で、従来のヘノッホ・シェーンライン紫斑病(アレルギー性紫斑病、アナフィラクトイド紫斑とも呼ばれた)から現在の名称に改められました。このうち腎臓の糸球体が侵されたものが紫斑病性腎炎(IgA vasculitis with nephritis:IgAVN)です。腎生検では、メサンギウム領域へのIgA優位の沈着とメサンギウム増殖がみられます。組織像はIgA腎症と非常に似ており、両者は同じ病態の「全身型」と「腎限局型」とみなす考え方もあります。日本では指定難病(告示番号224)に指定され、小児慢性特定疾病の対象にも含まれています。

病理学的重症度の評価には、国際小児腎臓病研究班(ISKDC)の分類が広く使われています。半月体(糸球体を取り囲む細胞増殖)の割合に応じてGrade I(微小変化)、II(メサンギウム増殖のみ)、III(半月体が50%未満、巣状:a/びまん性:b)、IV(50〜75%)、V(75%超)、VI(膜性増殖性腎炎様)に分けられます。近年はIgA腎症のOxford分類(MEST-C)を応用した評価も行われています。臨床像は、顕微鏡的血尿のみの軽症例から、急性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、急速進行性糸球体腎炎を呈する重症例まで幅があります。紫斑の出現と腎炎の発症には時間差があることも少なくありません。

紫斑病性腎炎の疫学・患者数

IgA血管炎は小児で最も頻度の高い血管炎です。海外の報告では、小児の年間発症率は10万人あたり十数〜20人前後とされています。発症のピークは3〜10歳頃で、男児にやや多い傾向があります。秋から春にかけての発症が多く、先行する上気道感染との関連がうかがわれます。腎炎の合併率は報告によって幅がありますが、小児IgA血管炎の概ね20〜50%程度に尿所見異常がみられるとされます。その大部分は紫斑出現後4週間以内、遅くとも6か月以内に出現します。成人のIgA血管炎は小児よりまれですが、腎炎の合併率が高く、腎予後も不良な傾向があると報告されています。日本で指定難病として医療費助成を受けている患者数は限られています。しかし、これは軽症例の多くが助成の重症度基準に該当しないためであり、実際に診療を受けている患者はそれより多いと考えられます。

紫斑病性腎炎の原因・病態生理

発症には、糖鎖異常IgA1(ガラクトース欠損IgA1:Gd-IgA1)が中心的な役割を果たすと考えられています。IgA1のヒンジ部にあるO型糖鎖のガラクトースが欠損すると、これを抗原として認識するIgG型・IgA型の自己抗体が産生されます。両者が結合してできた大きな免疫複合体が血中を循環し、腎メサンギウムや皮膚の小血管壁に沈着します。血中Gd-IgA1の高値はIgA血管炎の患者全般でみられますが、腎炎を起こした例で特に高いとする報告があります。IgA腎症と共通の分子基盤がうかがわれます。遺伝的素因として、HLA領域などの関連が報告されています。ただし単一遺伝子による遺伝性疾患ではなく、家族内発症はまれです。

沈着した免疫複合体は、補体の第二経路やレクチン経路を活性化します。その結果、好中球の遊走、サイトカイン(IL-6、IL-8など)の産生、血管内皮の障害が起こります。皮膚では白血球破砕性血管炎として触知可能な紫斑に、消化管では粘膜下の浮腫・出血として腹痛や下血に、腎臓ではメサンギウム細胞の増殖と基質の増加として現れます。炎症が強いと糸球体毛細血管壁が破綻し、ボウマン嚢内にフィブリンが漏れ出て細胞性半月体を形成します。これを放置すると線維性半月体や糸球体硬化、間質線維化へ移行し、不可逆的な腎機能低下の原因になります。誘因としては、A群溶血性レンサ球菌などの感染、一部の薬剤、ワクチン接種、虫刺されなどが報告されています。ただし誘因がはっきりしない例も多くみられます。

紫斑病性腎炎の症状

  • 触知可能な紫斑: 下肢や臀部を中心に、左右対称に、わずかに盛り上がった点状〜斑状の出血斑がみられます。血小板数は正常で、押しても色が消えないのが特徴です。
  • 関節痛・関節腫脹: 足首や膝などに一過性の痛みや腫れが生じ、歩行を嫌がることがあります。関節の変形を残すことは通常ありません。
  • 腹痛・嘔吐: へその周りの差し込むような強い痛みが典型で、紫斑より先に出て急性腹症と区別しにくいことがあります。
  • 消化管出血: 血便や黒色便、便潜血陽性がみられることがあります。重症例では貧血を伴います。
  • 腸重積・消化管穿孔: 小児では小腸同士の重積(回腸-回腸型)が起こることがあり、まれに穿孔もみられます。緊急の画像検査や外科的対応が必要です。
  • 血尿: 最も多い腎症状で、多くは顕微鏡的血尿です。肉眼的血尿(コーラ色の尿)や赤血球円柱がみられることもあります。
  • 蛋白尿: 持続する蛋白尿は腎予後を左右する重要な指標です。高度になるとネフローゼ症候群に進みます。
  • 浮腫(むくみ): ネフローゼ症候群や腎機能低下に伴い、まぶたや下肢がむくみ、体重が増えます。紫斑病自体による皮下の浮腫(頭皮、手背、足背)と区別する必要があります。
  • 高血圧: 急性腎炎症候群や腎機能低下に伴って出現します。頭痛や、まれに高血圧性脳症の原因になります。
  • 腎機能低下・乏尿: 半月体形成が多い重症例では、数週〜数か月で血清クレアチニンが上昇し、尿量が減ることがあります。
  • 陰嚢腫脹・精巣痛: 男児で陰嚢の腫れや痛みがみられることがあります。精巣捻転との鑑別が必要です。
  • まれな臓器症状: 肺胞出血、中枢神経症状(けいれん、意識障害)、膵炎などが報告されていますが、頻度は低いとされます。

紫斑病性腎炎の経過と合併症

小児のIgA血管炎の多くは数週間で自然に軽快します。ただし、約3分の1で紫斑や腹痛の再燃がみられるとされます。腎炎は通常、紫斑出現後1〜3か月以内に明らかになります。血尿のみ、あるいは軽度の蛋白尿にとどまる例の大半は、数か月〜数年で尿所見が正常化します。一方、ネフローゼレベルの蛋白尿、発症時の腎機能低下、高血圧、腎生検で半月体が多い(ISKDC Grade III以上、とくにIV〜V)といった所見は、腎予後不良の危険因子です。これらの例では早期の治療介入が検討されます。また、発症時は軽症にみえても、数年から十数年たって蛋白尿の再出現や腎機能低下が明らかになることがあります。小児期に診断された女性が、妊娠を契機に高血圧や蛋白尿を呈することも報告されています。

合併症としては、急性期にはネフローゼ症候群に伴う血栓症・感染症・急性腎障害、高血圧性脳症、腸重積や消化管穿孔、高度の消化管出血が問題となります。慢性期には、慢性腎臓病(CKD)とそれに伴う腎性貧血、骨・ミネラル代謝異常、心血管疾患のリスク上昇がみられ、最終的に透析や腎移植が必要となる場合があります。治療に伴う合併症として、副腎皮質ステロイドによる成長障害、肥満、骨粗鬆症、白内障、緑内障、高血糖が挙げられます。免疫抑制薬では易感染性や骨髄抑制、シクロホスファミドでは性腺毒性などに注意が必要です。腎移植後に移植腎で再発することも報告されています。

紫斑病性腎炎の診断・診断基準

診断は、まず特徴的な紫斑と、腹痛・関節症状などの全身症状からIgA血管炎を臨床的に診断することから始まります。そのうえで、尿検査で血尿・蛋白尿の有無を確認します。小児では、2010年にEULAR/PRINTO/PReSが提唱した分類基準が広く参照されています。この基準では、下肢優位の触知可能な紫斑を必須とし、腹痛、組織でのIgA沈着、関節炎・関節痛、腎病変のいずれかを伴う場合に分類します。腎炎は紫斑から遅れて出現することがあるため、紫斑出現後少なくとも6か月程度は定期的な検尿で経過をみることが推奨されています。持続する蛋白尿、ネフローゼ症候群、腎機能低下などがあれば腎生検を検討し、組織像と重症度を確定します。指定難病の申請には、所定の診断基準(紫斑病の既往と腎炎所見、腎生検所見など)と重症度基準を満たす必要があり、詳細は難病情報センターの最新の告示内容で確認することが大切です。

  • 尿検査(尿定性・尿沈渣): 血尿、蛋白尿、赤血球円柱の有無を確認します。変形赤血球が多ければ、糸球体由来の血尿が示唆されます。
  • 尿蛋白定量(尿蛋白/クレアチニン比、24時間蓄尿): 蛋白尿の程度を数値で評価し、治療方針の決定や経過観察の中心となる指標です。ネフローゼ域かどうかの判定にも用います。
  • 血液検査(腎機能・血清蛋白): 血清クレアチニン、eGFR(小児は日本人小児用の推算式)、血清アルブミン、脂質を測定し、腎機能低下やネフローゼ症候群の有無を評価します。
  • 免疫学的検査: 血清IgAは約半数で上昇しますが、診断の決め手にはなりません。補体(C3、C4)は通常正常で、低下していれば溶連菌感染後糸球体腎炎やループス腎炎などを考えます。抗核抗体、ANCA、抗GBM抗体は鑑別のために測定します。
  • 血液凝固第XIII因子活性: 急性期、とくに腹部症状が強い例で低下することがあります。病勢の把握や治療選択の参考になります。
  • 皮膚生検: 紫斑部の生検で白血球破砕性血管炎と血管壁へのIgA沈着を確認できます。非典型例でIgA血管炎の診断を裏付けるのに有用です。
  • 腎生検: メサンギウムへのIgA優位の沈着、メサンギウム増殖、半月体形成を確認し、ISKDC分類などで重症度を評価します。治療強度の決定に重要です。
  • 腹部超音波検査など: 腹痛例では、腸管壁の肥厚や腸重積の有無を評価します。腎の大きさや形態の確認にも用います。
  • 指定難病の診断・重症度基準: 診断基準を満たしたうえで、CKD重症度分類などに基づく重症度基準に該当する場合に医療費助成の対象となります。詳細な基準は難病情報センターで確認してください。

紫斑病性腎炎と鑑別すべき疾患

  • IgA腎症: 腎組織は酷似していますが、紫斑や腹痛・関節症状などの腎外症状を伴わない点で区別されます。
  • 溶連菌感染後急性糸球体腎炎: 感染から1〜2週後に発症し、血清補体C3の一過性低下とASOなどの上昇を伴う点が異なります。
  • ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎など): ANCAが陽性で、腎組織に免疫沈着が乏しい(pauci-immune型)半月体形成性腎炎を示します。
  • ループス腎炎(全身性エリテマトーデス): 抗核抗体・抗ds-DNA抗体陽性と低補体血症があり、腎組織ではIgG、IgA、IgM、C3、C1qがすべて沈着する「フルハウス」パターンを示すことが多い点で鑑別します。
  • 特発性血小板減少性紫斑病(免疫性血小板減少症): 紫斑は平坦で、血小板数が低下している点でIgA血管炎(血小板数は正常)と区別できます。
  • クリオグロブリン血症性血管炎・低補体血症性蕁麻疹様血管炎: クリオグロブリンの検出や低補体血症、C型肝炎ウイルス感染の有無などで鑑別します。

紫斑病性腎炎の治療

治療の目標は、急性期の糸球体炎症を鎮めて不可逆的な腎障害を防ぎ、蛋白尿を減らして長期的な腎機能を保つことです。紫斑・関節痛・腹痛などの腎外症状に対しては、安静や鎮痛などの対症療法が基本です。腹痛が強い場合には副腎皮質ステロイドが用いられることがあります。ただし、発症初期にステロイドを予防的に使っても腎炎の発症は防げないとする研究結果が示されています。腎炎の治療強度は、蛋白尿の程度、腎機能、腎生検所見(半月体の割合など)に応じて段階的に選ばれます。軽症例では経過観察や腎保護療法が中心となり、高度蛋白尿や半月体形成性腎炎では、ステロイドと免疫抑制薬を組み合わせた治療が検討されます。小児と成人ではエビデンスや治療方針が異なり、KDIGOガイドラインや国内の小児腎臓病学会などの指針を参考に、腎臓専門医・小児腎臓専門医が個別に判断します。具体的な治療は必ず主治医と相談して決めてください。

  • 経過観察と一般療法: 血尿のみや軽微な蛋白尿では、定期的な検尿と血圧測定を行いながら経過をみます。急性期の安静、腎機能に応じた塩分制限、浮腫に対する利尿薬などを行います。
  • ACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB): 持続する蛋白尿に対し、糸球体内圧を下げて尿蛋白を減らす腎保護療法の基本薬です。高カリウム血症や腎機能の変化に注意しながら用います。
  • 副腎皮質ステロイド(経口・メチルプレドニゾロンパルス療法): ネフローゼ症候群や半月体形成を伴う中等症〜重症例で中心となる治療です。重症例ではステロイドパルス療法の後に経口ステロイドへ移行する方法が用いられます。
  • 免疫抑制薬の併用: 重症例では、シクロホスファミド、アザチオプリン、ミゾリビン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどの併用が報告されています。国内の小児では、ステロイドに免疫抑制薬と抗凝固・抗血小板薬を組み合わせた「多剤併用療法」が行われてきました。薬剤ごとに保険適用の状況が異なるため、専門医の判断が必要です。
  • 抗血小板薬・抗凝固薬: ジピリダモールやワルファリンなどが、主に国内で多剤併用療法の一部として用いられてきました。単独での有効性の根拠は限られています。
  • 血漿交換療法: 急速進行性糸球体腎炎を呈する最重症例で、免疫複合体の除去を目的に、他の治療と併用されることがあります。
  • 扁桃摘出術(+ステロイドパルス): IgA腎症の治療に準じて国内の一部施設で行われていますが、紫斑病性腎炎での有効性を示す根拠はまだ十分ではありません。
  • 腹部症状への対応(血液凝固第XIII因子製剤など): 第XIII因子活性が低下し、強い腹部症状がある場合に、第XIII因子製剤の投与が検討されることがあります。腸重積や穿孔に対しては整復や外科治療を行います。
  • 腎代替療法(透析・腎移植): 末期腎不全に至った場合には、血液透析、腹膜透析、腎移植を選択します。移植腎で再発する可能性があることも考慮します。

紫斑病性腎炎の予後・長期フォロー

小児の紫斑病性腎炎の多くは良好な経過をたどり、尿所見異常の大部分は自然に、あるいは治療によって消失します。ただし、ネフローゼ症候群や腎機能低下を伴った例、腎生検で半月体が多かった例では、長期的に慢性腎臓病が残る割合が高くなります。末期腎不全に至るのは小児全体では数%程度とされますが、重症例に限ると決して低い割合ではありません。成人発症例は、小児に比べて腎機能低下に至る割合が高いと報告されています。生命予後は概して良好です。それでも、慢性腎臓病が残れば心血管リスクや生活の質に影響するため、適切な腎保護が重要です。

尿所見が正常化した後も再燃や晩期の腎機能低下がありうるため、少なくとも数年間、できれば成人期まで、定期的な検尿・血圧測定・腎機能検査を続けることが勧められます。小児期に発症した患者は、成長に伴い小児科から成人の腎臓内科へ診療を引き継ぐ「移行期医療」が必要です。病歴、腎生検所見、治療歴の情報を本人が理解し、引き継ぐことが大切です。女性では、妊娠中に高血圧や蛋白尿の悪化をきたすことがあるため、妊娠を考えた段階で主治医に相談し、妊娠中は産科と腎臓内科が連携して管理することが望まれます。ステロイドを長期に使った場合は、骨密度、眼科検査、成長などの評価も行います。

紫斑病性腎炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

急性期を過ぎて尿所見が落ち着いていれば、多くの子どもは通常の学校生活や運動が可能です。運動制限の程度は、日本学校保健会の「学校生活管理指導表」などを用いて主治医が判断します。必要以上の制限は成長や心理面に不利益となるため避けます。浮腫や高血圧があるときは塩分を控えめにします。腎機能低下がある場合には、蛋白質やカリウムの調整が必要になることもあり、管理栄養士の指導を受けると安心です。ステロイドや免疫抑制薬の服用中は、手洗い・うがいなどの感染予防を心がけます。生ワクチンの接種可否は主治医に確認してください。水痘などの感染症の患者と接触した場合は、早めに相談することが重要です。市販の鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)は腎臓に負担をかけることがあるため、使用前に相談しましょう。本症は遺伝性疾患ではなく、きょうだいへの感染や遺伝を過度に心配する必要はありません。家庭で尿試験紙を用いて検尿を続ける方法もあり、異常があれば記録して受診時に伝えるとよいでしょう。

利用できる制度・相談窓口

紫斑病性腎炎は指定難病(告示番号224)であり、診断基準と重症度基準を満たせば、都道府県・指定都市に申請して医療費助成(特定医療費)を受けられます。重症度基準を満たさない場合でも、高額な医療が継続する場合の「軽症高額該当」の仕組みがあります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病(慢性腎疾患群)の医療費助成の対象となる場合があり、成人後に指定難病へ切り替える手続きが必要です。腎機能障害が一定以上に進んだ場合には、身体障害者手帳(腎臓機能障害)の交付を受けられることがあります。透析や腎移植では、自立支援医療(更生医療・育成医療)や高額長期疾病(特定疾病療養受療証)による自己負担軽減も利用できます。病状により日常生活や就労に支障がある場合は、障害年金の対象となりうるため、年金事務所や社会保険労務士に相談するとよいでしょう。各都道府県の難病相談支援センター、保健所、病院の医療ソーシャルワーカーが、申請手続きや就学・就労の相談窓口となります。

紫斑病性腎炎に伴う心のケア・心理社会的支援

子どもにとっては、突然の入院、繰り返す検尿や採血、腎生検などの処置、ステロイドによる顔の丸み(ムーンフェイス)や体重増加といった外見の変化が、大きな不安や自己肯定感の低下につながることがあります。運動制限や学校の欠席により、友人関係や学業に影響が出ることもあります。保護者は「自分が早く気づいていれば」といった自責感や、再燃・腎不全への将来不安を抱えやすく、きょうだいへの目配りが手薄になることもあります。本症に特有の課題として、「症状は治ったのに検尿が何年も続く」状況への受け入れにくさがあります。思春期には通院や服薬を自己判断でやめてしまう問題も起こりがちです。成人では、仕事との両立や妊娠・出産への不安、慢性腎臓病を抱えることへの抑うつや適応障害がみられることもあります。気分の落ち込み、不眠、登校・出勤のつらさが続くときは、我慢せず主治医、看護師、臨床心理士、スクールカウンセラーなどに相談してください。小児科と精神科・心療内科が連携した支援を受けることも大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

紫斑病性腎炎の受診の目安

  • 紫斑が治った後に、尿が赤い・コーラ色になる、尿が泡立つ、まぶたや足がむくむといった変化があれば、早めに受診してください。
  • 強い腹痛が続く、繰り返し吐く、血便や黒い便が出る、ぐったりしている場合は、腸重積などの可能性があるため救急受診してください。
  • 尿量が明らかに減った、急な体重増加や息苦しさがある場合は、腎機能の急な悪化が疑われるため、すぐに受診してください。
  • 強い頭痛、嘔吐、けいれん、意識がもうろうとするなどの症状は、高血圧性脳症などの可能性があり、救急受診が必要です。
  • 陰嚢が急に腫れて強く痛む場合は、精巣捻転との鑑別が必要なため、速やかに受診してください。
  • 免疫抑制治療中に高い熱が出た場合や、水痘・麻疹の患者と接触した場合は、早めに主治医へ連絡してください。

紫斑病性腎炎についてのよくある質問

Q. 紫斑が消えたのに、なぜ検尿を続ける必要があるのですか?

A. 腎炎は紫斑から数週〜数か月遅れて出ることが多く、発症時は軽くても後から蛋白尿が増えることがあるためです。一般に紫斑の出現後少なくとも6か月は定期的な検尿が勧められ、腎炎があった場合はさらに長期の経過観察が必要です。

Q. IgA腎症とはどう違うのですか?

A. 腎臓の組織像はよく似ており、どちらも糖鎖異常IgA1が関わると考えられています。紫斑や腹痛、関節症状など全身の血管炎を伴うものが紫斑病性腎炎、腎臓だけに病変があるものがIgA腎症と区別されます。

Q. 腎生検はどんな場合に必要ですか?

A. ネフローゼレベルの蛋白尿、腎機能の低下、数か月以上続く蛋白尿などがある場合に、炎症の強さや半月体の有無を確認するため検討されます。結果によって治療の強さが変わるため、必要性やリスクについて主治医とよく話し合ってください。

Q. 将来、妊娠・出産はできますか?

A. 腎機能が保たれ尿所見が落ち着いていれば、多くの方が妊娠・出産をしています。ただし、妊娠中に高血圧や蛋白尿が悪化することがあるため、計画段階から主治医に相談し、内服薬の調整や産科との連携のもとで管理を受けることが大切です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。