オスラー病
Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia (Osler-Weber-Rendu Disease)
オスラー病(Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia (Osler-Weber-Rendu Disease))|オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症:HHT)は、全身の血管がもろく拡張しやすくなる常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。繰り返す鼻出血や皮膚・粘膜の毛細血管拡張が典型的な症状です。肺・脳・肝臓などに動静脈奇形(AVM)ができると、脳梗塞、脳膿瘍、脳出血、心不全といった重い合併症につながることがあります。早く見つけて臓器ごとにスクリーニングを行い、予防的に治療することで、多くの合併症は防いだり軽くしたりできます。
オスラー病の要点
オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)は、動脈と静脈が直接つながる血管形成異常により、繰り返す鼻出血や皮膚・粘膜の毛細血管拡張を起こす常染色体顕性遺伝の病気です。肺・脳・肝臓などに動静脈奇形を生じることがあり、日本では指定難病(告示番号227)です。
| 別名・略称 | 遺伝性出血性末梢血管拡張症、HHT、オスラー・ウェーバー・ランデュ病、Osler-Weber-Rendu病、ランデュ・オスラー・ウェーバー病 |
|---|---|
| 分野 | 循環器・先天性心疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性(優性)遺伝 |
| 主な症状 | 繰り返す鼻出血、皮膚・粘膜の毛細血管拡張、臓器の動静脈奇形 |
| 主な原因遺伝子 | ENG(HHT1型)、ACVRL1(HHT2型)、SMAD4、GDF2など |
| 診断基準 | キュラソー基準(2000年)、遺伝学的検査も用いられる |
| 主な合併症 | 脳梗塞、脳膿瘍、脳出血、心不全など(肺・脳・肝AVMに関連) |
| 指定難病 | 告示番号227 |
オスラー病とは
オスラー病は、毛細血管が正常に作られず、動脈と静脈が直接つながってしまう血管形成異常を特徴とする遺伝性疾患です。皮膚や粘膜にできる小さな病変は毛細血管拡張(telangiectasia)、臓器にできる大きな病変は動静脈奇形(AVM)と呼ばれます。どちらも本質的には同じ『動静脈の短絡』です。鼻粘膜や消化管の拡張血管は壁が薄く、わずかな刺激で出血します。肺や脳のAVMは、出血だけでなく血液の短絡による塞栓症の原因にもなります。症状の出方は、同じ家系内でも人によって大きく異なります。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、Rendu、Osler、Weberらが家族性の鼻出血と毛細血管拡張を報告しました。そのため欧米では Osler-Weber-Rendu病とも呼ばれます。現在は原因遺伝子によって病型が分けられています。ENG遺伝子(エンドグリン)の変異によるHHT1型と、ACVRL1遺伝子(ALK1)の変異によるHHT2型が大部分を占めます。ほかに、SMAD4遺伝子の変異で若年性ポリポーシスを合併する型(JP-HHT)や、GDF2(BMP9)遺伝子の変異による病型が報告されています。一般にHHT1型では肺AVMと脳AVMが、HHT2型では肝AVMが多い傾向があります。診断には国際的な臨床診断基準であるキュラソー基準(2000年)が広く使われています。管理については国際ガイドライン(2020年に第2版)が公表されています。日本では指定難病(告示番号227)に指定されています。
オスラー病の疫学・患者数
海外の報告では、有病率はおおむね5,000〜8,000人に1人程度とされ、人種や地域による大きな差はないと考えられています。日本でも地域調査から同程度の頻度が推定されています。一方で、診断されていない患者が多い『見逃されやすい病気』とされ、指定難病として医療費助成を受けている人は推定患者数よりかなり少ないのが実情です。性差はほとんどありません。鼻出血は小児期から思春期に始まることが多く、40歳ごろまでに大部分の患者で見られます。皮膚・粘膜の毛細血管拡張は年齢とともに増え、30〜40歳代以降に目立つようになります。消化管出血は50歳以降に増える傾向があります。肺AVMや脳AVMは生まれつき存在することがあり、小児期に脳膿瘍や脳出血で見つかる例もあります。
オスラー病の原因・病態生理
遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝です。親のどちらかが患者であれば、子が病的変異を受け継ぐ確率は性別にかかわらず50%です。浸透率は年齢とともに高くなり、成人ではほぼ全員が何らかの症状を示すとされます。ただし症状の重さや出やすい臓器には個人差が大きくあります。原因遺伝子はいずれも、血管内皮細胞にあるTGF-β/BMPシグナル伝達経路の構成要素をコードしています。代表的なものは、BMP9/BMP10を受け取る受容体複合体を作るALK1(ACVRL1)とその補助受容体であるエンドグリン(ENG)、そして細胞内で信号を核に伝えるSMAD4です。変異の多くは、遺伝子産物の量が半分に減る『ハプロ不全』として働くと考えられています。臨床的に診断基準を満たす患者でも、遺伝学的検査で変異が見つからない例が一定の割合で存在します。
BMP9/10-ALK1-エンドグリン経路は、血管の成熟と安定化、とくに毛細血管網の維持に重要な役割を担っています。この経路がうまく働かないと、内皮細胞の増殖や移動の制御が乱れます。その結果、VEGF(血管内皮増殖因子)などによる血管新生の刺激に過剰に反応しやすくなります。外傷・炎症・血流変化といった『第二のきっかけ』が加わると、小さな細静脈が拡張し、やがて細動脈と直接つながります。こうして毛細血管を通らない動静脈短絡が形成されると考えられています。病変部で体細胞変異が加わる『二段階の変異』を示唆する研究もあります。肺AVMでは毛細血管のフィルター機能が失われます。そのため静脈系から来た血栓・空気・細菌が肺を素通りして動脈系に入り、奇異性塞栓による脳梗塞や脳膿瘍を起こします。同時に右左短絡による低酸素血症も生じます。肝AVMでは、短絡の型(肝動脈-肝静脈、肝動脈-門脈、門脈-肝静脈)によって、高拍出性心不全、門脈圧亢進症、胆道虚血などさまざまな病態が起こります。VEGFが病態に関わることは、抗VEGF抗体による治療研究の根拠にもなっています。
オスラー病の症状
- 反復性鼻出血: 最も多い症状で、多くは小児期から思春期に始まります。自然に繰り返し起こり、頻度や量は年齢とともに増える傾向があります。重症例では毎日のように出血し、慢性的な鉄欠乏性貧血の主な原因になります。
- 皮膚・粘膜の毛細血管拡張: 口唇、舌、口腔粘膜、指先、顔面、耳介などに、数mmの赤い点状や小さなクモ状の血管拡張が多発します。押すと色が薄くなり、年齢とともに数が増えます。
- 鉄欠乏性貧血: 鼻出血や消化管出血が続くことで起こります。だるさ、息切れ、動悸、集中力の低下などが現れ、鉄剤や輸血が必要になることもあります。
- 消化管出血: 胃や小腸を中心に毛細血管拡張ができます。黒色便や原因のはっきりしない貧血として現れ、とくに中高年以降に問題になりやすくなります。
- 肺動静脈奇形による低酸素症状: 短絡量が多いと、労作時の息切れ、チアノーゼ、ばち指、多血症などが現れます。一方で、無症状のまま見つかることも少なくありません。
- 奇異性塞栓(脳梗塞・一過性脳虚血発作): 肺AVMを通って静脈側の血栓が脳に飛び、若い年代でも脳梗塞を起こすことがあります。原因不明の若年性脳梗塞で本症が見つかることもあります。
- 脳膿瘍: 歯科処置などで血液中に入った細菌が肺AVMを素通りして脳に達し、膿瘍を作ることがあります。頭痛、発熱、けいれん、麻痺などで発症します。
- 脳出血・けいれん(脳・脊髄血管奇形): 脳AVMや脊髄AVMが破裂すると、突然の頭痛、意識障害、麻痺、けいれんを起こします。脊髄病変は小児での報告が比較的多いとされます。
- 肝血管奇形による症状: 多くは無症状です。しかし一部では高拍出性心不全(息切れ、むくみ)、門脈圧亢進症(腹水、食道静脈瘤)、胆道虚血による腹痛や胆管障害を起こします。
- 片頭痛様頭痛: 肺AVMのある人では片頭痛の頻度が高いという報告があり、肺AVMの治療後に軽くなる例もあるとされます。
オスラー病の経過と合併症
本症は『進行する血管病変』としての性質を持ちます。鼻出血は思春期以降に頻度と量が増え、皮膚・粘膜の毛細血管拡張は中年期に向けて数が増えます。消化管病変による出血は50〜60歳代で目立ってくることが多く、高齢になるほど貧血の管理が中心的な課題になります。肺AVMは成長期、妊娠中、加齢とともに大きくなることがあります。治療したあとも、別の小さなAVMの拡大や治療部位の再開通が起こりえます。脳AVMは多くが小児期から存在すると考えられています。肝AVMは画像上は高頻度に見つかりますが、症状を出すのは一部です。症状は加齢や妊娠、貧血の進行によって表面化することがあります。
重い合併症として、肺AVMによる奇異性脳梗塞、脳膿瘍、喀血・血胸があります。脳AVMや脊髄AVMでは出血が問題になります。肝AVMでは高拍出性心不全、門脈圧亢進症、胆道壊死、肝性脳症が起こりえます。このほか、慢性貧血による心負荷、肺高血圧症(ACVRL1変異に伴う肺動脈性肺高血圧症や、肝AVMによる高拍出状態に関連するもの)があります。妊娠中は肺AVMの急な増大や破裂による出血のリスクが高まるため、妊娠は高リスク妊娠として扱われます。SMAD4変異のある型では、若年性ポリポーシスによる消化管ポリープと大腸がんのリスクがあり、大動脈の拡張なども報告されています。慢性貧血、静脈血栓症、出血と血栓のバランスを取らなければならない抗血栓療法の難しさも、実際の診療上の課題です。
オスラー病の診断・診断基準
診断の基本は、キュラソー基準の4項目を確かめることです。4項目は、①自然に繰り返す鼻出血、②特徴的な部位(口唇、口腔、指、鼻)に多発する毛細血管拡張、③内臓病変(消化管の毛細血管拡張、肺・肝・脳・脊髄のAVM)、④一親等以内の家族歴です。3項目以上を満たせば『確診』、2項目で『疑診』とされます。日本の指定難病の診断もこの考え方を基本にしています。症状が軽い若年者や家族歴のはっきりしない人では基準を満たさないことがあり、その場合は遺伝学的検査が診断の助けになります。診断がつくか、強く疑われた時点で、症状の有無にかかわらず肺AVMと脳AVMのスクリーニングを行うことが国際ガイドラインで推奨されています。家族内に患者が見つかった場合は、血縁者にも評価を勧めることが重要です。
- キュラソー基準による臨床評価: 鼻出血、毛細血管拡張、内臓病変、家族歴の4項目を問診と診察で確認します。3項目以上で確診、2項目で疑診となります。小児では偽陰性が多い点に注意が必要です。
- 経胸壁コントラスト心エコー(バブルスタディ): 撹拌した生理食塩水を静脈から注入し、数心拍遅れて左心系に気泡が現れれば肺内の右左短絡が示唆されます。肺AVMの感度が高いスクリーニング検査として推奨されています。
- 胸部CT(造影CT・CTアンギオグラフィ): 肺AVMの数、部位、流入動脈の太さを評価し、塞栓術の適応判断と治療計画に用います。治療後の再開通や新しい病変の経過観察にも使います。
- 頭部MRI(造影を含む): 脳AVMや毛細血管拡張などの脳血管奇形、過去の脳梗塞や膿瘍の痕を検出します。成人と小児の診断時スクリーニングとして推奨されています。
- 腹部超音波ドプラ・ダイナミックCT/MRI: 肝AVMの有無と短絡の型、肝動脈の拡張、門脈圧亢進の所見を評価します。肝AVMが疑われる場合、出血の危険があるため肝生検は避けるべきとされます。
- 上部・下部消化管内視鏡、カプセル内視鏡: 鼻出血の程度に見合わない貧血や消化管出血がある場合に、胃・十二指腸・小腸・大腸の毛細血管拡張を評価します。SMAD4変異例ではポリープのスクリーニングも行います。
- 血液検査(血算・鉄代謝・肝機能など): ヘモグロビン、フェリチン、血清鉄で貧血と鉄欠乏の程度を評価します。肝AVMのある例では胆道系酵素の上昇がみられることがあり、BNPなどで心負荷も評価します。
- 遺伝学的検査: ENG、ACVRL1、SMAD4などの病的変異を調べます。家系内の変異が分かれば、症状のない血縁者の確定や除外に役立ちます。遺伝カウンセリングと合わせて実施することが望ましいとされます。
- 鼻出血重症度スコア(ESS)・耳鼻科診察: 出血の頻度・持続時間・量・輸血歴などから重症度を点数化し、治療効果の判定に用います。鼻内視鏡で粘膜病変の分布を確認します。
オスラー病と鑑別すべき疾患
- 全身性強皮症(限局皮膚硬化型/CREST症候群): 顔面や手指に毛細血管拡張が出ますが、皮膚硬化、レイノー現象、抗セントロメア抗体などの自己抗体で区別します。
- 肝硬変などに伴うクモ状血管腫: 後天性の肝疾患に伴って胸部・顔面に出るもので、家族歴がなく、肝機能障害の背景があることで区別します。
- 孤発性肺動静脈奇形: HHTの基準を満たさない単発の肺AVMですが、肺AVM患者には本症の割合が高いため、家族歴の聴取や全身検索を行うことが勧められます。
- 毛細血管奇形-動静脈奇形症候群(RASA1・EPHB4関連): 皮膚の多発性毛細血管奇形と脳・脊髄・四肢のAVMを伴いますが、HHTに典型的な鼻出血や粘膜の毛細血管拡張は乏しい点で区別します。
- 出血性素因(フォン・ヴィレブランド病、血小板減少症など): 鼻出血は共通しますが、凝固・血小板検査の異常があり、粘膜や皮膚の毛細血管拡張がないことで区別します(両者が合併することもあります)。
- 遺伝性良性毛細血管拡張症・加齢性消化管血管異形成: 皮膚や消化管に血管拡張が見られますが、反復性鼻出血や内臓AVMを伴わず、家族歴のパターンも異なります。
オスラー病の治療
現在のところ、病気そのものを根本から治す治療は確立していません。治療の柱は次の3つです。①鼻出血や消化管出血による出血と貧血の管理、②肺AVMや脳AVMなどによる重い合併症の予防的治療、③症状のある肝AVMや心不全への対症的管理です。肺AVMは、症状がなくても一定以上の大きさであれば、奇異性塞栓を防ぐ目的で塞栓術を検討するのが国際的な標準的考え方です。脳AVMの治療方針は、出血リスクと治療リスクを比べて個別に決めます。耳鼻咽喉科、呼吸器・放射線科(IVR)、脳神経外科、消化器内科、循環器内科、遺伝診療部門などによる多診療科の連携が重要で、HHTの診療経験がある専門施設への相談が勧められます。治療法の選択は、病変の部位・重症度・年齢・妊娠の希望などによって大きく変わるため、主治医とよく相談して決めてください。
- 鼻出血のセルフケアと局所療法: 室内の加湿、生理食塩水の点鼻、保湿軟膏の塗布で粘膜の乾燥を防ぎます。出血したときは鼻翼をつまんで圧迫します。強い鼻かみや、粘膜を傷つけるタンポンの使用は控えます。
- 鼻出血に対する耳鼻科的処置: レーザー焼灼、アルゴンプラズマ凝固、硬化療法などで拡張血管を処理します。難治例では鼻中隔皮膚移植術(septodermoplasty)や、外鼻孔を閉じる手術(Young手術)が選ばれることがあります。焼灼を繰り返すと鼻中隔穿孔の原因になるため、慎重に行います。
- 抗線溶薬(トラネキサム酸): 内服により鼻出血の頻度や量を減らすことが臨床試験で示されており、国際ガイドラインでも選択肢とされています。血栓症の既往がある場合などは主治医が慎重に判断します。
- 鉄補充療法・輸血: 経口鉄剤で十分に補えない場合や吸収が悪い場合は静注鉄剤を用い、重い貧血では輸血を行います。貧血の評価と補正は、すべての患者に共通する重要な治療です。
- 消化管病変の内視鏡治療: 出血源となっている胃・小腸の毛細血管拡張に、アルゴンプラズマ凝固などの内視鏡的焼灼を行います。病変が多発するため、全身的な薬物療法と組み合わせることもあります。
- 抗VEGF療法などの全身薬物療法: 重い鼻出血や消化管出血に対して、ベバシズマブの静脈内投与で出血や輸血の必要量が減ったとする報告が多くあります。ただし日本では本症に対する保険適用はなく、適応外使用となります。サリドマイドやポマリドミドなどの研究も進められていますが、使用は専門施設での慎重な判断が前提です。
- 肺動静脈奇形に対する経カテーテル塞栓術: 流入動脈にコイルや血管プラグを留置して短絡を閉じる治療で、肺AVM治療の第一選択とされています。治療後は再開通や新しい病変がないかを確かめるため、CTによる定期的な経過観察が必要です。
- 脳・脊髄血管奇形の治療: 病変の大きさ・部位・出血歴を踏まえ、開頭摘出術、血管内塞栓術、定位放射線治療、経過観察から選びます。出血した病変は積極的な治療の対象になりやすいとされます。
- 肝血管奇形・心不全の管理: まずは利尿薬、貧血の補正、不整脈の管理などの内科治療が中心です。肝動脈塞栓術は胆管や肝臓の壊死の危険があるため一般には勧められず、難治例では肝移植が検討されます。
オスラー病の予後・長期フォロー
適切に診断されてスクリーニングと予防的治療を受けた場合、生命予後は一般人口に近いと考えられています。一方、診断されずに肺AVMや脳AVMが放置されると、脳梗塞、脳膿瘍、脳出血、妊娠中の大出血などで命に関わる事態や重い後遺症を招くことがあります。生活の質(QOL)の面では、慢性的な鼻出血による社会生活の制約、慢性貧血による疲れやすさ、頻繁な通院や輸血の負担が大きな問題です。鼻出血の重症度はQOL低下と強く関連することが知られています。肝AVMによる心不全や門脈圧亢進症が進んだ例では、予後がより厳しくなることがあります。
長期のフォローアップは臓器ごとに計画します。肺AVMの塞栓術後は、数年ごとを目安にCTで再開通や新しい病変を確認します。最初のスクリーニングで陰性でも、成長期や妊娠前後には再評価が勧められます。貧血は定期的に血算とフェリチンで評価し、鉄補充の量を調整します。肝AVMのある人では心機能と肝機能を定期的に確認します。SMAD4変異例では、若い頃から定期的に消化管内視鏡でポリープを確認することが推奨されます。ほかの病気で手術や処置、抗血栓療法、妊娠・出産を予定するときは、本症の診療に慣れた医師と連携して計画を立てることが大切です。
オスラー病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
鼻出血を予防するには、室内の加湿、点鼻生理食塩水や保湿軟膏による粘膜保護、強い鼻かみや鼻いじりを避けることが基本です。出血したときは前かがみになって小鼻を10分以上しっかり圧迫します。止まらないときに備えて受診先を決めておくと安心です。肺AVMがある、またはその可能性がある人は、歯科治療(抜歯、歯石除去など)や菌が血液に入りうる処置の前に、抗菌薬の予防投与について主治医や歯科医に相談してください。点滴の際は空気が入らないように注意し、必要に応じてフィルターを使うよう医療者に伝えることが勧められます。スキューバダイビングは、肺AVMがある場合は避けるよう勧められることがあります。鉄分を意識した食事は貧血対策の助けになりますが、必要量を食事だけで補うのは難しいことが多いです。鎮痛薬や抗血栓薬は出血を増やすことがあるため、自己判断で使わずに相談しましょう。妊娠を希望する場合は、妊娠前に肺AVMと脳AVMの評価を受け、専門施設で計画的に妊娠・出産を管理することが重要です。本症は常染色体顕性遺伝のため、子どもや兄弟姉妹など血縁者のスクリーニングも大切です。遺伝カウンセリングでは、遺伝の仕組み、検査の意味、家族への伝え方などを専門家と一緒に整理できます。病名や注意点を記したカードを持ち歩くのも、緊急時に役立ちます。
利用できる制度・相談窓口
オスラー病は指定難病(告示番号227)で、診断基準と重症度基準を満たせば、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽くなります。重症度基準を満たさない場合でも、医療費の総額が一定以上となる月が年に複数回ある『軽症高額該当』として対象になることがあります。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で手続きします。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があるため、主治医や自治体に確認してください。脳出血や脳梗塞による後遺症、心不全、重い貧血などで日常生活や就労に支障がある場合は、障害の程度に応じて身体障害者手帳や障害年金の対象になることがあります。40〜64歳で脳血管疾患による介護が必要になった場合は、介護保険の特定疾病として申請できることがあります。高額療養費制度も併せて利用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW)、遺伝カウンセリング外来があり、患者会や専門の研究会による情報提供も役立ちます。
オスラー病に伴う心のケア・心理社会的支援
難病の診断を受けると、多くの人が不安、落ち込み、怒り、将来への心配といった気持ちを経験します。こうした心の負担が長く続くと、抑うつ状態や不安障害、適応障害につながることがあります。オスラー病には特有の心理社会的な課題があります。人前や仕事中、食事中に突然起こる鼻出血への恐れから外出や会食を避けるようになり、社会的に孤立しやすくなります。慢性貧血による疲れやすさは周囲に理解されにくく、職場や学校で負担を抱え込みがちです。また遺伝性疾患であるため、子どもに受け継がせることへの罪悪感、家族に病名を伝える難しさ、結婚・妊娠に関する悩みなどが生じやすい病気です。家族内で重い合併症を経験した人がいると、自分や子どもの将来を強く心配することもあります。こうした気持ちは決して特別なものではありません。主治医や看護師、遺伝カウンセラー、医療ソーシャルワーカー、必要に応じて心療内科・精神科やカウンセラーに早めに相談することが大切です。同じ病気の人と経験を分かち合える患者会も、孤立感を和らげる助けになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
オスラー病の受診の目安
- 圧迫を15〜20分続けても止まらない鼻出血、または大量の出血でふらつきや意識が遠のく感じがある場合は、すぐに救急受診してください。
- 突然の激しい頭痛、手足のまひ、ろれつが回らない、けいれん、意識障害が起きた場合は、脳出血や脳梗塞の可能性があるため救急車を呼んでください。
- 発熱を伴う頭痛や、性格の変化、手足の動かしにくさが数日のうちに進む場合は、脳膿瘍の可能性があるため速やかに受診してください。
- 喀血(せきとともに血を吐く)、急な胸の痛みや強い息苦しさがある場合は、肺AVMの破裂などが疑われるため救急受診が必要です。
- 黒い便、吐血、急に強まる息切れ・動悸・むくみがある場合は、消化管出血や貧血の悪化、心不全の可能性があるため早めに受診してください。
- 妊娠が分かったとき、または妊娠を考えているときは、できるだけ早く主治医に相談し、肺AVMや脳AVMの評価を受けてください。
オスラー病についてのよくある質問
Q. 鼻血が多いだけでも、肺や脳の検査を受ける必要がありますか?
A. オスラー病と診断された、または強く疑われる場合は、症状がなくても肺AVMと脳AVMのスクリーニングを受けることが国際的に推奨されています。肺AVMは無症状のまま脳梗塞や脳膿瘍を起こすことがあり、事前に見つけて治療すれば多くを予防できるからです。検査の時期や方法は主治医と相談してください。
Q. 子どもに遺伝しますか?子どもも検査を受けるべきですか?
A. 常染色体顕性遺伝のため、お子さんが受け継ぐ確率は50%です。家族の病的変異が分かっていれば遺伝学的検査で確認でき、変異を持つ場合や不明な場合には、小児期から肺AVMや脳AVMのスクリーニングが検討されます。遺伝カウンセリングを受けたうえで、検査の時期や方法を決めることをお勧めします。
Q. 鼻血を完全に止める治療はありますか?
A. 現時点で根治的な治療はありません。それでも、局所のケア、レーザーなどの耳鼻科的処置、トラネキサム酸の内服、重症例での全身薬物療法、外科手術などを組み合わせることで、出血の頻度や量を大きく減らせる場合があります。どの治療が適しているかは重症度や生活状況によって異なるため、本症の診療経験がある耳鼻咽喉科医と相談するとよいでしょう。
Q. 妊娠・出産はできますか?
A. 多くの患者さんが出産を経験しています。ただし妊娠中は肺AVMの増大や出血のリスクが高まるため、高リスク妊娠として扱われます。妊娠前に肺と脳の評価を受け、必要な治療を済ませておくこと、そして本症に詳しい産科・関連各科がそろった施設で妊娠・出産を管理することが重要です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。