肝型糖原病

Hepatic Glycogen Storage Diseases

肝型糖原病(Hepatic Glycogen Storage Diseases)|肝型糖原病は、肝臓でグリコーゲン(糖の貯蔵形態)を合成・分解する酵素や輸送体が生まれつき働かないために起こる先天代謝異常症の総称です。主に乳幼児期に、空腹時の低血糖、肝臓の腫大、成長の遅れなどで気づかれます。適切な食事療法を続ければ成人期まで生活できる人が多い一方、肝腺腫、腎障害、肝硬変など長期の合併症に対して生涯にわたる管理が必要です。

肝型糖原病の要点

肝型糖原病は、肝臓でグリコーゲン(糖の貯蔵形態)を合成・分解する酵素や輸送体の遺伝的な欠損により起こる先天代謝異常症の総称です。主に乳幼児期に空腹時の低血糖、肝腫大、成長の遅れなどで気づかれ、日本では指定難病(告示番号257)として医療費助成の対象です。

別名・略称糖原病、グリコーゲン貯蔵症、グリコーゲン蓄積症、GSD、glycogen storage disease、フォン・ギールケ病(I型)
分野代謝疾患
遺伝形式多くは常染色体潜性(劣性)遺伝(IX型の一部はX連鎖性)
好発年齢主に乳幼児期に発見される
主な症状空腹時低血糖、肝腫大、成長の遅れ
主な検査血液検査(血糖など)、酵素活性測定、遺伝子検査
主な治療食事療法(低血糖を防ぐ頻回食・糖質補給など)
受診する主な診療科小児科(代謝・消化器)、消化器内科

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

肝型糖原病とは

糖原病(glycogen storage disease:GSD)は、グリコーゲンの合成・分解・利用にかかわる酵素や輸送体の遺伝的欠損により、組織にグリコーゲンが過剰または異常な構造で蓄積したり、グリコーゲンを血糖として利用できなくなったりする疾患群です。肝臓は空腹時にグリコーゲンを分解し、さらに糖新生を行って血糖を保つ中心臓器です。そのため肝臓で働く経路に異常がある病型(肝型糖原病)では、空腹時低血糖と肝腫大が中心的な症状になります。骨格筋の経路に異常がある病型は筋型糖原病として別に扱われますが、III型のように肝臓と筋肉の両方が障害される病型もあります。

病型は、発見された順に付けられた番号(I型、III型、IV型、VI型、IX型など)で分類されます。I型(フォン・ギールケ病)は1929年にvon Gierkeが報告し、1952年にCori夫妻がグルコース-6-ホスファターゼ欠損を証明しました。これは、酵素欠損が初めて明らかにされた先天代謝異常症として歴史的に重要です。I型はさらに、酵素本体が欠損するIa型と、小胞体の輸送体が欠損するIb型に分けられます。このほか、脱分枝酵素欠損のIII型(コリ病/フォーブス病)、分枝酵素欠損のIV型(アンダーセン病)、肝ホスホリラーゼ欠損のVI型(ハース病)、ホスホリラーゼキナーゼ欠損のIX型、グリコーゲン合成酵素欠損の0型などがあります。0型は実際にはグリコーゲンが蓄積しませんが、慣例的に糖原病に含められています。日本では指定難病「肝型糖原病」(告示番号257)として、これらの肝型病型が医療費助成の対象となっています。

肝型糖原病の疫学・患者数

糖原病全体の頻度は、海外の報告で出生2万〜2.5万人に1人程度とされます。そのうち肝型の病型が大部分を占め、I型とIX型が比較的多く、次いでIII型やVI型が多いとされます。I型は出生約10万人に1人とされることが多い病型です。日本人のIa型では、G6PC遺伝子の特定のスプライス異常バリアント(c.648G>T、旧表記c.727G>T)が高頻度にみられることが知られており、東アジアに共通する特徴とされています。国内の患者数は、指定難病・小児慢性特定疾病の受給者数などから数百人から千人規模と推測されますが、軽症のVI型・IX型は診断されていない例も多いと考えられ、正確な数は分かっていません。I型は多くが生後3〜6か月頃、授乳間隔が延びる時期に低血糖や腹部膨満で見つかります。VI型・IX型は幼児期に肝腫大や肝酵素の上昇を偶然指摘されて診断されることが少なくありません。遺伝形式は大部分が常染色体潜性(劣性)のため性差はありません。ただし、IX型のうちPHKA2遺伝子による病型はX連鎖性で、主に男児が発症します。

肝型糖原病の原因・病態生理

原因遺伝子は病型ごとに異なります。主なものは、0型がGYS2(肝グリコーゲン合成酵素)、Ia型がG6PC(G6PC1、グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット)、Ib型がSLC37A4(グルコース-6-リン酸輸送体)、III型がAGL(脱分枝酵素)、IV型がGBE1(分枝酵素)、VI型がPYGL(肝グリコーゲンホスホリラーゼ)です。IX型の原因は、ホスホリラーゼキナーゼのサブユニット遺伝子であるPHKA2(X連鎖性)、PHKB、PHKG2です。なお、GLUT2をコードするSLC2A2の異常によるファンコニ・ビッケル症候群(XI型)も、肝型糖原病の類縁疾患として扱われます。これらは免疫異常や環境要因で起こる疾患ではなく、単一遺伝子の病的バリアントによる先天代謝異常症です。生活習慣や育て方が原因で起こる病気ではありません。

I型では、グリコーゲン分解と糖新生のどちらにも共通する最終段階、つまりグルコース-6-リン酸をブドウ糖に変える反応が止まります。そのため、食後3〜4時間程度で血糖を保てなくなり、重い低血糖を起こします。行き場を失ったグルコース-6-リン酸は解糖系や五炭糖リン酸経路に流れ込み、乳酸、中性脂肪、尿酸の過剰産生を招きます。その結果、乳酸アシドーシス、高中性脂肪血症、高尿酸血症が起こります。乳酸が脳のエネルギー源を一部補うため、低血糖のわりに症状が目立たないことがあります。Ib型では、好中球内に1,5-アンヒドログルシトール-6-リン酸が蓄積して好中球が機能障害を起こすことが明らかになりました。これが好中球減少、易感染性、炎症性腸疾患様の腸炎の原因と考えられています。III型、VI型、IX型ではグリコーゲン分解のみが障害され、糖新生は保たれます。このため低血糖は比較的軽く、脂肪酸の利用が進んでケトン性低血糖となり、乳酸や尿酸は通常あまり上昇しません。III型では外側の分枝が短いグリコーゲン(リミットデキストリン様)が蓄積し、IIIa型では骨格筋と心筋も障害されます。IV型では分枝の少ない異常グリコーゲン(ポリグルコサン)が異物のように蓄積し、肝線維化から肝硬変へ進行します。0型ではグリコーゲンを作れないため、肝腫大はありません。食後は糖が乳酸や脂質に回って高血糖・高乳酸となり、空腹時にはケトン性低血糖となります。

肝型糖原病の症状

  • 空腹時低血糖: 授乳や食事の間隔が空いたとき、特に夜間や早朝に起こります。不機嫌、蒼白、冷汗、傾眠、けいれんなどが現れます。I型で最も重く、III型・VI型・IX型・0型では比較的軽いのが一般的です。
  • 肝腫大・腹部膨満: I型・III型・VI型・IX型では肝臓が著しく腫れ、お腹がふくらんで見えます。0型では肝腫大がないのが特徴です。
  • 人形様顔貌: 主にI型でみられ、頬に脂肪が沈着して丸い顔つきになります。体幹は太く、手足は相対的に細く見えます。
  • 低身長・成長障害: 代謝のコントロールが不十分だと身長の伸びが悪くなり、思春期の遅れもみられます。VI型・IX型では成長とともに追いつくことが多いとされます。
  • 乳酸アシドーシス: I型に特徴的です。多呼吸、嘔吐、倦怠感を起こし、感染や絶食を契機に重症化することがあります。
  • 出血傾向: I型では血小板機能の低下により、鼻出血や皮下出血が起こりやすく、手術や抜歯での出血も問題になります。
  • 易感染性・口内炎(Ib型): 好中球の減少と機能障害により、反復する細菌感染、口内炎、歯肉炎、肛門周囲膿瘍が起こりやすくなります。
  • 炎症性腸疾患様の腸炎(Ib型): 腹痛、下痢、血便、体重減少など、クローン病に似た腸炎を合併することがあります。
  • 痛風・高尿酸血症: I型では思春期以降に痛風発作や尿路結石の原因となります。
  • 筋力低下・運動耐容能低下(IIIa型): 成人期にかけて近位筋優位の筋力低下や易疲労性が進むことがあり、血清CKが上昇します。
  • 心筋症(IIIa型): 心筋にグリコーゲンが蓄積して肥大型心筋症様の変化を起こすことがあり、多くは無症状ですが不整脈や心不全の原因となりえます。
  • 黄疸・肝硬変症状(IV型など): IV型では乳児期から体重増加不良、肝脾腫、腹水などが進行します。III型や一部のIX型(PHKG2)でも肝線維化が問題になります。

肝型糖原病の経過と合併症

自然経過は病型によって大きく異なります。I型は治療しなければ乳児期に重い低血糖と乳酸アシドーシスを繰り返し、生命にかかわります。頻回の食事と生コーンスターチ療法が普及したことで、現在では多くの患者さんが成人期を迎えるようになりました。ただし、成人期には肝腺腫、腎障害、痛風などの晩期合併症が課題となります。III型は小児期に低血糖と肝腫大が目立ち、思春期以降は肝腫大が縮小して低血糖が軽くなる傾向があります。その一方で、肝線維化や、IIIa型での筋症・心筋症が成人期に進むことがあります。IV型の古典的肝型は乳児期から肝硬変が進行し、無治療では幼児期に肝不全に至るとされます。ただし、肝病変が進行しない軽症例や神経筋型の報告もあります。VI型とIX型は一般に軽症で、肝腫大や肝酵素の上昇は年齢とともに改善することが多いとされます。しかし、一部に肝線維化や肝硬変に至る例が報告されており、良性と決めつけずに経過観察を続ける必要があります。

主な合併症として、I型では次のものが知られています。肝細胞腺腫は思春期以降に多発しやすく、出血や悪性化(肝細胞癌)の危険があります。腎障害としては、糸球体過剰濾過から始まり、蛋白尿、巣状分節性糸球体硬化、腎機能低下へ進むことがあり、低クエン酸尿に伴う腎石灰化や尿路結石もみられます。このほか、痛風、骨粗鬆症、鉄欠乏とは限らない貧血、多嚢胞性卵巣、まれに肺高血圧症が起こりえます。Ib型では、好中球減少による重症感染症、炎症性腸疾患、甲状腺機能低下症などに注意が必要です。III型では肝硬変、肝腺腫・肝細胞癌、筋症、心筋症が、IV型では肝不全、門脈圧亢進症、肝細胞癌が問題になります。どの病型でも、低血糖のコントロールが悪い状態が続くと成長障害が起こり、重い低血糖を繰り返せば発達への影響が懸念されます。

肝型糖原病の診断・診断基準

診断は、空腹時低血糖、肝腫大、成長障害などの臨床像に、血液検査のパターンを組み合わせて病型を推定することから始まります。低血糖を起こしている最中の採血(クリティカルサンプル)で、乳酸、ケトン体、遊離脂肪酸、インスリン、尿酸、脂質などを測ると診断に役立ちます。たとえば、低血糖とともに高乳酸血症・高尿酸血症・高中性脂肪血症があり、ケトン体の上昇が乏しければI型が疑われます。一方、ケトン性低血糖とトランスアミナーゼ上昇、CK上昇があればIII型が疑われます。かつては肝生検による組織検査と酵素活性測定が診断の中心でしたが、現在は侵襲の少ない遺伝子解析(糖原病関連遺伝子パネル等)で確定診断する流れが主流です。日本では、日本先天代謝異常学会などによる診断基準・診療ガイドラインに基づき、臨床所見、生化学所見、遺伝子または酵素診断を組み合わせて評価します。負荷試験は低血糖やアシドーシスの危険を伴うため、専門施設で慎重に行います。

  • 血糖・乳酸・ケトン体(空腹時/低血糖時): I型では低血糖とともに乳酸が著明に上昇し、ケトン体は相対的に低値です。III型・VI型・IX型・0型ではケトン体が上昇するケトン性低血糖を示します。
  • 血清尿酸・脂質: I型では高尿酸血症と著しい高中性脂肪血症、高コレステロール血症がみられ、検体が乳び状に見えることもあります。III型・VI型・IX型でも軽度の脂質上昇はありえます。
  • 肝機能検査・CK: AST・ALTの上昇はIII型・VI型・IX型で目立ちます。CKの上昇はIIIa型の筋障害を示唆します。IV型では肝合成能の低下や胆汁うっ滞所見に注意します。
  • 血算(好中球数): Ib型では好中球減少がみられるため、I型の診断時には必ず確認します。好中球機能の異常も伴います。
  • グルカゴン負荷試験・食後負荷試験: I型ではグルカゴンを投与しても血糖が上がらず乳酸が上昇します。III型では食後には反応しますが空腹時には反応が乏しくなります。現在は補助的な位置づけで、施行には注意を要します。
  • 腹部超音波・CT・MRI: 肝腫大、脂肪化、腺腫の有無と大きさ、腎腫大、腎石灰化を評価します。腺腫と肝細胞癌の区別には造影MRIなどを用います。
  • 肝生検(組織・酵素活性): PAS染色陽性のグリコーゲン蓄積や線維化の程度を確認でき、酵素活性を測定すれば病型が分かります。現在は遺伝子検査で確定できない場合や、線維化の評価が必要な場合に行われます。
  • 遺伝子解析: G6PC、SLC37A4、AGL、GBE1、PYGL、PHKA2、PHKB、PHKG2、GYS2などを調べて確定診断と病型分類を行います。家族の保因者診断や遺伝カウンセリングの基礎にもなります。
  • 尿検査・腎機能・心臓評価: 微量アルブミン尿、尿中カルシウム・クエン酸、腎機能で腎合併症を評価します。IIIa型では心電図と心エコーで心筋症をスクリーニングします。

肝型糖原病と鑑別すべき疾患

  • 筋型糖原病(II型ポンペ病、V型など): 運動不耐、筋痛、筋力低下が主体で、空腹時低血糖や肝腫大を欠くことが多い点で区別しますが、IIIa型とは症状が重なります。
  • 脂肪酸代謝異常症(カルニチン回路異常症、三頭酵素欠損症など): 空腹時低血糖が低ケトン性で、アシルカルニチン分析で特徴的な異常を示す点で区別します。
  • ケトン性低血糖症(特発性): 幼児期の空腹時ケトン性低血糖で、肝腫大や肝機能異常を伴わない点が軽症の肝型糖原病や0型との鑑別点となり、遺伝子検査で区別することもあります。
  • 糖新生系異常症(フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ欠損症など): 低血糖と乳酸アシドーシスを示し、I型に似ますが、肝腫大が軽く高尿酸血症・高脂血症が目立ちにくい点、酵素・遺伝子検査で区別します。
  • ガラクトース血症・遺伝性果糖不耐症: ミルクや果糖の摂取後に嘔吐、黄疸、肝障害が出る点、新生児マススクリーニングや摂取歴で区別します。
  • その他の肝腫大・肝障害をきたす疾患(ライソゾーム病、ウィルソン病、自己免疫性肝炎、高チロシン血症など): 脾腫の有無、銅代謝、自己抗体、尿中有機酸などの所見で区別します。

肝型糖原病の治療

治療の柱は、低血糖を予防し、代謝の乱れ(乳酸・脂質・尿酸)を最小限に抑える食事療法です。病型ごとに目標や方法が異なります。I型では、昼夜を問わず一定の間隔で糖質を補給し、ブドウ糖の安定供給を保ちます。III型・VI型・IX型では、低血糖予防に加えて、糖新生の材料となるたんぱく質を十分にとることが重視されます。合併症に対しては、薬物療法、定期的な画像検査、必要に応じた肝移植・腎移植などを組み合わせます。食事の量や間隔、コーンスターチの量は、年齢、体格、血糖・乳酸の推移をもとに個別に調整します。必ず代謝専門医と管理栄養士の指導のもとで行い、自己判断で変更しないことが大切です。

  • 頻回食・夜間持続経管栄養: 乳児期のI型では2〜3時間ごとの授乳と、夜間の経鼻胃管や胃瘻からの持続注入で低血糖を防ぎます。糖原病用の特殊ミルクを用いることがあります。
  • 生コーンスターチ療法: 加熱していないコーンスターチを水などで溶いて飲むと、ゆっくり消化されて数時間血糖を維持できます。消化酵素が成熟する乳児期後半以降に導入され、就寝前や夜間にも用います。量と間隔は個別に設定します。
  • 栄養組成の調整: I型では、乳酸産生を増やすショ糖・果糖・乳糖を制限するのが一般的で、それに伴って不足するビタミンやカルシウムを補います。III型・VI型・IX型では高たんぱく食が推奨され、IIIa型の筋症にも有益な可能性が報告されています。
  • 代謝異常に対する薬物療法: 高尿酸血症にはアロプリノールなどの尿酸生成抑制薬を、低クエン酸尿・腎石灰化にはクエン酸製剤を、蛋白尿にはACE阻害薬やARBを用います。必要に応じて脂質異常症治療薬も使います。
  • Ib型の好中球減少・腸炎の治療: 感染予防のためにG-CSF製剤を用いるほか、炎症性腸疾患にはメサラジンなどで対応します。近年、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)が好中球内の蓄積物を減らし、好中球数と腸炎を改善したとの報告が相次いでいますが、本疾患への使用は適応外となります。
  • シックデイ・救急時の対応: 嘔吐や下痢で食べられないときは急速に低血糖とアシドーシスに陥るため、早めにブドウ糖の点滴が必要です。I型ではグルカゴン注射は効果が期待できず、乳酸を増やすおそれがあります。
  • 肝腺腫・肝合併症の管理: 代謝コントロールを改善すると腺腫が縮小することがあります。増大、出血、悪性化が疑われる場合は、切除、ラジオ波焼灼、塞栓術などを検討します。
  • 肝移植・腎移植: IV型の進行性肝硬変、代謝コントロールが困難なI型、多発腺腫や悪性化の懸念、III型などの肝硬変では肝移植が選択肢となり、生体肝移植の実績も国内にあります。末期腎不全には腎移植を検討します。
  • 開発中の治療: I a型では、AAVベクターを用いた遺伝子治療やmRNA治療の臨床試験が海外で進められていますが、現時点では一般診療で使える治療ではありません。

肝型糖原病の予後・長期フォロー

治療法の進歩により、I型を含む多くの患者さんが成人期を迎え、就学・就労・結婚など社会生活を送れるようになっています。VI型とIX型は一般に予後良好で、成人期には症状がほとんどなくなる例も多いとされます。III型も多くは成人期まで経過しますが、肝硬変、筋症、心筋症の有無が長期予後とQOLを左右します。IV型の古典的肝型は、肝移植をしなければ予後不良とされます。移植後の長期経過は比較的良好との報告がある一方、心臓など肝臓以外へのポリグルコサン蓄積が問題となる場合もあります。I型の長期予後を決めるのは、主に肝腺腫の悪性化と腎機能障害です。代謝コントロールが良いほど、これらの合併症や成長障害が少ないことが示されています。夜間のコーンスターチや注入、食事制限が続くことは、睡眠、学業、仕事に負担を与え、QOLにも影響します。

長期フォローアップでは、成長、血糖・乳酸・尿酸・脂質、肝機能、腎機能、尿蛋白・尿中カルシウムを定期的に評価します。肝臓の画像検査は、I型とIII型では特に思春期以降、6か月〜1年ごとを目安に行うのが一般的です。IIIa型では心エコーとCKの経過をみて、Ib型では血算と腸症状に注意します。骨密度、ビタミンD、貧血、思春期発来の評価も欠かせません。小児科から成人診療科への移行(トランジション)期には通院が途切れやすくなります。そのため、本人が自分の病型、食事療法、緊急時の対応を理解し、自分で管理できるように段階的に支援することが重要です。女性の妊娠では、妊娠中の糖質必要量の変化や腺腫の増大に配慮した管理が必要になるため、計画的に専門医と相談することが望まれます。

肝型糖原病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活で最も大切なのは、絶食時間をつくらないことです。食事やコーンスターチの時間を守り、外出や学校行事、旅行のときも補食を持ち歩きます。寝坊や夜間注入ポンプのトラブルによる早朝の低血糖、運動量が多い日、発熱・嘔吐・下痢のときには特に注意し、食べられない場合は早めに医療機関でブドウ糖の点滴を受けます。病名、病型、緊急時の対応(I型ではグルカゴンが無効であること、ブドウ糖の点滴が必要なこと)を記した緊急カードや主治医の紹介状を携帯すると、救急受診のときに役立ちます。保育園や学校には、補食の許可、低血糖症状の見分け方、体育や行事での配慮を伝えておきましょう。I型の方は、成人後も飲酒で低血糖や乳酸アシドーシスが悪化するおそれがあるため、医師に相談してください。I型は出血傾向があるため、手術や抜歯の前には主治医に伝え、Ib型では口腔ケアと感染予防を心がけます。多くの病型は常染色体潜性遺伝で、両親が保因者の場合、子ごとに4分の1の確率で発症します。IX型の一部(PHKA2)はX連鎖性です。次子の計画、きょうだいの検査、本人の将来の妊娠については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

肝型糖原病は指定難病(告示番号257)です。診断基準を満たし、重症度基準に該当する場合、または軽症でも高額な医療を継続している場合(軽症高額該当)には、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に提出します。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となる場合があり、自己負担の軽減や日常生活用具の給付などの支援があります。糖原病用の特殊ミルクは、特殊ミルク事業を通じて供給されるものがあり、主治医を通じて相談できます。障害の程度によっては、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、身体障害者手帳(腎機能障害など)、障害年金の対象となりうるため、市区町村や年金事務所で確認してください。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援員、医療機関の医療ソーシャルワーカーがあります。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターにも相談できます。病気や制度に関する情報は、難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センターのウェブサイトで確認できます。同じ病気の患者・家族の会もあり、経験の共有に役立ちます。

肝型糖原病に伴う心のケア・心理社会的支援

慢性疾患や難病を抱えて暮らすことは、本人と家族の双方に大きな心理的負担をもたらします。抑うつ、不安、適応障害が生じることもまれではありません。肝型糖原病に特有の課題として、まず乳幼児期の頻回授乳や夜間注入、深夜のコーンスターチによる保護者の慢性的な睡眠不足と疲弊があります。「時間を守らなければ命にかかわる」という緊張感も続きます。学童期・思春期には、補食や食事制限によって周囲と違うことへの戸惑い、低身長や体型への悩み、宿泊行事への不安が生じます。食事療法に対する反発や、自己管理の負担から治療を怠りがちになることもあります。成人期には、就労、結婚、妊娠、将来の合併症や移植への不安が加わります。遺伝性疾患であることから、親が罪悪感を抱いたり、きょうだいの心のケアが置き去りにされたりすることもあります。眠れない、気分が沈む、何事にも意欲がわない、食事療法がつらくて続けられないといった状態が続くときは、一人で抱え込まずに主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、心理職に相談してください。必要に応じて精神科・心療内科の支援を受けることも大切です。患者会や家族会で同じ立場の人とつながることも、孤立を防ぐ助けになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

肝型糖原病の受診の目安

  • 嘔吐や下痢、発熱で食事やコーンスターチがとれないとき、または予定の時刻に摂取できなかったときは、低血糖になる前に速やかに受診してください。
  • 意識がぼんやりする、けいれんを起こす、呼びかけへの反応が鈍いなど、重い低血糖を疑う症状があれば、ただちに救急要請してください。
  • 呼吸が速く深い、ぐったりして顔色が悪いなど、乳酸アシドーシスを疑う症状があれば救急受診してください。
  • 強い腹痛や急なお腹の張り、顔色が蒼白になるなど、肝腺腫からの出血が疑われる症状があれば救急受診してください。
  • Ib型で発熱、口内炎の悪化、肛門周囲の痛み、血便や持続する下痢がみられるときは、早めに主治医を受診してください。
  • 乳幼児で、授乳間隔が空くと不機嫌や冷汗がみられる、お腹のふくらみや成長の遅れが気になるときは、小児科を受診し糖原病の可能性について相談してください。

肝型糖原病についてのよくある質問

Q. 生コーンスターチは市販の片栗粉でも代用できますか?

A. 片栗粉の多くはじゃがいものでんぷんで、消化の速さや効果の持続時間がコーンスターチとは異なるため、代用はお勧めできません。効果が確かめられているのは加熱していないコーンスターチで、加熱したり、甘い飲み物やお湯で溶いたりすると効果が落ちることがあります。製品の選び方や溶かし方も含め、主治医や管理栄養士の指示に従ってください。

Q. 大人になれば治りますか?

A. 病型によって異なります。VI型・IX型は成長とともに症状が軽くなり、成人期にはほとんど症状がなくなることも多いとされます。一方、I型やIII型は体質そのものは変わらないため、成人後も食事療法と、肝腺腫・腎障害・心筋症などの定期的なチェックが必要です。

Q. 肝移植をすれば病気は治りますか?

A. 肝臓の酵素欠損が原因の部分は、移植した肝臓によって補われるため、低血糖や代謝異常は大きく改善します。ただし、Ib型の好中球の異常、IIIa型の筋症・心筋症、すでに進んだ腎障害などは移植だけでは解決しない場合があります。また、免疫抑制薬の生涯服用が必要になるため、利点と負担を専門医とよく相談して判断します。

Q. 次の子どもにも遺伝しますか?

A. 多くの病型は常染色体潜性遺伝で、両親がともに保因者の場合、子どもごとに4分の1の確率で発症します。X連鎖性のIX型では、遺伝の仕方が男女で異なります。具体的な確率や検査の選択肢については、遺伝カウンセリングで個別に相談してください。

この記事をシェア

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

関連記事(関連する指定難病)

同じ分野(代謝疾患)の指定難病

代謝疾患の指定難病を一覧で見る / 指定難病リスト(全341疾患)

この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。