脳腱黄色腫症
Cerebrotendinous Xanthomatosis
脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous Xanthomatosis)|脳腱黄色腫症(CTX)は、胆汁酸をつくる酵素の遺伝的な欠損により、コレスタノールという脂質が脳・腱・水晶体などに少しずつ蓄積する常染色体潜性(劣性)遺伝の代謝疾患です。乳幼児期の慢性下痢や若年性白内障で始まり、成人期にアキレス腱の腫れ、歩行障害、認知機能低下などの神経症状が進行することがあります。神経障害が完成する前に診断し、胆汁酸補充療法を始めることで進行を抑えられる可能性があるため、早期診断の重要性が非常に高い疾患です。
脳腱黄色腫症の要点
脳腱黄色腫症は、胆汁酸合成に働くCYP27A1の遺伝的欠損でコレスタノールが脳・腱・水晶体などに蓄積する常染色体潜性遺伝の代謝疾患です。小児期の慢性下痢や白内障に始まり、成人期にアキレス腱黄色腫や歩行障害、認知機能低下が進行し、日本では指定難病(告示番号263)です。
| 別名・略称 | CTX、脳腱黄色腫、コレスタノール蓄積症、CYP27A1欠損症、ステロール27-水酸化酵素欠損症、Van Bogaert-Scherer-Epstein病、cholestanol storage disease |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝(CYP27A1遺伝子の変異) |
| 好発年齢 | 乳幼児期から症状が出現し、神経症状は成人期に目立つことが多い |
| 主な症状 | 慢性下痢、若年性白内障、アキレス腱黄色腫、歩行障害、認知機能低下 |
| 主な検査 | 血清コレスタノール測定、CYP27A1遺伝子検査 |
| 主な治療 | 胆汁酸補充療法(ケノデオキシコール酸) |
| 受診する主な診療科 | 神経内科、小児科 |
脳腱黄色腫症とは
脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous Xanthomatosis:CTX)は、肝臓でコレステロールから胆汁酸をつくる経路に働くステロール27-水酸化酵素(CYP27A1)が欠損して起こる先天性脂質代謝異常症です。主要な一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸(CDCA)がつくられにくくなります。その代わりに、コレステロールの代謝産物であるコレスタノールと胆汁アルコールが体内に増えます。これらが中枢神経系、腱、水晶体、血管壁、骨などに沈着し、多くの臓器に障害を起こします。病名は、脳(cerebro)と腱(tendinous)に黄色腫(xanthoma)を生じる特徴に由来します。CTXは単一の遺伝子(CYP27A1)の変異による常染色体潜性遺伝疾患です。多因子性の病気ではなく、免疫の異常が原因でもありません。
本症は1937年にVan Bogaertらにより初めて報告されました。1970年代にはコレスタノールの蓄積と胆汁酸合成障害が明らかになり、1991年にはCYP27A1遺伝子の変異が原因と同定されました。明確な国際的病型分類はありませんが、臨床的には次のように分けられます。腱黄色腫と大脳・小脳症状を示す古典型。主に脊髄症状(緩徐進行性の痙性対麻痺)を示し、MRIで脊髄の側索・後索病変を認める脊髄型。そして、パーキンソニズムや精神症状を主体とする非典型例です。さらに乳児期の胆汁うっ滞性肝障害や小児期の慢性下痢・白内障のみの段階で見つかる例もあり、症状は年齢によって大きく異なります。日本では指定難病(告示番号263)に指定されています。
脳腱黄色腫症の疫学・患者数
CTXは世界中で報告されている稀な疾患です。イスラエルのドルーズ派など特定集団では頻度が高いことが知られています。遺伝子データベースの病的バリアント頻度から推計すると、実際の有病率はこれまでの報告より高く、多くの患者が未診断のままである可能性が指摘されています。日本でもこれまでに数十例規模の症例が報告されていますが、診断されていない患者が相当数いると考えられています。性差は明らかではありません。症状の始まりは乳幼児期から小児期のことが多い一方、神経症状や腱黄色腫が目立って診断に至るのは20〜40歳代が多いとされます。初発症状から診断までに十数年以上かかることも珍しくありません。両親が保因者である近親婚家系での報告もありますが、近親婚でない家系にも発生します。
脳腱黄色腫症の原因・病態生理
CTXは常染色体潜性(劣性)遺伝で、2番染色体長腕(2q35)にあるCYP27A1遺伝子の両アレルの病的変異によって発症します。CYP27A1はミトコンドリアに存在するシトクロムP450酵素です。胆汁酸合成ではステロール側鎖の27位水酸化を担うほか、肝外組織ではコレステロールを27-ヒドロキシコレステロールに変換して排出しやすくする働きもあります。これまでにミスセンス、ナンセンス、スプライス異常、欠失など多数の変異が報告されています。ただし、遺伝子型と症状の重さの間に明確な相関は認められていません。同じ変異を持つ同胞でも症状が大きく異なることがあり、修飾因子の存在が想定されています。保因者(片方のアレルのみ変異)は通常発症しません。
CYP27A1が欠損するとCDCAの合成が低下し、胆汁酸による負のフィードバックが弱まります。その結果、律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素(CYP7A1)の活性が過剰に高まり、上流の中間代謝物(7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オンなど)が大量に生じます。これが側副経路で代謝されてコレスタノールや胆汁アルコール(グルクロン酸抱合体として尿中に排泄)が増加します。コレスタノールは血液脳関門を越えたり、中枢神経内で生成されたりして脳内に沈着し、小脳歯状核周囲などの白質に脱髄、軸索障害、グリオーシスを起こすと考えられています。腱や水晶体への沈着は黄色腫や白内障の原因となります。また、肝外でのコレステロール排出経路の障害は早発性動脈硬化に関与するとされます。血清総コレステロール値は正常から低めのことが多く、「コレステロールは高くないのに腱黄色腫がある」ことが本症の重要な手がかりです。
脳腱黄色腫症の症状
- 新生児・乳児期の胆汁うっ滞: 一部の患者では、新生児期に遷延性黄疸や胆汁うっ滞性肝障害がみられます。多くは自然に軽快するため、見過ごされやすい症状です。
- 小児期からの慢性下痢: 原因不明の難治性慢性下痢が乳幼児期から続くことがあり、最も早く現れる症状の一つとされます。胆汁酸補充療法で改善することが多いと報告されています。
- 若年性白内障: 10歳前後から両眼の白内障がみられることが多い症状です。小児・若年者の原因不明の白内障ではCTXを鑑別に挙げることが推奨されています。
- 腱黄色腫: アキレス腱の結節状の腫大が典型で、膝蓋腱や手指の伸筋腱、肘などにもみられます。思春期以降に目立つことが多く、腱黄色腫がない患者もいます。
- 知的障害・学習困難: 小児期からの学業不振や軽度の知的障害がみられることがあります。成人期には認知機能低下(認知症)として進行する場合があります。
- 精神症状: 行動異常、性格変化、抑うつ、興奮、幻覚・妄想などの精神症状を伴うことがあり、精神疾患として治療されている例もあります。
- 錐体路症状(痙性麻痺): 下肢のつっぱり、腱反射亢進、バビンスキー徴候などが進行し、歩行障害の主な原因となります。脊髄型では痙性対麻痺が中心です。
- 小脳性運動失調: ふらつき、構音障害(ろれつが回らない)、手の震えなど小脳症状が現れます。MRIの歯状核病変と関連します。
- 末梢神経障害: 四肢遠位のしびれや筋力低下、感覚障害を示す多発ニューロパチーを伴うことがあります。
- てんかん発作: 一部の患者でけいれん発作がみられ、抗てんかん薬による治療が必要になることがあります。
- パーキンソニズム・ジストニア: 動作緩慢、筋強剛、振戦などパーキンソン症状を呈する例が報告されています。
- 骨粗鬆症・易骨折性: 骨密度の低下や骨折がみられることがあり、胆汁酸・ビタミンD代謝の異常が関与すると考えられています。
脳腱黄色腫症の経過と合併症
自然歴は年齢によって段階的に進む傾向があります。乳児期の胆汁うっ滞、幼児期からの慢性下痢、学童期の白内障・学習困難、思春期以降の腱黄色腫、そして20〜30歳代以降の錐体路症状・小脳症状・精神症状・認知機能低下へと進む例が典型です。ただし、すべての患者が同じ順番をたどるわけではありません。未治療では神経症状がゆっくり、しかし着実に進行し、歩行不能や寝たきり、高度の認知症に至ることがあります。治療を始める時期と神経学的予後には強い関連があり、神経症状が軽いうち、とくに小児期に治療を始めた例ほど良好な経過が報告されています。すでに高度な神経障害がある場合、治療によって血清コレスタノールは下がっても神経症状は改善しにくく、進行の停止が主な目標になります。
合併症には、若年性の冠動脈疾患などの早発性動脈硬化性疾患があります。また、骨粗鬆症とそれに伴う骨折、胆石、てんかん、嚥下障害による誤嚥性肺炎、転倒による外傷なども起こり得ます。精神症状や認知機能低下は社会生活や就労に大きく影響します。寝たきりに近い状態になると、褥瘡、尿路感染症、関節拘縮などの二次合併症への対策も必要です。甲状腺機能低下症や呼吸機能の低下を伴う例も報告されていますが、頻度は高くないと考えられています。
脳腱黄色腫症の診断・診断基準
診断の出発点は、本症を「疑うこと」です。若年性白内障、乳幼児期からの慢性下痢、血清コレステロールが高くないのに見られる腱黄色腫、原因不明の痙性対麻痺や小脳失調、若年性認知症・精神症状などの組み合わせがあればCTXを疑います。まず血清コレスタノール値を測定し、高値であれば尿中胆汁アルコールの分析や頭部・脊髄MRIで裏付けます。最終的にはCYP27A1遺伝子解析で両アレルの病的変異を確認することで確定診断に至ります。日本の指定難病の診断基準も、臨床症状、血清コレスタノール高値、遺伝子変異の組み合わせで診断する構成になっています。コレスタノールの測定や遺伝子解析は一般の検査室では行えないことが多く、脂質代謝や神経疾患の専門施設、研究機関との連携が必要です。
- 血清コレスタノール測定: ガスクロマトグラフィー質量分析などで測定し、著明な高値が本症の最も重要な生化学的所見です。治療効果を判定する指標としても用いられます。
- 血清脂質(総コレステロール・LDL): 総コレステロールやLDLコレステロールは正常から低めのことが多い所見です。腱黄色腫があるのに高コレステロール血症がない点が、家族性高コレステロール血症との重要な鑑別点になります。
- 尿中・血中胆汁アルコールおよび胆汁酸中間体: 尿中に胆汁アルコールのグルクロン酸抱合体が増加します。血中では7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オンなどの上昇が報告されています。血清のCDCAは低値を示します。
- CYP27A1遺伝子解析: 両アレルの病的変異を確認できれば確定診断となります。家族の保因者診断や発症前診断(遺伝カウンセリングを前提とする)にも用いられます。
- 頭部MRI: 小脳歯状核周囲のT2強調像・FLAIR像の両側対称性の高信号が特徴的です。大脳白質病変、小脳・大脳萎縮、錐体路の信号変化などもみられます。
- 脊髄MRI: 脊髄型では、頸髄から胸髄の側索・後索に長い範囲のT2高信号病変を認めることがあります。
- 腱の画像検査(超音波・MRI・X線): アキレス腱の肥厚や内部の不均一な信号を評価し、腱黄色腫の存在や程度を客観的に確認します。
- 神経生理検査(神経伝導検査・脳波・誘発電位): 末梢神経障害の有無、てんかん性異常、中枢伝導路の障害を評価し、病変の広がりを把握します。
- 眼科検査・骨密度・心血管評価: 白内障の有無、骨粗鬆症の程度、頸動脈エコーなどによる動脈硬化を評価し、合併症の把握と治療計画に役立てます。
脳腱黄色腫症と鑑別すべき疾患
- 家族性高コレステロール血症: 腱黄色腫を伴いますが、LDLコレステロールが著明に高値で、血清コレスタノールの著明な上昇や若年性白内障、神経症状は通常みられません。
- シトステロール血症: 腱黄色腫や早発性動脈硬化を伴いますが、血清シトステロールなど植物ステロールが高値となり、CTXに特徴的な神経症状は通常目立ちません。
- 遺伝性痙性対麻痺・脊髄小脳変性症: 痙性対麻痺や小脳失調は共通しますが、血清コレスタノールは正常で、白内障や腱黄色腫、慢性下痢は伴いません。
- 多発性硬化症: 白質病変と痙性麻痺を示すことがありますが、再発と寛解をくり返す経過や髄液所見で区別でき、CTXでは歯状核の対称性病変とコレスタノール高値が手がかりになります。
- 副腎白質ジストロフィー: 痙性対麻痺や大脳白質病変を示しますが、X連鎖性の遺伝形式で、血中の極長鎖脂肪酸が上昇します。副腎不全を伴うことがある点も異なります。
- 他の先天性胆汁酸代謝異常症・ペルオキシソーム病: 乳児期の胆汁うっ滞を示しますが、尿中・血中の胆汁酸分析パターンや遺伝子解析によって区別します。
脳腱黄色腫症の治療
治療の中心は、欠けているCDCAを補充する胆汁酸補充療法です。CDCAを補充すると胆汁酸によるフィードバックが回復してCYP7A1活性が抑えられ、コレスタノールと胆汁アルコールの産生が低下します。生化学的な異常の改善は多くの患者で確認されています。下痢は早期に改善しやすく、神経症状は治療開始時の重症度によって改善、進行停止、効果不十分とさまざまです。そのためできるだけ早期、理想的には神経症状が出る前に治療を始めることが最も重要とされています。治療は原則として生涯続けます。血清コレスタノール値を定期的に測定し、用量を調整します。並行して、神経症状・白内障・骨粗鬆症・動脈硬化などの合併症への対症療法とリハビリテーションを組み合わせます。国内で使用できる薬剤の種類、適応、用量は時期によって変わり得るため、具体的な治療内容は専門医と相談して決める必要があります。
- ケノデオキシコール酸(CDCA)補充療法: 国際的に標準治療と位置づけられています。血清コレスタノール値の低下、下痢の改善、神経症状の進行抑制が報告されています。肝機能障害が起こることがあるため、肝機能の定期的な確認が必要です。
- コール酸など他の胆汁酸製剤: CDCAが使えない場合や副作用がある場合の代替として、コール酸による治療の報告があります。一方、ウルソデオキシコール酸はフィードバック抑制作用が乏しく、単独では効果が不十分とされています。
- HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン): 胆汁酸補充療法に併用する補助的治療として報告があります。単独での有効性は限定的と考えられており、併用するかどうかは主治医が判断します。
- LDLアフェレシス: 重症例や薬物療法の効果が不十分な例で、血中コレスタノールを下げる目的で試みられた報告があります。ただし、標準治療としては確立していません。
- 白内障手術: 視力低下が進んだ場合は眼科で水晶体再建術を行います。若年でも手術が必要になることがあります。
- 神経症状への対症療法: 痙縮には抗痙縮薬、てんかんには抗てんかん薬、パーキンソニズムや精神症状にはそれぞれに応じた薬物療法を、専門医の判断で行います。
- リハビリテーション: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、歩行・日常生活動作・嚥下機能の維持を図り、転倒や拘縮を予防します。
- 骨粗鬆症・心血管リスクの管理: 骨密度の評価に基づいて骨粗鬆症治療や転倒予防を行います。動脈硬化の危険因子(喫煙、高血圧など)の管理も重要です。
- 腱黄色腫への外科的対応: 腱黄色腫は治療によってもあまり縮小しないことが多く、機能障害が強い場合に限り外科的切除が検討されることがあります。
脳腱黄色腫症の予後・長期フォロー
予後は治療開始時期と、その時点での神経障害の程度に大きく左右されます。小児期や神経症状が軽いうちに胆汁酸補充療法を始めた患者では、神経症状の出現や進行が抑えられ、ほぼ通常の社会生活を送れている例が報告されています。一方、診断が遅れて重い錐体路症状・小脳症状・認知機能低下がすでにある場合は、治療で症状の進行を食い止められても、元の機能まで回復することは難しいことが多いです。未治療の場合は神経症状が進行して寝たきりとなり、誤嚥性肺炎や心血管疾患などで生命予後が短くなる可能性があります。治療によって血液検査値が改善しても、神経機能の推移は一人ひとり異なります。
長期フォローアップでは、血清コレスタノール値と肝機能を定期的に測定して治療の効果と安全性を確認します。神経学的診察、認知機能評価、必要に応じたMRIで神経症状の推移を評価します。あわせて、眼科での白内障の評価、骨密度測定、頸動脈エコーなどによる動脈硬化の評価を継続します。小児期に診断された場合は、成長・発達と学業面のフォローに加え、成人診療科への移行(トランジション)を計画的に進めることが大切です。脂質代謝の専門医、脳神経内科、小児科、眼科、整形外科、リハビリテーション科、精神科などが連携して診療する体制が望まれます。
脳腱黄色腫症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
最も重要なのは処方された胆汁酸製剤を自己判断で中断せず、生涯にわたって継続することです。体調の変化や副作用が疑われる場合は主治医に相談してください。食事でコレスタノールを直接減らす効果は限定的とされていますが、バランスのよい食事、禁煙、適度な運動は動脈硬化や骨粗鬆症の予防に役立ちます。歩行障害やふらつきがある場合は、住環境の手すり設置や段差の解消、杖・装具の利用で転倒を防ぎましょう。骨粗鬆症のある方はとくに転倒予防が重要です。家族への対応も大切です。本症は常染色体潜性遺伝のため、患者のきょうだいは4分の1の確率で同じ病気を持つ可能性があります。症状がなくても早期に診断・治療することで将来の神経障害を防げる可能性があるため、きょうだいの検査を検討する意義は大きいと考えられています。患者の子どもは通常は保因者となり、発症することはまれです。ただし、配偶者が保因者である場合などは状況が異なります。遺伝子検査や家族への情報提供、将来の妊娠・出産については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けたうえで判断することが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
脳腱黄色腫症は指定難病(告示番号263)です。診断基準を満たし、重症度基準に該当する場合などには、難病の患者に対する医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。重症度基準を満たさなくても、医療費が一定額を超える場合は「軽症高額該当」として助成対象となることがあります。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市(保健所など)です。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の患者は、小児慢性特定疾病医療費助成制度(先天性代謝異常の疾患群)の対象となる場合があります。どちらの制度が有利かは、主治医や自治体窓口に確認してください。歩行障害や認知機能障害などが残る場合は、次の制度の対象となる可能性があります。障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービス(難病患者も対象)、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、障害年金です。介護保険について、本症そのものは介護保険の特定疾病に含まれません。ただし、40歳以上65歳未満の医療保険加入者でも、特定疾病に該当する状態と認定されれば介護保険サービスを利用できる場合があります。たとえば、認知機能低下が「初老期における認知症」と認められる場合などです。それ以外は通常65歳以上で介護保険の対象となります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、医療機関の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイトなどがあります。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターも利用できます。
脳腱黄色腫症に伴う心のケア・心理社会的支援
難病の診断を受けることは、本人や家族にとって大きな心理的負担になります。抑うつ、不安、将来への悲観、適応障害などが生じることは珍しくありません。CTXには特有の心理社会的な課題があります。まず、病気そのものが精神症状や認知機能低下を起こし得るため、気分の落ち込みや性格の変化が「病気によるもの」か「心理的な反応」かを区別しにくいことがあります。また、診断までに長い年月がかかることが多く、「もっと早くわかっていれば」という後悔や医療への不信感を抱きやすい面もあります。さらに、きょうだいの検査や遺伝の問題をめぐって、家族の中で罪悪感や葛藤が生じることもあります。小児期・思春期の患者では、学業の遅れや白内障などによる学校生活の困難から自尊心が低下することがあります。こうした負担を一人や家族だけで抱え込まず、主治医、精神科・心療内科、公認心理師、医療ソーシャルワーカー、患者会や難病相談支援センターなどに早めに相談することが大切です。精神症状がある場合は、精神科医と脳神経内科医が連携して評価・治療することが望まれます。
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脳腱黄色腫症の受診の目安
- 小児や若年者で原因不明の白内障や長く続く下痢がある場合は、早めに専門医に相談してください。
- 血液のコレステロールが高くないのにアキレス腱の腫れやしこりがある場合は、脂質代謝の専門外来の受診を検討してください。
- 歩きにくさ、足のつっぱり、ふらつき、ろれつの回りにくさが徐々に進む場合は、脳神経内科を受診してください。
- 物忘れ、性格の変化、意欲低下、幻覚などの精神症状が新たに現れたり悪化したりした場合は、早めに主治医に相談してください。
- けいれん発作が5分以上続く、意識が戻らない、胸の痛みや強い息苦しさがある場合は、ためらわず救急要請してください。
- 治療中に黄疸、強いだるさ、食欲不振などの肝機能障害を疑う症状が出た場合は、速やかに主治医を受診してください。
脳腱黄色腫症についてのよくある質問
Q. コレステロール値が正常なのに、なぜ黄色腫ができるのですか?
A. 脳腱黄色腫症で蓄積するのは、通常の健康診断では測定しない「コレスタノール」という別の脂質です。そのため一般的なコレステロール値は正常か低めのことが多く、腱黄色腫があるのに高コレステロール血症がない場合は、本症を疑う重要な手がかりになります。
Q. 治療をすれば治りますか?
A. 遺伝子の異常そのものを治す治療はまだありませんが、胆汁酸補充療法でコレスタノールの産生を抑え、病気の進行を止めたり遅らせたりできる可能性があります。すでに起きている神経障害の回復には限界があるため、できるだけ早く治療を始め、継続することが重要です。
Q. きょうだいや子どもにも遺伝しますか?
A. 常染色体潜性遺伝のため、両親はともに保因者であることが多く、患者のきょうだいは4分の1の確率で同じ病気を持つ可能性があります。症状がなくても早く見つけて治療することに意義があるため、遺伝カウンセリングを受けたうえで家族の検査を検討してください。
Q. 薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?
A. 原則として生涯にわたる継続が必要と考えられています。中断すると血清コレスタノール値が再び上がり、症状が進行するおそれがあるため、自己判断でやめずに定期的な検査を受けながら主治医と相談して続けてください。
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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。