脂肪萎縮症

Lipodystrophy

脂肪萎縮症(Lipodystrophy)|脂肪萎縮症は、全身または体の一部で皮下などの脂肪組織が失われたり、生まれつき十分に作られなかったりする希少疾患です。脂肪は余分なエネルギーをためるだけでなく、レプチンなどのホルモンを分泌する内分泌器官でもあります。そのため脂肪が失われると、やせ型であっても重いインスリン抵抗性糖尿病、高中性脂肪血症、脂肪肝などの代謝異常が起こり、膵炎・肝硬変・心血管疾患・腎障害につながることがあります。

脂肪萎縮症の要点

脂肪萎縮症は、全身または一部の脂肪組織が失われ、レプチンなどの分泌低下とインスリン抵抗性により、糖尿病・高中性脂肪血症・脂肪肝などの代謝異常をきたす希少疾患群です。先天性・後天性、全身性・部分性に分類され、日本では指定難病(告示番号265)の対象です。

別名・略称リポジストロフィー、リポディストロフィー、脂肪異栄養症
分野代謝疾患
病型先天性全身性、家族性部分性、後天性全身性、後天性部分性の4つが主
遺伝形式病型で異なる(先天性全身性は常染色体潜性、後天性は非遺伝性)
主な症状脂肪組織の減少、インスリン抵抗性糖尿病、高中性脂肪血症、脂肪肝
主な検査血糖・インスリン、中性脂肪、レプチン測定、画像検査、遺伝子検査
主な治療食事療法、糖尿病・脂質異常症の治療、病型によりレプチン補充療法
受診する主な診療科内分泌・代謝内科、小児科

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脂肪萎縮症とは

脂肪萎縮症(lipodystrophy)は、脂肪組織が全身性または部分的に欠如・減少し、それに伴って代謝異常を起こす疾患群の総称です。肥満の逆にみえますが、代謝面では高度肥満と似た状態になる点が本質です。脂肪組織が少ないと、食事で得た余剰エネルギーを中性脂肪として安全にためる場所がありません。行き場を失った脂質は肝臓・骨格筋・膵臓などに異所性に蓄積し、インスリンの効きを悪くします。さらに脂肪細胞が分泌するレプチンやアディポネクチンが不足すると、満腹感が得にくくなり、糖・脂質代謝の調節も乱れます。日本では、脂肪萎縮とそれに伴う代謝異常を呈するものが指定難病(告示番号265)の対象です。一方、注射部位の局所的な脂肪萎縮のように代謝異常を伴わないものや、薬剤など明らかな二次的原因によるものは、通常は区別して扱われます。

脂肪萎縮症は、先天性(遺伝性)か後天性か、全身性か部分性かの2軸で、主に4病型に分類されます。①先天性全身性脂肪萎縮症(CGL、Berardinelli-Seip症候群)は、出生時から全身の脂肪がほぼ欠如する常染色体潜性(劣性)遺伝の病型です。②家族性部分性脂肪萎縮症(FPLD)は、思春期前後から四肢・臀部の脂肪が減少する一方、顔・頸部・鎖骨上窩・腹腔内には脂肪がたまりやすい病型で、LMNA遺伝子変異によるDunnigan型が代表的です。③後天性全身性脂肪萎縮症(AGL、Lawrence症候群)は、小児期〜青年期に全身の脂肪が失われる病型で、自己免疫疾患、脂肪織炎、若年性皮膚筋炎などとの関連が知られています。④後天性部分性脂肪萎縮症(APL、Barraquer-Simons症候群)は、顔面から上半身へ頭尾方向に脂肪が減少する病型で、補体C3低下やC3腎炎因子、膜性増殖性糸球体腎炎との関連が知られています。このほか、早老症候群(ハッチンソン・ギルフォード症候群など)に伴うものや、HIV感染症の抗レトロウイルス療法に関連するものもあります。歴史的には、1990年代にレプチンが発見されました。その後、脂肪萎縮症の代謝異常の中心にレプチン欠乏があることが動物実験と臨床研究で示されました。日本の研究グループはこの分野に大きく貢献しており、日本はレプチン製剤(メトレレプチン)を脂肪萎縮症の治療薬として早い時期に承認した国の一つです。

脂肪萎縮症の疫学・患者数

脂肪萎縮症は極めてまれな疾患です。海外の推計では、全身性脂肪萎縮症の有病率は100万人あたり1人未満、部分性脂肪萎縮症はそれより多く100万人あたり数人程度とする報告があります。ただし、軽症の部分性脂肪萎縮症は体型の個人差や2型糖尿病・メタボリックシンドロームとして見過ごされやすく、実際の患者数はこれより多いと考えられています。日本での指定難病としての受給者数は少数にとどまります。先天性全身性脂肪萎縮症は乳幼児期に特徴的な体型で気づかれることが多く、家族性部分性脂肪萎縮症は思春期以降、とくに女性で体型変化や糖尿病・高中性脂肪血症を契機に診断されることが多いとされます。部分性脂肪萎縮症は女性で診断される例が多い傾向があります。その理由として、女性では体型の変化が目立ちやすいことに加え、代謝異常が重く出やすいことが指摘されています。後天性の病型も女性に多いと報告されています。先天性の病型では、近親婚の多い地域で集積がみられることが知られています。

脂肪萎縮症の原因・病態生理

先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子として、AGPAT2(1型)、BSCL2(seipinをコード、2型)、CAV1(3型)、CAVIN1(PTRF)(4型)が知られ、いずれも常染色体潜性遺伝です。AGPAT2は中性脂肪やリン脂質の合成経路の酵素、seipinは脂肪滴の形成と脂肪細胞分化、カベオリン/キャビンは細胞膜のカベオラ形成に関わります。どの遺伝子に異常があっても、脂肪細胞が分化・成熟できないか、脂肪を保持できなくなります。家族性部分性脂肪萎縮症の多くは常染色体顕性(優性)遺伝です。核膜タンパク質ラミンA/CをコードするLMNA(2型、Dunnigan型)のほか、脂肪細胞分化の主要転写因子をコードするPPARG(3型)、PLIN1などが報告されています。また、原因遺伝子が特定できない例も少なくありません。LMNA変異は、心筋症・筋ジストロフィー・早老症など多彩な疾患(ラミノパチー)の原因にもなり、部分性脂肪萎縮症に心臓や筋の病変を合併することがあります。後天性全身性脂肪萎縮症には、自己免疫機序が関与すると考えられています。脂肪織炎が先行する型、自己免疫疾患(若年性皮膚筋炎など)に伴う型、明らかな誘因のない特発型があります。近年は、免疫チェックポイント阻害薬の使用後に発症した例も報告されています。後天性部分性脂肪萎縮症では、補体第二経路を持続的に活性化する自己抗体であるC3腎炎因子が多くの例で検出されます。これにより、補体を介して脂肪細胞が傷害されると考えられています。

脂肪組織が失われた後の代謝異常の流れは、病型を問わずおおむね共通です。まず、食後の余剰エネルギーを皮下脂肪にためられないため、血中の中性脂肪と遊離脂肪酸が増えます。次に、これらが肝臓・骨格筋・膵β細胞などに異所性脂肪として沈着します。肝臓では脂肪肝から脂肪肝炎(MASH/NASH)、線維化へと進み、骨格筋と肝臓では脂質中間代謝物がインスリンシグナルを妨げて、高度のインスリン抵抗性を生じます。さらに、脂肪細胞由来のレプチンが著しく少ないため、視床下部で満腹シグナルが働かず、過食(強い食欲)が起こり、エネルギー過剰が悪化します。レプチンには肝臓の糖新生や脂質合成を調節する作用もあり、その欠乏は高血糖と高中性脂肪血症を直接悪化させます。高インスリン血症は、皮膚の黒色表皮腫や、卵巣でのアンドロゲン過剰(多毛・月経異常)、組織の過成長などをもたらします。中性脂肪が著しく高くなると(おおむね1,000mg/dLを超えるような場合)、急性膵炎のリスクが大きく高まります。部分性脂肪萎縮症では、残存する内臓脂肪や頸部の脂肪にエネルギーが偏って蓄積します。全身性より軽いものの、同じ方向の代謝異常が生じます。

脂肪萎縮症の症状

  • 皮下脂肪の欠如・減少: 全身性では顔・体幹・四肢の皮下脂肪がほぼなくなり、部分性では主に四肢や臀部の脂肪が失われます。手掌・足底・眼窩などの機械的脂肪が保たれるかどうかは、遺伝子型によって異なります。
  • 筋肉質な外観・静脈の浮き出し: 脂肪がないため筋肉の輪郭が際立ち、四肢の皮静脈が目立ちます(静脈怒張様外観)。小児では筋骨たくましい体型として気づかれることがあります。
  • 顔・頸部への脂肪蓄積(部分性): 家族性部分性脂肪萎縮症では、顔・二重あご・鎖骨上窩・背部に脂肪がたまり、クッシング症候群に似た外観になることがあります。
  • インスリン抵抗性糖尿病: やせているのに高血糖を示し、大量のインスリンを用いても血糖コントロールが難しいことがあります。全身性では小児期〜思春期に発症することが多いとされます。
  • 高中性脂肪血症と急性膵炎: 中性脂肪が数千mg/dLに達することもあり、繰り返す腹痛や急性膵炎の原因になります。発疹性黄色腫を伴うこともあります。
  • 脂肪肝・肝腫大: 異所性脂肪の蓄積によって肝臓が腫れ、脂肪肝炎から肝線維化・肝硬変に進行することがあります。脾腫を伴うこともあります。
  • 黒色表皮腫: 頸部・腋窩・鼠径部などの皮膚が黒く厚くざらつく変化で、高インスリン血症を反映します。
  • 過食・強い空腹感: レプチン欠乏により満腹感が得られにくく、食事制限が困難になります。本人の意志の問題ではない点を家族が理解することが大切です。
  • 月経異常・多毛・不妊: 女性では多嚢胞性卵巣症候群に似た所見(無月経、多毛、にきび)を呈することが多く、妊娠に関わる問題も生じえます。
  • 成長・体型の変化(先天性全身性): 小児期の身長の伸びの加速、骨年齢の促進、手足・あごの大きさ、臍ヘルニアなど、先端巨大症に似た特徴がみられることがあります。
  • 心臓の異常: 肥大型心筋症様の心肥大や不整脈を起こすことがあり、LMNA変異などでは伝導障害・心筋症のリスクに注意が必要です。
  • 腎障害(蛋白尿): 糖尿病性腎症や巣状分節性糸球体硬化症などで蛋白尿をきたします。後天性部分性では膜性増殖性糸球体腎炎を合併することがあります。

脂肪萎縮症の経過と合併症

経過は病型によって大きく異なります。先天性全身性脂肪萎縮症では、出生直後から脂肪の欠如がみられ、乳幼児期から肝腫大や高中性脂肪血症が現れます。多くは小児期〜思春期に糖尿病を発症します。BSCL2変異による2型では、知的障害や心筋症を伴うことがあり、より重症の傾向が報告されています。後天性全身性脂肪萎縮症は、数か月〜数年かけて脂肪が失われ、それに続いて代謝異常が顕在化します。家族性部分性脂肪萎縮症では、小児期の体型はほぼ正常です。思春期以降に四肢の脂肪が徐々に減り、20〜30歳代以降に糖尿病・脂質異常症・脂肪肝が出てくることが多く、男性では体型変化に気づかれにくい傾向があります。後天性部分性脂肪萎縮症では、脂肪の減少は数年で進行した後に停止することが多いとされます。代謝異常は比較的軽いことが多い一方、腎病変が長期予後に影響します。どの病型でも、失われた脂肪組織が自然に回復することは基本的に期待しにくいとされます。代謝異常は加齢、思春期、妊娠、体重増加などで悪化しやすくなります。

主な合併症は次のとおりです。高中性脂肪血症による急性膵炎(反復すると慢性膵炎や膵内外分泌機能低下を招く)、脂肪肝炎から肝硬変への進行、糖尿病の細小血管合併症(網膜症・腎症・神経障害)、若年からの動脈硬化性疾患(冠動脈疾患など)、心肥大・心筋症・不整脈、蛋白尿から慢性腎臓病への進行などです。さらに、多嚢胞性卵巣様の変化と不妊、妊娠時の血糖・中性脂肪の急激な悪化も問題になります。先天性全身性の一部の型では、長管骨の溶骨性病変が知られています。後天性全身性脂肪萎縮症では、基礎にある自己免疫疾患の合併に注意が必要です。後天性部分性脂肪萎縮症では、補体異常に関連した腎炎に加え、自己免疫疾患の合併にも注意します。

脂肪萎縮症の診断・診断基準

診断は、①身体診察で脂肪の欠如・減少の分布を確認し、②それに伴う代謝異常(糖尿病・インスリン抵抗性、高中性脂肪血症、脂肪肝)を評価し、③画像検査で脂肪分布を客観的にとらえ、④血中レプチン値・補体・自己抗体・遺伝子検査などで病型と原因を絞り込む、という流れで進めます。日本の指定難病の診断基準では、脂肪萎縮の存在と、それに伴う代謝異常の確認が重要な要素です。あわせて、栄養障害、消耗性疾患、薬剤など二次的な原因の除外も求められます。医療費助成の可否は重症度分類と組み合わせて判定されます。やせているのに重い糖尿病や高中性脂肪血症がある場合や、筋肉が際立つ体型・四肢の脂肪が乏しい体型がある場合には、脂肪萎縮症を疑うことが早期診断の鍵になります。内分泌代謝科を中心に、肝臓・循環器・腎臓・小児科などと連携して評価します。

  • 身体診察・身体計測: 脂肪減少の分布(全身性か部分性か、四肢・臀部・顔面など)、筋肉の輪郭、黒色表皮腫、肝腫大、多毛などを観察します。皮下脂肪厚(皮脂厚計)や写真記録も経過評価に役立ちます。
  • 画像による脂肪分布評価(全身MRI・DXA): 全身MRIやDXAで皮下脂肪・内臓脂肪・体幹/四肢の脂肪比率を評価します。部分性脂肪萎縮症では、DXAで体幹に比べて下肢の脂肪率が著しく低いことが参考所見になります。
  • 血中レプチン濃度: 全身性では著明な低値を示すことが多く、病態把握の指標になります。部分性では正常範囲のこともあり、レプチン値だけで診断を否定することはできません。
  • 糖代謝検査: 空腹時血糖、HbA1c、空腹時インスリン、75g経口ブドウ糖負荷試験などで、インスリン抵抗性の程度と糖尿病の有無を評価します。著しい高インスリン血症が特徴です。
  • 脂質検査・膵酵素: 中性脂肪(TG)、HDLコレステロール(低値になりやすい)などを測定します。腹痛があれば膵酵素を測定し、膵炎の有無を確認します。
  • 肝機能・肝画像検査: AST/ALT、腹部超音波・CT・MRIで脂肪肝と肝腫大を評価します。エラストグラフィや必要に応じた肝生検で、線維化の程度を判断します。
  • 補体・自己抗体検査: 後天性の病型では、血清C3低値やC3腎炎因子(部分性)、抗核抗体などの自己抗体、筋炎関連の検査を行い、基礎疾患を探索します。
  • 遺伝子検査: AGPAT2、BSCL2、LMNA、PPARGなどの原因遺伝子を解析します。病型確定や家族への説明・遺伝カウンセリングに有用ですが、実施できる施設や保険適用の範囲は限られるため、専門施設で相談します。
  • 心臓・腎臓の評価: 心電図、心エコー、ホルター心電図で心肥大・心筋症・不整脈を評価します。尿蛋白・腎機能で腎障害を調べ、必要に応じて腎生検を行います。

脂肪萎縮症と鑑別すべき疾患

  • 神経性やせ症・栄養障害・消耗性疾患: 全身の脂肪が減りますが、筋肉量も減少します。また、インスリン抵抗性や高中性脂肪血症は通常目立たず、栄養改善で脂肪が回復する点が異なります。
  • クッシング症候群: 顔や体幹への脂肪蓄積は部分性脂肪萎縮症に似ていますが、コルチゾール過剰の証明(デキサメタゾン抑制試験など)と、四肢の真の脂肪欠如の有無で鑑別します。
  • 先端巨大症: 先天性全身性脂肪萎縮症の先端巨大症様体型と似ることがありますが、成長ホルモン・IGF-1の上昇やGH分泌の抑制障害の有無で区別します。
  • 2型糖尿病・メタボリックシンドローム: 部分性脂肪萎縮症は通常の肥満を伴う糖尿病と誤認されやすく、四肢・臀部の脂肪欠如や家族歴、DXAによる脂肪分布の評価が鑑別の手がかりです。
  • インスリン受容体異常症: 高度のインスリン抵抗性と黒色表皮腫を呈しますが、脂肪組織は通常保たれ、中性脂肪が上昇しにくい傾向があります。
  • 早老症候群・薬剤性/HIV関連脂肪萎縮: ウェルナー症候群などの早老症や、抗レトロウイルス薬などに関連する脂肪萎縮では、特徴的な随伴症状や薬剤歴の確認が重要です。

脂肪萎縮症の治療

現時点で、失われた脂肪組織そのものを再生させる治療は確立していません。治療の目標は、脂肪萎縮に伴う代謝異常を是正し、膵炎・肝硬変・心血管疾患・腎不全などの重い合併症を予防することです。土台となるのは食事療法と運動療法で、そのうえで糖尿病・脂質異常症に対する薬物療法を行います。代謝異常が重い場合、特にレプチン欠乏が著しい場合には、レプチン補充療法(メトレレプチン)が選択肢になります。あわせて、病型に応じた臓器合併症の管理、外見の悩みへの対応、心理社会的支援を組み合わせます。治療内容は病型・年齢・レプチン値・合併症によって個別に決まるため、脂肪萎縮症の診療経験がある内分泌代謝専門医と相談しながら進めることが重要です。

  • 食事療法: 総エネルギーの適正化、脂質(特に高中性脂肪血症時)と単純糖質の制限、アルコールの回避が基本です。小児では成長に必要な栄養を確保しつつ、管理栄養士の継続的な指導を受けます。
  • 運動療法: インスリン感受性を改善するため、体調と心機能に応じた有酸素運動などを取り入れます。心筋症や不整脈がある場合は、事前に循環器医の評価を受けます。
  • レプチン補充療法(メトレレプチン): 日本では脂肪萎縮症に対して承認されている皮下注射製剤で、食欲を抑え、血糖・中性脂肪・脂肪肝を改善することが示されています。特にレプチンが低い全身性で効果が高いとされます。一方、中和抗体の出現、低血糖(インスリン併用時)、注射部位反応などに注意が必要です。また、後天性全身性脂肪萎縮症ではリンパ腫の報告もあるため、適応と利益・リスクを専門医と十分に検討します。
  • 糖尿病治療薬・インスリン: メトホルミンなどの経口薬、必要に応じて大量のインスリンを用います。部分性ではチアゾリジン系薬(ピオグリタゾン)が用いられることがありますが、効果や脂肪分布への影響には個人差があります。
  • 脂質異常症治療薬: 高中性脂肪血症に対してフィブラート系薬やオメガ3脂肪酸製剤、LDLコレステロールや動脈硬化リスクに対してスタチンなどを用い、膵炎と動脈硬化の予防を図ります。
  • 急性膵炎・肝疾患の管理: 急性膵炎では絶食・輸液などの入院治療が必要です。中性脂肪が著しく高い場合は血漿交換が検討されることもあります。肝硬変・肝不全に進行した例では、肝移植が検討されることがあります。
  • 心・腎・基礎疾患の管理: 心筋症や不整脈には薬物治療やデバイス治療、腎症には降圧や蛋白尿の管理を行います。後天性の病型では、皮膚筋炎など基礎にある自己免疫疾患の治療を並行して行います。
  • 女性特有の問題への対応: 月経異常・多毛・不妊には婦人科と連携して対応します。エストロゲン含有製剤は中性脂肪を上昇させて膵炎を誘発しうるため、使用には慎重な判断が必要です。
  • 外見に対する形成外科的治療: 顔のこけなどに対して、脂肪注入や充填剤注入などが行われることがあります。代謝異常を改善するものではなく、外見の悩みとQOLへの対応として位置づけられます。

脂肪萎縮症の予後・長期フォロー

予後は、病型と代謝異常のコントロール状況に強く左右されます。先天性・後天性の全身性脂肪萎縮症は代謝異常が重く、治療が十分でない場合には、肝硬変、急性膵炎、心疾患、腎不全、感染症などにより、若年での死亡につながることがあると報告されています。レプチン補充療法の登場以降、血糖・中性脂肪・肝機能の改善が多くの患者で得られるようになり、長期予後の改善が期待されています。部分性脂肪萎縮症は全身性より経過が緩やかなことが多い一方、若年から冠動脈疾患や心筋症(特にLMNA関連)を起こすことがあります。そのため、代謝と心臓の継続的な管理が予後を左右します。適切な治療と生活管理により、就学・就労・家庭生活を続けている患者も多くいます。

脂肪萎縮症は生涯にわたる管理が必要な疾患です。定期的に血糖・HbA1c、脂質、肝機能、腎機能・尿蛋白を測定し、腹部画像で肝臓を、心電図・心エコーで心臓を評価します。糖尿病網膜症の眼科検診、レプチン治療中の効果・副作用(抗体、低血糖、リンパ腫を含む)の確認も欠かせません。小児では成長・思春期発来・発達の評価、成人では妊娠を希望する際の事前相談、加齢に伴う動脈硬化性疾患のスクリーニングが重要です。小児科から成人診療科へ切れ目なく移行できるよう、早い時期から移行期医療を計画しておくことが望まれます。

脂肪萎縮症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、まず食事管理を継続することが重要です。レプチン欠乏による強い空腹感は本人の努力だけでは抑えにくいため、家族の理解と協力が欠かせません。具体的には、食品の買い置きを工夫する、食事時間を一定にする、低エネルギーで満足感の得やすい食品を取り入れる、といった工夫が役立ちます。飲酒は中性脂肪を急上昇させて膵炎の誘因となるため、原則として避けます。強い腹痛、嘔吐、発熱は膵炎や感染症のサインのことがあるため、我慢せず受診してください。皮下脂肪が少ないと、寒さを感じやすくなったり、座る・横になる際に骨が当たって痛みや皮膚トラブルが起きやすくなったりします。保温やクッションの使用も有用です。メトレレプチンなどの自己注射を行う場合は、注射部位をローテーションし、低血糖時の対処法を本人・家族とも身につけておきましょう。妊娠・出産は血糖・中性脂肪の急な悪化を招くことがあります。避妊法の選択(エストロゲン製剤は慎重に)も含めて、計画的に主治医・産婦人科と相談することが大切です。遺伝性の病型では、遺伝形式(先天性全身性は常染色体潜性、家族性部分性の多くは常染色体顕性)によって家族の発症リスクが異なります。きょうだいや子どもの検査を考える際には、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

利用できる制度・相談窓口

脂肪萎縮症は指定難病(告示番号265)です。診断基準と重症度分類を満たす場合、または軽症でも医療費が一定以上かかる場合(軽症高額該当)には、特定医療費(指定難病)の医療費助成を受けられます。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。認定されると、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。18歳未満の場合は、病名や病状によって小児慢性特定疾病医療費助成の対象となることがあるため、主治医や自治体に確認してください。このほか、高額療養費制度、障害者総合支援法による福祉サービス(指定難病は対象疾病に含まれます)を利用できる場合があります。腎不全・心疾患・視力障害などの合併症で日常生活や就労に支障がある場合は、身体障害者手帳や障害年金の対象となる可能性があります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW)、難病情報センターのウェブサイトが利用できます。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談することもできます。

脂肪萎縮症に伴う心のケア・心理社会的支援

難病と診断されることや、食事制限・注射・頻回の通院が生涯続くことは、大きな心理的負担になります。抑うつ、不安、適応障害、治療疲れ(バーンアウト)が起こることも珍しくありません。脂肪萎縮症に特有の課題としては、まず外見の変化があります。顔のこけ、筋肉が際立つ体型、部分性での顔・頸部への脂肪蓄積、多毛、黒色表皮腫などにより、容姿への強い悩み、人目を避ける行動、自己評価の低下を招くことがあります。特に思春期には、周囲からの指摘やいじめにつながる場合もあります。また、強い空腹感とそれを抑える食事制限との葛藤は、食事を楽しめない苦痛や、家族との対立の原因になりがちです。希少疾患のため、周囲に同じ病気の人がおらず、孤立感を抱きやすいことも指摘されています。月経異常、不妊、妊娠への不安、遺伝への罪悪感も大切なテーマです。気分の落ち込み、不眠、食事や治療への意欲低下が続くときは、一人で抱え込まず、主治医や看護師、臨床心理士・公認心理師、精神科・心療内科に相談してください。こうした心理的サポートは治療の継続にも良い影響を与えます。家族自身の負担にも目を向け、難病相談支援センターなどを活用することが勧められます。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

脂肪萎縮症の受診の目安

  • みぞおちから背中に抜ける強い腹痛や繰り返す嘔吐がある場合は、急性膵炎の可能性があるため、救急受診してください。
  • 冷や汗・手の震え・動悸・意識がぼんやりするなどの低血糖症状が、ブドウ糖摂取で改善しない場合は、ただちに救急受診してください。
  • 強いのどの渇き、多尿、急な体重減少、だるさなど、高血糖が悪化した症状がある場合は、早めに受診してください。
  • 動悸、失神、息切れ、むくみなど心臓の異常を疑う症状がある場合は、速やかに受診してください。
  • 黄疸、腹部の張り、足のむくみ、尿の泡立ちの増加など、肝臓や腎臓の悪化を疑う変化があれば、主治医に相談してください。
  • やせているのに糖尿病や高い中性脂肪を指摘された場合や、手足・お尻の脂肪が少ない体型が気になる場合は、内分泌代謝科で相談してください。

脂肪萎縮症についてのよくある質問

Q. 太れば(脂肪をつければ)治りますか?

A. 脂肪萎縮症では脂肪組織そのものが作られない、または壊れているため、食べる量を増やしても皮下脂肪は増えません。かえって余分なエネルギーが肝臓や筋肉にたまり、糖尿病や脂肪肝が悪化します。食事は主治医や管理栄養士の指導に沿って調整することが大切です。

Q. レプチン治療はすべての患者に効きますか?

A. レプチンが著しく低い全身性脂肪萎縮症で効果が高いとされ、部分性では効果に個人差があります。抗体の出現や低血糖など注意すべき点もあるため、適応は病型・レプチン値・代謝異常の程度をふまえて専門医と相談して決めます。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 病型によって異なります。先天性全身性は常染色体潜性遺伝で、両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は一般に4分の1です。家族性部分性の多くは常染色体顕性遺伝で、親が罹患していれば子どもに受け継がれる確率は一般に2分の1です。後天性の病型は通常遺伝しません。詳しくは遺伝カウンセリングで相談してください。

Q. 見た目の変化は治療で改善しますか?

A. 代謝の治療で失われた脂肪が戻ることは基本的に期待しにくいですが、顔のこけなどには形成外科的な脂肪注入などの選択肢があります。外見の悩みはQOLに大きく関わるため、遠慮せずに主治医に伝え、必要に応じて形成外科や心理職と相談しましょう。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。