自己免疫性後天性凝固因子欠乏症

Acquired Autoimmune Coagulation Factor Deficiency

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(Acquired Autoimmune Coagulation Factor Deficiency)|自己免疫性後天性凝固因子欠乏症は、生まれつき凝固因子に異常のない人に、血液を固める凝固因子に対する自己抗体ができ、その因子の働きや量が急に低下して重い出血を起こす病気です。高齢者に多く、皮下や筋肉内の広い出血、手術・外傷後の止血困難、ときに頭蓋内出血など命に関わる出血をきたします。出血を止める治療と抗体を抑える免疫抑制療法を早く始めることが重要で、日本では指定難病(告示番号288)として医療費助成の対象です。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の要点

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症は、生まれつき異常のない人に凝固因子に対する自己抗体ができ、第VIII因子などの働きや量が低下して、皮下・筋肉内の広い出血や止血困難、ときに命に関わる出血を起こす病気です。高齢者に多く、日本では指定難病(告示番号288)です。

別名・略称後天性血友病A、後天性血友病、自己免疫性出血病XIII、自己免疫性出血病、AHA、Acquired hemophilia A
分野血液疾患
遺伝形式遺伝性ではない(後天性・自己免疫)
好発年齢中高年・高齢者に多い
主な症状皮下・筋肉内の広範な出血、手術・外傷後の止血困難、ときに頭蓋内出血
主な検査凝固検査(PT・APTT)、凝固因子活性、自己抗体・インヒビターの検出
主な治療出血に対する止血治療と、抗体を抑える免疫抑制療法
受診する主な診療科血液内科

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自己免疫性後天性凝固因子欠乏症とは

本症は、凝固因子に対する自己抗体(主にIgG)により、特定の凝固因子の活性や血中濃度が低下し、出血傾向が後天的に生じる疾患群の総称です。抗体には二つのタイプがあります。因子の働きを直接妨げる中和抗体(インヒビター)と、働きは妨げないものの因子に結合して血液中からの除去を早める非中和抗体(クリアランス促進型)です。先天性の凝固因子欠乏症(血友病など)と違い、遺伝性ではなく、それまで出血症状のなかった中高年に突然発症するのが典型です。既存の簡易解説には遺伝的要因や画像診断・遺伝子検査が中心であるかのような記載がありますが、本症の本質は凝固因子に対する自己免疫であり、診断の中心は凝固検査と抗体の検出です。遺伝子検査は先天性欠乏症との区別が必要な場合に補助的に行う程度です。

日本では2015年に「自己免疫性出血病XIII」(自己免疫性第XIII/13因子欠乏症)として指定難病に加えられました。その後、対象が他の凝固因子にも広げられ、名称が「自己免疫性後天性凝固因子欠乏症」に改められています。現在の対象は、自己免疫性第XIII/13因子欠乏症、自己免疫性第VIII/8因子欠乏症(後天性血友病A)、自己免疫性フォンウィルブランド因子欠乏症、自己免疫性第V/5因子欠乏症、自己免疫性第X/10因子欠乏症の病型です。このうち後天性血友病Aが最も多くみられます。第XIII因子欠乏症は通常のスクリーニング検査(PT・APTT)が正常のため見逃されやすく、日本の研究班による全国調査と抗体検査体制の整備によって診断例が増えてきました。なお、腫瘍やアミロイドーシス、心臓弁膜症などによる自己免疫機序以外の後天性欠乏は、本症とは区別されます。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の疫学・患者数

病型全体で非常にまれな疾患です。最も頻度の高い後天性血友病Aでも、欧米の報告では年間の新規発症が人口100万人あたり1〜2人程度とされ、日本でも同程度と考えられています。高齢化に伴い、また疾患の認知が進むにつれて診断数は増える傾向にあります。発症年齢は70歳代を中心とする高齢者に多く、男女差は大きくありません。後天性血友病Aでは、これとは別に20〜40歳代の分娩後の女性にも小さなピークがあります。自己免疫性第XIII因子欠乏症も中高年〜高齢者に多く、日本からの報告が世界的にみても多い病型です。第V因子・第X因子・フォンウィルブランド因子に対する自己免疫性欠乏症は、さらに報告数の少ない極めてまれな病型です。約半数は明らかな背景疾患のない特発性で、残りは関節リウマチ・全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、悪性腫瘍、妊娠・分娩、薬剤などを背景にもつと報告されています。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の原因・病態生理

本症は遺伝形式をもつ疾患ではなく、原因遺伝子も特定されていません。本来は体を守る免疫の仕組みが、自分の凝固因子を異物とみなして抗体を作ってしまう「免疫寛容の破綻」が本態です。高齢による免疫調節機能の変化、自己免疫疾患、悪性腫瘍(固形がん・リンパ増殖性疾患)、妊娠・分娩、特定の薬剤や感染症などが引き金になると考えられています。ただし、なぜ特定の凝固因子が標的になるのかは十分にはわかっていません。後天性血友病Aの抗第VIII因子抗体はIgG4サブクラスが多いことが知られています。第V因子に対する抗体については、かつて手術時に使われたウシ由来トロンビン製剤への曝露や抗菌薬投与との関連が報告されています。

出血の仕組みは病型ごとに異なります。後天性血友病Aでは、抗体が第VIII因子の働きを阻害し、内因系凝固経路でのトロンビン産生が低下します。その阻害作用は先天性血友病のインヒビターとは異なり、抗体濃度と残存活性が比例しない複雑な反応を示します(type 2 kinetics)。このため、第VIII因子活性が数%残っていても重い出血が起こりえます。第XIII因子欠乏症では、フィブリンを架橋・安定化する第XIII因子(主にAサブユニット)が抗体で阻害または除去されます。いったん止血しても血栓がもろく、数時間〜数日後に再出血する「後出血」や、創傷の治りにくさが生じます。フォンウィルブランド因子欠乏症では、血小板の粘着と第VIII因子の安定化が損なわれ、主に粘膜出血を起こします。第V因子・第X因子欠乏症では、凝固経路の合流点(共通経路)が障害され、PT・APTTがともに延長します。第V因子では、抗体があっても出血しない例から重い出血例まで幅があり、血小板内の第V因子が保たれているかどうかが出血の程度に関わるとする考えがあります。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の症状

  • 広範な皮下出血(紫斑): 打撲などのはっきりしたきっかけがないのに、腕・体幹・下肢に手のひら大以上の広い紫斑が次々に現れます。後天性血友病Aで最も多い初発症状です。
  • 筋肉内出血: 太もも・ふくらはぎ・腸腰筋などに出血し、腫れ・痛み・動かしにくさを生じます。大量になると貧血や、神経・血管の圧迫(コンパートメント症候群)につながります。
  • 後腹膜出血・腹腔内出血: 腰背部痛や腹痛、急な血圧低下で見つかることがあり、出血量が多く命に関わる重い出血の一つです。
  • 粘膜出血: 鼻出血、歯肉出血、消化管出血(吐血・下血・黒色便)、血尿などがみられ、フォンウィルブランド因子欠乏症では特に目立ちます。
  • 手術・抜歯・処置後の止血困難: 抜歯、内視鏡処置、カテーテル穿刺、手術のあとに出血が止まらないことで初めて気づかれる例が少なくありません。
  • 遅れて起こる再出血(後出血): いったん止まった出血が数時間〜数日後に再び起こる現象で、フィブリン安定化の障害による第XIII因子欠乏症に特徴的です。
  • 頭蓋内出血: 頭痛・嘔吐・意識障害・麻痺などで発症し、第XIII因子欠乏症や重症の後天性血友病Aでみられる最も危険な合併症です。
  • 分娩後の異常出血: 分娩後数週〜数か月に、性器出血や皮下・筋肉内出血が続く形で後天性血友病Aが発症することがあります。
  • 貧血症状: 出血が続くことで、息切れ、動悸、全身倦怠感、めまい、顔色不良などが現れます。
  • 創傷治癒の遅れ: 傷が治りにくい、傷が開きやすいといった症状が、第XIII因子欠乏症でみられることがあります。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の経過と合併症

多くの場合、急に発症し、診断がつくまでの間に出血を繰り返す経過をとります。先天性血友病と違って関節内出血はまれで、皮下・筋肉内・軟部組織の出血が中心です。このため整形外科的な打撲や血腫、あるいは抗血栓薬の副作用と誤って判断されやすい点に注意が必要です。適切な止血治療と免疫抑制療法を行うと、多くの例で数週〜数か月のうちに抗体が消えるか減少し、凝固因子活性が回復して寛解に至ります。後天性血友病Aでは、自然に軽快する例もあります(特に分娩後発症例)。一方で、治療に反応しにくい例や、寛解後に再び抗体が現れる再発例も一定の割合で報告されており、長期的な経過観察が欠かせません。背景に悪性腫瘍や自己免疫疾患がある場合、その病気の勢いや治療の効果が本症の経過に影響します。

合併症で最も重要なのは、頭蓋内出血・後腹膜出血・消化管出血など致命的になりうる大出血と、それに伴う出血性ショック・重度の貧血です。筋肉内出血による神経圧迫やコンパートメント症候群は、しびれや筋力低下を残すことがあります。治療に関連する合併症も重要です。高齢者への副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用による感染症(肺炎、敗血症、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症など)は、この病気の死亡原因として出血と並ぶ、あるいはそれを上回るほど重要とされています。そのほか、糖尿病の悪化、骨粗鬆症、消化性潰瘍、せん妄などのステロイド副作用、バイパス止血製剤やエミシズマブ使用時の血栓塞栓症(心筋梗塞・脳梗塞・深部静脈血栓症)にも注意が必要です。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の診断・診断基準

診断の出発点は、「それまで出血しやすい体質ではなかった人に、説明のつかない出血が新たに起きた」という病歴です。まず抗凝固薬・抗血小板薬の服用、肝疾患、ビタミンK欠乏、播種性血管内凝固(DIC)などのよくある原因がないかを確認します。そのうえで、血小板数、PT、APTT、フィブリノゲンなどのスクリーニング検査を行います。APTT単独の延長があれば後天性血友病Aやフォンウィルブランド因子欠乏症を、PT・APTTの両方の延長があれば第V因子・第X因子欠乏症を疑います。重要なのは、PT・APTTが正常でも出血が説明できない場合には第XIII因子欠乏症を疑い、第XIII因子活性を測定することです。次に、交差混合試験、因子活性測定、インヒビター力価(ベセスダ法)、抗凝固因子抗体の検出へと進みます。並行して、家族歴や過去の出血歴から先天性欠乏症を除外し、背景疾患(自己免疫疾患・悪性腫瘍・妊娠など)を検索します。指定難病の診断基準では、凝固因子活性の低下に加えて、インヒビターまたは自己抗体が証明されることなどをもとに「確実例」などの判定が行われます。抗体検査の一部は一般の検査会社では実施されていないため、研究班や専門施設と連携して行われます。

  • PT・APTT・血小板数・フィブリノゲン: 後天性血友病Aではふつう、APTT単独の延長と正常なPT・血小板数がみられます。第V・X因子欠乏ではPTとAPTTがともに延長し、第XIII因子欠乏ではこれらがすべて正常である点が見逃しの原因になります。
  • 交差混合試験(クロスミキシング試験): 患者血漿と正常血漿を混ぜてAPTTを測る検査で、因子が単に不足しているのか、阻害物質(インヒビター)があるのかを区別します。後天性血友病Aでは、混ぜた直後より37℃で2時間温めたあとに延長が目立つ「遅延型」の阻害パターンを示すのが特徴です。
  • 凝固因子活性の測定: 第VIII・V・X・XIII因子活性やVWF活性・抗原量を測り、どの因子が低下しているかを特定します。他の因子が正常に保たれていることも確認します。
  • インヒビター力価(ベセスダ法など): 中和抗体の強さをベセスダ単位(BU/mL)で数値化し、病勢の評価、治療方針の決定、治療効果の判定に用います。ただし後天性血友病Aでは、力価と出血の重さが必ずしも一致しません。
  • 抗凝固因子自己抗体の検出(ELISA・イムノブロットなど): 凝固因子に結合する抗体そのものを検出する検査で、活性阻害を示さない非中和抗体(除去促進型)の証明に特に重要です。第XIII因子欠乏症などでは診断の鍵となり、専門施設や研究班で実施されています。
  • ループスアンチコアグラント・抗リン脂質抗体: APTT延長と交差混合試験での阻害パターンを示すため鑑別上重要です。ループスアンチコアグラントでは通常、出血ではなく血栓傾向を示します。
  • 先天性欠乏症の除外(病歴・家族歴・必要に応じ遺伝子検査): 小児期からの出血歴や家族歴がないこと、過去の手術・抜歯で問題がなかったことなどを確認します。区別が難しい例では遺伝子検査を補助的に用いることがあります。
  • 背景疾患の検索: 抗核抗体・リウマトイド因子などの自己抗体、血清・尿の免疫電気泳動、画像検査、がん検診などにより、自己免疫疾患・悪性腫瘍・単クローン性γグロブリン血症などの合併を調べます。画像検査は、出血部位(筋肉内・後腹膜・頭蓋内)の評価にも用います。
  • 出血・全身状態の評価: ヘモグロビン値、輸血の必要量、出血部位をCTや超音波で評価し、重症度の判断と治療強度の決定に役立てます。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症と鑑別すべき疾患

  • 先天性凝固因子欠乏症(血友病A・フォンウィルブランド病・先天性第XIII因子欠乏症など): 小児期からの出血歴や家族歴があることなどから区別されます。先天性血友病Aでは関節内出血が多いのに対し、後天性血友病Aでは関節内出血はまれです。
  • 抗凝固薬・抗血小板薬の影響: ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)、ヘパリンなどの服用歴と、薬剤に特徴的な凝固検査パターンで区別されます。
  • 播種性血管内凝固(DIC)・肝不全・ビタミンK欠乏: 複数の凝固因子が同時に低下し、血小板減少やフィブリノゲン低下、FDP・Dダイマー上昇などを伴う点で区別されます。
  • ループスアンチコアグラント(抗リン脂質抗体症候群): APTT延長と阻害パターンを示しますが、因子特異的な活性低下は見かけ上のものであり、臨床的には血栓傾向を示す点が異なります。
  • 自己免疫以外の機序による後天性欠乏(アミロイドーシスに伴う第X因子欠乏、大動脈弁狭窄症やリンパ増殖性疾患に伴う後天性フォンウィルブランド症候群など): 自己抗体が証明されず、基礎疾患による吸着・消費・分解が原因である点で区別されます。
  • 免疫性血小板減少症(ITP)など血小板の異常: 点状出血が主体で、血小板数の減少がみられ、凝固検査は正常である点で区別されます。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の治療

治療は、(1)出血を止め・予防する止血治療、(2)自己抗体を消すための免疫抑制療法、(3)背景疾患への対応と支持療法の三本柱で進めます。本症は診断が遅れると致命的な出血につながるため、疑った時点で血友病・血栓止血の専門施設に相談することが勧められます。抗体が消えるまでは筋肉注射や不要な侵襲的処置を避けます。止血治療の製剤は病型によって異なります。後天性血友病Aでは、インヒビターに影響されにくい「バイパス止血製剤」や、第VIII因子の働きを代わりに担う抗体製剤が中心です。第XIII因子欠乏症では第XIII因子製剤の補充が基本になります。免疫抑制療法は、副腎皮質ステロイドを中心に、効果や病状に応じて他の免疫抑制薬を加える方法がとられます。ただし、患者の多くは高齢で合併症をもつため、出血のリスクと感染症などの副作用のバランスを個別に判断する必要があります。具体的な薬剤の選択や量、使用期間は、病型・重症度・年齢・合併症を踏まえて主治医・専門医が決定します。

  • バイパス止血製剤(遺伝子組換え活性型第VII因子製剤、活性化プロトロンビン複合体製剤、活性型第VII因子・第X因子加製剤): 第VIII因子を迂回して凝固を進める製剤で、後天性血友病Aの急性出血に対する止血治療の中心です。効果を直接測る検査が乏しいため臨床症状で効果を判断し、血栓症のリスクに注意して使用します。
  • エミシズマブ(抗体製剤): 活性型第IX因子と第X因子を橋渡しして第VIII因子の働きを代わりに担う皮下注射の製剤です。日本では後天性血友病Aに対する出血予防の目的で承認されています。使用中はAPTTなどの凝固検査値が見かけ上正常化するため、検査結果の解釈や他の止血製剤との併用(特に活性化プロトロンビン複合体製剤)には専門的な注意が必要です。
  • 第XIII因子製剤の補充: 自己免疫性第XIII因子欠乏症の出血時や手術時に、不足した第XIII因子を補います。抗体によって速やかに中和・除去されるため、効果が短いことがあり、免疫抑制療法と組み合わせて行います。
  • その他の病型の補充療法(VWF含有第VIII因子製剤、新鮮凍結血漿、血小板輸血など): フォンウィルブランド因子欠乏症ではVWFを含む製剤、第V因子・第X因子欠乏症では新鮮凍結血漿や血小板輸血などが状況に応じて用いられます。抗体の存在により効果が限られることがあります。
  • 副腎皮質ステロイド: プレドニゾロンなどにより自己抗体の産生を抑える、免疫抑制療法の基本となる薬です。治療効果をみながら数か月かけて減量します。
  • 免疫抑制薬・抗CD20抗体(シクロホスファミド、リツキシマブなど): ステロイドの効果が不十分な場合や、高力価のインヒビターを伴う場合などに併用が検討されます。本症に対しては保険適用の範囲が限られる薬剤もあり、骨髄抑制や感染症のリスクを考えて慎重に選択します。
  • 抗線溶薬(トラネキサム酸): 粘膜出血などで補助的に使用されることがあります。バイパス止血製剤との併用や血尿時の使用には注意を要します。
  • 背景疾患の治療: 悪性腫瘍、自己免疫疾患、単クローン性γグロブリン血症などを治療することで、抗体が消えやすくなる場合があります。原因の可能性がある薬剤は、中止を検討します。
  • 支持療法・感染予防: 赤血球輸血、出血部位の安静・圧迫などを行います。あわせて、ニューモシスチス肺炎の予防投薬、血糖・骨粗鬆症・消化性潰瘍の管理、リハビリテーションなど、治療の副作用と身体機能低下への対策を並行して行います。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の予後・長期フォロー

適切な止血治療と免疫抑制療法により、多くの患者で抗体が消えるか減少して凝固因子活性が回復し、寛解に至ります。後天性血友病Aでは、海外・国内の報告で6〜8割程度が寛解に達するとされています。分娩後発症例は比較的予後良好とされます。一方、高齢で合併症の多い患者が多いため、急性期の大出血に加えて、治療中の感染症や背景にある悪性腫瘍が生命予後を左右します。死亡例の中には、出血そのものよりも免疫抑制療法に関連した感染症によるものが少なくないことが知られています。自己免疫性第XIII因子欠乏症は、頭蓋内出血などの重い出血を起こしやすく、治療抵抗性や再発例も報告されており、慎重な管理が必要な病型です。寛解後は多くの人が発症前に近い生活に戻れます。ただし、筋肉内出血の後遺症による運動障害や、長期入院に伴う筋力・認知機能の低下が日常生活に影響することもあります。

寛解後も、一定期間(少なくとも数年)は凝固因子活性やインヒビター・抗体を定期的に測定し、再発がないかを確認します。再発は治療終了後の数か月〜数年以内に多いとされ、出血症状がなくても検査値の変化で早期に見つかることがあります。ステロイドの減量・中止後の副作用(副腎機能低下、骨粗鬆症、糖尿病など)の管理や、背景疾患(特に悪性腫瘍)の定期的なチェックも重要です。手術や抜歯、内視鏡処置、抗血栓薬の開始を予定する際には、事前に凝固機能を確認するため、主治医と処置を担当する医師との連携が勧められます。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

抗体が残っている間は、転倒・打撲を防ぐ工夫が重要です。住環境の段差をなくす、手すりを設ける、滑りにくい履物を使うなどの対策を行い、激しい運動や接触の多い活動は控えます。歯みがきはやわらかい歯ブラシで行い、ひげそりは電気かみそりを使うと安全です。アスピリンなどの解熱鎮痛薬やサプリメントには出血を助長するものがあるため、市販薬も含めて自己判断で服用せず、医師・薬剤師に確認してください。ほかの医療機関や歯科を受診する際は、病名と使用中の薬剤を必ず伝えます。病名・主治医の連絡先・止血製剤の情報を記したカードを持ち歩くと、緊急時に役立ちます。また、ステロイドや免疫抑制薬の使用中は感染症にかかりやすいため、手洗い、マスク着用、人混みを避けることなどを心がけます。予防接種(特に生ワクチン)は主治医と相談してください。本症は遺伝性の病気ではないため、子どもや兄弟姉妹に遺伝することは通常ありません。ただし、先天性欠乏症との区別が難しかった場合などには、遺伝に関する説明を専門医や遺伝カウンセリングで受けることもできます。分娩後に発症した人が次の妊娠を考える場合は、再発の可能性を含めて事前に血液専門医と産科医に相談することが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

本症は指定難病(告示番号288)であり、診断基準と重症度などの要件を満たす場合、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとにお住まいの都道府県(指定都市)に申請すると、医療費助成(特定医療費)を受けられます。認定されると、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。重症度の基準を満たさない場合でも、医療費が一定以上かかる場合は「軽症高額該当」として対象になることがあります。止血製剤は非常に高額になることがあるため、早めの申請が大切です。加入している医療保険の高額療養費制度・限度額適用認定証(マイナ保険証の利用を含む)も併せて利用できます。65歳以上で介護が必要になった場合は介護保険サービスを、出血の後遺症などで日常生活や就労に長期の支障が残る場合は、障害者手帳や障害年金の対象となる可能性があります。これらは状態に応じて個別に判断されます。療養生活や就労の相談は、各都道府県の難病相談支援センター、保健所(保健センター)の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー(医療福祉相談室)が窓口になります。病気の情報は難病情報センターのウェブサイトでも確認できます。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症に伴う心のケア・心理社会的支援

本症は、元気だった人に突然、原因のわからない大出血が起こり、緊急入院や輸血、長期の治療が必要になることが多い病気です。そのため、強い不安やショック、「また出血するのではないか」という恐怖を抱きやすくなります。高齢の患者では、長期入院による体力・認知機能の低下や、自宅に戻れるかという不安が重なります。ステロイドの副作用として不眠・気分の高揚や落ち込み・せん妄が生じることもあります。分娩後に発症した女性では、出血への恐怖と育児の負担、産後うつのリスクが重なりやすく、家族や周囲の支援が欠かせません。また、まれな病気であるため周囲の理解が得られにくく、「打撲の痕」と誤解されるなどの孤立感を抱くこともあります。抑うつ気分、不眠、食欲低下、何事にも興味がわかないといった状態が続くときは、我慢せずに主治医や看護師に伝えてください。必要に応じて、精神科・心療内科、公認心理師などの専門家の支援を受けることが、回復と治療継続の助けになります。家族も一人で抱え込まず、医療ソーシャルワーカーや難病相談支援センターに相談することが大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の受診の目安

  • 思い当たる打撲がないのに大きなあざが次々にできる、あざが急に広がるときは、早めに医療機関(できれば血液内科)を受診してください。
  • 抜歯・手術・注射のあとに出血がなかなか止まらない、あるいはいったん止まった出血が数時間〜数日後に再び起こるときは、受診して凝固検査を受けてください。
  • 激しい頭痛、嘔吐、意識がもうろうとする、手足の麻痺やろれつが回らないなどの症状は、頭蓋内出血の可能性があるため、ただちに救急車を呼んでください。
  • 太ももや腰・おなかの急な腫れや強い痛み、吐血・黒色便・大量の血尿、めまいや冷や汗・意識が遠のく感じがあるときは、すぐに救急受診してください。
  • 治療中に38℃以上の発熱、咳・息苦しさなど感染症を疑う症状が出たときは、早めに主治医に連絡してください。
  • 寛解後に再びあざや出血が増えてきたときは、再発の可能性があるため、次の予約を待たずに受診してください。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症についてのよくある質問

Q. 血友病は遺伝の病気と聞きましたが、後天性血友病Aも子どもに遺伝しますか?

A. 後天性血友病Aを含む本症は、生まれつきの遺伝子の異常ではなく、成人後に自己抗体ができることで起こる病気です。そのため、通常は子どもや家族に遺伝することはありません。男女ともに発症し、高齢者に多い点も先天性血友病とは異なります。

Q. 健康診断の血液検査では異常がなかったのですが、それでもこの病気の可能性はありますか?

A. 一般の健康診断では凝固検査をしないことが多く、また第XIII因子欠乏症はPT・APTTといった通常の凝固検査が正常になるため、見逃されやすい病型です。説明のつかない出血がある場合は、専門医が第XIII因子活性などの特別な検査を検討します。

Q. 治療をすれば治りますか?薬は一生続けるのでしょうか?

A. 多くの方は、免疫抑制療法によって数週〜数か月で抗体が消え、寛解に至ります。寛解後は薬を減らして中止できることが一般的ですが、再発することもあるため、薬をやめた後も定期的な検査が必要です。治療期間や中止の時期は、検査値と経過をみながら主治医と相談して決めます。

Q. ほかの病院で手術や歯の治療を受けるときに気をつけることは?

A. 必ず事前に本症であること、現在の病状、使用中の薬(ステロイドや止血製剤など)を伝えてください。可能であれば、血液内科の主治医から処置を担当する医師へ情報を提供してもらいましょう。抗体が残っている時期の処置は、止血製剤の準備など専門施設での計画的な対応が必要になることがあります。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。