家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)
Familial Hypobetalipoproteinemia Type 1 (Homozygous)
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)(Familial Hypobetalipoproteinemia Type 1 (Homozygous))|家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)は、脂質を血液中で運ぶアポリポタンパクB(アポB)の遺伝子(APOB)に、両親から受け継いだ2つの病的バリアントをもつことで起こる、きわめてまれな先天性の脂質代謝異常症です。乳幼児期の脂肪便・体重増加不良に始まり、脂溶性ビタミン(特にビタミンE)の欠乏が続くと、成長とともに神経障害や網膜障害、肝障害が進むことがあります。早期に診断して食事療法と大量のビタミン補充を続ければ、こうした合併症を防いだり軽くしたりできる可能性があり、生涯にわたる専門的な管理が大切です。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の要点
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)は、アポB遺伝子(APOB)の両アレルの病的バリアントにより、アポBを含むリポタンパクがほとんど作られない先天性の脂質代謝異常症です。脂肪便や体重増加不良、ビタミンE欠乏による神経・網膜障害、肝障害がみられ、指定難病です。
| 別名・略称 | 家族性低βリポタンパク血症、FHBL1、FHBL、低βリポタンパク血症1型、家族性低ベータリポタンパク血症、familial hypobetalipoproteinemia、APOB関連低βリポタンパク血症 |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 原因遺伝子 | APOB(アポB) |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性(共優性)。ホモ接合体や複合ヘテロ接合体で重症化 |
| 好発年齢 | 乳幼児期に脂肪便・体重増加不良で気づかれる |
| 主な症状 | 脂肪便、成長障害、神経障害、網膜障害、肝障害 |
| 主な検査 | 血中LDLコレステロール・アポB低値、脂溶性ビタミン測定、APOB遺伝子検査 |
| 主な治療 | 脂肪制限の食事療法と脂溶性ビタミン(特にビタミンE)の大量補充 |
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)とは
家族性低βリポタンパク血症(familial hypobetalipoproteinemia:FHBL)は、血中の低比重リポタンパク(LDL)コレステロールとアポBが遺伝的に著しく低い状態をいいます。このうちAPOB遺伝子の機能喪失型バリアントによるものを1型(FHBL1)と呼びます。アポBは、2種類のリポタンパクの骨格となる必須のタンパク質です。1つは、小腸で吸収した脂肪を運ぶカイロミクロン(アポB-48を含む)です。もう1つは、肝臓でつくられる超低比重リポタンパク(VLDL)・LDL(アポB-100を含む)です。片方のアレルだけに異常があるヘテロ接合体では、LDLコレステロールとアポBが正常の半分程度に下がります。ただし、多くは無症状か、脂肪肝がみられる程度です。一方、両方のアレルに異常があるホモ接合体(または複合ヘテロ接合体)では、アポBを含むリポタンパクがほとんど作られません。その結果、脂肪と脂溶性ビタミンの吸収・輸送がひどく障害され、無βリポタンパク血症とよく似た重い症状が現れます。日本ではこのホモ接合体が指定難病(告示番号336)に指定されています。本症は単一遺伝子の異常による疾患であり、多因子性の疾患ではありません。また、免疫の異常が原因となる病気でもありません。
病型は、どの遺伝子に異常があるかで整理されます。APOBの異常によるものがFHBL1です。ANGPTL3の機能喪失による低脂血症は、かつてFHBL2と呼ばれましたが、現在は家族性複合型低脂血症として区別されることが多くなっています。またPCSK9の機能喪失型バリアントでもLDLコレステロールが低くなりますが、通常は臨床的に問題となりません。FHBL1の原因となるバリアントの多くは、途中に停止コドンを生じるナンセンス変異やフレームシフト変異です。これによりアポBが途中で途切れた短縮型アポBが作られます。短縮型アポBは、全長アポB-100に対する長さの百分率で「アポB-xx」と呼ばれます。おおむねアポB-30より短いものは血中に検出されず、それより長いものは量は少ないながら血中に検出されることがあります。短縮の長さによってリポタンパクを作る能力が異なり、これが重症度に違いが出る一因と考えられています。歴史的には、1960年代にLDLが著しく低い家系が報告され、のちにAPOB遺伝子の異常が原因と明らかになりました。臨床症状が似ている無βリポタンパク血症(MTTP遺伝子異常)とは、原因遺伝子と遺伝の仕方が異なる別の疾患として区別されています。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の疫学・患者数
ヘテロ接合体の頻度は、海外の報告では一般人口の数百〜数千人に1人程度とされます。健康診断で偶然、LDLコレステロールの極端な低値として見つかることもあります。これに対しホモ接合体・複合ヘテロ接合体はきわめてまれで、世界でも報告は限られています。日本国内の患者数も非常に少なく、指定難病の受給者もごく少数と考えられます。正確な有病率は分かっていません。症状の強い例は乳児期〜幼児期に脂肪便や体重増加不良で気づかれることが多い一方、短縮型アポBが比較的長い例などでは症状が軽く、学童期以降や成人になってから神経・眼症状や脂肪肝を手がかりに診断されることもあります。常染色体の遺伝形式のため、性差はないと考えられます。血族婚の家系で発症しやすい傾向がありますが、異なるバリアントを両親から1つずつ受け継ぐ複合ヘテロ接合体の例もあります。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の原因・病態生理
本症はAPOB遺伝子(2番染色体短腕)の病的バリアントによる遺伝性疾患です。遺伝形式は常染色体共優性(半優性)と表現されます。すなわち、ヘテロ接合体でも脂質値の低下という形質が現れ、ホモ接合体ではそれがより重くなって臨床症状を伴います。両親はそれぞれヘテロ接合体(保因者)であることが多く、LDLコレステロールやアポBが低いという特徴があります。この点は、両親の脂質値がふつう正常である無βリポタンパク血症(常染色体潜性遺伝)との重要な鑑別点です。アポBは1つの遺伝子から作られ、肝臓では全長のアポB-100として、小腸ではmRNA編集を受けて約半分の長さのアポB-48として作られます。そのため、遺伝子の異常は小腸と肝臓の両方でのリポタンパク形成に影響します。
発症の仕組みを順に説明します。小腸上皮細胞では、吸収された脂肪(トリグリセリド)やコレステロール、脂溶性ビタミンがアポB-48に脂質転送タンパク(MTP)の働きで積み込まれ、カイロミクロンとしてリンパ管へ送り出されます。アポBがないか、短縮型で十分に機能しない場合、カイロミクロンを作れません。脂肪は腸の細胞内にたまり(内視鏡で白っぽい粘膜として見える)、吸収されなかった脂肪は便に出て脂肪便や下痢の原因になります。肝臓ではVLDLを分泌できないため、トリグリセリドが肝細胞にたまり脂肪肝となります。さらに、ビタミンE(α-トコフェロール)は主にカイロミクロンとVLDL・LDLによって全身に運ばれるため、本症ではきわめて強い欠乏状態になります。ビタミンEは細胞膜を酸化から守る抗酸化物質であり、長く欠乏すると、脊髄後索・脊髄小脳路や末梢神経の軸索、網膜の視細胞が変性します。これが進行性の運動失調、深部感覚障害、網膜色素変性様の変化につながります。ビタミンAの欠乏は夜盲や網膜障害を、ビタミンKの欠乏は凝固障害を、ビタミンDの欠乏は骨の石灰化障害を、それぞれ悪化させます。赤血球では膜脂質の組成が変わることで、表面に不規則な突起をもつ有棘赤血球(アカントサイト)が現れます。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の症状
- 脂肪便・慢性下痢: 脂肪を吸収できないため、量が多く悪臭のある、白っぽく油の浮いた便が出ます。脂肪の多い食事のあとに悪化しやすい特徴があります。
- 体重増加不良・成長障害: 乳児期から栄養を十分に吸収できず、体重や身長が伸び悩むことがあります。食事中の脂肪を制限すると改善することが多いとされます。
- 腹部膨満・嘔吐: 乳児期に、おなかの張りや嘔吐、哺乳時の不快感がみられることがあります。
- 運動失調(ふらつき): ビタミンE欠乏による脊髄小脳路・後索の障害で、歩行が不安定になったり、手先がうまく使えなくなったりします。未治療では学童期以降に目立ってくることがあります。
- 深部感覚障害・腱反射消失: 振動覚や関節位置覚が低下し、暗い所や目を閉じたときにふらつきやすくなります。診察では腱反射の低下・消失がみられます。
- 末梢神経障害: 手足のしびれや感覚の鈍さ、筋力低下が現れることがあり、筋萎縮や足の変形(凹足)を伴う場合もあります。
- 夜盲・視力低下(網膜障害): ビタミンAとEの欠乏により網膜色素変性に似た変化が起こり、暗い所で見えにくくなったり、視野が狭くなったりします。進行すると視力も低下します。
- 脂肪肝・肝機能異常: 肝臓からVLDLを分泌できないため肝臓に脂肪がたまり、肝腫大やAST・ALTの上昇がみられます。一部では線維化が進むことがあると報告されています。
- 出血傾向: ビタミンKが欠乏すると凝固因子が不足し、鼻血やあざができやすくなったり、手術時に出血しやすくなったりすることがあります。
- 骨の脆弱性: ビタミンDとカルシウムの吸収不良により、骨密度の低下やくる病様の変化が起こりうるとされます。
- 有棘赤血球による所見: 血液の顕微鏡検査で有棘赤血球がみられます。赤沈(ESR)が極端に遅くなることも特徴で、軽い溶血を伴う場合もあります。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の経過と合併症
経過は、短縮型アポBの長さ(リポタンパクをどの程度作れるか)と、治療をいつ始めたかによって大きく異なります。重症例では、新生児期〜乳児期に脂肪便、嘔吐、体重増加不良が現れます。脂肪を制限すると消化器症状は和らぎますが、ビタミンE欠乏はそれとは関係なく静かに進行します。未治療または補充が不十分な場合、学童期から思春期にかけて腱反射の消失、深部感覚障害、運動失調が目立ちはじめます。成人期には歩行障害が進み、網膜変性による夜盲・視野狭窄・視力低下が加わることがあります。一方、幼少期から十分量のビタミンEとAを続けた例では、神経・網膜障害の発症を遅らせたり、進行を抑えたりできると報告されています。すでに生じた神経障害は完全には元に戻りにくいため、早く気づき、早く補充を始めることが自然歴を変える最大の鍵です。軽症型では成人まで目立った症状がなく、脂肪肝や脂質の異常値から見つかることもあります。
主な合併症として、脊髄小脳変性・末梢神経障害による運動機能障害、網膜色素変性様網膜症による視覚障害、ビタミンK欠乏による凝固障害(手術・分娩・外傷時の出血)、ビタミンD欠乏による骨軟化・骨粗鬆症が挙げられます。肝臓では脂肪肝が長く続くことで脂肪性肝炎や肝線維化が進行しうるとされます。APOB異常に関連する脂肪肝の例では、肝硬変や肝細胞癌の報告もあります。また、脂肪制限のもとでは必須脂肪酸が不足しやすいとされています。一方、LDLコレステロールが極めて低いため、動脈硬化性疾患のリスクは低いと考えられています。まれに、ビタミンE欠乏による心筋への影響の可能性が指摘されることもあります。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の診断・診断基準
診断は、①乳幼児期の脂肪便・体重増加不良や、原因不明の運動失調・網膜変性・脂肪肝などの臨床像、②血清脂質の著しい低値(総コレステロール、トリグリセリド、LDLコレステロール、アポBがいずれも極めて低い)、③有棘赤血球や脂溶性ビタミンの低値といった随伴所見、を組み合わせて疑うことから始まります。まず、低栄養、甲状腺機能亢進症、重い肝疾患、吸収不良症候群など、二次的にLDLが低くなる原因を除外します。そのうえで、両親や血縁者の脂質値を確認し、APOB遺伝子検査で両方のアレルの病的バリアントを確かめます。両親のLDLコレステロールとアポBが低ければFHBL1を、正常であれば無βリポタンパク血症(MTTP異常)を考える手がかりになります。指定難病としての認定は、厚生労働省の定める診断基準(臨床所見、検査所見、遺伝学的検査、鑑別診断)に基づき、指定医が判定します。最新の基準の細かな内容は、難病情報センターや主治医を通じて確認してください。
- 血清脂質・アポリポタンパク測定: 総コレステロールとトリグリセリドが著しく低く、LDLコレステロールとアポBは測定限界近くまで低下します。アポBを含むリポタンパクの欠如を示す、最も基本的な所見です。
- 家族(両親)の脂質検査: 両親がヘテロ接合体であれば、LDLコレステロールとアポBが正常の半分程度に低下しています。無βリポタンパク血症との鑑別に非常に役立ちます。
- APOB遺伝子解析: 両方のアレルに病的バリアント(多くは短縮型アポBを生じるもの)があることを確認すれば確定診断となります。同時にMTTPやSAR1Bなどの関連遺伝子を調べると、鑑別にも役立ちます。
- 短縮型アポBの検出: 研究的な手法(電気泳動・ウエスタンブロット)で血中の短縮型アポBが検出されることがあり、バリアントの機能評価の参考になります。ただし短い短縮型は血中に検出されません。
- 末梢血塗抹標本・赤沈: 有棘赤血球の出現と赤沈の極端な遅延は、本症や無βリポタンパク血症を疑う重要な手がかりです。
- 脂溶性ビタミン・凝固検査: 血清ビタミンE(α-トコフェロール)は著しく低く、ビタミンA、25-水酸化ビタミンDも低いことが多く、PT-INRが延長することがあります。治療効果のモニタリングにも用います。
- 消化管内視鏡・小腸生検: 十二指腸粘膜が白っぽく見え、生検では脂肪滴をためこんだ小腸上皮細胞が確認されます。脂肪吸収障害の部位を示す所見です。
- 肝臓の画像・線維化評価: 腹部超音波、CT・MRI、エラストグラフィなどで脂肪肝と肝線維化の程度を評価し、必要に応じて肝生検を検討します。
- 神経・眼科学的評価: 神経伝導検査や体性感覚誘発電位、網膜電図(ERG)、眼底検査、視野検査で、ビタミン欠乏による神経・網膜障害の有無と程度を評価します。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)と鑑別すべき疾患
- 無βリポタンパク血症(MTTP異常): 臨床像はほぼ同じですが、両親の脂質値が正常であること、およびMTTP遺伝子のバリアントによって区別します。
- カイロミクロン停滞病(SAR1B異常): 脂肪吸収障害は似ていますが、血中LDLの低下は比較的軽く、トリグリセリドは保たれることが多い点で区別します。
- 二次性低βリポタンパク血症: 低栄養、甲状腺機能亢進症、重症肝疾患、吸収不良症候群、悪性腫瘍などによるもので、原因疾患の存在と家族歴がないことから鑑別します。
- ビタミンE単独欠乏性失調症(TTPA異常)・フリードライヒ失調症: 運動失調は似ていますが、血清脂質やアポBは正常で、脂肪吸収障害もない点が異なります。
- 神経有棘赤血球症: 有棘赤血球と神経症状を伴いますが、舞踏運動などの錐体外路症状が主体で、脂質値やビタミンEは通常保たれています。
- 嚢胞性線維症などの膵外分泌不全・胆汁うっ滞性疾患: 脂肪便とビタミン欠乏は似ていますが、膵酵素の低下や胆汁うっ滞の所見があり、アポBは極端には低下しません。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の治療
現在、APOB遺伝子の異常そのものを治す治療はありません。治療の柱は、①脂肪制限による消化器症状の改善と、適切なエネルギー・栄養の確保、②大量の脂溶性ビタミン(特にビタミンE、ついでA・K・D)の生涯にわたる補充、③神経・眼・肝・骨の合併症の定期的な評価と対症療法、です。治療の考え方は、病態がよく似た無βリポタンパク血症に準じたものが用いられており、小児科(代謝・消化器)、内科、神経内科、眼科、栄養士などによるチーム医療が望まれます。ビタミンEは輸送体であるリポタンパクがないため血中濃度が上がりにくく、血中の数値だけで効果を判断しにくいという特徴があります。そのため、臨床症状や神経・眼の所見とあわせて投与量を調整します。具体的な薬の種類・量・食事内容は年齢や重症度によって大きく異なるため、必ず主治医・専門医と相談して決めてください。
- 低脂肪食(食事療法): 食事中の長鎖脂肪酸を制限すると、脂肪便、腹痛、体重増加不良が改善しやすくなります。成長に必要なエネルギーは炭水化物とたんぱく質で補い、管理栄養士の指導のもとで行います。
- 必須脂肪酸の確保: 脂肪を制限すると必須脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸など)が不足しやすいため、植物油を少量とるなど、欠乏しない範囲での摂取が勧められています。
- ビタミンEの大量補充: 神経・網膜障害の予防に最も重要な治療で、一般的な摂取量よりはるかに多い量を経口で毎日継続します。早期に始めるほど効果が期待できるとされます。
- ビタミンAの補充: 夜盲・網膜障害の予防を目的に補充します。過剰症や、妊娠時の催奇形性に注意し、血中濃度を見ながら量を調整します。
- ビタミンK・Dの補充: PT-INRや25-水酸化ビタミンD、骨密度を参考に補充し、出血傾向と骨の脆弱化を防ぎます。手術前には凝固能を必ず確認します。
- 中鎖脂肪酸(MCT)の慎重な利用: MCTはカイロミクロンを介さずに吸収されるためエネルギー源になりますが、肝線維化との関連が指摘された報告もあり、使用は専門医の判断で慎重に行います。
- 肝合併症の管理: 脂肪肝や肝線維化を定期的に評価し、肥満やアルコールなど肝臓への負担を避けます。進行例では肝臓専門医と連携します。
- リハビリテーション・補装具: 運動失調や末梢神経障害に対して、理学療法・作業療法、装具、歩行補助具などで機能を維持し、転倒を予防します。
- 眼科的ケア・ロービジョン支援: 網膜障害が進んだ場合は、遮光眼鏡、拡大鏡、視覚補助具の利用や、ロービジョン外来での支援を検討します。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の予後・長期フォロー
予後は、診断と治療を始めた時期、および短縮型アポBの種類によって大きく左右されます。乳幼児期に診断され、低脂肪食とビタミン補充を十分に続けた例では、成長はおおむね保たれ、神経・眼の合併症の発症や進行を抑えられる可能性が報告されています。一方、診断が遅れて長期間ビタミンE欠乏にさらされた場合、歩行障害や視覚障害が残り、生活の質(QOL)が大きく損なわれることがあります。生命予後に直接かかわる因子としては、肝線維化・肝硬変の進行や、凝固障害による出血などが考えられます。動脈硬化性疾患のリスクはむしろ低いとされます。症例数が非常に少ないため、長期予後に関する大規模なデータはありません。
長期フォローアップでは、成長・栄養状態(身長、体重、BMI)、血清脂質、脂溶性ビタミン(ビタミンE、A、25-水酸化ビタミンD)、PT-INR、肝機能を定期的に評価します。神経学的診察と神経伝導検査、眼科検査(眼底、視野、ERG)、肝臓の画像・線維化評価、骨密度測定も、年齢や病状に応じて計画的に行います。思春期から成人期への移行の時期には、小児科から内科への移行期医療を計画的に進め、治療の継続が途切れないようにすることが重要です。服薬の負担が大きく自己中断が起こりやすいため、本人が病気を理解し自分で管理できるよう支援することも欠かせません。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
食事は低脂肪を基本とし、揚げ物や脂の多い肉、バター、生クリームなどを控えます。ただし、極端に脂肪を制限して必須脂肪酸やエネルギーが不足しないよう、管理栄養士と相談しながら献立を工夫しましょう。ビタミン剤は毎日欠かさずとることが、将来の神経・眼の障害を防ぐ最大のセルフケアです。旅行や入院、手術のときも中断しないよう、お薬手帳や病名を書いたカードを持ち歩くと安心です。手術や抜歯、出産の予定があるときは、事前に主治医へ伝えて凝固能を確認してもらいましょう。妊娠を希望する場合は、ビタミンAの量の調整などが必要になるため、計画段階から専門医に相談してください。遺伝については、両親はそれぞれ保因者(ヘテロ接合体)であることが多く、きょうだいが同じ病気である確率は理論上4分の1です。ヘテロ接合体の家族も、脂質の低値や脂肪肝が見つかることがあります。家族の検査や将来の妊娠・出産について不安がある場合は、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用することが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
本症(ホモ接合体)は指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、またはそれに該当しなくても高額な医療を継続している場合(軽症高額該当)には、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽くなります。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市(保健所など)です。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となる可能性があります。対象疾病に該当するかどうかは、主治医や自治体の窓口で確認してください。歩行障害や視覚障害が残った場合は、身体障害者手帳(肢体不自由・視覚障害)の取得により、補装具の給付や各種福祉サービスを受けられることがあります。また、障害の程度によっては障害年金の対象となりえます。子どもでは特別児童扶養手当などが該当する場合もあります。障害者総合支援法の対象疾病にも含まれるため、手帳がなくても障害福祉サービスを利用できる可能性があります。相談窓口としては、難病情報センターのウェブサイト、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、患者会などがあります。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)に伴う心のケア・心理社会的支援
難病を抱えて生きることは、本人にも家族にも大きな心理的負担になります。将来への不安、気分の落ち込み、毎日の服薬や食事制限への疲れなどから、抑うつ状態や不安障害、適応障害に至ることもあります。本症に特有の課題としては、まず患者数がきわめて少ないため、同じ病気の人と出会いにくく孤立感を抱きやすいことが挙げられます。次に、毎日大量のビタミン剤を飲み続ける必要があり、思春期に服薬を負担に感じて中断しやすいことです。さらに、給食や外食、友人との食事で脂肪制限を守りにくく、周囲との違いに悩むことや、視覚・運動機能が将来低下するかもしれないという漠然とした不安を抱えることもあります。保護者は、遺伝による病気であることに自責感を抱くことがあります。こうした気持ちは決して珍しいものではありません。主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、学校の養護教諭などに早めに相談することが大切です。眠れない、気分の落ち込みが2週間以上続く、何事にも興味がわかないといった状態があれば、心療内科や精神科の受診も検討してください。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)の受診の目安
- 乳児の脂肪便や下痢が続き、体重が増えない、あるいは減ってきた場合は、早めに小児科を受診してください。
- 歩き方がふらつく、転びやすくなった、手足のしびれや力の入りにくさが出てきたなど、新しい神経症状に気づいたときは、主治医に相談してください。
- 暗い所で見えにくい、視野が狭くなった、視力が落ちたと感じたときは、眼科で検査を受けましょう。
- 鼻血が止まりにくい、あざができやすい、黒い便や吐血がある場合は、すぐに医療機関を受診してください(大量出血は救急受診)。
- 皮膚や白目が黄色くなる、おなかが張る、強いだるさが続くなど肝臓の悪化が疑われる場合は、速やかに受診してください。
- 健康診断でLDLコレステロールが極端に低いと指摘され、家族に同様の人がいる、または症状がある場合は、脂質代謝の専門外来に相談しましょう。
家族性低βリポタンパク血症1(ホモ接合体)についてのよくある質問
Q. コレステロールが低いのは体に良いことではないのですか?
A. 一般にはLDLコレステロールが低いほど動脈硬化のリスクは下がり、本症でも心血管疾患のリスクは低いと考えられています。しかし本症のホモ接合体では、脂肪や脂溶性ビタミンを運ぶ仕組みそのものが働かないため、ビタミンE欠乏による神経・眼の障害や脂肪肝が問題になります。「低ければ安心」ではなく、専門的な管理が必要です。
Q. 無βリポタンパク血症とはどう違うのですか?
A. 症状や治療はとてもよく似ていますが、原因遺伝子が異なります。本症はAPOB遺伝子、無βリポタンパク血症はMTTP遺伝子の異常です。本症では両親(保因者)もLDLコレステロールが低いことが多い点が、見分ける手がかりになります。
Q. ビタミン剤はいつまで飲む必要がありますか?
A. 体の仕組みとしてビタミンを運ぶ力が生まれつき弱いため、原則として生涯続ける必要があると考えられています。自己判断で減らしたりやめたりすると、数年単位で神経や網膜の障害が進むおそれがあります。量の調整は、必ず主治医と相談して行ってください。
Q. 親が保因者だと言われましたが、親にも治療が必要ですか?
A. ヘテロ接合体(保因者)の多くは無症状で、特別な治療が不要なことがほとんどです。ただし脂肪肝がみられることがあるため、肝機能や腹部超音波の定期的なチェックが勧められる場合があります。個別の必要性は、かかりつけ医や専門医に相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。