原発性抗リン脂質抗体症候群

Primary Antiphospholipid Syndrome, PAPS

原発性抗リン脂質抗体症候群(Primary Antiphospholipid Syndrome, PAPS)|原発性抗リン脂質抗体症候群(PAPS)は、「抗リン脂質抗体」と呼ばれる自己抗体が持続的に存在することで、血管の中に血のかたまり(血栓)ができやすくなる、または流産・死産・妊娠高血圧腎症などの妊娠合併症を繰り返す自己免疫疾患です。若年から中年の世代に多く、脳梗塞や肺塞栓症などの重い血栓症、妊娠の継続の難しさとして現れます。そのため、長期にわたる抗血栓療法と、妊娠を見据えた計画的な管理が重要になります。

原発性抗リン脂質抗体症候群の要点

原発性抗リン脂質抗体症候群は、SLEなどの基礎疾患がないまま抗リン脂質抗体が持続的に陽性となり、動脈・静脈の血栓症や流産・死産などの妊娠合併症を起こす自己免疫疾患です。日本では指定難病(告示番号48)に定められています。

別名・略称抗リン脂質抗体症候群、APS、PAPS、Hughes症候群、ヒューズ症候群、抗リン脂質症候群
分野免疫・膠原病・自己炎症
病態抗リン脂質抗体が持続的に存在し、血栓ができやすくなる自己免疫疾患
主な症状脳梗塞・肺塞栓症・深部静脈血栓症などの血栓症、流産・死産・妊娠高血圧腎症などの妊娠合併症
主な検査ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体(12週以上あけて再検し陽性を確認)
主な治療抗血栓療法(抗凝固薬・抗血小板薬)、妊娠時は計画的な管理
好発年齢若年から中年
受診する主な診療科膠原病・リウマチ科、血液内科、産婦人科

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原発性抗リン脂質抗体症候群とは

抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)は、次の2つがそろう場合に診断される後天性の血栓性疾患です。1つは動脈・静脈・微小血管の血栓症、または特徴的な妊娠合併症という臨床所見です。もう1つは、ループスアンチコアグラント(LA)、抗カルジオリピン抗体(aCL)、抗β2グリコプロテインI抗体(抗β2GPI抗体)のいずれかが12週以上の間隔をあけて繰り返し陽性となることです。抗リン脂質抗体という名前ですが、実際の主な標的はリン脂質そのものではありません。リン脂質に結合する血漿蛋白、特にβ2グリコプロテインI(β2GPI)やプロトロンビンです。全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を背景に起こるものを「続発性(SLEに伴うAPS)」、明らかな基礎疾患がないものを「原発性(PAPS)」と呼びます。日本ではPAPSが指定難病(告示番号48)に定められています。

APSの概念は1980年代に英国のHughesらが体系化したため、「Hughes症候群」とも呼ばれます。研究用の分類基準としては、1999年の札幌基準、それを改訂した2006年のシドニー改変札幌基準が長く国際的に使われてきました。2023年には米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)が新しい分類基準を公表しました。この基準では、臨床所見と抗体所見をそれぞれ重み付けして点数化します。特殊な病型として、短期間に多臓器で微小血栓が多発する劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)があり、生命予後に直結します。抗体は陽性でも血栓症や妊娠合併症を起こしていない「抗リン脂質抗体陽性者(無症候性キャリア)」は、APSとは区別して扱います。なお、PAPSの患者さんの一部は、経過中にSLEを発症することが報告されています。

原発性抗リン脂質抗体症候群の疫学・患者数

海外の推計では、APSの年間発症率は人口10万人あたり数人程度、有病率は10万人あたり数十人程度とされます。ただし、調査方法による幅が大きいのが実情です。日本でも正確な患者数は明らかでなく、APS全体の半数前後はSLEなどに伴う続発性と考えられています。指定難病として医療費助成を受けているPAPS患者数は、比較的少数にとどまります。発症は20〜50歳代が中心で、女性に多い傾向があります。ただし、PAPSに限るとSLEほど女性に偏らないとする報告もあります。抗リン脂質抗体は健常者の数%でも検出されますが、その多くは一過性で低い値です。一方で、若年者の脳梗塞、原因のはっきりしない静脈血栓症、反復する妊娠喪失(不育症)の患者さんでは陽性率が高く、こうした場面で診断につながることが少なくありません。小児の発症はまれですが、存在します。

原発性抗リン脂質抗体症候群の原因・病態生理

PAPSは単一遺伝子の異常で起こる遺伝病ではありません。特定の遺伝形式も示しません。HLAなどの遺伝的な体質に、感染症、薬剤、妊娠、ホルモン環境といった環境因子が重なり、免疫の寛容が破綻して自己抗体が作られる多因子疾患と考えられています。臨床的に最も重要とされる抗体は、β2GPIのドメインIを認識する抗体です。β2GPIは通常、血中では環状の構造をとっています。しかし陰性に荷電したリン脂質膜に結合すると構造が開き、隠れていた抗原部位が露出して、抗体が結合しやすくなると考えられています。感染症や一部の薬剤でも抗リン脂質抗体は一過性に出現しますが、その多くはβ2GPIに依存しない抗体で、血栓のリスクは低いとされます。

抗体とβ2GPIの複合体は、血管内皮細胞、単球、血小板の表面にある受容体と結合し、細胞を活性化します。その結果、凝固の引き金となる組織因子の発現が増え、内皮細胞の接着分子や炎症性サイトカインも増えます。さらに、血小板の活性化、補体の活性化(特にC5a)、好中球細胞外トラップ(NETs)の放出、プロテインC系やアネキシンA5による抗凝固作用の阻害などが重なり、血管内で凝固が進みやすい状態になります。ただし、抗体があるだけで必ず血栓ができるわけではありません。手術、長期臥床、妊娠、エストロゲン製剤、喫煙、感染などの「第2の引き金(セカンドヒット)」が加わって発症するというツーヒット仮説が有力です。妊娠合併症については、胎盤の血栓だけでは説明できません。抗体が絨毛細胞(トロホブラスト)に直接はたらき、増殖や浸潤を妨げることや、補体を介した胎盤の炎症も重要と考えられています。

原発性抗リン脂質抗体症候群の症状

  • 深部静脈血栓症: 最も多い血栓症で、主に下肢の静脈に起こり、片側の脚のむくみ、痛み、色の変化が出ます。腎静脈、肝静脈(バッド・キアリ症候群)、脳静脈洞など、通常は血栓ができにくい部位に起こることもあります。
  • 肺血栓塞栓症: 脚などでできた血栓が肺動脈に詰まり、突然の息切れ、胸の痛み、失神を起こします。重症では命にかかわり、繰り返すと慢性血栓塞栓性肺高血圧症の原因になります。
  • 脳梗塞・一過性脳虚血発作: 動脈血栓症で最も多く、片側の手足の麻痺や言語障害が出ます。若い世代で動脈硬化の危険因子が乏しい脳梗塞では、APSを疑うきっかけになります。
  • その他の動脈血栓症: 心筋梗塞、腎梗塞、腸間膜動脈の血栓、四肢の動脈閉塞、網膜の動脈・静脈閉塞(一時的に片目が見えなくなる一過性黒内障を含む)などを起こすことがあります。
  • 妊娠合併症(不育症): 妊娠10週未満の流産の反復、妊娠10週以降の原因不明の子宮内胎児死亡が典型です。重症の妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による34週未満の早産、胎児発育不全もみられます。
  • 網状皮斑: 皮膚に網目状、または途切れた枝状の紫色の模様が出ます。特に枝状の網状皮斑は動脈血栓症のリスクと関連するとされます。
  • 皮膚潰瘍・皮膚壊死: 小さな血管が詰まることで、下腿などに治りにくい潰瘍、指先の壊疽、紫斑が生じることがあります。
  • 血小板減少: 多くは軽度から中等度の血小板減少です。出血よりもむしろ血栓のリスクと共存するのが特徴で、治療薬の選択にも影響します。
  • 心臓弁膜症: 僧帽弁や大動脈弁が厚くなったり、疣贅(リブマン・サックス型心内膜炎に類似)が付いたりします。弁の逆流や脳塞栓の原因となることがあります。
  • APS腎症: 腎臓の小さな血管に血栓や内膜の肥厚が起こり、高血圧、たんぱく尿、腎機能低下を起こします。診断には腎生検が必要になることがあります。
  • 神経症状(梗塞以外): 認知機能低下、片頭痛、てんかん、舞踏病などが報告されています。脳のMRIで多発性の小梗塞や白質病変がみられることがあります。
  • 副腎出血・副腎梗塞: まれですが、副腎の静脈血栓に続いて出血が起こり、急性の副腎不全(強い倦怠感、腹痛、低血圧)の原因になることがあります。

原発性抗リン脂質抗体症候群の経過と合併症

PAPSの経過は人によって大きく異なります。最初の血栓症や妊娠合併症をきっかけに診断されることが多く、無治療の場合や抗凝固療法を中断した場合は血栓症の再発率が高いことが知られています。一般に、最初の血栓が静脈であれば再発も静脈に、動脈であれば再発も動脈に起こりやすい傾向があります。再発リスクは抗体の組み合わせ(抗体プロファイル)によって異なり、特にLA陽性、または3種類の抗体がすべて陽性(トリプルポジティブ)の場合は高リスクとされます。高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満、エストロゲン製剤の使用といった従来の血栓危険因子が重なると、リスクはさらに高まります。抗体の値は時間とともに変動し、まれに陰性化することもあります。しかし、それだけで治療を中止できるかどうかについては定まった見解がありません。

合併症として最も重大なのは、脳梗塞の後遺症(麻痺、失語、認知機能障害)、肺塞栓症の再発による慢性血栓塞栓性肺高血圧症、心臓弁膜症による心不全や塞栓症、APS腎症による慢性腎臓病です。ワルファリンなどの抗凝固療法そのものにも、出血という合併症があります。劇症型APS(CAPS)はAPS患者の1%前後に起こるとされる、まれですが致死的な病態です。感染症、手術、抗凝固療法の中断、分娩などをきっかけに、数日から数週間のうちに腎臓、肺、脳、心臓、皮膚などの多くの臓器で微小血栓が多発します。急速に多臓器不全へと進行するため、集中治療が必要です。妊娠中は、妊娠高血圧腎症、HELLP症候群、胎盤早期剥離、産後の静脈血栓症のリスクが高くなります。

原発性抗リン脂質抗体症候群の診断・診断基準

診断は、血栓症または妊娠合併症という臨床所見と、抗リン脂質抗体が持続して陽性であることの2つを確認して行います。若い世代の脳梗塞や静脈血栓症、通常は血栓ができにくい部位の血栓、反復する流産や子宮内胎児死亡、原因のはっきりしない血小板減少やAPTT延長などがある場合に、抗体検査を行います。抗体は感染症などで一時的に陽性になることがあるため、12週以上あけて再検査し、持続陽性であることを確認します。日本の指定難病の診断基準も、国際的な分類基準(シドニー改変札幌基準)に準じています。そのうえで、SLEなどの膠原病やその他の続発要因がないことを確かめて、「原発性」と判断します。抗凝固薬の服用中はLAの検査結果が影響を受けるため、検査の時期や方法、結果の解釈は専門医の判断が必要です。

  • ループスアンチコアグラント(LA): 抗体がリン脂質に依存する凝固反応を妨げる性質を利用して、希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)やLA感受性APTTで検出します。混合試験と確認試験を組み合わせて判定します。血栓症を最もよく予測する検査ですが、ワルファリン、DOAC、ヘパリンの使用中は偽陽性・偽陰性が起こりえます。
  • 抗カルジオリピン抗体(IgG/IgM): ELISA法などで測定し、中等度以上の値(基準ではおおむね40単位超、または健常人の99パーセンタイル超)が持続することが重要です。低い値や一過性の陽性は、臨床的な意義が乏しいことがあります。
  • 抗β2GPI抗体・抗カルジオリピンβ2GPI複合体抗体: β2GPIに依存する、病気の原因となる抗体をより特異的にとらえる検査です。日本では抗カルジオリピンβ2GPI複合体抗体の測定が広く使われています。
  • 抗体プロファイルの評価: LA、aCL、抗β2GPI抗体のすべてが陽性(トリプルポジティブ)の場合や、LAが持続して陽性の場合は、血栓再発や妊娠合併症のリスクが高い「高リスクプロファイル」とされます。治療方針の決定に役立ちます。抗ホスファチジルセリン・プロトロンビン複合体抗体が補助的に用いられることもあります。
  • 分類基準(シドニー改変札幌基準/2023年ACR/EULAR基準): 臨床基準と検査基準をそれぞれ1つ以上満たすことが求められます。2023年基準では、臨床所見と検査所見をそれぞれ点数化し、どちらも3点以上で分類します。これらは研究用の分類基準であり、個々の患者さんの診療では総合的に判断します。
  • 血液一般・凝固検査: 血小板減少、APTTの延長(LAによるもので、出血傾向を意味するわけではない)、溶血の有無を確認します。ワルファリンの効き具合はPT-INRで管理します。
  • 画像検査: 下肢静脈エコー、造影CT、肺換気血流シンチグラフィで静脈血栓や肺塞栓を、頭部MRI・MRAで脳梗塞や白質病変を評価します。心エコーで弁膜症の有無を確認します。
  • 膠原病関連検査: 抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、血清補体価などを調べ、SLEなどの基礎疾患がないことを確認します。PAPSとして経過をみている間も、SLEの発症がないか定期的に評価します。
  • 腎生検・皮膚生検など組織検査: たんぱく尿や腎機能低下がある場合は腎生検で微小血管の血栓性病変を確認し、ループス腎炎などと区別します。CAPSが疑われる場合は、組織で微小血栓を証明することが診断の助けになります。

原発性抗リン脂質抗体症候群と鑑別すべき疾患

  • 全身性エリテマトーデスに伴うAPS: 皮疹、関節炎、腎炎、血球減少、抗二本鎖DNA抗体、低補体血症などSLEの所見があれば、原発性ではなくSLEに伴うAPSとして扱います。
  • 先天性血栓性素因(アンチトロンビン・プロテインC・プロテインS欠乏症など): 凝固を抑える因子の活性低下や家族歴があり、抗リン脂質抗体が陰性であることで区別します。日本人ではプロテインSの遺伝子多型も知られています。
  • 血栓性微小血管症(TTP・非典型溶血性尿毒症症候群): 破砕赤血球を伴う溶血性貧血と血小板減少が前面に出ます。ADAMTS13活性の著しい低下や補体関連の異常で区別しますが、CAPSとの鑑別は難しいことがあります。
  • ヘパリン起因性血小板減少症(HIT): ヘパリン投与開始から数日後に血小板減少と血栓症が起こり、HIT抗体が陽性であることで区別します。
  • 発作性夜間ヘモグロビン尿症: 溶血、汎血球減少、腹腔内などの静脈血栓がみられ、フローサイトメトリーでPNH型血球を検出することで区別します。
  • 悪性腫瘍・骨髄増殖性腫瘍・感染症に伴う血栓症: がんに伴う凝固亢進や真性多血症などではそれぞれに特有の所見があります。感染症による抗リン脂質抗体は一過性であることが多く、12週後の再検査で区別します。

原発性抗リン脂質抗体症候群の治療

治療の中心は血栓症の再発予防と妊娠合併症の予防です。現時点で病気そのものを治す治療はなく、免疫抑制療法が一般に有効とはされていません。そのため、抗凝固療法と抗血小板療法が治療の基本です。国際的な推奨(EULAR 2019など)では、血栓症を起こしたことのあるAPSにはワルファリンによる長期の抗凝固療法が基本とされています。治療強度は血栓の種類(静脈か動脈か)や抗体プロファイル、出血リスクを考慮して個別に決めます。また、喫煙、高血圧、脂質異常症などの危険因子の管理と、手術や長期臥床など血栓が起こりやすい場面での予防策の強化が欠かせません。妊娠を希望する場合は、妊娠前から膠原病内科(リウマチ科)・血液内科と産科が連携して計画を立てます。治療薬の選択や継続期間は、病状や生活背景によって異なります。必ず主治医・専門医と相談して決めてください。

  • ワルファリン(静脈血栓症後): 初回の静脈血栓症では、ヘパリンで急性期治療を行った後、PT-INR 2.0〜3.0を目標にワルファリンを長期間続けることが標準的です。原則として中止しないことが勧められています。
  • 動脈血栓症後の抗血栓療法: 脳梗塞などの動脈血栓症の後は、ワルファリン(PT-INR 2.0〜3.0)に低用量アスピリンを併用するか、より高い目標INRとする方法が検討されます。出血リスクとのバランスをみて個別に選択します。
  • 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の位置づけ: トリプルポジティブのAPSを対象とした臨床試験で、DOAC群の動脈血栓症がワルファリン群より多かったと報告されています。そのため、高リスクの抗体プロファイルや動脈血栓症の既往がある患者さんにはDOACは推奨されていません。DOACへの変更は自己判断で行わず、専門医と相談が必要です。
  • 低用量アスピリン(一次予防): 血栓症の既往はないものの高リスクの抗体プロファイルを持つ人や、妊娠合併症のみの既往がある人では、血栓症の一次予防として低用量アスピリンが検討されます。
  • 妊娠中の管理(低用量アスピリン+ヘパリン): APSに伴う妊娠合併症の予防には、低用量アスピリンとヘパリンの併用が標準的です。日本では未分画ヘパリンの在宅自己皮下注射が保険診療で行われています。ワルファリンには催奇形性があるため、妊娠がわかった時点(妊娠6週頃まで)でヘパリンに切り替えます。分娩前後は投与を調整し、産後もしばらく抗凝固療法を続けます。
  • 難治例への追加治療: 標準治療を行っても血栓症や妊娠合併症を繰り返す場合、ヒドロキシクロロキン、スタチン、低用量プレドニゾロンなどの追加が報告されています。ただしエビデンスは限られ、国内ではAPSに対して保険適用のない薬剤もあります。
  • 劇症型APS(CAPS)の治療: ヘパリンによる抗凝固療法、大量の副腎皮質ステロイド、血漿交換および/または免疫グロブリン大量療法を組み合わせた「トリプル療法」が基本です。誘因となった感染症の治療も同時に行います。難治例でのリツキシマブや補体阻害薬の使用も報告されていますが、APSに対する保険適用はありません。
  • 血栓危険因子の管理と周術期対策: 禁煙、血圧・脂質・血糖の管理、エストロゲンを含む経口避妊薬やホルモン補充療法の回避が重要です。手術、出産、長時間の移動の際には、ヘパリンへの切り替え(ブリッジング)や弾性ストッキングなどで血栓を予防します。

原発性抗リン脂質抗体症候群の予後・長期フォロー

適切な抗凝固療法を続ければ、多くの患者さんは社会生活を送ることができます。欧州の大規模コホート研究では、APS全体の10年生存率は約9割と報告されています。主な死因は、重い血栓症(心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓症)、感染症、出血、CAPSなどでした。予後を左右するのは、最初の血栓症による後遺症の程度、再発の有無、抗体プロファイル、併存する危険因子です。とくに脳梗塞の後遺症や慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、QOLに長期的な影響を与えます。妊娠については、アスピリンとヘパリンによる管理により、生児を得られる割合が大きく改善したと報告されています。一方、トリプルポジティブ、血栓症の既往、SLEの合併などがある場合は、治療を行っても妊娠合併症のリスクが残ります。CAPSは集中治療が進歩した現在でも、死亡率が数十%に及ぶ重篤な病態です。

長期フォローアップでは、ワルファリンを使っている場合のPT-INRの定期測定と出血症状の確認、血小板数や腎機能の評価、心エコーによる弁膜症のチェックを行います。新たな神経症状や皮膚症状にも注意を払います。また、PAPSと診断された後にSLEを発症する例があるため、膠原病としての症状や検査値も定期的に確認します。抗体価は変動しますが、陰性化したことだけを理由に抗凝固療法を中止することは一般に勧められていません。中止を検討する場合は、専門医が慎重に判断します。年齢を重ねるにつれて動脈硬化性疾患のリスクも高まるため、生活習慣病の管理は生涯にわたって重要です。

原発性抗リン脂質抗体症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

ワルファリンを服用している場合は、決められた量を毎日欠かさず服用することが最も大切です。ワルファリンは納豆、青汁、クロレラなどビタミンKを多く含む食品で効果が弱まります。また、抗菌薬、解熱鎮痛薬、サプリメントなど多くの薬との飲み合わせにも注意が必要です。新しい薬を使うときは、必ず医師や薬剤師に伝えてください。抜歯、内視鏡、手術の前には、自己判断で休薬せず主治医に相談します。お薬手帳や「抗凝固薬服用中」と書いたカードを持ち歩くと、緊急時に役立ちます。脱水、長時間同じ姿勢でいること(長距離フライトなど)、喫煙、エストロゲン製剤は血栓のリスクを高めます。こまめな水分補給と適度な運動を心がけてください。頭を強く打つなど出血の危険があるコンタクトスポーツは、主治医と相談のうえで行いましょう。妊娠を希望する場合は、妊娠前から主治医と産科医に相談し、計画的に妊娠することが重要です。ワルファリンの服用中に妊娠がわかった場合は、すぐに連絡してください。PAPSは遺伝病ではなく、子どもに直接遺伝するものではありません。ただし、家族に自己免疫疾患がみられることはあります。不安があれば、遺伝カウンセリングや専門医に相談することもできます。

利用できる制度・相談窓口

PAPSは指定難病(告示番号48)です。診断基準を満たし、重症度基準に該当する場合や、医療費が一定額以上になる「軽症高額該当」の場合は、特定医療費(指定難病)の医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に提出します。SLEに伴うAPSは、全身性エリテマトーデス(指定難病49)として申請を検討することになります。小児の場合は小児慢性特定疾病の対象となる可能性がありますので、主治医や自治体に確認してください。医療保険の高額療養費制度も利用できます。脳梗塞などの後遺症で日常生活や仕事に支障がある場合は、身体障害者手帳や障害年金の対象となることがあります。40〜64歳で脳血管疾患(介護保険の特定疾病)による介護が必要になった場合は、介護保険サービスを利用できる可能性があります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の難病担当保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあります。不育症については、自治体の不育症相談窓口や、検査費用の助成制度が設けられている地域もあります。

原発性抗リン脂質抗体症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

PAPSは、若い世代に突然の脳梗塞や肺塞栓症として発症することが多い病気です。「また血栓ができるのではないか」という再発への不安、生涯続く服薬と通院、出血への心配、後遺症による仕事や役割の変化が、大きな心理的負担になります。抑うつや不安障害、適応障害を来すことも少なくありません。また、この病気に特有の課題として、流産や死産の経験による深い喪失感(グリーフ)があります。「自分のせいではないか」という自責感、次の妊娠への恐れ、パートナーや家族との気持ちのすれ違い、毎日の自己注射の負担などが重なりやすく、周囲から理解されにくいことも孤立感を深めます。気分の落ち込み、不眠、意欲の低下が続く場合は、我慢せずに主治医に伝えてください。心療内科・精神科、臨床心理士(公認心理師)、不育症の専門外来や患者会、難病相談支援センターなどに相談することが勧められます。こうした気持ちを言葉にして支援を受けることは、治療を続けていくうえでも大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

原発性抗リン脂質抗体症候群の受診の目安

  • 突然の片側の手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、顔のゆがみ、片目が見えにくいなどの症状が出たら、すぐに救急車を呼んでください(脳梗塞の可能性)。
  • 突然の息苦しさ、胸の痛み、血の混じった痰、失神が起きた場合は、肺血栓塞栓症の可能性があるため直ちに救急受診してください。
  • 片側の脚のむくみ、痛み、赤紫色への変色、熱っぽさが出た場合は、深部静脈血栓症の可能性があるため早めに受診してください。
  • 黒色便、吐血、止まりにくい鼻血や歯ぐきの出血、急な頭痛、全身のあざが増えるなどの出血症状がある場合は、抗凝固薬の効きすぎの可能性があるため速やかに連絡・受診してください。
  • 妊娠中に性器出血、腹痛、胎動の減少、頭痛や目のちらつき、急なむくみや血圧の上昇がみられた場合は、すぐに産科を受診してください。
  • 感染症や手術の後に、尿量の減少、息切れ、意識の変化、皮膚の紫斑が急に出てきた場合は、劇症型APSの可能性もあるため至急受診してください。

原発性抗リン脂質抗体症候群についてのよくある質問

Q. 抗リン脂質抗体が陽性と言われましたが、必ず病気になりますか?

A. 抗体が陽性でも、血栓症や妊娠合併症を起こしていなければAPSとは診断されません。感染症などで一時的に陽性になることもあるため、12週以上あけて再検査します。持続陽性で高リスクの抗体プロファイルであれば、低用量アスピリンによる予防などを主治医と相談します。

Q. ワルファリンの代わりに新しい飲み薬(DOAC)は使えますか?

A. DOACは食事制限が少なく便利ですが、APS、特に3種類の抗体がすべて陽性の方や動脈血栓症の既往がある方では、ワルファリンより血栓が起こりやすかったという報告があります。そのため、現在は一般に推奨されていません。病状によって判断が異なるため、専門医と相談してください。

Q. PAPSでも妊娠・出産はできますか?

A. 多くの方が、計画的な妊娠と、低用量アスピリンおよびヘパリン自己注射による管理によって出産に至っています。妊娠前から主治医と産科が連携し、病状や抗体の状況を評価したうえで妊娠に臨むことが大切です。妊娠高血圧腎症などの合併症が起こることもあるため、妊娠中は通常より綿密な健診が必要です。

Q. 抗凝固薬はいつまで続ける必要がありますか?

A. 血栓症を起こしたことのあるAPSでは、再発のリスクが高いため、原則として長期間(多くの場合は生涯)継続することが勧められています。自己判断で中止すると、重い血栓症や劇症型APSを起こすおそれがあります。継続の可否や治療の強さについては、定期的に主治医と見直してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。