自己免疫性溶血性貧血

Autoimmune Hemolytic Anemia, AIHA

自己免疫性溶血性貧血(Autoimmune Hemolytic Anemia, AIHA)|自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、自分の赤血球に結合する自己抗体ができ、赤血球が本来の寿命(約120日)より早く壊されることで貧血が起こる後天性の病気です。乳幼児から高齢者まで発症しますが、成人では中高年以降に多くみられます。急に重い貧血や黄疸で発症して入院治療が必要になることもあれば、寒さで悪化する慢性の貧血が長く続くこともあり、病型によって経過や治療が大きく異なります。日本では指定難病(告示番号61)に指定されています。

自己免疫性溶血性貧血の要点

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、自分の赤血球に対する自己抗体により赤血球が通常より早く壊され、貧血をきたす後天性の病気です。息切れや動悸、黄疸、濃い色の尿などがみられ、温式・冷式などの病型があり、日本では指定難病(告示番号61)に指定されています。

別名・略称AIHA
分野血液疾患
遺伝形式後天性の病気で、遺伝性疾患ではない
好発年齢乳幼児から高齢者まで。成人では中高年以降に多い
主な症状貧血による息切れ・動悸、黄疸など。寒冷で悪化する型もある
主な検査直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)、LDH・ビリルビン・ハプトグロビン・網赤血球
主な治療病型で大きく異なる。温式では副腎皮質ステロイドが一般的な初期治療
受診する主な診療科血液内科(小児は小児科)

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自己免疫性溶血性貧血とは

AIHAは、赤血球膜上の抗原に対する自己抗体(主にIgGまたはIgM)が産生され、抗体や補体が結合した赤血球が脾臓・肝臓のマクロファージに捕捉されるか、血管内で補体によって破壊されることで溶血性貧血をきたす疾患群の総称です。診断の要となるのは、赤血球表面に結合した抗体や補体を検出する直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)です。「溶血」とは赤血球が壊れることを指し、ヘモグロビンが分解されて生じる間接ビリルビンの上昇(黄疸)、LDHの上昇、ハプトグロビンの低下、骨髄の代償による網赤血球の増加といった、溶血に共通する所見を伴います。

自己抗体が最も強く反応する温度(反応至適温度)によって、大きく温式と冷式に分けられます。温式AIHAは体温付近(37℃)でよく反応するIgG抗体によるもので、日本のAIHAの大部分を占めます。冷式には、低温で赤血球を凝集させるIgM型の寒冷凝集素による寒冷凝集素症(CAD)と、IgG型のドナート・ランドシュタイナー抗体(二相性溶血素)による発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)があります。温式と冷式の抗体が併存する混合型や、通常の直接クームス試験では陰性となるクームス陰性AIHAも存在します。さらに、明らかな基礎疾患のない特発性(一次性)と、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、慢性リンパ性白血病などのリンパ増殖性疾患、感染症、免疫不全症などに伴う続発性(二次性)に分類されます。歴史的には、1904年にドナートとランドシュタイナーがPCHの溶血機序を報告し、1945年にクームスらが抗グロブリン試験を確立したことで、自己抗体による溶血という概念が臨床的に確立しました。なお、特定の薬剤によって起こる薬剤起因性免疫性溶血性貧血は、原因除去で改善することが多く、AIHAとは区別して扱われます。また近年、一次性の寒冷凝集素症は、骨髄にごく小さなB細胞のクローン性増殖を伴うことが多く、低悪性度のリンパ増殖性疾患に近い病態と理解されるようになっています。

自己免疫性溶血性貧血の疫学・患者数

欧米では年間の発症率が人口10万人あたり1〜3人程度と報告されています。日本でも、厚生労働省の研究班による調査で、有病率は人口10万人あたり数人〜10人程度、年間発症率は人口100万人あたり数人程度と推定されており、まれな疾患です。日本では温式AIHAが全体の約9割を占め、寒冷凝集素症は1割未満、発作性寒冷ヘモグロビン尿症はさらにまれとされます。温式AIHAは小児期と中高年期の二つの年齢層で発症が多く、成人ではやや女性に多い傾向があります。膠原病に伴う続発性AIHAは若年〜中年女性に多くみられます。寒冷凝集素症は60〜70歳代以降の高齢者に多く、慢性に経過します。発作性寒冷ヘモグロビン尿症は現在では主に小児にみられ、ウイルス感染後に一過性に起こる急性型が中心です。高齢化に伴い、悪性リンパ腫や慢性リンパ性白血病に合併するAIHAや、高齢発症の寒冷凝集素症の割合は増えていると考えられています。

自己免疫性溶血性貧血の原因・病態生理

AIHAは遺伝性の病気ではなく、免疫寛容(自分の成分を攻撃しない仕組み)が後天的に破綻して起こると考えられています。自己反応性B細胞の活性化、制御性T細胞の機能低下、ヘルパーT細胞のサイトカインバランスの乱れなどが関与するとされますが、特発性例で何が引き金になるのかは十分に解明されていません。続発性の要因としては、①全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、②慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患、③マイコプラズマ肺炎、伝染性単核球症(EBウイルス)などの感染症、④原発性免疫不全症候群、⑤造血幹細胞移植後や臓器移植後、⑥一部のがん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)、などが知られています。乳幼児では感染症をきっかけに急性に発症し、一過性で治まる例が多いのも特徴です。家族内に自己免疫疾患が集まる傾向はありますが、親から子へAIHAそのものが遺伝することは通常ありません。

温式AIHAでは、主にIgG型の自己抗体が37℃付近で赤血球膜の蛋白(Rh系抗原に関連する蛋白などが標的として報告されています)に結合します。IgGが結合した赤血球は、主に脾臓のマクロファージがもつFc受容体に捕まり、丸ごと貪食されるか、膜の一部だけをかじり取られます。膜を失った赤血球は表面積が減って球状赤血球となり、変形能が落ちるため、脾臓でさらに壊されやすくなります。このように血管の外(脾臓など)で起こる血管外溶血が中心ですが、補体が一部活性化されてC3が赤血球に沈着し、肝臓でも処理されます。寒冷凝集素症では、IgM型の寒冷凝集素(多くは赤血球のI抗原に対する抗体)が、手足や耳など体温より低い末梢の血管内で赤血球に結合して凝集を起こし、古典経路の補体を活性化します。体の中心部で温まるとIgMは離れますが、赤血球上にはC3bが残り、主に肝臓のクッパー細胞によって除去されます(補体介在性の血管外溶血)。補体活性化が終末段階まで進むと膜侵襲複合体が形成され、血管の中で赤血球が壊れる血管内溶血も加わります。寒冷で症状が悪化したり、感染症や手術などで補体が活性化すると急に溶血が強まったりするのはこのためです。発作性寒冷ヘモグロビン尿症では、IgG型のドナート・ランドシュタイナー抗体(P抗原に対する抗体)が低温で赤血球に結合し、補体の初期成分を固定したのち、体温に戻った時点で補体が完全に活性化され、急激な血管内溶血とヘモグロビン尿を起こします(二相性溶血)。

自己免疫性溶血性貧血の症状

  • 倦怠感・疲れやすさ: 赤血球が減って全身に酸素が十分に届かなくなるため、だるさや集中力の低下が生じます。ゆっくり進行した場合は、かなり貧血が進むまで自覚しにくいことがあります。
  • 動悸・息切れ: 心臓が拍動を速めて酸素不足を補おうとするため、階段や坂道で動悸や息切れが起こります。高齢者や心臓病のある方では、狭心症や心不全が悪化するきっかけになることがあります。
  • 顔色不良・めまい: 皮膚や結膜(まぶたの裏)が白っぽくなり、立ちくらみやふらつきを感じます。急に貧血が進んだときは失神することもあります。
  • 黄疸: 壊れた赤血球から生じる間接ビリルビンが増え、白目や皮膚が黄色くなります。肝臓病による黄疸と異なり、かゆみを伴うことは少ないのが特徴です。
  • 褐色尿(ヘモグロビン尿): 血管の中で赤血球が壊れると、ヘモグロビンが尿中に出て、コーラや紅茶のような色の尿になります。寒冷凝集素症の悪化時や発作性寒冷ヘモグロビン尿症で目立ちます。
  • 脾腫: 脾臓で赤血球の処理が盛んになるため、脾臓が腫れて左上腹部の張りや不快感が出ることがあります。著しい脾腫はリンパ腫などの基礎疾患を疑う手がかりにもなります。
  • 寒冷時の手足の色の変化(先端チアノーゼ): 寒冷凝集素症では、冷えた指先、耳たぶ、鼻先などで赤血球が固まり、紫色に変色したり、しびれや痛みが出たりします。冬場や冷房、冷たい飲食物で症状が悪化します。
  • 寒冷曝露後の急な溶血発作: 発作性寒冷ヘモグロビン尿症では、寒さにさらされた後に発熱、悪寒、腰背部痛、腹痛とともに赤褐色の尿が出ることがあります。小児ではかぜなどの感染症の後に起こることが多いです。
  • 発熱・全身症状: 急性発症の温式AIHAや感染症に伴う場合に発熱がみられることがあります。発熱やリンパ節腫脹、体重減少が続く場合は、膠原病や悪性リンパ腫など基礎疾患の検索が必要です。
  • 胆石による腹痛: 溶血が長く続くとビリルビンを主成分とする色素胆石ができやすくなり、右上腹部の痛みや胆嚢炎を起こすことがあります。
  • 血栓症の症状: AIHAでは、とくに溶血が活発な時期に深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症が起こりやすいとされます。片脚の腫れや痛み、急な胸痛・呼吸困難には注意が必要です。

自己免疫性溶血性貧血の経過と合併症

経過は病型と年齢によって大きく異なります。小児の温式AIHAは感染症後に急性発症し、数週間から数か月で治まって再発しない例が多い一方、一部は慢性化します。成人の温式AIHAは、副腎皮質ステロイドで多くの患者さんが寛解(貧血が改善した状態)に至りますが、減量・中止の過程や中止後に再発することが少なくなく、慢性に経過して長期の治療が必要になる場合があります。発症時に急速に進行し、ヘモグロビン値が非常に低くなって、輸血や集中治療を要する重症例もあります。寒冷凝集素症は年単位で続く慢性疾患で、冬場に悪化し、夏場に軽快するといった季節変動がみられます。感染症、手術、発熱などで補体が活性化されると急激に溶血が強まることがあります。発作性寒冷ヘモグロビン尿症は、小児の感染後に起こる急性型の多くが一過性で、数週間以内に自然に治まります。続発性AIHAでは、基礎疾患の活動性や治療効果に溶血が左右されます。

主な合併症には次のようなものがあります。①高度の貧血による心不全・狭心症・意識障害。②静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)や、まれに動脈血栓症。溶血そのものによる凝固の亢進が関与すると考えられています。③血管内溶血による急性腎障害。④慢性溶血による色素胆石と胆嚢炎。⑤骨髄での赤血球産生が盛んになり葉酸が不足することによる貧血の悪化や、パルボウイルスB19感染による一時的な赤血球産生停止(無形成発作)。⑥ステロイドや免疫抑制療法による感染症、糖尿病、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死、白内障などの治療関連合併症。⑦血小板が自己抗体で減る特発性血小板減少性紫斑病の合併(エヴァンス症候群)。エヴァンス症候群は難治・再発しやすく、原発性免疫不全症候群が背景にあることもあります。また、AIHAの経過中に悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患が明らかになることもあるため、注意深い観察が必要です。

自己免疫性溶血性貧血の診断・診断基準

診断は、①溶血性貧血であることの確認、②免疫性(自己抗体による)であることの証明、③病型(温式・冷式など)の決定、④基礎疾患の有無の検索、という順に進めます。日本では厚生労働省研究班による診断基準が用いられており、貧血と溶血の所見があり、直接抗グロブリン試験が陽性で、同種免疫(輸血や妊娠によって生じた抗体)や薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外できればAIHAと診断されます。さらに抗体の種類(IgGか補体か)、寒冷凝集素価、ドナート・ランドシュタイナー試験などで病型を確定します。直接抗グロブリン試験が陰性でも臨床的にAIHAが強く疑われる場合には、より感度の高い検査を専門機関で行い、ほかの溶血性疾患を除外したうえでクームス陰性AIHAと判断されることがあります。基礎疾患の検索として、膠原病の抗体検査、血清蛋白電気泳動・免疫電気泳動(単クローン性免疫グロブリンの有無)、CT検査、骨髄検査、感染症の検査などを状況に応じて行います。治療方針を決めるうえで、重症度(ヘモグロビン値、輸血や薬物療法の必要性)の評価も重要です。

  • 血算・網赤血球数: ヘモグロビン低下と、骨髄の代償反応による網赤血球の増加が基本所見です。ただし発症初期や骨髄機能が低下している場合、網赤血球が増えないこともあり、重症化の危険信号とされます。
  • 溶血の生化学所見: 間接ビリルビン上昇、LDH上昇、ハプトグロビン低下が溶血を示します。血管内溶血では血漿遊離ヘモグロビン上昇、ヘモグロビン尿、尿中ヘモジデリンもみられます。
  • 直接抗グロブリン試験(直接クームス試験): 赤血球に結合した抗体や補体を検出する診断の中心となる検査で、抗IgG・抗補体(C3d)の単特異性試薬で調べます。温式ではIgG(±C3d)陽性、寒冷凝集素症とPCHでは通常C3dのみが陽性となります。
  • 末梢血塗抹標本: 温式では球状赤血球、寒冷凝集素症では赤血球の凝集像が特徴的です。破砕赤血球が目立つ場合は血栓性微小血管症を疑う手がかりになります。
  • 寒冷凝集素価・反応温度域: 寒冷凝集素症では寒冷凝集素価が高値となり、高い温度(30℃前後)まで反応するほど溶血が強くなります。採血後に検体が冷えると赤血球数やMCVなどが見かけ上異常値を示すため、37℃で保温した検体での測定が必要です。
  • ドナート・ランドシュタイナー試験: 検体を冷却後に37℃に戻して溶血が起こるかをみる検査で、陽性であれば発作性寒冷ヘモグロビン尿症と診断されます。
  • 間接抗グロブリン試験・不規則抗体検査: 血清中の遊離自己抗体の有無や、輸血によって生じた同種抗体が隠れていないかを調べます。輸血用血液の選択に重要です。
  • 基礎疾患の検索(自己抗体・免疫電気泳動・画像・骨髄検査): 抗核抗体などで膠原病を、免疫電気泳動やCT、骨髄検査でリンパ増殖性疾患を調べます。寒冷凝集素症では単クローン性IgM(多くはκ型)が検出されることが多いです。
  • 重症度分類: ヘモグロビン値と、薬物療法・輸血の必要性などに基づいて段階的に評価する重症度分類が研究班により定められており、治療方針や医療費助成の判定に用いられます。

自己免疫性溶血性貧血と鑑別すべき疾患

  • 遺伝性球状赤血球症: 球状赤血球と溶血を示す点は温式AIHAと似ますが、直接抗グロブリン試験は陰性で、家族歴やEMA結合能検査などで鑑別します。
  • 発作性夜間ヘモグロビン尿症: 補体による血管内溶血と褐色尿を示しますが直接抗グロブリン試験は陰性で、フローサイトメトリーによるCD55/CD59欠損血球の検出で診断します。
  • 血栓性血小板減少性紫斑病・非典型溶血性尿毒症症候群(血栓性微小血管症): 破砕赤血球、血小板減少、臓器障害を伴い、直接抗グロブリン試験は通常陰性である点で区別します。
  • 薬剤起因性免疫性溶血性貧血: 一部の抗菌薬などの使用歴と時間的な関係を確認し、薬剤中止による改善や薬剤存在下での抗体検査で区別します。
  • 遅発性溶血性輸血反応: 輸血後数日〜2週間ほどで直接抗グロブリン試験陽性の溶血が起こるもので、輸血歴と同種抗体の同定により鑑別します。
  • 巨赤芽球性貧血: 骨髄内での無効造血によりLDH高値や間接ビリルビン上昇を示しますが、網赤血球は増えず、ビタミンB12・葉酸欠乏と大球性貧血が鍵となります。

自己免疫性溶血性貧血の治療

治療は病型(温式か冷式か)、重症度、基礎疾患の有無によって大きく異なります。続発性AIHAでは、まず膠原病やリンパ増殖性疾患、感染症などの基礎疾患の治療が重要です。温式AIHAでは、副腎皮質ステロイドが標準的な初回治療で、多くの患者さんで効果がみられます。ステロイドが効かない、減量すると再発する、副作用で続けられないといった場合には、二次治療として抗CD20抗体のリツキシマブ、脾臓摘出術、各種免疫抑制薬などが検討されます。リツキシマブを早期に用いる考え方や、新しい薬剤の臨床試験も進んでいますが、国内での保険適用の範囲は変わることがあるため、主治医に確認することが大切です。寒冷凝集素症ではステロイドや脾摘は一般に効果が乏しく、保温と寒冷回避が基本で、症状や貧血が強い場合には補体の働きを抑える薬剤(抗C1s抗体スチムリマブ)や、異常なB細胞を標的とするリツキシマブを中心とした治療が検討されます。発作性寒冷ヘモグロビン尿症の急性型は多くが自然に治まるため、保温と支持療法が中心となります。いずれの病型でも、生命を脅かす高度の貧血では、適合血の選択が難しくても輸血をためらわないことが原則とされています。具体的な治療選択は、血液内科専門医とよく相談して決めることが大切です。

  • 副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど): 温式AIHAの第一選択で、体重あたり1mg程度から始め、効果をみながら数か月以上かけてゆっくり減量するのが一般的です。急に中止すると再発や副腎不全の危険があるため、自己判断で中断しないことが重要です。
  • リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体): 抗体を作るB細胞を減らす薬で、ステロイド抵抗性・依存性の温式AIHAや寒冷凝集素症で効果が報告されています。B型肝炎ウイルスの再活性化や感染症に注意が必要で、事前の検査が行われます。
  • 脾臓摘出術: 主な赤血球破壊の場である脾臓を摘出する治療で、温式AIHAの二次治療の選択肢です。術後は肺炎球菌などによる重症感染症の危険が高まるため、術前のワクチン接種などの対策が必要で、寒冷凝集素症には通常効果がありません。
  • 免疫抑制薬: アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどが、難治例やステロイド減量目的で用いられることがあります。保険適用の有無や副作用を考慮して専門医が選択します。
  • 補体阻害療法(スチムリマブ): 古典経路の補体成分C1sを阻害する抗体薬で、国内では寒冷凝集素症に対して承認されており、溶血と貧血の改善が期待されます。点滴での継続投与が必要で、髄膜炎菌などの感染症への注意が求められます。
  • 輸血療法: 高度の貧血や心不全・意識障害などがある場合に行います。自己抗体のため交差適合試験で完全な適合血が得られないことがありますが、同種抗体の有無を確認したうえで慎重に輸血し、寒冷凝集素症では加温器を用いることがあります。
  • 保温・寒冷回避: 寒冷凝集素症と発作性寒冷ヘモグロビン尿症では最も基本となる対策で、室温の調整、手袋・帽子・マフラーの着用、冷たい飲食物を避けることなどが溶血の抑制につながります。手術時には体温や輸液の加温にも配慮されます。
  • 支持療法(葉酸補充・血栓予防・骨粗鬆症対策など): 溶血で消費が増える葉酸の補充、血栓リスクが高い状況での予防的抗凝固療法の検討、ステロイド長期使用に伴う骨粗鬆症や感染症・胃潰瘍の予防などを行います。
  • 基礎疾患の治療: 続発性AIHAでは、全身性エリテマトーデスの治療や、悪性リンパ腫・慢性リンパ性白血病に対する化学療法など、原因となる病気の治療が溶血のコントロールに直結します。

自己免疫性溶血性貧血の予後・長期フォロー

温式AIHAでは、ステロイドにより多くの患者さんで貧血が改善しますが、ステロイドのみで中止後も長く寛解を保てる方は一部にとどまり、再発や長期治療を必要とする方も少なくありません。それでも二次治療を含めた治療の進歩により、多くの方は日常生活を送れる状態を維持できています。生命予後に影響するのは、発症初期の急激な重症貧血、血栓症、感染症(治療に伴うものを含む)、高齢、基礎疾患(とくにリンパ増殖性疾患)などです。エヴァンス症候群は経過が長く難治の傾向があります。小児の急性型は一般に予後良好です。寒冷凝集素症は慢性に経過し、冬季の貧血悪化、末梢循環障害、倦怠感などで生活の質(QOL)が損なわれることがありますが、補体阻害薬などの新しい治療により改善が期待されています。慢性的な疲労感は、ヘモグロビン値だけでは説明しきれないことも多く、QOLの評価が重視されるようになっています。

寛解後も再発の可能性があるため、定期的に血液検査(ヘモグロビン、網赤血球、LDH、ビリルビン、ハプトグロビンなど)を受け、溶血の再燃を早期に把握することが大切です。ステロイドや免疫抑制薬を使用している間は、血糖、血圧、骨密度、眼科的評価(白内障・緑内障)、感染症のチェックを並行して行います。リツキシマブ使用後は、免疫グロブリンの低下やB型肝炎ウイルスの再活性化の監視が必要です。脾摘後は生涯にわたって重症感染症への注意が必要です。特発性とされていた方でも、経過中に膠原病やリンパ腫が明らかになることがあるため、新たな症状(リンパ節の腫れ、発熱、体重減少、関節痛、皮疹など)が出たら主治医に伝えてください。

自己免疫性溶血性貧血の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

貧血の程度に応じて活動量を調整し、無理をせず十分な休養をとりましょう。急な貧血の悪化を見逃さないよう、尿の色、白目の黄色さ、息切れ・動悸の程度を日頃から観察すると役立ちます。寒冷凝集素症や発作性寒冷ヘモグロビン尿症の方は、冬季の外出時の防寒、冷房の効きすぎた室内への注意、冷たい飲み物・アイスクリームの摂取や冷水での作業・水泳を避けるなど、体の末梢を冷やさない工夫が重要です。ステロイドや免疫抑制薬を使用中は感染症にかかりやすくなるため、手洗い・うがい、人混みでのマスク着用を心がけ、発熱時は早めに受診してください。ワクチン接種については、インフルエンザや肺炎球菌などの不活化ワクチンは推奨されることが多い一方、免疫抑制治療中の生ワクチンは原則として避ける必要があり、リツキシマブ投与後はワクチンの効果が弱まることがあるため、接種の時期を主治医と相談してください。脾摘を受けた方は、高熱が出たら速やかに医療機関を受診し、脾摘後であることを伝えましょう。妊娠を希望する場合は、病状が安定した時期に計画し、妊娠中は血液内科と産科が連携して管理します(母体のIgG抗体が胎盤を通過して胎児に影響することはまれにあります)。AIHAは通常遺伝する病気ではないため、子どもへの遺伝を過度に心配する必要はありません。ただし小児期発症で難治の場合や家族に免疫の病気が多い場合には、免疫不全症の評価や遺伝相談が検討されることがあります。手術や出産、他の病院を受診する際には、輸血の準備に時間がかかる可能性があるため、AIHAであることを必ず伝えてください。

利用できる制度・相談窓口

自己免疫性溶血性貧血は指定難病(告示番号61)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の重症度に該当する場合、または軽症でも高額な医療を継続する必要がある場合(軽症高額該当)には、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県(指定都市)の窓口(保健所など)に行います。助成が認められると、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで延長可)の方は、小児慢性特定疾病の医療費助成の対象となりえます。医療費が高額になる場合は、健康保険の高額療養費制度や限度額適用認定証も利用できます。病状により仕事や日常生活に著しい制限がある場合は、障害年金(血液・造血器疾患による障害)の対象となる可能性があります。療養のため働けない期間には、会社員などの方は健康保険の傷病手当金を利用できる場合があります。各都道府県の難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー(医療相談室)、保健所の保健師が、制度の利用や就労・生活上の悩みについて相談に応じています。難病情報センターのウェブサイトにも制度や疾患の情報が掲載されています。

自己免疫性溶血性貧血に伴う心のケア・心理社会的支援

AIHAは、突然の重い貧血で入院したり、いつ再発するか分からない不安を抱えながら長期に治療を続けたりすることが多く、心理的な負担が大きい病気です。持続する疲労感は周囲から理解されにくく、「怠けている」と誤解されるつらさを感じる方もいます。さらに、高用量のステロイドは不眠、気分の高揚や落ち込み、イライラなどの精神症状を起こすことがあり、顔が丸くなる(満月様顔貌)、体重増加などの外見の変化が気持ちの負担になることもあります。寒冷凝集素症の方は、冬になると外出や仕事が制限されることによる孤立感を抱えやすく、高齢の方では生活の自立が損なわれる不安も加わります。若い世代では、進学・就職・妊娠出産といったライフイベントとの両立が悩みになりがちです。こうした不安や落ち込みが2週間以上続く、眠れない、何事にも興味がわかないといった状態は、抑うつや適応障害のサインかもしれません。気分の変化が薬の影響である可能性もあるため、我慢せずに主治医に伝えることが大切です。必要に応じて精神科・心療内科、臨床心理士(公認心理師)の支援を受けることができます。患者会やピアサポートで同じ病気の人と経験を分かち合うことや、家族が病気について正しく理解することも、心の支えになります。

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自己免疫性溶血性貧血の受診の目安

  • コーラや紅茶のような色の尿が出たときは、溶血が急に強まっている可能性があるため、速やかに受診してください。
  • 強い息切れ、胸の痛み、動悸、失神しそうな感じがあるときは、高度の貧血や心臓への負担が考えられるため、救急受診を検討してください。
  • 白目や皮膚の黄色みが急に強くなった、顔色が明らかに悪くなったときは、早めに主治医に連絡してください。
  • 片脚の腫れや痛み、突然の呼吸困難・胸痛が出たときは、血栓症の可能性があるため直ちに救急受診してください。
  • ステロイドや免疫抑制薬の使用中、または脾摘後に38℃以上の発熱が出たときは、重い感染症の可能性があるため早めに受診してください。
  • 寒冷で手足の指先が紫色になり痛みやしびれが続く、皮膚に潰瘍ができたときは、主治医に相談してください。

自己免疫性溶血性貧血についてのよくある質問

Q. 自己免疫性溶血性貧血は治りますか?

A. 小児の急性型の多くは完全に治りますし、成人でも治療によって長く寛解を保てる方がいます。一方で、再発したり長期の治療が必要になったりする方も少なくないため、症状が落ち着いた後も定期的な通院を続けることが大切です。

Q. ステロイドの副作用が心配です。自分で減らしてもよいですか?

A. ステロイドを自己判断で急に減らしたり中止したりすると、溶血の再燃や副腎不全など危険な状態になることがあるため、絶対に避けてください。副作用には予防策や代わりの治療法もありますので、気になる症状は主治医に相談しましょう。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. AIHAは後天的に免疫の異常が起こる病気で、親から子へそのまま遺伝することは通常ありません。ただし家族内に自己免疫疾患が多い場合や、小児期発症で難治の場合には、免疫の体質について主治医に相談するとよいでしょう。

Q. 寒冷凝集素症と言われました。日常生活で何に気をつければよいですか?

A. 体、とくに手足や耳などの末梢を冷やさないことが最も大切で、冬季の防寒、冷房への注意、冷たい飲食物を控えることが溶血の予防につながります。かぜなどの感染症で悪化することがあるため感染予防にも努め、尿の色が濃くなったら早めに受診してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。