発作性夜間ヘモグロビン尿症
Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria, PNH
発作性夜間ヘモグロビン尿症(Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria, PNH)|発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、血液をつくる造血幹細胞に後天的な遺伝子変異が起こり、赤血球が自分の体の補体(免疫の一部)によって血管の中で壊される(血管内溶血)病気です。思春期以降の若い世代から高齢者まで幅広く発症し、貧血や褐色尿だけでなく、命に関わる血栓症や骨髄機能の低下(造血不全)を起こすことがあります。近年、補体阻害薬の登場で治療成績が大きく改善した一方で、生涯にわたる通院と感染症予防が必要になる慢性疾患です。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の要点
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、造血幹細胞のPIGA遺伝子に後天的な変異が生じ、補体の攻撃から守るCD55・CD59を欠く赤血球が血管内で壊れる血液の病気です。貧血や褐色尿、血栓症、造血不全などがみられ、国の指定難病に含まれます。
| 別名・略称 | PNH、発作性夜間血色素尿症、Paroxysmal Nocturnal Haemoglobinuria、Marchiafava-Micheli症候群 |
|---|---|
| 分野 | 血液疾患 |
| 遺伝形式 | 遺伝しない(後天的な体細胞変異) |
| 原因遺伝子 | 造血幹細胞のPIGA遺伝子の後天的変異 |
| 主な症状 | 貧血、褐色尿(ヘモグロビン尿)、血栓症、造血不全 |
| 主な検査 | フローサイトメトリー(CD55・CD59などの欠損血球の検出) |
| 主な治療 | 補体阻害薬、輸血などの支持療法 |
| 受診する主な診療科 | 血液内科 |
発作性夜間ヘモグロビン尿症とは
PNHは、造血幹細胞のPIGA遺伝子に後天的な(生まれつきではない)変異が起こり、その幹細胞に由来する血球の集団(PNHクローン)が骨髄で増えることで発症する後天性クローン性造血幹細胞疾患です。PIGA遺伝子は、細胞膜にタンパク質をつなぎ留める「GPIアンカー」をつくるのに必要な遺伝子です。変異があると、GPIアンカー型タンパク質であるCD55(DAF)やCD59が血球表面から失われます。これらは補体の攻撃から自分の細胞を守る「盾」の役割を持つため、盾を失った赤血球は補体によって血管内で壊されます。病名に「夜間」とありますが、実際には夜間に限らず溶血は持続的に起こっています。濃縮された起床時の尿で色の変化が目立ちやすいため、この名前が付きました。褐色尿(ヘモグロビン尿)を自覚しない患者も少なくありません。
歴史的には19世紀末から20世紀初頭に、ストリュービング、マルキアファーヴァ、ミケーリらにより特徴的な病態として記載されました。1930年代にはハムが、酸性化した血清中で患者赤血球が壊れやすいことを示すHam試験(酸性化血清溶血試験)を考案し、長く診断に用いられました。1993年には日本の研究グループが原因遺伝子PIGAを同定し、病態の分子レベルでの理解が大きく進みました。現在、診断の中心はフローサイトメトリーです。臨床的には、国際的に次の3つに分ける考え方が広く用いられています。①溶血が前面に出る古典的PNH、②再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの骨髄不全に伴う骨髄不全型(他の骨髄不全症候群に伴うPNH)、③溶血所見はないものの微小なPNHクローンが検出される潜在性(subclinical)PNHです。日本の診療ガイドラインでも、古典的PNH・骨髄不全型PNH・両者の特徴を持つ混合型といった病型分類が用いられています。PNHは再生不良性貧血と密接な関係にあり、両者が移行・合併することがある点が重要です。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の疫学・患者数
PNHはまれな疾患で、国内の患者数は数百人から千人程度と推定されています。指定難病(告示番号62)として医療費助成の対象です。診断時の年齢は20〜60歳代が多く、中央値はおおむね40歳代と報告されています。小児や高齢者での発症もあります。性差は大きくなく、男女ほぼ同程度とされます。遺伝性疾患ではないため、家族内発症は通常みられません。日本を含む東アジアの患者は欧米と比べて、血栓症の頻度が低く、骨髄不全を伴う割合が高い傾向があると報告されています。また、再生不良性貧血の患者の一部(報告によっては半数近く)で、高感度フローサイトメトリーにより微小なPNH型血球が検出されます。このことから、溶血症状のない潜在例を含めると、PNHクローンを持つ人は臨床的な患者数より多いと考えられています。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の原因・病態生理
PNHの原因は、造血幹細胞に後天的に生じるPIGA遺伝子の体細胞変異です。PIGAはX染色体上にあります。男性はX染色体を1本しか持たず、女性も片方のX染色体は不活化されているため、1回の変異だけでGPIアンカーが欠損した細胞が生まれます。ただし、PIGA変異を持つ幹細胞は健常人にもごく微量存在しうるとされ、変異だけで発症するわけではありません。有力な仮説では、再生不良性貧血と同じような免疫学的な骨髄への攻撃(細胞傷害性T細胞などが、GPIアンカー型分子やそれに関連する抗原を標的にする)が起こると考えられています。その結果、正常な幹細胞は傷害される一方、GPIアンカーを持たないPNH幹細胞はこの攻撃を逃れて相対的に増えます(免疫回避による選択的拡大)。これに加えて、PNHクローンの一部ではHMGA2など他の遺伝子異常が拡大を後押しする例も報告されています。なお、きわめてまれにPIGT遺伝子など他のGPI関連遺伝子の異常による、自己炎症症状を伴うPNHも報告されています。
補体は、病原体の表面で活性化されて膜侵襲複合体(MAC、C5b-9)を形成し、細胞膜に穴をあける仕組みです。補体の第二経路(副経路)は血液中で常に少しずつ活性化しています。健常な赤血球では、CD55がC3転換酵素の形成を抑え、CD59がMAC形成の最終段階を阻止しています。PNH型赤血球はこの両方を欠くため、MACによって膜に穴があき、血管内で壊れます。感染症、手術、妊娠、強い疲労などで補体活性化が強まると、急激な溶血発作が起こります。血管内に放出された遊離ヘモグロビンは、血管を拡張させる一酸化窒素(NO)と速やかに結合して消費します。そのため、平滑筋の異常収縮による腹痛、嚥下障害、勃起障害、肺高血圧が生じます。さらに、遊離ヘモグロビンとヘム鉄は腎尿細管に沈着し、急性腎障害や慢性腎臓病の原因となります。血栓症の機序はまだ完全には解明されていません。溶血に伴う凝固系・血小板の活性化、NO欠乏による血管内皮障害、PNH型血小板・単球の補体による活性化、微小粒子の放出などが複合的に関与すると考えられています。PNH型赤血球の割合(クローンサイズ)が大きいほど、溶血・血栓のリスクは高い傾向があります。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の症状
- ヘモグロビン尿(褐色尿・赤褐色尿): 血管内で壊れた赤血球のヘモグロビンが尿に出て、コーラ色や赤ワイン色の尿になります。起床時に目立ちやすいものの、自覚しない人もいます。
- 貧血症状: 倦怠感、動悸、息切れ、めまい、顔色不良などがみられます。溶血だけでなく骨髄不全も加わると、より強い貧血になります。
- 強い疲労感: ヘモグロビン値に見合わないほど強い倦怠感を訴えることが多く、遊離ヘモグロビンによるNO欠乏の関与が考えられています。QOLや就労に大きく影響します。
- 黄疸: 溶血で間接ビリルビンが増え、皮膚や白目が黄色くなることがあります。
- 血栓症: 肝静脈(バッド・キアリ症候群)、門脈・腸間膜静脈、脳静脈洞など、通常はまれな部位の静脈血栓が特徴的です。深部静脈血栓症・肺塞栓症や動脈血栓も起こり、主要な死因の一つです。
- 腹痛: 腸管平滑筋の攣縮や腸間膜血栓によって起こります。強い腹痛は血栓症のサインであることもあり、注意が必要です。
- 嚥下困難・胸部のつかえ感: NO欠乏による食道平滑筋の攣縮で、飲み込みにくさや胸の痛みが生じることがあります。
- 勃起障害: 男性では、NO欠乏による陰茎平滑筋の弛緩障害で勃起障害がみられることがあります。
- 息切れ・肺高血圧: NO欠乏や微小血栓により肺動脈圧が上がり、労作時の息切れを来すことがあります。
- 腎機能障害: 溶血発作時の急性腎障害や、ヘモジデリン沈着による慢性腎臓病がみられることがあります。
- 出血傾向・易感染性: 骨髄不全を伴う場合、血小板減少による皮下出血・鼻出血や、好中球減少による感染症を起こしやすくなります。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の経過と合併症
PNHの経過は個人差が大きく、慢性的に続くことがほとんどです。古典的PNHでは、持続的な溶血に加えて、感染症などを契機とする溶血発作を繰り返します。骨髄不全型では、再生不良性貧血の経過中にPNHクローンが増えて溶血が目立ってくる場合があります。逆に、PNHの経過中に骨髄不全が進行する場合もあります。補体阻害薬が登場する前の時代には、診断後の生存期間中央値はおおむね10〜20年と報告されていました。日本の患者は欧米より生存期間が長い傾向も示されていました。長期経過の中で、PNHクローンが縮小して自然に寛解に至る例が一部にあることも知られています。一方で、まれに骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行する例もあります。
合併症として最も重要なのは血栓症です。肝静脈血栓(バッド・キアリ症候群)、腸間膜静脈血栓による腸管虚血、脳静脈洞血栓症、肺塞栓症などは生命予後を左右します。そのほか、①急性腎障害・慢性腎臓病、②肺高血圧症、③骨髄不全による重症感染症・出血、④頻回輸血による鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)、⑤尿中への鉄喪失による鉄欠乏、⑥溶血に伴う葉酸欠乏、⑦胆石症などがみられます。妊娠は血栓症と溶血のリスクを大きく高め、母体・胎児ともにハイリスク妊娠として専門的な管理が必要です。補体阻害薬の使用中には、髄膜炎菌感染症など莢膜を持つ細菌による重症感染症が治療関連の重要な合併症になります。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の診断・診断基準
PNHは、原因の分からない溶血性貧血、直接クームス試験陰性の溶血、褐色尿、まれな部位の血栓症、再生不良性貧血・骨髄異形成症候群の患者で疑われます。まず血液検査で溶血の有無を確認します。LDHの上昇、間接ビリルビンの上昇、網赤血球の増加、ハプトグロビンの低下などがあれば溶血が示唆されます。次に、血管内溶血を示すヘモグロビン尿・ヘモジデリン尿を確認します。確定診断にはフローサイトメトリーでGPIアンカー型タンパク質を欠く血球(PNH型血球)を検出することが必須で、日本の診断基準でも中心的な要件です。あわせて骨髄検査で造血の状態や他の骨髄疾患の有無を評価し、画像検査で血栓症を検索します。そのうえで、病型と重症度を判定して治療方針を決めます。なお、PNH型赤血球は溶血や輸血によって割合が変わりやすいため、顆粒球(好中球)のクローンサイズも重要な指標になります。
- フローサイトメトリー(PNH型血球の検出): 赤血球のCD59やCD55、顆粒球のFLAER・CD24・CD157などの欠損を調べ、PNH型血球の有無と割合を定量します。高感度法では0.01%程度の微小クローンも検出でき、確定診断と病型評価の要となります。
- 溶血マーカー(LDH・ビリルビン・網赤血球・ハプトグロビン): 血管内溶血を反映してLDHが著明に上昇し、ハプトグロビンは低下〜検出感度以下となります。LDHは病勢と治療効果を判断する代表的な指標です。
- 末梢血液検査: 貧血のほか、骨髄不全を伴えば白血球・血小板も減少します。網赤血球は溶血を反映して増えますが、骨髄不全型では相対的に低値のこともあります。
- 直接クームス試験: PNHでは通常陰性で、自己免疫性溶血性貧血との鑑別に役立ちます。ただしC5阻害薬の治療中は、赤血球にC3が結合して陽性化することがあります。
- 尿検査(ヘモグロビン尿・ヘモジデリン尿): 尿潜血は陽性なのに尿沈渣の赤血球が少ないことが、ヘモグロビン尿を示唆します。尿沈渣のヘモジデリンは慢性の血管内溶血の証拠になります。
- 骨髄検査(骨髄穿刺・生検、染色体検査): 骨髄の細胞密度や異形成の有無を評価し、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群の合併・鑑別に用います。古典的PNHでは赤芽球系の過形成がみられることが多いです。
- 画像検査(超音波・CT・MRIなど): 肝静脈・門脈・腸間膜静脈・脳静脈洞などの血栓や、肝脾腫、腎へのヘモジデリン沈着を評価します。腹痛や頭痛があるときは積極的に行います。
- 鉄・葉酸・腎機能・肺高血圧の評価: フェリチンや血清鉄、葉酸、クレアチニン・eGFRに加え、必要に応じて心エコーで肺動脈圧を評価し、合併症と治療方針の判断に用います。
- Ham試験・砂糖水試験(歴史的検査): かつての標準的な診断法ですが、感度・特異度ともにフローサイトメトリーに劣るため、現在はほとんど用いられません。
発作性夜間ヘモグロビン尿症と鑑別すべき疾患
- 自己免疫性溶血性貧血: 直接クームス試験が陽性で、血管外溶血が主体であり、フローサイトメトリーでPNH型血球を認めない点で区別します。
- 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群: 汎血球減少が主体で溶血所見は乏しい一方、PNHクローンを合併することがあるため、高感度フローサイトメトリーと骨髄検査で評価します。
- 血栓性血小板減少性紫斑病・非典型溶血性尿毒症症候群: 破砕赤血球と高度の血小板減少を伴う血栓性微小血管症で、ADAMTS13活性の測定やPNH型血球がないことで区別します。
- 遺伝性赤血球疾患(遺伝性球状赤血球症、G6PD欠乏症など): 家族歴、赤血球形態、浸透圧抵抗試験、酵素活性の測定で区別し、PNH型血球は認めません。
- 寒冷凝集素症: 寒冷で誘発される溶血を来し、主体は肝臓などでの血管外溶血ですが、血管内溶血を伴うこともあります。寒冷凝集素価の上昇と、直接クームス試験でC3が陽性になる点が異なります。
- 行軍ヘモグロビン尿症・横紋筋融解症: 運動による物理的溶血や、ミオグロビン尿による褐色尿で、病歴・CK値・尿所見で区別します。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療
治療は病型と重症度に応じて組み立てます。溶血を伴う古典的PNHでは、補体阻害薬で血管内溶血を抑え、貧血・輸血依存・血栓症・腎障害を防ぐことが中心です。骨髄不全型では、再生不良性貧血に準じた免疫抑制療法などで造血の回復を目指します。両方の特徴を持つ場合は、両者を組み合わせて考えます。潜在性PNHでは、原則として基礎にある骨髄不全への治療と経過観察が中心です。根治が期待できる唯一の治療は造血幹細胞移植ですが、合併症のリスクが高く、適応は慎重に判断されます。補体阻害薬は高価で長期の継続が前提となり、髄膜炎菌などの感染症対策も欠かせません。そのため、PNH診療の経験が豊富な血液内科専門医のもとで、患者さんの状態や生活に合わせて治療を選ぶことが重要です。
- C5阻害薬(エクリズマブ、ラブリズマブなど): 補体C5に結合してMACの形成を阻止し、血管内溶血を強く抑えます。輸血の必要性や血栓症の減少、生命予後の改善が示されています。点滴の間隔は薬剤により約2週ごと〜約8週ごとです。日本人の一部(数%程度)には、C5遺伝子の多型のためエクリズマブが効きにくい人がいることが知られています。
- 近位補体阻害薬(C3阻害薬、B因子・D因子阻害薬など): 補体経路のより上流を抑え、C5阻害薬では残りやすい「血管外溶血」(C3断片が付いた赤血球が脾臓・肝臓で壊される現象)にも効果が期待される薬剤群です。皮下注射薬や経口薬が国内でも使えるようになってきています。適応や切り替えは専門医が判断します。
- 感染症予防(髄膜炎菌ワクチンなど): 補体阻害薬の使用中は髄膜炎菌感染症のリスクが大きく高まるため、原則として治療開始前に髄膜炎菌ワクチンを接種し、必要に応じて追加接種します。薬剤によっては肺炎球菌・インフルエンザ菌b型のワクチンも推奨されます。発熱時にすぐ受診する体制や抗菌薬の携帯も検討されます。
- 免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン、シクロスポリンなど): 骨髄不全型PNHや再生不良性貧血を合併する場合に、造血の回復を目指して行われます。トロンボポエチン受容体作動薬が併用されることもあります。
- 同種造血幹細胞移植: PNHクローンを根絶できる唯一の根治的治療です。重症の骨髄不全、補体阻害薬で管理困難な病態、白血病などへの移行などで検討されますが、移植関連の合併症と死亡のリスクを考慮して慎重に適応を判断します。
- 抗凝固療法: 血栓症を起こした場合は、ヘパリンやワルファリンなどによる治療と、補体阻害薬の導入・継続が重要です。予防的な抗凝固療法の適応は、クローンサイズや出血リスクを踏まえて個別に判断します。
- 輸血・支持療法: 高度の貧血には赤血球輸血を、骨髄不全による血小板減少には血小板輸血を行います。溶血で需要が増える葉酸の補充や、尿中への鉄喪失による鉄欠乏への鉄補充も行います。頻回輸血による鉄過剰症には鉄キレート療法を考慮します。
- 副腎皮質ステロイド・蛋白同化ホルモン: 補体阻害薬の登場以前から、溶血発作の軽減や造血の補助を目的に使われてきました。現在は、副作用とのバランスを考えて限定的に用いられます。
- 妊娠・手術時の管理: 妊娠や手術は溶血と血栓のリスクを高めるため、血液内科・産科・麻酔科などが連携し、補体阻害薬や抗凝固療法を調整して計画的に管理します。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の予後・長期フォロー
補体阻害薬が登場する前は、血栓症、骨髄不全に伴う感染症・出血、腎不全などが主な死因でした。C5阻害薬の普及後は、溶血と血栓症が大幅に抑えられ、適切に治療された古典的PNHの生命予後は一般人口に近づいたとする報告もあります。輸血からの離脱や疲労感の改善により、就労や学業、家庭生活などのQOLも向上しています。一方で課題も残ります。C5阻害薬の使用中でも血管外溶血のために貧血が残る例があり、感染や手術を契機に溶血が一時的に再燃する「ブレイクスルー溶血」も起こりえます。また、骨髄不全型では造血の回復の程度が予後を左右します。生涯にわたる通院と高額な治療の継続も、患者さんの生活上の負担になります。
長期フォローアップでは、溶血の指標(LDH、ヘモグロビン、網赤血球、ビリルビン)、PNHクローンサイズ(特に顆粒球)、血球数を定期的に測定します。あわせて、腎機能、鉄・葉酸の状態、肝機能、必要に応じて肺高血圧や血栓の画像評価を行います。骨髄不全の進行や、骨髄異形成症候群・白血病への移行を見逃さないよう、血球減少が進む場合は骨髄検査を行います。補体阻害薬を使用中の場合は、投与スケジュールの厳守、ワクチンの追加接種、感染徴候への速やかな対応が重要です。自己判断で投与を中断すると重篤な溶血や血栓症を招くおそれがあるため、治療の変更や中止は必ず主治医と相談してください。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、溶血発作を誘発しやすい感染症の予防(手洗い、うがい、季節性インフルエンザなどのワクチン接種)と、過労・睡眠不足を避けることが基本です。補体阻害薬を使用中の方は、治療中であることを示す患者カードを常に携帯しましょう。38℃前後の発熱、悪寒、頭痛、首の硬さ、発疹などがあれば、髄膜炎菌感染症の可能性を考えてすぐに医療機関を受診してください。脱水は血栓症のリスクを高めるため、こまめに水分をとることが大切です。長時間の飛行機移動などでは、適度に体を動かすよう心がけます。妊娠を希望する場合は、血栓症・溶血のリスクと治療薬の調整が必要になるため、妊娠前から主治医に相談してください。経口避妊薬(エストロゲン製剤)は血栓リスクを高めるおそれがあり、使用の可否は主治医と相談が必要です。鉄剤やサプリメントの自己判断での服用、手術や抜歯の予定も、事前に主治医に伝えてください。PNHは生まれつきの遺伝子異常ではなく、造血幹細胞に後天的に起こった変異による病気です。そのため、子どもに遺伝することや家族内で発症することは通常ありません。家族の不安が強い場合は、主治医から説明を受けるとよいでしょう。
利用できる制度・相談窓口
PNHは指定難病(告示番号62)で、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合に医療費助成を受けられます。軽症であっても、高額な医療が継続して必要な場合(いわゆる軽症高額該当)は対象となることがあります。補体阻害薬は非常に高額なため、助成の申請は特に重要です。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行います。18歳未満で発症した場合は、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があります。医療保険の高額療養費制度や限度額適用認定証も併用できます。病状により日常生活や就労に支障がある場合は、障害年金(血液・造血器疾患などによる障害)の対象となることがあります。腎機能障害が進んだ場合は、身体障害者手帳の対象となることもあります。会社員で療養のために休業する場合は、健康保険の傷病手当金が利用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の難病担当保健師、病院の医療ソーシャルワーカー(医療相談室)があります。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターが就職・職場定着を支援しています。患者会では、同じ病気を持つ方との情報交換ができます。
発作性夜間ヘモグロビン尿症に伴う心のケア・心理社会的支援
PNHのように経過が長く、まれな病気では、診断がつくまでに時間がかかることも多いです。その後も「いつ発作や血栓が起こるか分からない」という不安や、慢性的な疲労感による意欲の低下が生じやすく、抑うつや適応障害につながることがあります。PNHに特有の課題もあります。長期にわたる定期的な点滴通院による時間的・経済的な負担、仕事や学業との両立の難しさ、髄膜炎菌感染症への恐怖、妊娠・出産をめぐる葛藤、希少疾患ゆえに周囲の理解を得にくい孤立感などです。また、疲労感は外見から分かりにくいため、「怠けている」と誤解されることもあります。こうした気持ちは決して特別なものではありません。主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士などに早めに相談し、必要に応じて精神科・心療内科のサポートを受けることが大切です。家族も一人で抱え込まず、難病相談支援センターや患者会を活用してください。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の受診の目安
- 38℃前後の発熱、悪寒、強い頭痛、首の硬さ、発疹などがある場合(特に補体阻害薬を使用中の方)は、髄膜炎菌感染症の可能性があるため、すぐに救急受診してください。
- 突然の激しい腹痛、腹部の張り、急な黄疸や腹水、片側の足の腫れ・痛み、胸痛や急な息苦しさがある場合は、血栓症の可能性があるため直ちに受診してください。
- 突然の激しい頭痛、意識障害、けいれん、手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状は、脳静脈洞血栓症などの可能性があるため救急要請を検討してください。
- 褐色尿が続く、尿量が減る、急に貧血症状(動悸・息切れ・強い倦怠感)が悪化した場合は、溶血発作や腎障害の可能性があるため、早めに主治医に連絡してください。
- 鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくい、あざが増えたなどの出血症状がある場合は、骨髄不全の進行が考えられるため受診してください。
- 補体阻害薬の予定投与日に受診できない場合や、妊娠が分かった場合は、速やかに主治医に相談してください。
発作性夜間ヘモグロビン尿症についてのよくある質問
Q. PNHは遺伝しますか?
A. PNHは、造血幹細胞に生まれた後で起こったPIGA遺伝子の変異による病気で、親から受け継ぐ遺伝性疾患ではありません。子どもに遺伝したり、家族が同じ病気になったりすることは通常ありません。
Q. 補体阻害薬は一生続ける必要がありますか?
A. 補体阻害薬は溶血を抑える治療で、PNHクローンそのものをなくすわけではないため、多くの場合は長期の継続が必要です。自己判断で中断すると重い溶血や血栓症を起こすおそれがあります。継続・変更・中止は必ず主治医と相談してください。
Q. 尿の色が普通なら、病気は落ち着いているのでしょうか?
A. 褐色尿が出なくても、血液中では溶血が続いていることがあり、尿の色だけで病状は判断できません。LDHなどの血液検査で定期的に評価することが大切です。
Q. PNHでも妊娠・出産はできますか?
A. 妊娠中は血栓症や溶血のリスクが高まりますが、補体阻害薬などによる管理で出産に至った報告は増えています。血液内科と産科が連携した計画的な管理が必要なため、妊娠を希望する時点で主治医に相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。