原発性免疫不全症候群
Primary Immunodeficiency Diseases (PID)
原発性免疫不全症候群(Primary Immunodeficiency Diseases (PID))|原発性免疫不全症候群(PID)は、生まれつき免疫のしくみの一部に異常がある疾患の総称です。感染症にかかりやすく、重症化や反復、治りにくさが目立ちます。近年は先天性免疫異常症(inborn errors of immunity:IEI)とも呼ばれ、自己免疫疾患、過剰な炎症、アレルギー、悪性腫瘍を伴う病型もあることがわかってきました。乳児期に命に関わる重症型から、成人になって診断される軽症型まで幅が広く、早期診断と適切な治療で予後や生活の質(QOL)が大きく変わる疾患群です。
原発性免疫不全症候群の要点
原発性免疫不全症候群(PID)は、免疫に関わる遺伝子の生まれつきの異常により、感染症にかかりやすく重症化・反復しやすくなる疾患群で、先天性免疫異常症(IEI)とも呼ばれます。自己免疫や過剰な炎症、アレルギー、悪性腫瘍を伴う病型もあり、日本では指定難病(告示番号65)です。
| 別名・略称 | 原発性免疫不全症、先天性免疫異常症、先天性免疫不全症、PID、IEI、inborn errors of immunity |
|---|---|
| 分野 | 免疫・膠原病・自己炎症 |
| 遺伝形式 | 疾患により異なる(常染色体潜性・顕性、X連鎖など) |
| 好発年齢 | 乳児期の重症型から成人期に診断される軽症型まで幅広い |
| 主な症状 | 重症・反復・治りにくい感染症、自己免疫、過剰な炎症など |
| 主な検査 | 血清免疫グロブリン値、リンパ球サブセット解析、遺伝子解析 |
| 主な治療 | 感染対策、免疫グロブリン補充療法、造血幹細胞移植など(病型により選択) |
| 受診する主な診療科 | 小児科、免疫・膠原病内科など |
原発性免疫不全症候群とは
原発性免疫不全症候群は、免疫に関わる遺伝子の生まれつきの異常によって、病原体を排除する仕組み(獲得免疫・自然免疫)や、免疫反応を適切に止める仕組み(免疫制御)が損なわれる疾患群です。HIV感染症、抗がん剤・免疫抑制薬、低栄養、蛋白漏出などで起こる続発性(二次性)免疫不全とは区別されます。なお、本疾患を「血小板が自己抗体で破壊される病気」とする説明を見かけることがありますが、それは特発性血小板減少性紫斑病(免疫性血小板減少症)の説明であり、誤りです。PIDの一部(ウィスコット・オルドリッチ症候群など)で血小板減少や自己免疫性血球減少を伴うことはありますが、PIDの本質は免疫の先天的な異常です。日本では指定難病(告示番号65)に指定され、小児慢性特定疾病の対象でもあります。
分類は国際免疫学会連合(IUIS)の専門委員会が定期的に改訂しており、おおむね次の群に分けられます。①T細胞とB細胞の両方が障害される複合免疫不全症(重症複合免疫不全症:SCIDなど)、②特徴的な症状を伴う複合免疫不全症(ウィスコット・オルドリッチ症候群、毛細血管拡張性運動失調症、22q11.2欠失症候群、高IgE症候群など)、③抗体産生不全を主とする疾患(X連鎖無ガンマグロブリン血症、分類不能型免疫不全症:CVIDなど)、④免疫調節障害(家族性血球貪食性リンパ組織球症、自己免疫性リンパ増殖症候群、IPEX症候群など)、⑤食細胞の数や機能の異常(慢性肉芽腫症、重症先天性好中球減少症など)、⑥自然免疫の異常、⑦自己炎症性疾患、⑧補体欠損症(遺伝性血管性浮腫を含む)、⑨骨髄不全症、⑩後天性に同様の病態を示す「フェノコピー」(サイトカインに対する自己抗体など)です。1952年にBrutonが無ガンマグロブリン血症を報告して以来、原因遺伝子の同定は急速に進み、現在は400を超える疾患が分類されています。遺伝子解析の普及で新しい疾患概念が次々に加わっています。
原発性免疫不全症候群の疫学・患者数
PIDは個々の病型がまれで、全体の頻度は数千〜数万人に1人程度と推定されています。ただし未診断例が多く、正確な把握は困難とされます。日本で指定難病の医療費助成を受けている患者さんは千数百人規模で、小児慢性特定疾病の受給者や軽症で申請していない方を含めると、実際の患者数はさらに多いと考えられます。発症年齢は病型により大きく異なります。SCIDは生後数か月以内に重い感染症で発症します。X連鎖無ガンマグロブリン血症は、母親由来の移行抗体が減る生後半年以降に細菌感染を繰り返すことで気づかれることが多く、CVIDは学童期から成人期、特に20〜40歳代での診断が多いとされます。X連鎖遺伝形式の病型(X連鎖SCID、X連鎖無ガンマグロブリン血症、X連鎖慢性肉芽腫症、ウィスコット・オルドリッチ症候群、X連鎖高IgM症候群など)が多いため、小児では男児が多い傾向があります。一方、CVIDなど成人で診断される病型では明らかな性差は目立ちません。日本では、選択的IgA欠損症は欧米に比べて少ないと報告されています。
原発性免疫不全症候群の原因・病態生理
原因の多くは単一遺伝子の異常です。遺伝形式には、X連鎖劣性(IL2RG:X連鎖SCID、BTK:X連鎖無ガンマグロブリン血症、CYBB:X連鎖慢性肉芽腫症、WAS:ウィスコット・オルドリッチ症候群、CD40LG:X連鎖高IgM症候群など)、常染色体劣性(ADA欠損症、RAG1/RAG2欠損症、常染色体劣性慢性肉芽腫症など)、常染色体優性(STAT3機能喪失による高IgE症候群、CTLA4ハプロ不全、PIK3CD機能獲得変異による活性化PI3Kδ症候群など)があります。遺伝子変異が新たに生じる場合もあります。CVIDは最も頻度の高い症候性抗体欠乏症ですが、単一遺伝子で説明できるのは一部にとどまり、多くは原因が特定されていません。複数の遺伝的・環境的要因が関与すると考えられています。
発症機序は、障害される免疫の部分によって異なります。T細胞の分化が障害されるSCIDでは、細胞性免疫と、T細胞の助けを要する抗体産生の両方が失われます。その結果、ウイルス、真菌(ニューモシスチスなど)、細菌のあらゆる病原体に対して無防備になります。B細胞の分化や抗体産生が障害される病型では、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの莢膜を持つ細菌による気道感染や、エンテロウイルスによる慢性髄膜脳炎が問題になります。食細胞の異常では、慢性肉芽腫症のようにNADPHオキシダーゼの欠損で活性酸素が作れなくなり、黄色ブドウ球菌やアスペルギルスなどのカタラーゼ陽性菌・真菌を殺菌できず、膿瘍や肉芽腫が形成されます。補体の後期成分(C5〜C9)の欠損では、ナイセリア属(髄膜炎菌など)に感染しやすくなります。一方、制御性T細胞の異常(IPEX症候群)、Fas経路の異常(自己免疫性リンパ増殖症候群)、細胞傷害性顆粒の異常(家族性血球貪食性リンパ組織球症)などでは、免疫が「止まらない」ことが問題になります。自己免疫疾患、リンパ増殖、致死的な高サイトカイン状態を引き起こします。このように「免疫不全」と「免疫調節異常」は表裏一体であり、同じ患者さんに感染症と自己免疫疾患が並存することも珍しくありません。
原発性免疫不全症候群の症状
- 反復・重症の気道感染: 中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎を繰り返します。抗体産生不全で最もよくみられる症状で、肺炎球菌やインフルエンザ菌が主な原因菌です。
- 治りにくい感染症: 抗菌薬を使っても長引く、すぐに再燃する、通常は静脈内投与を要しない感染症で点滴治療が必要になる、といった経過が特徴です。
- 日和見感染症: ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、重いカンジダ症など、健康な人ではまれな病原体による感染です。T細胞系の重い障害を示唆します。
- 深部膿瘍・リンパ節炎: 肝膿瘍、肺膿瘍、化膿性リンパ節炎、皮下膿瘍などです。慢性肉芽腫症など食細胞の異常で起こりやすくなります。
- 慢性下痢・体重増加不良: 乳児期からの持続する下痢と発育不良はSCIDの典型的な症状です。年長児や成人ではジアルジア感染やCVID関連腸症が原因となることがあります。
- 持続する鵞口瘡・皮膚真菌症: 1歳以降も続く口腔カンジダ症や爪・皮膚の真菌症です。T細胞やIL-17経路の障害(慢性皮膚粘膜カンジダ症など)を示唆します。
- 生ワクチンによる重い副反応: BCG接種後の播種性BCG感染症や、ロタウイルスワクチン後の遷延する胃腸炎などです。SCIDや慢性肉芽腫症などの診断の手がかりになります。
- 自己免疫疾患: 自己免疫性溶血性貧血、免疫性血小板減少症、甲状腺炎、1型糖尿病、関節炎などを合併することがあります。CVIDや免疫調節障害で多くみられます。
- 湿疹・皮膚症状: ウィスコット・オルドリッチ症候群や高IgE症候群では、乳児期から難治性の湿疹がみられます。IPEX症候群でも重い皮膚炎を伴います。
- 出血傾向: ウィスコット・オルドリッチ症候群では、小型の血小板の減少により点状出血や血便がみられます。湿疹、易感染性とともに三主徴を構成します。
- リンパ節腫脹・肝脾腫: 自己免疫性リンパ増殖症候群、CVID、活性化PI3Kδ症候群などで慢性的にみられます。リンパ腫との鑑別が必要になります。
- 遷延する発熱と血球減少: 家族性血球貪食性リンパ組織球症などでは、EBウイルスなどの感染を契機に高熱、肝脾腫、汎血球減少をきたし、急速に重篤化することがあります。
原発性免疫不全症候群の経過と合併症
経過は病型で大きく異なります。SCIDは治療しなければ多くが乳児期に重い感染症で亡くなる、PIDの中で最も緊急性の高い病型です。造血幹細胞移植を感染症にかかる前、目安として生後3〜4か月以内に行えるかどうかが、生存率を大きく左右します。抗体産生不全症は、免疫グロブリン補充療法を十分に行えば重い細菌感染を大きく減らせます。ただし診断が遅れると、繰り返す肺炎によって気管支拡張症などの不可逆的な肺障害が進行し、長期予後を規定します。慢性肉芽腫症は、予防内服で感染頻度を下げられても、真菌感染や炎症性腸疾患様の腸炎が生涯にわたる課題になります。CVIDは長期間診断されないことが多く、感染以外の合併症(非感染性合併症)の有無が予後を大きく左右するとされます。
主な合併症には、気管支拡張症、慢性副鼻腔炎、肉芽腫性・リンパ球性間質性肺疾患(GLILD)、自己免疫性血球減少、炎症性腸疾患様腸炎、肝障害(結節性再生性過形成など)、脾腫などがあります。悪性腫瘍、特に悪性リンパ腫の発生率が高く、ウィスコット・オルドリッチ症候群、毛細血管拡張性運動失調症、CVID、活性化PI3Kδ症候群などで注意が必要です。毛細血管拡張性運動失調症では進行性の小脳失調が、22q11.2欠失症候群では先天性心疾患、低カルシウム血症、発達や精神面の課題が併存します。治療に伴う合併症としては、移植後の移植片対宿主病(GVHD)、晩期の内分泌障害、不妊などがあります。
原発性免疫不全症候群の診断・診断基準
診断の出発点は、「感染症が多い」「重い」「長引く」「まれな病原体による」という臨床的な疑いと家族歴です。厚生労働省研究班などが示す「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」(1年に2回以上の肺炎、1年に4回以上の中耳炎、2か月以上抗菌薬を使っても治らない感染症、1歳以降の持続性鵞口瘡、BCGによる重い副反応、乳幼児期に感染症で亡くなった家族歴など)が目安としてよく使われます。まず血算(リンパ球数・好中球数・血小板の数と大きさ)と血清免疫グロブリン値で全体を把握します。次に、疑われる病型に応じてリンパ球サブセット、特異抗体、食細胞機能、補体などを段階的に調べ、最終的に遺伝子解析で確定します。日本では、日本免疫不全・自己炎症学会(JSIAD)や研究班が整備した相談・遺伝子解析ネットワーク(PIDJ)を通じて、専門医への相談や遺伝子検査が行われています。指定難病の申請には、病型ごとに定められた診断基準を満たすことが求められます。新生児期にT細胞・B細胞の新生能を測るTREC/KRECスクリーニングは、一部の自治体で拡大新生児スクリーニングとして導入が広がっており、症状が出る前にSCIDなどを発見できるようになりつつあります。
- 血算・白血球分画: 乳児で絶対リンパ球数が極端に少なければSCIDを強く疑います。好中球減少、小型血小板を伴う血小板減少(ウィスコット・オルドリッチ症候群)なども重要な手がかりです。
- 血清免疫グロブリン(IgG・IgA・IgM・IgE): 年齢別の基準値と比較して評価します。IgGの著しい低値は抗体産生不全を、IgMのみ正常〜高値で他が低値なら高IgM症候群を、IgEの著しい高値は高IgE症候群などを示唆します。
- 特異抗体価・ワクチン応答: 破傷風、肺炎球菌などのワクチン接種後の抗体上昇や同種血球凝集素を評価します。IgG値が正常でも抗体を作る機能が損なわれている病型を見つけるのに役立ちます。
- リンパ球サブセット解析(フローサイトメトリー): CD3、CD4、CD8陽性T細胞、CD19陽性B細胞、NK細胞の数を測定します。ナイーブT細胞やスイッチメモリーB細胞の減少は、SCID、CVID、高IgM症候群などの病型推定に有用です。
- 蛋白発現解析・リンパ球機能検査: BTK、WASP、CD40リガンドなどの蛋白発現をフローサイトメトリーで確認したり、マイトジェンに対するリンパ球の増殖反応を評価したりします。病型を迅速に絞り込むのに役立ちます。
- 食細胞機能検査(DHR試験など): 好中球の活性酸素産生をフローサイトメトリー(DHR試験)などで測定し、慢性肉芽腫症を診断します。保因者の検出にも用いられることがあります。
- 補体検査(CH50・C3・C4・C1インヒビター): CH50の著明な低値は補体成分欠損を示唆します。C4低値とC1インヒビターの量または機能の低下は遺伝性血管性浮腫の診断につながります。
- TREC/KREC測定: 新たに作られたT細胞・B細胞の目印となるDNAを測定する検査です。新生児スクリーニングや、SCID、X連鎖無ガンマグロブリン血症の補助診断に用いられます。
- 遺伝子解析: パネル解析や全エクソーム解析などで原因遺伝子を同定し、病型を確定します。治療法の選択、予後予測、家族の保因者診断や遺伝カウンセリングの基盤となります。
原発性免疫不全症候群と鑑別すべき疾患
- 続発性(二次性)免疫不全: HIV感染症、ステロイド・免疫抑制薬・抗CD20抗体などの薬剤、ネフローゼ症候群や蛋白漏出性胃腸症による低ガンマグロブリン血症を、病歴、尿蛋白、薬歴、HIV検査で除外します。
- 乳児一過性低ガンマグロブリン血症: 移行抗体が減った後の生理的なIgG低値が長引くもので、B細胞数やワクチン応答は保たれ、多くは数年以内に自然に回復します。
- 造血器腫瘍(慢性リンパ性白血病・多発性骨髄腫・リンパ腫など): 成人で新たに低ガンマグロブリン血症が見つかった場合に除外が必要で、血清・尿の蛋白電気泳動、免疫固定法、画像検査、骨髄検査で鑑別します。
- 嚢胞性線維症・線毛機能不全症候群: 反復する気道感染や気管支拡張症の原因となる非免疫性の疾患で、汗試験や線毛の構造・機能検査などで鑑別します。
- アレルギー性鼻炎・喘息など反復感染と紛らわしい病態: 症状が反復しても免疫グロブリン値や特異抗体応答が正常で、発育が保たれている点が鑑別の手がかりになります。
- サイトカインに対する自己抗体による後天性免疫不全: 抗IFN-γ自己抗体による播種性非結核性抗酸菌症など、成人発症のPID様病態(フェノコピー)は、自己抗体の測定で鑑別します。
原発性免疫不全症候群の治療
治療は、障害されている免疫の部分を補い(補充療法)、感染症を予防・早期治療し、必要に応じて免疫そのものを作り直す(根治療法)という3本柱で組み立てます。抗体産生不全が主体の病型では免疫グロブリン補充療法と感染予防が中心となります。SCIDや一部の重い複合免疫不全症、慢性肉芽腫症、ウィスコット・オルドリッチ症候群、家族性血球貪食性リンパ組織球症などでは、造血幹細胞移植が根治を目指せる治療として検討されます。免疫調節障害では、原因分子の働きに合わせた分子標的治療が試みられています。どの治療も病型、重症度、年齢、ドナーの有無、合併症によって最適解が異なるため、小児免疫・血液や移植の専門施設を含む多職種チームで方針を決めることが重要です。個別の治療選択は主治医とよく相談してください。
- 免疫グロブリン補充療法(静注・皮下注): 抗体産生不全症の基本治療です。3〜4週ごとの静注(IVIG)、または自宅でも行える毎週〜数週ごとの皮下注(SCIG)で、IgGの谷値を保ち感染を防ぎます。投与量は、血中濃度だけでなく感染の頻度を見ながら調整します。
- 抗菌薬・抗真菌薬の予防投与: T細胞不全ではST合剤によるニューモシスチス肺炎の予防が、慢性肉芽腫症ではST合剤と抗真菌薬(イトラコナゾールなど)の予防内服が標準的に行われます。
- インターフェロンγ製剤: 慢性肉芽腫症における重い感染症の頻度を減らす目的で、皮下注射で用いられます。日本でも慢性肉芽腫症に対して承認されています。
- 感染症の早期・十分な治療: 発熱時は早めに受診し、原因微生物を積極的に検索します。そのうえで、通常より長期間、場合によっては静脈内投与で治療します。真菌やウイルスまで想定した対応が必要です。
- 造血幹細胞移植: SCIDでは必須の根治療法で、ほかの重い病型でも適応が検討されます。HLA適合ドナーの有無、前処置の強度、移植時の感染の有無が成績に影響します。
- 酵素補充療法・遺伝子治療: ADA欠損症では、移植までのつなぎ、あるいは移植が難しい場合の治療として酵素補充療法が用いられます。一部の病型では海外で遺伝子治療が実用化・研究されていますが、国内での利用は限られます。
- 免疫調節障害に対する薬物療法: 自己免疫性血球減少や腸炎に対しては、ステロイド、免疫抑制薬、リツキシマブなどが用いられます。CTLA4ハプロ不全に対するアバタセプトなど、病態に基づく分子標的治療が報告されていますが、適応外使用を含むため専門医の判断が必要です。
- 遺伝性血管性浮腫の治療: 補体異常に分類される遺伝性血管性浮腫では、発作時にC1インヒビター製剤やブラジキニン受容体拮抗薬を用い、発作予防の長期治療薬も選択肢となります。喉頭浮腫は窒息の危険があり、迅速な対応が必要です。
- 呼吸器ケアとリハビリテーション: 気管支拡張症がある場合は、排痰訓練、吸入療法、呼吸リハビリテーションを行い、肺機能の維持を図ります。
原発性免疫不全症候群の予後・長期フォロー
予後は病型と診断時期によって大きく異なります。SCIDは無治療では乳児期に致死的ですが、感染症がない早期に造血幹細胞移植を受けた場合の長期生存率は高いと報告されており、新生児スクリーニングによる早期発見の意義が強調されています。X連鎖無ガンマグロブリン血症やCVIDなどの抗体産生不全症は、免疫グロブリン補充療法により多くの方が就学、就労、結婚、出産を含めた通常に近い生活を送れるようになっています。一方で、気管支拡張症、GLILD、自己免疫疾患、悪性リンパ腫などの非感染性合併症が生命予後とQOLを左右します。慢性肉芽腫症は予防内服で生存期間が大きく延びましたが、移植の適応については個別の検討が必要です。成人期まで生存する患者さんが増え、小児科から成人診療科への移行期医療が重要な課題になっています。
長期フォローアップでは、感染症の頻度と重症度、成長・発達、IgG谷値、肺機能・胸部CTによる気管支拡張症やGLILDの評価、肝機能、血球数、自己免疫疾患の有無、悪性腫瘍のスクリーニング(リンパ節腫脹や体重減少への注意)を定期的に行います。移植後の方では、免疫の回復状況、慢性GVHD、内分泌・生殖機能、二次がんなどの晩期合併症を長期にわたり確認します。成人では、内科(呼吸器、消化器、血液、膠原病)と連携し、生涯にわたる診療体制を整えることが望まれます。
原発性免疫不全症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、手洗い、うがい、歯みがき、口腔ケアを習慣にし、人混みや感染症流行期への配慮を心がけます。ただし、過度な隔離で社会参加を妨げないようにバランスをとることも大切です。生ワクチン(BCG、麻しん・風しん、水痘、ロタウイルスなど)は病型によって禁忌となるため、接種前に必ず主治医に相談してください。不活化ワクチンは、病型によっては推奨されることがあります。家族の予防接種(インフルエンザなど)は患者さんを守るうえで役立ちます。慢性肉芽腫症では、腐葉土、堆肥、ガーデニング、干し草、工事現場の粉じんなどアスペルギルスにさらされる環境を避けます。生ものや井戸水の扱いについても、病型に応じて主治医の指示に従います。免疫グロブリン補充を受けている方は、定期投与を欠かさないこと、旅行時には医療機関や薬剤について事前に準備することが重要です。保育園・学校には病状や緊急時の連絡方法、周囲での水痘・麻しん流行時の連絡を依頼しておくと安心です。多くの病型は遺伝性で、X連鎖性の場合は母親が保因者である可能性があるため、きょうだいの検査や次子の計画については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
原発性免疫不全症候群は指定難病(告示番号65)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成(特定医療費)を受けられます。自己負担には所得に応じた月額上限が設けられています。高額な医療費が継続する場合の軽減制度もあり、免疫グロブリン補充療法など長期の治療を受ける方にとって重要な支えになります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、成人期には指定難病制度へ移行します。日常生活用具給付などの小児慢性特定疾病児童等自立支援事業も利用できる場合があります。また障害者総合支援法の対象疾病に含まれており、障害者手帳がなくても、必要に応じて居宅介護などの障害福祉サービスを利用できる場合があります。呼吸機能障害などで日常生活や就労に著しい制限がある場合は、障害年金の対象となりうるため、年金事務所や社会保険労務士に相談してください。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイトがあります。専門医療機関や遺伝子解析については、日本免疫不全・自己炎症学会や研究班の情報が参考になります。患者会・家族会では、療養や就学・就労の実際的な情報を得ることができます。
原発性免疫不全症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
生涯にわたる通院や定期的な点滴・皮下注射、感染症への絶え間ない警戒、入院の繰り返しは、患者さん本人にも家族にも大きな心理的負担となり、不安、抑うつ、適応障害を引き起こすことがあります。この疾患に特有の課題として、乳幼児期に重い感染症や移植を経験した家族の強い不安と過保護傾向、きょうだいへの配慮不足、X連鎖遺伝で保因者と判明した母親が抱く罪悪感があります。さらに、外見ではわかりにくいため、学校や職場で理解を得にくいこと、思春期に治療を負担に感じて自己判断で中断してしまうこと、成人診療への移行に伴う戸惑い、就職・結婚・妊娠に関する悩みなども挙げられます。CVIDのように診断までに長い年月を要した方は、それまで理解されなかった経験から医療への不信感を抱くこともあります。気持ちの落ち込みや眠れない状態が続くとき、治療を続けることがつらいと感じるときは、一人で抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士・公認心理師、遺伝カウンセラー、患者会などに早めに相談してください。必要に応じて精神科・心療内科の支援を受けることも、治療の一部として大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
原発性免疫不全症候群の受診の目安
- 38℃以上の発熱が続く、または悪寒・ぐったり感・意識がもうろうとするなどの症状がある場合は、夜間でも速やかに主治医へ連絡するか救急外来を受診してください。
- 息苦しさ、呼吸が速い、唇の色が悪いなど肺炎を疑う症状がある場合や、遺伝性血管性浮腫の方で喉の腫れ・声のかすれ・飲み込みにくさがある場合は、直ちに救急受診が必要です。
- 乳児で、体重が増えない、下痢が続く、鵞口瘡が治らない、BCG接種部位が大きく腫れる・リンパ節が腫れるなどの症状がある場合は、早めに小児科を受診してください。
- 1年に何度も肺炎や中耳炎を繰り返す、抗菌薬で治りにくい感染症がある、乳幼児期に感染症で亡くなった家族がいる場合は、免疫の専門医への相談を検討してください。
- 強い頭痛と嘔吐、けいれん、皮下出血の急な増加、血便、急な黄疸や高熱を伴う肝脾腫などがみられたら、直ちに受診してください。
- 水痘や麻しんの患者さんと接触した場合は、症状が出る前でも主治医に連絡し、予防的な対応について相談してください。
原発性免疫不全症候群についてのよくある質問
Q. 原発性免疫不全症候群はエイズ(HIV感染症)とは違うのですか?
A. 違います。エイズはHIVというウイルスに感染して後天的に免疫が低下する病気です。原発性免疫不全症候群は、生まれつきの遺伝子の異常によって起こり、人にうつることはありません。
Q. 大人になってから診断されることもありますか?
A. あります。分類不能型免疫不全症(CVID)は20〜40歳代で診断されることが多く、それまで「風邪をこじらせやすい体質」と思われていた例も少なくありません。肺炎や副鼻腔炎を繰り返す場合は、血液検査で免疫グロブリン値を調べることが診断の第一歩になります。
Q. 免疫グロブリン補充療法は一生続ける必要がありますか?
A. 抗体を作れない病型では、多くの場合長期にわたる継続が必要です。中断すると感染症が再び増えるため、自己判断でやめないことが大切です。皮下注射製剤を使えば自宅での投与も可能になるため、生活スタイルに合った方法を主治医と相談するとよいでしょう。
Q. 子どもに遺伝しますか?次の子どもを持つ際に検査はできますか?
A. 遺伝形式は病型によって異なり、X連鎖性、常染色体劣性、常染色体優性などで再発率が変わります。原因遺伝子がわかっていれば、家族の保因者検査や出生前・着床前の検査について相談できる場合があります。まずは遺伝カウンセリングを受けて、正確な情報をもとに考えることをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。