下垂体性PRL分泌亢進症
Pituitary PRL Hypersecretion Syndrome
下垂体性PRL分泌亢進症(Pituitary PRL Hypersecretion Syndrome)|下垂体性PRL分泌亢進症は、脳の下垂体から乳汁分泌ホルモンであるプロラクチン(PRL)が過剰に分泌される病気で、多くは下垂体の良性腫瘍であるプロラクチノーマ(PRL産生下垂体腺腫)が原因です。生殖年齢の女性では月経異常・乳汁漏出・不妊として、男性では性欲低下や勃起障害、腫瘍の増大による視野障害や頭痛として気づかれることが多い疾患です。多くは内服薬(ドパミン作動薬)で良好にコントロールできますが、診断、治療薬の選択、妊娠時の管理、長期フォローには専門的な判断が必要です。
下垂体性PRL分泌亢進症の要点
下垂体性PRL分泌亢進症は、下垂体からプロラクチンが過剰に分泌され、多くはプロラクチノーマ(良性腫瘍)が原因となる内分泌疾患です。月経異常・乳汁漏出・不妊や性欲低下、腫瘍増大による頭痛・視野障害がみられ、多くはドパミン作動薬で治療できる指定難病です。
| 別名・略称 | プロラクチノーマ、PRL産生下垂体腺腫、プロラクチン産生下垂体腺腫、下垂体性高プロラクチン血症、prolactinoma、PRL-secreting pituitary adenoma |
|---|---|
| 分野 | 内分泌疾患 |
| 遺伝形式 | 多くは孤発性(まれにMEN1など遺伝性疾患に伴う) |
| 好発年齢 | 生殖年齢の女性に多い |
| 主な症状 | 月経異常、乳汁漏出、不妊、性欲低下、勃起障害、頭痛、視野障害 |
| 主な検査 | 血中プロラクチン測定、下垂体MRI、視野検査 |
| 主な治療 | ドパミン作動薬(カベルゴリン等)。抵抗例や圧迫症状では手術 |
| 受診する主な診療科 | 内分泌内科、脳神経外科、婦人科 |
下垂体性PRL分泌亢進症とは
下垂体性PRL分泌亢進症は、下垂体前葉のPRL産生細胞(ラクトトロフ)が自律的にPRLを過剰に分泌する病気の総称です。その結果、高プロラクチン血症が続き、性腺機能低下などが起こります。中心となるのはプロラクチノーマで、ホルモンを分泌する下垂体腺腫(機能性下垂体腺腫)の中で最も頻度が高い腫瘍です。WHO分類(2022年)では、下垂体腺腫を下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)と呼ぶ考え方が導入され、プロラクチノーマはPIT1系統の腫瘍に位置づけられます。本疾患は内分泌(ホルモン)の病気であり、血小板減少や紫斑、免疫による血球破壊など血液の病気とは関係しません。
腫瘍の大きさにより、最大径10mm未満のミクロプロラクチノーマと10mm以上のマクロプロラクチノーマに分けられ、さらに径4cm以上で著明な高PRL血症を伴うものは巨大プロラクチノーマと呼ばれます。歴史的には、乳汁漏出と無月経を呈する症候群がForbes-Albright症候群(下垂体腫瘍を伴うもの)、Chiari-Frommel症候群(分娩後に持続するもの)などと呼ばれていました。1970年代にヒトPRLの測定法が確立し、同時期にドパミン作動薬ブロモクリプチンが臨床応用されたことで、手術が第一選択だった時代から薬物療法が中心の時代へと大きく転換しました。その後、作用時間が長く効果・忍容性に優れるカベルゴリンが登場し、現在は多くの診療指針で第一選択薬とされています。日本では指定難病(告示番号74)に指定され、厚生労働省研究班による「間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き」に診断基準が示されています。
下垂体性PRL分泌亢進症の疫学・患者数
プロラクチノーマは下垂体腺腫全体のおよそ3〜4割を占める、機能性下垂体腺腫の中で最も多い腫瘍とされています。日本における正確な患者数は明らかではありませんが、海外の疫学研究では人口10万人あたり数十人程度の有病率が報告されており、決してまれとはいえないものの、指定難病として専門的管理を要する疾患です。性差が顕著で、20〜40歳代の女性に多く、この年代では女性が男性の数倍から10倍程度多いとされます。女性は月経異常という自覚しやすい症状で早期に受診するためミクロ腺腫で見つかることが多いのに対し、男性は症状に気づきにくく、視野障害や頭痛が出るまで受診が遅れてマクロ腺腫で診断される傾向があります。50歳以降では性差は小さくなります。小児・思春期での発症はまれですが、思春期遅発や原発性無月経、成長障害の原因となることがあります。
下垂体性PRL分泌亢進症の原因・病態生理
大部分は孤発性(遺伝しない)で、PRL産生細胞の単クローン性増殖によって生じますが、明確な誘因は不明です。一部は遺伝性腫瘍症候群の一部として発症し、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1遺伝子の病的変異、常染色体顕性遺伝)では、副甲状腺機能亢進症や膵・消化管神経内分泌腫瘍と並んで下垂体腺腫が生じ、その中でプロラクチノーマが最も多いとされます。また、家族性孤発性下垂体腺腫(FIPA)の一部ではAIP遺伝子変異が関与し、若年発症で大きく治療抵抗性の腫瘍となる傾向が報告されています。カーニー複合でも下垂体病変を伴うことがあります。若年発症、家族歴、他の内分泌腫瘍の合併がある場合は遺伝性の可能性を考慮します。
PRLは他の下垂体ホルモンと異なり、視床下部から下垂体茎を通って運ばれるドパミンによって常に「抑制」されています。プロラクチノーマでは腫瘍細胞が自律的にPRLを分泌し、高プロラクチン血症が生じます。過剰なPRLは視床下部のキスペプチン神経系を介してゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の拍動性分泌を抑え、黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が低下する結果、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を来します。これが女性の無月経・排卵障害・不妊、男性のテストステロン低下による性欲低下・勃起障害、さらに長期的な骨密度低下の主因です。乳腺へのPRLの直接作用により乳汁漏出が起こります。腫瘍が大きくなると、上方の視交叉を圧迫して両耳側半盲などの視野障害を、周囲の正常下垂体を圧迫して他の下垂体ホルモン分泌低下を、側方の海綿静脈洞へ進展して脳神経麻痺を引き起こします。腫瘍細胞の多くはドパミンD2受容体を発現しているため、ドパミン作動薬によりPRL分泌が抑えられ、腫瘍も縮小します。D2受容体の発現低下などにより薬剤抵抗性を示す例も一部に存在します。
下垂体性PRL分泌亢進症の症状
- 月経不順・無月経: 女性で最も多い症状で、排卵障害による稀発月経や続発性無月経として現れます。ピル服用中は気づかれず、中止後に無月経が続いて発見されることもあります。
- 乳汁漏出: 妊娠・授乳と無関係に乳頭から乳汁様の分泌がみられます。自然に漏れる場合と、乳房を圧迫したときのみ出る場合があり、男性ではまれです。
- 不妊: 排卵障害や黄体機能不全により妊娠しにくくなり、不妊外来での検査で高PRL血症が見つかる例も多くあります。
- 性欲低下・勃起障害: 男性ではテストステロン低下により性欲低下、勃起障害、精子数減少を来し、女性でも性欲低下や性交痛(腟乾燥)がみられることがあります。
- 女性化乳房: 男性で性腺機能低下に伴い乳房が腫大することがあります。
- 頭痛: 腫瘍による硬膜の伸展などで生じ、ミクロ腺腫でも訴えることがあります。突然の激しい頭痛は下垂体卒中を疑います。
- 視力・視野障害: マクロ腺腫が視交叉を圧迫すると、両目の外側の視野が欠ける両耳側半盲が典型的で、本人は自覚しにくく運転中の接触事故などで気づかれることがあります。
- 複視・眼瞼下垂: 腫瘍が海綿静脈洞へ進展し、眼球運動を司る脳神経が障害されると物が二重に見えたりまぶたが下がったりします。
- 下垂体機能低下症状: 大きな腫瘍が正常下垂体を圧迫すると、副腎・甲状腺・成長ホルモンなどが低下し、倦怠感、易疲労、寒がり、低血圧などがみられます。
- 骨量減少: エストロゲンやテストステロンの長期低下により骨密度が低下し、若年でも骨粗鬆症や骨折リスクが高まります。
- 思春期遅発・成長障害: 小児・思春期発症例では二次性徴の遅れ、原発性無月経、身長の伸びの停滞として現れることがあります。
下垂体性PRL分泌亢進症の経過と合併症
ミクロプロラクチノーマの多くは増大が緩徐で、無治療で経過観察した報告でも大きくなる例は一部にとどまり、自然にPRLが低下する例もあるとされます。一方、マクロプロラクチノーマは増大傾向を示すことがあり、視機能障害や下垂体機能低下へ進行し得るため治療が必要です。ドパミン作動薬により大多数の患者でPRLは正常化し、腫瘍も縮小しますが、治療中止後に再上昇する例も少なくありません。妊娠中は胎盤由来エストロゲンの刺激で正常下垂体・腫瘍とも大きくなりやすく、特にマクロ腺腫では妊娠中の腫瘍増大に注意が必要です。閉経後女性では性腺機能低下の症状が目立たなくなるため、ミクロ腺腫では治療方針が変わることがあります。ごく一部に侵襲性が強く増大を繰り返す難治例や、きわめてまれに遠隔転移を来す下垂体癌(転移性PitNET)が存在します。
主な合併症として、性腺機能低下の持続による骨粗鬆症、不妊、視力・視野障害の残存、汎下垂体機能低下症があります。下垂体卒中は腫瘍内の出血・梗塞により突然の激しい頭痛、視力低下、眼球運動障害、意識障害、急性副腎不全を起こす緊急事態で、早急な副腎皮質ステロイド投与や手術減圧が必要になる場合があります。頭蓋底を破壊して進展した大きな腫瘍では、薬で腫瘍が急速に縮小した際に髄液鼻漏(鼻から透明な水様液が流れる)を生じ、髄膜炎の危険があるため手術修復が必要になることがあります。治療薬に関連するものとして、高用量カベルゴリンでの心臓弁膜症、ドパミン作動薬による衝動制御障害なども知られています。
下垂体性PRL分泌亢進症の診断・診断基準
診断は、(1)高プロラクチン血症の確認、(2)薬剤や他疾患による二次性高PRL血症の除外、(3)画像による下垂体腺腫の確認、(4)下垂体全体の機能と視機能の評価、の順に進めます。PRLはストレス、睡眠、運動、食事、乳房刺激、採血時の緊張でも上昇するため、安静後の採血で複数回上昇を確認することが重要です。最も頻度の高い二次性の原因は薬剤性であり、服薬内容の確認は欠かせません。一般にPRL値と腫瘍の大きさは相関し、PRLが著明高値(目安として200ng/mL程度以上)であればプロラクチノーマの可能性が高いとされます。逆に、大きな腫瘍にもかかわらずPRLが軽度上昇にとどまる場合は、非機能性腺腫による下垂体茎圧迫(stalk effect)や測定上のフック効果を考えます。日本では厚生労働省研究班の診断の手引きに基づき、症状、血中PRL値、画像所見、二次性要因の除外を総合して診断します。
- 血中PRL測定: 安静後の採血で基礎値が繰り返し基準値を超えることを確認します。基準値は測定キットや性別で異なり、施設の基準範囲に基づいて判断します。
- マクロプロラクチン検査: PRLが抗体などと結合した生物活性の乏しい大分子型(マクロプロラクチン)が増えると見かけ上高値になるため、症状が乏しい場合はポリエチレングリコール(PEG)沈殿法などで確認し、不要な治療を避けます。
- 希釈測定(フック効果の確認): 巨大腺腫で極端にPRLが高いと測定系の飽和で偽低値になることがあり、大きな腫瘍とPRL軽度上昇が乖離する場合は検体を希釈して再測定します。
- 二次性要因の除外検査: 妊娠反応、甲状腺機能(TSH・FT4)、腎機能、肝機能を確認し、服用薬(抗精神病薬、制吐薬、一部の胃腸薬・降圧薬・抗うつ薬など)を詳細に聴取します。
- 下垂体MRI(造影): ミクロ腺腫は造影早期に周囲の正常下垂体より造影が遅れる低信号域として描出され、マクロ腺腫では大きさ、視交叉・海綿静脈洞への進展を評価します。ダイナミックMRIが小病変の検出に有用です。
- 下垂体前葉機能評価: LH・FSH、エストラジオールまたはテストステロン、ACTH・コルチゾール、TSH・FT4、GH・IGF-Iなどを測定し、必要に応じて負荷試験で他の下垂体ホルモンの低下や、GH同時産生腫瘍の有無を評価します。
- 眼科検査(視力・視野): マクロ腺腫では動的・静的視野検査で両耳側半盲などの有無を確認し、治療効果判定にも用います。
- 骨密度検査: 性腺機能低下が続いた患者ではDXA法で骨密度を評価し、骨粗鬆症の有無を確認します。
- 遺伝学的評価: 若年発症、家族歴、高カルシウム血症など他の内分泌腫瘍を示唆する所見があればMEN1などを疑い、遺伝カウンセリングを経て遺伝学的検査を検討します。
下垂体性PRL分泌亢進症と鑑別すべき疾患
- 薬剤性高プロラクチン血症: 抗精神病薬、スルピリド、メトクロプラミド、ドンペリドンなどドパミン受容体を遮断する薬で生じ、可能であれば休薬・変更でPRLが低下するか確認します(精神科薬の自己中断は危険なため必ず処方医と相談します)。
- 原発性甲状腺機能低下症: TRH上昇がPRL分泌を刺激し、下垂体の過形成で腫瘍様に見えることもありますが、甲状腺ホルモン補充で改善します。
- 非機能性下垂体腺腫・頭蓋咽頭腫・ラトケ嚢胞(stalk effect): 下垂体茎の圧迫でドパミンが届かずPRLが軽度上昇しますが、腫瘍が大きい割にPRL上昇が軽度(多くは100ng/mL程度未満)で、薬では腫瘍が縮小しないため手術方針が異なります。
- マクロプロラクチン血症: 見かけ上PRLが高値でも生物活性は乏しく、症状を伴わないことが多く通常治療は不要です。
- 多嚢胞性卵巣症候群: 月経異常を来し軽度のPRL上昇を伴うことがありますが、卵巣の多嚢胞所見やLH優位・アンドロゲン過剰が特徴です。
- 生理的上昇・腎不全: 妊娠・授乳、強いストレスでPRLは上昇し、慢性腎臓病ではPRLのクリアランス低下により高値となります。
下垂体性PRL分泌亢進症の治療
治療目標は、PRLを正常化して性腺機能(月経・排卵・性機能)と妊孕性を回復させること、腫瘍を縮小・制御して視機能や下垂体機能を守ること、骨量減少などの長期合併症を防ぐことです。多くの国際的指針や日本の手引きでは、ミクロ腺腫・マクロ腺腫ともにドパミン作動薬による薬物療法が第一選択とされ、視野障害がある場合でも速やかに効果が出ることが多いため、まず薬物療法を試みるのが一般的です。症状のないミクロ腺腫や閉経後のミクロ腺腫では、無治療経過観察やホルモン補充療法で対応する選択肢もあります。薬剤抵抗性・不耐容、下垂体卒中、髄液鼻漏、患者の希望などでは経蝶形骨洞手術を検討し、それでも制御困難な場合に放射線治療などを組み合わせます。妊娠希望の有無、腫瘍の大きさ、副作用の受け止め方で最適な選択は異なるため、内分泌内科・脳神経外科・婦人科・眼科が連携し、主治医と十分に相談して方針を決めることが大切です。
- カベルゴリン: 長時間作用型のドパミン作動薬で、週1〜2回の内服でよく、PRL正常化率・腫瘍縮小効果・忍容性に優れるため多くの指針で第一選択とされます。少量から開始しPRL値をみながら調整し、吐き気、めまい、起立性低血圧などに注意します。
- ブロモクリプチン: 歴史の長いドパミン作動薬で連日内服が必要です。消化器症状などの副作用はカベルゴリンより出やすいとされますが、妊娠初期の使用経験が豊富なため妊娠希望時に選択されることがあります。テルグリドが用いられる場合もあります。
- 副作用のモニタリング: パーキンソン病で用いる高用量カベルゴリンでは心臓弁膜症が報告されており、高PRL血症に用いる低用量ではリスクは低いとされますが、長期・高用量例では心エコーでの確認が推奨されることがあります。ギャンブル・買い物・過食などの衝動制御障害や気分変化が出た場合は、本人・家族が早めに主治医へ伝えることが重要です。
- 経蝶形骨洞手術(内視鏡下手術): 鼻腔から下垂体に到達して腫瘍を摘出する手術で、薬剤抵抗性・不耐容、下垂体卒中、髄液鼻漏などで適応となります。境界明瞭なミクロ腺腫では経験豊富な施設で高い治癒率が報告され、内服継続を避けたい患者では選択肢となり得ます。
- 放射線治療: 薬物療法と手術で制御できない残存・再発腫瘍に対し、ガンマナイフなどの定位放射線治療や分割照射が行われます。効果発現に年単位を要し、後年の下垂体機能低下に注意が必要です。
- 難治例・侵襲性腫瘍の治療: ドパミン作動薬に抵抗して増大を続ける侵襲性腫瘍や下垂体癌では、専門施設で手術・放射線を組み合わせ、テモゾロミドなどの化学療法が試みられた報告がありますが、適応や保険上の扱いは専門医との相談が必要です。
- 妊娠時の管理: ミクロ腺腫では妊娠判明後にドパミン作動薬を中止することが一般的で、腫瘍増大のリスクは低いとされます。マクロ腺腫ではリスクが高く、妊娠前の十分な縮小確認、妊娠中の自覚症状・視野の定期確認、必要時の薬剤再開などを内分泌医・産科医が連携して判断します。
- ホルモン補充と骨の管理: PRLの正常化で性腺機能が回復しない場合や他の下垂体ホルモンが低下している場合は、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンなどを補充し、骨粗鬆症があれば骨の治療も検討します。
- 薬剤の減量・中止の試み: PRLが正常化し、MRIで腫瘍が消失または著明縮小した状態が2年程度以上続く場合、慎重に減量・中止を試みることがあります。中止後に再発する例も少なくないため、中止後も定期的なPRL測定が必要です。
下垂体性PRL分泌亢進症の予後・長期フォロー
プロラクチノーマは良性腫瘍であり、適切に治療すれば生命予後は一般に良好です。カベルゴリンでは多くの患者でPRLの正常化と腫瘍の縮小が得られ、月経の回復、排卵の再開、性機能の改善が期待できます。不妊の原因が本症のみであれば、治療により自然妊娠に至る例も多くあります。視野障害も早期に治療すれば改善することが多いですが、長期間圧迫された視神経では障害が残ることがあります。一方、治療中止後の再発、薬剤抵抗性、巨大腺腫、侵襲性腫瘍などでは長期にわたる治療を要し、まれな下垂体癌では予後が厳しくなります。性腺機能低下が長く続いた場合の骨量減少や、下垂体機能低下による生活の質の低下にも配慮が必要です。
長期フォローアップでは、血中PRLを定期的に測定し、治療開始後や用量変更後は数か月ごと、安定後は半年〜1年ごとを目安に評価します。MRIは治療開始後の効果判定と、PRL再上昇・新たな症状出現時を中心に行い、マクロ腺腫ではより慎重に追跡します。視野検査、下垂体前葉機能、骨密度、長期・高用量カベルゴリン例での心エコーなども状況に応じて確認します。薬を中止した後も再発がありうるため、少なくとも数年は定期受診を続け、月経異常や乳汁漏出の再出現があれば早めに受診することが勧められます。MEN1が確認された患者では、副甲状腺や膵などの他臓器の定期的なスクリーニングも必要です。
下垂体性PRL分泌亢進症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
ドパミン作動薬は、飲み始めや増量時に吐き気、めまい、立ちくらみが出やすいため、就寝前の内服や食後内服など、主治医の指示に沿った工夫で軽減できることがあります。立ち上がるときはゆっくり動作し、飲酒量にも注意します。PRL値に影響し得る薬(胃腸薬、制吐薬、抗精神病薬、一部の抗うつ薬など)を他の医療機関で処方される場合は、本症で治療中であることを必ず伝えましょう。ギャンブル・買い物・過食などの衝動が抑えにくくなる副作用は本人が気づきにくいため、家族にも知っておいてもらうと安心です。妊娠を希望する場合は計画的に主治医と相談し、妊娠がわかったら速やかに連絡します。骨を守るために、カルシウムやビタミンDを含むバランスのよい食事、適度な運動、禁煙を心がけましょう。若年発症や家族歴があり遺伝性(MEN1など)が疑われる場合は、遺伝カウンセリングを受けたうえで家族の検査の必要性を検討します。
利用できる制度・相談窓口
本症は指定難病(告示番号74)であり、厚生労働省の診断基準を満たし、かつ重症度基準に該当する場合(または軽症でも医療費が一定額以上かかる「軽症高額該当」の場合)は、医療費助成の対象となります。申請は住所地の都道府県・指定都市の窓口(多くは保健所)で行い、難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要です。認定されると自己負担割合が軽減され、所得に応じた月額上限額が設定されます。小児期発症例では小児慢性特定疾病の対象となる場合があるため、主治医に確認してください。視力・視野障害が残った場合は身体障害者手帳(視覚障害)の対象となり得るほか、障害の程度によっては障害年金の対象となることもあります。高額療養費制度も併用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー(医療福祉相談室)、保健所の難病担当保健師などがあり、就労に関する相談はハローワークの難病患者就職サポーターなども利用できます。
下垂体性PRL分泌亢進症に伴う心のケア・心理社会的支援
慢性疾患や難病の診断を受けることは、それ自体が大きな心理的負担となり、不安、気分の落ち込み、適応障害などが生じることがあります。本症に特有の課題として、生殖年齢の女性に多く、無月経や不妊、乳汁漏出といった人に相談しにくい症状がしばしば悩みの中心になります。男性では性欲低下や勃起障害が自尊心やパートナー関係に影響し、受診の遅れにもつながりがちです。さらに、ドパミン作動薬により気分変化や衝動制御障害が起こることがあり、元々の気分の問題との区別が難しい場合もあります。精神疾患の治療中に抗精神病薬による高PRL血症が見つかった場合には、精神科と内分泌科の連携が欠かせません。脳の腫瘍と聞いて強い不安を感じる方も多いですが、多くは良性で薬によく反応することを正しく理解することが安心につながります。気持ちのつらさや睡眠・食欲の変化が続くときは、遠慮せず主治医や看護師、心理士、精神科・心療内科に相談してください。パートナーや家族と病気について話し合うこと、患者会などで同じ経験をもつ人とつながることも支えになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
下垂体性PRL分泌亢進症の受診の目安
- 突然の激しい頭痛に、視力低下、物が二重に見える、意識がもうろうとするなどの症状を伴う場合は、下垂体卒中の可能性があり救急受診してください。
- 視野が狭くなった、横から来るものに気づきにくい、視力が急に落ちたと感じたら、早めに主治医や眼科を受診してください。
- 治療中に鼻から透明な水のような液体が流れ続ける場合や、その後の発熱・頭痛・首の硬さがある場合は髄液鼻漏や髄膜炎の可能性があり、すぐに受診してください。
- 強い倦怠感、食欲低下、吐き気、低血圧、ふらつきが続く場合は副腎機能低下の可能性があり、早めに受診してください。
- 妊娠がわかったとき、妊娠中に頭痛や見え方の変化が出たときは、速やかに主治医へ連絡してください。
- 内服中にギャンブル・買い物・過食などの衝動が抑えられない、気分の大きな変化、息切れやむくみが出た場合は、自己判断で中止せず主治医に相談してください。
下垂体性PRL分泌亢進症についてのよくある質問
Q. 脳の腫瘍と言われましたが、がんなのでしょうか?
A. プロラクチノーマのほとんどは良性腫瘍で、転移する下垂体癌はきわめてまれです。多くは飲み薬でホルモン値が正常化し、腫瘍も縮小します。腫瘍の大きさや性質は個人差があるため、具体的な見通しは主治医に確認してください。
Q. 薬はずっと飲み続ける必要がありますか?
A. 一定期間(目安として2年程度以上)PRLが正常で腫瘍も消失・縮小していれば、慎重に減量・中止を試みることがあります。ただし中止後に再発する方も少なくないため、中止後も定期的な検査が必要です。自己判断で中止せず、主治医と相談して決めましょう。
Q. 妊娠・出産はできますか?
A. 治療により排卵が回復し、妊娠できる方は多くいます。小さな腫瘍では妊娠判明後に薬を中止するのが一般的ですが、大きな腫瘍では妊娠中に増大するリスクがあるため、妊娠前から内分泌科・産科と計画を立てることが大切です。授乳の可否も主治医と相談してください。
Q. 血液検査でPRLが高いと言われましたが、必ずこの病気ですか?
A. PRLはストレス、採血時の緊張、薬、甲状腺機能低下症、腎機能低下、妊娠などでも上昇し、検査上だけ高く見えるマクロプロラクチン血症もあります。再検査や原因の確認、必要に応じたMRIで診断しますので、専門医の評価を受けてください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。