クッシング病
Cushing's Disease
クッシング病(Cushing's Disease)|クッシング病は、脳の下垂体にできた副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を過剰に分泌する腫瘍(多くは良性の小さな腺腫)が原因で、副腎からコルチゾールが過剰に分泌され続ける病気です。20〜50歳代の女性に多くみられます。満月様顔貌や中心性肥満などの外見の変化に加え、高血圧・糖尿病・骨粗鬆症・感染症・血栓症・うつ症状などが全身に起こります。放置すると生命予後に影響するため、早期の診断と専門施設での治療が重要です。
クッシング病の要点
クッシング病は、下垂体のACTH産生腫瘍(多くは良性の微小腺腫)により副腎からコルチゾールが過剰に分泌され続ける内分泌疾患です。満月様顔貌・中心性肥満・高血圧・糖尿病・骨粗鬆症・感染症などが現れ、日本では指定難病(告示番号75)に指定されています。
| 別名・略称 | 下垂体性クッシング症候群、ACTH産生下垂体腺腫、ACTH産生下垂体神経内分泌腫瘍、Cushing disease |
|---|---|
| 分野 | 内分泌疾患 |
| 好発年齢・性別 | 20〜50歳代の女性に多い |
| 主な症状 | 満月様顔貌、中心性肥満、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、感染症、血栓症、うつ症状 |
| 主な検査 | 血中・唾液・尿のコルチゾールとACTH測定、デキサメタゾン抑制試験、下垂体MRI |
| 主な治療 | 下垂体腺腫の摘出手術が中心(薬物療法・放射線治療を併用する場合もある) |
| 受診する主な診療科 | 内分泌内科、脳神経外科 |
| 難病指定 | 指定難病(告示番号75) |
クッシング病とは
クッシング病は、下垂体前葉のACTH産生細胞(corticotroph)由来の腫瘍がACTHを自律的に過剰分泌し、その刺激で両側の副腎皮質が過形成となってコルチゾールが慢性的に過剰となる病態です。コルチゾール過剰による症候群全体をクッシング症候群と呼び、そのうち下垂体腫瘍が原因のものを特にクッシング病と呼びます。腫瘍の大部分は直径10mm未満の微小腺腫(microadenoma)で、MRIでも見えにくいことが少なくありません。腫瘍は通常は良性ですが、ホルモン過剰による全身への影響が大きいことが本症の本質であり、日本では指定難病(告示番号75)に指定されています。
クッシング症候群は、ACTHの過剰によって起こるACTH依存性(クッシング病、異所性ACTH産生腫瘍)と、副腎自体の病変によるACTH非依存性(副腎腺腫・副腎癌・両側副腎過形成など)に大別され、これとは別に治療薬としてのステロイドによる医原性クッシング症候群があります。1912年に米国の脳神経外科医ハーヴェイ・クッシングが特徴的な症例を報告し、1932年に下垂体の好塩基性腺腫との関連を示したことが病名の由来です。近年のWHO分類では下垂体腺腫は下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)とも呼ばれ、転写因子TPITを発現するcorticotroph系腫瘍に分類されます。また日本では、典型的な身体症状に乏しいものの検査上コルチゾールの自律分泌が示されるサブクリニカルクッシング病という概念も診療の手引きで扱われています。
クッシング病の疫学・患者数
クッシング病はまれな疾患で、海外の報告では年間発症率は人口100万人あたり数人程度とされています。日本でも指定難病の受給者は限られた数にとどまり、全国の内分泌・下垂体専門施設に患者が集約される傾向があります。欧米では内因性クッシング症候群の過半数をクッシング病が占めるとされますが、日本では副腎性クッシング症候群の割合が比較的高いことが報告されています。女性に多く(男性の数倍)、診断時年齢は20〜50歳代が中心ですが、小児や高齢者にも発症します。小児・思春期では、ACTH依存性のなかでクッシング病の比率が高いとされます。症状がゆっくり進行し、肥満・高血圧・糖尿病などのありふれた病気と区別しにくいため、発症から診断まで数年を要する例が少なくないことも特徴です。
クッシング病の原因・病態生理
クッシング病の大多数は遺伝しない孤発性で、腫瘍細胞に後天的に生じた体細胞変異が原因と考えられています。代表的なものとして、脱ユビキチン化酵素をコードするUSP8遺伝子の体細胞変異がクッシング病腫瘍の相当数(報告により3〜6割程度)で見つかっており、日本の研究グループの貢献も大きい領域です。USP8変異は上皮成長因子受容体(EGFR)の分解を妨げ、その結果ACTHの前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)の転写が促進されると考えられています。そのほかUSP48やBRAFなどの変異も報告されています。ごく一部は多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)などの遺伝性腫瘍症候群の一部として発症することがあります。自己免疫や血小板の異常が原因となる病気ではありません。
正常なACTH分泌は、視床下部のCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)とバソプレシンによって刺激され、副腎から出たコルチゾールが視床下部・下垂体を抑制するネガティブフィードバックによって調節され、朝高く夜低い日内リズムを示します。クッシング病の腫瘍細胞はこのフィードバックへの感受性が低下しており、コルチゾールが高くてもACTHを出し続けるため、日内リズムが消失し深夜もコルチゾールが高い状態となります。ただし、腫瘍は大量のデキサメタゾンでは部分的に抑制されることが多く、またCRHやデスモプレシンに反応してACTHを分泌する性質を残しており、これが診断に利用されます。過剰なコルチゾールは、肝臓での糖新生とインスリン抵抗性を高めて高血糖を招き、筋肉・皮膚・骨の蛋白分解を促して筋力低下・皮膚菲薄化・骨粗鬆症を生じ、脂肪を体幹や顔面、項部に再分布させます。高濃度では腎臓でのコルチゾール不活化(11β-HSD2)の処理能力を超えてミネラルコルチコイド作用を示し、高血圧や低カリウム血症をきたします。さらに免疫抑制による易感染性、凝固因子増加による血栓傾向、性腺・甲状腺・成長ホルモン系の抑制、中枢神経への作用による精神症状など、多彩な全身症状が生じます。一方、腫瘍以外の正常なACTH産生細胞は長期間抑制されているため、腫瘍摘出後には一時的な副腎皮質機能低下が起こります。
クッシング病の症状
- 満月様顔貌(ムーンフェイス): 顔が丸くふっくらし、頬が赤みを帯びます。昔の写真と比べると変化に気づきやすい特徴的な所見です。
- 中心性肥満・野牛肩: お腹まわりや体幹に脂肪がつく一方で手足は細くなり、首の後ろから肩にかけて脂肪が盛り上がります(野牛肩、buffalo hump)。鎖骨上窩の脂肪沈着もみられます。
- 赤紫色の皮膚線条: 腹部・大腿・臀部などに幅の広い(1cm以上のことも多い)赤紫色の線が現れます。通常の妊娠線や肥満線より色が濃く幅が広いのが特徴です。
- 皮膚の菲薄化・あざ(皮下出血): 皮膚が薄くなり、軽くぶつけただけで紫色のあざができやすくなります。血小板の異常ではなく、皮膚や血管周囲の結合組織の脆弱化によるものです。
- 近位筋の筋力低下: 太ももや上腕の筋肉が落ち、椅子から立ち上がる、階段を上るといった動作がつらくなります(ステロイドミオパチー)。
- 高血圧: 大半の患者にみられ、若年者でも治療抵抗性の高血圧となることがあります。低カリウム血症を伴う場合もあります。
- 糖尿病・耐糖能異常: インスリン抵抗性により血糖値が上昇し、新たに糖尿病が見つかったり既存の糖尿病が急に悪化したりします。
- 骨粗鬆症・骨折: 若年でも骨密度が低下し、腰や背中の痛みを伴う脊椎圧迫骨折や肋骨骨折を起こすことがあります。
- 月経異常・多毛・ざ瘡: 女性では月経不順や無月経、顔や体の毛深さ、にきびがみられます。男性では性欲低下や勃起障害が生じることがあります。
- 精神症状・睡眠障害: 抑うつ、不安、イライラ、不眠、集中力や記憶力の低下が高頻度にみられ、まれに躁状態や精神病症状を呈します。
- 易感染性・浮腫: 免疫が抑えられて感染症にかかりやすく治りにくくなり、真菌感染や傷の治りにくさが目立つことがあります。むくみもよくみられます。
- 小児の成長障害: 子どもでは、体重が増えているのに身長の伸びが止まる・鈍るという特徴的なパターンが重要な手がかりになります。
クッシング病の経過と合併症
クッシング病は通常、数年かけてゆっくり進行します。初期には体重増加、むくみ、血圧や血糖の上昇、月経不順、気分の落ち込みなど非特異的な変化のみで、生活習慣病やストレスと考えられて見過ごされがちです。進行すると典型的な身体所見がそろい、筋力低下や骨折で日常生活に支障をきたします。まれにコルチゾール分泌が周期的に増減する周期性クッシング症候群の形をとり、検査のタイミングによっては異常がとらえられないことがあります。腫瘍自体は小さいことが多いものの、大きな腺腫(macroadenoma)では視神経の圧迫による視野障害や他の下垂体ホルモン低下を生じることがあり、ごく一部は浸潤性・難治性の経過をとります。自然に治ることは基本的になく、未治療のまま経過すると合併症によって生命予後が悪化します。
主な合併症として、心血管疾患(高血圧、心肥大、冠動脈疾患、脳卒中)、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症。手術前後に特に注意)、重症感染症(肺炎、敗血症、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染)、糖尿病とその合併症、脂質異常症、脂肪肝、骨粗鬆症による骨折、大腿骨頭壊死、尿路結石、緑内障・白内障、うつ病などの精神疾患があります。高度のコルチゾール過剰では、感染症や血栓症、重度の低カリウム血症が急速に命にかかわることがあり、緊急的なコルチゾール低下治療が必要になる場合もあります。小児では最終身長の低下や思春期の遅れが問題となります。
クッシング病の診断・診断基準
診断は、日本内分泌学会・間脳下垂体機能障害に関する調査研究班の「診断と治療の手引き」などに沿って段階的に進めます。第1段階は、特徴的な身体所見(満月様顔貌、中心性肥満、赤紫色皮膚線条、皮膚の菲薄化など)や、年齢に見合わない高血圧・糖尿病・骨粗鬆症の組み合わせから本症を疑うことです。第2段階では、コルチゾールの過剰分泌と自律性(デキサメタゾンで抑制されない、深夜にも高値)を確認します。この際、ステロイド薬(内服・注射・吸入・外用・関節内注射など)の使用歴を必ず確認し、医原性クッシング症候群を除外します。第3段階では、血中ACTHが抑制されていないことからACTH依存性であることを確かめ、さらに大量デキサメタゾン抑制試験やCRH試験・デスモプレシン試験で下垂体性か異所性かを推定します。第4段階として下垂体MRIで腫瘍の局在を確認しますが、微小腺腫はMRIで描出されないことも多く、その場合や検査結果が食い違う場合には、海綿静脈洞・下錐体静脈洞サンプリングで下垂体由来であることを直接証明します。うつ病、アルコール多飲、重度肥満、コントロール不良の糖尿病などでも一時的にコルチゾールが高くなる偽性クッシング状態があるため、結果は臨床像と合わせて専門医が総合的に判断します。
- 早朝の血中ACTH・コルチゾール同時測定: コルチゾールが正常〜高値であるにもかかわらずACTHが抑制されず正常〜高値であれば、ACTH依存性を示唆します。副腎性ではACTHが低く抑制されます。
- 少量デキサメタゾン抑制試験: 前夜に少量のデキサメタゾン(日本の手引きでは0.5mgが用いられる)を内服し、翌朝のコルチゾールが十分に抑制されないことでコルチゾールの自律分泌を示します。スクリーニングの中心となる検査です。
- 深夜血中・唾液中コルチゾール: 本来最も低くなる深夜にもコルチゾールが高値であれば、日内リズムの消失を示します。唾液検体では入院せずに評価できる利点があります。
- 24時間尿中遊離コルチゾール: 1日のコルチゾール総分泌量の指標で、高値は過剰分泌を支持します。日による変動があるため複数回の測定が勧められます。
- デスモプレシン(DDAVP)試験・CRH試験: クッシング病の腫瘍はこれらの刺激に反応してACTHが上昇することが多く、異所性ACTH産生腫瘍や偽性クッシング状態との鑑別に役立ちます。
- 大量デキサメタゾン抑制試験(8mg): クッシング病では大量投与でコルチゾールが部分的に抑制されることが多いのに対し、異所性ACTH産生腫瘍では抑制されにくい傾向があります。
- 下垂体MRI(ダイナミック造影を含む): 腫瘍の位置・大きさ・海綿静脈洞への進展を評価します。微小腺腫は通常のMRIで見つからないことも多く、薄いスライスや造影早期相の撮像が工夫されます。
- 海綿静脈洞・下錐体静脈洞サンプリング: カテーテルで下垂体近傍の静脈血を採取し、末梢血に比べてACTHが有意に高いことで下垂体由来を証明します。MRIで腫瘍が不明な場合や結果が一致しない場合に専門施設で行われます。
- 合併症の評価: 血圧、血糖・HbA1c、脂質、電解質(低カリウム)、骨密度、他の下垂体ホルモン、視野、精神状態などを評価し、治療計画や周術期管理に反映させます。
クッシング病と鑑別すべき疾患
- 異所性ACTH産生腫瘍: 肺・胸腺・膵臓などの神経内分泌腫瘍や小細胞肺癌がACTHを産生するもので、ACTHが著明高値で急速進行・低カリウム血症・色素沈着が目立ちやすく、大量デキサメタゾンやCRH/DDAVPへの反応や静脈洞サンプリングで鑑別します。
- 副腎性クッシング症候群(副腎腺腫・副腎癌・両側副腎過形成): 副腎そのものがコルチゾールを産生するため血中ACTHが抑制されている点が決定的な違いで、副腎CTで病変を確認します。
- 医原性(外因性)クッシング症候群: ステロイド薬の使用によるもので、内因性コルチゾールとACTHはむしろ低値となり、吸入・外用・関節内注射を含む詳細な薬歴聴取が重要です。
- 偽性クッシング状態: うつ病、アルコール多飲、重度肥満、睡眠障害などでコルチゾールが軽度上昇する状態で、原因の改善で正常化し、DDAVP試験への反応が乏しいことなどが参考になります。
- 単純性肥満・メタボリックシンドローム: 肥満・高血圧・糖尿病は共通しますが、皮膚の菲薄化、易出血性のあざ、幅広い赤紫色線条、近位筋力低下を伴うことは少なく、コルチゾール検査は正常です。
- 多嚢胞性卵巣症候群: 月経異常・多毛・ざ瘡・肥満が共通しますが、コルチゾールの自律分泌はみられず、超音波での卵巣所見やLH・アンドロゲン値の特徴で区別します。
クッシング病の治療
治療の目標は、コルチゾール過剰を是正して正常化(寛解)させ、合併症を改善し、生命予後とQOLを回復させることです。第一選択は、経験豊富な脳神経外科医による経蝶形骨洞手術(鼻腔から下垂体に到達する手術。内視鏡や顕微鏡を用いる)での腫瘍摘出です。手術で寛解が得られない場合や再発した場合、手術が困難な場合には、再手術、放射線治療、薬物療法、最終手段として両側副腎摘出術を組み合わせて検討します。高度のコルチゾール過剰で全身状態が悪い場合には、術前に薬物でコルチゾールを下げてから手術に臨むこともあります。並行して、高血圧・糖尿病・骨粗鬆症・血栓症・感染症などの合併症を積極的に治療することが重要です。内分泌内科、脳神経外科、放射線科、眼科、精神科などが連携するチーム医療が望ましく、治療方針は個々の病状に応じて主治医・専門医と十分に相談して決定します。
- 経蝶形骨洞手術(下垂体腺腫摘出術): 根治が期待できる第一選択の治療で、MRIで腫瘍が確認できる微小腺腫では高い寛解率が報告されています。成績は術者・施設の経験に大きく左右されるため、下垂体手術の症例数が多い専門施設での実施が勧められます。
- 術後のステロイド補充と副腎不全対策: 腫瘍摘出に成功すると、抑制されていた正常なACTH分泌が回復するまで一時的に副腎不全となるため、ヒドロコルチゾールの補充を行い、数か月〜1年以上かけて減量・中止します。術後早期のコルチゾール低値は寛解の指標ともなります。
- 再手術: 術後に寛解が得られない場合や再発時に、腫瘍の残存部位が推定できれば再手術が検討されます。初回より寛解率は低く、下垂体機能低下のリスクが高まる点を考慮します。
- 放射線治療(定位放射線治療・分割照射): 手術で治らない場合や再発例に行われ、ガンマナイフなどの定位放射線治療や分割照射があります。効果発現まで数か月〜数年かかるため、その間は薬物療法を併用し、長期的には下垂体機能低下に注意します。
- 副腎ステロイド合成阻害薬: 副腎でのコルチゾール合成を抑える薬で、日本ではメチラポンやオシロドロスタットなどがクッシング症候群に対して用いられています。効果が比較的早く、術前や放射線治療の効果待ちの期間にも使われますが、過剰に効くと副腎不全を起こすため慎重な用量調整が必要です。
- 下垂体に作用する薬剤: ソマトスタチン受容体に作用するパシレオチドは腫瘍からのACTH分泌を抑える作用があり、クッシング病に用いられることがあります。高血糖などの副作用に注意が必要で、各薬剤の保険適用範囲は主治医に確認してください。
- 両側副腎摘出術: 他の治療で制御できない重症例でコルチゾール過剰を確実に止める方法ですが、生涯にわたる副腎皮質ホルモンの補充が必要となり、下垂体腫瘍が増大して皮膚の色素沈着をきたすネルソン症候群に注意して経過観察します。
- 合併症の治療と予防: 降圧薬、糖尿病治療、骨粗鬆症治療薬、カリウム補充、必要に応じた血栓予防や感染予防を行います。コルチゾールが正常化しても高血圧・糖尿病・骨粗鬆症が残ることがあり、継続的な管理が必要です。
- リハビリテーション・生活支援: 筋力低下や骨折リスクに対する運動療法、体重・食事管理、精神症状への心理的支援や精神科との連携など、回復期のQOL向上を目指したケアを行います。
クッシング病の予後・長期フォロー
未治療のクッシング病は、心血管疾患・感染症・血栓症などにより死亡率が高いことが歴史的に知られています。適切な治療で寛解が得られると、死亡リスクは大きく改善し、外見の変化や血圧・血糖、筋力、骨密度も多くの場合時間をかけて回復します。特に専門施設での初回手術で寛解した例の予後は良好です。ただし、寛解後も心血管リスクの一部が残ることや、疲労感・気分の落ち込み・認知機能の低下・体型への悩みなどQOLの低下が長く続くことがあると報告されています。また術後には、ステロイド補充を減らしていく過程で倦怠感・関節痛・筋肉痛・気分の変化などが現れるステロイド離脱症状がみられることがあり、回復には数か月から1年以上かかることもあります。
クッシング病は手術で寛解しても、数年〜十数年後に再発することがあり(報告により1〜2割程度)、生涯にわたる定期的な経過観察が必要です。フォローアップでは、深夜唾液・血中コルチゾール、少量デキサメタゾン抑制試験、尿中遊離コルチゾールなどによる再発の監視、下垂体MRI、他の下垂体ホルモン(甲状腺・性腺・成長ホルモンなど)の評価と必要な補充、ステロイド補充中の副腎不全対策、血圧・血糖・脂質・骨密度などの合併症管理、精神面の評価を行います。放射線治療を受けた人では、晩期の下垂体機能低下に注意して長期的に観察します。小児では成長と思春期発来の評価も重要です。
クッシング病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
治療前や寛解前の時期は、感染症にかかりやすいため手洗い・口腔ケア・皮膚の清潔を心がけ、発熱時は早めに受診しましょう。骨折しやすいため転倒予防(室内の段差解消、滑りにくい履物)を工夫し、医師と相談のうえで無理のない範囲で運動を続けることが筋力と骨の維持に役立ちます。長時間の同一姿勢を避け、手術前後は特に血栓予防の指示を守ってください。食事は塩分と糖質、総エネルギーを適正にし、十分な蛋白質・カルシウム・ビタミンDを摂ることが推奨されます。術後や副腎摘出後にステロイド補充を受けている人は、自己判断で薬を中止しないことが最も重要です。発熱・嘔吐・下痢・けがなど体に負担がかかるときは、あらかじめ主治医と決めておいたシックデイ・ルール(一時的な増量など)に従い、内服できない場合は速やかに医療機関を受診してください。ステロイド補充中であることを示すカードや緊急連絡先を携帯すると、緊急時に役立ちます。妊娠を希望する場合は、コルチゾール過剰が妊娠経過に影響するため、事前に主治医へ相談しましょう。クッシング病のほとんどは遺伝しないため、家族が検査を受ける必要は通常ありませんが、MEN1など遺伝性腫瘍症候群が疑われる家族歴(副甲状腺・膵臓の腫瘍など)がある場合は、遺伝カウンセリングを受けられる専門外来に相談してください。
利用できる制度・相談窓口
クッシング病は指定難病であり、診断基準を満たし重症度基準に該当する場合(または軽症でも医療費が一定以上かかる「軽症高額該当」の場合)、指定医の作成した臨床調査個人票を添えて都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成(自己負担割合の軽減と所得に応じた月額上限)を受けられます。18歳未満(継続の場合20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があります。手術や入院で医療費が高額になる場合は、健康保険の高額療養費制度や限度額適用認定証を利用できます。病気により就労や日常生活に長期的な支障がある場合には、症状の程度に応じて障害年金の対象となる可能性があり、休職中は傷病手当金を利用できる場合があります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー(医療相談室)、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあり、制度の利用や就労・就学の両立について相談できます。下垂体疾患の患者会の情報も、同じ病気の経験者とつながる助けになります。
クッシング病に伴う心のケア・心理社会的支援
クッシング病では、コルチゾール過剰そのものが脳に作用して、抑うつ・不安・不眠・イライラ・集中力や記憶力の低下を高い頻度で引き起こします。これは本人の性格や気の持ちようの問題ではなく、病気の症状の一つです。さらに、顔つきや体型が大きく変わることによる外見への悩み、人前に出ることへの抵抗感、診断がつくまでの長い期間に「太っただけ」「怠けている」と誤解された経験なども、心に大きな負担を残します。治療後も、ステロイド離脱期の強い倦怠感や気分の落ち込み、外見の回復に時間がかかることへの焦り、再発への不安が続くことがあり、適応障害やうつ病として専門的な治療が必要になる場合もあります。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、何事にも興味が持てない、死にたい気持ちが浮かぶといった場合は、ためらわずに主治医に伝え、精神科・心療内科や臨床心理士への相談を検討してください。家族や職場・学校が「病気による変化である」と理解し、回復には時間がかかることを共有することも、本人の大きな支えとなります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
クッシング病の受診の目安
- 顔が丸くなる、お腹まわりだけ太る、首の後ろが盛り上がる、腹部に幅の広い赤紫色の線ができるなどの変化が続く場合は、内科・内分泌内科を受診してください。
- 若い年齢で高血圧や糖尿病、骨粗鬆症・骨折が見つかった場合や、治療をしても血圧・血糖のコントロールが急に悪くなった場合は、ホルモンの検査について相談しましょう。
- 子どもで体重は増えているのに身長の伸びが止まった場合は、小児科(小児内分泌)を受診してください。
- 高熱、強い息苦しさ、片脚の急な腫れや痛み、胸の痛みがある場合は、重い感染症や血栓症の可能性があるため救急受診してください。
- ステロイド補充中に、強いだるさ・吐き気や嘔吐・腹痛・意識がぼんやりする・血圧低下などがあれば副腎不全(副腎クリーゼ)の可能性があり、すぐに医療機関を受診してください。
- 強い落ち込みや死にたい気持ち、眠れない状態が続くときは、早めに主治医や精神科に相談してください。
クッシング病についてのよくある質問
Q. クッシング病とクッシング症候群は違うのですか?
A. クッシング症候群は、原因を問わずコルチゾール過剰によって起こる症状の総称です。そのうち、下垂体のACTH産生腫瘍が原因のものをクッシング病と呼びます。副腎の腫瘍や他の臓器の腫瘍、ステロイド薬が原因の場合は治療法が異なるため、原因の特定が重要です。
Q. 手術で治りますか?
A. 経験豊富な専門施設で手術を受けると、多くの方が寛解に至ると報告されています。ただし腫瘍が小さく見えない場合や周囲に広がっている場合は寛解率が下がり、寛解しても数年後に再発することがあります。そのため手術後も定期的な検査が欠かせません。
Q. 手術後にステロイドを飲むのはなぜですか?
A. 長い間腫瘍がACTHを出していたため、正常な下垂体の働きが眠った状態になっており、腫瘍を取ると一時的にコルチゾールが不足するからです。体が回復するまでの間、ヒドロコルチゾールで補い、徐々に減らしていきます。自己判断で中止すると危険なため、必ず主治医の指示に従ってください。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. クッシング病のほとんどは腫瘍の細胞だけに起こった遺伝子変化が原因で、親から子へ遺伝するものではありません。ごく一部はMEN1などの遺伝性腫瘍症候群に伴って起こることがあり、そうした家族歴がある場合は遺伝カウンセリングで相談できます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。