下垂体性成長ホルモン分泌亢進症
Pituitary Growth Hormone Hypersecretion Syndrome
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(Pituitary Growth Hormone Hypersecretion Syndrome)|下垂体性成長ホルモン分泌亢進症は、主に脳下垂体の良性腫瘍(GH産生下垂体腺腫)が成長ホルモン(GH)を過剰に分泌し続ける内分泌疾患です。骨端線が閉じた成人では手足や顔貌が変化する先端巨大症に、成長期の小児・思春期では著しい高身長を示す下垂体性巨人症になります。進行はゆっくりで本人も周囲も気づきにくい一方、糖尿病・高血圧・心臓病・睡眠時無呼吸などを合併し、治療しなければ寿命が短くなるため、早期の診断と適切な治療が大切です。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の要点
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症は、主にGH産生下垂体腺腫から成長ホルモンが過剰に分泌され、成人では先端巨大症、成長期の小児では下垂体性巨人症となる内分泌疾患です。手足や顔貌の変化、高身長、糖尿病・高血圧などを伴い、国の指定難病に含まれます。
| 別名・略称 | 先端巨大症、末端肥大症、アクロメガリー、下垂体性巨人症、巨人症、acromegaly、pituitary gigantism |
|---|---|
| 分野 | 内分泌疾患 |
| 遺伝形式 | 大部分は孤発性で、遺伝しないことが多い |
| 好発年齢 | 成人(中年期)で診断されることが多い。骨端線閉鎖前の発症は巨人症になる |
| 主な症状 | 手足・顔貌の変化、高身長(巨人症)、頭痛、発汗過多、糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸 |
| 主な検査 | 血中GH・IGF-1測定、ブドウ糖負荷試験でのGH抑制不良、下垂体MRI |
| 主な治療 | 経蝶形骨洞手術が基本。薬物療法(ソマトスタチンアナログなど)や放射線治療も行う |
| 受診する主な診療科 | 内分泌内科、脳神経外科(小児は小児内分泌科) |
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症とは
本症は、下垂体前葉からのGHの自律的・過剰な分泌と、それを受けて主に肝臓で作られるインスリン様成長因子-1(IGF-1)の慢性的な高値によって起こる症候群です。日本では指定難病(告示番号77)の一つで、「間脳下垂体機能障害」に含まれます。GHとIGF-1は骨や軟部組織、内臓の成長を促すだけでなく、糖や脂質の代謝、体内の水分・塩分の調節にも関わります。そのため、本症では外見の変化だけでなく、全身の代謝や心臓・血管にも長期的な影響が及びます。本症は免疫異常や感染による病気ではなく、ホルモンを過剰に作る下垂体腫瘍による病気です。
病型は発症時期によって分かれます。骨端線閉鎖後の発症では骨が縦に伸びないため、手足・下顎・眉弓・鼻・舌など末端部や軟部組織が肥大する先端巨大症になります。骨端線閉鎖前に発症すると身長が異常に伸びて下垂体性巨人症となり、思春期以降も持続すれば両者の特徴を併せ持ちます。原因の大部分(95%以上とされる)はGH産生下垂体腺腫で、近年のWHO分類では下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)とも呼ばれます。まれに膵・肺などの神経内分泌腫瘍が成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)を異所性に産生して起こる場合もあります。腫瘍は大きさ10 mm未満の微小腺腫と10 mm以上の大腺腫に分けられ、診断時には大腺腫が多いとされます。歴史的には19世紀末にフランスの神経学者Pierre Marieが『acromégalie(先端巨大症)』と命名し、その後、下垂体腫瘍との関連が明らかにされました。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の疫学・患者数
国内外の報告では、有病率は人口100万人あたりおおむね数十人、年間の新規発症は100万人あたり数人程度とされ、まれな疾患です。日本でも同程度と推定されており、指定難病の医療受給者証の所持者は数千人規模とされます。診断時の年齢は40〜50歳代が多いものの、20歳代から高齢者まで幅広くみられ、明らかな性差はないか、わずかとされます。小児期発症の巨人症は極めてまれです。特徴的な外見の変化はゆっくり進むため、症状の出始めから診断までに平均で数年〜10年程度かかるとの報告が多く、歯科治療での噛み合わせの変化、靴や指輪のサイズ変化、睡眠時無呼吸、糖尿病の精査などをきっかけに見つかることも少なくありません。近年は健診やほかの目的で撮影した頭部MRIで偶然発見される例もあります。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の原因・病態生理
大部分は孤発性(遺伝しない)のGH産生下垂体腺腫です。腫瘍細胞内で体細胞変異が起き、GHを作る指令が入り続けることが原因の一つです。代表的なのはGNAS遺伝子の体細胞変異(gsp変異)で、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)が持続的に増え、GH分泌と細胞増殖が促されます。GH産生腺腫の数十%にみられるとされ、日本人では頻度が高めとの報告もあります。一方、少数ながら遺伝性の背景を持つ例もあり、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1遺伝子)、家族性孤発性下垂体腺腫(AIP遺伝子などが関与)、カーニー複合(PRKAR1A遺伝子)、マッキューン・オルブライト症候群(GNAS遺伝子のモザイク変異)、乳幼児期から著しい過成長を示すX連鎖性先端巨大症(X-LAG、GPR101遺伝子領域の重複)などが知られています。若年発症、巨人症、家族内発症、大きく浸潤性の腫瘍では、遺伝的背景を考慮します。
GHは本来、視床下部のGHRH(促進)とソマトスタチン(抑制)、胃から出るグレリンなどにより調節され、1日のうち脈を打つように分泌されます。また、IGF-1が増えるとGH分泌が抑えられるという負のフィードバックが働き、ブドウ糖を飲むとGHは低下します。腺腫ではこの調節が効かず、GHが持続的に分泌され、ブドウ糖負荷でも十分に下がりません。過剰なGHは肝臓などでIGF-1を増やし、IGF-1が骨膜・軟骨・皮膚・結合組織・内臓の細胞増殖を促します。その結果、骨膜性の骨肥厚、関節軟骨の増殖、軟部組織の肥厚、心臓や甲状腺など内臓の腫大が起こります。GHそのものには抗インスリン作用や脂肪分解作用、腎尿細管でのナトリウム再吸収促進作用があり、インスリン抵抗性・耐糖能異常・高血圧・体液貯留の原因となります。さらに腫瘍が大きくなると、上方の視交叉を圧迫して視野障害を、周囲の正常下垂体を圧迫して他のホルモン(性腺・甲状腺・副腎)の分泌低下を、海綿静脈洞に浸潤して脳神経症状を起こすことがあります。腫瘍の一部はプロラクチン(PRL)も同時に産生します。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の症状
- 手足の肥大: 手指が太く厚くなり、指輪がはまらない・靴のサイズが大きくなるなどで気づかれます。手掌が厚く柔らかくなるのも特徴です。
- 特徴的な顔貌の変化: 眉弓部の突出、鼻や口唇の肥大、下顎の突出(受け口)がゆっくり進みます。昔の写真と比べて初めて変化に気づくことも多いです。
- 巨大舌・噛み合わせの変化: 舌が大きくなり、歯の間隔が開いたり噛み合わせがずれたりします。いびきや発音のしにくさの原因にもなります。
- 高身長(巨人症): 小児・思春期発症では、家族や同年代と比べて明らかに急速な身長の伸びがみられます。
- 発汗過多・皮膚の変化: 汗が多く、皮膚が厚く脂っぽくなります。軟性線維腫(皮膚のいぼ状の突起)が増えることもあります。
- 頭痛: 腫瘍自体の影響のほか、GH過剰そのものでも頭痛がみられ、比較的頻度の高い症状です。
- 視野障害: 大きな腫瘍が視交叉を圧迫すると、両目の外側が見えにくくなる両耳側半盲などが起こります。
- 関節痛・手根管症候群: 関節軟骨や軟部組織の肥厚により、膝・股・脊椎などの関節痛や、手のしびれ(正中神経の圧迫)が起こります。
- いびき・睡眠時無呼吸: 舌や上気道の軟部組織が肥厚するため、いびきや睡眠中の呼吸停止、日中の眠気が生じます。
- 口渇・多尿などの高血糖症状: インスリンの効きが悪くなり、糖尿病を発症・悪化させることがあります。
- 月経異常・性機能低下: 腫瘍による圧迫や同時に産生されるプロラクチンにより、月経不順、無月経、乳汁分泌、性欲低下、勃起障害などがみられます。
- 倦怠感・高血圧: 疲れやすさや筋力低下を訴えることが多く、体液貯留による高血圧も合併しやすくなります。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の経過と合併症
多くの場合、腺腫はゆっくり大きくなり、症状も年単位で進行します。発症時期をはっきり特定できない例が多く、診断時にはすでに顔貌や手足の変化、合併症が完成していることも少なくありません。骨や軟部組織の変化のうち、軟部組織の腫れや発汗、頭痛などは治療でGH・IGF-1が正常化すると改善しやすい一方、すでに生じた骨格の変形や関節症は元に戻りにくいため、早い段階で治療することが重要です。若年者の腫瘍は大きく浸潤性で薬が効きにくい傾向があるとされます。まれに腫瘍内出血や梗塞(下垂体卒中)を起こし、急激な頭痛・視力低下・意識障害で発症することがあります。
合併症は全身に及びます。心血管系では高血圧、左室肥大、拡張障害を中心とする先端巨大症性心筋症、不整脈、心臓弁膜症が知られ、未治療例の主な死因となります。代謝面では耐糖能異常・糖尿病、脂質異常症がみられます。呼吸器では閉塞性睡眠時無呼吸が多く、日中の眠気や心血管リスクを高めます。骨関節では変形性関節症、脊椎症、骨密度にかかわらず起こりうる椎体骨折、手根管症候群がみられます。消化管では大腸ポリープや大腸がんのリスクが高いとされ、甲状腺腫・甲状腺結節も多くみられます。さらに腫瘍の圧迫や手術・放射線治療の影響で下垂体前葉機能低下症が起こることがあり、ほかのホルモンの補充が必要となる場合があります。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の診断・診断基準
診断は、①特徴的な症状や外見の変化に気づくこと、②血液検査でGHの過剰分泌を確認すること、③画像で下垂体腫瘍を確認すること、の3段階で進みます。日本では日本内分泌学会などがまとめた『間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き』に沿って判断され、指定難病の申請もこの基準に基づきます。まず血中IGF-1が年齢・性別の基準値より高いかを調べ、次に75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)でGHが十分に抑制されないことを確認します。GHは1日の中で変動するため、1回の測定値だけでは判断しません。生化学的に確定した後、造影MRIで腫瘍の大きさや広がりを評価し、視野検査やほかの下垂体ホルモンの評価、合併症の検索をあわせて行います。
- 血中IGF-1測定: GHの1日の分泌量をよく反映し、スクリーニングと治療効果の判定に最も重要です。年齢・性別ごとの基準値(SDスコア)で評価し、肝疾患・低栄養・妊娠・経口エストロゲンなどの影響に注意します。
- 75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT): 健常者ではブドウ糖負荷でGHが低下しますが、本症ではGHの底値が国内基準の0.4 ng/mL未満に抑制されません。同時に耐糖能異常の評価にも役立ちます。
- 随時GH測定: 多くの例で高値ですが、正常範囲内のこともあり単独では診断に用いません。治療後の目標(随時GH 1 ng/mL未満など)の評価に用いられます。
- 下垂体造影MRI: 腫瘍の有無・大きさ・視交叉や海綿静脈洞への進展を評価し、治療方針決定の要となります。微小腺腫は造影のダイナミック撮影で見つかることがあります。
- TRH・LHRH負荷試験など(参考): 本来GHを刺激しない物質でGHが奇異性に上昇する反応がみられることがあり、補助的な所見とされます。
- 下垂体前葉機能評価: PRL、ACTH・コルチゾール、TSH・甲状腺ホルモン、LH・FSH・性ホルモンを測定し、同時産生や機能低下の有無を確認します。
- 眼科的検査(視力・視野): 大腺腫で視交叉の圧迫が疑われる場合に必須で、手術の緊急度や術後経過の指標になります。
- 合併症スクリーニング: 心エコー・心電図、血圧、HbA1c・脂質、睡眠ポリグラフ、大腸内視鏡、甲状腺エコー、骨密度・脊椎X線などで全身の合併症を評価します。
- 病理診断・遺伝学的検査: 手術標本でGH陽性腺腫と、その組織亜型(顆粒密型・顆粒疎型など)を確認し、薬の効きやすさの参考にします。若年発症や家族歴があれば遺伝カウンセリングのうえで遺伝学的検査を検討します。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症と鑑別すべき疾患
- 肥厚性皮膚骨膜症: 皮膚の肥厚やばち指、骨膜性骨肥厚が似ますが、GH・IGF-1は正常です。
- 偽性先端巨大症(高度インスリン抵抗性など): 先端巨大症様の外見を示しますが、IGF-1は高くなく、OGTTでGHは正常に抑制されます。
- 異所性GHRH産生腫瘍: 膵・肺などの神経内分泌腫瘍が原因で、血中GHRH高値や下垂体のびまん性腫大、下垂体外の腫瘍の存在で区別します。
- 体質性高身長・他の過成長症候群(ソトス症候群、マルファン症候群など): 高身長を示してもIGF-1やGHの自律的分泌はなく、骨年齢や特徴的な身体所見・遺伝学的所見で区別します。
- 原発性甲状腺機能低下症: 巨大舌や顔貌のむくみが似ることがありますが、甲状腺ホルモン低値とTSH高値で区別されます。
- プロラクチノーマなど他の下垂体腫瘍: 同じように下垂体腫瘍を認めても、IGF-1の上昇やGH抑制不全がない点で区別しますが、GHとPRLの同時産生腫瘍もあるため両者を測定します。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の治療
治療の目標は、①GHとIGF-1を正常化して合併症の進行を止め、生命予後を一般人口に近づけること、②腫瘍による圧迫症状(視野障害など)を解消し再増大を防ぐこと、③下垂体のほかの機能を保つこと、の3点です。国内の手引きでは、IGF-1が年齢・性別の基準範囲内に入ること、随時GHが1 ng/mL未満あるいはOGTTでのGH底値が0.4 ng/mL未満となることが、良好なコントロールの目安とされています。第一選択は多くの場合、経蝶形骨洞手術による腫瘍摘出で、手術で治りきらない場合や手術が難しい場合に薬物療法、さらに必要に応じて放射線治療を組み合わせます。高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸などの合併症の治療も並行して行います。治療法の選択は、腫瘍の大きさや浸潤の程度、年齢、合併症、本人の希望を踏まえて、内分泌内科医と脳神経外科医が連携して決めます。
- 経蝶形骨洞手術(内視鏡下・顕微鏡下): 鼻の奥から蝶形骨洞を経て腫瘍を取る手術で、第一選択です。微小腺腫や浸潤のない腫瘍では高い寛解率が期待でき、経験の豊富な施設での手術が望ましいとされます。
- ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド): GH分泌を抑え、腫瘍を縮小させることもある注射薬で、術後残存例や手術困難例に広く用いられます。胆石や消化器症状、耐糖能への影響に注意します。
- パシレオチド: 複数のソマトスタチン受容体に作用する薬剤で、従来のソマトスタチンアナログで効果不十分な例で検討されます。高血糖を起こしやすいため血糖管理が重要です。
- GH受容体拮抗薬(ペグビソマント): GHの作用を受容体レベルで遮断し、IGF-1を下げる注射薬です。腫瘍は縮小しないためMRIでの経過観察と肝機能のチェックが必要で、効果判定はIGF-1で行います。
- ドパミン作動薬(ブロモクリプチンなど): 軽度のIGF-1上昇やPRL同時産生例で用いられることがありますが、単独での効果は限定的とされます。
- 放射線治療(定位放射線治療・分割照射): 手術や薬で制御できない残存・再発腫瘍に用います。効果発現まで数年かかり、その間は薬物療法を併用し、下垂体機能低下の出現を長期に観察します。
- 術前薬物療法・併用療法: 大きな腫瘍や重い合併症がある場合に、術前にソマトスタチンアナログを用いたり、薬剤を組み合わせたりすることがあります。適応は専門医が個別に判断します。
- 合併症の治療とホルモン補充: 高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸(CPAPなど)・関節症の治療と、下垂体機能低下があれば副腎皮質・甲状腺・性ホルモンなどの補充を行います。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の予後・長期フォロー
未治療または治療で十分にコントロールされない場合、心血管疾患・呼吸器疾患・がんなどにより死亡率が一般人口より高くなり、余命が短くなると報告されています。一方、手術や薬物療法でGHとIGF-1が正常化すると、死亡率は一般人口とほぼ同等にまで改善するとされ、治療の意義は非常に大きいといえます。発汗、頭痛、軟部組織の腫れ、血圧や血糖は治療により改善しやすい一方、骨格の変形、変形性関節症、心筋の変化の一部は残ることがあり、関節痛や容姿の変化が長くQOLに影響する場合があります。近年は治療選択肢が増え、多くの患者さんが良好なコントロールを得られるようになっています。
本症は手術で寛解した後も、数年から十数年後に再発することがあるため、生涯にわたる定期的なフォローアップが勧められます。具体的には、IGF-1(必要に応じてOGTT)の定期測定、MRIによる腫瘍の評価、下垂体前葉機能の評価に加え、血圧・血糖・脂質、心臓、睡眠時無呼吸、大腸内視鏡、甲状腺、骨・関節の評価を継続します。薬物療法中は副作用の確認と効果に応じた用量調整、放射線治療後は遅れて現れる下垂体機能低下の確認が必要です。主治医と相談しながら検査の間隔を決めていきます。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
治療で病状が安定していれば、多くの方は仕事や家庭生活をこれまでどおり続けられます。日常では、①定期受診と注射・内服を自己判断で中断しない、②血圧や体重、血糖を意識し、塩分を控えたバランスのよい食事と適度な運動を続ける、③いびきや日中の眠気があれば睡眠時無呼吸の検査を受け、車の運転には注意する、④関節に負担をかけすぎない運動(水中運動など)を選ぶ、⑤大腸がん検診・歯科受診を定期的に受ける、といった点が大切です。下垂体機能低下で副腎皮質ホルモンを補充している方は、発熱・嘔吐時など体に強いストレスがかかる際の増量方法(シックデイ対応)を主治医と確認し、緊急時のカードを携帯すると安心です。妊娠を希望する場合は、治療薬の調整や妊娠中の腫瘍観察が必要になるため、事前に主治医と相談してください。大多数は遺伝しない孤発例ですが、若年発症や家族内に下垂体腫瘍・副甲状腺の病気・膵の腫瘍などがある場合は、遺伝カウンセリングを受けて家族の検査の必要性を相談できます。
利用できる制度・相談窓口
本症は指定難病(告示番号77、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判断される場合、または医療費が高額となる場合(軽症高額該当)に、都道府県・指定都市へ申請すると医療費助成を受けられます。申請には難病指定医の臨床調査個人票が必要で、自己負担は所得に応じた月額上限が設定されます。薬物療法は高額になりやすいため、制度の利用を主治医や病院の医療ソーシャルワーカーに相談するとよいでしょう。18歳未満で発症した下垂体性巨人症などは、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となりうるため、小児科主治医に確認してください。また、公的医療保険の高額療養費制度も利用できます。視野障害などで日常生活や就労に支障がある場合は、障害者手帳(視覚障害など)や障害年金の対象となる可能性があります。各都道府県の難病相談支援センター、保健所、ハローワークの難病患者就職サポーターなども、療養や就労の相談窓口として利用できます。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症に伴う心のケア・心理社会的支援
本症では、診断までに長い時間がかかったことへの戸惑いや、手術・長期の注射治療への不安、再発への心配など、慢性疾患に共通する心理的負担を抱えやすくなります。加えて、顔貌や手足の変化という目に見える変化が特徴的なため、外見へのコンプレックス、人前に出ることへの抵抗、自己評価の低下を感じる方が少なくありません。治療でホルモンが正常化しても骨格の変化は残ることがあり、「治ったはずなのに元の姿に戻らない」という喪失感が続く場合もあります。関節痛や倦怠感、睡眠障害、性機能の低下も気分の落ち込みに関係し、抑うつや不安障害、適応障害に至ることもあります。こうした気持ちは決して特別なことではありません。つらさが続くときは主治医や看護師に遠慮なく伝え、必要に応じて心療内科・精神科、公認心理師などの専門家に相談してください。家族が病気について理解し、通院や生活上の変化を一緒に支えることも大きな助けになります。患者会や難病相談支援センターで同じ病気の方と経験を共有することも、孤立感の軽減に役立ちます。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の受診の目安
- 指輪や靴のサイズが合わなくなる、顔つきが昔と変わった、噛み合わせが悪くなったなどの変化に気づいたら、内科(内分泌内科)を受診してください。
- 子どもの身長の伸びが急に加速した、家族や同年代と比べて著しく高い場合は、小児科(小児内分泌)に相談してください。
- 物の見え方が狭くなった、両目の外側が見えにくいと感じたら、早めに眼科または主治医を受診してください。
- 突然の激しい頭痛に急な視力低下・複視・吐き気・意識がもうろうとする症状を伴う場合は、下垂体卒中の可能性があるため救急受診してください。
- 副腎皮質ホルモン補充中に発熱・嘔吐・下痢が続き、強いだるさや血圧低下を感じた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 胸の痛み、息切れ、むくみ、強い口渇や多尿が出てきた場合も、合併症の悪化を考え早めに受診してください。
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症についてのよくある質問
Q. 先端巨大症は遺伝しますか?
A. ほとんどは遺伝しない孤発性の下垂体腺腫によるもので、お子さんに遺伝する心配は通常ありません。ただし、若年発症や家族内発症、MEN1などの遺伝性症候群が疑われる場合は、遺伝カウンセリングのうえで検査を検討することがあります。
Q. 手術すれば顔や手は元に戻りますか?
A. 軟部組織の腫れや発汗などは、GH・IGF-1が正常化すると改善することが多いです。一方で、骨格の変形はあまり元に戻らないため、早期診断・早期治療が重要とされています。
Q. 手術で治らなかった場合はどうなりますか?
A. ソマトスタチンアナログやGH受容体拮抗薬などの薬物療法、放射線治療、再手術などを組み合わせて、ホルモン値のコントロールを目指します。どの方法がよいかは腫瘍の状態や合併症により異なるため、主治医とよく相談してください。
Q. 治療が終わった後も通院は必要ですか?
A. 寛解した後でも数年以上たってから再発することや、下垂体機能低下・合併症が現れることがあるため、長期の定期受診が勧められます。検査の間隔は病状に応じて主治医と決めていきます。
関連記事(関連する指定難病)
- 下垂体性PRL分泌亢進症 Pituitary PRL Hypersecretion Syndrome
- クッシング病 Cushing's Disease
- 下垂体性TSH分泌亢進症 Pituitary TSH Hypersecretion Syndrome
- 下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症 Pituitary Gonadotropin Hypersecretion Syndrome
- 下垂体前葉機能低下症 Anterior Pituitary Hypofunction
- カーニー複合 Carney Complex
- 肥厚性皮膚骨膜症 Pachydermoperiostosis
- ソトス症候群 Sotos Syndrome
- 脂肪萎縮症 Lipodystrophy
同じ分野(内分泌疾患)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。