先天性副腎皮質酵素欠損症
Congenital Adrenal Cortex Enzyme Deficiency
先天性副腎皮質酵素欠損症(Congenital Adrenal Cortex Enzyme Deficiency)|先天性副腎皮質酵素欠損症は、副腎皮質でステロイドホルモン(コルチゾール、アルドステロン、性ホルモン)を合成する酵素が生まれつき働かないために起こる遺伝性疾患の総称です。一般に「先天性副腎過形成症(CAH)」とも呼ばれます。代表的な病型は21-水酸化酵素欠損症で、日本では新生児マススクリーニングの対象です。主な影響は、新生児期の命に関わる副腎不全(塩類喪失)、外性器の形の違い、思春期・成長・妊孕性の問題などです。病型によって症状や治療の内容は異なりますが、多くの場合、生涯にわたるホルモン補充と定期的な管理が必要になります。
先天性副腎皮質酵素欠損症の要点
副腎皮質でコルチゾールやアルドステロンなどを作る酵素が生まれつき働かず、ホルモンの不足や過剰が生じる遺伝性疾患の総称で、先天性副腎過形成症とも呼ばれます。新生児期の副腎不全(塩類喪失)や外性器の異常などがみられ、生涯のホルモン補充が必要な指定難病です。
| 別名・略称 | 先天性副腎過形成症、先天性副腎過形成、CAH、副腎性器症候群、congenital adrenal hyperplasia |
|---|---|
| 分野 | 内分泌疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 好発年齢 | 新生児期〜乳児期に発症(非古典型は思春期以降に判明することもある) |
| 主な症状 | 副腎不全(塩類喪失)、外性器の形の異常、思春期・成長の異常 |
| 主な検査 | 新生児マススクリーニング(17-OHP)、血中ホルモン測定、遺伝子検査 |
| 主な治療 | ヒドロコルチゾンなどのグルココルチコイド補充(必要に応じ鉱質コルチコイド補充) |
| 受診する主な診療科 | 小児内分泌科、内分泌内科 |
先天性副腎皮質酵素欠損症とは
先天性副腎皮質酵素欠損症は、コレステロールからコルチゾール、アルドステロン、副腎アンドロゲンを合成する経路(ステロイド合成経路)のいずれかの段階の酵素や輸送蛋白に、遺伝子の変化による先天的な欠損や機能低下が生じる疾患群です。コルチゾールが不足すると、下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌され、副腎が持続的に刺激されて肥大(過形成)します。その結果、障害部位より手前の前駆体ステロイドが蓄積し、別経路に流れ込みます。このため病型によって、①グルココルチコイド(コルチゾール)不足、②ミネラルコルチコイド(アルドステロン)の不足または過剰、③アンドロゲン(男性ホルモン)の過剰または不足という三つの軸の組み合わせで症状が決まります。指定難病(告示番号81)および小児慢性特定疾病の対象です。
主な病型は、21-水酸化酵素欠損症(CYP21A2遺伝子。全体の約9割を占める)、11β-水酸化酵素欠損症(CYP11B1)、17α-水酸化酵素欠損症(CYP17A1)、3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症(HSD3B2)、先天性リポイド副腎過形成症(主にStAR蛋白の異常。CYP11A1異常による類似病型もある)、P450オキシドレダクターゼ(POR)欠損症などです。21-水酸化酵素欠損症はさらに、塩類喪失を伴う「塩類喪失型」、塩類喪失が目立たずアンドロゲン過剰が主体の「単純男性化型」(この二つを古典型と呼ぶ)、思春期以降に軽い症状で見つかる「非古典型」に分けられます。歴史的には19世紀から「女性仮性半陰陽」と副腎の関係が知られ、1950年代にコルチゾン療法の有効性が示されて治療が確立しました。日本では1980年代後半から新生児マススクリーニングで血中17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)を測定する体制が全国で整備され、新生児期の副腎クリーゼによる死亡や、女児が男児と誤って判定されることは大きく減りました。現在は性分化疾患(DSD)の一つとしても位置づけられています。
先天性副腎皮質酵素欠損症の疫学・患者数
日本における21-水酸化酵素欠損症の頻度は、新生児マススクリーニングの成績から出生およそ1万5千〜2万人に1人程度と報告されており、毎年数十人規模の新規患者が見つかっています。古典型のうち塩類喪失型がおよそ3分の2を占めるとされます。欧米で比較的多い非古典型は、日本ではまれと考えられています。他の病型はいずれもまれですが、先天性リポイド副腎過形成症は日本や韓国では創始者変異の存在により欧米より相対的に多いことが知られており、日本では21-水酸化酵素欠損症に次いで多い病型とされます。POR欠損症も日本からの報告が比較的多い病型です。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝のため男女ともに発症しますが、外性器所見の現れ方には性差があり、21-水酸化酵素欠損症の女児(46,XX)は出生時に外性器の男性化で気づかれやすい一方、男児は外見上の異常がなく、スクリーニングや塩類喪失症状で診断されます。発症(症状出現)は大半が新生児〜乳児期ですが、軽症型では幼児期の早発思春期様症状や、思春期・成人期の月経異常、多毛、不妊、高血圧などを契機に診断されることもあります。
先天性副腎皮質酵素欠損症の原因・病態生理
本疾患群はいずれも常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとり、両親から一つずつ変化のある遺伝子を受け継いだ場合に発症します。両親は通常症状のない保因者で、次の子が発症する確率は4分の1です。21-水酸化酵素欠損症の原因遺伝子CYP21A2は第6染色体のHLA領域にあり、すぐ近くに配列のよく似た偽遺伝子(CYP21A1P)が並んでいます。このため、遺伝子の大きな欠失や、偽遺伝子の配列が本来の遺伝子に入り込む「遺伝子変換」が起こりやすく、遺伝子解析には特殊な手法が必要です。残存酵素活性は変異の種類によって異なり、活性がほぼゼロであれば塩類喪失型、数%程度残れば単純男性化型、より多く残れば非古典型となる、という遺伝子型と臨床型の相関がおおむね認められます。
21-水酸化酵素はプロゲステロンをデオキシコルチコステロン(DOC)へ、17-OHPを11-デオキシコルチゾールへ変換する酵素です。これが欠損するとコルチゾールとアルドステロンが作れず、ACTHの過剰刺激で蓄積した17-OHPなどがアンドロゲン合成経路へ流れ、胎児期から副腎アンドロゲンが過剰になります。このため46,XXの胎児では外性器の男性化(陰核肥大、陰唇癒合、尿生殖洞)が生じますが、卵巣・子宮は正常に形成されます。アルドステロン不足は腎臓でのナトリウム再吸収低下とカリウム排泄低下を招き、生後1〜3週頃に低ナトリウム血症・高カリウム血症・脱水を来します。11β-水酸化酵素欠損症ではアンドロゲン過剰に加え、ミネラルコルチコイド作用をもつDOCが蓄積するため、塩類喪失ではなく高血圧・低カリウム血症を来しうる点が特徴です。17α-水酸化酵素欠損症では性ホルモンとコルチゾールが作れず、DOCやコルチコステロンが過剰となるため、高血圧・低カリウム血症と性腺機能不全(46,XYでは女性型外性器、46,XXでは思春期発来不全)を示します。コルチコステロンにある程度のグルココルチコイド作用があるため、副腎不全症状は目立たないことが多いとされます。3β-HSD欠損症では全ステロイドの合成が低下し、塩類喪失と46,XYの男性化不全を来し、46,XXでは弱いアンドロゲン(DHEA)の末梢変換による軽度の男性化をみることがあります。先天性リポイド副腎過形成症ではコレステロールがミトコンドリアへ運ばれないため全ステロイドが欠乏し、細胞内に蓄積したコレステロールが細胞障害を進めます(二段階仮説)。POR欠損症では複数のP450酵素の電子供与が障害され、ステロイド異常に加えて頭蓋骨癒合などの骨格異常(アントレー・ビクスラー症候群様)を伴うことがあり、胎盤でのアロマターゼ障害により妊娠中の母体に男性化がみられることがあります。
先天性副腎皮質酵素欠損症の症状
- 塩類喪失(副腎クリーゼ): 塩類喪失型では生後1〜3週頃から哺乳不良、嘔吐、体重増加不良、脱水が現れ、低ナトリウム・高カリウム血症からショックや不整脈に進むことがあります。治療されなければ命に関わる最も重要な症状です。
- 外性器の男性化(46,XX): 21-水酸化酵素欠損症や11β-水酸化酵素欠損症の女児で、陰核肥大や陰唇の癒合がみられます。程度は軽度から男児と見分けにくいものまで幅があります。
- 外性器の男性化不全(46,XY): 17α-水酸化酵素欠損症、3β-HSD欠損症、リポイド副腎過形成症、POR欠損症などの男児では、尿道下裂、停留精巣から女性型外性器までの所見がみられます。
- 皮膚の色素沈着: ACTHの過剰分泌により、外性器、乳輪、口唇、関節部などの色素沈着が目立つことがあり、特にリポイド副腎過形成症で顕著とされます。
- 低血糖: コルチゾール不足により、乳幼児期や感染症・絶食時に低血糖を起こし、けいれんや意識障害の原因となることがあります。
- 高血圧・低カリウム血症: 11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症では、蓄積したDOCのミネラルコルチコイド作用により小児期〜成人期に高血圧や低カリウム血症を来すことがあります。
- 早期の成長加速と骨年齢促進: 治療不十分なアンドロゲン過剰では幼児期に身長が急に伸び、骨年齢が進み、結果として成人身長が低くなります。
- 早発思春期様症状(末梢性思春期早発): 陰毛・腋毛の早期出現、ニキビ、声変わり、陰茎の増大(男児)などが幼児期にみられ、二次的に中枢性思春期早発症を誘発することもあります。
- 月経異常・多毛・ざ瘡: 女性では治療が不十分な場合や非古典型で、月経不順、無月経、多毛、ニキビなど多嚢胞性卵巣症候群に似た症状が現れます。
- 思春期発来不全・原発性無月経: 17α-水酸化酵素欠損症などでは性ホルモンが作られないため、思春期の二次性徴が現れず、原発性無月経を契機に診断されることがあります。
- 妊孕性の低下: 女性では排卵障害など、男性では精巣内副腎遺残腫瘍(TART)による精巣機能低下などのため、不妊となることがあります。
- 骨格異常(POR欠損症): POR欠損症では頭蓋骨早期癒合、顔面中央部低形成、関節拘縮・癒合などの骨格異常を伴うことがあります。
先天性副腎皮質酵素欠損症の経過と合併症
古典型の21-水酸化酵素欠損症では、出生時に女児の外性器異常で気づかれるか、生後数日の新生児マススクリーニングで17-OHP高値を指摘されて診断に至ります。塩類喪失型は治療しなければ生後1〜3週頃に副腎クリーゼに陥りますが、早期に治療を開始すれば多くは安定します。乳幼児期は感染症や胃腸炎を契機とした副腎クリーゼと低血糖が最大のリスクで、学童期には治療量の過不足による成長への影響が問題となります。アンドロゲン過剰が続くと骨年齢が促進して早期に成長が止まり、逆にグルココルチコイドが過剰だと成長抑制、肥満、骨量低下を来すため、思春期終了まで「ちょうどよい量」を探る調整が続きます。成人期には妊孕性、生活習慣病、骨の健康が中心課題となります。非古典型や一部の病型では、小児期に無症状で経過し、思春期以降に初めて症状が現れることもあります。
合併症としては、副腎クリーゼ(低ナトリウム血症、高カリウム血症、ショック、低血糖)が最も重要で、適切な治療中でも感染症・手術・外傷時に起こりえます。そのほか、成人身長の低下、末梢性・中枢性思春期早発症、医原性クッシング徴候(肥満、高血圧、耐糖能異常、骨粗鬆症)、女性の月経異常・不妊、男性の精巣内副腎遺残腫瘍(TART)とそれに伴う造精機能障害、副腎腫大や副腎腫瘍(副腎骨髄脂肪腫など)が知られています。11β・17α-水酸化酵素欠損症では高血圧による臓器障害、リポイド副腎過形成症では46,XX女性でも思春期以降に卵巣機能が徐々に低下すること、POR欠損症では骨格異常に伴う気道・整形外科的問題にも注意が必要です。また、外性器手術後の狭窄や性機能、心理社会的な課題も長期的な合併症として扱われます。
先天性副腎皮質酵素欠損症の診断・診断基準
日本では21-水酸化酵素欠損症は新生児マススクリーニング(生後4〜6日頃の濾紙血17-OHP測定)で発見されることが多く、陽性の場合は速やかに専門医療機関で精密検査を行います。早産児・低出生体重児やストレス下の新生児では17-OHPが偽陽性となりやすいため、在胎週数や採血条件を考慮して判定します。精密検査では血中17-OHP、電解質、ACTH、コルチゾール、血漿レニン活性、アルドステロン、副腎アンドロゲンなどを測定し、尿中ステロイドプロフィル(GC/MS)により蓄積している前駆体のパターンから病型を推定します。外性器異常がある場合は染色体検査と内性器の画像評価を行い、性分化疾患として多職種で対応します。確定には遺伝子解析が有用です。診断と治療は日本小児内分泌学会などが作成したガイドラインや指定難病の診断基準に沿って行われ、塩類喪失が疑われる場合は確定を待たずに検体を採取したうえで治療を開始します。
- 新生児マススクリーニング(濾紙血17-OHP): 21-水酸化酵素欠損症の早期発見を目的とした全国的な検査で、高値の場合は精密検査の対象となります。早産児では偽陽性が多く、非古典型や一部の他病型は検出されないことがあります。
- 血中17-OHP・ステロイドホルモン測定: 21-水酸化酵素欠損症では17-OHPが著明に高値となります。ACTH高値、コルチゾール低値または低反応、アンドロステネジオン高値などの組み合わせで病型を推定します。
- 迅速ACTH負荷試験: 合成ACTHを投与して前後のステロイド値を比較し、副腎の予備能と障害部位を評価します。特に非古典型や軽症例の診断に有用です。
- 尿中ステロイドプロフィル(GC/MS): 尿中のステロイド代謝物を網羅的に測定し、前駆体の蓄積パターンから病型を判別します。新生児期の21-水酸化酵素欠損症の確認やPOR欠損症などまれな病型の診断で重要とされます。
- 血清電解質・血漿レニン活性・アルドステロン: 塩類喪失型では低ナトリウム・高カリウム血症、レニン高値を示します。11β・17α-水酸化酵素欠損症ではレニン低値、低カリウム血症を示すことがあります。
- 染色体検査(核型): 外性器所見が非典型的な場合に46,XXか46,XYかを確認し、病型推定と性別判定の重要な情報となります。
- 画像検査(超音波・MRI): 子宮・卵巣や精巣の有無と位置、副腎腫大を評価します。成人男性では精巣超音波でTARTの有無を定期的に確認します。
- 遺伝子解析: CYP21A2、CYP11B1、CYP17A1、HSD3B2、STAR、PORなどの解析で確定診断を行います。CYP21A2は偽遺伝子の存在のため専門的な解析が必要で、結果は家族の遺伝カウンセリングにも活用されます。
- 骨年齢(手のX線): アンドロゲン過剰による骨成熟の促進を評価し、治療の適否や成長予測の指標として定期的に用います。
先天性副腎皮質酵素欠損症と鑑別すべき疾患
- 先天性副腎低形成症: NR0B1(DAX1)異常などで副腎そのものが形成不全となり副腎不全を来しますが、17-OHPなど前駆体の蓄積はみられません。
- 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)不応症: ACTH受容体系の異常でコルチゾールが低下し色素沈着を伴いますが、通常アルドステロン系は保たれ、外性器異常はみられません。
- アジソン病・副腎白質ジストロフィーなど後天性/他の原発性副腎不全: 発症年齢、自己抗体、極長鎖脂肪酸測定などで鑑別し、前駆体ステロイドの蓄積は伴いません。
- 偽性低アルドステロン症など新生児の塩類喪失を来す疾患: 低ナトリウム・高カリウム血症を示しますが、アルドステロンは高値でコルチゾール系は正常です。
- 多嚢胞性卵巣症候群・アンドロゲン産生腫瘍: 非古典型と症状が類似するため、17-OHP基礎値やACTH負荷試験、画像検査で鑑別します。
- アンドロゲン不応症・その他の性分化疾患: 46,XYの男性化不全や46,XXの男性化を来す疾患で、ステロイドプロフィル、ホルモン値、遺伝子解析で区別します。
先天性副腎皮質酵素欠損症の治療
治療の柱は、①不足するグルココルチコイド(およびミネラルコルチコイド)の補充、②過剰なACTHを抑えてアンドロゲン過剰や前駆体の蓄積を抑制すること、③副腎クリーゼの予防と緊急時対応、④外性器・性腺・妊孕性・心理面の包括的支援です。グルココルチコイドは少なすぎればクリーゼや男性化・骨年齢促進を招き、多すぎれば成長抑制、肥満、骨量低下などを招くため、成長、骨年齢、17-OHPやアンドロゲン値、血圧、レニン活性などを指標に、年齢と成長段階に応じて細かく調整します。小児期は成長への影響が少ないヒドロコルチゾンが基本とされます。性分化疾患を伴う場合は、小児内分泌科、小児泌尿器科・小児外科、婦人科、遺伝科、心理職などによるチーム医療が推奨されます。具体的な薬剤や用量は病型・年齢・状態によって大きく異なるため、必ず専門医と相談して決定します。
- グルココルチコイド補充療法: 小児では主にヒドロコルチゾンを1日2〜3回に分けて内服し、量は体表面積あたりで調整します。成人期にはプレドニゾロンやデキサメタゾンなど作用時間の長い薬剤が選択されることもあります。
- ミネラルコルチコイド補充療法: 塩類喪失型などではフルドロコルチゾンを併用し、血漿レニン活性、電解質、血圧を指標に調整します。乳児期はミネラルコルチコイドへの感受性が低く、より多めの量が必要となることがあります。
- 食塩補充(乳児期): 母乳やミルクは塩分が少ないため、塩類喪失型の乳児では食塩の補充が行われることがあります。
- ストレス時増量(シックデイ対応): 発熱、嘔吐、下痢、外傷、手術などの際には、主治医の指示に従ってグルココルチコイドを通常の数倍に一時的に増量します。内服できない場合は医療機関での注射が必要です。
- 副腎クリーゼの救急治療: ヒドロコルチゾンの静脈内投与、生理食塩水による輸液、ブドウ糖投与、高カリウム血症の補正を速やかに行います。疑った時点で検査結果を待たずに治療を開始することが原則です。
- 降圧療法(11β・17α-水酸化酵素欠損症): グルココルチコイド補充によってDOCを抑制することが基本で、それでも高血圧が残る場合は降圧薬が併用されます。
- 性ホルモン補充療法: 17α-水酸化酵素欠損症、リポイド副腎過形成症、3β-HSD欠損症などで性ホルモンが不足する場合、思春期年齢から性別に応じたホルモン補充を行い、二次性徴の誘導や骨の健康維持を図ります。
- 外性器・性腺に関する外科治療: 外性器形成術や停留精巣の手術などが検討されますが、手術の要否や時期については国内外で議論があります。本人・家族と十分に話し合い、経験豊富な施設で判断することが重要です。
- 新しい治療の開発と出生前治療の位置づけ: 海外ではACTH分泌を抑えてグルココルチコイド量を減らすことを目指す新しい作用機序の薬剤が開発・承認されつつありますが、国内での使用状況は主治医に確認が必要です。女児の男性化予防を目的とした妊娠中のデキサメタゾン投与は、安全性への懸念から研究的位置づけとされ、一般診療としては推奨されていません。
先天性副腎皮質酵素欠損症の予後・長期フォロー
新生児マススクリーニングと適切なホルモン補充療法の普及により、古典型21-水酸化酵素欠損症を含め多くの患者さんが成人期を迎え、就学・就労・結婚・出産など通常に近い社会生活を送っています。一方で、副腎クリーゼは生涯にわたるリスクであり、一般人口と比べて死亡率がやや高いという海外報告もあるため、緊急時対応の備えが生命予後を左右します。成人身長は一般平均より低めとなる傾向があり、肥満、インスリン抵抗性、高血圧、骨密度低下などの長期的な影響も報告されています。妊孕性については、女性古典型では低下しやすいものの、適切な治療により妊娠・出産に至る例も多く、男性ではTARTによる造精機能低下が問題となることがあります。まれな病型の予後は病型と重症度により異なり、リポイド副腎過形成症やPOR欠損症では副腎機能以外の問題も含めた個別の評価が必要です。
長期フォローアップでは、小児期は数か月ごとに身長・体重・成長速度、血圧、17-OHPやアンドロステネジオンなどのホルモン値、レニン活性を確認し、年1回程度骨年齢を評価します。思春期には二次性徴の進行、月経、心理面を確認し、小児科から成人診療科(内分泌内科、婦人科、泌尿器科)への移行期医療を計画的に進めます。成人期には、体重、血圧、糖・脂質代謝、骨密度、女性では月経・排卵・妊娠計画、男性では精巣超音波と精液検査などを定期的に評価します。妊娠中は胎盤由来ホルモンの影響で補充量の調整が必要となるため、内分泌医と産科医が連携して管理します。治療中断はクリーゼや男性化の再燃を招くため、生涯にわたり途切れない通院が重要です。
先天性副腎皮質酵素欠損症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
毎日の内服を欠かさないことが基本で、飲み忘れを防ぐ工夫(服薬時間の固定、アラームの活用)が役立ちます。発熱、嘔吐、下痢、ぐったりしている、ケガをした、手術・歯科処置を受けるといった場面では、主治医から指示されたシックデイルールに従って薬を増量し、内服できない・改善しない場合は早めに受診してください。病名、服用薬、緊急時の対応を記載した緊急カードやお薬手帳を常に携帯し、保育園・学校・職場や旅行先にも情報を共有しておくと安心です。乳幼児では低血糖予防のため長時間の絶食を避け、運動時の水分・塩分補給にも気を配ります。スポーツや通常の学校生活は基本的に制限されませんが、激しい運動時の対応は主治医と相談します。外性器の診察や手術、性別に関する説明は、本人の年齢と理解度に合わせて段階的に行うことが望まれます。本疾患は常染色体潜性遺伝であり、次の子が発症する確率は4分の1です。次子の計画、出生前診断の是非、患者さん本人の将来の妊娠などについては、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
先天性副腎皮質酵素欠損症は指定難病(告示番号81)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに都道府県・指定都市へ申請すると医療費助成を受けられます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定以上継続する場合の「軽症高額該当」の仕組みがあります。18歳未満(継続治療が必要な場合は20歳未満まで延長可)では小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象(内分泌疾患群)となり、自立支援事業や移行期支援も利用できます。乳幼児医療費助成など自治体独自の制度、高額療養費制度も併用できる場合があります。障害の状態によっては特別児童扶養手当や障害年金の対象となる可能性があるため、個別に確認が必要です。相談窓口としては、都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病の自立支援員、難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センターのウェブサイトのほか、患者会・家族会も情報交換や心の支えとして役立ちます。
先天性副腎皮質酵素欠損症に伴う心のケア・心理社会的支援
生涯続く内服や定期通院、いつ起こるか分からない副腎クリーゼへの不安は、本人と家族に大きな心理的負担となり、不安障害、抑うつ、適応障害につながることがあります。特に乳幼児期の保護者は、体調変化への過度の警戒や睡眠不足から疲弊しやすく、パートナー間の負担の偏りも生じがちです。本疾患に特有の課題として、外性器の形の違いや性分化疾患であることへの戸惑い、出生時の性別判定をめぐる葛藤、手術の決定に伴う迷い、本人への病名や体のことの伝え方(告知)、思春期のボディイメージ、性自認や性的指向に関する悩み、低身長や体重増加、妊孕性への不安などがあります。これらは決して珍しいことではなく、一人で抱え込まずに主治医や看護師、心理職、医療ソーシャルワーカーに相談することが大切です。多職種チームによる継続的な心理支援や、同じ疾患をもつ人・家族との交流が助けになることも多く、気分の落ち込みや不眠、意欲低下が続く場合は精神科・心療内科の受診も検討してください。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
先天性副腎皮質酵素欠損症の受診の目安
- 哺乳不良、嘔吐、体重が増えない、ぐったりしている新生児・乳児は、すぐに医療機関を受診してください。
- 嘔吐や下痢で薬が飲めない、または増量しても改善しない場合は、副腎クリーゼの危険があるため速やかに救急受診してください。
- 意識がもうろうとする、けいれん、顔色不良や冷汗、血圧低下などがみられる場合は、救急車を要請し、病名と服薬内容を伝えてください。
- 新生児マススクリーニングで再検査や精密検査を指示された場合は、指定された期日までに必ず受診してください。
- 幼児期の陰毛の出現、急な身長の伸び、ニキビや声変わりなど、年齢に合わない思春期様の変化に気づいたら主治医に相談してください。
- 月経不順・無月経、多毛、思春期がこない、若年の高血圧や低カリウム血症を指摘された場合は、内分泌の専門医療機関に相談してください。
先天性副腎皮質酵素欠損症についてのよくある質問
Q. 薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?
A. 不足しているホルモンを補う治療のため、原則として生涯にわたり内服が必要です。自己判断で中止すると副腎クリーゼなど命に関わる状態になるおそれがあります。量は年齢や状態によって変わるため、定期受診で調整していきます。
Q. ステロイドを長く飲むと副作用が心配です。
A. 本疾患での補充療法は、体が本来作るはずの量を補うことを目的としており、炎症性疾患などで使う大量投与とは考え方が異なります。ただし多すぎると成長抑制や肥満、骨量低下などが起こりうるため、身長・体重やホルモン値をみながら適切な量を探ります。気になる点は主治医に相談してください。
Q. 女の子として生まれましたが外性器の形が違います。将来子どもは産めますか?
A. 21-水酸化酵素欠損症の女児では子宮や卵巣は通常正常に形成されており、適切な治療により妊娠・出産に至る方も多くいます。ただし治療状態によっては月経異常や不妊が起こることもあるため、成人期には婦人科とも連携して管理します。外性器の手術の要否や時期は、専門チームとよく話し合って決めることが大切です。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?
A. 常染色体潜性遺伝のため、両親がともに保因者である場合、次の子が発症する確率は4分の1です。出生前の検査や治療には有益性と危険性の両面があり、方針は家族ごとに異なります。妊娠を考える前に遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。