先天性副腎低形成症
Congenital Adrenal Hypoplasia
先天性副腎低形成症(Congenital Adrenal Hypoplasia)|先天性副腎低形成症は、生まれつき副腎皮質が十分に形成されないために、生命維持に必要な副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)が不足する疾患です。多くは男児に発症し、新生児期から小児期に、嘔吐・脱水・低ナトリウム血症などを伴う副腎不全(副腎クリーゼ)で見つかります。原因によっては思春期が来ない、男性不妊などの性腺の問題を伴うため、生涯にわたるホルモン補充と専門的なフォローアップが必要です。
先天性副腎低形成症の要点
先天性副腎低形成症は、生まれつき副腎皮質が十分に発達せず、コルチゾールやアルドステロンが不足する原発性副腎皮質機能低下症です。新生児期から小児期に嘔吐・脱水・低ナトリウム血症を伴う副腎クリーゼで見つかることが多く、指定難病(告示番号82)に指定されています。
| 別名・略称 | 先天性副腎低形成、副腎低形成症、X連鎖性副腎低形成症、DAX-1異常症、AHC、adrenal hypoplasia congenita、X-linked adrenal hypoplasia congenita |
|---|---|
| 分野 | 内分泌疾患 |
| 遺伝形式 | 代表的なNR0B1(DAX-1)異常症はX連鎖性(潜性)遺伝。他の病型は原因遺伝子により異なる |
| 好発年齢 | 新生児期〜小児期(多くは男児) |
| 主な症状 | 嘔吐、脱水、低ナトリウム血症、副腎クリーゼ。思春期が来ない、男性不妊などを伴うことがある |
| 主な検査 | コルチゾール低値、ACTH・レニン高値、遺伝子検査(NR0B1など) |
| 主な治療 | 糖質コルチコイド・鉱質コルチコイドの生涯にわたる補充 |
| 受診する主な診療科 | 小児内分泌科、内分泌内科 |
先天性副腎低形成症とは
先天性副腎低形成症(congenital adrenal hypoplasia; AHC)は、胎児期の副腎皮質の発生・分化が障害され、副腎が小さく機能も不十分なまま生まれてくる疾患の総称です。副腎皮質からは、ストレスへの対応や血糖・血圧の維持に必要な糖質コルチコイド(コルチゾール)、体内のナトリウムと水分を保持する鉱質コルチコイド(アルドステロン)、副腎性アンドロゲンが分泌されますが、本症ではこれらが全般的に不足する原発性副腎皮質機能低下症を呈します。副腎自体の障害のため、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と腎臓からのレニンが代償的に高値になるのが特徴です。日本では指定難病(告示番号82)に指定されています。なお、本症は副腎の病気であり、血小板減少や紫斑を主体とする免疫性の血液疾患ではありません。
病型としては、X染色体上のNR0B1遺伝子(DAX-1をコードする)の異常によるX連鎖性副腎低形成症が最も代表的で、原発性副腎不全に加えて低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を合併します。このほか、NR5A1(SF-1)遺伝子異常、成長障害・骨幹端異形成・性器異常を伴うIMAGe症候群(CDKN1C遺伝子の機能獲得型変異)、骨髄異形成・易感染性・成長障害・性器異常・腸症を伴うMIRAGE症候群(SAMD9遺伝子の機能獲得型変異で、日本の研究グループが2016年に報告)などが知られています。病理学的には、胎児帯に似た大型細胞が残り永久帯が形成されない「サイトメガリー型」(主にX連鎖性)と、構造は保たれるが小さい「ミニチュア成人型」(下垂体のACTH分泌不全など続発性の要因を伴うことが多い)に古くから分類されてきました。現在は遺伝子診断に基づく分類が中心です。Xp21領域の広い欠失では、グリセロールキナーゼ欠損症やデュシェンヌ型筋ジストロフィーを併発する隣接遺伝子症候群となることがあります。
先天性副腎低形成症の疫学・患者数
きわめてまれな疾患で、正確な頻度は明らかではありません。海外ではX連鎖性副腎低形成症の頻度を出生男児数万人に1人程度と推定する報告がありますが、診断されずに乳児期に亡くなる例もあると考えられ、実数は不確かです。日本における患者数も限られており、小児内分泌の専門施設を中心に診療されています。X連鎖性のため患者の大半は男性で、保因者の女性は通常無症状です。発症時期は、約半数が生後早期(新生児期〜生後2か月頃)に塩類喪失を伴う副腎不全で発症し、残りは乳幼児期〜小児期に感染などを契機に発症するとされます。比較的軽い遺伝子変異では、成人期になってから軽度の副腎不全や不妊で初めて診断される例も報告されています。新生児マススクリーニング(17-OHP測定)は21-水酸化酵素欠損症を対象としており、本症はスクリーニングで発見されないのが一般的です。
先天性副腎低形成症の原因・病態生理
最も多いX連鎖性副腎低形成症は、X染色体短腕(Xp21)にあるNR0B1遺伝子の変異または欠失により生じます。NR0B1がコードするDAX-1は核内受容体ファミリーに属する転写調節因子で、副腎皮質、精巣、視床下部、下垂体の発生と機能に関与します。遺伝形式はX連鎖潜性(劣性)で、保因者の母親から男児が1/2の確率で変異を受け継ぎ発症します。孤発例(新生変異)もあります。NR5A1(SF-1)は副腎・性腺の発生に不可欠な転写因子ですが、その異常は主に46,XY性分化疾患や性腺形成不全として現れ、副腎不全を伴う例は少数とされます。IMAGe症候群は母由来アレルで発現するCDKN1C遺伝子の機能獲得型変異、MIRAGE症候群はSAMD9遺伝子の機能獲得型変異(多くは新生変異)によって細胞増殖が抑制され、副腎を含む多臓器の発育が障害されると考えられています。
胎児の副腎は、妊娠中に大きな「胎児帯」と、将来の成人型副腎皮質となる「永久帯(definitive zone)」から成り、出生後に胎児帯が退縮して永久帯が球状層・束状層・網状層へと成熟します。DAX-1の機能が失われると、この永久帯の形成・維持がうまくいかず、胎児帯の退縮とともに副腎皮質の機能が急速に失われます。その結果、コルチゾール欠乏による低血糖・ショック傾向、アルドステロン欠乏による腎からのナトリウム喪失(塩類喪失)と高カリウム血症、脱水が起こります。コルチゾールによる負のフィードバックがなくなるためACTHが著増し、同時に分泌されるメラニン細胞刺激作用により皮膚の色素沈着が生じます。またDAX-1は視床下部と下垂体の性腺系にも働くため、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)・ゴナドトロピン(LH/FSH)の分泌が不十分となり、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(思春期遅発・欠如)を生じます。加えて精巣自体の精子形成障害も伴い、男性不妊の原因となります。
先天性副腎低形成症の症状
- 哺乳不良・嘔吐: 新生児・乳児期に、哺乳量が減る、繰り返し吐くといった症状で始まることが多いです。胃腸炎や幽門狭窄症と誤認されることがあります。
- 体重増加不良・成長障害: 塩類喪失による慢性的な脱水やエネルギー不足で体重が増えにくくなります。IMAGe症候群やMIRAGE症候群では胎内からの発育遅延が目立ちます。
- 脱水・ショック(副腎クリーゼ): 感染や発熱などのストレスを契機に、急激な脱水、血圧低下、意識障害を来すことがあります。治療が遅れると命に関わる緊急事態です。
- 低ナトリウム血症・高カリウム血症: アルドステロン不足により尿中にナトリウムが失われ、カリウムが体内に貯留します。高カリウム血症は不整脈の原因となります。
- 低血糖: コルチゾール不足により空腹時や病気の際に血糖が下がり、ぐったりする、けいれんする、などの症状が出ることがあります。
- 皮膚・粘膜の色素沈着: 高値のACTHの影響で、皮膚が全体に黒っぽくなり、歯肉、乳輪、陰部、手のしわなどに色素沈着がみられます。
- 倦怠感・易疲労感・塩分嗜好: 年長児や成人では、疲れやすさ、食欲低下、腹痛、塩辛いものを好むなどの症状がみられることがあります。
- 思春期の遅れ・欠如: X連鎖性副腎低形成症の男性では、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症のため、思春期年齢になっても声変わりや精巣の発育などが起こらないことが多いです。乳児期のミニ思春期が欠如することもあります。
- 男性不妊: ゴナドトロピン不足に加え精巣自体の精子形成障害があるため、成人期に無精子症・乏精子症となることが多いとされます。
- 性器の異常(一部の病型): NR5A1異常、IMAGe症候群、MIRAGE症候群では、46,XYの方で尿道下裂や外性器の男性化不全などの性分化疾患を伴うことがあります。
- 病型特有の合併症状: MIRAGE症候群では血小板減少・易感染性・慢性下痢、IMAGe症候群では骨幹端異形成や高カルシウム尿症、Xp21隣接遺伝子欠失では筋力低下や知的障害などを伴うことがあります。
先天性副腎低形成症の経過と合併症
X連鎖性副腎低形成症では、出生直後は胎児帯の機能がある程度残るため一見正常に見えることがありますが、生後数日〜数週で胎児帯が退縮すると副腎不全が顕在化し、塩類喪失・低血糖・ショックで発症する例が多くみられます。一方、乳幼児期以降に感染症や手術などを契機として初めて副腎クリーゼを起こす例もあり、発症時期には幅があります。鉱質コルチコイド欠乏と糖質コルチコイド欠乏の出現時期が異なることもあります。適切なホルモン補充が開始されれば副腎不全はコントロール可能ですが、副腎機能が自然に回復することは基本的になく、補充療法は生涯必要です。思春期年齢になると性腺機能低下が問題となり、多くは思春期誘導療法を要します。成人期には不妊が主要な課題となります。
最も重大な合併症は副腎クリーゼで、発熱、嘔吐・下痢、外傷、手術などで必要量が増えたときに補充が不足すると、低血圧性ショック、低血糖、高度の電解質異常を起こし、死亡や低血糖による脳障害の原因となり得ます。家族歴で、原因不明のまま乳児期に亡くなった男児がいる場合、本症であった可能性が指摘されることがあります。治療に伴う問題としては、糖質コルチコイドの過剰補充による肥満、成長抑制、骨密度低下、高血圧、逆に不足による易疲労や色素沈着の持続があります。鉱質コルチコイドの過不足による高血圧や塩類喪失にも注意が必要です。性腺機能低下が未治療のまま続くと、骨密度低下や二次性徴の欠如による心理的影響が生じます。隣接遺伝子欠失例では筋ジストロフィーや知的障害、MIRAGE症候群では重症感染症や骨髄異形成症候群への進展が予後を左右します。
先天性副腎低形成症の診断・診断基準
診断は、まず臨床症状と血液検査から原発性副腎皮質機能低下症であることを確認し、次にその原因として最も頻度の高い先天性副腎皮質酵素欠損症(特に21-水酸化酵素欠損症)や副腎皮質刺激ホルモン不応症、自己免疫性・感染性などの後天性原因を除外したうえで、遺伝学的検査で原因遺伝子を確定する流れが一般的です。急性期の副腎クリーゼが疑われる場合は、検査結果を待たずに治療を優先しますが、可能であれば治療開始前に血液を採取し、コルチゾール、ACTH、レニン活性、アルドステロン、ステロイド前駆体などを保存しておくことが、後の診断に非常に重要です。日本では、関連学会と研究班が作成した診断基準に基づき、臨床所見・内分泌検査・遺伝学的検査を組み合わせて診断します。
- 血液生化学検査: 低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血糖、代謝性アシドーシス、腎前性の尿素窒素上昇などがみられます。塩類喪失の程度と緊急性の判断に用います。
- 血中コルチゾール・ACTH: ストレス下にもかかわらずコルチゾールが低値で、ACTHが著明に高値であれば原発性副腎不全を強く示唆します。新生児では基準値の解釈に注意が必要です。
- 血漿レニン活性・アルドステロン: レニンが高値でアルドステロンが不相応に低値であれば、鉱質コルチコイド欠乏を示します。塩類喪失の病態評価と補充量調整の指標にもなります。
- 迅速ACTH負荷試験: 合成ACTHを投与してもコルチゾールの上昇が乏しいことで副腎皮質の予備能低下を確認します。軽症例・遅発例の診断に有用です。
- ステロイド前駆体・尿中ステロイドプロファイル: 17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)などの前駆体が上昇しないことや、ガスクロマトグラフィー質量分析による尿中ステロイド分析で特定の酵素欠損パターンがないことを確認し、先天性副腎皮質酵素欠損症と鑑別します。
- 画像検査(超音波・CT・MRI): 副腎の低形成を示唆することがありますが、新生児では評価が難しく、診断の決め手にはなりません。酵素欠損症の一部やリポイド過形成症でみられる副腎腫大の除外や、副腎出血の評価に役立ちます。
- 性腺系の評価: 思春期年齢でのLH・FSH・テストステロンの測定、GnRH(LHRH)負荷試験、hCG負荷試験などで低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の有無を評価します。乳児期のミニ思春期のホルモン値も参考になります。
- 遺伝学的検査: NR0B1(DAX-1)、NR5A1(SF-1)、CDKN1C、SAMD9などの遺伝子解析で病型を確定します。大きな欠失が疑われる場合はアレイCGHなどで隣接遺伝子欠失の範囲を評価し、遺伝カウンセリングの基礎情報とします。
- 合併症・関連所見の評価: 病型に応じて、血清CK(筋ジストロフィー)、血中グリセロール(偽性高中性脂肪血症)、血算・骨髄検査(MIRAGE症候群)、骨X線(IMAGe症候群)などを確認します。
先天性副腎低形成症と鑑別すべき疾患
- 先天性副腎皮質酵素欠損症(21-水酸化酵素欠損症など): 新生児の塩類喪失性副腎不全の最多原因で、17-OHPなどの前駆体上昇や46,XX女児の外性器男性化がある点、マススクリーニングで発見される点が本症と異なります。
- 先天性リポイド副腎過形成症(StAR異常症など): 全ステロイドが低下する点は類似しますが、画像で副腎が腫大し、46,XYでは女性型外性器を示すことが多い点で鑑別します。
- 副腎皮質刺激ホルモン不応症(家族性グルココルチコイド欠損症など): ACTH高値・コルチゾール低値は共通しますが、通常アルドステロン分泌は保たれ、塩類喪失や高カリウム血症が目立たない点が異なります。
- 副腎白質ジストロフィー: 男児の原発性副腎不全の原因となりますが、極長鎖脂肪酸の上昇と、進行性の神経症状や大脳白質病変を伴う点で鑑別します。
- アジソン病(自己免疫性副腎炎など後天性副腎不全): 小児期以降に発症し、副腎皮質自己抗体陽性や他の自己免疫疾患の合併がみられる点で、先天性の本症と区別します。
- 偽性低アルドステロン症・下垂体前葉機能低下症: 前者は塩類喪失を示しますがアルドステロンが高値でコルチゾールは正常、後者はACTHが低値で色素沈着を伴わない点で鑑別します。
先天性副腎低形成症の治療
治療の柱は、不足している副腎皮質ホルモンを生涯にわたり補充することと、副腎クリーゼを予防・早期治療することです。糖質コルチコイドとしてヒドロコルチゾン、鉱質コルチコイドとしてフルドロコルチゾンを用い、乳児期には食塩の補充を併用します。投与量は年齢・体格・成長速度・血圧・電解質・レニン活性などを見ながら小児内分泌専門医が個別に調整し、過剰投与による成長抑制や肥満、不足による副腎不全の双方を避けることが重要です。思春期以降は性腺機能低下に対する治療が加わり、成人期には不妊治療の相談も必要になります。治療法の選択や投与量の変更は、必ず主治医・専門医と相談して行ってください。
- 副腎クリーゼの急性期治療: ヒドロコルチゾンの静脈内投与、生理食塩水による循環血液量の補正、ブドウ糖による低血糖の補正を速やかに行います。高カリウム血症による不整脈への対処も行い、原則として入院管理となります。
- 糖質コルチコイド補充(ヒドロコルチゾン): 生理的分泌に近づけるため1日2〜3回に分けて内服します。小児では成長を妨げにくいヒドロコルチゾンが基本で、体表面積あたりの量で調整され、乳幼児では散剤などに調製して用いることがあります。
- 鉱質コルチコイド補充(フルドロコルチゾン): アルドステロン欠乏を補い、ナトリウム保持と血圧・電解質の安定を図ります。血漿レニン活性、血圧、電解質を指標に量を調整します。
- 食塩補充: 母乳・ミルク中のナトリウム量は少なく乳児は鉱質コルチコイドへの反応も不十分なため、乳児期には食塩の内服を併用することが一般的です。食事から塩分を摂れるようになると減量・中止を検討します。
- ストレス時の増量(シックデイ対応): 発熱、嘔吐、外傷、強い運動などの際には、主治医の指示に従ってヒドロコルチゾンを一時的に増量します。内服できない場合は注射が必要で、家族による筋注用製剤の使用や救急受診の手順をあらかじめ決めておきます。
- 手術・処置時の周術期管理: 全身麻酔や侵襲的処置の際は、ストレス量のヒドロコルチゾンを静脈内投与します。受診する医療機関には必ず副腎不全であることを伝えます。
- 思春期誘導療法: 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対し、思春期年齢からテストステロン製剤(注射)を少量から段階的に増量し、二次性徴の発来と骨密度・身長の獲得を図ります。開始時期や方法は心理面や身長予後も考慮して決めます。
- 妊孕性(にんようせい)に関する治療・相談: 挙児希望がある場合、hCG・FSH製剤によるゴナドトロピン療法や、精巣内精子採取術と顕微授精が試みられますが、精巣自体の障害のため成功率は限られるとされます。生殖医療の専門施設と連携して相談します。
- 病型別の合併症管理: MIRAGE症候群では感染対策や血液学的管理、IMAGe症候群では骨・カルシウム代謝、隣接遺伝子欠失例では筋ジストロフィーや発達面への支援など、関連各科と連携した包括的診療を行います。
先天性副腎低形成症の予後・長期フォロー
副腎不全そのものは、早期に診断され、適切なホルモン補充とシックデイ対応が継続されれば、生命予後は概ね良好と考えられ、通常の就学・就労・社会生活が可能です。一方、診断の遅れや、感染症などの際の補充不足による副腎クリーゼは、現在でも死亡や低血糖性脳障害の原因となり得ます。思春期誘導療法により二次性徴は獲得できますが、男性の妊孕性は低いことが多く、成人期の重要な課題です。軽症例では成人になってから診断される例もあります。IMAGe症候群、MIRAGE症候群、隣接遺伝子欠失例の予後は、副腎以外の合併症の重症度に大きく左右され、特にMIRAGE症候群では乳幼児期の重症感染症などが問題となることがあります。
長期的には、小児期は数か月ごとに身長・体重・成長速度、血圧、色素沈着の有無、電解質、ACTH、レニン活性などを評価し、補充量を調整します。骨年齢や骨密度の評価も行い、過剰補充による成長抑制や骨量低下、肥満、高血圧を避けます。思春期以降は性腺機能・二次性徴・骨密度を評価し、成人期には生殖医療や心血管リスクの管理も含めた診療が必要です。小児科から成人診療科(内分泌内科・泌尿器科・生殖医療)への移行期医療を計画的に進め、本人が自分の病気と自己管理(服薬、ストレス時の増量、緊急時対応)を理解できるよう支援することが重要です。
先天性副腎低形成症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
毎日決まった時間に薬を飲むこと、自己判断で中止しないことが最も大切です。発熱、嘔吐、下痢、けが、強い疲労時には主治医から指示された量に増量し、嘔吐が続いて内服できない、ぐったりしているなどの場合は迷わず医療機関を受診してください。副腎不全であること、服用薬、緊急時の対応を記載した緊急時カードや医療情報の携帯、保育園・学校・職場への情報共有、旅行時の予備薬の持参も役立ちます。乳児期は塩分補充を忘れず、暑い時期や運動時の発汗による塩分・水分喪失にも注意します。予防接種は原則として通常どおり受けることが勧められ、感染予防も重要です。X連鎖性副腎低形成症では、母親が保因者である場合、次子が男児なら1/2の確率で発症し、女児なら1/2の確率で保因者となります。母方の親族男性に関わる可能性もあるため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受け、家族の検査や次子の出生時の対応(出生直後からの電解質・ホルモン評価など)について相談しておくと安心です。
利用できる制度・相談窓口
先天性副腎低形成症は指定難病(告示番号82)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさなくても、医療費が一定額を超える月が続く場合には軽症高額該当として対象となることがあります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度(内分泌疾患群)の対象となり、自立支援事業などの支援も利用できます。成人への移行時には指定難病への切り替え手続きが必要です。障害の状態や合併症によっては、障害者手帳や障害年金、特別児童扶養手当などの対象となる場合がありますので、主治医や窓口に確認してください。相談窓口としては、お住まいの地域の保健所・保健センター、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の相談窓口、医療機関の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイトなどがあります。
先天性副腎低形成症に伴う心のケア・心理社会的支援
生涯にわたる服薬や、体調不良時に命に関わる状態になり得ることは、患者さん本人にも家族にも大きな不安をもたらします。特に乳児期に重い副腎クリーゼを経験した家族では、子どもの発熱のたびに強い不安を感じたり、過度に行動を制限したりすることがあります。また本症では、思春期が自然に来ないこと、外見上の二次性徴の遅れ、将来の妊孕性の問題、遺伝性疾患であることへの罪悪感(特に保因者である母親)など、性や家族形成に関わる繊細な心理社会的課題が加わります。こうした負担から、抑うつ、不安障害、適応障害が生じることもあります。思春期には服薬の自己中断が起こりやすく、これは身体的にも危険です。悩みを一人で抱え込まず、主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、遺伝カウンセラーなどに早めに相談してください。年齢に応じた病気の説明、同じ病気をもつ人や家族との交流、学校との連携も、本人の自己肯定感と自立を支える助けになります。
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先天性副腎低形成症の受診の目安
- 嘔吐を繰り返して薬が飲めない、ぐったりして反応が鈍い、顔色が悪いなどの場合は、副腎クリーゼの可能性があるため直ちに救急受診してください。
- けいれんや意識がおかしい様子がある場合は、低血糖や電解質異常の可能性があり、救急車を呼ぶことを含め緊急対応が必要です。
- 乳児で哺乳不良、体重が増えない、嘔吐が続く、皮膚が黒っぽいなどの症状がある場合は、早めに小児科を受診してください。
- 発熱や下痢があり、シックデイの増量をしても改善しない、または増量の判断に迷う場合は、主治医に連絡してください。
- 思春期年齢になっても二次性徴がみられない場合や、成人で不妊が気になる場合は、内分泌専門医に相談してください。
- 家族に副腎不全や原因不明の乳児死亡の既往がある方が妊娠・出産を予定している場合は、事前に専門医や遺伝カウンセリングに相談してください。
先天性副腎低形成症についてのよくある質問
Q. 紫斑や血小板が減る病気と聞いたことがありますが、本当ですか?
A. いいえ。先天性副腎低形成症は生まれつき副腎皮質の発育が不十分なためにホルモンが不足する内分泌の病気で、血小板が減る免疫性の病気(特発性血小板減少性紫斑病など)とは別の疾患です。ただし、ごく一部の病型(MIRAGE症候群)では血小板減少を伴うことがあります。
Q. 薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?
A. 副腎の機能が自然に回復することは基本的にないため、ホルモン補充は生涯必要と考えられています。量は成長や体調に応じて調整しますので、自己判断で中止・減量せず、定期的に主治医の診察を受けてください。
Q. 新生児マススクリーニングで異常がなかったのに、なぜ見つからなかったのですか?
A. 日本の新生児マススクリーニングで行う17-OHP測定は、主に21-水酸化酵素欠損症を見つけるための検査です。先天性副腎低形成症では17-OHPが上昇しないことが一般的なため、スクリーニングでは発見されないことが多いのです。
Q. 将来、子どもをもつことはできますか?
A. X連鎖性副腎低形成症の男性では、ホルモン不足に加えて精巣自体の精子形成障害があるため、妊孕性は低いことが多いとされます。ゴナドトロピン療法や精巣内精子採取と顕微授精で挙児に至った報告もありますが、可能性には個人差が大きいため、生殖医療の専門医と早めに相談することをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。