特発性門脈圧亢進症

Idiopathic Portal Hypertension

特発性門脈圧亢進症(Idiopathic Portal Hypertension)|特発性門脈圧亢進症(IPH)は、肝硬変がないにもかかわらず、肝臓へ流れ込む門脈の圧が上がる病気です。中年の女性に多く、脾臓の腫れ(脾腫)、血球減少、食道・胃静脈瘤を起こします。肝臓のはたらきは保たれることが多く、静脈瘤からの出血を適切に予防・治療すれば、長期の生命予後は良好とされます。なお、本症の血小板減少は脾臓の腫れによるもので、自己抗体によって血小板が壊される特発性血小板減少性紫斑病とは異なる病気です。

特発性門脈圧亢進症の要点

特発性門脈圧亢進症は、肝硬変や肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞などの原因がないのに、肝内の細い門脈で血流抵抗が上がり、門脈圧が高くなる病気です。脾腫と汎血球減少、食道・胃静脈瘤を起こしますが肝機能は比較的保たれ、中年女性に多く、日本では指定難病(告示番号92)です。

別名・略称IPH、バンチ症候群、非肝硬変性門脈圧亢進症、特発性非肝硬変性門脈圧亢進症、非肝硬変性門脈線維症、NCPH、INCPH、NCPF
分野消化器・肝胆膵疾患
指定難病告示番号92
好発年齢・性別中年の女性に多い
主な症状脾腫、汎血球減少、食道・胃静脈瘤
病態の特徴肝内の末梢門脈枝の異常による前類洞性門脈圧亢進
主な治療静脈瘤出血の予防・治療
受診する主な診療科消化器内科・肝臓内科

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特発性門脈圧亢進症とは

特発性門脈圧亢進症は、肝硬変、肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞、寄生虫症など原因となる病気がないのに門脈圧亢進症を示す疾患の総称です。主な病変は肝内の末梢門脈枝(細い門脈)にあります。細い門脈が狭くなったりつぶれたりして、類洞の手前で血流の抵抗が上がります(前類洞性門脈圧亢進)。その結果、脾腫と脾機能亢進による汎血球減少、食道・胃静脈瘤などの側副血行路が生じます。一方で肝細胞そのものの障害は軽いため、黄疸や腹水、肝性脳症は肝硬変より起こりにくいのが特徴です。日本では指定難病(告示番号92)に指定されており、厚生労働省研究班の「門脈血行異常症ガイドライン」で、バッド・キアリ症候群、肝外門脈閉塞症とともに門脈血行異常症の一つとして扱われています。

歴史的には、19世紀末にイタリアのBantiが報告した「脾腫・貧血・肝病変」を特徴とするバンチ症候群が、本症の概念の源流とされます。日本では1970年代に厚生省の門脈血行異常症調査研究班が発足し、診断基準が整備されて「特発性門脈圧亢進症」という名称が定着しました。海外では非肝硬変性門脈圧亢進症(NCPH)、特発性非肝硬変性門脈圧亢進症(INCPH)、インドの非肝硬変性門脈線維症(NCPF)などとほぼ同じ病態とされています。病理学的には、閉塞性門脈症(obliterative portal venopathy)、結節性再生性過形成(NRH)、不完全中隔性肝硬変などと重なる部分があります。近年、国際的な研究グループ(VALDIG)は、これらを包括する門脈類洞血管疾患(porto-sinusoidal vascular disease:PSVD)という概念を提唱しました。PSVDは門脈圧亢進がない段階の症例も含むため、日本のIPHとは定義の範囲が完全には一致しません。

特発性門脈圧亢進症の疫学・患者数

日本で行われた全国疫学調査では、年間の受療患者数はおおむね1000人前後と推計されており、まれな疾患です。女性に多く、男女比はおよそ1:2〜3と報告されています。診断時の年齢は40〜50歳代が中心ですが、近年の調査では高齢化の傾向が指摘されています。指定難病の医療費助成を受けている人は、助成対象となる重症度に該当する一部の患者に限られます。海外では、インドなど衛生環境や感染症の影響が大きい地域で若年男性に多いとされ、地域によって患者層が異なることが知られています。日本では、全身性エリテマトーデスや全身性強皮症などの膠原病、橋本病などの自己免疫疾患を合併する例が一定の割合でみられます。

特発性門脈圧亢進症の原因・病態生理

原因はまだ解明されていません。いくつかの仮説が提唱されており、単一の原因ではなく複数の要因が重なって起こると考えられています。主な仮説は次のとおりです。(1)免疫学的異常:女性に多いことや膠原病・自己免疫疾患との合併が多いことから、門脈の血管内皮を標的とする免疫異常の関与が想定されています。(2)感染・腸管由来因子:腸管からの細菌やその成分が門脈を通して繰り返し入り込み、細い門脈に炎症や微小血栓を起こす可能性があります。(3)薬剤・毒物:海外ではアザチオプリンなどのチオプリン製剤、一部の抗HIV薬、ヒ素への曝露などとの関連が報告されています。(4)血栓傾向:凝固異常に伴う門脈末梢の微小血栓説があります。(5)脾原説:脾臓から分泌される因子が門脈系に作用するという古典的な説です。家族内発症の報告や、原発性免疫不全症に伴う例も知られています。ただし、明確な遺伝形式や原因遺伝子は確立していません。

病態の中心は、肝内の末梢門脈枝の内皮障害、壁の肥厚と線維化、内腔の狭小化・閉塞です。これにより前類洞性に血流の抵抗が増え、門脈圧が上がります。門脈血流が届かない肝の末梢、特に被膜の下では実質が萎縮します。一方、血流が保たれる部位では代償的に肝細胞が過形成を起こすため、肝表面が波打つような不整を示すことがあります。門脈域には、門脈の傍らを走る拡張した異常血管(paraportal shunt vessel)がみられます。門脈圧の上昇に加えて、脾腫に伴い脾臓から流れ出る血流が増えることも、門脈圧亢進を悪化させる一因とされます(過剰流入の要素)。門脈圧が上がると、食道・胃、直腸、腹壁などに側副血行路が発達して静脈瘤ができます。また、脾臓で血球が過剰に捕捉・破壊される脾機能亢進症により、貧血・白血球減少・血小板減少が起こります。病変が類洞より手前にあるため、肝静脈楔入圧(類洞の圧を反映する)は正常から軽度上昇にとどまり、実際の門脈圧との間に乖離が生じます。この点は診断上の重要な手がかりになります。

特発性門脈圧亢進症の症状

  • 脾腫・腹部膨満感: 脾臓が著しく大きくなることが多く、左上腹部の張りや重苦しさ、早期の満腹感として自覚されます。健診で偶然指摘されることもよくあります。
  • 吐血・下血(静脈瘤破裂): 食道・胃静脈瘤が破れると、大量の吐血やタール便を起こし、命にかかわります。本症の生命予後を左右する最も重要な症状です。
  • 貧血(動悸・息切れ・倦怠感): 脾機能亢進や静脈瘤からの慢性的な出血により貧血が進み、疲れやすさ、動悸、息切れが出ます。
  • 血小板減少・出血傾向: 脾臓で血小板が捕捉されて数が減り、あざができやすい、鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくいなどの症状が出ることがあります。
  • 白血球減少: 脾機能亢進により白血球も減少しますが、感染症が極端に増えることは多くありません。
  • 無症状(健診での発見): 症状がないまま、血液検査での血球減少や画像検査での脾腫をきっかけに見つかる例が少なくありません。
  • 腹水・浮腫: 肝硬変に比べると頻度は低いものの、静脈瘤出血後や病気が進んで肝萎縮が強い場合などに一時的に出ることがあります。
  • 異所性静脈瘤: 十二指腸、小腸、直腸、手術後の吻合部などにも静脈瘤ができ、原因のわかりにくい消化管出血の原因になることがあります。
  • 肝性脳症: まれですが、大きな門脈大循環シャントが発達すると、アンモニアの上昇による意識障害や異常行動が起こることがあります。
  • 息切れ(肺血管合併症): 門脈圧亢進に伴う門脈肺高血圧症や肝肺症候群により、労作時の息切れや低酸素血症が出ることがまれにあります。

特発性門脈圧亢進症の経過と合併症

多くの場合、病気はゆっくり進行し、肝機能は長期間保たれます。病初期は脾腫と血球減少のみのこともあり、静脈瘤は時間をかけて発達します。重症度は、厚生労働省研究班の門脈血行異常症の重症度分類で評価されます。この分類では、所見の有無、治療の必要性、身体活動の制限、肝不全や消化管出血による集中治療の必要性などから、I〜V度に分けられます。自然経過のなかで最も重要なのは静脈瘤出血で、未治療の静脈瘤は出血のリスクとなります。ただし肝予備能が保たれているため、出血後の救命率は肝硬変より高いとされます。長い経過では、一部の患者で肝の萎縮が進み、肝機能が徐々に低下することがあり、まれに肝移植が検討される段階に至る例も報告されています。

主な合併症は、食道・胃静脈瘤とその破裂、異所性静脈瘤、脾機能亢進による汎血球減少、門脈血栓症です。門脈血栓症は、門脈血流が遅いために起こりやすく、特に脾摘後や血行郭清術後に生じやすいことが知られています。ほかに、肝萎縮と肝機能低下、門脈大循環シャントによる肝性脳症、門脈肺高血圧症、肝肺症候群などがあります。肝細胞癌の発生はまれとされますが、結節性病変ができることがあり、画像での鑑別が必要です。合併する自己免疫疾患(膠原病、甲状腺疾患など)の経過にも注意が必要です。

特発性門脈圧亢進症の診断・診断基準

診断は、厚生労働省研究班の門脈血行異常症ガイドラインにある診断基準に基づき、門脈圧亢進の所見があることと、ほかの原因疾患(とくに肝硬変)を除外することを軸に進めます。典型的な流れは次のとおりです。まず、健診での血球減少や脾腫、静脈瘤の発見をきっかけに血液検査、腹部超音波、CTを行います。肝機能が保たれているのに脾腫や静脈瘤がある、という乖離から本症を疑います。次に、上部消化管内視鏡で静脈瘤を評価します。さらに、エラストグラフィで肝の硬さを、ウイルス・自己抗体などの血液検査で慢性肝疾患を評価し、肝硬変、肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞、血液疾患、寄生虫症などを除外します。確定診断や鑑別が難しい場合には、肝静脈カテーテル検査(肝静脈造影・肝静脈楔入圧の測定)や肝生検を行います。病理所見は確定診断に重要です。

  • 血液検査(血算・肝機能): 貧血・白血球減少・血小板減少のうち1つ以上がみられることが多い一方、AST・ALT・ビリルビン・アルブミン・凝固能は正常から軽度異常にとどまります。肝機能と門脈圧亢進所見の乖離が本症を疑う手がかりになります。
  • 除外のための血液検査: B型・C型肝炎ウイルス、自己抗体(抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体など)、IgG、免疫学的検査を行い、慢性肝炎や原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎などを除外します。合併する膠原病を評価する目的もあります。
  • 腹部超音波・CT・MRI: 著明な脾腫、側副血行路、肝表面の不整、肝辺縁部の萎縮と中心部の代償性腫大などを評価し、肝外門脈と肝静脈が開存していることを確認します。肝内の末梢門脈枝の描出不良や、門脈壁の肥厚様の所見がみられることがあります。
  • 上部消化管内視鏡: 食道・胃静脈瘤の有無、形態、発赤所見などを評価し、出血リスクと治療の必要性を判断します。下部消化管内視鏡で直腸静脈瘤を評価することもあります。
  • エラストグラフィ(肝・脾硬度): 肝硬度は肝硬変より低く、正常から軽度上昇にとどまることが多いとされます。一方、脾硬度は高値を示すことがあり、肝硬変との鑑別の補助になります。
  • 肝静脈カテーテル検査(肝静脈造影・圧測定): 肝静脈枝どうしの吻合や「しだれ柳様」と表現される特徴的な所見を示すことがあります。肝静脈楔入圧は正常〜軽度上昇で、実際の門脈圧(手術時や経皮的に測定)は高いという乖離が特徴です。
  • 肝生検(病理診断): 肝硬変がないこと、末梢門脈枝の狭小化・消失、門脈域の線維化、異常血行路、結節性再生性過形成様の変化などを確認する、確定診断に重要な検査です。血小板減少が強い場合は、出血リスクに配慮して経頸静脈的生検などが選ばれることがあります。
  • 心エコー・動脈血ガス: 息切れがある場合や肝移植・手術を検討する際には、門脈肺高血圧症や肝肺症候群の有無を評価します。
  • 重症度分類: 門脈血行異常症の重症度分類(I〜V度)で評価し、指定難病の医療費助成では一定以上の重症度(III度以上とされる)が対象となります。

特発性門脈圧亢進症と鑑別すべき疾患

  • 肝硬変: 門脈圧亢進症の最も多い原因で、肝機能の低下、肝硬度の上昇、肝静脈楔入圧の上昇、病理での再生結節と線維隔壁によって区別します。
  • 肝外門脈閉塞症: 肝外の門脈本幹に閉塞があり、海綿状に発達した側副血行(cavernous transformation)が画像で確認できる点が異なります。
  • バッド・キアリ症候群: 肝静脈や肝部下大静脈が閉塞する病気で、画像やカテーテル検査で肝静脈の流出障害を確認することで区別します。
  • 日本住血吸虫症・先天性肝線維症: どちらも前類洞性の門脈圧亢進を起こします。流行地での居住歴、虫卵・石灰化所見、腎嚢胞の合併や病理所見で区別します。
  • 血液疾患(骨髄線維症・特発性血小板減少性紫斑病・再生不良性貧血など): 血球減少や脾腫の原因になり得るため、骨髄検査や血液学的検査で原発性の血液疾患を除外します。
  • 浸潤性・肉芽腫性疾患(サルコイドーシス、アミロイドーシスなど): 肝内の肉芽腫や沈着物による門脈圧亢進を、病理組織と全身所見から区別します。

特発性門脈圧亢進症の治療

根本的に病気を治す治療は現在確立しておらず、治療の目的は静脈瘤出血の予防と止血、脾機能亢進による血球減少への対処、門脈血栓などの合併症の管理です。肝機能が保たれていることが多いため、肝硬変の治療指針を参考にしつつ、本症の特性を踏まえて方針を立てます。食道静脈瘤では、出血リスクの高い静脈瘤に対する予防的な内視鏡治療と、出血時の緊急止血が中心になります。胃静脈瘤や、高度の脾腫と血球減少がある場合には、血管内治療(IVR)や手術が選択されることがあります。治療法の選択は、静脈瘤の部位と形態、血球減少の程度、門脈血栓の有無、年齢・合併症などによって異なるため、消化器内科・IVR医・外科がそろう専門施設で主治医と相談しながら決めることが勧められます。

  • 内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL): 食道静脈瘤をゴムバンドで縛る治療で、出血時の緊急止血と出血予防の両方で中心的に用いられます。再発しやすいため、定期的な内視鏡検査と追加治療が必要です。
  • 内視鏡的硬化療法(EIS): 静脈瘤やその供血路に硬化剤を注入して閉塞させる治療で、EVLより再発しにくいとされる一方、手技に熟練を要します。胃静脈瘤の出血には組織接着剤が用いられることがあります。
  • バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO): 胃腎シャントを伴う孤立性胃静脈瘤に対し、カテーテルで静脈瘤を閉塞させる血管内治療です。日本で多く行われています。治療後に門脈圧が上がり、食道静脈瘤が悪化することがあるため経過観察が必要です。
  • 部分的脾動脈塞栓術(PSE): 脾臓の一部への血流をカテーテルで遮断し、脾機能亢進による血小板減少を改善するとともに、門脈への血流を減らします。治療後に発熱や腹痛が一時的に出ることがあります。
  • 脾摘術・ハッサル手術(血行郭清術): 高度の脾腫と血球減少がある場合や、内視鏡治療で静脈瘤を制御できない場合に、脾臓の摘出と胃上部の血行郭清を行うことがあります。術後は門脈血栓のリスクが高まるため、画像による監視と予防策が重要です。
  • 非選択的β遮断薬などの薬物療法: 門脈圧を下げて静脈瘤出血を予防する目的で、肝硬変に準じて使用されることがあります。本症での有効性を示す根拠は限られており、適応は主治医が判断します。
  • 抗凝固療法: 門脈血栓症を合併した場合に、血栓の進展防止や再開通を目的として検討されます。静脈瘤出血のリスクとのバランスを考慮し、静脈瘤を治療したうえで行うことが多いとされます。
  • シャント手術・TIPS: 難治性の静脈瘤出血や腹水に対し、選択的シャント手術や経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)が検討されることがあります。肝性脳症などのリスクや、国内での実施状況・適応を踏まえて、専門施設で個別に判断されます。
  • 肝移植: 肝萎縮と肝不全が進行した例、制御困難な門脈圧亢進症、重い肺血管合併症がある例などでは、まれに肝移植が検討されます。

特発性門脈圧亢進症の予後・長期フォロー

肝機能が保たれていることが多いため、静脈瘤出血を適切に予防・管理できれば生命予後はおおむね良好とされ、肝硬変による門脈圧亢進症より予後がよいと考えられています。生命予後を左右する主な要因は、静脈瘤出血、門脈血栓症、長期経過での肝萎縮と肝機能低下です。日常生活は、多くの患者で通常に近いレベルを保つことができます。ただし、繰り返しの内視鏡治療や入院、血球減少による易疲労感や出血への不安が、生活の質(QOL)に影響することがあります。合併する膠原病などの自己免疫疾患がある場合は、その病気の経過も全体の予後にかかわります。

長期のフォローアップでは、定期的な血液検査(血算・肝機能・アンモニアなど)、上部消化管内視鏡での静脈瘤の再発・増大のチェック、超音波やCTでの門脈血栓・肝萎縮・肝腫瘤の評価を、主治医が決めた間隔で継続します。脾摘やシャント治療を受けた人では、術後の門脈血栓、感染症(とくに脾摘後の重症感染症)、肝性脳症に注意します。経過中に息切れが出てきた場合は、門脈肺高血圧症や肝肺症候群を考えて心臓・肺の検査を行います。妊娠・出産を希望する場合は、循環血液量の増加によって静脈瘤が悪化するおそれがあるため、妊娠前から消化器内科と産科が連携して静脈瘤を評価・治療しておくことが望まれます。

特発性門脈圧亢進症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、静脈瘤出血の予防と早期発見を意識することが大切です。いきみを伴う便秘や、重い物を持ち上げるような腹圧のかかる動作はできるだけ避け、規則的な排便習慣を心がけましょう。飲酒は肝臓と静脈瘤の両方に悪影響を及ぼすおそれがあるため、控えることが勧められます。熱すぎる食べ物や硬い食べ物は食道を傷つけることがあるため、よく噛んでゆっくり食べましょう。血小板が少ない場合は、抗血小板薬・抗凝固薬・一部の鎮痛薬(NSAIDs)が出血を助長することがあるため、市販薬やサプリメントを含め、新たに薬を使う際は主治医や薬剤師に相談してください。歯科治療や他科での手術の際は、本症であることと血小板数を伝えることが重要です。脾摘を受けた人は、肺炎球菌などのワクチン接種や、発熱時に早めに受診することについて主治医の指示に従ってください。適度な運動は勧められますが、脾腫が大きい場合は、腹部をぶつけるようなコンタクトスポーツは避けましょう。本症は原則として遺伝性疾患とは考えられていません。家族内発症の報告はまれにありますが、家族が一律に検査を受ける必要は通常ありません。心配な場合は主治医に相談するとよいでしょう。

利用できる制度・相談窓口

特発性門脈圧亢進症は指定難病であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の重症度に該当する場合(または軽症でも高額な医療費が継続する「軽症高額該当」の場合)、特定医療費(指定難病)の医療費助成を受けられます。申請には、難病指定医が作成した臨床調査個人票などが必要で、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で手続きします。助成が認められると、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。高額療養費制度も併用できます。静脈瘤出血後の就労や生活に支障がある場合は、障害年金の対象になる可能性があり、病状や日常生活への影響に応じて審査されます。肝機能障害が高度に進行した場合には、身体障害者手帳(肝臓機能障害)の対象となることもあります。相談窓口としては、都道府県の難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)、難病情報センターのウェブサイト、肝疾患診療連携拠点病院の肝疾患相談支援センターなどがあります。就労との両立については、ハローワークの難病患者就職サポーターや、産業医・主治医と連携した両立支援を利用できます。

特発性門脈圧亢進症に伴う心のケア・心理社会的支援

慢性疾患や難病と診断されると、多くの人が不安、落ち込み、将来への心配を経験し、ときに抑うつ状態や適応障害に至ることもあります。本症に特有の心理的負担としては、まず突然の吐血・下血への恐怖があります。自覚症状が乏しいまま「いつ出血するかわからない」という不安が続くことがあります。また、「肝硬変ではないのに門脈圧が高い」「原因がわからない」という説明のわかりにくさから、病気を理解して受け入れることが難しいと感じる人も少なくありません。さらに、繰り返す内視鏡治療への負担感、血球減少による疲れやすさが周囲に理解されにくいこと、中年女性に多いことから家事・育児・介護・仕事との両立の悩みが重なりやすいことも挙げられます。気持ちのつらさが2週間以上続く、眠れない、仕事や家事が手につかないといった場合は、遠慮せず主治医に伝え、必要に応じて心療内科・精神科、公認心理師、MSWの支援を受けてください。病気について正しく理解し、出血時の対応をあらかじめ家族と共有しておくことも、不安を和らげる助けになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

特発性門脈圧亢進症の受診の目安

  • 血を吐いた、コーヒーかすのようなものを吐いた、黒いタール状の便や血便が出た場合は、すぐに救急車を呼ぶか救急外来を受診してください。
  • 急なめまい、冷や汗、顔色不良、立ちくらみ、意識が遠のく感じがある場合は、消化管出血の可能性があるため救急受診してください。
  • 強い腹痛と発熱、急な腹部の膨らみがある場合(門脈血栓や腹水の悪化の可能性)は、早めに受診してください。
  • ぼんやりする、つじつまの合わない言動、昼夜逆転などがみられる場合は、肝性脳症の可能性があるため受診してください。
  • あざが増える、鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくい、動悸や息切れが強まってきた場合は、主治医に相談してください。
  • 脾摘後の人で38℃以上の発熱や悪寒がある場合は、重症感染症の可能性があるため速やかに受診してください。

特発性門脈圧亢進症についてのよくある質問

Q. 肝硬変とは違うのですか?

A. 違います。本症は細い門脈の通り道が狭くなることで門脈圧が上がる病気で、肝臓の組織そのものが硬く線維化する肝硬変とは区別されます。そのため肝機能は保たれやすく、黄疸や腹水も起こりにくいのが特徴です。

Q. 血小板が少ないのは、血小板減少性紫斑病と同じですか?

A. 異なります。本症の血小板減少は、大きくなった脾臓に血小板が取り込まれて起こる脾機能亢進によるもので、自己抗体が血小板を壊す特発性血小板減少性紫斑病とは仕組みが違います。治療方針も異なるため、主治医の説明をよく確認してください。

Q. 脾臓を取ったほうがよいのでしょうか?

A. 脾摘や部分的脾動脈塞栓術は、血球減少が高度な場合や静脈瘤の治療方針によっては有効な選択肢です。一方で、門脈血栓や感染症のリスクも伴います。病状に応じて利点と欠点を比べる必要があるため、専門施設の主治医とよく相談して決めてください。

Q. 妊娠・出産はできますか?

A. 出産した例は多く報告されていますが、妊娠中は血液量が増えるため静脈瘤が悪化するおそれがあります。妊娠を考えている段階で主治医に相談し、内視鏡で静脈瘤を評価し、必要なら治療を済ませてから、消化器内科と産科が連携して管理することが勧められます。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。