シトステロール血症
Sitosterolemia
シトステロール血症(Sitosterolemia)|シトステロール血症は、植物性食品に含まれる「植物ステロール」(シトステロールなど)を体外に排出できず、血液や組織にたまる先天性の脂質代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、小児期から腱や皮膚の黄色腫、高LDLコレステロール血症、若いうちからの動脈硬化や心血管病、溶血性貧血や血小板減少などを起こすことがあります。適切な食事療法と薬物療法で植物ステロール値を下げられる病気であり、早く気づいて治療を始めることが大切です。
シトステロール血症の要点
シトステロール血症は、ABCG5またはABCG8遺伝子の変異により植物ステロールを排出できず、血液や組織にたまる常染色体潜性遺伝の脂質代謝異常症です。腱や皮膚の黄色腫、高LDLコレステロール血症、早発性動脈硬化、溶血性貧血や血小板減少などがみられ、指定難病に指定されています。
| 別名・略称 | フィトステロール血症、植物ステロール血症、Phytosterolemia、Sitosterolemia |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 原因遺伝子 | ABCG5またはABCG8(両アレルの病的変異) |
| 好発年齢 | 小児期から症状が現れることがある |
| 主な症状 | 腱・皮膚の黄色腫、高LDLコレステロール血症、早発性動脈硬化、溶血性貧血、血小板減少 |
| 主な検査 | 血中の植物ステロール(シトステロールなど)測定、ABCG5/ABCG8遺伝子検査 |
| 主な治療 | 食事療法と薬物療法で植物ステロール値を下げる |
シトステロール血症とは
シトステロール血症(sitosterolemia、phytosterolemiaとも呼ばれる)は、ABCG5またはABCG8遺伝子の両アレルに病的変異があるために起こる遺伝性疾患です。これらの遺伝子がつくるABCG5/ABCG8タンパク質(ステロリン-1/ステロリン-2)の機能が失われ、植物ステロールの腸管吸収が増え、肝臓から胆汁への排泄が減ります。その結果、通常は血中にごくわずかしか存在しないシトステロールやカンペステロールなどが著しく増え、血管壁・腱・皮膚・赤血球膜などにたまります。コレステロール自体の排泄も障害されるため、高LDLコレステロール血症を伴うことが多い一方、血清コレステロールがほぼ正常の例もあります。臨床像は、黄色腫と早発性動脈硬化を主とする脂質異常症型から、溶血性貧血や大型血小板を伴う血小板減少を主とする血液異常型まで幅があります。
本症は1974年、BhattacharyyaとConnorにより、腱黄色腫があるのに血清コレステロールが正常な姉妹例として初めて報告されました。2000年前後に原因遺伝子ABCG5とABCG8(いずれも第2染色体短腕2p21に隣接して存在)が同定され、分子レベルでの病態理解が進みました。かつて家族性高コレステロール血症(FH)ホモ接合体と診断されていた小児例や、「地中海型口唇状赤血球症・大型血小板症」とされていた血液疾患の一部が本症であったことも明らかになっています。原因遺伝子によりABCG5型とABCG8型に分けられますが、両者の臨床像に明確な違いはないとされます。日本では指定難病(告示番号260)に指定され、日本動脈硬化学会などによる診断基準と診療指針が整備されています。
シトステロール血症の疫学・患者数
シトステロール血症はきわめてまれな疾患とされ、世界でも報告例は数百例程度にとどまります。日本でも診断・登録されている患者数は限られていますが、一般の脂質検査(酵素法)ではシトステロールとコレステロールを区別できないため、FHや原因不明の高コレステロール血症、血小板減少症などと診断されたまま見逃されている例が相当数あると考えられています。遺伝子データベースを用いた解析からは、実際の有病率は従来の推定より高い可能性が指摘されています。発症・診断年齢は乳幼児期から成人まで幅広く、特に小児期の黄色腫や著明な高コレステロール血症をきっかけに見つかる例が知られています。乳児期には、コレステロールを多く含む母乳を飲む時期や、植物油由来の植物ステロールを含む人工乳を飲む時期に、LDLコレステロールが非常に高くなった例の報告もあります。常染色体潜性遺伝のため性差は基本的になく、血族婚の家系で見つかることもあります。日本人患者ではABCG5の変異が比較的多いとする報告があります。
シトステロール血症の原因・病態生理
ヒトは食事から1日あたりコレステロールと同程度かそれ以上の植物ステロールを摂取していますが、健常者では吸収されるのはごく一部で、血中濃度はコレステロールの数百分の一以下に保たれています。これは、小腸上皮細胞に取り込まれたステロールのうち植物ステロールを優先的に腸管内腔へ送り返し、さらに肝細胞から胆汁中へ排泄する仕組みがあるためです。この排出ポンプがABCG5とABCG8からなるヘテロ二量体のABCトランスポーターで、どちらか一方が欠けても機能しません。本症は常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとり、両親がそれぞれ片方のアレルに変異をもつ保因者(ヘテロ接合体)である場合、子が発症する確率は1/4です。ヘテロ接合体は通常は無症状ですが、植物ステロールやLDLコレステロールが軽度上昇し、冠動脈疾患リスクがやや高まる可能性が報告されています。
ABCG5/ABCG8の機能が失われると、腸管ではNPC1L1(ステロールを取り込む輸送体)を介して入った植物ステロールが腸管内へ戻されずに吸収され、肝臓でも胆汁への排泄ができないため、体内に蓄積します。植物ステロールはLDLなどのリポタンパクに取り込まれて全身を巡り、マクロファージや血管壁に沈着して泡沫細胞形成と粥状動脈硬化を促進し、腱や皮膚では黄色腫を形成します。肝臓ではステロール蓄積によりコレステロール合成(HMG-CoA還元酵素活性)が抑制される一方、コレステロールの胆汁排泄も低下し、食事性コレステロールへの感受性が高まるため、特に小児期にLDLコレステロールが大きく上昇することがあります。また、植物ステロールが赤血球膜や血小板膜に組み込まれると膜の柔軟性や構造が変化し、口唇状赤血球(stomatocyte)の出現と溶血、大型血小板を伴う血小板減少、出血傾向をきたします。一方、植物ステロールは胆汁酸への変換やステロイドホルモン合成にほとんど利用されないため、体内から除くことが難しく、食事からの供給を減らし吸収を抑える治療が中心となります。
シトステロール血症の症状
- 腱黄色腫: アキレス腱や手指の伸筋腱、膝・肘などにコレステロールや植物ステロールが沈着して硬い腫瘤ができます。アキレス腱の肥厚はX線や超音波で確認でき、FHとの区別が問題になります。
- 結節性・扁平黄色腫: 肘・膝・臀部などの皮膚に黄色調の盛り上がりや平たい斑ができ、小児期に初発症状となることがあります。治療により縮小・消退することも報告されています。
- 高LDLコレステロール血症: 小児期に著明な高値を示すことがあり、FHホモ接合体と誤診される場合があります。一方で血清コレステロールが正常範囲の患者もおり、コレステロール値だけでは否定できません。
- 早発性冠動脈疾患: 若年で狭心症や心筋梗塞を起こすことがあり、小児・若年成人での突然死の報告もあります。コレステロール値に比して動脈硬化が強いことがあります。
- 大動脈弁狭窄・大動脈弁上の病変: 大動脈弁や大動脈基部への脂質沈着により弁狭窄や弁上狭窄をきたすことがあり、心雑音で発見される場合があります。
- 溶血性貧血: 植物ステロールが赤血球膜に入り、口唇状赤血球の出現とともに溶血が起こります。倦怠感、黄疸、網赤血球増加、間接ビリルビン上昇などがみられます。
- 大型血小板を伴う血小板減少: 血小板が大きく数が少なくなり、鼻出血、歯肉出血、あざができやすい、月経過多などの出血症状につながることがあります。免疫性血小板減少症と誤診されることがあります。
- 脾腫: 溶血や血液異常に伴い脾臓が腫大することがあります。
- 関節痛・関節炎: 膝や足首などに関節痛や関節炎様の症状が繰り返しみられることがあり、黄色腫や脂質沈着との関連が考えられています。
- 肝機能障害: 一部の患者で肝酵素の上昇がみられることがあり、まれに肝硬変に至った報告もあります。
- 無症状(検査での偶然の発見): 症状がなく、健診での高コレステロール血症、家族の診断を契機とした検査、血小板異常の精査などで見つかることもあります。
シトステロール血症の経過と合併症
本症の経過は患者によって大きく異なります。小児期に黄色腫や著明な高コレステロール血症で発症し、未治療のまま経過すると思春期から若年成人期に冠動脈疾患や大動脈弁病変が進行する例がある一方、成人になるまで無症状で、血小板減少や貧血の精査で初めて診断される例もあります。小児期の高LDLコレステロール血症は成長に伴いいくらか低下する傾向が報告されていますが、植物ステロールの蓄積と動脈硬化は持続し得るため、症状がなくても管理が必要です。植物ステロールを多く含む食品の摂取量によって血中濃度は変動し、食事療法とエゼチミブなどの治療によって植物ステロールとLDLコレステロールは多くの場合低下し、黄色腫の縮小も期待できます。早期に診断し、治療を継続できれば、動脈硬化性疾患の発症を遅らせられる可能性があると考えられています。
主な合併症は、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)、大動脈弁狭窄症、頸動脈などの動脈硬化、腱黄色腫による歩行時痛などです。血液面では、溶血性貧血、血小板減少による出血傾向、脾腫がみられ、外傷や手術、出産時の出血管理に注意が必要となる場合があります。まれに肝障害や内分泌異常(副腎機能など)との関連の報告もありますが、頻度や機序は確立していません。また、本症を知らずに「植物ステロール配合」の健康食品やマーガリン、特定保健用食品などをコレステロール対策として摂取すると、かえって病状を悪化させる危険があります。さらに、FHと誤診されてスタチン中心の治療を受けている場合、植物ステロールが十分に下がらないことがある点にも注意が必要です。
シトステロール血症の診断・診断基準
診断の出発点は、「小児期からの黄色腫」「年齢に比して高いLDLコレステロール」「コレステロール値の割に強い動脈硬化や黄色腫」「原因不明の溶血性貧血や大型血小板を伴う血小板減少」「食事やコレステロール吸収阻害薬で著しく下がる高コレステロール血症」といった臨床的な手がかりから本症を疑うことです。通常の健診で用いられる酵素法の総コレステロール測定ではシトステロールもコレステロールとして測定されてしまうため、ガスクロマトグラフィー(GC)や質量分析(GC-MS、LC-MS/MS)による植物ステロール分画測定が診断の鍵となります。血中シトステロール・カンペステロールの著明な上昇を確認し、他の原因(肝胆道疾患、植物ステロール含有食品の大量摂取など)を除外したうえで、ABCG5/ABCG8の遺伝学的検査で両アレルの病的変異を確認すると確定診断となります。日本の指定難病の診断基準では、血清(血漿)シトステロール濃度の上昇(目安として1mg/dL以上)を必須項目とし、臨床症状や遺伝子検査の結果を組み合わせて判定します。測定や遺伝子検査は専門施設に依頼することが多く、脂質専門医・小児内分泌代謝専門医との連携が重要です。
- 血清植物ステロール分画測定(GC/GC-MSなど): シトステロールやカンペステロールなどを個別に測定し、健常者ではごく低値のシトステロールが著明に上昇していることを確認します。診断の中核となる検査で、治療効果判定にも用いられます。
- 血清脂質検査(総コレステロール、LDL-C、HDL-C、中性脂肪): 高LDLコレステロール血症の有無と程度を評価しますが、酵素法では植物ステロールも含めて測定される点に注意します。中性脂肪は通常正常で、コレステロールが正常な患者もいます。
- 遺伝学的検査(ABCG5・ABCG8): 両アレルに病的変異(ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)を確認すると確定診断となります。家族の保因者診断や発症前診断にも関わるため、遺伝カウンセリングと併せて行います。
- 血液像・血算(末梢血塗抹標本): 口唇状赤血球、大型血小板、血小板減少、網赤血球増加の有無を確認します。自動血球計数器では大型血小板が正しく数えられず、実際とずれることがあるため塗抹標本での確認が有用です。
- 溶血関連検査: 間接ビリルビン、LDH、ハプトグロビン、網赤血球数などで溶血の有無を評価します。直接クームス試験陰性の溶血であることは自己免疫性溶血性貧血との区別に役立ちます。
- アキレス腱X線撮影・超音波検査: アキレス腱の肥厚(黄色腫)を客観的に評価します。FHと共通する所見のため、植物ステロール測定と組み合わせて判断します。
- 心血管評価(心電図、心エコー、頸動脈エコー、負荷試験、冠動脈CTなど): 冠動脈疾患、大動脈弁狭窄、頸動脈の内膜中膜複合体肥厚やプラークを評価します。小児期からの定期的な評価が勧められます。
- 肝機能・甲状腺・腎機能などの二次性要因の評価: 甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性肝疾患など二次性脂質異常症の原因を除外し、肝障害の有無も確認します。
- 家族歴の聴取と家族検査: きょうだいに同じ病気がいる可能性が1/4あるため、家族の植物ステロール測定や遺伝学的検査を検討します。血族婚の有無も参考になります。
シトステロール血症と鑑別すべき疾患
- 家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体・ホモ接合体): 腱黄色腫と高LDL-C血症は共通しますが、FHは常染色体顕性遺伝で親にも高コレステロール血症がみられることが多く、植物ステロールの著明上昇がなく、食事療法やエゼチミブへの反応が本症ほど劇的ではない点で区別します。
- 脳腱黄色腫症: 腱黄色腫を伴いますが、血清コレスタノールの上昇、若年性白内障、慢性下痢、進行性の神経症状を特徴とする点で区別します。
- 免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病): 本症では大型血小板と口唇状赤血球、溶血を伴い、植物ステロールが上昇している点で区別され、誤診によるステロイドや脾摘などの不要な治療を避けることが重要です。
- 遺伝性口唇状赤血球症・その他の先天性溶血性貧血: 赤血球膜異常による溶血は共通しますが、植物ステロール上昇や黄色腫、大型血小板減少を伴わない点で区別します。
- 二次性高コレステロール血症(甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性肝疾患など): 原疾患に特徴的な所見と検査異常があり、植物ステロールの著明な上昇を伴わない点で区別します。
- 家族性複合型高脂血症・家族性III型高脂血症: 中性脂肪の上昇を伴うことが多く、黄色腫の型や性状、リポタンパク分析、植物ステロール値により区別します。
シトステロール血症の治療
治療の目標は、血中の植物ステロールとLDLコレステロールを下げて黄色腫や動脈硬化の進行を防ぎ、溶血や血小板減少を改善することです。植物ステロールはほぼすべて食事に由来し体内では合成されないため、植物ステロールの摂取を減らす食事療法と、腸管からの吸収を抑えるエゼチミブが治療の二本柱となります。エゼチミブは日本で「ホモ接合体性シトステロール血症」の効能・効果が承認されています。効果が不十分な場合には胆汁酸吸着薬の併用、必要に応じてスタチンやLDLアフェレシスなどを検討します。合併した心血管疾患や血液異常に対しては、それぞれの標準治療を行います。治療内容は年齢、植物ステロール値、合併症の有無によって異なるため、脂質異常症や先天代謝異常に詳しい専門医のもとで、定期的に植物ステロール値を測定しながら調整していきます。自己判断で薬や食事内容を変えず、主治医と相談しながら進めることが大切です。
- 植物ステロール制限食: 植物油、マーガリン、ショートニング、ナッツ類、種子類(ごま・ひまわりの種など)、アボカド、チョコレート、大豆製品の一部、胚芽などは植物ステロールが多いため摂取量を控えます。貝類など一部の動物性食品にも植物ステロール類似のステロールが含まれるため、管理栄養士による具体的な指導が推奨されます。
- 植物ステロール配合食品の回避: コレステロール低下をうたう「植物ステロール配合」の食用油・マーガリン・飲料などの特定保健用食品やサプリメントは、本症では病状を悪化させるため避けます。健常者向けの健康情報が当てはまらない点を家族も理解しておく必要があります。
- エゼチミブ(小腸コレステロールトランスポーター阻害薬): NPC1L1を阻害して腸管からの植物ステロールとコレステロールの吸収を抑え、血中シトステロールを低下させ、黄色腫の縮小や血液異常の改善が報告されています。日本では本症に対する効能が承認されており、治療の中心的な薬剤です。小児への使用は専門医の判断となります。
- 胆汁酸吸着薬(陰イオン交換樹脂:コレスチミド、コレスチラミン): 腸管内で胆汁酸やステロールと結合して排泄を促し、植物ステロールとLDLコレステロールの低下に寄与します。エゼチミブとの併用で上乗せ効果が期待されますが、便秘や脂溶性ビタミン・他剤の吸収低下に注意が必要です。
- スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬): 本症ではもともと肝臓のコレステロール合成が抑制されているため、単独では効果が限られるとされます。LDLコレステロールが高い場合や動脈硬化性疾患がある場合に、併用薬として検討されることがあります。
- LDLアフェレシス: 薬物・食事療法で十分な低下が得られない重症例や、進行した動脈硬化を伴う例で、血液からLDLなどを除去する治療が行われた報告があります。適応は専門施設で個別に判断されます。
- 心血管合併症の治療: 冠動脈疾患に対する抗血小板薬、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、大動脈弁狭窄に対する弁置換術などを、循環器専門医が標準的な適応に従って行います。血小板減少がある場合は抗血栓療法や手術時の出血リスクを慎重に評価します。
- 血液異常への対応: 溶血や血小板減少は植物ステロール低下療法によって改善することが多いとされ、原因治療が基本です。重い出血時や手術前には血小板輸血などを検討し、誤診に基づくステロイドや脾摘は避けます。
- 栄養管理と成長のサポート: 小児では成長に必要なエネルギーや必須脂肪酸、脂溶性ビタミンが不足しないよう、制限と栄養のバランスを管理栄養士とともに調整します。乳児期の栄養方法についても専門医と相談します。
シトステロール血症の予後・長期フォロー
シトステロール血症の予後は、診断の時期、植物ステロールとLDLコレステロールの管理状況、動脈硬化性疾患の有無に大きく左右されます。未治療の場合、若年での心筋梗塞や大動脈弁狭窄、突然死の報告があり、生命予後に関わる疾患です。一方、早期に診断され、食事療法とエゼチミブを中心とした治療で植物ステロールが十分にコントロールされれば、黄色腫の縮小や血液異常の改善が期待でき、動脈硬化の進行も抑えられる可能性があります。治療は生涯にわたって必要ですが、多くの患者は学業や就労、家庭生活など通常に近い社会生活を送ることができると考えられます。ただし長期予後に関するまとまったデータはまだ限られており、個々の経過は主治医とともに評価していく必要があります。
長期フォローアップでは、数か月から1年ごとを目安に血清植物ステロール(シトステロール・カンペステロール)、脂質プロファイル、血算と血液像、肝機能などを測定し、治療効果と副作用を確認します。心血管系については、心エコーによる大動脈弁の評価、頸動脈エコー、必要に応じて負荷心電図や冠動脈CTなどを年齢やリスクに応じて定期的に行い、無症状のうちに病変を見つけることが重要です。小児では成長・発達と栄養状態の評価、思春期以降は服薬継続や食事管理の自立支援も課題となります。小児科から成人診療科への移行期医療を計画的に進め、脂質専門医、循環器内科、血液内科、管理栄養士が連携して継続的に関わる体制が望まれます。妊娠を希望する場合は、薬剤の使用や出産時の出血リスクについて事前に主治医・産科と相談します。
シトステロール血症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、植物ステロールを多く含む食品を控えることが基本です。揚げ物や炒め物での植物油の使用量、マーガリンやドレッシング、ナッツ・ごま、チョコレート、アボカドなどの摂取量に気を配り、「植物ステロール配合」「コレステロールの吸収を抑える」と表示された食品やサプリメントは避けます。外食や学校給食では使用油の量を完全に把握するのは難しいため、管理栄養士と相談して現実的な目標を立て、家族や学校にも病気と食事上の注意を伝えておくと安心です。禁煙、適度な運動、適正体重の維持、血圧管理など一般的な動脈硬化予防も重要で、血小板減少がある場合は接触の強いスポーツや外傷に注意し、抜歯や手術の前には病気のことを必ず伝えます。薬は自己判断で中断せず、他の医療機関を受診する際にはお薬手帳や病名カードを提示しましょう。本症は常染色体潜性遺伝のため、患者のきょうだいは1/4の確率で同じ病気の可能性があり、症状がなくても検査が勧められます。両親は通常保因者であり、患者の子どもは保因者となることが多いものの、発症するかどうかはパートナーの遺伝子型によります。家族計画や家族への検査については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用することができます。
利用できる制度・相談窓口
シトステロール血症は指定難病(告示番号260)であり、診断基準を満たし重症度基準に該当する場合(または高額な医療を継続する必要がある軽症者の特例に該当する場合)、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成(自己負担割合の軽減と所得に応じた月額上限)を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の患者では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となる場合があり、指定難病制度と比較して有利な方を利用できます。心疾患などで日常生活に制限が生じた場合には、身体障害者手帳(心臓機能障害など)や障害年金の対象となることがあり、認定の可否は障害の程度により個別に判断されます。また、高額療養費制度も併用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所(難病担当保健師)、医療機関の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイトなどがあり、申請手続きや就労・就学に関する相談にも応じています。小児の場合は、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業による相談支援も利用できます。
シトステロール血症に伴う心のケア・心理社会的支援
生涯続く食事制限と服薬、定期的な通院や検査は、患者と家族にとって大きな負担となり得ます。特に小児期に診断された場合、保護者は毎日の食事づくりで「何を食べさせてよいのか」という不安や罪悪感を抱きやすく、子ども自身も給食や友人との外食、行事などで「みんなと違う」ことにストレスを感じることがあります。思春期には食事管理や服薬の自己管理を担う移行の時期となり、反発や治療中断が起こりやすくなります。成人では、若年での心血管疾患の可能性に対する不安、就職・結婚・出産に関わる遺伝の問題、まれな病気ゆえに周囲や医療者に理解されにくい孤立感などが心理的負担となります。「健康によい」とされる植物油や植物ステロール食品が自分には害になるという、一般の健康情報とのずれも戸惑いの原因となりがちです。こうした負担が続くと、抑うつ、不安障害、適応障害につながることもあるため、気分の落ち込み、不眠、意欲の低下が続く場合は一人で抱え込まず、主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士・公認心理師、必要に応じて精神科・心療内科に相談することが大切です。患者会や難病相談支援センターを通じて同じ立場の人と情報交換することも、心の支えになる場合があります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
シトステロール血症の受診の目安
- 胸の痛みや締めつけ感、冷や汗、息苦しさが数分以上続く場合は、心筋梗塞などの可能性があるため直ちに救急要請(119番)をしてください。
- 階段や運動時の胸の圧迫感、息切れ、めまい、失神がみられる場合は、冠動脈疾患や大動脈弁狭窄の進行が疑われるため、早めに主治医を受診してください。
- 鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくい、あざが増える、黒色便や血尿、月経量の著しい増加がある場合は、血小板減少の悪化が考えられるため受診してください。
- 顔色が悪い、強いだるさ、白目や皮膚が黄色い(黄疸)、尿の色が濃いなど溶血を疑う症状がある場合は、速やかに受診してください。
- 子どもの肘・膝・アキレス腱などに黄色いこぶや腫れを見つけた場合や、健診で年齢に比べて高いコレステロール値を指摘された場合は、小児科・脂質専門医で精査を受けてください。
- きょうだいなど家族がシトステロール血症と診断された場合は、症状がなくても検査について医療機関に相談してください。
シトステロール血症についてのよくある質問
Q. 植物ステロールは体によいと聞きますが、なぜ避ける必要があるのですか?
A. 健常者では植物ステロールはほとんど吸収されず、コレステロールの吸収を妨げるため、コレステロール低下目的の食品に使われています。しかしシトステロール血症では植物ステロールを排出するポンプが働かないため体にたまり、動脈硬化や血液異常の原因になります。そのため植物ステロール配合食品は避け、食事内容は管理栄養士や主治医と相談して決めてください。
Q. コレステロール値が正常でもシトステロール血症の可能性はありますか?
A. あります。本症では血清コレステロールが正常範囲の患者もおり、また通常の健診の検査ではシトステロールを区別して測れません。黄色腫や原因不明の大型血小板減少などがあれば、植物ステロールの専用測定が診断の手がかりになります。
Q. 薬はずっと飲み続けなければいけませんか?
A. 原因となる遺伝子の働きは生涯変わらないため、食事療法とエゼチミブなどの治療は基本的に長期的な継続が必要と考えられます。中断すると植物ステロールが再び上昇する可能性があります。薬の量や種類は検査値を見ながら主治医が調整するので、自己判断での中止は避けてください。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. 常染色体潜性遺伝のため、患者の子どもは原因遺伝子を1つ受け継ぐ保因者となるのが一般的で、通常は発症しません。ただしパートナーも同じ遺伝子の変異をもつ場合は、子どもが発症する可能性があります。詳しくは遺伝カウンセリングで個別に相談することをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。